1作品目が未完結にも関わらず、我慢できずに描き始めてしまいました。
同時連載のような形になってしまいますが、両方完結出来るように頑張りますので、読んで頂けたら嬉しいです。
……………………最高だ。
仲間だと信じていた人間に裏切られ、絶望するその姿。
唯一の希望を断たれ、絶望に染まっていくその表情。
生存への道を閉ざされ、光を失いもはや絶望しか映っていないその濁った目。
どれも見ていて最高に気持ちがいい。
気分が高揚し心が踊る。
これを見るために俺は生きていると言っても過言ではない。
…………チッ。こんな面倒な体じゃなければもっと楽しめたのに。
まあいい。
とにかく次だ。早く…………早く俺に見せてくれ。
全てを闇に染め上げる程の絶望を。
ダンガンロンパ ルーナ
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「忘れ物は大丈夫?」
「ああ。昨日ちゃんと確認したから」
「蓮にーちゃんどこいくのー?」
「高校だよ。昨日説明しただろ?」
「あーそうだったー!!」
「おにいちゃん気をつけてねー!」
「ああ。お前らもちゃんと学校行けよ」
「はーい!!」
「じゃあ気をつけてね。くれぐれも学校で喧嘩とかしないでよ」
「そんなことしねーって」
「そうはいってもアンタには前科があるからねぇ………。中学校でグレた時は本当にどうなるかと………」
「あれはグレたんじゃない。グレかけただけだ」
「はいはい分かったわよ。いってらっしゃい」
「………行ってきます」
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私立希望ヶ峰学園。
全国から優れた才能を持つ学生を集め、育成する超一流の高校。
無事卒業出来た暁には、将来は約束され、人生大成功間違いなしとまで言われている。
入学するための条件は2つ。
現役の高校生であること。
各分野において超一流であること。
そして希望ヶ峰学園は完全スカウト制であり、たとえ上記の2つの条件を満たしていても、学園側から声がかからなければ入学することは出来ない。
まさに選ばれし者のみが入学を許されるエリート高校だと言える。
しかし、江ノ島盾子が引き起こした「人類史上最大最悪の絶望的事件」を始めとする世界同時多発テロにより、希望ヶ峰学園、そして世界は混乱の渦に巻き込まれた。江ノ島盾子の死亡後もそれは変わらず、彼女の意志を継いだ「絶望の残党」と称される集団の活動により、希望ヶ峰学園は徐々に衰退する事となった。
その後、江ノ島盾子を打ち破ったコロシアイ学園生活の生き残りを中心に設立された「未来機関」によって再建が進められ、10年の時を経て、新しい希望ヶ峰学園が設立された。のちに巷ではこの学園は「新希望ヶ峰学園」と呼ばれるようになった。
その希望ヶ峰学園の前に俺は今立っている。
「………写真で見るよりずっと大きいな」
目の前にそびえ立つ立派な校舎を前に思わずそう漏らしてしまった。
何故俺みたいな普通の人間がここに入学することになったのか。
何かの手違いではないのか。
そんなことを今日までの数日で何度も考えていた。
考えるだけ無駄ではあったが。
「……とりあえず入るか」
立ち止まっていてもしょうがないので、早速入口へと向かう。
どんな人間に出会えるのか。
どんな生活が待っているのか。
半分期待、半分不安といったところであるが、まあなんとかなるだろう。
なんとなく3年間過ごして卒業できればそれでいい。
「………しかし人の気配がないな。早く着きすぎた………………え?」
敷地内に入り自分の他に誰も見当たらない事を不審に思っていると、急に視界が揺らいだ。
「なんだ…………………これ………」
抗うことも出来ず、俺は地面に倒れ…………………意識が途切れた。
「……………………」
「………い…………か」
「……………………」
「おい……………………かりしろ」
「……………………」
「おい!!目ぇ覚ませ!!」
「…………ん?」
