2025年1月20日 東京都上野《DiceyCafe》
「なるほど…ここが、エギルの店か。よし……帰るか」
『さっさと入れっ!!!バカリーダー!!』
「ぐもっ!?」
目的地であるエギルの店に辿り着き、扉を前に帰宅宣言をする天哉の頭を深澄達が蹴り付ける。その衝撃で、黒い木造の扉に激突し、上に付いたベルが音を立てる
「相変わらず賑やかな登場だな。少しくらいは、静かに出来ないのか?お前らは。特にテン」
「よぉ、エギル。相変わらずの不景気だな、取り敢えずはパスタをもらおうか」
「では、僕はカレーをいただけますか?あっ、辛さはお任せします」
「俺は焼き鳥」
「バナナスムージーくれ」
「マスター、俺からは奴らの頭にフォークを」
「悪いな、昼ならまだしも夕方のバータイムに軽食はやってないんだ。あとテン、お前は人の頭にフォークを差し入れようとするな」
『やっぱり、不景気な店だ』
「なぁ……ミト。コイツら、殴ってもいいか?」
「いいわよ」
『深澄さんっ!?』
深澄の思わぬ裏切りで、エギルの制裁を喰らう
「んで?エギル。あのメールはどういうことなんよ」
「ああ。あれはどう見ても、アスナだった」
「そうよ、アレはなんなの?何かのゲームに見えたけど…」
「察しがいいな、流石はミトだ。そうだな……口で説明するよりも、実物を見せた方が早いか。コイツを見てくれ」
エギルはそう言うと、カウンターの下から何かを取り出し、天哉達の目の前に置いた
「これって……ゲーム?」
「俺が好きなフラメンコゲームの新作か?」
「そんな訳ないだろ?きっとパスタを只管に作るゲームだ」
「いや、きっと俺が好きなバナナ育成ゲームじゃねぇかな」
「いえいえ、僕のお気に入りであるカレー探偵団の事件簿を題材にした推理ゲームの新作でしょう。恐らくは」
「四人とも違う……これはきっと、焼き鳥屋の半生を描いたドキュンメンタリーゲーム」
「そんな変なゲームないわよっ!!!」
『ぐもっ!?』
「こほん……」
ありそうではあるが確実にあるワケがないゲームを口にする天哉達の頭上に、深澄のハリセンが叩き込まれる。物理的に
「で、結局はどういうゲームなの?」
「《アミュスフィア》っていうナーヴギアの後継機対応のMMOだ」
「アミスフィア……というと新しいカスタネットのブランドか」
「いやきっと新しいパスタマシンに違いない」
「何を言ってやがんだ、新作のバナナスイーツだ」
「全く…此れだから、バカは困りますね。アミスフィアというのは新たなる香辛料ですよ」
「菊丸も違うよ。アミスフィアは鶏のぼんじり近くにある部位だよ」
「どれも違う、バカども。ナーヴギアの後継機だと説明したろ」
エギルの発言に目と口を開き、明らかにそうと言わんばかりの驚愕を天哉達は見せる
「何を驚いてるのよっ!?」
「いやまさか、ナーヴギアの後継機だとは思わんくて……」
「俺はてっきりパスタマシンだとばかり……」
「ミト……話を進めても?」
「ええ、無視してくれていいわ」
『遂に見限られたっ!!!』
的外れな発言ばかりの天哉達を無視し、深澄はエギルに話を続けるように促す。背後で、
「それで…これが、その《アミスフィア》に対応しているゲームパッケージなのね」
「あるふ……へいむ……おんらいん?」
「正しくは
「流石はリーダーです。スペイン語を口癖にしているだけあって、発音が綺麗ですね」
「それに比べるとカズさんは……」
「オメェ、英語塾とか行った方がいいんじゃねぇか?」
「和人…アンタ、ホントに中学に通ってたの?」
「発音だけで、なんで、流れるような罵倒されてんだっ!?」
発音一つで、流れる罵倒が和人に飛び交う。一方の天哉はパッケージを片手に裏面を興味深そうに見詰める
「なんか、ほのぼのとしたタイトルだねぇ?こりゃ」
「タイトルだけならな。しかし、このゲームは意外にも、どぎつい内容だ。どスキル制、プレイヤースキル重視、PK推奨らしい」
「どスキル制……つまりは《レベル》の類いが存在しないと言う訳ですか?エギルさん」
「流石にヴェルデは博識だな、その通りだ。このゲームは、各種スキルが反復で上昇するだけで、HPもたいして上がらない。戦闘もプレイヤーの運動能力依存で、ソードスキルなし、魔法ありのSAOってところだ」
