サイレンススズカの幼馴染   作:二次元の引き篭もり

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 去年の有馬までは勝ちが続いてたんですが、最近負け始めました…
ウマ娘の方は無償石でダイヤちゃん来て魔性に堕ちそう…。この調子でステゴ…もといキンイロリョテイさんとかマスクド三冠バ、カフェそっくりのアメリカウマ娘とか来てほしいですね。


五話「独り言の夜」

 

 夕食を終えて、ある程度の戸締り確認を終えた男はスズカに別れを告げ帰路についた。

山に囲まれた田舎の夜、春の終わりに山頂から降りて吹き抜ける風はまだ肌寒い。

彼はスズカと会う間ずっと我慢していた煙草を手に取って口に銜える。

 

 男が煙草を始めたのは、両親が吸っていたのがきっかけだろう。

初めは映画の俳優が魅せる演技に憧れてカッコつけたいという目的で。

それが後に自分で吸う煙草の匂いを嗅ぐと、死別した母との繋がりを感じるのだ。

止めるのが吉だと重々承知している。

けれど彼はそれを止めてしまったら最期、繋がりを自分の手で完全に絶ってしまう気がして、それが嫌で煙草を止められずにいた。

 

(―――あぁ、不味(まじ)ぃ)

 

 煙を肺まで吸って、ぼはぁと息を吐くと口の中に苦味と辛味のダブルパンチが広がった。

口を窄めて吐き出す濁った煙を夜空に向けて吐き出すのは男の癖である。

こうすれば天国で煙草を欲しがっている母の下に、幼い頃の自分がそうだったように煙草の匂いを届けられるんじゃないかと思った時があったのだ。

 

(我ながらメルヘンチックというか…)

 

 そんな事を心で呟きながら頭に思い浮かべるのは久しぶりに会った年下の幼馴染のこと。

スズカを初めて見た時、男はぼけっと空を見上げて左回りに歩く彼女を変な奴と思った。

ウマ娘にそういった癖があると男が知ったのは大分後のことである。

 

 ウマ娘だし、変な奴だけど、年下の女の子だから年上の彼がしっかりしなきゃいけない。

目を離した隙に何処かへ消えてしまいそうな彼女を見守り、必要なら手助けをする。

最初男は両親に「そうしろ」言われたからそうしてきたが、いつの間にか「そうするのが当たり前」だと思うようになっていたのだ。

 

「……()()()()()()……か」

 

 久しぶりに出会って開口一番、彼女が言った言葉が男の耳に残っている。

それに対し男は茶化すように本音を少しだけ晒して「()()()()()()()()」と返した。

本当はあの言葉の後に「此処も、前とは違う」と言いたかった。

 

 少子高齢化社会、田舎特有の過疎化が着実に男の見る景色を侵食してきているのだ。

町おこしをやろうと考えたところで、此処に住むメリットがなければ意味は無い。

そう遠くない未来、地図からこの土地の名前が消えてしまう可能性も考えられた。

 

(……言える訳、ねえよなぁ……)

 

 男は当然のことながら、スズカにとっても、此処は愛しの生まれ故郷なのだ。

それが消えて無くなるなんて話を、怪我の療養に来ている彼女に話すべきではない。

心身を安めに来た筈が、逆に将来を不安にさせるような事があっては本末転倒である。

 

「―――けど、まぁ―――仕方ないこと、なのかねえ」

 

 誰にも聞かれる事は無いと知っていて、男は口から自然とその悩みの答えが出ていた。

物事には始まりと終わりがあるのは必然であり、土地の歴史に終止符が打たれるのは必定。

その時代に住んでいた人たちが嘆き悲しんだとしても、数十年経てば記憶から薄れていく。

それはきっと、男がスズカに抱いていた、淡い想いと同じように―――

 

「――――――っだあ~やめやめ!メンドくさいこと考えるもんじゃねーわ」

 

