蝶。炎のように   作:旅人さんた

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望み。叶うこと少なく

「自分を自分と認識されないままこの世から消え去る」ことを恐れているらしい。 

 葬儀屋の望みは、単純で、平凡だ。

 つまり、自分の親族に会いたいというもの。

 霊が見えようが、話せようが、彼女にとってはどうといったことではない。

 自分が最も会いたい人に会えない。彼女が抱えるものとは、つまりそんなよくある願いだった。彼女がこれまで弔ってきたいくつもの人間。これまでいくつもの人間。その最初の1人。周囲が彼女を認めるようになった第七十五代目堂主の葬式で、彼女はお爺さんに会うことはできなかったのだ。

 

 正しく成仏できたのは喜ばしい。生と死の境界に踏み込み、成果として神の目を得られたのも心強い。

 ただ、彼女は葬儀屋であり、ただの少女でもあるのだ。周囲が彼女を理解できないのは、彼女の行動故のことなので仕方がないが、そこに何の感情も抱いていないかは、本人すら知らないことだろう。

 とはいえ最近は、金髪の異郷人と仲良くしているところを見かけるので、完全に孤独というわけでもないようだが。

 

 

 

 

「ふむ、相性がいいのは確かだ。だが任せておくべきではないな。人の所業は人が、神に連なるものは神が始末をつけるべきだ。」

 そう言って、誰も知らぬ客卿は立ち上がる。

ちなみに、路銀の用意は済んでない。

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 金持ちの娘は金持ちと結婚させたいのは親の、子を想う愛ではある。

ただし、愛というのは必ずしも相手に受け入れられるわけではないようだ。

 多少は庶民のことを知っておかなくては、と様々な種類の子供が通う学校に入れたのが、間違いだったのかもしれない。結果として、少女はその学校に勤める、婚約済みの教師に恋をした。

 その婚約相手もかなりの金持ちで、親はすでに亡くなってしまっていたが、その教師に恩があり、婚約をこぎつけられていたらしい。

 

 相手の娘も教師のことを好いていたらしく、同時に、二人の娘は友人同士であった。片方は契約で結ばれた恋、片方は親に拒まれている恋。ここで教師が真に大人であったのなら、拒まれている娘をきっぱりと断り、素直に婚約相手と結婚するべきではあった。特にここは契約を重んずる国。婚約とて例外ではない。

 

 

 しかし、人の恋のなんと罪深いことか。拒まれていれば拒まれているほど、熱く燃え、惹かれるものである。そこに子供も大人も契約もなかった。

 二人が結ばれる方法はただ一つ、この国から抜け出し、誰も追いつかない異郷の地で暮らすこと。熱く燃えた二人は、手段など選んでる余裕はなく、速攻で段取りを決め、やがて逃亡した。

 

 

 だが、その駆け落ちは失敗に終わる。親が多額の金を千岩軍に払い、捜索依頼を出したのだ。実に、逃亡した次の日の朝に見つかってしまった。

 二人は悟る、このしがらみから逃れられることは絶対に無いと。

業を煮やした娘の父は、教師と会うことを禁じた。

 彼女は一晩中泣きじゃくり、翌日、

「今日一日、彼と過ごさせてくれたら、もう二度と彼には会いません。」

と懇願した。父親も悪気があってのことではない。

一連の行動は、娘のことを真に愛しているからであり、泣きはらした顔の娘に多少の同情を覚え、それを許可した。

 

 

 父親の口伝で、千岩軍の拘束から教師は解放された。娘の教師への愛は揺らぐことはなかったが、教師のほうはというと、今回の騒動にこり、別れる決心をしていた。千岩軍からことを伝えられた少女は、その場にうずくまった。

 彼女の慟哭は、その場にいるものは事情が分からずとも、胸を締めつけるほどの悲痛なもので、その光景を見ていた友人であり、恋敵である。

 

 少女は、一つの決心をする。

友のため、自分が身代わりになろうと。

 友人は、少女に、

「今夜、私があなたの姿になりすまし、一晩を過ごす。その間に逃げてしまえ。

一晩あれば、目の届かない場所にでも逃げられるだろう」

と、伝えた。

 

 

 少女は一瞬躊躇したが、彼とともにいられる喜びを思い、これに乗った。

 手筈としては、この後、少女は親の元へ向かい、彼と別れてきた。せめて気が済むまで話しかけず、寝かせておいてくれと伝え、部屋に入る。

 その後、窓から友人が部屋に入り、服を貸し、顔が見えないように毛布にくるまる。そして少女は家を窓から抜け出し、教師とともにこの国を抜け出すという、いかにも若き少女が思いつきそうな稚拙な手だった。

 二人はその場を解散し、少女は計画通り、父親に伝え、部屋にこもった。

 

 

 しかし、ここで少女の心に一抹の不安が生じる。本当にこの手でうまくいくのだろうか。すぐにばれ、見つかってしまうのだろうか。仮に成功したとしても、たった一晩でそんなに遠くまで逃げ出せるのだろうか。

 その不安は彼女に蛇のように絡みつき、心を縛り、どんどん思考を偏らせていった。

 

 

 翌日、緋雲の丘で、一人の少女の遺体が発見される。遺体はかなり損傷しており、身元の特定は困難であった。しかし、数日のうちに辛うじて残っていた服の一部と、千岩軍の聞き込み調査から、恋の成就が叶わないと悟った徳安公の娘だと決定された。




今回の後半の話は、実際に璃月で起きた殺人事件の設定を肉付けしたものです。知らない方がおりましたら、ぜひ実際に璃月の掲示板を読んだり、千岩軍に声をかけたりしてみてください。
youtubeで概要をまとめてくださっている方がございますので、手っ取り早く知りたい方は、そちらも御参考に
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