ダンガンロンパ ルーナ   作:さわらの西京焼き

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自由行動編です。









(非)日常編②

 

 

 

 

 

 

 

新エリアの探索を終えた俺達は、改めて食堂に集合していた。

そこには、探索に参加しなかった結城や綾辻もいる。

「それじゃあ、グループごとに探索結果を報告してもらうんだけど………。まずは僕の方から話をさせてもらうね。僕は桃林さんの個室に言って色々話をしてきたんだけど………。彼女、まだ外に出たくないんだって」

「ほっとけよ、あんなデブ」

円城寺は全員にお茶を淹れながらそう呟く。

「どうせ『いつかワタシを殺すつもりなんだす』とかいってんだろ?なら俺らが何言っても無駄じゃねえか」

「だめだよれいや!りんごもともだちなんだからたすけてあげないと!」

「へいへい」

「だから僕は引き続き桃林さんを説得してみるよ。彼女、どうやら僕以外の人と話すつもりはないみたいだからさ」

困ったように笑う結城。

桃林はどうやら、結城を含め全員と顔を合わせたくないらしい。

昨日あんなことがあったし、無理もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから彼女のことはひとまず心配しなくて大丈夫だよ。じゃあ次は………円城寺君達のグループから順番にお願いしていいかな?」

「ああ。………俺達は無駄にでけえ建物の1階にあるプールを見てきた。更衣室は脱衣所と同じで、入る時はパスポートをかざす必要がある。けど、プール側から更衣室に入る時はパスポートをかざす必要がねえらしい。要するにプール側からは異性の更衣室に入り放題ってわけだ」

「な、なんですのその欠陥設計は!?そうしたら穢らわしい男子共に覗かれてしまう可能性があるって事ですわよね!?」

佐々木はキッと写実を睨む。

「写実サン!アナタみたいな犯罪者予備軍は覗く可能性が極めて高いですわ!だから今後、アナタはプールに近づくことを禁止しますわ!!」

「な、何故でありますか!?こんなにも清らかな心を持った某が覗きなんてするはずがないであります!」

「どの口が言ってるんですの!!」

「某にもプールを使用する権利はあるであります!!」

ギャーギャー騒ぐ2人。

ここでさっきの不審な行動を報告してもいいんだが………。

また面倒なことになりそうだし、後でにしよう。

 

 

 

 

 

 

「お、落ち着いて2人とも。ひとまずプールの利用方法についてはまた後で話し合おう。円城寺君。報告の続きをお願いしてもいいかな?」

「はいはい。………っても後は大した報告はねえな。更衣室の先にはでけえ25mプールがあったのと、プールがあるエリアは2階が観客席になってるってくらいか」

「ボクは用具室見たけどー、特に収穫なしかなー。ビート板とか泳ぐのに使う道具ばっかりだったー。つまんないのー」

飛鳥が退屈そうに報告する。

「あと一つ注意だ。プールの水深は思った以上に深え。身長が小せえ奴はつま先が届かねえかもしれねえから注意しろよ」

「溺れないようにしないとねー?」

「………………」

ケラケラ笑う飛鳥にこめかみをピキピキさせる円城寺。

さっきの事、全く反省してないなアイツ………。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ次はうちらやね。うちらはプールの奥にある体育館を見てきたで」

次は薬師院達のグループの報告だ。

代表して薬師院がのんびりと口を開く。

「体育館は普通の大きさやね。バスケゴールが付いたコートが2面ある形や」

「とっても広いデース!バスケ、沢山出デキマスヨー!ワターシ、くノ一サンとバスケしてマシター!」

興奮した様子のハルク。

「うむ。ばすけという球技、非常に奥が深いでござる。ハルク殿には色々教授してもらい申した」

「え!はるくばすけできるの!?ちひろにもおしえて!