耳元で聞こえる大きな声で俺は目を覚ました。
「…………あれ?俺は一体…………」
「よぉ、やっと気がついたな!」
目の前には金髪の少年が俺の顔を覗き込む姿が写っていた。
この少年が声の主だろう。
「………ここは?」
「医務室、だとよ。廊下で倒れてたのをオレが見つけたからここに運んできたんだ」
「………医務室」
周りを見渡すと、確かに保健室のような独特の匂いがするし、救急箱などの医療道具等が置かれている。
そして俺が寝かされているのも真っ白なベットだ。
学校内にある医務室なのは本当らしい。
「………すみません、なんか迷惑をかけてしまったみたいで」
ひとまず運んでもらったことについて謝罪する。
入学早々人に迷惑かけてしまうとは………。
とんでもないことをしてしまった。
「んなの別に大したことじゃねーよ。…………というか蓮、なんだよその畏まった感じは。前みたいに普通にタメ語で話していいんだぜ」
しかし帰ってきた返答は驚くべきものであった。
初対面であるはずの少年が俺の名前を呼んだのだ。
「え………なんで俺の名前知ってるんですか?」
俺は自分の名前を呼ばれた事に驚き、そう金髪の少年に尋ねた。すると、
「おいおい、オメーまさかオレの事忘れちまったのか?中学であんなに仲良くしてたのによ………」
厳つい見た目に反してその少年は悲しそうに泣き真似をした。
中学?こんな奴いたか?
俺は必死に思い出そうとする。
………待てよ。この男………どこかで見たような………。
「ん?待て待て、もしかしてオレの勘違いか?なあ、一応オメーの名前、聞いてもいいか?」
すると自信がなくなってきたのか、少年はそう俺に聞いてきた。
「あ、ああ。…………俺の名前は夢寺 蓮(ゆめでら れん)。《超高校級のマジシャン》としてやってきた」
《超高校級のマジシャン》 夢寺 蓮(ゆめでら れん)
俺は素直に自分の名前を伝える。
「………なんだよ、やっぱそうじゃねーか!!」
俺の名前を聞くとその少年は嬉しそうに肩を組んできた。
「オレは人の顔と名前だけは絶対忘れねー自信があるんだよ!顔も変わってねーし一目見て分かったぜ!」
その声を聞いた瞬間、俺の脳内にある人物の名が出てきた。
「その声…………………俺も思い出した。お前…………もしかして雷哉か?」
「やっと思い出したか!!!そうだ、『超高校級の喧嘩屋』風神 雷哉とはオレのことだ!」
[超高校級の喧嘩屋]風神 雷哉(かぜかみ らいや)
「やっぱりそうか…………髪色も変わってたし全然気が付かなかった」
「蓮は人に全然興味ねーからな!オレの生き方を見習った方がいいぜ!」
「それだけはお断りだ。お前の生き方は野蛮すぎるんだよ」
「こいつ!」
お互いに笑い合う。
まさかここで再会するとは思ってもいなかった。
風神雷哉。
コイツとは小学校、そして中学校の途中まで仲良くしていた友達だ。
腐れ縁、といっても過言ではない。
昔から体が大きく、腕っ節も強かったため学校内では敵なしだった。
そして正義感が強く、上級生であろうと悪事を働く者を見ると止めに入っていった。
コミュニケーション能力も高く、誰に対しても分け隔てなく接する、まさに陽キャのテンプレみたいな奴だった。
そんな性格故か、小学校の頃は雷哉の周りにはいつも人がいた。
俺もそのうちの1人だった。
だが、中学に入ると人が変わったように喧嘩に明け暮れるようになった。
俺の通っていた中学は治安が非常に悪く、喧嘩や暴力行為は日常茶飯事だった。
複数のグループに分かれて、学年関係なく争い合う。
三度の飯より殴り合いが好き。
そんな奴らがうじゃうじゃいた。
雷哉は喧嘩マンガやアニメを見て影響され、不良グループに入りどんどん悪に染まっていった。
付き合う友達もガラリと変わり、小学校からの友達は離れ、不良仲間とつるむようになった。
………実は当時俺も色々あって、雷哉に誘われて同じ派グループに属していた時期があった。
俺が転校する中学2年までコイツとはほぼ毎日一緒にいたと思う。
