サイレンススズカの幼馴染   作:二次元の引き篭もり

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 溜めてたのはこれで全部になります。
あとは不定期にのんびり書いていこうかなと……


四話「買い物」

 

 

 頭上から降り注ぐ太陽は少し暑いが、山間から吹き抜ける風も相まって心地よい。

木々のざわめきを耳で感じながら彼の背を目と脚で追うスズカはふと昔を思い出した。

 

(そういえば、小さい頃もこんな事があったかしら……)

 

 テレビ番組でやっていた子どもだけで買い物に行って帰ってくるというもの。

幼いスズカはそれに密かな憧れを抱いており、遠く離れたスーパーへ歩いてお使いにいきたいと両親に懇願した。当然、まだ幼いスズカに両親は中々許可を出そうとしなかったのだが――――――

 

「それならウチの馬鹿息子も一緒に連れていきますか?」

 

 と作り過ぎた料理の御裾分けでスズカの家に来ていた彼の母親が言った。

その数分後には母親に半ば脅される形で買い物への同行を了解した彼が現れる。

仏頂面の彼が見守り、満面の笑みでスズカは田舎道をトテトテ小走りで進む。

買い物が終わったら重い荷物を彼が何も言わずに両家分持って帰る。

そしてお駄賃代わりに人参を帰りに歩いて食べた事が母親にバレてこっぴどく叱られたのも今となっては懐かしい思い出だ。

 

 あの時は何も考えずに彼の前を走っていたスズカが、今は彼の背を追っている。

不思議と普段なら誰彼構わず前を行く者を追い抜く癖がある彼女は、この時間だけは心穏やかに大きくなった彼の背中を見つめて静かに後ろを歩いていた。

男も見られている事に気づきながら、それを口には出さず黙々と足を動かした。

 

 それから何十分か経って、ようやく目的のスーパーが遠くに見える。

歩くだけで済んだからか、普段から鍛えている男の顔に疲労の色は見えなかった。

一方でスズカはずっと電車や車で動かせなかった足を動かせたのが気持ちよかったのか、満足げに息を吐いて微笑んでいる。

その表情だけ見れば恋する乙女だが、考えている事は足を動かす事……延長線上で走る事だけだ。

 

「今日は親父が昔の同僚と呑みに行くらしいから、俺がなんか作るぞ」

 

「……はい、お願いします」

 

「リクエストは?」

 

「……シェフのお任せで」

 

「はいよ」

 

 スーパーの中はちらほら人の姿はあるものの、若者は2人だけしかいない。

入り口で男が籠を持っていく間に、すれ違った買い物客がスズカに話しかける。

 

「あらスズカちゃん!帰ってきてたの?」

 

「はい、ついさっき家に――――――」

 

「まぁまぁ、あんなに小さかったスズカちゃんが大きくなってねえ~!テレビやラジオなんかで聞いたんだけど、足は大丈夫なの?ちゃんと病院にはいった?お医者様はなんて?」

 

「……えっと、暫くは治療に専念しなさいと――――――」

 

「凄いレースで優勝したんですってね、偉いわぁ~きっとご両親も天国で喜んでる!スズカちゃんは偉い!お婆ちゃんスズカちゃんがいなくなってから心配で心配で……」

 

「…………」

 

 買い物客の老人とスズカに大した接点はない、強いて両親とは付き合いがあっただけ。

田舎なら珍しくもない光景だが若者は決まって老人の長話に付き合われるものだ。

ましてやスズカは全国に名前が知れ渡るほどの有名人、話題は尽きないのである。

 

 彼女が言葉を返す前に機関銃のように言葉を浴びせる老人。

それから数分間、男は半笑いで老人とスズカの会話を見守っていた。

 

「あら、ごめんなさいね引き止めちゃって!それじゃあね、スズカちゃん」

 

「……はい、お元気で……」

 

 老人はヨロヨロと買い物袋を片手に提げて、駐車場へと歩いて行った。

スズカはずっと待っていた彼に「すみません」と頭を下げるも彼は全く気にしていない。

ウマ娘として成長していた頃から彼女は地域住民の注目の的だったからだ。

 

 何かあれば話のネタにされて、すれ違うたびに話しかけられるのは昔と変わらなかった。

学生の頃の彼であれば面倒臭がって先に買い物を済ませようとしただろうが、大人になって精神的にも余裕が出来た彼にとって老人の長話など苦にもならないのである。

 

 スーパーの中は生鮮食品の保存の為か、少し冷房が強めに設定してあった。

籠を持った男が真っ先に向かったのは野菜の並ぶ販売コーナー、地元で採れたばかりの土や葉っぱのついた野菜を一つ一つ手に取って吟味する彼の傍で、スズカの視線はニンジンに向いていた。

 

