2024年10月31日 第22層南西エリア南岸 ログハウス(キリト&アスナ宅)
「キリトくんっ!!起きてっ!」
ソウテン、ミトが家を飛び出してから数時間後に騒がしい仲間達もアルゲードのギルドホームに戻った。しかし、一向に少女は眠りから覚めず、彼女を気遣い、一階のソファで寝ていたキリトの耳にアスナの声が響く
「………おはよう、どうした?またテン達が勝手に入り込んでたのか?」
「ううん、今日は違うの。あの子が意識を取り戻したみたいなのよ」
「なんだって?本当か、それは」
「間違いないわ。私の起床アラームに反応して、歌ってたもの」
「取り敢えず、二階に行こう」
アスナと共に二階に上がり、寝室に足を踏み入れると確かに少女は居た。まだ眠っているようだが顔を覗き込む
「おーい、起きてくれー」
体を揺すり、声を掛ける。すると、長い睫毛が微かに震え、瞼が持ち上がる
黒い瞳は、至近距離でキリトを映し、数度の瞬きを繰り返す
「あ…………う………」
少女は覚醒しきっていない状態ではあるが、僅かに口を動かす。アスナが彼女を抱き起こし、ベッドに座らせる
「自分がどうなったか解るか?」
キリトの問いに少女は、ゆっくりと首を振る。この光景には僅かに覚えがある、故に次に聞くべき質問を口に出す
「名前は……?」
「……な……まえ……。わた……しの……なまえ……」
「そう、貴女の名前。ちゃんと言える?」
アスナが優しく問いかける。その声に安心したのか、少女は口を開く
「ゆ……い。ゆい。 それが……なまえ……」
「ユイちゃんね、私はアスナ。こっちの人はキリト」
「よろしくな、キリトだ」
「あぅな……きと…」
辿々しく何度も名前を復唱する姿、その彼女に親友達が実子のように可愛がる少年の姿が重なる。思えば、彼も彼女と似た状態で現れた、気にしないようにはしていたが僅かに彼女とは異なる部分も存在する。其れは、彼は最初から意識をはっきりとさせており、ソウテンを父、ミトを母、と認識していた現象だ
「どうしてあの森にいたんだ?」
一番聞きたい疑問をキリトがユイに打つけると、彼女は目を伏せ、黙り込んだ。やがて、しばらく、沈黙が流れた後、首を動かす
「わかん……ない……。 なん……にも……、わかんない……」
彼女を連れ、リビングに降りようとした時だ。バルコニーに気配を感じ、疑問に思いながらも、ユイのことはアスナに任せ、気配がある方に歩を進める
「………ぐすん」
「まあ、なんだ。きっとまた会えるから、そんなに落ち込むんじゃねぇよ。ロトも言ってたろ?ミトには泣き顔は似合わねぇってよ」
「……うん、ありがとう……。テンはホントに……こういう時は頼りになるわね……普段は迷子なのに……」
「そうだろ、そうだろ……あれ?何で今、良いことを言ったのに貶されたの?可笑しくね?」
気配の正体、ソウテンとミトは椅子とテーブルを出し、まるで、自分の家であるかのように、其処で、普通に寛いでいた。理由は不明だが涙を流すミトを、ソウテンが慰めている
「おいコラ、何をさも平然と人の家で寛いでるんだ?」
「気にするな、些細なことだろ。こんくらいは。其れに俺とお前は互いのホクロの数まで知り尽くした関係だろ」
「気にするわっ!!!あと誤解を招く言い方はやめろっ!子どもの頃に一緒に風呂に入ってただけだろっ!」
「懐かしいな、うちの妹とおめぇさんの妹も一緒に入ってたんよな。確か」
「ああ……って!話を逸らすなっ!!お前らが此処にいる理由はなんなんだっ!?まさか、アイツらも来てるのかっ!!!」
「ああ、其れはない。今日は俺とミトだけ」
「ちょっとキリトに……伝えておかなきゃならないことがあるのよ」