「勿論デース!ピアニストサンも一緒にトレーニングしまショー!」

「わーい!」

どうやらあの2人、今度バスケを一緒にやることにしたようだ。

あの元気は一体どこから来るんだろうか。

 

 

 

 

 

 

「体育館には他に舞台がありました。袖には天井に吊るされたワイヤーを下ろすハンドルが2つあります。この2つは下ろすのに相当な力がいるので、女子には無理だと思います。まあ普段の生活で使うことはないでしょうが」

早く帰りたそうな八尋が淡々と説明をする。

「舞台なんかあんのか!なら劇でもやろうぜ!!」

舞台という単語を聞き、何故か雷哉が目をキラキラさせている。

「誰が脚本作るんだよ………」

「それはもちろんオレだ!」

絶対失敗する。断言してもいい。

「じゃあ最後に、俺と不知火のグループの探索結果を報告する。………俺達はさっきみんなが言っていた新エリア全体を回ってみた。が、特に脱出に使えそうなものや手がかりはなかった」

「…………夢寺様」

すると何故か綾辻が俺を訝しむような目でこちらを見ていた。

「ど、どうした?」

「不知火様と2人で探索されたということですが………何もありませんでしたよね?」

随分と抽象的な質問だ。

「ん?いや、2人で雑談しながら探索はしたが特には………」

「無かった、ということでいいんですよね?」

「あ、ああ………」

言葉に圧を感じる。表情はニコニコしているが目は全く笑っていない。

………何だ。俺は何か悪いことをしたのか?

「澪、蓮がビビってるぞ。気持ちは分かるがそこまでにしとけや」

「えっ!?そ、そんなつもりは………!夢寺様!私は決してそんな怒ってなど………!」

「わ、分かった。よく分からないが俺は大丈夫だ」

円城寺が止めてくれたお陰でなんとか危機は脱した。

が、一体何だったんだろうか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、ではまだ某らはこの中で生活するのでありますね………」

すると、写実がポツリとそう呟いた。

その言葉に全員が落ち込む様子を見せる。

希望の見えない生活がまだ続く。

その事実が俺達の不安を一層大きくする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「諦めちゃ駄目だ!」

そんな俺達に対して、結城が励ましの言葉をかける。

「まだもしかしたらどこかに隠されているのかもしれない!それに前回はモノワニがどういったことをしてくるか分からなかったから殺人は起きてしまったけど、今は違う!僕達は今こそ一致団結してコロシアイに抗うんだ!そうすれば必ずモノワニに勝てる!」

「そうだよ!千尋たちでものわにやっつけちゃおう!!」

「ワターシも体張って頑張りマース!みんな笑顔でここ出マショー!!」

「ま、確かにまだ諦めるには早えな。俺らであのクソワニに吠え面かかせてやろうぜ」

「そうですね。これ以上モノワニに翻弄されるのはごめんですから」

凄いな。

言葉一つでこんなにみんなが団結するものなのか。

流石はリーダーだ。

「蓮!オメーもやる気だせよ!オレらであのワニをぶっ飛ばそうぜ!!」

雷哉が俺の背中をバシンと叩く。

「痛ってぇ………お前に言われなくても分かってるよ」

「ふふ………皆様の気持ちが一つになるのを感じますね」

綾辻が嬉しそうに笑う。

そうだ。俺達は負けてない。

今度こそ全員で団結して、モノワニの支配から脱却するんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝。

 

 

 

いつも通り寝不足の俺は、重い足取りで食堂へと向かう。

「あら夢寺サン。今日もしけた面をしていますわね。アナタのその顔を見ているとわたくしまで気分が落ち込んでしまいますわ」

中に入るといつも通り佐々木から嫌味ったらしいことを言われる。

「はいはい。悪うございました」

「ちょ………なんですのその雑な返しは!?」

「朝からお前と喋るとカロリー使うんだよ。頼むから少し静かにしてくれ」

「な、なんですって………!」

「夢寺はんの言うとおりやな。逆に朝からなんでそんな煩い声で喋れるのか教えて欲しいわ」

席に座る薬師院がお茶を飲みながらそう言った。

「うるさいですわこの性悪女狐!元気なのがわたくしの取り柄なんですの!」

「でも裁判の時大泣きしながら夢寺はんに助けてもらってたで?」

「な、泣いてなんかいませんわよ!話を盛らないでくださいませ!」

「朝からうるせえ!!黙って飯待つこともできねえのか!!!」

「ほら怒られた。佐々木はんのせいやな」

「アナタのせいでしょうが!!!」

最近の朝食は常にこんな感じだ。

佐々木がギャーギャ騒ぎ薬師院と喧嘩する。

周りはそれを傍観している。

元気なのはいいことだが、出来れば少しは静かにして欲しい。

特に佐々木のキンキン声は寝不足の頭に響いてくるからな………。

 

