蒼の道化師は笑う。   作:田中滅

76 / 206
如何なる時も、ユーモアを忘れない!其れが《彩りの道化》のモットー!


第四十六幕 恋はいつでもハリケーン

2024年11月7日 第50層主街区アルゲード 彩りの道化(カラーズ・クラウン)ギルドホーム

 

 

「そいで?天下の大ギルド《血盟騎士団》の団長さんが、こんな所に何のようで?」

 

突如、来訪したローブ姿の男性《ヒースクリフ》に対し、威圧感を感じさせながら、彩りの道化(カラーズ・クラウン)を率いる仮面の道化師が、疑問を投げかける

 

「情報には早いキミの事だ、昨日の偵察隊全滅の話は知っているな」

 

「ああ、75層迷宮区のボス部屋での話だろ?アンタの所と四つのギルドが合同で、組んだレイドパーティの全滅。情報に寄ると、十人が後衛としてボス部屋入口で待機し……、最初の十人が部屋の中央に到着して、ボスが出現した瞬間、入り口の扉が閉じた」

 

「あん?なんでぃ、そんくらいは普通だろ」

 

「いや、本題はここからだ。グリス君」

 

「ん?どういう意味だ、そりゃ。団長さん」

 

「ここから先は後衛の十人の報告になる。 扉は五分以上開かなかった。 鍵開けスキルや直接の打撃等、何をしても無駄だったらしい。 ようやく扉が開いたとき――」

 

ヒースクリフの口許が固く引き結び、一瞬目を閉じる。その姿に、誰もが息を呑むと、続けるように彼は、口を開く

 

「部屋の中には、何も無かったそうだ。 十人の姿も、ボスも消えていた。 転移脱出した形跡も無かった。 彼らは帰ってこなかった……。 念の為、はじまりの街最大の施設《黒鉄宮》まで、血盟騎士団メンバーの一人に彼らの名簿を確認しに行かせたが……」

 

「察しました、その先は言わなくても結構です」

 

「結晶無効化空間……74層のボス部屋も、そうだった」

 

「その通りだ。その報告はアスナ君から受けている、恐らくは今後全てのボス部屋が結晶無効化空間と思っていいだろう」

 

「なるほどね、いよいよデスゲームらしくなってきた訳ね。それで、どうする?リーダー」

 

本格化を増すデスゲーム、心を躍らせるミトであったが同時に一抹の不安もある。緊急脱出不可能ということは、死の恐怖と対面する可能性が比較的に高まるという事だ

 

「勿論、やるからには全力で臨むさ。派手に行くぜ?野朗どもっ!」

 

『了解!リーダー!!』

 

決まり文句を言うソウテンに、ミト達も何時ものように返事を返す。その様子に、ヒースクリフは、微笑を浮かべる

 

「何かを守ろうとする人間は強いものだ。ところで……、キリト君にも参加を依頼したが、彼は来ると思うか?」

 

「当たりめぇじゃねぇの、彼奴はこのゲームクリアするのを最大の目的にしてる。其れが、彼奴にとってのゲーマーとしてのプライドであり、この世界で生きる意味なんじゃねぇかと俺は思ってる。其れにだ…、俺たちは、仲間を守る為なら、命だって、賭ける」

 

『いやぁ、其れはちょっと』

 

「あれぇっ!?俺だけっ!?」

 

真剣な眼差しで、決意を告げるソウテンとは反対に、乗り気ではないミト達に、即座に何時もの道化師としての彼が姿を見せる

 

「攻略開始は三時間後だ。 予定している人数は君たち、《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の面々を入れ、三十八人。 75層コリニア転移門前に午後一時集合とする」

 

Lo entiendes(分かった)。そうだ……団長殿」

 

「何かな?道化師殿」

 

ギルドホームを後にしようと、扉に手を掛けたヒースクリフは、不意に呼び止められ、その歩みを止めた

振り返ると、仮面越しに不敵な笑みを浮かべ、道化師は佇んでいた

 

「精々、化けの皮を剥がされねぇようにな。アンタには、まだやってもらわなきゃなんねぇことがあんだからな」

 

「………やはり、食えん男だ。君は」

 

「そりゃあ、お互い様じゃねぇのかい?団長さん」

 

そう告げる、ソウテンの笑みは何時もよりも遥かに、不敵で、この先に待ち受ける未だ見ぬ何かを、案じているようであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2024年11月7日 第75層主街区コリニア転移門前

 

 

ボス討伐の為に、集められたのは、全員が高いレベルのプレイヤーで、俗に言う攻略組だ。その中でも、一際に目立つのは、転移門付近で、談笑する仮面の道化師を筆頭にした集団である

 

「よし、景気付けに前祝いでもやっとくか」

 

「前祝いか。じゃあ、肉でも焼くか?この前、裏ルートで仕入れたラグーラビットの肉があるぞ」

 

「流石だな、ベルさん。そいじゃあ、俺が腕によりを掛けて、得意料理を振る舞ってやろうじゃねぇの」

 

「テンの得意料理だぁ?どうせ、ピーナッツバターをぶっ掛けただけのふざけた料理だろ」

 

「間違いありませんね。リーダーは生粋のピーナッツバターフリーク基アホですから」

 

