ダンガンロンパ ルーナ   作:さわらの西京焼き

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2章終了です。
また新たな事実が明らかになります。




オシオキ編

 

 

 

 

 

 

 

「皆サマ、見事2連続正解でございまス。《超高校級のオカルト研究家》円城寺 霊夜サマを殺したクロは《超高校級のグルメリポーター》桃林 林檎サマでしタ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

「どうして…………どうして円城寺君を殺したんだよ!!」

呆然と空を見つめる桃林に対し、結城は悲痛な叫びを上げる。

「僕達は………同じ希望ヶ峰学園の仲間じゃないか…………!」

「そうであります!円城寺氏は某らの面倒を見てくれた優しい人だったのに!」

「ひどいよりんご!!」

「ふざけんなよ桃林!円城寺を殺した理由言えよ!」

俺達が最も知りたいこと。

何故………円城寺を殺したのか。

その俺達全員からの問いに対し桃林は…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どうして?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ふふふ…………そんなの決まってるだす」

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの男がワタシや晴翔君に対して酷い態度を取ってたからに決まってるだす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………え?」

不気味な笑い声と共に桃林はそう答える。

意味がよく分からない回答に、俺は開いた口が塞がらなかった。

「あ、あの男、ワタシのこと常に馬鹿にしてきただす。口も悪いし、すぐ怒鳴るし、最低の人間だす」

「何より許せなかったのが、………晴翔君に対して口が悪かったことだす」

「僕への………態度?」

唖然とする結城に対して桃林はまたもや不気味な笑い声を出す。

「………ふふふ。は、晴翔君はあの男から酷いこと沢山言われてただす。晴翔君はとっても傷ついて困ってただす。だから晴翔君の不安の種であるあの男の存在を抹消してあげただす」

「晴翔君はあの男がいなくなってから表情が柔らかくなっただす。やっぱり不安の種を除いた甲斐があっただす」

「ふふふ…………晴翔君にはやっぱり笑顔でいてもらわないといけないだすから………ふふふ」

さっきまでの態度が嘘のように、嬉しそうに語る桃林。

はっきり言って、異常だった。

 

 

 

 

 

 

 

確かに円城寺は口は悪かったし、お世辞にも態度がいいとは言えなかった。

ただそれは、別に俺達に対して悪意を持っているというわけではなかった筈だ。

ぶっきらぼうだけど、面倒見がよく、俺達のことを常に考えてくれる。

それが円城寺霊夜という男だった。

桃林に対しても確かに当たりは強かったが、馬鹿にしてる様子はなかった。

結城に至っては悪口を言われているのを見たことすらない。

それなのに………百歩譲って桃林が円城寺に馬鹿にされたと勘違いして腹が立ったことは分かるとしても、結城のために円城寺を殺し、結城の笑顔を取り戻した?

仲間想いの結城が犠牲者が出て笑顔になんかなる筈がない。

あいつの言ってることは、端的に言うと…………めちゃくちゃだった。

それに、当たりが強いというだけであんな風に人を殺すなんて…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、それだけの理由で円城寺を殺したのかよ!?」

俺と同じ事を思ってた雷哉がそう発言する。

「それだけ………?ふふふ、こ、殺すには十分すぎる理由だす。あ、あんな男死んで当然だす」

「あ、頭がおかしくなりそうですわ………。こんな人とわたくし達は今まで一緒に過ごしてきたんですの?」

円城寺を殺したことを全く悪びれる様子もなく、寧ろ自分のしたことを正当化する発言。

桃林の結城に対する異常なまでの恋心。

それが桃林を殺人に走らせたのか………。

 

 

 

 

 

 

 

「………桃林様が仰っていることは私には何一つ理解出来ません」

綾辻が顔に怒りを滲ませながら桃林に対して口を開く。

「ふふふ………男に恋したことすらない芋女がわ、ワタシに説教だすか?随分と偉くなったもんだすね」

「確かに私は男性に対する恋愛経験はありません。しかし、その私でも、今桃林様が仰っていることは自分に都合のいい言い訳だという事くらいは分かります」

「う、うるさいだす!!」

「結城様が桃林様に円城寺様を殺してと頼んだのですか?いえ、愚問ですね。結城様がそんなことを言う筈がありません。貴女は結城様の気持ちを勝手に解釈して、被害妄想を膨らませ、自分に都合が悪いからと円城寺様を殺害したんです。結局、貴女は自分勝手な理由で円城寺様を殺したに過ぎません」

綾辻は鋭い目で桃林を睨みつけながら怒りをぶつける。

…………こんな綾辻を見るのはここに来て初めてかもしれない。

「ふふふ………ま、負け犬の遠吠えだすか。自分の恋愛が充実してないからってワタシに八つ当たりなんて、みっともな…………」

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけんな!!!」

「ふごっ!?」

すると桃林の巨体がぐらつき、後ろへと尻餅をついた。

今まで我慢していたのだろうが、とうとう怒りの限界が来たのだろう。

飛鳥が桃林に飛びかかかり右頬を殴ったのだ。

「スリサン!?」

「そんなくだらない理由でユーレイのお兄さんを殺しただって!!馬鹿にするのも大概にしろ!!なんでユーレイのお兄さんが死ななくちゃいけなかったんだ!!」

50cm以上の身長差がある相手に臆すことなく、顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げる。

「こ、このクソチビ!!お、お前も同罪だす!わ、ワタシと晴翔君の悪口ばかり言って困らせた大罪人だす!一緒に殺しておけばよかっただす!!」

しかし桃林は、飛鳥に謝るどころか、殺しておけばよかったという信じられない発言を飛ばす。

「黙れこの豚野郎!!ならボクが今ここでぶっ殺してやる!!」

「飛鳥氏!?これ以上の暴力はまずいであります!!」

「少し落ち着かれよ。飛鳥殿の気持ち、痛いほど分かり申すが、ここは我慢でござる」

またもや殴り掛かろうとする飛鳥を写実と不知火が押さえる。

 

 

 

 

 

 