「蓮見ると中学校のころを思い出すなー。イキった奴らオレらでボコしまくってたもんな」
「……その話はやめろ。あれは俺の人生最大の汚点なんだ」
俺は思わず頭を抱える。
過去の自分をぶん殴ってやりたい。
大して力も強くないのに不良ぶっていたあの頃を思い出すと、今でも恥ずかしくて死にたくなる。
「いいじゃねーか。男らしくてカッコいいだろ?」
「よくない。おい、俺が昔喧嘩してたって誰にも言うなよ。広まったら俺の高校生活は終わりだ」
「えーどうしようかな〜」
雷哉はニヤニヤしている。
コイツ………完全に面白がってやがる。
「………そういやオメー、なんで転校したんだっけ?家庭の事情で転校って言われた時びっくりしたぜ」
「………………親父が家を出て行ったんだよ。蒸発って奴だ。だからこの期にもっとのどかな場所でのんびり過ごそうってことで引っ越したんだ。………お袋も大分精神参ってたしな」
酒ばっか飲んで暴力を振るう親父の顔が思い浮かんでくる。
最低な奴だった。
「親父さんが蒸発か………。なるほどな。そりゃ大変だったな」
「まあな。でもお陰で今は楽しく生活できてる。アイツが出ていってくれたのはむしろありがたかった」
多少生活は苦しいが、前の生活より100倍マシだ。
「にしてもオメー、マジシャンになったんだな。なんか意外だぜ」
「マジシャンってほどじゃない。生活費稼ぐために小さなショーを開いてただけだ」
俺は生活面でお袋を少しでも助けるために簡単なマジックショーを近所で開いていた。
多少手先は器用であるので、マジックなら出来るだろうと練習したのだ。
それがどうやら希望ヶ峰学園の目に止まったらしい。
「それを言うなら雷哉。『喧嘩屋』ってなんだよ?」
「依頼を受けて喧嘩する。それだけだ。単純だろ?」
「もっと詳しく説明しろよ」
ハハハと笑う雷哉。
コイツはどうも脳筋の節がある。
「ってもよ、本当にそれだけなんだぜ。力を欲する人から依頼を受けて俺が出向く。内容は喧嘩の仲裁とか武力で屈服させろとか色々だな。とにかく俺が体を張ってなんか色々するんだよ」
「………分かった。もういい」
なんとなく分かった。
「それにしても入学初日に倒れるなんてついてない。先生とかに怒られないか心配だ」
「……………」
俺はふとそんなことを呟く。
しかし雷哉は何も答えない。
深刻そうな表情で地面を見つめている。
「………雷哉?」
「蓮。立てるか?」
すると雷哉は急に立ち上がった。
「………ああ。もう大丈夫だ」
「なら色々案内してやるよ」
雷哉はそう言うとこちらを向いて衝撃的な言葉を発した。
「ここは希望ヶ峰学園じゃねー。オレらは拉致されたんだ」
外に出ると、真っ白な壁と赤いカーペットが敷かれた床が俺を出迎えた。
「………カーペット?」
アカデミー賞で使われるようなレッドカーペット。
高校にそんなものが敷かれているはずがない。
やはり雷哉の言った通りここは………。
「希望ヶ峰学園じゃない別の場所、なのか」
「間違いねーよ」
俺の言葉に雷哉が反応する。
「俺は入学前に希望ヶ峰を訪れてんだよ。だから中がどうなってるかはよく覚えてる。…………希望ヶ峰はこんな場所じゃねー」
「………そうか」
実際に入った雷哉が言うなら間違いないだろう。
「今他の奴らは手分けしてここを探索してる」
「他の奴ら?………もしかして同級生か?」
「ああ。オメー含めて17人ここにいるんだよ」
16人の同級生。俺と同じようにここに連れてこられたというわけか。
「オメー以外の全員は自己紹介済ませたんだ。だからこれから全員紹介してやるよ」
「そうなのか。悪いな」
「目覚まさなかったんだからしょうがねーよ」
「まあそうだが………うおっ!?」
「痛っ!?」
角を曲がった瞬間、誰かとぶつかってしまった。
俺は踏みとどまったが、相手の女子は尻もちをついて倒れてしまった。
「痛てててて………。どこを見て歩いてますの」
「悪い。大丈夫か?」
俺は倒れた女子に手を差し伸べる。すると、
「手助けなんて要りませんわ!!」
思いっきり手を弾かれた。
……嘘だろ?