「運動能力依存……つまりは俺の身体能力とこの肉体美が、輝くって事かっ!!!」
「PK推奨……これはどういう意味?」
上半身裸で腕立て伏せを始める純平を放置し、彩葉が気になった単語の意味をエギルに問う
「プレイヤーはキャラメイクでいろんな種族を選ぶわけだ。違う種族ならPKできるんだとさ」
「ハードだな。そんなマニア向け仕様じゃ、人気で無いだろう」
「それがそうでもない。今、大人気だそうだ。理由は《飛べる》からだそうだ」
『飛べる……?』
((絶対……違うこと、考えてるな…コイツら))
《飛べる》、という言葉から何かを連想する天哉達の姿に深澄とエギルは呆れた眼差しを向ける
「妖精だから、翅がある。フライト・エンジンとやらが搭載されていて、慣れると自由に飛びまわれる」
「すげぇな!そのフライド・チキンってヤツ!」
「フライから先が全然違うよ。純平さん」
「仕方ねぇさ。何せ、ゴリラだからねぇ」
「現実だろうが仮想だろうが、頭の中は筋肉の塊ですね」
「エギル、其れは難しいのか?翅の制御とか」
「さあな。だが、相当難しいらしい。初心者はスティック型のコントローラーで操るんだとさ……って、キリトとミトの目がキラキラしてるっ!?」
未知の体験に、ゲーマーとしての血が騒ぐ和人と深澄。二人は既にこのゲームの虜になっていた
「そんでよぉ、このゲームとアスナに何の関係があるんだ?」
「そうそう。あの写真は何なんだ?アスナに似てたけど」
「そうだな……これを見て、どう思う?」
純平と天哉の問いに答えながら、エギルはカウンターの下から一枚の写真を取り出し、全員に見えるように置く
「アスナ……アスナだわっ!これっ!」
「ああ、似ているなんてレベルじゃない!此れはアスナだ!」
「はいはい、そこのアスナ大好きコンビはちょいと落ち着こうな。そいで?エギル、此処は何処なんよ。まさかだが……ゲームの中なんて言わんよなぁ?」
仮面こそ有りはしないが、その代名詞とも言える不敵な笑みで、問いを投げ掛ける天哉に対し、エギルも微笑で返す
「
「やっぱりか」
「世界樹、と言うんだとさ。10つの種族に分かれたプレイヤーは世界樹の上にある城に、他の種族に先駆けて到着する事を競ってるんだ」
「10個もあるの?」
「ああ、最近までは九つだったんだがな。この前の最新アップデートで、一つ増えたらしい」
「僕も質問します。先程、世界樹の上を目指し、競走していると言いましたが……飛ぶことは不可能なのですか?」
「滞空時間があって、無限には飛べないらしい。でだ、体格順に5人のプレイヤーが肩車をして多段ロケット方式で樹の枝を目指した」
「ほーん、考えたな。作戦にしちゃあ、頭悪ぃけどな」
「そう言ってやるな、グリス。まぁ、ぎりぎりで到着できなかったそうだがな。でも、到達高度の証拠に5人目が何枚か写真を撮った。その1枚に巨大な鳥籠が写ってた」
『鳥籠……』
パッケージを見ながら、様々な思考を巡らせる天哉達。すると、和人の顔が険しくなり、パッケージを睨み付けはじめた
「ミト、みんな!これを見ろっ!」
和人の声に、パッケージを見た深澄達の目に、《レクト・プログレス》の名が飛び込んできた。その名を彼等は知っていた、天哉は首を何度か傾げているが、深澄達はこの関係者に遭遇していたのだ
「アスナに会うために……力を貸してほしい。またあの世界での戦いに、お前たちを巻き込む事になるのは、理解してる……其れでも!俺は、アスナを助けたいっ!此れが本当にアスナなのかを、確かめたいんだっ!だから……だから、力を貸してくれないか?」
和人の心からの叫び、その姿に暫くの沈黙が流れる。しかし、彼は違った。彼だけは、あの不敵な笑みを浮かべ、何時もと変わらない道化師のような彼は、
「アスナはおめぇさんの恋人、つまりは俺たちの仲間で家族の一員……大切な人を助ける旅なら、俺たちは協力を惜しまねぇ。だから……
あの時と、一人きりの世界から、連れ出してくれた日のように。その手を、差し出していた
「お前なら、お前だったら、そう言ってくれると思ってたよ。なぁ?テン。お前はこのゲーム、どう思う?」
「どう思うって…そりゃあね?」
「だよな」
