ダンガンロンパ ルーナ   作:さわらの西京焼き

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また1人犠牲者が…………。






(非)日常編③

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モノワニからの呼び出しを受けた俺達は、全員宴会場へと集合していた。

「また…………動機でありますか」

「前回は『誰かの秘密』やったけど、今回はどんな内容なんやろうな」

「大丈夫だよ!前回と違って僕達は団結しているし、何が来ても僕達は負けない!」

「相変わらず楽観的だねー。そう簡単にいくとは思えないけどー」

「余計なこと言うなコラ」

「夢寺殿」

隣にいた不知火が俺に声をかけてきた。

「『動機』というのは何なのでござるか?」

「簡単に言えば、俺達に殺人をさせるための理由だ。前回は俺達の忘れている、もしくは知らない自分や他人の秘密を渡された。それを知りここを出たくなった奴が殺人を犯す。そういうシナリオをモノワニは望んでいたんだろうな」

「して、その結果は………」

「…………結論から言えば、動機とは関係ない殺人が起きた。そのせいで2人殺されて………1人は処刑された」

「パスポートに書いてあった『学級裁判』という奴でござるか」

「ああ」

前回の事件。

学級裁判で司を犯人と指名した時を思い出す。

もうあんなことは2度としたくない。

 

 

 

 

 

 

 

「フフフフ………皆サマお揃いのようですネ」

するとモノワニがいつも通り、どこからか急に現れた。

「テメー何の用だ!」

「ワターシ、アナタのこと嫌いデース!」

「千尋もきらい!かえってよ!!」

「随分と嫌われたものですネ………。まあいいでしょウ。これから皆サマには『動機』を配らせて頂きまス」

「い、いらないだす!受け取り拒否だす!!」

「受け取らなければオシオキ、と言われてもですカ?」

「………!」

「………それで?自分達には何を配られるのだ………?」

「………フフフ。それはですネ…………」

天草の発言に対してモノワニは不敵な笑みを浮かべると………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆サマの大切な人の映像でス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大切な人の映像………」

「そうでス。皆サマには大切な人がいるでしょウ。家族、恋人、友達………。その人達の安否が今心配でしょうがないのではないですカ?」

「それは………確かにそうですわ」

「ワタシはそんな皆サマのために………。わざわざ映像を撮りに行ってあげたのですヨ」

「………その映像が本物であるという証拠は?」

八尋がモノワニを睨みつけながら質問する。

「あなたのことですから、捏造した映像で僕達を騙そうとしている可能性も十分考えられますよね」

「フフフ………疑い深いですネ、八尋様は。ですがそれは実際に見て貰えば分かることですヨ。その映像が本物か、それとも偽物なのかをネ」

「…………」

「これは自分の映像なのですか?それとも前回のように他の方の映像が配られる場合もあるのですか?」

「いエ、今回は皆サマのパスポートに皆サマ自身に関係する映像を送らせて頂きまス。なので誰かに見られる可能性はありませン」

自分の大切な人の映像。

俺の場合だと………恐らく家族になると思う。

母さん、弟の慎(しん)、妹の蘭(らん)。

俺のかけがえのない家族だ。

その3人の映像が………見れる。

 

 

 

 

 

 

「当然、前回と同じで見るのも見ないのも自由でス。しかし、人は目の前に知りたい情報があるとどうしで見たくなってしまうものでス。我慢せずに見るのをおすすめしますヨ」

「ふざけないでくれ!」

結城は正義感を振りかざし怒りをぶつける。

「こんなことをしても………僕達は絶対に殺人を起こさせない!あんな事件は二度と起こしちゃいけないんだ!」

「フフフ………果たしてそううまくいきますかネ………では皆サマ、ワタシはこれにて………」

モノワニはまた気味の悪い笑みを浮かべると静かに消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、聞いて欲しい。この映像は………」

「ボクこれ見るよー。だって気になるしー」

「なっ………!?」

結城が全員に対して何かを呼びかけようとした時だった。

飛鳥が突如そう発言した。

「イケメンのお兄さん、また見るなとか言い出そうとしてたでしょー?無駄だってまだ分からないのー?前回だって見たい人たくさんいたしー、何より今回のは自分の映像なんだから見るも見ないも個人の自由だよねー?」

「それはそうだけど………!でもこの動機は殺人を促す映像かもしれないんだ!僕達の団結が壊れてしまう可能性だって………!」

「またその言葉ー?ボクそれうんざりなんだけどー。みんな団結仲良しこよしだったら何でも解決すると思ってるのー?というかボク、ここにいる人達信用してないしー」

「ど、どうしてそんなこと言うんだよ………!僕達は仲間なのに………」

「あのねー。みんながみんなイケメンのお兄さんと同じ考えだと思わない方がいいよー。ボクは全員のこと疑ってるしー、心の底から信用したことなんて一度もないからー。前ガリ勉のお兄さんも言ってたけどー、自分の考えを他人に押し付けるのやめた方がいいよー、迷惑だしー」

「おい飛鳥!テメー言い過ぎだぞ!」

「別に思ったこと言っただけだしー。じゃあボクもう行くねー」

飛鳥は言いたいことだけ言うと、この場を去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「円城寺君!飛鳥さんを説得してよ!仲のいい君の言葉なら彼女も聞くだろうし………!」

「…………悪いな晴翔。俺も今回はあのクソガキと同じ意見だ」

円城寺は難しい顔をしながら自分のパスポートを見つめている。

「円城寺………!君までどうして………」

「別に全員を信用してないとかそういう話じゃねぇ。けどな、盲信して何も疑わないってのは違えだろ。それは現実逃避と同じだ。俺はてめえらを信用してると同時に、誰が殺人を犯してもおかしくないとも思ってる。団結すればいいってもんじゃねえだろ」

「………どうして」

結城はその場に崩れ落ちる。

「それにこの映像、俺は見たくてしょうがねえ。親父とか寺の連中はどうでもいいが、俺の祖父母の安否が気になんだよ。別に見たからって殺人を犯そうとは思ってねえし、見るくらいなら……………別にいいだろ」

円城寺にしては珍しく歯切れの悪い返事だった。

そのまま円城寺は宴会場を出ていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕も帰ります。この映像の中身を確かめなくてはいけないですから」

「結城はん。うちも悪いけど中身見させてもらうわ」

「わたくしも見ますわ。お母様とお父様のことが心配ですもの」

「某も正直、中身が気になって仕方がないであります」

「………自分も修道院の子ども達が心配だ…………」

「拙者も気になるでござる。殺人など決してしないと誓う故、見るのを許して欲しいでござる」

飛鳥と円城寺と同様、映像を見たいと考える奴らが続々と出ていく。

残されたのは俺、雷哉、千尋、ハルク、綾辻。

そして崩れ落ちている結城とそれを慰める桃林だ。

「どうして………どうして分かってくれないんだ………。こんなの………モノワニの罠に決まってるのに………」

「は、晴翔君は悪くないだす。悪いのは飛鳥さんと円城寺君だす」

「言ってることは分からなくはねーんだけどなあ………。言い方がよくねーよ」

「みんな仲よくないデース………。空気悪いデース」

「千尋、ぱぱとままのこときになるけど………えいぞうみたらだめなんだよね………」

「綾辻はどう思う?」

俺は黙って話を聞いている綾辻に振ってみる。

「……まず映像を見るかどうかについては、正直各自の判断に任せるということしかないと思います。やはり皆様それぞれに大事な方がいるのは事実ですし、やはり見るなと強制されても気になってしまい、いずれは見てしまうのではないかと思います。………団結という話については、飛鳥様達の仰ることにも一理あります。信じるために疑う、ということが大事だと思います」

「………友達を疑うなんて、みんなどうかしてるよ………」

結城は立ち上がると、悔しそうな顔で涙を拭いた。

「僕は友達を疑いたくはない。あんな思いなんて2度としたくないのに……」

そう言い残すと、結城はフラフラと宴会場を出て行った。

「ま、待って欲しいだす晴翔君!」

そして桃林もそれを追うように出ていった。

 

 

 

 

 

 

