ここから無妄の丘近くの軽策荘まで移動だ。
直線距離ではには無妄の丘のほうが近いが、あそこは険しい山岳地帯なので、一度軽策荘を経由する必要がある。途中の竹林で休めば、問題はないだろう。
道中は、想像より魔物の数が少なかった。こんな状況だ。最悪隠れながら進まなくてはならないかと危惧したが、人も、魔獣も、ファデュイの連中さえ、姿を見せなかった。
なんとか竹林までたどり着いた。例によって、ここで一番注意しなけらばならないイノシシも姿を見せない。すると、堂主がなにやら険しい顔をする。
「この先、何が起きてても不思議じゃないよ。」
何が起きてても。などと、あいまいな表現なのは本当に堂主ですら判断ができないのであろう。
この先、といってもすぐそこは軽策荘だ。その軽策荘で、何が起きてても不思議じゃないとなると、そこにいる人たちは一体どうなっているのか。
石でできた階段を上がり、橋を渡ると、何やら人影があった。
ファデュイだ。
ここで面倒なことが起きた時のためにとヴェル・ゴレッドが渡してくれたモラを用意する。ファデュイがいる場合、戦うことのできる人がいないときは、モラを渡すのが一番面倒ごとにならなくてすむやり方だ。堂主にかかればどうってことないだろうが、これ以上消耗してほしくない。
と、袋に手をかけようとすると......
「ようこそ軽策荘へ!お疲れでしょう!どうぞこちらへ!」
鈍器で殴られたような感覚だった。
普段迷惑沙汰しか起こさない奴ら
氷銃を持ったファデュイ先遣隊は、にこやかな笑みでそう返してきたのである。
この怪しげな状況に、堂主はどう返すのかと思っていたところ……
「やー!元気そうで何よりだよ!美味しいご飯はあるかな〜?」
格の違いを見せつけられた。流石。堂主は動じないらしい。
とはいえ異常は異常なのだ。だって、ここまで歩いた道中で、まだ何も食べてなかったのだから、腹が減るのは仕方がない。それを不思議と思うなど、断食主義にでも走ったつもりか?もてなしてくれるのであれば、ありがたく受け取ればいいではないか。
そう考えると、目の前で開かれているパーティーに参加する。そこは老若男女も悪人聖人も、明るく楽しく笑い合える場所。
重い荷物などさっさと捨てて、楽しく明るく元気に過ごそうではないか。
そうして堂主と共に、旅の疲れを癒した。武器も遺物も、人が扱う物だ。どんなに立派な牙があろうと、戦意がなくては意味がない。
異常は正常によって判断が付くもの。異常の中では異常が正常である。悦を選んだ。
人間、誰しも辛い道より楽しい道を選びたがる物なのだから。