「リーダーさん、知ってますか?ピーナッツバターは主食にならないんですよ」

 

「うむ、シリカくんの言う通りだ。バナナなら、あり得なくもないがな」

 

「誰がピーナッツバターを使うなんて、言った?俺が作るのはタコスだ」

 

『………えっ!!ピーナッツバターを使わないっ!?さてはニセモノかっ!!アンタっ!!』

 

まさかの発言に、誰もが両目を見開いた。ピーナッツバターといえば、ソウテンがこよなく愛する調味料であり、其れが如何なる料理であっても、味を台無しにするレベルで、塗りたくる奇行を引き起こす代物だ

然し、今の彼の手には、ピーナッツバターは見当たらない。其れ即ち、今回は真面な物を作り出すという事である

 

「なんで、こういう反応されてんだ?」

 

「リーダー?日頃の自分を見直して見るといいよ。確かにさ、リーダーが作るタコスは美味しいけど、俺とミトさん以外に振る舞った事ないんじゃない?」

 

「確かに、私とヒイロは何度か食べたけど……グリス達に食べさせてるのは見た事がないわね」

 

「あり?そうだっけか。そういう事なら、今日は全員に振る舞ってやろうじゃねぇの……きっと、美味さで成仏しちまうぜ?」

 

「成仏って……悪霊じゃないんだから」

 

仮面の奥で笑う瞳は穏やかで、この世界に来る前に何度も見ていた恋人の姿が其処にはあった。孤独な人々の前に、何の前触れも無く、姿を見せ、当たり前のように手を差し伸べ、居場所を与えてくれる彼の隣はミトにとってのLugar importante(大切な場所)である。其れは、世界が仮想に移り変わっても、変わらない。彼に寄り添うと決めた時から、ミトの居場所はソウテンの隣となったのだ

 

「相変わらずだな、この世界でこうも毎日を楽しめるのは、お前たちくらいじゃないか?テン」

 

「おろ?エギルじゃねぇの。珍しいねぇ?おめぇさんが前線に出るなんて、何時以来よ」

 

「半年振りだな。最近は店が忙しくて、余り前線には出られなかったからな」

 

ソウテンの軽口に笑いながら、答えたエギルは担いでいた斧を振り下ろす。やる気に満ち溢れた彼は、久方振りの前線に心を躍らせているようだ

 

「クラインさん達もいらっしゃったんですね」

 

「おうよっ!この攻略が終わったら、メイリンさんとデートに行く約束してんだ!どうだ?羨ましいだろっ!」

 

「「「いえ、全く」」」

 

「ふっ…此れだから、恋愛を知らないチビどもは困るぜ。いいか?俺の故郷には、こういう言葉がある」

 

興味無さ気なチビっ子三人組に対し、クラインは果てしなく広がる空を眺め、目を細め、柔らかい笑みを浮かべた

 

「恋はいつでもハリケーン!!!だから、俺は愛の為に、この命を捨てる事を躊躇わねぇ!!」

 

「「「あるかっ!!!そんな格言っ!!!」」」

 

「いやあるっ!」

 

格言というよりも、意味不明な諺のような事を口走るクラインに三人からの全力の突っ込みが飛ぶ

 

「悩みとか無さそうだな、アイツは」

 

「おやまあ、キリト。随分と遅かったじゃねぇの。重役出勤か?」

 

「重役って、コイツがそんなタマかよ。精々、部下と上司に板挟みにされて、胃薬の手放せねぇ中間管理職って、とこだろ」

 

「違いない、キリの字は統率者には向いてないからな」

 

「訴えてやろうか、バカども」

 

討伐開始になる直前に、ソウテン達が繰り広げるやり取りに周囲が湧き立つように、笑いが湧く。其れは、次第に伝染していき、最終的には、その場に居た全員が緊張を忘れ、笑いの渦を巻き起こしていた

 

「欠員はないようだな、よく集まってくれた。状況はすでに知っていると思う。厳しい戦いになるだろうが、諸君の力なら切り抜けられると信じている。――解放の日のために!」

 

攻略組の間を掻き分け、現れたのは《血盟騎士団》を率いる真紅の衣を纏い、十字盾を携えた男性は力強い叫びを宣言する。そして、彼の視線が、ソウテンの方に向けられる

 

「存分に力を奮ってくれたまえよ、《蒼の道化師》殿」

 

「その依頼、確と御引き受け致しましょう。ですが……此れだけは、御忘れなきようにお願い申し上げます、この世界(ゲーム)に幕を下ろすのは我々である事を」

 

その不敵な笑みは、まるで全てを見透かしたかのように、妖しく仮面の奥で瞳を光らせていた

だが、此れは終わりなき世界に迫る終焉への第一歩であったのを、今はまだ、誰も知らない




遂に開く75層ボス部屋の扉、未だかつて無い強敵を相手に最強のレイドパーティが挑む。その先に待つのは、幸福か?其れとも、絶望か?

NEXTヒント 死神の鎌

もしも、そーどあーと・おふらいんを書くなら…

  • ソウテンとミトが司会の賑やかな雰囲気
  • キリトとアスナが司会の正規の雰囲気
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。