「どーすんだよ蓮」

「いや俺に聞くなよ………」

残されたの俺達5人。

雷哉は雑に俺に話を振ってくる。

「夢寺様はどうされるおつもりなのですか?」

「………正直迷ってる。だが、俺にも大切な人がいるし、その安否が気になってるのも事実だ。だから恐らく、今日じゃなくてもいずれは見ることになると思う」

「そう、ですよね………」

「ひとまずこの場に留まっていても仕方がない。一旦部屋に帰って自分の考えを整理した方がいい。それで見たいと思ったなら映像を見ればいい。ただし………」

「殺人を起こそうなんて馬鹿な考えはやめろって言いたいんだろ?」

雷哉の言葉に俺は頷く。

「そういうことだ。千尋とハルクもそれだけは理解しておいてくれ」

「勿論デース!みんな仲よく、それがワターシのジャパニーズ魂デース!」

「わかった!千尋ぜったいそんなことしないよ!!」

2人は大きく頷く。

「綾辻もそれで頼む」

「分かりました。夢寺様も、もし見るのであればお気をつけて」

そして俺達はひとまず解散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

個室に戻った俺は自分のパスポートを見つめる。

この中に………俺の大切な人の安否が分かる動画が入っている。

前回の秘密と同じだ。

確かに開ければ結城の言う通り、どうしても外に出たいという思いが芽生えてしまうかもしれない。俺達の団結が崩れてしまうかもしれない。

「…………けど、放置なんて出来ないよな」

俺は自然とパスポートを操作し動画を再生していた。

大切な人とは誰なのか。

そしてその人は無事なのか。

どうしても気になってしまった俺は………食い入るように画面を見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………蓮?久しぶりね」

 

 

 

 

 

 

「声、ちゃんと聞こえてるかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

動画を再生し画面に映ったのは、ソファーに座る母さんと弟の慎、妹の蘭であった。

「………母さん………慎………蘭」

「あなたがいなくなってからしばらく経つけど、元気にしてるかしら?ご飯はちゃんと食べてる?」

いつもと変わらない母さんの姿。

俺は思わず涙が出そうになる。

「蓮にーちゃんだいじょうぶ?だれかとけんかしてない?」

「おにいちゃんさびしくない?ないたらだめだよ?」

慎と蘭も相変わらずだ。

「あなたの事だからうまくやれてるでしょうけど………でもやっぱり、どうしても心配してしまうの。だってあなたは…………………だから」

「ん?」

ノイズが入っているのか、時々聞き取れない部分がある。

「私は最初あなたにこの話が来た時は…………断ろうと思っていたの。だってあなたはまだ…………歳だし、そんな……………………をさせるわけにはいかないと思うのが親でしょ?でもあなた自身が……………………に入りたいと自ら言ったから、私はあなたの意見を尊重したの」

「断る?なんで母さんが?」

母さんは希望ヶ峰学園に俺がスカウトされた時、大喜びしてくれた。

断ろうとしたなんて、そんな雰囲気は微塵もなかった。

「だから蓮………。辛くなったらいつでも戻ってきていいのよ?母さんはいつでもあなたのために…………美味しいご飯作って待ってるからね」

「蓮にーちゃんかえってきてよ!」

「だめだよ!お兄ちゃんがんばってるんだから!でも蘭もお兄ちゃんにはやくあいたい!」

「………あら?そろそろ時間?なら最後にこれだけは言わせて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたは1人じゃない。母さんはいつでもあなたの味方だからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言った瞬間、画面が一度暗転する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてもう一度画面が映る。

そこには…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荒らされた我が家と血塗れで倒れている3人の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なん…………で………?」

あまりの衝撃に呼吸を忘れ、手が震え始める。

『フフフフ………。愛する息子を送り出した夢寺家でしたが、その後家を『絶望の残党』に襲撃されてしまいましタ。血の海に沈みピクリとも動かない3人ですガ、果たして3人の安否はどうなのでしょうカ………?』

モノワニの音声が再生され、動画は終了した。

「……………………」

俺はパスポートを投げ出し、その場に蹲った。

汗が止まらない。

呼吸が苦しい。

どうして…………どうして母さん達が………。

「確かめ………ないと」

もしかしたらまだ生きてるかもしれない。

どこかの病院にいるのであれば早く行ってあげないと。

でもどうする。

ここからは出られない。

…………()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………夢寺様?」

すると外から俺を呼ぶ声が聞こえた。

俺はフラフラとした足取りでドアを開けると、そこに綾辻がいた。

「あや………つじ………?」

「夢寺様、申し訳ありません。少しお時間を頂いてもよろしいですか?」

「………何か用か?」

「えっと………。その………動機の発表もありましたし、皆様にカウンセリングをしようかなと思っていたんです。その………話を聞くだけでだいぶ気持ちも軽くなると思いますし………」

「………帰ってくれ」

「…………え?」

「悪いが、今は誰とも話したくないんだ」

俺はドアを閉めようとする。

今は家族が無事かどうかについてで頭が一杯だ。

「ゆ、夢寺様?…………もしかして動機を見たのですか?顔が真っ青じゃないですか!?何か体調が優れないのであれば………」

「帰ってくれって言っただろ!」

俺は自分でも驚く程大きな声を出していた。

しまったと思った瞬間、目の前には目に涙を浮かべる綾辻がいた。

「………そ、そうですよね………。私…………その…………余計なお世話でした……………ごめんなさい」

一粒の涙を溢すと、綾辻は走り去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何やってんだ…………俺」

俺は布団に寝っ転がる。

動機によって心を乱され、そして関係のない綾辻にまで強く当たってしまった。

最低だ。

心がぐちゃぐちゃでどうすればいいのか分からない。

「俺は…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝。

 

 

 

 

 

俺は朝食の集合時間である8時を過ぎても布団の中にいた。

とてもじゃないが誰かと話す気分になんてなれないし、食欲もない。

そして………昨日あんな酷い事を言ってしまった綾辻とどう顔を合わせていいのかが分からない。

謝罪しなくてはいけないのは俺が一番よく分かっている。

けど…………もし謝罪を拒否されてしまったら。

顔を合わせることすら嫌だと拒絶されたら。

そう考えるとどうしても行きづらい。

「………初めて欠席してしまった」

今までちゃんと時間通りに行っていたため、無断で欠席してしまった罪悪感に襲われた。

だが………今日だけは許してくれ。

きっと誰かが呼びに来るだろうが、その時は丁重にお断りさせてもらおう。

そう考えた俺はゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ドンドンドン!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が目を閉じた数分後。

俺の個室のドアを思いっきり叩く音が聞こえてきた。

「おい蓮!いるんだろ!出てこいよ!」

………雷哉か。

きっと朝食に来ない俺を呼びに来たんだろう。

アイツは強引なところがあるから、きっと出たら無理矢理連れて行かれるだろう。

悪いが、今日は居留守を使わせてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

『ドンドンドンドンドンドン!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………」

 

 

 

 

 

 

 

『ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!!』

 

 

 

 

 

 

「うるせーよ!!!」

俺はつい条件反射でそう言いながらドアを開けてしまった。

「お!なんだ元気じゃねーか。どうして朝飯食いに来ねーんだよ?」

するといつも通りの様子の雷哉が笑いながらこっちを見ていた。

「………人と話す気分じゃないんだよ。それに食欲もないんだ。今日はそっとしておいてくれ」

俺はそう言ってドアを閉めようとする。

しかし雷哉はドアの間に自分の靴を挟み閉まるのを阻止した。

「まーそう言わずに行こうぜ」

「人の話聞いてたか?」

「聞いてた。朝飯食いに今から準備するんだろ?」

聞いてないじゃねーか。

「だから………」

「おっと、逃さねーよ」

逃げようとする俺の腕を雷哉は思いっきり掴んだ。

「痛ててててて!?」

「蓮が来るまでずっと掴んでるぜ?さあどーする?」

「分かった!行くからその馬鹿力で掴むのはやめろ!?」

「おーし、ならここで待ってるから早く準備しろよ」

どうやら俺がまたドアを閉めないように見張っているらしい。

やっぱり俺の予想通り無理矢理連れて行かれることになってしまった。

「…………はぁ」

深いため息をつきながら俺は支度を始めた。

 

 

 

 

   

 

 