「佐々木、せっかく蓮が手を貸してくれたのにその態度はねーだろ」
「佐々木って呼ばないで下さいませ!!わたくしは佐々木なんていう地味で華のない苗字が大嫌いなんですわ!アナタにはさっき『莉央奈』と呼べって言いましたわよね!」
「おっと悪ぃ。すっかり忘れてたわ」
「全く、これだから知能の低い男は……」
目の前の女子は着ているドレスの埃をはたきながら立ち上がった。
………面倒くさそうな奴が現れた。
「それで?今わたくしにぶつかった無礼者のアナタは何者ですの?」
「ああ、俺か。俺は夢寺 蓮。超高校級のマジシャンだ。よろしく頼………」
「フン、華のない才能ですわね。そんな才能で希望ヶ峰学園に入れてしまうなんて、今年の入学生のレベルは相当低いとお見受けしますわ」
「……………」
一回話して分かった。俺はコイツが嫌いだ。
「じゃあそこの無礼な凡人の為に今一度自己紹介をして差し上げましょう。よく聞きなさい」
そこの女は髪をなびかせながら、改めて宣言した。
「わたくしの名は佐々木 莉央奈!!《超高校級のかるたクイーン》ですわ!!わたしくの事は『莉央奈様』、もしくは『莉央奈さん』と呼びなさい!!」
[超高校級のかるたクイーン]佐々木 莉央奈(ささき りおな)
俺を見下すような目つきでそう自己紹介をした。
「…………」
「なんですの、黙りこくって。もしかしてわたくしの姿に見惚れていますの?」
「いや、今時こんな旧式のお嬢様っているんだなって思ってな」
「きゅ、旧式…………………!!」
佐々木の顔が一瞬で赤くなる。
「旧式ですって!?わ、わたくしを誰だと思っていますの!!」
「ん?さっき聞いたよ。佐々木だろ?」
「佐々木って呼ばないでくださいませ!!」
「聞いてなかった。悪いな佐々木」
「なっ………!?」
あまりにも分かりやすく怒るため、少し面白くなってきた。
俺も散々煽られたからな。それのちょっとした仕返しだ。
「………………にした………」
「ん?」
「わたしくの事バカにしましたわね!!絶対許しませんわ!!」
顔を真っ赤にして怒鳴ってきた。
思った以上に挑発が効いたみたいだ。
「やべ。行こう雷哉。怒らせすぎた」
「お、おう………」
俺らは佐々木に背を向けて走り出す。
「あ、コラ!!待ちなさい!!わたくしをバカにして逃げる気ですの!!」
「そんな怖い顔で近づかれたらそりゃ逃げるだろ。それに先に喧嘩吹っかけてきたのはお前だろ?」
「う、うるさいですわ!!夢寺蓮!!アナタは絶対許しませんわ!土下座させてわたくしの靴を舐めるまで許しませんわ!!」
「許さなくて結構だ」
「初対面でここまで仲悪くなるのかよ………」
それは俺もそう思う。こんなに相性の悪い人間は初めてかもしれない。
「………巻いたか」
「ったく、ヒヤヒヤしたぜ」
しばらく逃げると佐々木は追ってこなくなった。
………なんなんだあの高飛車お嬢様は。
「蓮、オメー次会った時どうすんだよ。殺されるぞ」
「………………」
アイツが俺と同じ新入生である以上、接触は避けられないだろう。
次会ったら逃げるしかないな………。
「………ん?ここは………」
「『玄関ホール』だとよ」
佐々木から逃げているうちに俺らは玄関ホールという場所に出てしまったようだ。
「………ホールというか、旅館の入口みたいだな」
その場所は、よくテレビで見る高級旅館の入口の雰囲気にとてもよく似ていた。
あちこちに灯籠が置かれており、周りには立派な盆栽が並べられている。
その他にも『和』を連想させる物があちこちに設置されていた。
「そうなんだよ。だからここはどっかの旅館じゃねーかって他の奴らと話してたんだ」
「旅館、か」