 男は苦笑して再び煙草をぐっと吸い込み―――

吸い方が下手糞で、喉の器官の変なところに入ってゲホゲホと咽込んだ。

 

 

「―――あったかい」

 

 男が帰った後、居間で点けっぱなしだったテレビを消したスズカは暫く夜の自然の音を楽しんでいたが、帰る前に男が用意してくれた風呂が沸いた音に気づいて、少し考えてから早めに湯船に浸かることにした。

 

 湯気の立つ浴槽の中に体を沈め、スズカは頬を紅潮させて耳を頻りに動かす。

お湯の中で水に濡れた尻尾を動かすのは至難の業だが、夕食後の満腹感とお湯に浸かった時の解放感で溢れんばかりの喜びを表現するのにウマ耳だけでは物足りない。

 

 ぱちゃ、ちゃぷと尻尾の揺れでお湯が波打っている。

スズカはこのまま目を閉じていたら、思わず眠ってしまいそうな気がした。

今や世間から注目を浴びるトップスターのウマ娘が、帰省中の実家の湯船で眠って溺死なんて前代未聞の騒ぎになるだろう。

 

「…そうだ、トレーナーさんに言われてたアレを…」

 

 ふとスズカは帰省前に見送りついでに療養中の注意事項を説明してくれた彼女のトレーナーが言っていたことを思い出す。

走るのは基本的にNG、どうしても走りたい場合は事前にトレーナーへ連絡を取って、誰かに見守って貰いながら距離と時間を決めて走ること。

トレーニング等も厳禁、代わりに痛めた脚のマッサージは寝る前や起きて暫くしてから、日中でも定期的に行うこと。更に付け加えるなら入浴中のマッサージも望ましいと…

 

「…んしょ、っと…」

 

 浴槽に預けていた背中を起こし、スズカは言われた通りにマッサージを行う。

なるべく肩がお湯から出て湯冷めしないようにお湯に体を沈める。

 

 余談だがこういう時、胸にあまり突起物のないウマ娘はマッサージがし易い。

スズカはそのスレンダーな見た目から「最速の機能美」とまで言われている。

浴槽に浸かったままでのマッサージなどお茶の子さいさいであった。

 

(…リキ君のご飯、美味しくて食べ過ぎちゃったな…)

 

 買い物を終えて、帰ってきてから彼が振るってくれた料理は絶品の一言に尽きる。

トレセン学園のカフェテリアでも古今東西、和洋中なんでも美味な食事は食べれた。

でもスズカが夕食で堪能した料理は此処でしか味わえないもの。

 

(ああいうのを、おふくろの味っていうのかしら…)

 

 男の料理は幼い頃のスズカが彼の母親に作って貰ったものを寸分たがわぬ出来栄えだった。

ごく普通の一般家庭で出される煮物が、何かひと手間を加えているのか味が染みている。

肉料理がスズカにとって食べ慣れたもので、肉の厚さと焼き加減でタレも程よい味付け。

何の変哲もないお米が他で食べるものよりふんわりと柔らかくいつもより箸が進んだ。

 

「…フフッ、きっとリキ君に言ったら怒られちゃうかな…」

 

 恐らく彼の料理は彼の母直伝のレシピか何かを参考にしているのだろう。

だが幾らレシピ通りとはいえ、それを別の人が作れば必ずちょっと違う味になる筈…

それを母親のものとほぼ変わらない完成度で出せる男の家事スキルはちょっとしたものだ。

 

(…リキ君ってもう呼んじゃダメなのね…)

 

 スズカにはちょっと理解したがいことだが、男は君付けで呼ばれるのを好まなかった。

これからは呼び捨てにしなければならないというのは、ちょっと寂しさを感じる。

再会してスズカは美人になったなんてお世辞を言ってくれた彼を―――

 

「リキ…」

 

 呼び慣れない、筈なのに…呼び捨てにすることが寂しい反面、何故かとても心地よい。

スズカは気づかなかったが、名前を呼んだ時に尻尾がひと際激しく揺れたのである。

 

 

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