「おやおや飛鳥サマ。いくら()()()()()からってそこまで熱くなってはいけませんヨ」

すると静観していたモノワニが突如口を開いた。

「動機だと………?」

「えエ。皆サマ、気にはなりませんでしたカ?前回の裁判と今回の裁判で飛鳥サマの態度が異なっていたことヲ?」

「そりゃあまあ気にはなってたけどよ、それは飛鳥と円城寺が仲が良かったからだろ?」

「勿論それもそうですガ………実はこれには大きな理由があるのでス」

「まさか…………それが『動機』と関係してるのか?」

俺の発言に対してモノワニはフフフと笑う。

「夢寺サマは鋭いですネ。そうでス。飛鳥サマがここまで乱心する理由、それが今回皆サマに配った『ビデオ』なんですヨ」

「…………!」

モノワニの言葉に対し、下を向き拳を震わせる飛鳥。

何も言い返さないということは、モノワニの話が事実であるということだろうか。

「まあ口で説明するより実際見てもらったほうがいいでしょウ。ではどうぞご覧下さイ」

モノワニはモニターを出現させると、映像を映し出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『霊夜よ。入学おめでとう』

『元気にしてるかい?』

そこには、坊主頭の眼鏡をかけた70代前後の男性、そして隣には白髪頭の同じく70代前後と推測される女性が映っていた。

「これは………誰の動機ビデオなんですの?」

「これは円城寺サマのビデオですヨ。まあ黙って続きを見て下さイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『最初あんなにも小さかったお前さんがこんなにも立派に成長して、私達はとても誇らしいよ』

『霊夜が希望ヶ峰学園に入るって決まった時、私は思わず感極まって涙してしまったよ』

『婆さん、10分くらいずっと泣き続けていたんだぞ』

『これあなた、恥ずかしいことをバラすんじゃありません」

2人の男女は楽しそうに笑い合っている。

この老夫婦らしき人物………年齢的に恐らく円城寺の祖父母だろう。

 

 

 

 

 

 

 

『霊夜、急な話で済まないが、実は一つお前に伝えておかなければならないことがある』

すると祖父が先程とは一転、真面目な顔つきで口を開いた。

『お前さんにはずっと隠していたことなんだが………高校生になるお前なら分かってくれるだろうと思って話すことにした』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『霊夜、落ち着いて聞いてくれ。実はお前さんには()()()()がいる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前さんの妹は産まれてすぐ、私の息子、つまりお前さんの父親に捨てられたんだ。寺に女は必要ない、という暴論で私達をねじ伏せてな』

『当然私達も反対したよ。しかし、お前さんの父親はそれを無視し、遠く離れた公園に妹を捨てたんだ。親として決して許されない、最低の行動だ。あいつの性格はお前さんもよく知っているだろうが、あの男はそのようなことを平気でする奴だった』

『私達はお前さんの妹を必死になって探した。しかし見つからなかった。お前さんの妹は誰かに拾われて無事に育っているという情報を手に入れたのは、つい最近の事だ。どうやらお前さんの妹は巷では()()()として名を馳せているらしい。私達としては複雑な気持ちだよ。孫が無事であるという事と、孫が窃盗犯として警察から追われているという事を同時に知ったのだからね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そしてそのお前さんの妹だが…………今年お前さんと同じく希望ヶ峰学園に入学するらしい」

『これも運命なのかねぇ…………』

『そうかもしれないな。そして、そのお前さんの妹だが、その名前は…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『【円城寺 圭】』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、画面にノイズが入り映像が終了する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで皆サマもお分かりになったでしょウ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「飛鳥 圭サマ。アナタの本当の名前は《円城寺 圭》。つまりアナタは…………円城寺サマと産まれて間も無く生き別れた双子の妹なんですヨ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジ、かよ…………!?」

「………これは流石に驚きやわ。空いた口が塞がらへん…………」

「い、言われてみれば円城寺サンと飛鳥サン、目元とかそっくりですわ………」

「ワーオ………。全然気がつきまセンデシタ………」

衝撃の事実に全員が驚愕する。

「飛鳥………。だからお前はこんなにも必死に………」

「………ボクはさっきの映像を捜査の時に見た。そこでボクは知ったんだよ。ユーレイのお兄さんとボクが()()()()()なんだって」

「で、でも!なら円城寺氏と飛鳥氏はどうして苗字が違うのでありますか?」

「『飛鳥』って苗字は、ボクを拾ってくれたホームレスのおじさんが付けてくれたんだ。おじさんも『飛鳥』って苗字だったから」

「…………」

「皮肉だよね。こんなにも身近に大切な人がいたのに、気がついたのは本人が死んだ後だなんて」

自嘲気味に笑う飛鳥。

ずっと懐いていた相手が、実は双子の兄で。

しかもそれに気がつくことなく、訳の分からない理由で兄が殺されて

なんて残酷な事なんだろう。

話を聞いたみんなも、俯いたり目を伏せたりしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふ、…………ふふふ。やっぱそうなんだすね………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、桃林は違った。

桃林は体を揺らしながら飛鳥の元に近づく。

「…………何がおかしいんだよ!」

「やっぱり、あの男と同じ血が流れてるなら納得だす。人を困らせることしかしない生きる価値のないゴミ人間だす。ついでに殺しておけばよかっただす」

「………その言葉、そっくりそのまま返してやるよ……!今すぐにでもお前を殺してやる!」

飛鳥が激高してもう一度殴りかかる。

しかし今度は桃林はそれを受け止め、逆に思い切り張り手で飛鳥の頬を叩いた。

「うっ………!!」

「飛鳥!?」

体重の軽い飛鳥は数メートル吹っ飛ばされる。

「スリサン!?大丈夫デスカ!?」

慌てて駆け寄るハルクを他所に桃林は笑い出す。

「………ぐふふふふ。く、くそチビの癖にわ、ワタシに歯向かうからだす!わ、ワタシと晴翔くんの恋の邪魔をする奴は絶対に許さないだす!」

「…………貴方、本当に救いようがない人間ですね」

八尋が侮蔑の目線を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はると!りんごのこととめないと!!」

千尋が結城に桃林を止めるよう助けを求める。

「………僕の」

「はると?」

「僕の…………僕のせいなのか…………」

しかし、結城は絶望に満ちた顔で裁判台に両手をつく。

「………僕が桃林さんを止めていれば…………こんな事には…………」

「はると…………」

「ふふふふふふ…………!お、落ち込む晴翔くんもかっこいいだす…………。し、心配しなくてもいいだす。わ、ワタシが永遠には、晴翔くんの側にいるだす…………」

桃林は涎を垂らしながら恍惚の笑みを浮かべている。

もはや、周りの状況など一切見えていない。

そして、これから自分がどうなるかということについても理解していないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ジェントルマン」