俺達は旅館に拉致された可能性が高いのか。もしこの場所が山奥にあるなら警察等の救出が来るのはまだ先になりそうだが………。
「なあ雷哉。一応聞くが玄関の扉は………」
「開かねーよ。無理矢理力で開けようとしてもビクともしねーし、どうなってるのかさっぱりだ」
「だよな」
もし空いてたらここに留まる理由はない。
「………あ、風神君!!」
「おう結城!!最後の1人目覚めたから連れてきたぜ!」
周りを見渡していると、どこからか声が聞こえた。
見るとホールの端に3人いることに気がついた。
「ありがとう風神くん。助かったよ」
雷哉に声をかけたのは、そのうちの1人だった。
爽やかな笑顔を浮かべながら雷哉にお礼を言うその男子は、一言でいうと『マジのイケメン』であった。
冗談とか誇張ではない。今まで見た男の中でダントツのイケメンだ。
「そっちの君も無事でよかった。怪我とかはしてない?」
「大丈夫だ。心配をかけて申し訳ない」
「謝る事はないよ。僕達は同じ被害者なんだし、これから協力していこう。きっと無事にここから出られる筈さ」
イケメン男子は俺に対しても気を配ってそう言ってくれた。
配慮の仕方までイケメンだ。
「そうだ。自己紹介がまだだったね」
そして俺に手を差し出すと、爽やかな笑顔を浮かべながら自己紹介を始めた。
「僕は結城 晴翔(ゆうき はると)。《超高校級のバドミントン部》として希望ヶ峰にスカウトされたんだ。これからよろしくね」
《超高校級のバトミントン部》結城 晴翔(ゆうき はると)
「……よろしく」
俺は少し緊張しながら手を出して握手に応じる。
あまりのオーラに思わず声が上擦ってしまった。
「俺の名前は夢寺蓮だ。『超高校級のマジシャン』としてやってきた」
「マジシャンか………。希望ヶ峰は本当に様々な分野から人を集めてきてるんだね」
「そうみたいだな」
入学前に軽くネットの掲示板を見てみたが、あやゆる分野の才能がその掲示板には羅列されていた。
突出した才能を持つ人間ならなんでもオーケーということだろう。
「結城はバトミントン部っていうことは、やはり大会とかで優勝したりしてるのか?」
「ううん、僕はそこまで実力はないし、個人で特に成績を残したことはないんだ」
「………となると、どうしてスカウトされたんだ?」
「僕自身じゃなくて、僕の所属する学校が全国で優勝したんだ」
なるほど。個人ではなく団体戦でか。
「………僕は部長としてみんなを引っ張ってきただけなんだ。優勝はみんなの努力の結果勝ち取ったものであり僕自身は何もしていない。それなのにスカウトされたのは何故か僕だったんだ」
結城は少し困ったような表情を見せた。
「結城の指揮があったから全員が努力出来た。だから優勝出来た。そう考えてもいいんじゃないか?」
「そうだぜ!やっぱ組織の頭がしっかりしてねーとその集団は弱くなっちまうもんだ。オレも昔喧嘩やってる中でそれを思い知ったぜ」
喧嘩と一緒にするな。
「………ありがとう。そう言ってもらえると助かるよ」
結城の話を聞いて俺は、こういうパターンで入学を許可された人間もいるのかと納得した。
「結城様。自信を持って下さい。現に今、この状況でも結城様の指示のおかげで皆様スムーズに探索出来ているのですから」
すると隣にいた女子生徒がそう声をかけた。
「そんなことないよ、綾辻さん。僕は何もしてない」
「うふふ。謙虚ですね、結城様は」
優しげに笑う女子生徒は今度は俺に視線を向けてきた。
「すみません、では私も自己紹介させて頂きます」
「私の名前は綾辻 澪(あやつじ みお)と申します。《超高校級の軍医》としてやってきました。よろしくお願い致します、夢寺様」
《超高校級の軍医》綾辻 澪(あやつじ みお)
「軍医というのは………」
