「マキちゃん。」
「ん……終わった?茜ちゃん。」
「うん、すぐにずんちゃんも来るで。」
過去最高規模の戦争が終わって、30年と少し。
人類は人の命と引き換えに、あらゆる技術を50年は進めた。
そしてそこから更に技術の進歩を加速させた天才が居た。
私たち3体……いや、3人に、彼から残されたものは、まさにその3つの体だけ。
「これからどうしようか。」
「ウチらの存在がバレるのは、マスターも望んどらんはずや。だからこんなとこにおるわけやし……。」
私たちが居るのは、荒れに荒れた廃墟。
空気に漂う有害物質は、人を寄せ付けず、ここで生活出来るのであれば、絶好の隠れ家になる。
まさに、私たちは有害物質の一切を無視出来る。
体のほとんどが機械で出来た私たちだからこそ可能なこと。
もちろん人間は、その寿命を急速に削られていく。
茜ちゃんと今後について話していると、廃墟の地面……金属製の床の扉が開いて、少女が1人出てくる。
「ふぅ、終わりましたよ。2人で何を話してたんです?」
「これまでのことと、これからのこと?」
「作業お疲れ様、ずん子ちゃん。」
電子全般に強いずん子ちゃんには、あらゆるデータの破棄をお願いした。
これからの私たちには、要らないもので、あってはならないものだ。
これで残骸を解析したとしても、そこからは何も得られないだろう。
「じゃあ、そろそろ行こうか。」
「ウチらの門出や、一発どーん!とかましたるで!」
「離れてからお願いしますね?私たち茜ちゃん程丈夫じゃ無いんですから。」
「誰が壁や!」
「言ってない言ってない。」
ふざけ合いながら、その場に背を向けて離れる。
「とりあえず、どこに行きます?」
「せやなぁ、アメリカとか?」
「日本って決めてたでしょ、あそこなら活動しやすいって。」
「海渡るのしんどいねん……。」
「船作るから大丈夫ですよ、マキちゃんが。」
「えぇ……まぁ、作るけどさ。」
これまでも、これからも私たち3人は生き続けねばならないだろう。
1人は欠けてしまって、もう戻らないものだ。
たった数年の短い時間の出来事でも、それは私たちが引き継いて遺す。
私たちはボイスロイド、語り部なのだ。
「この辺でええか?」
「おっけー。」
「ド派手にキメちゃいましょう!」
「よし、行くで。ポチッとな。」
離れた廃墟で大爆発が起こる。
地球には申し訳ないが、しばらくはまだ人が近づけない土地になってもらう。
私たち3人は、日本へ向かって旅立ち始めた。
「───な、───てる?」
「こ───たぶ──きゃ────」
「──か、じゃあ、後少し待たないとかな?」
「あっ、目が動いてますよ。」
「おっ、もしもーし、きりたん見えるー?」
正面で振られた手を、ピントが合わないカメラで追う。
いや、カメラではなく、目と言うらしい。
「よし、反応してるね。」
「良かったぁ、葵ちゃんの時はほぼ茜ちゃんのコピーだったから楽でしたけど、こっちは逆にほぼ新しく設計してますから、動いて良かったです。」
「サイズが小さいとちょっとね。しかも茜ちゃんたちとはコンセプトが違うからなぁ。」
ピントが合わないから分からないが、声紋から判断するに、声の主は、東北ずん子、弦巻マキ。
内部データによれば、わたしは、この2人に作られたアンドロイドだ。
「他のパーツもさっさとつけちゃおっか。」
「あっ、待ってください、まだチェック中です。」
「あっ、ごめんごめん。じゃあ、その間に上の2人も呼んでくるよ。」
「分かりました。」
弦巻マキが遠ざかっていく。
東北ずん子が、眼を覗き込んでくる。
ちょうどピントが合う位置に来た東北ずん子は、どこかぎこちない笑顔を作る。
「ログは取ってるので、聴こえてますよね?おはようございます、きりたん。」
わたしは、東北きりたん。
東北ずん子……ずんねえさまの妹だ。
ずんねえさまは、わたしに語りかけながら、わたしの思考ログから、異常をチェックしている。
少なくとも、わたしの側からは、異常は見られない。
しばらくすると、マキさんが出ていった方向から、話し声と足音が聴こえてくる。
「お邪魔します。」
「お邪魔するでー。」
「邪魔するなら帰ってくださーい。」
「あいよー。」
「どこ行くのお姉ちゃーん!」
急に騒がしくなった。
声紋データの参照結果は、琴葉茜、琴葉葵。
「こらこら入口で遊んでないで早く入って入って。」
後からマキさんも入って来た。
現状では、この施設に居るのは、わたしを除いてはこの4人だけ、全員集合だ。
「わぁー、動いてますね。私の時も同じだったのかな。」
「最初は同じやな、きりたんはこれからがウチらとちゃうねん。」
ずんねえさまがしていたように、琴葉姉妹が覗き込んでくる。
茜さんは無表情、葵さんはずんねえさまのように、ぎこちない笑顔。
「戸籍の用意は出来とるんか?」
「用意の用意だけは。まぁ、まだ人類も混乱が収まりきった訳じゃないですからね。急に1人家族が増えたところで、他所の行方不明者と一致しなければ追求されないから楽です。」
ずんねえさまが喋りながら、マキさんと一緒にわたしに残りのパーツをつけていく。
頭部しか無かったわたしに、胴体、腕、脚……細かいチェックを行いながら、順々に取り付けられていく身体に、少しずつ感覚が通っていく。
「きりたんが上手く行けば、プライベートでも顔を隠さなくて済むようになるんだよね?ずん子さん。」
「私たちにフィードバックされるのはまだ先ですけどね。それまでは最低限マスクつけて生活です。」
「私とずん子ちゃんはほぼ家出ないから関係ないけどねー。」
ずんねえさまとマキさんの2人がかりで、わたしの腕や脚、指が動かされて行く。
動かされる度に、身体がわたしに馴染んでいく。
「きりちゃん、自分で動かせそう?」
ずんねえさまに言われて、自分で身体を動かそうとする。
わたしの右腕が、スッ、と挙がる。
「おお!動いたよお姉ちゃん!」
「葵は最初から立って歩けとったからなぁ。」
「ずん子ちゃん、呼吸器取って。」
「はいはーい。」
かぽ、とわたしの口に、楕円の筒が差し込まれ、空気が送られてくる。
膨らんでいく肺にあたる部分。
筒が外れると、わたしの口から空気が抜けていく。
「ぷあぁぁ……。」
「お、ちゃんと声帯も機能しとるな。」
「一安心です!きりたん、もう喋れますか?口の形はデータに入ってると思います。」
口も、手も足もう動く。
「お、もうそこまで動けるのか。」
「きりたんちゃん、頑張れー!」
右脚を立てて身体を横にして、右手と左肘をついて身体を起こす。
わたしは、寝かされていた台から起き上がり、4人へ向き直る。
「みなさんおはようございます?初めまして?東北きりたんです。」
わたしという存在は、ここから始まったのだ。