『往けっ!!!』
背中を押すように放たれた言葉に、キリトは手にした剣を、ありったけの力で握り締める
「了解……
啖呵を切る勇者を見詰めるのは、魔王の如き笑みを見せる一人の男。彼も、十字剣を抜き、キリトへと視線を向ける
「来たまえ……キリト君……いや、
交じり合う二振の刃が、鈍い金属音を、響かせる。《二刀流》を使用すれば、事は上手い具合に運ぶだろうが、キリトは頑なに二本目の剣を抜刀しようとはしない
剣撃戦の応酬が続く中で、その手に握られるのは、仲間たちからの想いが形となった一振りのみである
恐怖していないと言えば、嘘になる。目の前で、剣撃を受け流す男は、四千人に渡る命を奪った殺戮者なのだ。その冷ややかな瞳は、人間と呼ぶには、余りにも恐ろしく、それでいて、気高さも感じ取れる
「うぉぉぉぉ!!!」
不安を取り払う為に、絶叫にも似た叫び声を上げる。だが、剣は十字盾と長剣に弾かれ、茅場に届きもしない
その焦り故に、簡易的ではあるがソードスキルを放つ……否、
途中で、止めようにも止まらないのがソードスキルの利点であると同時に弱点でもある。そして、直後の硬直が、キリトを襲った
「さらばだ、キリト君」
茅場が掲げた刃が、紅の閃光を迸らせ、頭上に振り下ろされる
その死を覚悟し、キリトの表情が歪む。しかし、彼の前に、“
一陣の風が、旗めかせるのは、蒼き衣
そして、斬り裂かれた仮面から覗くのは、不敵な笑み
その背をキリトは知っていた。時には喧嘩して、時には笑い合った、最高の親友であり、兄弟の背中が、其処にあった
「テン!!!」
その名を叫ぶキリトに対し、ソウテンは顔を綻ばせる。そして、
「悪いな、おめぇさんの戦いに水を差しちまって、でもなぁ…見てられんかった。だから、先にあの世で待ってるよ。いいか?アスナを幸せにしてから、来いよ?そいじゃねぇと化けて出てやるからな?まぁ、でも……割と色々と言いたいことはあるが、本当に言いたいんは、一つだけだ。
「ふっ………ふはははははっ!最高だ、やはり最高だよ!キミは!ソウテン君……いや、テンっ!!!」
ソウテンの最後の一振りが、茅場の底を突き掛けたHPを貫く。だが、同時に茅場の十字剣も道化師の胸を突き刺す
「これが最後っ!!!」
そして、キリトの刃が茅場を斬り裂いた
「見事……勇者、そして道化師よ」
茅場が不敵に笑い、二人の勇姿を賞賛するように、消滅していく。しかしながら、其れはソウテンも同様である
「
口癖であるスペイン語を呟き、不敵な笑みを浮かべた道化師も、その体を消滅させた
残ったのは、仮面。彼が身に付けていた
「テン……そんな……どうして……どうしてよぉ…テン…」
「あんの傍迷惑迷子がっ!!!何勝手に先に逝ってやがんだっ!!!道もわかんねぇ癖によぉ……」
「なんで……なんでだよ…!なんで、あんな時まで!手を差し出すんだよっ!あのバカは!!!くそっ、くそっ、クソォォォォ!!!」
泣きじゃくりながらも仮面を抱き締めるミト、拳を握りしめ悲しみを堪えるグリス、何度も何度も冷たい床を殴りつけるキリト。その光景に誰もが掛ける言葉を失っていた
「駄目だよ」
しかし、其れは、彼を、一人を、除いての話だ。まるで、彼を彷彿とさせる不敵な笑みを浮かべ、その小さな剣士は三人の前に立つ
「リーダーは……テンさんは、最後に
「ヒイロの言う通りだ、テンのヤツが驚きの余り蘇るような世界に彩ってやろうじゃないか。なっ?コーバッツ」
「うむ、そうだな。ディアベル」
「ふんっ…死人を甦らせるか…非現実的ではあるが、興味はあるな」
「職人さん?今、そんな話はしてませんよ。世界をチーズケーキで彩るという話です」
「シリカさん、貴女も違いますよ?全く……仕方ない方々ですね。そう言う訳で、これからも末永くお付き合い願えますか?御三人方」
ヴェルデの差し出した手に、ミトは顔を上げる。その先には想い人の姿は無いが、彼の意志を受け継いだ仲間たちが居た
「彩ってやろうじゃない…、私たちで!!!」
『了解!!!』
高らかに宣言される目標、其れは道化師の願いが世界を彩り始めた瞬間でもあった
『現在 ゲームは 強制管理モードで 稼働しております。 全てのモンスター及びアイテムスパンは 停止します。 全てのNPCは 撤去されます。全プレイヤーのHPは 最大値で固定されます』
刹那、自動音声によるアナウンスが流れ出す
『アインクラッド標準時 11月7日 14時55分 ゲームはクリアされました。プレイヤーの皆様は 順次 ゲームから ログアウトされます。その場で お待ちください』