赤い瞳を更に赤く腫らせたミトは目尻の涙を拭い、自分達が体験した摩訶不思議な現象と光に消えたロトの事をキリトに語った
“黒い衝動”、その言葉の意味を仲間の中で誰よりも知る彼は黙って話に耳を傾ける
「という訳なの。これがそのアイテムなんだけど、私はこれをロトの心だと思ってるわ」
自らの薬指に嵌められた指輪を優しく撫で、我が子を慈しむような笑みを見せるミト。確かに出会いは唐突で、関係は特殊だったかもしれない、其れでもミトはその気持ちを信じたかった
彼と過ごした時間は本物で、彼と笑い合った日々は存在したのだ
「だからね、キリト。あの子が……えっと名前はあるのよね?」
「ユイ、あの子はユイだ」
「そう、ユイちゃんって言うのね。それで話の続きだけど、ユイちゃんがどういう存在だったとしても、貴方とアスナはあの子を受け入れてあげてほしいの。きっと、それがあの子にとっての一番の幸せに繋がるはずだから…」
「分かったよ、ミト」
「そいじゃ、そのユイちゃんとやらに会いにいくか」
ソウテン、ミトを連れ、リビングで待つアスナとユイの元にキリトは向かう。椅子に座り、カップに注がれたミルクを呑んでいた
「ミトにテンくん?今日はロトくんと一緒じゃないのね」
「ああ、それなんだけどさ……アスナ」
その言葉に緊張が走り、ミトが表情を曇らせる。彼女の気持ちを汲み取ったキリトはアスナに呼び掛ける
「なぁに?キリトくん」
「実はロトのやつ---」
「親御さんとこに帰ったんよ」
キリトが言い掛けた瞬間、ソウテンが遮るように優しい声色で告げた。彼の仮面越しに見える瞳は僅かに潤みを帯びている
彼なりに仮面の奥に封じた哀しみを見せないように、アスナに嘘を放った
「………そうなんだ。残念だったな、ロトくんなら、ユイちゃんと良い友達になれたかもしれなかったのに」
「そうね、私もそんな気がする。きっと、ロトなら、ユイちゃんと仲良くなれたと思うわ。でもちょっと、心配にもなるわね。あの子、テンに似て天然なとこがあるもの」
「ふふっ、すっかりロトくんのお母さんね。ミトは」
「当たり前じゃない。確かに私たちには血は繋がりなんか無かったのかもしれない、それでも……私はあの子と過ごした日々を忘れない、その時間はほんの
「ありがとう。それはそうと、キリトくんとテンくんは何をしてるの……?」
ミトからの激励にも似た言葉にアスナは笑顔を返し、ユイとテーブルに腰掛ける馬鹿二人に視線を向ける
「見て分からないか?鍋だ。こうやって、鍋を囲み、親睦を深めている」
「鍋ってのは、言わば人生の縮図なんよ。想い出という食材を入れて、煮込めば煮込む程に味と深みを増してゆく……そう!鍋を囲むのはごく当たり前で、ありふれた光景だ」
最もらしい名言を放ち、鍋を囲む必要性を語るソウテン。しかしながら、ただ一人だけはその言葉が彼の考えた名言であるかを疑っていた
「テン?それは誰の名言をパクったの?」
肩を叩き、柔らかい笑みでミトが問いかける
「おいコラ、人聞きの悪いことを言うな。これは俺が温めに温め続けた独自の名言だ、言わば鍋のようにじっくりと煮込んだ最高の名言だ。だから、仮にもパクったとか言うんじゃない、せめて、オマージュと言え」
「「「結局はパクリかよっ!!!」」」
「パクリじゃない、オマージュだ。リスペクトとも言うな」
「いや、パクリだろ。この傍迷惑迷子」
「だから、違う。あと迷子じゃない」
「まいご、まいご」
キリトと言い合うソウテンを指差し、迷子を連発するユイ。如何やら、彼女なりにこの空間に慣れようとしているようだ
「ユイちゃん?駄目だよ、人を指差したりしたら。確かにテンくんは迷子だけど、実はかなりのバカでもあるんだから」