「おーい。蓮連れてきたぞ」

雷哉と共に食堂に入ると、何人かの生徒が既に食事を始めていた。

「………あ、あら夢寺サン。お得意の寝坊ですか?まったく、顔だけでなく私生活までだらしがない人ですわね。このわたくしを見習った方がいいですわよ。おほほほほ……」

いつも通りの佐々木のだる絡み。

しかし彼女が無理をしているのは明らかだった。

俺と同様、昨日の動機が効いているんだろうな。

なんたってあのメンタルが弱い佐々木だ。

平常心でいられる筈がない。

俺は無視して席につく。

「ちょ、ちょっと!?わたくしを無視するなんて、いい度胸してますわね!せっかくわたくしが朝から冴えないアナタに声をかけてあげてるのに………痛っ!?し、舌を噛みましたわ………」

「朝からぎゃあぎゃあほんま煩いわ。その口縫っておいた方がええんやないの?」

「だ、黙りなさいこの女狐!アナタこそその暴言しか吐かない口喋れないようにした方がいいですわよ!」

「夢寺氏」

いつもの2人の喧嘩が始まったところで、写実が手招きをしている。

「どうした」

「夢寺氏も風神氏に強引に連れてこられたのでありますか?」

俺が寄っていくと、耳元でそう聞いてきた。

「ああ。もしかして写実もか?」

「そうであります。実は今朝、8時に集まったのは6人だけだったらしいであります。だから風神氏が全員の個室に凸ったのであります」

そういうことか。

雷哉らしい力技だ。

「その8時にいた6人は誰なんだ?」

「料理担当の綾辻氏、円城寺氏、それに風神氏、ハルク氏、千尋氏、飛鳥氏であります」

綾辻もいるのか………。

俺は厨房に視線を向ける。

早く謝らないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あっ」

「………あ」

そう考えた瞬間だった。

綾辻が厨房から姿を見せた。

「お、おはようございます、夢寺様」

「………ああ、おはよう」

ぎこちなく挨拶をされ、俺も同じように返す。

昨日の事で気を遣われているのは明らかだ。

「………綾辻」

「………はい」

「昨日は………その…………」

 

 

 

 

 

 

「おーし!!全員集まったな!!!」

俺が謝罪の言葉を口に出そうとした時だった。

雷哉がデカい声で話し始めた。

おかげで話も中断してしまった。

………少しは空気を読んでくれ。

「全員じゃねえだろ。いねえ奴らはどうすんだ」

円城寺が俺達を見渡す。

いないのは………………天草、八尋、桃林、結城か。

八尋と桃林はなんとなく分かるが、天草と結城はどうしたのだろうか。

「声かけたけど来ねーんだよな………」

「やひろにはぜったいいかないっていわれちゃった。なんかきょうのやひろ、ちょっとこわかった……」

千尋が悲しそうにそう話す。

「天草様は少し体調が優れないとのことです。精神的な面から来る症状かもしれません………」

「ん?風神氏が全員呼びに行ったんじゃないのでありますか?」

「全員じゃねーよ。オレが呼びやすそうな奴だけだ」

「それは分かったけどー。こんなみんな一斉に集めたのってなんか訳があるんでしょー?早く教えてよー」

飛鳥が退屈そうに机に伏しながら口を開く。

「まー飯食いに全然来ねーから心配で呼びに行ったってのもあるけどよー……」

雷哉は大きく息を吸うと………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今からスポーツ大会しよーぜ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

そう宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はあ?」

全員が困惑しているこの状況。

「色々聞きたい事があるんやけど………まずその『スポーツ大会』って何か聞いてもええ?」

薬師院が珍しく困った表情でそう尋ねる。

「おう!地下一階にプールとか体育館とかあんだろ?そこで遊ぼうぜって話だ!いい提案だろ!」

「提案が唐突すぎません?それになんで今やろうと思ったんですの?」

「なんでって…………」

佐々木の質問に対して雷哉は………

「オメーら、昨日の動機でだいぶ参ってんだろ?」

その発言に俺は思わず反応してしまった。

俺だけじゃない。

何人かは顔色が変わった。

「初めからいた奴らはまだしも、呼びに行くまで来なかった奴らは動機で不安になっちまったんだろ?」

「そんな時部屋に閉じ篭ってたら余計に考え込んで悪化するだけじゃねーの?」

雷哉の言う事は…………正しい。

部屋にいても何も解決しない。

「ふむ、理解したでござる。風神殿が『すぽーつ大会』とやらを開く理由が。………身体を動かして邪念を体から消し去ろうという魂胆でござるな?」

黙って朝食を食べていた不知火が口を開いた。

「おう!体動かして悪い事全部忘れちまおうぜーってことだ!いいアイデアだろ?」

雷哉の提案に数人がため息をついた。

恐らく、『どこまで脳筋なんだ』という呆れだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「たのしそう!ちひろもさんかする!たくさんうんどうしたいもん!」

「ワーオ!ワターシももちろん参加シマース!動機とか全部忘れちゃいマショー!」

すると千尋とハルクが真っ先に手を挙げ参加を表明した。

「おー!流石だぜオメーら!」

「だってプールもバスケもずっとやりたかったから!」

「ワターシもデース!」

そして3人でハイタッチをする。

「では、私は運動は苦手なので、皆様への差し入れ担当をやらせて頂きます」

綾辻は運動ではなく差し入れを持っていくという形で参加すると表明。

「………しゃあねえな。澪が出るなら俺も手伝うか。1人でやらせるわけにはいかねえしな。あ、俺はプールはごめんだからな」

「なら、うちもそれ手伝わせてもらってもええ?運動は嫌いやけど、せっかく風神はんが誘ってくれてるんやし、参加しないっていうのも冷たいやろ?」

円城寺と薬師院も同様の理由で参加するらしい。

「………ふーん。じゃあボクも出ようかなー。たくさんイタズラ出来そうで楽しそうだしー」

「拙者も外で遊びに興じている方が性に合っているでござる」

飛鳥、不知火も参加。

 

 

 

 

  

 

「おー!みんなノリいいじゃねーか!じゃあ残りの3人、オメーらはどうすんだ?」

残りは俺と写実と佐々木の3人。

俺は身体を動かすのは好きな方だが、正直今はそこまで乗り気じゃない。

だが…………雷哉の言う通り、部屋にいても気分が余計に落ち込むだけだ。

なら運動して、少しでも気分をリフレッシュさせた方がいい。

「………俺も出るよ。今は少しでも嫌なことを忘れたい気分だしな」

「流石俺の見込んだ男だぜ!」

回り込んできた雷哉に背中を強く叩かれる。

痛え。少しは加減してくれ。

「某は………運動は苦手でありまして………」

一方、写実はあまり乗り気ではなさそうだが………。

「んだよ、そんなことかよ。ならオレがスパルタで教えてやるよ!」

「ひぃぃ!?某、少しお腹の調子が………」

「よし、写実も参加決定な!」

「そ、そんなぁ!?某に選択肢はないのでありますか!?」

………どうやら強制参加らしい。

「わたくし、運動はあまり得意ではありませんの。それに汗とかで汚れるのは嫌ですわ。そんな野蛮な遊びはアナタ達で勝手にやって下さい」

「…………ん?なんだ佐々木、もしかして運動が苦手なところを見られて笑われるのが怖いのか?」

相変わらず棘のある言い方をする佐々木に対して俺は挑発で揺さぶってみることにした。

俺の言葉に対して佐々木はピクリと反応する。

「………」

「まあそれならしょうがないな。あんなに俺のこと馬鹿にしてきた癖に運動音痴だってのが知られたら笑い者だもんな」

「…………………」

「逃げるのだって大事だもんな。運動が出来ずに惨めに逃げてく佐々木を俺は咎めはしないさ。人にはできることとできないことがあるもんな」

 

 

 

 

 

 

 

「…………だ、誰が逃げてるですって!!!!」

ドンと机を叩き立ち上がる佐々木。

「いいですわ!ならわたくしも参加しますわ!夢寺サン、アナタにわたくしがいかに運動が出来るのか、そしていかにわたくしが華麗でアナタは華がないのか思い知らせてやりますわ!!!あと佐々木って呼ばないで下さいませ!!!」