「ん?何スかパイセン」

俺は、裁判終了後一言も喋っていないジェントルマンに対して声をかけた。

「いつ、天草と入れ替わったんだ。それにいつ、桃林はお前が入れ替わったことを知ったんだ」

「ああ、そんな事スか。今朝からッスよ」

ジェントルマンは退屈そうに欠伸をしながら答えた。

「といっても、1回目の裁判の後からオレっち目が覚めて、ずっとあのヘタレヤローに外出せって言ってたんスよ」

『ヘタレヤロー』とは天草の事だろう。

「でもあのヤロー、中々体の主導権渡そうとしないんスよ。けど、一昨日あたりからあのヤロー、メンタルやられて弱まってきてたんで、隙を見てオレっちが無理やり意識と体の主導権を奪い取ったんス」

「天草の意識は今もお前の体に残ってるのか?」

「いるッスよ。まあ今死にかけなんで、しばらく体はオレっちが動かすッスよ。またパイセンと一緒に楽しいこと出来るッスね!」

まるで何事もなかったかのように快活にそう話すジェントルマン。

「………あれ?でもあのミートボール女、どうやってオレっちがヘタレヤローと入れ替わったのを知ったんスかね?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

「………お前、何も思わないのか」

「ん?何がッスか?」

「お前が殺人の依頼を受けたせいで、円城寺は死んだんだぞ。それに桃林だって、お前が殺人を止めていれば桃林が殺人を犯す事もなかった筈だ」

「…………」

ジェントルマンは笑みを浮かべながら黙っている。

「………もしかして、お前が桃林を唆したのか?それに、あの桃林に宛てられた手紙もお前が書いたものなんだろ?」

「え?じゃああれは……自作自演ってことですの?」

佐々木が目を見開きながらこちらを見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………流石は夢寺パイセン。でも残念。()()()()()()()()()()ッス」

ジェントルマンは嬉しそうに笑みを浮かべた。

「半分だと?」

「確かに、あのミートボール野郎と手を組んだ時、あの女が犯人だとバレないように脅迫文を作ったのはオレっちッス。けど………()()()()()()()()()()()()ッス」

「別の奴?どういうことだ?」

「というか、そんなのもうどうでもいいじゃないッスか。この後処刑があるんッスよね。ならとっとと終わらせて帰りましょうよ。オレっち久々に働いて眠いんスよ」

「あなたは…………自分のした事を分かってるんですか!あなたがどれだけの人を不幸にして………どれだけのことを悲しませているのか分かっているんですか!!」

人の命をなんとも思っていないその態度に綾辻は激怒する。

「威勢のいい姉ちゃんだなァ。けどなァ、オレっちに説教しようなんて300年早いぜェ。オレっちが言う事を聞くのは夢寺パイセンだけだからなァ」

しかし、ジェントルマンは耳を貸そうとせず、欠伸を繰り返すのみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフ…………だいぶ盛り上がってきたようですガ、そろそろお開きの時間がきたようでス」

モノワニが不敵な笑みを浮かべ、そう宣言する。

「オシオキ、デスカ………」

「そう、オシオキの時間がやってきましタ」

「ふふふふふ…………………え?」

桃林の笑い声がピタリと止まる。

 

 

 

 

 

 

 

「では敗者となった《超高校級のグルメリポーター》である桃林林檎サンに対して………」

「ちょ、ちょっと待つだす!な、なんでワタシが処刑なんだすか!ワタシは何も悪い事してないだす!」

ここに来て信じられないことを言い出す桃林。

 

 

 

 

 

 

 

 

「スペシャルなオシオキを用意しましタ」

しかし、モノワニは当然、オシオキを止めることはない。

 

 

 

 

 

 

「だ、誰か助けてくれだす!!!」

桃林はその場に崩れ落ち、周りに対して助けを求める。

そこに、桃林に吹き飛ばされ、ハルクに支えられていた飛鳥が桃林の元へ早足で歩いて行く。

桃林はそんな飛鳥に対して、先程平手打ちをしたことも忘れて助けを求めるように手を出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それを飛鳥は思いっきり弾く。

そして、ゆっくり口を開くと………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くたばれ、クソ野郎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あ、あああ…………」

呻き声のようなものを上げ地面に伏す桃林。

「それでは、張り切っていきましょウ」

そんな桃林に対して、無慈悲にもオシオキの開始が宣言される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は、晴翔くん………!わ、ワタシは晴翔くんのことを想ってやったんだす…!晴翔くんはもそ、それを望んでた筈だす!!」

「………ち、違う………。僕は…………!」

「………こ、こんなにもお願いしてるのに助けてくれないんだすか!!!か、か弱いワタシがこんなにもお願いしてるのに!!!」

「やめてくれ…………そんな目で僕を見ないでくれ………!」

「わ、ワタシが死んでもいいって言うんだすか!わ、ワタシのこと一生支えてくれるって言ったのに!!」

「僕は…………僕は…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「オシオキタイム」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あぁ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから人は嫌いなんだす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員死んじゃえばいいのに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モモバヤシ リンゴさんがクロに決まりました。オシオキを開始します。

 

 

 

 

 

 

 

 

《超高校級のグルメリポーター》桃林 林檎 

処刑執行

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『満点⭐︎桃林レストラン』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