「そうよ、ピーナッツバターを食べないと死ぬとか訳の分からない発言をしたりするバカよ。でも、実は割とカッコいいとこもあったり、いざって時には頼りになったり、腕っ節も強かったりする私の大好きな恋人よ」
「アスナの俺に対する認識が最近、雑なのは仕方ないとしてだ。ミトはやっぱり、ミトだな。俺を一番見てくれてる、ありがとな」
「当然じゃない、私はテンの恋人よ?何時も側で貴方を見てるわ」
「ミト……」
「テン……」
見つめ合い、手を取り合うソウテンとミト。二人を中心に甘い雰囲気が形成され、言葉にしがたい静寂が部屋全体を支配する
「キリトくん……わたしとキミは何を見せられているの…?」
「アイツらはあれがデフォなんだよ、気にしたら負けだ。だから、無視するんだ」
「そうね、そうしましょう。それで……ユイちゃんはどうする?」
「そうだったな。やぁ、ユイちゃん。……ユイって、呼んでいい?」
キリトが明るい声で、話しかけるとカップから顔を上げたユイが、頷く
「そうか。じゃあ、ユイも俺のこと、キリトって呼んでくれ」
「き……と」
「キリト、だよ。 き、り、と」
「…………」
「ぼっち、ぼっち」
「パスタバカ、パスタバカ」
「おい、そこのバカ二人。ユイに妙な事を吹き込むな」
ユイの両隣に座り、キリトに関する悪口を吹き込む
「………きいと」
「ちょっと難しかったかな。何でも呼びやすい呼び方でいいよ」
キリトの言葉に、ユイは長い時間考え込む。やがて、ゆっくりと顔を上げ、キリトの顔を見ながら、恐る恐るではあるが口を開く
「………パパ」
次にアスナを見上げ、先程と同じように口を開く
「あぅ……な……は……ママ。てん…は……にぃに…みぃ……と…は…ねーたん」
「そうだよ、わたしがママだよーっ!ユイちゃん!」
「懐かしいわね、テン。ロトが小さかった頃を思い出すわ」
「そうだな。つい、この間のことみたいに、実に微笑ましい光景だ」
「割と最近まで、ロトの奴はユイと同じくらいだったろうが。何を、頓珍漢な会話してるんだよ」
まるで遠い昔を思い出すように両眼を閉じ、想い出気分に浸るソウテンとミトであったが、ロトと暮らしていたのは昨日までの話であるが故に思い出すほどの出来事ではないのだが、二人にとってはそういう気分に浸りたい時なのだろう
「よし、ユイ。今日はパパと激辛フルコースに挑戦しような」
「いや、ピーナッツバターフルコースにしよう」
「おい、迷子。ユイに犬のエサを食わそうとするんじゃない」
「誰の料理が犬のエサだ、お前は一人でパスタをフォークに巻き付けてろ。そして、誰からも食べてもらえない寂しさを味わえ、ぼっち」
「「…………やんのかっ!!」」
「「喧嘩はやめなさいっ!!!」」
「「ぐもっ!?」」
ソウテンの頭上にミトの鎌が、キリトの頭上にはアスナの空手チョップが、叩き込まれる。ユイは僅かに表情を強張らせ、震えている
「あと、激辛フルコースなんて体に悪いモノは絶対に作りませんからねっ!」
「テン。私は作ってあげてもかまわないけど、ユイちゃんに食べさせないで、自分で責任持って食べなきゃ駄目よ」
「「「あい……」」」
お叱りを受け、素直に返事を返す三人であった
ユイと過ごす中で、本当の家族の絆を紡ぐキリトとアスナ。だが、彼女の失った記憶の果てに、待ち構えていたのは……
そして、その裏側で行われていた知られざるバカたちの宴とは…?
NEXTヒント あれは病気
もしも、そーどあーと・おふらいんを書くなら…
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ソウテンとミトが司会の賑やかな雰囲気
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キリトとアスナが司会の正規の雰囲気