終わりを告げる声と共に全プレイヤーが、浮遊城から、ログアウトされた
「ふわぁぁぁぁ……おやまぁ。こりゃあ、絶景だ」
分厚い水晶の板に腰掛ける一つの影、夕陽に照らされた絶景を前に、彼は、いつも通りの不敵な笑みを溢す
「んむ?ほう……」
右手を振り、呼び出したメニューウィンドウには【最終フェイズ実行中 現在34%完了】の文字が。見据える先には、崩壊を始める、慣れ親しんだ浮遊城の姿が確認できる
「中々に絶景だな」
不意に聞こえた声に、振り向くと、一人の男性が佇んでいた
男の名は、茅場昌彦。
ヒースクリフの姿ではなく、SAO開発者としての姿、つまりは現実の彼が其処に佇んでいた
「現在、アーガス本社地下五階に設置されたSAOメインフレームの全記憶装置でデータの完全消去を行っている、あと十分でこの世界は消滅するだろう」
「そうか、アイツらはログアウトしたんか」
「ああ、生き残ったプレイヤー、6147人のログアウトが完了した」
「死んだ連中は……いや、聞かんでおくよ。命は、軽々しく扱っていいもんじゃねぇからなぁ…」
「そうだな。死者が消え去るのは何処の世界でも一緒さ。君とは最後に話をしたくてこの時間を作らせてもらった」
「じゃあさ、質問していいか?アンタがこの世界を作った理由は何なんよ、一体」
内に秘めていた疑問、この場に二人だけという状況故にソウテンは、彼に問いを投げ掛けた
「なぜ、か。私も忘れたよ。なぜだろうな。フルダイブ環境システムの開発を知った時、いや、その遥か昔から私はあの城を、現実世界のありとあらゆる枠や法則をも超越した世界を創ることだけを欲してきた。そして、私は……私の世界の法則をも超える世界を見ることができた。空に浮かぶ鉄の城の空想に私が取りつかれたのは何歳の頃だったかな……。その情景だけは、いつまで経っても私の中から去ろうとしなかった。この地上から飛び立って、あの城に行きたい……長い、長い間、それが私の唯一の欲求だった。私は、まだ信じているのだよ……どこか別の世界には、本当にあの城が存在するのだと……」
その真っ直ぐな瞳は、少年のように見えた。同時に、ソウテンも彼の言葉に、淡い夢を抱いた
もしも、あの世界が現実であったなら、きっと、自分の世界は別の色に彩られていた
槍使いの道化師となり、黒の剣士に出会い、紫色の鎌使いと恋をし、灰色のハンマー使い達と騒がしく過ごし、ありふれた日常を、当たり前のように繰り返す。そんな淡い夢を描き、柔らかい笑みが自然に溢れる
「そうだといいな」
「……言い忘れていたな、ゲームクリアおめでとう。 ソウテン君」
「した覚えはないけどな」
悪態を吐くソウテンを、茅場は穏やかな表情で俺たちを見下ろしていた
「――さて、私はそろそろ行くよ」
風が吹き、それにかき消されるように――気付くと、茅場の姿は消えていた
残された道化師は、様々な想い出を紡ぎ、歩んできた場所、《アインクラッド》へ、深々と頭を下げる
「身も凍る悪夢の如き、浮遊城での淡い夢物語……お楽しみいただけましたか?もしも、皆様の御眼鏡に称う日々を彩れておりましたら、拍手御喝采の程、御願い申し上げます。其れでは、今宵の舞台は……此れにて、幕引きと致しましょう。また会う日まで、暫しのお別れに御座います、
【最終フェイズ実行中 現在100%完了】
【実行終了】
「
この日、ゲームはクリアされた。世間では、黒の剣士が全てを解決したかのように報じられたが、その影に、一人の道化師が、存在し、まるで影のように、勇者を支えたことは、誰も知らない
その者、紺碧の衣を纏いし、一人の槍使い
その槍を振るう姿は時に美しく流れるかの如く、時に怒涛のように荒々しく、身に付けたる仮面には不敵な笑みを携え、
その名を、『蒼の道化師』と申す
えっ!最終回?と思ったアナタ!違いますよー!しっかりとALO編もやります!あっ、ちなみにテンは死んでませんからね?勝手にミト達がそう思い込んでるだけです、はい。ちなみにこれに至ってはネタバレ云々ではありませんので、お気になさらず
NEXTヒント ハジケリスト
もしも、そーどあーと・おふらいんを書くなら…
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ソウテンとミトが司会の賑やかな雰囲気
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キリトとアスナが司会の正規の雰囲気