畑の広がる広大な土地。

 

 

 

 

 

 

その真ん中にポツンと置かれた椅子に桃林は座らされていた。

桃林の目の前には大量の料理。

 

 

 

 

 

 

 

そして後ろにはそれを見守る大量のモノワニ。

手拭いを付けていたり麦わら帽子を被っているモノワニが殆どであり、その格好は農家を想像させられる。

 

 

 

 

 

 

 

どうやら目の前の料理は農家姿のモノワニが作ったものらしい。

グルメリポーターである桃林が、自分達の収穫した野菜を使って作られた料理にどのような感想を述べるのか、気になって仕方がないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

桃林は、早速目の前の料理を食べ始める。

グルメリポーターとして得た知識と経験を活かして、誰もが聞いて心地よいリポートを披露する。

 

 

 

 

 

 

感想を聞いたモノワニは満足したのか、うんうんと頷きながら大衆から離れていく。

 

 

 

 

 

しかし、それで当然終わる筈もなく、料理は次々と運ばれてくる。

それに伴いモノワニの数も増えていく。

 

 

 

 

 

 

 

桃林は懸命に食し、リポートを続ける。

しかし、段々と桃林の食べるスピードが落ちていく。

 

 

 

 

 

 

そして、中々自分の料理の感想をもらえない事に苛立った料理人風のモノワニが、桃林に石を投げつけた。

 

 

 

 

 

 

それを機に、苛立っていた他のモノワニが次々と桃林に物を投げつけ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

あちこちに傷を負い、血だらけになる桃林。

しかし彼女は諦めることはなく、リポートを続ける。

これをクリアすれば自分は生きて帰れる。

あの自分を貶めた馬鹿どもに復讐出来る。

桃林の頭の中は怒りと復讐心、それで一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごぶっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すると突如、何か液体が溢れるような音と共に、桃林が口から吐血した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近くにいたモノワニが何かを手に持っている。

ドクロが描かれた小瓶だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桃林は慌てて自分の口を押さえるが、口から流れ出る血は止まらない。

それどころか、血の量がどんどん増えていっている。

桃林は咳き込むと、口の中で咀嚼していた食べ物と共に、大量の血を吐き出してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………し、しにだくない…………」

血の付いた手で顔を拭ったのだろうか、顔中血塗れになりながら声を絞り出す。

だが、無常にも血は口からどんどん溢れ出てきている。

そして、目や鼻や耳からも血が流れ始めた。

「…………い…………やだ…………」

穴という穴から血が流れ出ている状態。

もはや言葉を話すことすら困難である中、それでも桃林は口を開き、彼方に手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はるとぐん……………………たす…………け…………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桃林は地面にうつ伏せに倒れると、動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、オシオキはそれでお終いではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

包丁を持った職人のような格好をしたモノワニが現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モノワニは包丁を思い切り振りかぶると、桃林の首を切断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、頭、胸、腹部、手、腕、太もも、足、指。

体のパーツを細かく刻んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、

どこからか巨大なクレーン車が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

その隣には大きな鍋。

中に入っているのは…………熱湯だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

クレーン車はバラバラになった桃林の肉片を掴むと、鍋まで持っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、鍋の上で停止すると、熱湯の中に桃林を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面が切り替わり、小さなモノワニと大きなモノワニ2匹が楽しそうに食事をしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食卓には、桃林で出汁をとったスープ、そして肉片を炒めて作った肉野菜炒めが並んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、いやあああああああああ!!!!!!!」

「うわあああああああ!!!!!!」

「オシオキ終了でス。フフフ…………やはりこの瞬間が何より楽しいですネ。脳汁がドバドバ溢れ出てきますヨ」

桃林の処刑が………終わった。

それは、あまりにも凄惨で。

とても正気の人間が見ていいものではなかった。

「な、なんだよコレ………うっ!?き、気分が…………」

「こんなの…………こんなのあんまりですわ…………」

雷哉が涙目になりながら口を押さえている。

同じように佐々木も口を押さえながらぺたんと地面に座り込んでしまっている。

周りを見ると、写実が耐えきれず嘔吐し、ハルクが背中をさすっている。

一部の人間を除き、全員顔色が悪い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………もう、いやだよ…………どうして…………こんな…………」

すると、俺の隣で呆然とオシオキを見ていた千尋がそう呟くと、意識を失い後ろに倒れた。

「千尋!!!」

八尋が血相を変え千尋に駆け寄る。

「千尋!!しっかりしろって!おい!」

普段の八尋なら絶対に出さないような緊迫した声。

「綾辻!」

「千尋様!!」

俺は千尋を抱き抱え綾辻を呼ぶ。

綾辻はすぐに千尋を診る。

「…………大丈夫です。倒れる際に後頭部を打ってはいますが、意識はあります。ショックで気絶してしまったのだと思います」

「…………そうですか。よかった………」

心の底から安心したような八尋の声。

 

 

 

 

 

 

 

「……………………僕の…………僕のせいで…………くそっ!!!」

悔しさから、何度も何度も裁判台に拳を叩きつける結城。

「………結城殿。気持ちは分かり申すが………自傷行為は………」

「…………はは、もうおしまいだよ…………」

「………結城殿?」

結城の近くにいた不知火は即座に結城の異変に気がついた。

「僕のせいで…………全員が不幸になる。僕はみんなと団結して誰も死なせずにここから出たかったのに…………はははははは」

結城は狂ったように笑い出す。

「お、おい。結城の奴壊れちまったぞ。しっかりしろって」

「うるさい!!」

結城は雷哉の差し伸べた手を払いのける。

「おしまいだ!僕達はもうこのまま全滅するんだ!!うわああああああ!!」

「おい待てって!!」

結城は絶叫するとエレベーターに向かいそのまま帰ってしまった。

 

 

 

 

 

 