 

 

 

 

 

 

朝食終了後。

自由行動となった今、俺はどうするべきか考えていた。

「さて、ここから何をしようか」

幸いにも時間は沢山ある。

誰かと過ごすか、それとも個室で1人で過ごすか………。

俺はひとまず、中を歩き回ってみることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれー?はとのお兄さんじゃーん?何してるのー?」

廊下を歩いていると、向こうから歩いてきた飛鳥に出くわした。

「いや、何しようかなって考えてる最中だ。飛鳥は?」

「んー?ボクは今から次仕掛けるイタズラの仕込みをするところー」

仕込みって………。相変わらずイタズラ好きなんだな。

「そうなのか」

「そうだよー。だからボク忙しいんだー。じゃーねー」

「あ、待ってくれ飛鳥」

すぐ立ち去ろうとする飛鳥を俺は呼び止める。

「んー?なにー?」

「良かったらその仕込み、俺にも見せてもらってもいいか?」

「えー?何でー?」

「飛鳥とはあまり接点がなかったからな。せっかくの機会だし、普段どんな生活してるか見せてもらったり、色々話して仲良くなれたらいいと思ったんだが………駄目か?」

「…………………」

飛鳥は一瞬真顔になった。そして、

「まー別にいいけどー。けどそのかわり邪魔しないでねー」

意外と素直に了承してくれた。

「悪いな。急にお願いして」

「けどはとのお兄さんも変わってるねー。ボクみたいな変わり者より他の人と仲良くなった方がいいんじゃないのー?」

「そうか?別に変わり者ってほどでもないと思うけどな」

「………ふーん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛鳥と一緒に向かったのは食堂だった。

「食堂で何するんだ?」

「材料の調達だよー。今回作るのはー…………唐辛子爆弾だよー」

「と、唐辛子爆弾………!」

なんと恐ろしい兵器だろうか。

そんなものをまともに食らったら………。

「ほ、本気か飛鳥………」

「当然でしょー?」

当たり前だという風に返答し、厨房に入っていく飛鳥。

そして唐辛子をありったけ袋に詰めていく。

「よーし。これくらいでいいかなー。じゃあボクの個室に行くよー」

「個室でやるのか?」

「当たり前じゃーん。だってこんなところで作ってたらユーレイのお兄さんに見つかっちゃうもんー。それに道具とかも全部個室にあるしねー」

確かに、円城寺なら真っ先にキレながら止めるだろうな。

「よーし。じゃあ行こうー。はとのお兄さんこれ持ってー」

「あ、ああ………。」

何故か唐辛子だらけの袋を持たされた俺。

これ、円城寺に見られたらマズくないか………。

 

 

 

 

 

 

幸運なことに、円城寺を始め誰とも会わずに飛鳥の個室に着くことが出来た。

中に入ると………そこは散らかり放題の部屋だった。

得体の知れないものや用途の不明な物が散乱している。

「じゃあそこ座って大人しくしててねー。ボク今から唐辛子爆弾作るからー」

飛鳥はそう言うと、テーブルに座り込み作業を始めてしまった。

集中しているのか、一言も発しない飛鳥。

俺は邪魔になってしまうと思い、言葉を発さずに彼女の作業を見守っていたのだが………。

「ねーはとのお兄さん」

「ど、どうした?」

急に声をかけられ俺は一瞬反応が遅れる。

「ボクと話したかったんじゃないのー?なんでずっと黙ってるのー?」

「いや、飛鳥今作業に集中してるだろうから邪魔になんないように黙ってたんだが」

「別にいいよー。というか寧ろ喋って欲しいんだけどー。ずっと黙って作業見られる方がボクも落ち着かないもんー」

言われてみればそうだ。

「分かった。そうだな………じゃあ飛鳥の才能の話とか聞かせてもらってもいいか?」

「才能ー?ボクの話超つまんないけどー」

「別に構わない。つまんないか判断するのは聞き手である俺だからな」

「ふーん。ならいいけどー」

飛鳥は作業しながら話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボク、物心ついた時からホームレスが集まる貧民街みたいなところにいたんだー。多分親に捨てられたんだろうねー。そんなボクを見た周りのおじさん達は、みんなボクのこと心配したり優しくしてくれたんだけど…………生活は当然苦しかった。だからボクは小さな体を生かして盗みを始めたんだよー。生きるためにねー。それがいつの間には注目されて警察に追っかけられるようになってーついには捕まっちゃったー。けど何故か希望ヶ峰に入れって言われたからー仕方なく入ったんだー。はいおしまいー」