ちょろい。

これで佐々木も参加決定。

つまりここにいる全員が大会自体には参加するということになった。

「おっしゃ!じゃあ早速準備しようぜ!まずはプールからだな!他のいない奴らも誘いに行こうぜ写実!」

「そ、某気が重いであります………運動苦手なのに………」

雷哉達はそう意気込むと、走って食堂を出て行った。

「では私はドリンク等準備しますね」

「俺もやるぜ」

「うちも手伝うわ」

綾辻、円城寺、薬師院の3人は厨房に入っていった。

…………綾辻に謝罪するタイミングを見失ってしまったな。

「………ひとまず俺も向かうか」

俺はプールへと向かい始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の流れとしてはこうだ。

まずプールで水泳対決。

これに参加するのは、男子では俺、雷哉、写実、ハルク。

女子は飛鳥、千尋、佐々木、不知火。

綾辻、円城寺、薬師院は泳ぎこそしないが、プールサイドでドリンク等の差し入れをしてくれるそうだ。

そして他のメンバーだが、雷哉曰く断られてしまったとのこと。

結城あたりは参加してもおかしくないと思っていたが、どうやら昨日の動機が相当堪えているようだ。大丈夫だろうか。

その後、体育館に移動してチーム分けをしてバスケ対決。

参加者は午前中のメンバーに加え円城寺も競技に参加する形だ。

そして俺達は今、プールの脱衣所で水着へと着替えている最中だ。

 

 

 

 

 

 

「………しかし夢寺氏、意外と引き締まった体をしているのでありますな」

隣を見ると、何故か写実が俺の体を凝視している。

「そうか?普通だと思うけどな」

「いやいや、某のだらしない体と比べたら一目瞭然でありますよ」

写実は自分の腹をポンと叩きながらそう言った。

確かに本人が言っている通り、平均よりかは太っているという印象だ。

「マジシャンサン、見込みありマース!今度一緒にトレーニングしてムキムキになりまショー!」

「いや、遠慮しとく………」

ハルクに二の腕や腹筋をベタベタと触られながら俺は苦笑いをする。

「蓮、てめえなんかスポーツやってたのか?」

「いや、特にはやってなかった。部活も入ってなかったしな」

円城寺に尋ねられそう答える。

「そりゃー当たり前だろ。蓮の奴、中学じゃヤンキーだったもんな?」

「やめろ。その話をするな馬鹿野郎が」

やっぱりコイツ言いやがった。

雷哉は俺の過去話になると真っ先に俺の黒歴史である中学時代について話す。

「ゆ、夢寺氏元ヤンだったのでありますか!?てっきり人生15年ずっとこっち側だと………」

「へえ。中々面白そうな話じゃねぇか。じっくり聞かせてもらおうか」

「嫌だ。絶対話さん」

俺はニヤニヤしてる全員を押し退けプールへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおお!マジで広いぜ!!!」

「テンション上がりマース!!」

プールを見た瞬間、雷哉とハルクは真っ先に飛び込んだ。

途端に大きな水飛沫が上がる。

「はしゃぎすぎだろ………それに準備運動しないと怪我するぞ」

「大丈夫だって!なーハルク?」

「ワターシ、体調バッチリデース!それにさっきストレッチしてきマシター!」

「体調の問題なのでありますか………?」

俺はプールサイドから離れ、ゆっくりとストレッチを始める。

 

 

 

 

 

「あー!すごーい!」

すると女子更衣室の扉が開き、女子4人が姿を現した。

先頭にいる千尋は可愛らしいうさぎのシルエットがプリントされた上下に別れた水着。

飛鳥は上はTシャツ、下には短パンという意外なスタイル。

佐々木は華やかな花柄のビキニタイプの水着。妙にスタイルがいいのがムカつくな。

そして不知火は………何故かスク水だった。どうしてそれをチョイスした。

「千尋もおよぐー!」

先頭にいた千尋が同じようにプールに飛び込もうとする。

「千尋殿、待つでござる」

「うわっ!?」

しかし、それを不知火が腕を掴み止める。

「まずは準備運動からでござる。せっかくの楽しき催し、怪我をしてしまったら台無しでござる」

「そっか、わすれてた!ありがとうつばき!」

「礼を言われるようなことはしてないでござる。ではまず、屈伸からでござる。飛鳥殿、莉央奈殿もご一緒に」

「えーめんどくさいなー」

「わたくしのような華麗なお嬢様が屈伸とは………不満ですわ」

不知火の声かけで全員が一斉に準備体操を始める。

「あっちはうまくやれてるみてえだな」

「ああ。真面目な不知火が他の3人をまとめてるみたいだ」

プールサイドに椅子を置いている円城寺にそう言われ、俺は頷く。

最初は不知火が3人と仲良くなれるか不安だったが、これなら大丈夫そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

全員(ハルクと雷哉以外)が準備運動を終えたので、まずは水泳対決をすることになった。

結果は、男子はハルクが1位、雷哉が2位、俺が3位、写実が4位。

女子は不知火が1位、飛鳥が2位、千尋が3位、佐々木が4位。

まさに予想通り、という結果だった。

くそ………あんなフィジカル化け物2人に勝てるわけないだろ………。

それにしても佐々木の泳ぎは面白かったな。

普段偉そうにしてる奴があんな無様に負けるとは。

酷いことを言っているが、佐々木も俺が3位だったことに対して煽ってきたからこれくらい言ってもいいだろう。

 

 

 

 

 

 

その後は各々好きな事をして過ごすことにした。

ハルクと雷哉の2人はひたすら泳ぎの勝負をしていた。

ハルクは豪快な泳ぎで、雷哉はめちゃくちゃな動きでそれぞれ競い合っていた。

ハイレベルすぎてとても俺は入れそうにない。

女子は女子達でビーチボールで遊んでいる。

写実は………あいつどこ行ったんだ?

さっき雷哉に散々しごかれてプールサイドで屍になってたのを見たが………。

俺は人泳ぎした後、休憩のためプールサイドに上がり座り込む。

「あれー?はとのお兄さんぼっちー?」

すると後ろから来た飛鳥に声をかけられた。

手にはどこからか持ってきたドリンクを持っている。

「まあな。あの化け物達にはついていけないから、1人でのんびりと泳いでた」

「確かにねー。特にあのゴリラ2人は人間じゃないもんねー」

「そういえば飛鳥。写実の行方を知らないか?」

「あー。オタクのお兄さんは気持ち悪い目と顔でボク達の事見てたから水鉄砲で目潰ししたんだー。多分今目洗いに行ってるんじゃないのー?」

「………そうか」

本当に救いようがないな、アイツは。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば飛鳥が今日参加したのは意外だったな」

「んー?なんでー?」

「昨日お前は『ここにいる全員を信用してない』って言ってただろ?だからこういう集まりにも今後参加しないんじゃないかって思ったんだ」

「それとこれとは別だよー」

ドリンクを飲みながら飛鳥はそう呟く。

「ボク別にガリ勉のお兄さんみたいに『全員が嫌いだし誰ともつるむ気はない』とか思ってるわけじゃないもーん。ただ『無条件で全員を信頼して疑わず、仲良く団結して過ごしていれば絶対に殺人が起きない』みたいな楽観的な考え方が嫌いなだけー」

「飛鳥は殺人がこれからも起きると思ってるのか?」

「当たり前じゃーん。というかもう既に起きてるんだしーこれからも起きないわけないでしょー。そんな仲良しこよしで過ごしてるだけで殺人が防げるなら苦労しないよー」

飛鳥の言っていることは正論ではある。

確かに俺達同士の絆を深める事は殺人を止めるのに有効ではあるが、100%ではない。

疑うことを放棄していい理由にはならない。

 

 

 

 

 

 

 

「なのにさーイケメンのお兄さんって綺麗事ばっかり言ってその意見を押し付けてくるじゃーん。だから嫌いなんだよねー」

「ま、まあそう思っても仕方がないが………あんまり大きな声で言ってやるなよ」

「なんでー?嫌いなものを嫌いって言って何が悪いのー?」

自分の思うように生きている飛鳥のようなタイプは、他人を思いやるという意識が欠けている場合が多い。そのため今のような言葉が出てるのだ。

「あ、そういえば昨日飛鳥が帰った後、円城寺も同じようなことを言ってたぞ。『盲信して疑わないのは違うだろ』って

「………ユーレイのお兄さんも同じこと言ってたんだ。そっかー。ふーん………」

飛鳥は特に大きなリアクションはしなかったが、口元に笑みを浮かべていた。

円城寺と同じ意見で少し嬉しいらしい。

「よーし、じゃあユーレイのお兄さんにまたイタズラ仕掛けてこようかなー。それかもう一回プールに落とすとかー?」

「それだけは勘弁してやってくれ…………」

本当に死にかけたからな、あいつ。

 

