中抜き行進曲~アイドルファンですが、アイドル事務所社長に転生してしまいました 作:ひいちゃ
さて、我が事務所最初のアイドル(候補生)『松浦ニャン』が誕生した、
とはいえ、このままデビューさせるのははばかられる。とりあえず、スマイルレコードと契約させて、まずはボイストレーニングを積ませる。
ボイストレーニングばかりの毎日で気がめいったか、それとも飽きてきたのか、ニャンはこんなことを言いだした。
「あの……社長。ボイストレーニングばかりで飽きてしまいます。もうそろそろデビューしたいんですけど」
「お前がそれを言うか。そう思うなら、これを聞いてみろ」
スマホから、録音しておいた歌を流して聞かせてやる。流れるのは、声はきれいだが、音程がめちゃくちゃな歌だ。この前、ニャンに歌わせたものを録音した奴だ。
それを聞いて、やはりニャンは表情を少し歪ませた。
「うわ、この歌誰のですか? ちょっと音痴なんですけど」
「お前のだよ」
「えぇっ!? ……お世話になりました」
こら! 早々と自分の才能に見切りをつけて事務所を辞めようとするな!!
お前に逃げられたら、うちにはもう後はないんだぞ!!
* * * * *
あまりにも自分の音程のひどさに才能の限界を感じて、アイドルの道をあきらめようとした松浦ニャンですこんにちわ。
事務所をやめようと立ち上がったら、社長さんが必死な顔つきで、腕をつかんでまで私を引き留めようとしてきました。
「確かにお前は音痴だ! アイドルになるのは無理なほどの!」
「はい、そうですね。ですからこれで諦めます。今までありがとうございました」
「だから、早々と諦めようとするなああああ!! 確かにお前は音痴だが、それでも、『うちで』トレーニング済めば、十分にアイドルとしてやっていける!」
あの……社長さん。どうして『うちで』を強調するんですか?
それからも、社長さんやスカウトさん、秘書さんに説得されて、結局アイドル目指すのを続行することにしました。
でも、社長さんの言う通り、ボイトレを積んでいくうちに、確かに音程もかなり矯正されていく気がする。
そうそう、営業も初体験しました!
商店街とかスーパーの商店街で歌い踊っていると、やっぱりアイドルって感じがします! やっぱりアイドルはじめてよかった! ボイトレのおかげか、お客さんが顔をゆがめることもないようだし!
でも、営業に行くたびに、集まるお客さんが、中年や年寄りばっかりなのはなんでなのかなぁ……?
* * * * *
ニャンがうちの事務所に所属してから、1ヶ月が経った。
もともと才能(のカケラ)があったからか、彼女は地道に少しずつ腕を上げていった。音程も、普通の人ぐらいには矯正されている。
……もうそろそろやってみるか。
俺は、ボイトレに励んでいるニャンに言ってみることにした。
「なぁ、ニャン。そろそろファーストシングル出してみないか?」
「え?」
ニャンはいきなりでびっくりしたのか、しばし硬直した後……。
「え、い、いいんですか!? やりたいですやりますやってやります、いやむしろやらせろです!!」
だからそんな、すごい勢いで突っ込んできて迫ってくるな! 怖いんだよ!
お前も、美瑠目が映ったのか!?
何はともあれ、ニャンのファーストシングル作りが始まった。
うちには作詞作曲できるスタッフがいないので、募集して集まってきたバックバンドメンバーの中で、作詞作曲が得意そうな奴にやらせてみる。お金はかかるけど仕方ない。
ニャンを見ていると、作詞作曲ができるほど学があるように見えないからな。
「社長? 何か今、失礼なこと考えていませんでしたか?」
「い、いや、なんでもないぞ」
そしてレコーディング。うん。アイドルの歌としては及第点と言えるだろうデキだ。
ここからだな。
そして……。
松浦ニャンのファーストシングル……。
『親友だと思っていたのは自分だけだった』
がリリース! 松浦ニャンがついにデビューを果たした!!
「社長さん! なんですか、そのタイトルはぁ! 歌詞もですけど!!」
一瞬の気の迷いだ、気にするな。
「気にします!!」