「…………」

俺は彼女の境遇に何と言っていいのか分からなかった。

飛鳥は淡々と話をしていたが、相当過酷な人生だったに違いない。

「………両親のことは恨んでないのか?」

「別にー。だって顔も覚えてないもんー。まあ何考えてたんだか知らないけどさー、子どもを貧困街に捨てるくらいだから相当のクズ親なのは間違いないだろうけどねー」

捨てられた本人からすると、どんな事情があろうともその『捨てられた』という事実に変わりはない。

クズという印象を持たれても仕方ないだろう。

「どれくらいの期間警察に追われてたんだ?」

「んーとね…3年前くらいかなー?ちょうど中学生くらいの年齢じゃなーい?まあボク中学行ってないけどー」

「漢字とかそういった基礎的な学力ははどうやって身につけたんだ?」

「貧困街のおじさんが教えてくれたー。元教師だったらしいよー」

「そうか………」

学校すら行ってないのか。

日本にもそんな場所、そしてそんな子ども達が飛鳥の他にも沢山いるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

「ちょっとー。そんなしけた面しないでよー」

俺が俯いた顔を上げると、飛鳥が少し怒ったような表情でこちらを見ていた。

「ボク別に今の人生楽しいしー、昔だって別に嫌じゃなかったよー。だからボク、勝手にボクの境遇聞いて勝手に同情してくる奴って一番嫌いなんだよねー。ホント何様って感じー」

「………悪い。そういうつもりは無かったんだ」

「まー別にいいよー。はとのお兄さんはバカみたいにお人好しだしー、ボクはこの話始めた時から今みたいな顔するんじゃないかって予想してたけどねー」

いひひといらずらっぽく笑う飛鳥。

「まーボクの話聞いて同情しない人の方が珍しいけどねー。例えばユーレイのお兄さんとかー」

「円城寺にも話をしたのか?」

「まあねー。そうしたら『んだそりゃ。しょうもねえ話だな』って言われたんだー。ボクびっくりしたよー。そんなこと言われたことないからさー」

…………確かにアイツなら言いそうだな。

「そういえば、飛鳥と円城寺は結構仲いいよな?いつかはそんな仲良くなったんだ?」

「んー?ボクが朝ごはん盗もうとして怒られてからかなー?なんか身近にああいうストレートに怒鳴ってくる人いなかったから新鮮でさー。面白いから最近はしょっちゅうイタズラ仕掛けにいってるよー。ユーレイのお兄さん、反応が面白いから仕掛けるの好きなんだー」

どうやら飛鳥は円城寺に構ってほしくて一緒にいるらしい。

円城寺も文句を言いながらも満更でもなさそうだから、きっと2人は意外と相性がいいコンビなのかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

「そうだ。はとのお兄さんにお願いがあるんだけど」

「お願い?」

俺が聞き返すと、飛鳥は作業していたものを俺に向けてきた。

「丁度出来たからさー、この唐辛子爆弾の実験台になってよー」

「ちょっと待て。なんで俺が」

「あれー?さっきボクに同情してボクの気分を害したのは誰かなー?」

「うっ………」

そこを突かれると俺は何も言えない。

「はい、決まりねー。じゃあほらー投げるよー。どーん」

「ま、待て!まだ心の準備が………うっ!?うがああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

顔にモロに喰らった俺は、この世のものとは思えない叫び声を上げ、しばらくもがき苦しむことになった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唐辛子爆弾を喰らい死にかけた俺は飛鳥の部屋を出た後、大浴場へと来ていた。