「クソ!!んだよアイツ!」

「無理もないやろ。結城はん、相当責任感じてたみたいやからね。でも、結城はんを責めることはうちらには出来ひんよ。殺人を止められなかった事件でうちらも同罪や」

薬師院は落ち着いた声で雷哉を諭す。

「………まあ、そうだな」

「さ!みんなも帰ろ。こんな場所、もう1秒たりともいたくないやろ?」

パン、と手を叩き薬師院はみんなに帰るように促す。

「………癪ですが同感ですわね」

「ワターシもこんな場所、二度と来たくありまセーン………」

こうして写実はハルクに支えられ、八尋が気絶した千尋を背負い綾辻がそれに付き添い………各々がエレベーターに乗る。

 

 

 

 

 

 

「やっと終わったのかよォ。じゃあオレッちも………」

「待てジェントルマン」

「ん?何スカパイセン」

俺は呑気に欠伸をしながら帰ろうとするジェントルマンを呼び止める。

「お前には聞きたい事が山ほどある。明日色々答えてもらうぞ」

「えーどうしよっかなー?パイセンが土下座して靴舐めてくれるなら答えてあげてもいいッスよ?」

こいつ………事件の当事者だというのに何故そこまでふざけた態度を取れるんだ。桃林が処刑されるところを見ていなかったのか?

「…………うわっ!パイセン冗談ッスよ!そんなにキレないで欲しいッス!」

俺の怒りの感情が顔に出ていたのか、ジェントルマンは慌てて自身の発言を否定する。

「けど答えられることとそうでないことがあるんで、それだけは分かって欲しいッス!オレっちにも色々事情があるんで!」

「………分かった。もういい」

「んじゃ!パイセンまた明日ッス!」

ジェントルマンは笑顔でそう言うと、エレベーターへと乗った。

去り際に、「やっぱ夢寺パイセン、怒ると怖ぇなァ」と呟いたのが聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

「夢寺はん、ちょっとええ?」

俺もため息をついてこの場を離れようとすると、薬師院から小さな声で呼び止められた。

「ちょっと話したい事があるんやけど」

「今じゃ駄目なのか?」

「みんなの前だと………ちょっとな」

「分かった。悪い、俺達は後で戻る」

「おう!オメーらも早く休めよ!」

代表して雷哉が答える。俺が手を振ると同時に、エレベーターは閉まった。

綾辻が不安そうにこちらを見ていたのは気のせいだろうか。

「ごめんな。夢寺はんが一番疲れてると思うのに」

「いや、大丈夫だ。それより俺だけにする話って………」

「うん、それがな………」

薬師院は軽く息を吸い込むと………

 

 

 

 

 

 

 

「今回の事件、まだ分かってない事があるやろ。それをハッキリさせておきたいと思ってな」

「…………成程。やっぱりそういう話か」

なんとなく想像はついていた。

薬師院は俺達の中だと頭の回転が早く、物事を冷静に見れるタイプだ。

裁判には確かに勝ったが、その過程で明らかになっていない謎がある事に気がついていた筈だ。しかし、状況がややこしくなると思い黙っていたのだろう。

「流石夢寺はん。気づいてたんやね」

薬師院はにこやかに拍手をする。

「ちなみに、それって何だと思うん?」

「俺が疑問に思ったのは2つ。1つは『誰が桃林に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』。もう1つは、『桃林はどこで()()()()()()()()()()()』。だ」

さっき、ジェントルマンは『桃林がどのようにして自分のことを知ったのか』と言った。つまり、ジェントルマンから桃林に正体を明かしたのではない。とすると、他に誰か桃林に話した奴がいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうやね。うちも考えたのはまさにそこ。けど、夜行塗料についてはあれやない?前回の動機で配られた凶器セット。桃林はんの凶器が夜行塗料やったんやない」

「いや、その可能性は低い。凶器セットはあくまで『人を殺す』ための道具だ。夜光塗料じゃ犯行の手助けは出来ても直接人を殺す事はできない」

「確かにそれはそうやな。夜光塗料を飲ませる………なんて事もないよなぁ。だって飲ませて殺すなら毒薬とかでええわけやし」

「ああ。だとすると夜光塗料なんて物をどこから調達したのか。それが疑問だ」

 

 

 

 

「………夢寺はん。ほんで夢寺はんに話したい事っちゅうのは、ここからなんよ」

薬師院は何故か小声で俺に話しかける。

「………なんで小声なんだ?」

「ふふ、なんとなくや」

何故か笑みを浮かべる薬師院。

やはり何を考えているのかよく分からない。

「実はな、さっきの2つの疑問の答え、うち分かったんや」

「本当か!?」

「ほんま。だからひとまず夢寺はんにだけ話しておこうと思ってな。夢寺はん口堅そうやし、信用出来ると思ってるから」

「そう思ってもらえるのは嬉しいが………そもそもどうして分かったんだ?」

「ん?だってそら……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「2つもやったの、うちやもん♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………は?」

「だから、桃林はんにジェントルマンの事教えたのも、桃林はんに夜光塗料を渡したのも全部うちやから」

………一瞬、時が止まった気がした。

目の前にいる薬師院月乃という女が何を言っているのか理解出来なかった。

「お前が…………やったのか?」

「ふふふ、夢寺はんのそのリアクション、満点やな♪」

「………どうしてだ?どうしてそんな事を…………」

「ん?それはな…………」

ふふふと微笑みながらくるくると俺の周りを回る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うちが()()()()やから♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………裏切り者だって…………?」

「そう♪ここに連れてこられた日の次の日くらいやったかな?モノワニに裏切り者にならないかって誘われたんや」

ご機嫌な様子で薬師院は話を続ける。

「最初は何言うてるんやコイツ、と思ったで?けどな、モノワニが『こちら側にいる限り、アナタは退屈しないと思いますよ』なんて言うから、迷わずモノワニと手を組んだってわけや」

「退屈………?」

「そう、うち人間観察が大好きなんよ。人間という生き物は同じ種族なのに体格、行動、そして性格。全てが個体ごとに異なる唯一無二の存在やろ?だからうちは人間という生き物がどのようにしてこの社会を生きているのか。それを観察するのが好きなんや」