 

 

 

 

 

 

そして昼休憩を挟み、午後は体育館に移動しバスケ大会が始まった。

ハルクチームと雷哉チームに別れ、戦力が均等になるようにメンバーを決める。

ハルクチームはハルク、俺、千尋、不知火。

対する雷哉チームは雷哉、円城寺、飛鳥、佐々木。

余った写実はひとまずは審判をやることになった。

「お!蓮と敵じゃねーか。容赦しねーからな!」

「お前がその台詞言うと怖いんだよ………」

「大丈夫デスヨマジシャンサン!ワターシがいますカラ!」

「そうだよれん!はるくいるからだいじょうぶ!」

「味方にいるだけでこれ程の安心感を与えてくれる人はいないでござるな」

全員から頼りにされるハルク。

それを見て俺は少し羨ましく思ってしまった。

俺もああやって誰かに頼りにされる人間になりたいな………。

「おいおい、そっちの戦力はハルクだけだろ?こっちは全員そこそこバスケ出来るんだぜ?バランスが大事なんだよバランスが!おっしゃ!全員ぶっ倒して勝とうぜ!」

「そうだな。やるからには負けらんねえな」

「暑苦しいなー。ま、でも弱そうな人狙ってボール盗ればいいでしょー」

「も、もももちろんわたくしもバスケ経験者でしてよ!アナタ達程度ならば余裕で倒せますわ!」

1人明らかにバスケが出来なそうな奴がいるが、それは置いといて。

「じゃあ始めるであります!」

写実がどこからか持ってきた笛をピーと吹き、試合が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言うと、勝負はかなり拮抗した。

まず俺達のチームだが、ハルクがとにかく強すぎた。

リバウンドを取り、シュートをブロックし、その高身長を活かしてダンクしまくっていた。

不知火は未経験者ではあるが、その異常に良い運動神経を生かして積極的に攻めていた。下手な経験者より上手いのではないだろうか。

千尋はバスケ自体はそこまでだが、運動量がとにかく多かった。

普段走り回ってスタミナがあるからだろう。

コートを縦横無尽に駆け回っていた。

一方、相手チームも1人を除いてとても上手だった。

雷哉は元々運動神経はいいし、体格もバスケ向きだ。

円城寺も身長は高いし視野が広いから的確にパスを捌いていた。

飛鳥は小柄ながらそのスピードを活かしてバンバンパスをカットしていた。

そして残りの佐々木だが………。

「おい莉央奈!とにかくパス回せ!」

「ワガママお姉さんドリブル全然出来てないよー」

「佐々木!?そっちはオレらのゴールだぞ!?」

酷い運動音痴だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ………わたくし、こんなにも運動が出来ないなんて………予想以上でしたわ………」

途中、スタミナ切れのメンバーが出てきたため、動ける人だけで続行することになった。

俺は勿論スタミナ切れメンバーで、隣には酷く落ち込む佐々木がいた。

「ま、まあそう落ち込むなよ。運動の得意不得意はあるんだし、別に運動が全てじゃないだろ?」

「うっさいですわ。………はぁ、アナタに励まされると余計に惨めな気分になりますわ」

なんて失礼な奴だ。

せっかく俺が励ましてやってるのに。

「皆様、お疲れ様です」

「お疲れさん。冷たいドリンク持ってきたで」

すると手に人数分のドリンクを持った綾辻と薬師院がやってきた。

「莉央奈様。お口に合うかどうか分かりませんが、どうぞこれをお飲み下さい」

「あ、ありがとうですわ。ごくごく…………プハー!最高の一杯ですわ!!」

「夢寺はんも飲み。水分ちゃんと取らんとあかんで」

「ああ。ありがとう」

1杯目のビールを飲んだおっさんのような声を出した佐々木の横で、俺もドリンクを受け取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば綾辻はんと喧嘩してるんやって?」

「!?」

薬師院に突如耳元でそう囁かれ、俺はビクッと体を震わせる。

「どうしてそれを………というか別に喧嘩じゃない」

「さっき綾辻はんから聞いたで。余計なお世話かもしれへんけど、早く仲直りした方がええんちゃう?」

薬師院にそう言われ、俺は頷く。

「ああ。ちょうど休憩中だし声かけてみるよ」

「その意気や。うちも仲間が喧嘩してるのを見るのは心苦しいしな」

「悪いな。それとだから喧嘩じゃない」

背中を押された俺は、食堂に戻る綾辻の背中を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「綾辻!」

「!?ゆ、夢寺様………?」

後ろから声をかけると、綾辻は驚いたように後ろを振り返った。

「昨日のこと、本当にすまなかった」

俺は綾辻に向けて深く頭を下げた。

「え!?」

「わざわざ声をかけに来てくれた綾辻に対して酷い態度を取ってしまった。ごめん」

「そ、そんな夢寺様!?顔を上げて下さい!?」

慌てて綾辻は顔を上げるように言ったが、俺はしばらくそのままの姿勢でいた。

「私も、その、急に押しかけてしまったので………。あれは夢寺様が怒っても仕方がありません。私が一方的に悪かったと思います」

「いや、明らかに俺が悪い。八つ当たりしただけだからな」

「………ふふ」

俺が顔を上げると、綾辻は笑っていた。

「でしたらおあいこですね。昨日はお互いに悪かったということで、仲直りしましょう」

「………ああ、そうだな」

俺もつられて笑う。

よかった。ちゃんと謝ることが出来た。

「夢寺様は運動、楽しんでいますか?」

「ああ。楽しいしだいぶ気持ちも楽になった」

「そうですか。体を動かすことはストレスの解消にも繋がりますから。思う存分楽しんで下さいね」

「ああ。ありがとう」

「いえ、私も皆様が楽しそうな姿が見れて何よりです」

いつもの優しげな笑みを浮かべそう話す綾辻としばし立ち話をした後、俺は体育館に戻り、しばらくの間バスケを始めとする球技に参加し体を動かし続けた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーしオメーら!これから宴会するぜ!!」

午後4時過ぎ。

体育館での球技大会が全て終了した後、雷哉がそう宣言した。

「宴会………?」

「おう!宴会場で今日のお疲れ様会な!!勿論、全員参加だよな!」

「で、出たであります………。あの体育会系のノリ、某は本当に苦手なのであります………」

「わ、わたくしもうヘトヘトですわ………部屋に帰ってゆっくり休みたいですわ…………」

「よし、全員参加だな!!じゃあオレは先に会場準備してっから!早く来いよ!!6時過ぎぐらいから開始な!」

雷哉は言いたいことだけ言うと走り去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

「………あのバカ、宴会やるって料理はどうすんだ。何も準備してねえぞ?」

「でしたら、私がお作りします。普段から料理担当で慣れていますから」

「うちも微力ながらお手伝いさせてもらうで。普段は任せきりやし、少しはみんなに貢献しないとな」

「………しょうがねえ。こうなったなやるしかねえか」

「………ちょっと夢寺サン。あの暴走男どうにかしてくださいませ。アナタの友達なのでしょう?」

「あいつは一回決めたら絶対に曲げない奴だからな。誰が何言おうとも無駄だ」

「わーい!みんなでごはんだー!!」

「パーティデス!!美味しいご飯たくさん食べるデース!」

「なーんでここまで元気なんだろうねー。まーボクも参加しようかなー」

というわけで、前回同様、パーティが催されることになった。

 

 

 

 

 

 

 

シャワーを浴びて汗を流した後、俺は宴会場へ足を運ぶことにした。

少し早いが、何か手伝えることがあれば手伝っておきたいと考えたからだ。

そして中に入ると、

「………やあ、夢寺君」

「…………ど、どうもだす」

「結城、それに桃林も」

スポーツ大会には参加していなかった2人がいた。

「昼は参加出来なくてごめんね」

「いや、謝ることじゃない。もう外に出ても大丈夫なのか?」

「うん。正直、まだ完全に吹っ切れたわけじゃないんだけど、このまま閉じこもっていても何も解決しないと思ったからね」

「そうか」

結城は笑みを浮かべそう言った。

よかった。いつもの結城だ。

「桃林も平気なのか?」

「わ、ワタシは昼出なかったのは運動が大嫌いだからで………。それに晴翔君が心配だったからだす」

「桃林さんが定期的に部屋に来てくれたんだ。おかげで僕も元気を出すことが出来たよ。ありがとう、桃林さん」

「そ、そんな………!は、晴翔君のためなら、な、なんでもやるだす!!」

桃林は俺達の見ていないところでも懸命に結城を励ましていたらしい。

お礼を言われた桃林は顔を赤くして照れている。

「僕達、さっき風神君に声をかけてもらってね。昼参加出来なかった分、せめて夜だけでも顔を出そうかなと思って」

「は、晴翔君が参加するならワタシも参加するだす!」

これで2人が合流か。

となると、残りの2人である八尋と天草が心配だが………。

果たして大丈夫だろうか。

少し様子を見に行ってみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言うと、2人は参加しないとのことだった。