実を言うと俺はかなりの風呂好きだ。

湯船に浸かると疲れも取れるし、心が安らぎ浄化された気分になる。

時間がある日は1日2回風呂に入る、なんてこともざらにある。

「…………やっぱり風呂はいいなぁ」

誰もいない大浴場でそう呟きながら俺は天井を見上げる。

正直、前回の事件の現場が大浴場(男子ではなく女子の方であるが)だったため、一瞬ここに来るのに躊躇いがあった。

が、そんなことを言っていたら一生風呂には入れなくなってしまうため、俺は割り切ってここに来ることにした。

「…………夢寺か?……………………」

すると大浴場の扉が開き、天草が入ってきた。

「天草か。お疲れ。よく大浴場で会うな」

確か前も大浴場で会った気がする。

「………そうだな。夢寺は風呂が好きなのか?…………」

「ああ。天草もか?」

「………自分も同じだ………。特にこの時間の風呂は好きなんだ…………」

「俺と全く同じだな」

天草は俺の言葉に微笑を浮かべると洗い場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「…………隣いいか?…………」

しばらくすると、全身を洗い終えた天草がそう声をかけてきた。

「ああ」

「………失礼する…………」

俺が返事をすると天草は静かに湯船に浸かった。

「そういえば天草、体調の方は大丈夫なのか?」

「…………ああ。ようやく本調子に戻ってきたところだ…………」

「そうか。それはよかった」

裁判終了後に鳴らされたチャイム。

あの音によって天草は次の日に寝込むほど体調を崩し、俺も酷い頭痛に襲われた。

あのチャイムの正体は未だに分からないままだ。

「………夢寺こそ大丈夫だったか…………?」

「ああ。俺はその日に寝たら治ったから天草に比べたら全然軽傷だと思う」

「…………そうか…………」

すると天草は何かを考え込むような仕草を見せた。

「どうした?何か気になることでもあるのか?」

「…………夢寺。君は寝ている時何か変な夢を見たりしたか………?」

「いや、俺は特に夢は見なかった。天草は夢を見たのか?」

 

 

 

 

 

 

 

「…………自分の中にもう1人の自分がいたんだ…………」

俺の質問に対し天草はそう答えた。

「もう1人………?」

「…………気がつくと目の前に自分がいた。…………けどそいつは自分と口調も仕草も全く違ったんだ…………。そしてそいつが自分の意識を乗っ取ろうとしていた…………そんな夢を見た…………」

天草は途切れ途切れに言葉を紡ぐ。

「姿形は天草だけど、人格は全く違う…………いわば()()()()みたいな状態だったってことか?」

「…………そうだ。当然、自分にそのような心当たりは一切ない。…………だから正直不安なんだ…………」

天草はそう言うと、静かに天井を見上げた。

自分じゃない何かが自分の体を乗っ取ろうとしている。

そんな夢を見てしまったら不安に思うのは当然だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫だ、天草」

俺は心配を取り除いてあげたい思いでそう言った。

「………夢寺…………」

「結局それは夢だろ?実際に今も天草の人格を乗っ取ろうとしてるわけじゃない。なら今はひとまず安心して過ごしていいと思う。不安に思う気持ちは分かるが、ずっとその状態だと精神的に持たない」

「…………………」

「もしその夢をまた見るようであれば、解決策を俺が一緒に考える。俺で無理なら他の誰かの助けを借りる。そうすればきっと天草の悩みも解決するさ」

「…………………そうだな…………」

天草はこちらを見てまた微笑を浮かべる。

「…………………ありがとう。その時は君達に是非頼らせてもらおう…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく大浴場内にいた俺達は、次に露天風呂に移動した。

「天草、せっかくの機会だし色々聞いてみたいことがあるんだが……」

「………答えられる事であれば答えよう………」

「そうか。なら天草の才能について聞いてみたいんだが………」

「……………………才能か……………………」

すると天草は珍しく渋い表情を見せた。

「…………あまり面白い話ではないぞ………?」

「いや、構わない。天草が嫌なら無理に話さなくてもいいが………」

「………………問題ない。君がよければ話そう………」

天草はふうとため息を一度つくと、自身の才能について話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「………自分は幼き頃から孤児を預かる児童養護施設で育ってきた………。そこは隣に修道院みたいなものがあって…………自分達の面倒を見てくれたのはそこにいるシスター達だった………。…………不慣れな育児にも関わらずシスター達は愛情を込めて自分達を育ててくれた。…………そしてシスター達は自分達に対して神への祈りについても教えてくれた。………自分はその思想に惹かれて神父になろうと決めた。………今は自分より下の子ども達の面倒を見ながらキリスト教の教えを説いている。………それだけの話だ。………別に面白くもなんともないだろう?」