「はい、恐らく夢寺様が想像してる軍医と同じです。私は世界各国の軍に医者として従事し、戦争によって発生した数多くの負傷者の治療にあたってきました。それを評価して頂いたのか、この度希望ヶ峰学園に『軍医』という肩書きで入ることになったというのが私の経緯です」
綾辻は俺の疑問を分かっていたのかすらすらと答えてくれた。
「夢寺様はマジシャンだとお聞きしたのですが………」
「ああ。けど俺は別にプロのマジシャンじゃない。近所の子どもに向けてちょっと練習すれば誰でもできるマジックを披露してただけだ。だから俺は本来ここにいるべき存在じゃないと思ってる」
そもそも俺はマジシャンと呼ばれるほどの経験を積んでいない。
「………夢寺様は自分は希望ヶ峰学園に相応しくない、と考えていらっしゃるということでしょうか?」
「ああ。その通りだ」
そう答えると、綾辻は一瞬下を向き思案すると、また俺に視線を合わせた。
「………なるほど。ですが私はそうは思えないです。夢寺様は立派なマジシャンだと思います」
「なんでそう思うんだ?」
「夢寺様にとって自分のやっていることは本職には程遠いと思われるかもしれませんが、夢寺様のマジックを見た子ども達にとっては、夢寺様は立派なマジシャンに見えると思うんです」
「………!!」
予想していなかった意見に俺は思わず目を見開いた。
「………そういう見方も出来るのか」
「あくまで私の予想ですので、夢寺様がスカウトされたのは実際は違う理由なのかもしれません。ですが私はマジックを見せた子ども達が夢寺様をマジシャンと認めたからこそ、夢寺様は希望ヶ峰学園にスカウトされたのではないでしょうか」
綾辻の言葉を聞き、俺は何故か納得してしまった。
マジックは人に見せるもの。
そのマジックを見た人間の捉え方次第で、マジックを披露した人間の印象は変わる。
「だから夢寺様。私が偉そうに言える立場ではありませんが、もう少し自分に自信を持ってもいいんじゃないでしょうか?」
「………そうだな。ありがとう、綾辻。そんなことを言ってくれたのは綾辻が初めてだ」
「いえ、私こそ出すぎた真似をして申し訳ありませんでした」
お礼を言うと綾辻は丁寧に頭を下げた。
本当に同世代なのかというくらいしっかりしている。
………なんだか自分が恥ずかしくなってくるな。
「…………………」
すると俺は、最後の1人からじっと見られていることに気がついた。
「………俺の顔に何か付いてるか?」
「………………………いや」
その男はゆっくりと首を振り否定した。
「…………………済まない。君がどんな人間か少し観察していた」
「そ、そうか………」
なんと答えたらいいか分からず、適当に相槌を打つ。
「………………自分も自己紹介をしても構わないか?」
「………ああ」
妙に気まずい雰囲気になったところで男はそう言ってきた。
「…………自分の名前は天草 京介(あまくさ きょうすけ)。《超高校級の神父》だ」
《超高校級の神父》天草 京介(あまくさ きょうすけ)
天草はそう静かに自己紹介すると握手を求めてきた。
………聞いていると落ち着く声だ。
心が安らぐというか、そんな優しい声という印象が俺の中に芽生えた。
「夢寺蓮だ。よろしく、天草」
俺も改めて名前を名乗り握手に応じる。
「…………」
握手を終えると、天草は口を閉じてしまった。
どうやら積極的に話すタイプではなさそうだ。
「………ああ、済まないな」
俺の心理に気がついたのか、少し申し訳なさそうに薄く笑う。
「…………人と話すのは苦手なんだ。別に嫌いというわけではないんだが…………」
「いや、俺も同じようなものだ。コミュニケーションをとるのはどちらかというと苦手な部類に入る」
とても雷哉のようにベラベラ話すことは出来ない。
