第50層主街区アルゲード
「とーさん」
ミトの膝に座り、にこにこ笑うのは昨夜の少年。彼が見据える先にはキリト達に囲まれるソウテンの姿があった
「………俺はお前の親友として恥ずかしいぞ、テン。頭の中が迷子なのは知ってたが、小さい子がいる近くで……何を考えてるんだ?バカか?バカなのか?お前は」
「だーから、身に覚えがねぇって何度も説明しただろ。そもそもだ、俺だって、節度は弁えてる」
「じゃあ何で拾ってきたんだよ」
「夜中に彷徨ってる迷子を放っておけんだろ」
「迷子じゃない」
「リーダーの口癖を言ってますが?」
「そんなのを口癖にした覚えはねぇ」
「この子がテンの子どもであるかはさておき、気になることがあるんだ」
騒ぐソウテン達に切り出したのはディアベル。彼が少年の方を向くと、同様に全員が少年の方に視線を動かす
「カーソルが出てないんだ。プレイヤーカーソルも無ければ、NPCカーソルも無いなんて不自然じゃないか?」
「確かに……言われてみれば、不自然だな。普通はアインクラッドに存在する動的オブジェクトにはカラーカーソルが出現する筈だ。でも、この子には其れがない」
「でもよぉ?移動が出来たんだから、NPCではねぇよな」
「という事はやっぱ、おめぇの子どもか。そこんとこはどうなんだ?テンジロー」
「おいコラ、何を勝手に名前付けてんだ。ゴリラ」
さらっと、少年に対し、ソウテンに因んだ名前を名付けるグリスを睨む
「グリス。人の子供に勝手に名前を付けるのはよくないぞ。なっ?テント」
「君はお父さんのように迷子になってはいけませんよ?テンノスケくん」
「焼き鳥食べる?テンタクル」
「眼はミトさん似かな。ほらほら〜チーズケーキだよ〜、テンゴくーん」
「髪型はテンと似てるな。こっち向けー、テンキー」
「テン。育児をするという事の重みを知るには良い機会だ、テンヒコを立派に育てろ」
「何で全部、俺に因んでんるんよっ!?ていうか職人は育児の何を知ってんの!?」
「かーさんよー」
「って!ミト!おめぇさんは受け入れるの早すぎやしねぇか!?」
普段はボケる側の筈のソウテンが突っ込みに回るという新鮮な光景。話題の中心である少年はピナ、ヤキトリを相手に無邪気にはしゃいでいた
「きゅる〜」
「ピヨピヨ」
「ピナとヤキトリ〜」
「ヤキトリの鳴き声、初めて聞いたけど……ヒヨコだったんか」
「違う。ヤキトリは《レッドバードラン》であって、ヒヨコじゃない」
「いや、ヒヨコだろ。どう見ても」
「ああ、ヒヨコだな」
「ヒヨコですね」
「ヒヨコじゃない」
ヤキトリがヒヨコか、否かの問答を繰り広げるソウテン達を他所にミトは少年の頭を優しく撫でる
「そういえば、名前は何て言うの?キミ」
「………なまえ?」
「そっ。名前は?」
「………えっと、えっと…わかんない」
「分からんって、自分の名前がか?」
「うん」
「なるほど……これは恐らく若年性健忘症ですね」
「けん……なんだって?」
「記憶喪失のことだ」
「なら初めからそう言えよっ!紛らわしいっ!」
「申し訳ない。ゴリラであるグリスさんにもわかり易く説明するべきでしたね」
「ゴリラじゃねぇ!」
「「「「「えっ」」」」」
「真顔で驚いてんじゃねぇっ!!」
真顔で驚愕するキリト達にグリスの突っ込みが飛ぶ中、ソウテンは少年に目線を合わせるように姿勢を低くする
「なんか覚えてる言葉とかあるか?」
「………ろと」
「ロト?この子の名前ですかね」
「へぇ〜、ロトくんって言うの?キミは」
「わかんない……でも、そうよばれてたきがする…」
「なるほど。よし、お前は今日からロトだ」
「ロト………うん!ボク、ロト!」
ロト、そう名付けられた少年は屈託の無い笑顔で笑う。余程、名前が気に入ったらしく、嬉しそうに飛び跳ねている
「拝啓、お父さんにお母さん。私は仮想世界でお母さんになりました。初孫誕生をお喜びください」
「コラコラ、届きもせん相手に手紙を書くな」