八尋は「今忙しいので話しかけないで下さい」と一蹴され、天草は「………すまない…………。体調が優れないんだ……………」と言われてしまった。

体調不良の天草はまだしも、八尋は一体何をしているのだろうか。

千尋に聞いたところ、千尋も八尋が何をしているか知らないという。

そんなこんなで準備の手伝いやらをしているうちに、あっという間に6時になった。

「よーしオメーら!今日はじゃんじゃん食っていいぜ!オレの奢りだ!」

「ふざけた事抜かしてんじゃねえ。誰がこの料理作ったと思ってんだ」

急に宴会と言われ料理を作らされた円城寺はかなりキレている。

そりゃそうだ。

終わってたから2時間足らずで全部用意しろと言われたら俺だってキレる。

「わりいわりい。けどオメーらのおかけで楽しい宴会が出来そうだし、感謝してるぜ。じゃあ早速始めようぜ!乾杯!」

「「「「乾杯!」」」」

こうして、ここに来てから2回目のパーティが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

宴会が始まりしばらくすると、料理がなくなり始めた。

「も、もう料理が無いであります!」

「結構たくさんあったけどねー。誰がそんなに食べたのー?」

「いや、どう考えてもコイツだろ」

雷哉が指差したのは、無言で次々と料理を平らげていく不知火だった。

「吸い込まれるように料理が消えていきますわ。一体どんな胃袋を持ってるんですの?」

「もはや怪奇現象やねえ………」

「………ハァ。ちょっと待ってろ。追加で料理作ってくる」

「円城寺様。私もお手伝い致します」

「いや、1人で問題ねえよ。澪はパーティ楽しんどけ。たまには休息も必要だろ?」

「………すみません。ではお言葉に甘えて」

円城寺がため息をつきながら再び食堂へと戻って行った。

「じゃあ僕は円城寺君の手伝いでもしてくるよ。みんなは引き続き楽しんで」

「わ、ワタシも行くだす!」

結城と桃林も宴会場も出て行った。

「ひとまず、今ある料理で楽しむしかないな」

「うん!千尋がまんする!」

「ワターシも大人なので、我慢出来マース!!」

「………俺もしばらくしたら行くか」

もう少ししたら俺も配膳を手伝うとしよう。

俺はそれまでの間、雷哉にダル絡みされたり、飛鳥のイタズラを止めたりしながら宴会を楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「円城寺、運ぶの手伝いに来たぞ」

「おう、助かる」

しばらくした後厨房に行くと、円城寺が忙しなく動き料理を作っていた。

「そこにある奴を全部持ってってくれ。ある程度運んだらもう来なくていいぞ」

「お前も参加したいだろ?俺でよければ料理も手伝うが」

「多分てめえに任せるより俺がやった方が早え」

それはその通りだ。なんの反論も出来ない。

「………心配ねえよ。落ち着いたら俺も参加するからよ」

円城寺は親指を立て心配ないことをアピールする。

「そうか。なら俺は………」

「なあ蓮。答えたくなけりゃ別にいいんだけどよ………昨日のビデオ、てめえはどう思った?てめえのビデオには何が映っていた?」

俺が宴会場に戻ろうとすると………円城寺が突如そう声をかけてきた。

「俺は……家族の映像だった。母親と弟、それに妹だ。最初は俺に向けて元気にメッセージを送っている映像が流れた………。だがその後、俺の家族が全員血塗れで倒れている映像に切り替わったんだ。あの映像が本物か捏造かは分からないが………俺は捏造だと信じたい」

「………そうか。悪いな、辛い話させて」

「大丈夫だ。円城寺、お前の映像は………」

俺がそう聞くと………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「蓮。どうやら今回の映像、2パターンあるっぽいな」

円城寺は手を止めて突如振り向くとそう言った。

「2パターン………?」

「ああ。ちなみに俺の映像には予想してなかった人物が映った。どうやら俺には生き別れの兄妹がいるらしい。そして俺が殺人をする、もしくは俺が死ななとそいつが死ぬぞって脅してきやがった」

「生き別れの兄妹………?その兄妹は生きてるのか?」

「ああ。今もピンピンしてる。今回の俺らに配られた映像は、その人の考える一番大事な人間が()()()()()映像を流すパターンと、身に覚えのない大切な人の()()()()()映像を流す2パターンだ。他の何人かに確認してみたが、全員このどちらかのパターンに当てはまった」

「そう、なのか…………」

自分に身に覚えのない大切な人か。

それこそ、モノワニが映像を捏造したのではないだろうか。

何せ俺らはここに来てから記憶がないのだから、いくらでも大切な人なんか適当にでっち上げられるだろう。

「まあどっちにしろ俺は殺人なんか起こさねーし死ぬ気もねーよ。蓮、てめえもそうだろ?」

円城寺はニヤリと笑った。

「ああ。勿論だ」

「だよな。あのクソワニの言う通りにするなんて癪だし、あのブサイク面で喜ばれるのなんてもっと癪だからな」

俺達は互いに笑い合う。

「おっと、引き留めちまって悪かったな。この料理、運んでくれや」

「分かった」

俺は両手に皿を持ち、宴会場へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宴会場に戻った時、俺は愕然とした。

手に持った料理を思わず落とすところであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とっと次のやつ持ってきなさい!!わたくしが命令してるんでしゅのよ!!」

「そ、某だけどうして女の子にモテないのでありますか………!うわああああああああああああん!!」

「ワハハハハハハハハ!誰でもかかってこーい!!オレは天下無敵の最強男、その名は風神雷哉様だぜ!!!ワハハハハハハ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

宴会場は地獄と化していた。

 

 

 

 

 

 

 

…………なんだ、これは。

一部の人間が大暴れしている。

どう考えても普通の状態ではない。

「ごめんな、夢寺はん」

すると入口付近にいた薬師院がごめんと手を合わせ俺に謝る。

「実はいつの間にか、誰かがジュースじゃなくて酒を持ち込んでたみたいなんよ。それで気が付いたらあのザマや。うちが注意して見てればこんなことにはならんかったんやけど………」

「いや待て。そもそもなんで酒が置いてあるんだ。俺達未成年だろ?」

「フフフフフ………夢寺サマ、パーティにはお酒がないと盛り上がらないでしょウ?」

すると俺の疑問に答えるためか、モノワニが姿を現した。

「………お前の仕業か」

「フフフ。ですが勘違いしないで下さイ。ワタシはあくまでジュースの瓶と一緒に酒瓶を置いておいただけでス。持って行ったのはあくまで皆サマの誰かですヨ」

「それでも元凶はお前だろ。………ったく、余計なことしやがって」

「フフフ………ワタシは殺人をさせたいと思っていますガ、同時に皆サマの団らんを盛り上がる手伝いもさせて頂きたいと思っていまス。何故なら友人関係の構築は学生の本業ですかラ」

「どの口が言うとんねん。だったら早くうちらをここから出して学生の本業とやらに取り組ませて欲しいわ」

薬師院が驚くほど冷たく、そして怒りを滲ませた口調で言う。

「フフフ、それは出来ませン。では皆サマ、存分にお楽しみ下さいまセ………」

モノワニはどこかへと消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんやあれ。鬱陶しいわ」

「あ、ああ………」

隣で頬を膨らませている薬師院を見て俺は、『今後薬師院を怒らせることは絶対にやめよう』と心に誓った。

「おうおう蓮!飲んでるか!!!」

すると雷哉が笑いながら俺と肩を組んできた。

「酒臭っ!?お前どんだけ飲んでんだよ………」

「結構飲んだぜ!まあ細かいことはどうでもいいじゃねーか!!ワハハハハ!!」

こいつ………()()()()だ。

「にしてもよー蓮!オレを倒せる奴は出てこねーのかよ?」

「はあ?」

「オレって最強だろ?だから最近、オレの敵になる奴がいなくてつまんねーんだよな。あーあ、誰かオレをワクワクさせる奴いねーかな。あ、でも無理か。オレ最強だし!ワハハハハハハ!」

め、めんどくせえ!