話し終えた天草は懐かしそうな目をしてどこかを見ていた。

「…………今頃子ども達はどうしているだろうか………?無事に生活出来てきるのだろうか…………」

「天草にとって、養護施設の子ども達は大切な宝物なんだな」

「…………ああ。神父だろうとそうでなかろうと関係ない。………自分はただみんなが健やかに育ってくれればそれでいい……………」

「けど、どうして才能の話をするのを嫌がってたんだ?今の話だと、別に神父に対して悪いイメージを抱いている風には聞こえなかったが」

「…………自分の神父の活動が広がる度に自分を持て囃す人が周りに増え始めた…………。しかし自分は当たり前のことをしているだけだ…………なのに褒め称えられるのは違うと思う…………」

「つまり天草は、神父として当たり前のことをしているだけなのに過剰に持ち上げられるのが嫌だってわけか」

「………その通りだ………。褒められる事をしていないのに褒められるのは自分は好きではない………」

そうか。だから天草は才能についてあまり話したくないと言ったんだ。

もし天草の神父としての活動を知ってる人がいたら、そこでまた褒められる可能性があるもんな。

 

 

 

 

 

 

「まあ確かに大袈裟に言われるとこっちも落ち着かないもんな。でも実際、俺は天草がやってることは凄いと思うぞ」

「…………夢寺………」

「俺は神父の仕事なんて知らないし、ましてや天草と同じ立場だったとして大勢に評価されるほどの事を出来るとは思えない。だからその点に関しては誇っていいんじゃないか?少しでも自分に自信があった方が今後神父として活動する天草のためにもなると思う」

「……………………そうか、そうだな……………………」

少し考え込む仕草を見せた後、天草は頷いた。

「………賞賛の全てを拒絶するのではなく、一部をプラスに受け取り自分の自身の糧とする、という事でいいのか…………?」

「まあそんな感じだな。あくまで俺の意見だから参考程度に聞き流してくれ」

「…………いや、助言感謝する………」

すると天草は手を出してきた。

「…………君はやはりこの中で一番話しやすいし頼りになる………。夢寺、君と話せてよかった………」

「こちらこそ、天草と話せてよかった。ありがとう」

俺達は互いに握手をした。

そしてのぼせるギリギリまで、雑談をしつつ露天風呂を楽しんだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食を食べた後、俺は軽く運動をするために地下一階の運動場に来ていた。

トラックを軽く走って汗を流そうとわざわざ着替えてきたのだ。

「………よし」

準備運動を済ませると、そこそこのスピードで走り出した。

中学の時部活はやっていなかったが、運動は結構好きだった。

体を動かすと嫌なことを忘れられるからだ。

「あれー!れんがいるー!おーい!!!」

トラックを何周かして程よく体が温まってきた頃だった。

遠くから俺を呼ぶ声が聞こえた。

俺は一度止まり辺りを見渡す。

「あれは…………千尋か?」

よく目を凝らし見てみると、小柄な少女がこちらへ向かって走ってくるのが分かった。

「れんみーつけた!」

「千尋か。どうしたんだこんなところで」

「えーとね、千尋もはしりにきたんだ!千尋ここにくるまえもまいにちはしってたんだよ!」

これはまた意外だ。

千尋の才能は『ピアニスト』だし、運動とは縁のない生活を送ってると思っていたが。

「そうだったのか。じゃあ俺と同じだな」

「れんもそうなの!?じゃあいっしょにはしろうよ!」

千尋はその場で跳ねて喜びを露わにする。

………元気が有り余ってるのがよく分かるな。

「よし。じゃあ走るか」

「うん!」

俺達は肩を並べてトラックを走り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何周かして疲れたので、俺達は一度休憩を取ることにした。

