基本的に、胡桃の精神というものは安定している。彼女を真に知っている者なら、この評価に異議を唱えることないだろう。
彼女を理解できる者など、璃月にもそういない。
そもそもの話、神の目を保有している時点で並外れた感性や能力を持っているので、ある意味では例外ではないのだが。
生と死にあまりにも多く触れている胡桃を惑わすことなんて本来あり得ないことなのだ。彼女は安寧を求める訳でもなく、闘争を求める訳でもない。求めるものは均衡。生者と死者のバランスを保つことが彼女の葬儀屋としての役割である。
一向の行為は、平穏ではあったが、正常ではない。
異常な状況で、平穏な行為をする。この、異常な事態では均衡など保たれるわけがない。
異常の中では、異常な行為を。平穏の中では平穏な行為を。
宴は進むが、瘴気の中だ。
彼女が正気に戻るのは時間の問題であった。
彼女は、彼女の潜在意識は、その不均衡を許さない。
或いは彼女の心に住む何者かによるものか。
別に彼女自身のみで気付くというわけでもなく、彼女の持つ武具によるものも大きい。彼女の持つ武具は己の迷いを打ち消す為、炎をくべることにより上位存在の加護を得たと「認識」するために行われるある儀式をもとに作られた、儀式的には杖に近いものだ。そんなものを全力でぶん回すのは、命に対して深い見解を持つ彼女だからこそできる技であろう。
つまり、彼女にとっての炎は己を燃やし、さらなる力を得るためのものであると言える。炎ある所であれば、冥蝶の導きにより彼女は常に自分を持っていられる。
彼女を惑わしたければ、この世から炎というものを一つ残らず消し去るべきだったのだ。
ただし、常軌を逸する者は、その莫大な力を得る代償に周りからの理解を得られないのである。
「そこっ!」
胡桃は立ち込めている謎の煙の発生源を潰した。
宴会の喧騒は止み、一時の静寂が訪れた。
皆己の状況に気が付いたのだろう。住民が騒ぎ出す。
「なぜ貴様らファデュイ共と宴などせねばならんのだ!」
「この国を破滅させるのに失敗したら、今度は洗脳ときたか!薄汚い連中め!」
そう、先の渦の魔神の一件いらい璃月人は一層ファデュイを嫌うようになった。そしてここにいる彼らは国だけなく心までも支配しようとしたことに、激怒したのである。
「待て!そんな命令は受けていない!」
「我々の今回の任務は巡回。我々ファデュイの末端の監視だ!」
そんな弁解を聞き入れるわけもなく、場はかなり混乱してしまっている。
堂主にここは一時無視して無妄の丘を目指すか尋ねる。
「うーん、でも多分このままだと逆上したファデュイにここの人たちやられちゃうと思うよ。敵であることに間違いはないし、このまま倒してっちゃってもいいかなー。」
激闘。というほどでもないが、彼女は怒るファデュイを一人一人鎮めてていった。しかし、彼女はその特性ゆえ戦うとなるとどれだけ圧倒していようが、消耗は免れない。
そして、敵は常に都合の悪い時に現れるものだ。胡桃たちは戦闘に夢中で、周りを魔物に囲まれていることに気付がなかった。
堂主に伝える。あのオーラからして、望舒旅館を囲んでいたやうな、魔神の残滓に取り憑かれた物達だ。
「本当に間が!悪い!奴ら!」
戦闘を一時やめる胡桃とファデュイ。残り立っていたファデュイは一人だけ。
「おい!なんだよこれ!こんなモノ、報告されてないぞ!」
その場でうずくまるファデュイを無視し、胡桃は魔物と向き合った。
「装備も食料もそれほどは足りない。さっさと黒幕をたたかないと。」