 彼女はルームメイトのスペシャルウィークほど大食いではない。

走ることに特化した機能美を兼ね備えた体は、ウマ娘としては並の食事量である。

本格的なトレーニングやレースへの出走もしなくなった反動があり、一時期は食欲も減っていたスズカだが、田舎の新鮮なニンジンを見て少しだけ食指が揺さぶられた。

 

「………」

 

「……あっ……」

 

 ニンジン売り場の前に立った彼が、何も言わずにスズカが美味しそうだと思っていたニンジンを何本もビニール袋に詰めて籠の中に入れた。

チラと振り向いて「もっと要るか?」と目線で聞いてきた彼に対して彼女は首を縦に振った。

結局、籠だけでは他の物が入りきらないと判断したのか男は入り口に引き返した。

数秒後、四輪のカートを押しながら彼は途中で拾ってきた段ボールの中に売り場のニンジンを三分の一、段ボールに詰めてカートの下段へと置いた。

 

 スズカは小声で「ありがとう御座います……」と言って尻尾を左右に振っている。

男はフッと笑い「そういう所は昔と変わらないんだな」と返して次のコーナーへ進んだ。

 

 数少ない田舎のスーパーというだけあって、品揃えはそこそこ悪くない。

壁に貼られたチラシで特売の商品を幾つかピックアップして、男は次々籠へ入れる。

時折足を止めてスズカに「必要なものはあるか?」と聞くのも忘れなかった。

 

 そうして2人は各々の飲み物も買って、懐かしい駄菓子の販売コーナーで立ち止まった。

幼い頃にお使いをした時も、両親と来た時も、真っ先に足を運んだのは此処である。

少年だった男はガムやポテトチップス、玩具の付いたチーク菓子など。

スズカはグミやクッキーといった軽く食べられる甘いものを。

 

「何か買ってくか」

 

「……そうですね、じゃあ――――――」

 

 彼の言葉に頷き、スズカも少しだけ童心に帰ってお菓子を手に取る。

昔は手元にお金があれば、際限なくお菓子を買って食べていたかもしれない。

けれどお互いに成長して何事も程々にという考え方をするようになった。

籠の中に入れる量はほんの数日間、摘まんで食べればなくなってしまうほどの量。

彼は少し高いナッツ入りチョコレート、彼女は沢山の味が選べる詰め合わせのグミ。

 

「それだけでいいのか?一日で食いきっちまうだろ」

 

「そう言うリキこそ、昔と変わりませんよね?」

 

 2人はお互いの手元に視線を向けて言った。

暫くの沈黙の後、考える事が同じだと2人は声を揃えてクスクスと笑う。

結局2人はポテトチップスの袋とクッキーの箱も買ってレジへ進んだ。

 

 

「大丈夫です、私が持ちますよ」

 

「気にすんなよ。力仕事は俺に任せとけ」

 

 スーパーの帰り道、スズカの手にはお菓子が入った袋だけが握られている。

今度は彼の後ろではなく彼の隣に並んで歩く彼女は心配そうに彼を見た。

ニンジンの段ボールと他の食品を詰めた段ボールの二箱を両腕に抱えて歩く男。

足取りに危うさは感じないが、引き締まった表情から重さに耐えているのは明らかだろう。

 

 しかしスズカに重い物を持たせるのは宜しくないと思った彼は絶対に譲らない。

昔から頑固で親の言うことにすら偶に逆らっている男にこれ以上言っても無駄だと判断して、それ以降のスズカはまた一言「ありがとう御座います」とだけ言って隣を歩いた。

 

「それにしても、店員さんの数も随分と少なくなりましたね……あのスーパー」

 

「前は地元の高校生とかがバイトしに来てたんだけどな、今は高校の近くに色んな店とかが出来て、バイトしたい子はみんなそっちに持っていかれちまった。スーパーで働こうなんて物好きは定年退職したこの辺りの爺さん婆さんばっかりだよ」

 

「大変なんですね……」

 

「まぁ、あそこに限って忙しい日なんてものがないから動きの緩やかな年寄りでも安心して働けるんだろうけどな……っと、車か……スズカ、こっちに」

 

「はい」

 

 箱二つを抱えて前が見えない男は耳で遠くから聞こえる音を拾った。

先に気づいていたスズカは彼の言葉に従って、そそくさの道の端へと移動する。

車がさっと通過したらすぐさま彼の隣へと戻って会話を再開した。

 

「力仕事出来る人数も減ってるからなぁ、毎年の夏祭りも中止するかって話が出てるんだ」

 

「それは……寂しいですね。ちょっとだけ、楽しみにしていたので……」

 

「俺も屋台の手伝いをするって申し出たんだが、みんな予定が合わなくてな」

 

「そうしたら夏祭りの日は暇になるんですか?」

 

「ん……まぁそうなるな。……何処かに出かけるか?」

 

「そうですね……考えておきます」

 

 田舎道を歩く2人の頭上で鳶が鳴いている。

青空と雲の間を縫う様に、くるくると輪を描いて飛んでいる。

 

 

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