「…………」

「こんな閉鎖空間でコロシアイしろって言われた時、うちは心昂るのを感じたんよ。コロシアイをさせられる状況なんて滅多にない。だから人は閉鎖空間に閉じ込められた時、どんな反応をするんだろう。人は誰かを殺す時や殺される時、どんな表情をするんだろう。そんな事を考えるだけでゾクゾクするのが分かった

んや」

体を震わせ、恍惚な表情を浮かべる薬師院。

「だからうちは裏切り者になって、えっさほいさとモノワニの手伝いをしてたわけや。うちとしてはコロシアイが起きてくれた方が色々な表情を見れてお得やからなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………お前、自分が何を言っているのか分かってるのか?」

「………ん?」

俺は必死に怒りを抑え、声を発する。

「お前のせいで円城寺と桃林は死んだんだぞ!それに飛鳥を傷つけた。他の奴らの命を危険に晒した。それがどういうことか………!」

「………へぇ。夢寺はん、クールそうに見えて意外と熱い心持ってるんやなぁ」

「ふざけるのも大概に………」

「あはは、ごめんな。けどな夢寺はん。これでもうち、自分が頭おかしい奴だって自覚はちゃあんとあるんやで?」

薬師院は俺の肩を叩き微笑む。

「けどな、これだけはやめられへん。うちはこういう人間として完成されてもうてるさかいな」

「お前………!」

「まあ、夢寺はんも言いたいこと色々あるやろうけど、うちはこれからもそういう立場でいかせてもらうからよろしくな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薬師院月乃は狂っていた。

この女はコロシアイを楽しんでいる。

窮地に陥った俺達を観察するために、モノワニ側についた。

命をなんとも思っていない、最低な人間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………なんで俺に正体を明かしたんだ」

「ん?それはな………()()()()()()()()()()()()()()や」

「共有?」

「そうや」

扇子で口を隠しながらそう話す薬師院。

「うちが裏切り者って事、うちと夢寺はんだけの秘密や。もしそれを守ってくれるなら、少なくともうち自身は『誰も殺さない』ことを誓うで」

「………それは本当か?」

「夢寺はんが秘密を守ってくれるなら守るで」

「………何が目的だ。何を狙っている?」

「そっちの方が今後のコロシアイ生活がおもろくなると思ったから。他に理由は必要?」

聞いた俺が馬鹿だった。

この女は理屈で動いているわけではない。

ただ自分の欲望のために動いているだけだ。

「…………そうか。なら俺はそれに従うしかないってことか。俺が秘密をバラせば、お前は誰かを殺そうとする」

「まあ、その可能性は十分あると思うで」

「脅しか…………。分かった。なら俺はこの事を誰にも言わない。その代わり、お前は誰も殺すな。もし誰か殺したら………俺がお前を殺す」

俺はジェントルマンに対する怒り以上の感情を薬師院に目でぶつける。

「おぉ、夢寺はん怒ると怖いんやなぁ。分かった。うちも旅館の女将見習いとして、約束は必ず守るで。あ、そうや。指切りしよか。これで約束破った奴は針千本や」

俺は言われた通りに小指を出し、指切りをする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後に聞かせてくれ」

「ん?まだ聞きたいことあるん?」

「なんで秘密を話したのが俺なんだ。他の奴でもよかったんじゃないか?」

「ないない。それはないで」

大袈裟に手を振る薬師院。

「他の人に秘密話したって何もおもろないもん。夢寺はんなら、このコロシアイを強いられた環境で色々な人の表情を引き出せると思ったんやもん」

「…………」

「うち、夢寺はんのこと気に入ってるのは本当やで。頭もいいし、地味にコミュニケーション能力も高い。夢寺はんならうちがこのコロシアイ生活をより楽しめるような状況に変えてくれるって、うち信じてるからな」

「…………もういい。お前の話を聞いてると頭がおかしくなりそうだ」

「もう、夢寺はんのいけずぅ♪」

俺は早足でエレベーターに乗る。

「…………残念だよ。俺はお前と健全な友達になれると思ってた」

「ええ〜?うちはまだ夢寺はんと友達やと思ってるで?これからも宜しくな♪」

俺はにこやかに手を振る薬師院を無視し、エレベーターのドアを閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エレベーターで戻ってきた俺は、おぼつかない足取りで個室へと向かっていた。

今すぐにでも倒れたい気持ちを抑え、ゆっくりと歩いていく。

円城寺が殺され、桃林が処刑され。

ジェントルマンが現れ、薬師院が本性を表した。

色々起こりすぎで頭がパンクしそうだった。

「あ、やっと来たー」

そんなこんなでやっとの思いで個室前まで来た時だった。

俺の個室の前に寄りかかっている人物がいた。

「もー遅いよー。ずっと待ってたんだけどー」

「………飛鳥?何してるんだ?」

「見て分かるでしょー?はとのお兄さんを待ってたのー」

今回の裁判で恐らく一番心に深い傷を負った人物、飛鳥が退屈そうにそう言った。

どうやらずっと俺のことを待っていたらしい。

「お疲れのところ悪いんだけどさー、ちょっとだけ付き合ってくれないー?

「…………分かった。どこに行くんだ?」

「そうだなー………、じゃあ地下1階の校庭行こうよー。そこなら人もいないでしょー」

俺は頷き、飛鳥の後をついていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここらへんでいっかー」

俺達は、校庭の端にある芝生のエリアに腰を下ろした。

「なんかさー、誰かと無性に話したい気分だったからさー」

俺に声をかけた理由について飛鳥は話す。

「気持ちの整理、みたいなものか?」

「まあそんなとこー。他の奴らってまともに話出来ない奴とかお人好しの奴ばっかだしー、その点はとのお兄さんは甘ちゃんだけど客観的な意見も言ってくれるからー、誘えるのはとのお兄さんしかいなかったんだよねー」

「成程な………」

ぼーっと遠くを見つめながら飛鳥は言った。

なんだが魂が抜け落ちたような、そんな無気力な表情をしている。

 

 

 

 

 

 

 