トラックの隅にある謎の芝生のスペースに2人で座り込む。

「れんすごいね!たくさんはしれてた!」

「俺は全然大したことはない。千尋こそ全然疲れてなさそうだし、体力凄いんだな」

実際男である俺と同じペースで走っても余裕でついて来れていた。

やはり日頃から運動しているからだろう。

「走るのは昔から好きなのか?」

「うん!うんどうはまえからだいすき!!!」

満面の笑みでそう答える千尋。

「けど、千尋はピアニストだろ?運動とはあまり関係なさそうだけどな」

「それは………うん………そうだね」

千尋はさっきの表情とは一転、暗い表情でそう答えた。

「………悪い。もしかしてあまり聞かれたくなかったか?」

「ううん、へいきだよ。むかしのことちょっとおもいだしただけ」

「そうか。ならこの話題はやめにしよう。他の話を………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえれん。れんのおとうさんとおかあさんってどんなひとだった?」

俺が別の話題を振ろうとすると、千尋が唐突にそう尋ねてきた。

「俺の両親か。母親はとても優しい人だ。俺は今でも母親のことは尊敬してるし、いつか迷惑をかけた分、恩返しをしたいと思っている。父親は………正真正銘のクズだ。好き勝手暴れて暴力をふるい俺達を捨ててどこかに消えた。俺はあいつを父親とは思っていない」

「そっか………たいへんだったんだね、れんも」

「昔の話だ。今は比較的幸せに暮らしているよ」

「千尋のうちはね、ものすごくきびしいんだ。ピアノやっててもすぐおこられるし、まちがえるとたたかれるし。だからちひろ、いえにいたくなくて、こそこそそとであそんでたんだ。だから千尋はそとあそびがすきなの」

「そうなのか………」

だからさっき暗い表情をしていたのか。

「千尋のおとうさんとおかあさん、ゆうめいなおんがくかなんだ。だからちひろとお兄………やひろにはさいのうがあるとかいって、たくさんのおんがくやらされたんだ。千尋はピアノのさいのうがあるっていわれて、きびしいれんしゅうさせられて…………でもたまにほめられたりもしたんだ」

「八尋も同じようにか?」

「やひろは………がっきのさいのうがないっていわれて、そうしたらこんどは()()()()()についておしえられて、それでさいのうがあるからって色々きびしくいわれてた」

双子で音楽に関係する才能を持っているのは両親の影響があったからなのか。

「やひろ、そのせいでおんがくとおとうさん、それにおかあさんのこときらいになっちゃった。しかもどんどん千尋ともくちきいてくれなくなって………」

八尋が千尋に冷たい理由が少し分かった気がする。

千尋が楽器の才能があり褒められる一方で、八尋には才能がなく厳しく言われる毎日。

何故自分は不憫な思いをしているのに妹だけあんなに褒められるのかという妬みがあるのではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「千尋は八尋のこと好きか?」

「うん!だいすきだよ!!」

千尋はいつもの笑顔に戻り何度も頷く。

「おにいちゃんはちひろよりすごくしっかりしてるし、ちひろのしらないこといっぱいしってるんだよ!」

「そうか…………。ん?お兄ちゃん?」

「あっ!?」

千尋は驚き自分の口を押さえた。

「いっちゃった………。やひろにおにいちゃんってよぶなっていわれてるのに」

「八尋が?どうしてだ?」

「わかんない。けどここにきてから「ぼくをおにいちゃんとよぶな」っていわれて。よぶとすごくおこるんだ。なんでだろう」

千尋は何故だろうと首を傾げる。

八尋が自身をお兄ちゃんと呼ばせない理由か。

正直気になるが、八尋に聞いても絶対答えてくれないだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっき八尋は両親と音楽が嫌いって言ってたけど、千尋はどうなんだ?」

「千尋おんがくはだいすきだよ!でもおとうさんとおかあさんは………びみょうかな。すぐおこるしこわいけど、やさしいときもあるし」

「そうか。じゃあ今度、千尋のピアノ聴かせてくれよ」

「うん!れんにいっぱいきかせてあげるね!どんなきょくがいい?」

「どんな曲か………。ベートーベンの『運命』とか弾けるのか?」

「なんかれん、チョイスがしぶいね………。でも弾けるよ!」

「いや、俺音楽は殆ど知らないからベートーベンしか出てこなかったんだ」

それに正直楽器もセンスないし、歌も上手くない。

音楽の成績は常に『3』だった。

「そうなんだー!じゃあいろいろおしえてあげるね!」

「ああ。よろしく頼む」

その後俺は、千尋に音楽について色々教えてもらい時間を過ごした。

千尋とまた少し仲良くなれたみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝。

 

