中抜き行進曲~アイドルファンですが、アイドル事務所社長に転生してしまいました   作:ひいちゃ

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#01『ニャン、降臨!』

 俺はなぜ、こんな人に転生してしまったんだろうか?

 弱小芸能事務所『中貫(なかぬき)事務所』で、秘書の比初子と一緒に電話対応に追われながら、俺はそんなことを考えていた。

 

 アイドル動画を1週間徹夜で見通す、という馬鹿なことをやっていた俺は、気が付いたら、この事務所の社長に転生していた。

 おそらく、睡眠不足が祟り、急病になって、死んでしまったのだろう。

 

 それにしても、なんでこんな弱小事務所なのか。せめて、7〇5プロとか、そんな大きい事務所だったらよかったのに!

 

 そう叫びたくなる俺を誰も責められまい。だって、弱小なんだから。

 何しろ、アイドルが一人もいない! お金もない! そして、スタッフは秘書とスカウトスタッフ一人だけ! まさにないない尽くし!

 

 それでも事務所の維持費もいるし、秘書やスカウトスタッフの給料も払わなければならないし、俺自身も稼いでご飯を食べなければならない。

 

 この事務所をたたむことも考えたが、秘書やスタッフの、アイドルマネージメントにかけるキラキラした瞳を見ると、思わず躊躇してしまう。

 

 仕方ない。やれるだけのことはやるとしようか。

 

 俺はさっそく、この事務所ただ一人のスカウトスタッフ、美瑠目梨人(みるめ・なしと)に言った。

 

「おい、さっそくアイドルの卵を見つけてきてくれ」

「はい、今すぐに!」

 

 美瑠目は目をキラキラさせ、炎のようなオーラを出しながら事務所を出て行った。

 

 こら、美瑠目! 乱暴にドアを開けるな! 修理をするお金はないんだぞ!!

 

* * * * *

 

「はぁ、また落ちた……」

 

 私、松浦弐也子(まつうら・にやこ)は、ビルを出ていきなり、そうため息をついた。

 

 高校を出るなり、アイドルを目指して上京してはや一年。あちらこちらの芸能プロに面接に行っているが、何かが足りないのか、一度も受かったことがない。

 

 バイトをして食いつないでいるが、ギリギリの生活でもうやばい。何しろ、生活費と、アイドルのための費用でもう給料を全部使ってしまうのだ。他のことに使う余裕なんて一切ない。

 

「何が足りないのかなぁ……」

 

 そう自問自答ながらとぼとぼ歩く帰り道。ふと歌ってみる。うん、歌声はきれいなんだけどなぁ……だけど、すれ違う人がみんな顔を不快そうにゆがめるのはどうしてなんだろう?

 

 それはともかく、限界が近づいている。生活はギリギリだし、親からも「もういい加減諦めて早く帰ってこい」と言われてる。

 もう、親の言う通り、アイドルの道はあきらめるしかないのかなぁ……。

 

 私がそう思って歩いていると、私に気が付いた男の人が、私に駆け寄ってきて、あいさつより先に名刺を渡してきた。え、え?

 

* * * * *

 

「社長、アイドルの卵を見つけてきましたっ!!」

 

 美瑠目をスカウトに送り出して10分後。美瑠目がアイドル候補らしい子を連れて戻ってきた! 勢いよく。

 

 もう見つけてきたのかよ、早いよ! それと、ドアを乱暴に開けるなと言っただろ!

 

「あ、あの……松浦弐也子と言います。ここでデビューさせてくれると聞いたんですけど……」

 

 連れてきた子は、顔は……まぁ、中の上、アイドルとしては標準ってところで、どこかバスガイドっぽい服装を着た女の子だった。……なぜにバスガイド?

 でもまぁ、声はかわいいからアイドルとして成功できるかもなぁ。

 

「お、おう。俺がこの中貫事務所の中貫頂(なかぬき・いただき)だ。とりあえずは歌声をみたいと思うから、一曲歌ってみてくれるか?」

「は、はいっ」

 

 そして、弐也子という彼女はさっそく今はやりの歌を歌いだした。……うん。

 

「ど、どうだったでしょうか?」

「うーん……」

 

 正直……微妙。歌声は素人にしてはきれいなのだが、音程がちとよくない。これもしかしたら、彼女の歌を聴いた人たちみんな顔をしかめてたんじゃないのか?

 

「だ、ダメですか?」

「……」

 

 た、頼む。目に涙を浮かべないでくれ。俺は女の涙に弱いんだっ。というか美瑠目も一緒になって、目に涙を浮かべて乗り出すんじゃない!

 

 うーん……。とはいえ、歌声はきれいだからな。音程を矯正すれば、化けるかもしれない。

 どっちにしろ、もう新しい子を雇うお金の余裕はないんだ。腹をくくろう。

 

「正直、厳しいものがあるが……」

「そうですか……」

 

 あっ、こら、立ち去る準備をするんじゃない。美瑠目も辞表をもって立ち上がろうとするな!

 

「厳しいものがあるが、だが磨けば光るかもしれん。アイドルになるまでは厳しいが、その覚悟があるなら、採用するがどうする?」

「や、やります! やらせてください!!」

 

 かくして、彼女の事務所入りが決まった。

 

「さて、とすると、まずは芸名をつけてやらないとな。うーん……」

 

 少しでも人気が出るように、芸名はかわいいものをつけてやりたいな。

 

 うーん……。

 

 うーん…………。

 

 よし。

 

「これから君の芸名は、松浦ニャンだ!」

「ありがとうございます。よろしくお願いします!」

 

 こうして新人アイドル、松浦ニャンが誕生した!!

 

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