というか早く解放してくれ!暑苦しいんだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆ、夢寺氏いぃぃぃぃぃ!!!」

雷哉の暑苦しい腕をやっとの思いで振り解いた瞬間だった。

写実が鼻水を垂らしながら抱きついてきた。

「おまっ………汚ねえよ!?」

「ど、どうじでえ………某はぁぁ…………女の子にモテないのでありましゅかああああ!」

これは相当酔ってるな。

「某は誰よりも女の子を想い、考え、妄想してるのに………どうじでえ某は触らせてすらもらえないのでありましゅううううううう!!!」

これは………()()()()か。ダルい。ダルすぎる。

「いや、お前のその行動は………下心がありすぎるというか………」

「しょれの何がいけないのでありましゅか!!女の子のおっぱいを触りたいと叫ぶことの何が悪いのでありましゅかあああ!!」

いや悪いだろ。下手したら捕まるぞ。

「もう某はおしまいでありましゅううううううう!!うわああああああん!!」

…………終わってるな。もうこいつは放置しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢寺しゃん!!!」

すると今度は誰かに引っ張られ、強制的に正座させられた。

目の前にはいつもいがみあっている相手、佐々木莉央奈がいた。

目はトロンとしており、酔っていることは誰がどう見ても明らかだった。

「な、何だよ………」

「アナタはいつもしょうやってわたくしのことばかにしてえ!!」

同じく正座をする佐々木がドンと皿を叩く。

「アナタはわたくしぃがどれだけしゅばらしい人間なのか分かっているのでしゅか!!!」

怒鳴るような声で俺に説教してくる佐々木。

こいつは………()()()()か。はぁ…………。

「わたくしぃ、本当はこんなこと言いたくないんでしゅの!けどいつも素直になれないんでしゅ!!だからあ皆サンについ悪口を言ってしまうのでしゅ!」

ん?これは意外なことを聞いたぞ。録音しておけばよかった。

「けど夢寺しゃん!!アナタはしゃんじゃんわたくしのことバカにしゅるし、わたくしはせっかくアナタとも仲良くしてやってあげようとしてるのに………本当に酷い人でしゅ!」

「いや、だからそれはお前が俺をバカにしてくるから………」

「口答えは許しましぇんわ!!!」

駄目だ。今のこいつに何か言ったところでより炎上するだけだ。

「あ!どこ行くのでしゅ!まだ話は終わってましぇんわ!!」

俺はすっと立ち上がるとその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

「…ふう。ひとまず離れられたか」

酔ってる奴らからは距離を取ることが出来た。

さて、俺は少し料理をつまんでからまた厨房に………

「夢寺殿」

「うわっ!?」

突如後ろから誰かに抱きつかれた。

その人物は………不知火だった。

「なっ!?不知火、お前………!」

「夢寺殿には色々感謝しているでござる。けど、それに対して拙者は未だ何も恩を返せていない状態。であれば拙者、ここは()()()()()()()殿()()()()()()でござる」

「不知火、まさかお前も………!」

振り返って見ると、真っ赤な顔で目がトロンとした不知火がいる。

こいつも飲んでるのかよ………!

そして恐らくこいつは………()()()()だ。

「某の貧相な体では物足りないかもしれないでござるが、その分はてくにっくで補うでござる」

そう言って彼女はより体を密着させてくる。

そ、そんなことされたら………胸の柔らかな感触が伝わってきて………!

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

すると入口で皿を運んできた綾辻がこちらを見て驚愕している。

地面には落として割れた食器と料理が散乱していた。

「なっ!?な、なななななななにをしているんですか!?」

綾辻がこちらに近づいてくる。

「おや、邪魔が入ったでござるな。では拙者の営みはまた夜にでも………」

不知火は俺から離れると、隙をつき俺の頬にキスをした。

「えっ!?」

「えええええ!?」

俺と綾辻の驚きの声がシンクロしたと同時に、不知火は逃げて行った。

「し、しししし不知火様!!いくらなんでもそれはいけません!!絶対にダメです!!!」

そして何故か不知火を追いかける綾辻。

俺はみるみるうちに自分の顔が真っ赤になるのを感じた。

な、なんで俺は頬にキスくらいでこんなに赤くなってんだ!?

いかんいかん。一旦自分を落ち着かせないと。

それにあいつらのために水を取ってきた方がいいな。

俺は水を取ってくるため、慌てて食堂へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ………!?てめえ何しやがるんだコラァ!!!」

「ご、ごめんだす………」

「だ、大丈夫円城寺君?」

「ん?」

食堂へ入ると円城寺の怒ったような声と桃林が謝る声が聞こえた。

「何かあったのか?」

「ゆ、夢寺君………」

厨房へ慌てて入ると、びしょ濡れになった円城寺と申し訳なさそうに謝る桃林、そしてキッチンペーパーで濡れた円城寺を拭く結城の3人がいた。

「桃林さんが躓いて円城寺君に水を掛けてしまったんだ」

「ったくよ………どこまで鈍臭いんだてめえは」

「ご、ごめんだす…………。急いで持って行こうとしたらつい………」

「…………チッ、次からは気をつけろや」

円城寺はここでさらにキレて暴言を吐くかと思ったが、意外にもあっさり謝罪を受け入れた。

「けどこのままじゃ風邪引いちゃうね………僕大浴場からタオルを持ってくるよ」

「い、いや………ワタシが取ってくるだす!円城寺君に迷惑かけたのは、ワタシだすから………」

「変な気回すな。勝手に部屋戻ってシャワー浴びるからてめえは飯運んどけ」

「で、でもワタシがそれじゃ気が済まないだす!」

桃林は相当申し訳ないと思っているのか、珍しく自分の主張を曲げない。

「………わーったよ。じゃあ俺がシャワー浴びてる間にタオル取ってきてくれや。後で洗って返すからよ」

「わ、分かっただす!だ、だから晴翔君は来なくても大丈夫だす!」

「そう?ならお願いしようかな」

桃林はコクコクと頷くと、円城寺と一緒に食堂を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼女、ここ数日でだいぶ積極的になったね」

「ああ。あいつも自分なりにいい方向へ変わろうとしてるんだな。これも結城のおかげじゃないか?」

「いや、僕は何もしてないよ。彼女が自発的に変わろうと努力した結果だと思う。僕は寧ろ彼女に励ましてもらったくらいだよ」

結城は少し嬉しそうにそう話す。

確かに結城が動機の件で落ち込んでる時も桃林が側で励ましてたな。

「僕も彼女の前向きな姿勢を見習わないとね。………よし、じゃあ僕は料理を運ぶよ」

「俺も手伝おう」

「え?でも夢寺君は何か用があってここに来たんじゃないの?」

「水を取りに来ただけだ。酒で酔っ払ってるどこかのバカのためにな」

「さ、酒!?」

雷哉の奴、相当酔ってたからな。

それに他の何人かも酒でベロベロになってるし、いい加減水飲ませてやめさせないとまずいことになるだろう。

そんな事を考え、俺は結城と食堂から出ようとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如視界が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

俺達は驚き思わず立ち止まる。

一瞬で電気が全て消えてしまった。

「停電、かな?」

「ブレーカーが落ちたのかもしれない。一旦料理を置こう」

「そうだね」

俺と結城はまた食堂へ入り、手探りでテーブルを探す。

「あった。ここに置こう。大丈夫か?」

「うん。ちゃんと置けたよ」

「どうする?宴会場に戻るか?」

「いや、もし一時的な停電ならすぐ復旧するだろうし、少しここで待とう。暗い中進んで転ぶと危ないしね」

「分かった」

こうして手ぶらになった俺達はその場で電気が付くのを待つことにした。

しかし………5分経っても付く様子はない。

「おかしいね………モノワニが対応すると思っていたのに」

「何かトラブルがあったのかもしれないな」

するとさらに数分後、スピーカーから音が聞こえた。

『えー皆さま、ただいまブレーカーが落ちたことにより全館停電状態となっておりまス。復旧作業は夜の12時までかかる予定でス。ご不便をおかけして申し訳ありませン」

「………12時まで?」

今は夜の9時だから、あと3時間はこの暗闇状態で過ごさなければいけないということになる。

「どうする、結城」

「そうだね………。やっぱ宴会場に戻ろうか。宴会場の様子が気になるし、もしらしたら怪我人が出てるかもしれないから」

「分かった。ゆっくり戻ろう」

俺達はお互いに足元を確認し合いながら、宴会場へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな大丈夫!?」