天哉と和人の瞳が交差し、道化師の笑みと剣士の微笑が深澄達の視界に焼き付く
「「死んでもいいゲームなんて、
「やっぱり、こうなったか。ほらよ…お前たちの分だ」
「エギル。まさかだけど全員分を用意してくれたの?」
「ああ、お前たちが全員で来るのは分かってたからな。本当なら、他にもコイツを渡したい奴等はいるが……アイツらの住所は分からないからな」
深澄達にソフトを渡しながら、この場に居ない他の面子の事を思い浮かべるエギル。すると、ソフトを手に考え込んでいた天哉がその姿に気付く
「アイツら……あっ、エギルにちょいと頼みたいことあんだけど」
「どうした?」
「あのさ………」
「なにっ!?そうか……分かった。お前の言う通りにしてみるよ」
「
アミスフィアはナーヴギアの後継機であり、更にセキュリティ強化版であるが故に、そのソフトもナーヴギアで、動くと知り、天哉達はエギルの店を後にしようと、扉に手をかける
「助け出せよ、アスナを。でないと、俺たちの戦いは終わらない」
「ああ、いつかここでオフをやろう。その時はメイリンさんも呼んで、俺たちの大好物を出してもらうけどな」
「ははっ……またあの頃みたいなカオスな食卓になるな、そりゃ」
「んじゃまあ……幕を開けるとしますかね。派手に行くぜっ!!野郎どもっ!」
『了解!リーダー!!』
決め台詞を号令に、天哉達は帰路に着く。自宅に戻る深澄達を送り届け、寝床であるゲームセンターに戻った天哉は、自身の部屋である休憩所の簡易ベッドの前に立つ
「まさかまた……コイツを被るとはなぁ。まあ、仲間の為だ。久しぶりに……幕を上げようか」
ソフトを取り出し、ナーヴギアの電源を入れ、ROMカードをスロットに挿入し、ゆっくりと意識を闇に落としていく
「リンク・スタート!」
暗闇の世界に飛び、そして、虹色のリングを潜り抜けるとアカウント情報登録ステージについた
『アルヴヘイム・オンラインへようこそ。最初に、性別と名前を入力してください』
柔らかい女性の声に案内され、性別を選択し、名前の入力画面に移り変わる
僅かに躊躇うが、彼は、その名前を、慣れ親しんだあの名を、道化師と呼ばれた蒼き槍使いの名を、《Souten》の名を打ち込む
『それでは、種族を決めましょう』
「種族……うわっ、この
道化師を名乗るが故に、
「
『それでは、
その言葉を最後に再び光の渦に巻き込まれ、浮遊感をソウテンを襲う。開けた視界には、コテージやテントが並ぶ平原が飛び込んで来た
「うんうん、こりゃあ絶景だ」
頭を下に落下しながら、徐々に平原へとソウテンは近づいていく。刹那、異変は起こった
急にフリーズし、周囲の景色が欠けていく
「んなバカなァァァァァ!!!」
悲鳴と共に、道化師は夜の森の中へと落下していった
同時刻
眼前に広がる新しい世界を前に心を躍らせるのは、水色のポニーテールが特徴的な一人の少女。彼女の名は、《Mito》。ソウテンの恋人であり道化師一味の鎌使いである
「これがアルヴヘイム……やっぱり、
今更ながら、選んだ種族に後悔するが後戻りは出来ない。迫る三日月湾を前に、ミトは決意を固め、この世界での目標を何度も呟く
「アスナを助ける、アスナを助ける、アスナを助ける。待ってて!アスナ!直ぐに行くわっ!」
刹那、異変は起こった
急にフリーズし、周囲の景色が欠けていく
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
悲鳴と共に、鎌使いの少女は夜の森の中へと落下していった
今宵、妖精の国にて上がりますは新たなる世界を往く道化師一味の物語。願わくば、最後まで御付き合い頂けますよう、御願い申し上げます
森の中に落下したソウテンは、自分と同じように落下したミトと出会う。更に、この世界で運命的な再会を果たすこととなる
NEXTヒント 何時かの約束
もしも、そーどあーと・おふらいんを書くなら…
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ソウテンとミトが司会の賑やかな雰囲気
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キリトとアスナが司会の正規の雰囲気