「ロトくん、ロトくん。チーズケーキ食べる?」
「焼き鳥もある」
「バナナ食うか?」
「餌付けしようとすんじゃねぇ。チビどもにゴリラ」
「いいか?刃物は危険だ。しかし、時には身を守る刃になるということを覚えておくんだ。これをやろう、護身用のダガーだ」
「って!そこぉ!子どもに物騒なもんを与えんなっ!」
「御伽噺を聞かせて差し上げましょう。昔々ある所に迷子の男と鎌使いの女がいました」
「其れの何処が御伽噺なんよっ!?俺の話だろ!明らかに!!!」
矢継ぎ早のようにボケを繰り出す仲間たちを相手にソウテンは突っ込み疲れ、肩で息をするように荒い息を口から吐く
すると、肩を叩かれ、背後を振り向くとキリトとディアベルが暖かい眼差しを向けていた
「テン。立派になったな、親友として嬉しいぞ」
「全くだ。しっかりとロトくんを育ててやるんだぞ」
「おめぇさんらは俺の親か。ったく……ここじゃ、うるさくて話も出来ねぇ……。ミトー、ロトと一緒に付いて来な。35層の家の方に行くから」
「分かったわ。ロトも一緒にいきましょうね」
「はーい!」
ロトはミトの言葉に聞き分けよく返事すると、彼女に手を引かれ、ソウテンの後を追う。その光景にキリトは人知れず、笑みをこぼす
「テン…。お前が幸せになるのを祈ってるよ」
第35層主街区ミーシェ ソウテンの自宅
此処は元々、
「ロト。今日から、ここがお前の家だ」
「ボクの?」
「そうよ。今日から、かーさんととーさん、それにロトの三人で暮らすのよ」
「わーい!ボクのいえー!」
「よかったな。っと……その前にだ、ロト。指を振ってみ」
年相応に喜ぶロトの頭を撫でながら、一応は彼の素性を確認しようと指を振るように促す。疑問符を浮かべながら、ロトが指を振るとアイテムウィンドウが現れた
「なるほどな……キリトとベルさんが言ってたようにロトは少し訳ありみたいだ」
「どういうことなの?テン」
「可視モードでステータスを見たら、分かる」
「分かったわ。………なんなのよ、これ」
ミトは自らの眼を疑った。本来、ステータスは三つのエリアに分けられており、最上部には名前の英語表示と細いHPバー、EXPバーがあり、その下の右半分に装備フィギア、左半分にコマンドボタン一覧という配置になっている筈だ
しかし、ロトのウィンドウにあったのは《Prototype-MHCP000》という奇妙な表記のみ、更にあるべき筈のHPバーとEXPバー、レベルの表示も確認できない
「ロトに指を振るように促したら、首をかしげた。こいつはバグというよりは元々がこういうデザインなんじゃねぇんかと俺は睨んでる」
「そんなことがあり得るの?」
「さあな。でもな、ミト。この世にあり得ない事はあり得ないんよ」
「何よ、それ。今度は誰の名言をパクったのよ」
「パクってねぇ。俺のオリジナルだ」
「とーさん、とーさん。パクリってなに?」
ロトが首を傾げ、興味津々に問いかける
「ロトは知らなくていいんよ」
「そうよ。とーさんみたいにバカになるから、知らなくていいのよ」
「バカじゃない」
「とーさんはバカなの?」
「バカじゃない」
「そうね、バカじゃない代わりに迷子よ」
「おい、余計なことを吹き込むのはやめてもらおうじゃないか」
新たにロトを加え、始まった新生活。ソウテンの周りは余計に騒がしさを増すのであった
ロトを加え、新たに始まった新生活。果たして、彼は何者なのだろうか…そんな時、アスナがストーカー被害に悩まされているとの依頼がソウテンの元に迷い込む
NEXTヒント 黒の剣士
もしも、そーどあーと・おふらいんを書くなら…
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ソウテンとミトが司会の賑やかな雰囲気
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キリトとアスナが司会の正規の雰囲気