宴会場に着くと、結城が大声で全員に呼びかけた。

「その声は………結城様ですか?」

「バトミントン部サン、無事帰還デース!!」

「あと、一応俺もいるぞ」

俺もついでに存在をアピールしておく。

「夢寺様………!どこかお怪我はありませんか?」

近くにいた綾辻が暗闇越しに声を掛けてくる。

「大丈夫だ。綾辻こそ怪我はないか?」

「はい。私は宴会場の端にいましたので、特に何かにぶつかったり等もありませんでした。他の方も無傷です」

「そうか。よかった」

ひとまず怪我人がいないことに安堵していると………

「おー蓮!どこ行ってたんだよ!」

暗闇から雷哉が現れ俺と肩を組んできた。

「だから酒臭っ!?雷哉お前飲み過ぎなんだよ………」

「そりゃあパーティだから酒飲むに決まってんだろ!それにしてもこの停電もサプライズの一種か?誰がやったか知らねーけど中々気がきくぜ!ハハハハハ!!」

うわぁ、めんどくせえこいつ………。

そういえば、何で雷哉はこんな暗闇で俺が来たってすぐ分かったんだ?

「2人とも、パスポート開くとええよ。ちょっと物足りないけど、パスポートの光が灯の代わりになると思うで」

すると俺の疑問に答えるかのように薬師院が助言をしてくれた。

確かに周りをよく見ると、何人かが自分のパスポートを灯の代わりにしている。

なるほど。だから雷哉は俺が見えていたのか。

早速俺と結城もパスポートを起動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひとまず停電は12時まで続くらしいから、今日のパーティはお開きにしよう。片付けは明日の朝みんなでやることにして今は個室に戻った方がいいと思う」

「えええ〜〜〜〜。わたくしぃ、もっとパーティしたいでしゅわあ!まだまだ飲み足りましぇんわあ!!」

「某もじぇんじぇんまだいるでありますぅ!!!」

「オレもいけるぜ!ワハハハハハハハ!」

「拙者もまだまだでござる」

佐々木、写実、雷哉、不知火の酔っ払い四人衆はこの事態でもまだ飲むつもりらしい。

「はいはい、楽しいのは分かったけどこんな状態じゃ出来ひんやろ?また後日できるんやし、今日はもう終わり。大人しく帰ろな?」

すると薬師院がそう声をかけ、テキパキと帰る準備を進めていく。

流石『超高校級の女将』。実に手慣れている。

「うちがこの4人何とか部屋に帰らすから、他のみんなは先戻っててええよ」

「そう?………ならお願いしてもいいかな?」

「じゃあちひろもてつだうよ!つきのひとりじゃたいへんでしょ?」

「俺も手伝おう。女子にだけやらせるわけにはいかないしな」

薬師院1人でやらせるわけにはいかないと思い、俺は手伝う旨を申し出る。同じように千尋も手を挙げた。

「お、それは助かるわぁ。じゃあ千尋はん、お願いしてもええ?」

「うん!」

「千尋さん、夢寺君。ありがとう。じゃあ他のみんなは戻ろうか。くれぐれも怪我しないようにね」

こうして、俺達以外の参加者は個室へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

呂律が回っていない佐々木、泣き続ける写実、絡みつき耳に息を吹きかけてくる不知火、そして煩い声を出す雷哉をなんとか無事に個室に連れて行くことが出来た。

「それじゃ、うちら解散しよか」

「うん!」

「そうだな」

俺達は互いに自分の個室へと向かっていく。

「なあ夢寺はん。ちょっとええ?」

すると、後ろから薬師院に声を掛けられた。

「どうした?」

「この停電、少し変やと思わん?」

「変?」

「だって停電なんて普通、そう簡単に起こるもんやないやろ?それに復旧に3時間かかるって、よっぽどのことやとうち思うんやけど」

どうやら薬師院は、この停電を不審に思っているようだ。

「つまり薬師院はこの停電には何か裏があるんじゃないかと思ってるってことか?」

「その通り。例えば誰かが意図的にブレーカーを落としたとかありそうやない?停電の混乱に乗じて誰かを殺すために、とか」

「ブレーカーを落とす?どうやってそんなこと………あ」

俺が何か思いついた顔をすると、薬師院は頷いた。

「そう。体育館の舞台袖にブレーカーあったやろ?存在さえ知ってたら誰でも操作できるし、停電を起こす事自体簡単だから、あり得へん話やないやろ?」

「………まあ確かに、可能性としては考えられるな」

薬師院の話は一応筋は通っている。けど、それはあくまで可能性。実際に起きたわけじゃない。

「けど、それはあくまでそういう事も想定されるっちゅう話や。だから夢寺はん、明日一緒にブレーカーの様子見に行かへん?」

どうやら、薬師院が俺に言いたかったことはそれらしい。

「ああ。大丈夫だ。薬師院の話を聞いてたら俺も気になってきた。俺でよければ一緒に行かせてもらう」

「ありがとな。もしこれで何もなかったら夢寺はんには申し訳ないんやけど………確かめる価値はあると思うで?」

こうして俺は薬師院と明日ブレーカーを見にいく約束を交わして個室へと戻った。

彼女の考えすぎで終わればそれでいいんだけどな………。

俺は一抹の不安を抱えながら就寝準備を整え、眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンドン!

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンドンドン!!

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンドントン!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだ!?」

力強く何度もドアを叩かれて俺は飛び起き、急いで廊下に出た。

「た、大変だす!!」

その正体は桃林だった。

今まで見た事がない表情をしている。

息を荒げゼーハー言っていることから、おそらく走ってきたのだろう。

「どうしたんだ?そんなに慌てて」

「た、体育館に………とにかく体育館に来て欲しいだす!」

「体育館に………?一体どうして」

「いいから早く来るだす!他の人も全員起こすだす!」

「!?まさか………!」

桃林の焦り具体に俺は一瞬で背筋が凍る。

この場所で一番焦る瞬間…………それは殺人が起きた時。

「分かった!ひとまず全員叩き起こす!」

俺は寝巻きのまま片っ端から全員の個室のドアを叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、一部の人間を除いてほぼ全員が姿を見せた。

そして急いで地下へと向かう。

体育館に近づく度に心臓の鼓動が速くなる。

緊張から吐き気が込み上げてくる。

「こ、ここだす!」

桃林が扉を開け、俺達が一斉に体育館へと雪崩れ込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピーンポーンパーンポーン…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「死体が発見されましタ。一定の捜査時間の後、学級裁判を開きまス。皆サマ、至急B1Fの体育館へとお集まり下さいまセ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日みんなで楽しんだバスケ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その会場となった体育館は一夜明けた今、静かさに包まれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日誰かが片付け忘れたバスケットボールが転がるバスケコート…………………ではなく、正面にある舞台。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その舞台に信じられないものが飾られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舞台の壁に磔にされたその人物、円城寺 霊夜の虚ろな目は二度と光を灯すことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生存者

 

 

1.飛鳥 圭【スリ】

2.天草 京介【神父】

3.綾辻 澪【軍医】

4.円城寺 霊夜【オカルト研究家】

5.風神 雷哉【喧嘩屋】

6.北桜 千尋【ピアニスト】

7.北桜 八尋【作曲家】

8.佐々木 莉央奈【かるたクイーン】

9.写実 真平【カメラマン】

10.司 拓郎【秀才】

11.百々海 真凛【水泳部】

12.乃木 環【???】

13.ハルク ゴンザレス【ボディービルダー】

14.桃林 林檎【グルメリポーター】

15.薬師院 月乃【女将】

16.結城 晴翔【バトミントン部】

17.夢寺 蓮【マジシャン】

18.不知火 椿【くノ一】

 

 

 

 

残り14名

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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