「はとのお兄さんはさー、前回の裁判でガリ勉のお兄さんが死んだ時どう思ったー?」

しばらく無言の時間が続いた後、突如飛鳥はそう聞いてきた。

「司か?………それは悲しんだよ。態度は悪かったが、俺達と同じコロシアイに巻き込まれた被害者であることには変わりないからな」

「本当に?」

飛鳥が顔を近づけてくる。

「……正直さ、ざまあみろとか思わなかったのー?だってガリ勉のお兄さん、はとのお兄さんに対して相当キツいこと言ってたじゃーん。しかも裁判の後、殺したい程嫌いってはとのお兄さんに対して言ってたんだよー?普通は嬉しいというか、なんかスカッとする気持ちにならないー?」

「……………………」

俺は一度黙り、司が泣き叫びながら処刑されていった場面を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………正直に言うと、少しはそんな気持ちがあったと思う」

「…………」

「俺は聖人じゃない。あそこまで司にボロクソ言われたら、流石に腹も立つし、処刑されたのは自業自得だ、死んで償えと心の中では思っていたんだろう」

「けど…………処刑が終わって暫くすると、憎しみや怒りが不思議と消えていたんだ。あの時は物凄くムカついたのに………なんでなんだろうな」

「…………」

飛鳥は黙って俺の話を聞いている。

「別にあいつを許したつもりはないんだ。だってあいつの身勝手な考えのせいで何の罪もない乃木と百々海が死んだんだからな。なのに………今はあいつに対する憎しみは全くない。どうしてだか俺にも分からないんだけどな」

 

 

 

 

 

 

「………なるほどねー。やっぱそういうことなんだー」

地面に仰向けになる飛鳥。

「ボクさー、さっにあの豚野郎がオシオキで死んだ時、超スカッとしたんだよねー。ざまあみろ、地獄で後悔しろって」

「でもさー、今はなんか心の中に虚しさしかなくて。ユーレイのお兄さんを殺したあの豚をボクは一生許さないし、この手でぶっ殺したかったってまだ思ってるのに」

「………もしかしたら飛鳥は今、怒りをぶつける対象が居なくなって、自分の中の怒りや憎しみをどうすれば分からない状態なのかもな」

俺は今咄嗟に閃いたことを口にする。

「………そっかー。そう考えることも出来るねー。じゃあはとのお兄さんも怒りや憎しみは持ってたけど、それをぶつける相手がいなくなってー、そのまま消えていった感じー?」

「そういうことだろうな」

もしかしたら違うのかもしれないが、ひとまずはそう結論づけておく。

「憎しみや怒りを忘れずに持っておくのは悪くないんじゃないか。事件を忘れないためにもな。けど、それを無関係の他人にぶつけるようなことはやめた方がいい」

「そんなの分かってるよー。子供じゃないんだしさー」

むすっと膨れる飛鳥。

いや、十分子供だと思うぞお前は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきからさー、ずっと考えてたんだよねー」

飛鳥が俺に対して、ふとそう呟いた。

「ユーレイのお兄さんがボクの本当のお兄ちゃんだってもし最初から分かってたら、あの人を救えたのかなーって。あのデブとあんまり接触しないように言って、口が悪いのも注意して…………。そうすればこんな事が起きなかったのかなーって、ずっと考えてた」

「……………」

「でもさー、それってあり得ない話だよねー。だってユーレイのお兄さんの口の悪さって前からだから矯正するのも難しいし、デブと全く話すなって言うのもここに住んでる以上無理があるし。そもそも前提として、ボクらが兄妹だって事前に知ることも出来ないしー」

「…………そうだな。例え飛鳥が事前に手を打ってたとしても、いずれトラブルになってた可能性は高い」

桃林が酷い被害妄想をこじらせていた以上、どんなに気を遣ってもあいつが暴走する可能性はゼロにはならない。

人間には相性がある。

そして、人と人との相性を急に直すことは難しい。

「だよねー。…………はぁ」

飛鳥はため息をつく。そして…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もっと一緒に過ごしたかったなあ………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悲しげな目で遠くを見つめながらそう言った。

「…………飛鳥」

「もっと色んなイタズラ仕掛けて、追いかけ回されて、怒られて………。それでその後仲直りして一緒に作ってくれたご飯食べて…………。別に大したことじゃくていいから、普通の生活をもっと一緒に過ごしたかった」

「……………………」

「…………何なんだろうね、この気持ち」

そう言って彼女は自身の胸に手を当てる。

「なんかユーレイのお兄さんと一緒にいると、心がぽかぽかしたんだよねー。気持ちが落ち着くというかー、安心して一緒に過ごせるというかー。はとのお兄さん分かるー?」

「………断言は出来ない。けど、おそらく飛鳥が円城寺に対して抱いていた感情は、『親愛』か『恋愛感情』かのどちらかだと思う」

「それって何が違うのー?」

「『親愛』は親や兄弟みたいな親族に対して抱く感情だと思う。事実俺も弟と妹、それに母親に対して親愛の感情を抱いている。一方で『恋愛感情』は家族ではない異性に向ける感情だ。『この人と付き合いたい』と思えばそれは恋愛感情じゃないか?」

「うーん………?ボクの場合どっちなんだろー?ボク家族もいなかったし恋愛経験もないからよく分かんないんだよねー。でもさー、恋愛感情を抱くとさーその人と話すとドキドキしたり緊張して顔が赤くなったりするんでしょー?でもボク、ユーレイのお兄さんの前だとそういうのなかったんだよねー」

「となると『親愛』になるかもれないな。それか普通に友達として大事にしたいという『友情』という可能性もある」

「『コロシアイ』で友情なんて………もしそうなら、ボクも随分と甘っちょろい人間になっちゃったんだなぁ………。他の人のこと言えないじゃん」

そう言って飛鳥は大きく伸びをする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんかもう………疲れちゃったなー」

「………いつまで続くんだろうな。このコロシアイは」

「さあねー。ボクも最初はスリルがあって楽しいと思ってたけどー、なんか飽きてきちゃったー。同じ事の繰り返しだしー、何よりずっとモノワニの手のひらで踊らされているのが癪なんだよねー」