 

 

俺がいつも通り集合時間ギリギリで食堂に入ると、昨日見られなかった光景が目に入ってきた。

「桃林さん。そんなに怯えなくても大丈夫だよ。みんな桃林さんを歓迎してくれているよ」

「だ、だす…………」

結城の背中の後ろに隠れている(隠れきれていないが)桃林の姿があった。

「その通りです、桃林様。私達は桃林様がお戻りになられるのをずっと待っていましたから」

「………よく戻った………」

料理を運ぶ綾辻と天草もそう優しく声をかける。

「2人の言う通りだよ。だから桃林さん、隣でご飯一緒に食べよう」

「だ、だす!晴翔君の隣で食べるだす!」

桃林は嬉しそうな表情で結城の隣に座る。

結城には完全に心を許している状態のようだ。

「あれは完全に堕ちているでありますね」

近くにいた写実はコソコソそう口にする。

「だな。俺達に向ける視線と結城に向ける視線が全然違う」

「流石結城氏。某ら陰の者とは住む世界が違うであります」

「ああ。俺達には眩しすぎる」

まさに陰といった会話を終わらせ、俺は席につく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不知火、おはよう」

「夢寺殿。おはようでござる」

不知火は既に何かを食していた。

それも結構な量だ。

「………まだ朝食前だぞ?」

「存じているでござる。しかし拙者、腹が減って仕方がなかったのでござる。故に円城寺殿に頼み申して朝食までつなぎとして軽食を用意してもらってのでござる」

………そういうことか。

「…………ちなみに今腹何分目だ?」

「2分目いかないくらいでござるな」

恐ろしすぎる。

胃の中にブラックホールでもあるのか。

「夢寺殿も一口いるでござるか?」

「………いや、いい」

今から出てくる朝食で十分すぎる量だ。

「あぁ!?椿てめえ、どんだけ食えば気が済むんだコラ!!」

食事を運んできた円城寺が驚愕している。

「いやはや、円城寺殿の食事が美味でつい食べすぎてしまったでござるよ。して円城寺殿、大変申し訳ないのでごさるが………」

「わーったよ!追加だろ!ちょっと待ってろ!つーかてめえ、食べ過ぎてしまったって言ってる奴がおかわり欲してんじゃねえよ!!」

円城寺はキレながら厨房へと入っていった。

………この中で一番働いているのは間違いなくアイツだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

 

 

 

 

 

 

脱出の手がかりが見つからないまま、俺達はこの建物で過ごしていた。

 

 

 

 

すると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピーンポーンパーンポーン…………

 

 

 

 

 

「えー絶望亭にいる皆サマにお知らせしまス。ワタクシから重大なお話をさせて頂きたいと思いますのデ、至急1F宴会場までお越し下さいまセ。ちなみ二、遅れた場合、もしくは来られない場合は即処刑となりますのでご注意下さイ」

 

 

 

 

 

 

………動機か。

 

 

 

奴は意地でもコロシアイをさせるつもりらしい。

 

 

 

 

「………行くか」

 

 

俺は重たい足取りで宴会場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生存者

 

 

1.飛鳥 圭【スリ】

2.天草 京介【神父】

3.綾辻 澪【軍医】

4.円城寺 霊夜【オカルト研究家】

5.風神 雷哉【喧嘩家】

6.北桜 千尋【ピアニスト】

7.北桜 八尋【作曲家】

8.佐々木 莉央奈【かるたクイーン】

9.写実 真平【カメラマン】

10.司 拓郎【秀才】

11.百々海 真凛【水泳部】

12.乃木 環【???】

13.ハルク ゴンザレス【ボディービルダー】

14.桃林 林檎【グルメリポーター】

15.薬師院 月乃【女将】

16.結城 晴翔【バトミントン部】

17.夢寺 蓮【マジシャン】

18.不知火 椿【くノ一】

 

 

 

 

残り15名

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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