「前半部分は分からんが、後半部分は全面的に同意する」

「それにここにいる人、変な人ばっかりでストレス溜まったしー」

「お前がそれ言うのか………」

自分は変な人ではないと思っているのだろう。

俺からしてみれば飛鳥も十分変わり者………とは言わないでおこう。

「だからさー。そろそろ本格的に脱出に向けて色々動いていこうと思うんだー。このうんざりするほど退屈なコロシアイから早く解放されたいからねー」

「そうか。お前がいると心強いよ。みんなきっと………」

「あ、そうだ。これからについてなんだけどー」

飛鳥は突如俺の言葉を遮る。

「はとのお兄さんからみんなに伝えておいてー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからボク、1人で行動するから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………え?」

突如そう言われ、俺は困惑する。

「理由は単純だよ」

何故、と俺が問う前に飛鳥がその回答を口にする。

「『もう誰も信用出来ないから』。それに尽きるよ。今日だってジェントルマンっていう爆弾が発覚したでしょー?あんな風に本性を隠してる人が他にいたらどうするのーって話」

「あ、ああ………」

ついさっき、薬師院が裏切り者だと分かった俺には衝撃的な理由だった。

俺は悟られないように頷く。

「そんな人があと何人ボク達の中に潜んでるか分からないんだよー?なら協力するより1人で動いた方がリスクは減るでしょー?また裏切られたりしたら困るもーん」

「…………」

「前も言ったと思うけどー、ボクは元々()1()()()()()()()()()()()()()()()。それはユーレイのお兄さんも同じー。ユーレイのお兄さんは確かに好きだったし、この中だと一番敵である可能性は低いと思ってたけどー、完全に心を許したことは一度もないよー。常に他人は敵だと、ボクはそう思ってるからねー。今日までみんなと一緒にいたのはーボクが手を組むに値するかどうか見極めてたからなんだー」

「……………………そうか。分かった。みんなには明日の朝伝えておく」

「あれー?はとのお兄さんは止めないのー?ボクが単独行動することー」

「飛鳥の言うことにも一理あるからだ。完全に信用出来ないのなら、無理に一緒に行動してもより不信感が募るだけだしな」

それに、薬師院と同じように裏切り者がまだ潜んでいるかもしれない。

くそ、本当は薬師院のことをみんなに話したいのに………。

「ボク、はとのお兄さんのドライで物分かりのいいところ、嫌いじゃないよー。イケメンのお兄さんみたいに綺麗事ばっか並べる偽善者より100倍マシだもーん」

彼女はもう一度伸びをしてから立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「心配しないでよー。ボクは裏切り者じゃないしー、脱出の手がかり見つけたらちゃんと共有するからー。別に信用してないってだけで嫌いってわけじゃないからさー」

「………ああ。けど、お前は大丈夫なのか?その、1人で」

「でたでたー。はとのお兄さんのお人好しー。その甘さは直した方がいいと思うけどなー」

「お前な………」

「はいはい大丈夫だよー。心配しなくても1人で問題ないってー」

「ならいいが…………」

本来なら、1人の仲間として引き留める必要があるのは俺も理解している。

しかし、現に今日2人も正体や本性を偽ってた者(天草は故意ではないと思うが)が現れたのは事実だし、飛鳥が不審に思うのは当然のことだ。

だから俺には、飛鳥を止めるための証拠や材料がない。

「あ、そうだ。じゃあさ、最後に一緒に来て欲しいところがあるんだけどー」

「ん?今からか?」

「そうそうー」

飛鳥はそう言うと歩き出す。

俺も素直に着いていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

着いたのは体育館だった。

壇上にはまだ円城寺の遺体が残っている。

おそらく今日の夜中にはにはモノワニが全て片付けてしまうだろう。

そうすると円城寺を見ることが出来なくなってしまう。

きっと飛鳥はそれを危惧して、最後に一目見ようとここまで来たのだろう。

「最後に手でも合わせておこうかなと思ってさー」

「そうか。なら俺も一緒にいいか?」

「いいよー。というかボクにそれを拒む理由も権利もないしねー」

俺達は舞台の前で円城寺に対して、目を瞑り手を合わせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

円城寺。救えなくて済まなかった。

お前のことは一生忘れない。

必ず、お前の妹の飛鳥も含めて全員で無事にここを出る。

天国で見守っていてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

俺が目を開けると、飛鳥も同じタイミングで祈りを終わらせていた。

「付き合ってくれてありがとうねー。最後にお別れしておきたくてさー」

「全然大丈夫だ。………もういいのか?もう少しいても………」

「別にいいよー。これ以上いたところで何か変わるわけでもないしー」

「分かった。なら出ようか」

「うん」

俺達は円城寺に背を向け出口へ向けて歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バイバイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生存者

 

 

1.飛鳥 圭【スリ】

2.天草 京介【神父】/ジェントルマン【殺人幇助者】

3.綾辻 澪【軍医】

5.風神 雷哉【喧嘩家】

6.北桜 千尋【ピアニスト】

7.北桜 八尋【作曲家】

8.佐々木 莉央奈【かるたクイーン】

9.写実 真平【カメラマン】

13.ハルク ゴンザレス【ボディービルダー】

15.薬師院 月乃【女将】

16.結城 晴翔【バトミントン部】

17.夢寺 蓮【マジシャン】

18.不知火 椿【忍者】

 

残り13名

 

 

 

 

 

死亡者

 

 

4.円城寺 霊夜【オカルト研究家】

→桃林 林檎により首を絞められ死亡

 

10.司 拓郎【秀才】

→オシオキにより首を切断され死亡

 

11.百々海 真凛【水泳部】

→司拓郎により後頭部を強打され死亡

 

12.乃木 環【???】

→司拓郎によりサウナに閉じ込められ死亡

 

14.桃林 林檎【グルメリポーター】

→オシオキにより毒を盛られ死亡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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