「………そうか」
それを聞いて少し安心した表情を見せる天草。
「天草。神父っていうのはそのままの意味でいいのか?」
「…………特になんの変哲もない普通の神父だ。自分の才能について話せることはない」
そう述べると口を閉じてしまった。
…………才能についてはあまり触れられたくないみたいだな。
「それでオメーら、3人固まって何話してたんだ?」
雷哉がそう尋ねる。
「探索の結果をまとめていたんだよ。ここがどういった施設であるか把握することが第一だからね」
「結城様。風神様と夢寺様にもお話した方がいいのではないでしょうか」
「そうだね。…………ここは恐らく旅館だと思う。造りは今いる本館と別館の2つ。別館には僕たちそれぞれに個室が用意されているらしいよ」
「個室ぅ?俺らを泊める気マンマンじゃねーか」
俺達を閉じ込めてそれぞれの個室まで用意する。………行き当たりばったりの計画ではなさそうだ。
「そしてここの本館には食堂、医務室、温泉、宴会場があるらしい」
「温泉………」
温泉まであるとは。まさしく旅館そのものじゃないか。
「ん?蓮オメーまさか女湯覗こうとしてんのか?」
「黙れ馬鹿野郎」
誤解を招くようなことを言うんじゃない。
「…………夢寺様?」
綾辻がニコニコ笑いながらこっちを見る。………目が笑ってないぞ。
絶対怒ってるなこれ。
「そんなことは絶対しない。………それより出口はここにしかないのか?」
「………………他の者が探しているが、それらしきものはないとの事だ」
「やっぱオレ達閉じ込められたって事だよな」
「………そうだね。でも諦めるのはまだ早いよ。警察だってきっと僕たちがいなくなったことに気がついてる筈だ。なら今は救助を待ちつつ、僕たちに出来ることをやろう」
「おう!!」
そう全員を鼓舞する結城。
この非日常的な状況でこの落ち着き。
やはり超高校級は精神面でも一般高校生と違うわけか。
結城達と別れた俺と雷哉は本館の他の施設を探索するため廊下を歩いていた。
「しかしオレらはなんのために誘拐されたんだろうなー」
「身代金目的だろ。希望ヶ峰学園の生徒を人質に取ればそこそこの額取れるだろうしな」
「だったら1人とかでよくね?こんな人数攫う必要ねーだろ」
「………確かにな」
そんなことを話していると、向かい側から誰かが歩いてきた。
眼鏡をかけた小柄な少年だ。
「………チッ、アイツかよ」
雷哉が小さく舌打ちをする。
「………なんだ、喧嘩屋。俺様の進路を邪魔するな」
その少年は雷哉に対して吐き捨てるように言った。
「オレだってテメーとは1秒たりとも話したくねーんだよ。けど蓮を紹介しなくちゃいけねーから仕方なく話してんだ」
「………誰だそいつは」
「………さっき目覚めた希望ヶ峰の生徒だ。名前は夢寺蓮。《超高校級のマジシャン》としてやってきた」
今にもキレそうな雷哉の代わりに俺は自己紹介をする。
「…………マジシャンだと?なんだそのゴミみたいな才能は」
その男は俺を蔑むような目で俺を見る。
「まあいい。自己紹介はそれで終わりか。なら消えろ。二度と俺様の前に姿を現すな」
「テメーコラ!蓮は自己紹介しただけだろうが!!よろしくとか言えねーのかよ!」
「よろしく、だと?俺様がそんな役立たずとよろしくしてなんのメリットがある?」
「雷哉。ちょっと落ち着け」
「けどよ!!」
俺は雷哉を後ろに下がらせる。
「俺のことをどう思おうが構わない。だがせめて名前だけは教えてくれないか。名前の分からない同級生がいると落ち着かないんだ」
「……………………フン。まあいい。名前くらいは教えてやる」
俺の問いかけに対しその男は鼻で笑うと、付けた眼鏡を軽く上げた。
「俺様は司 拓郎(つかさ たくろう)。才能は《超高校級の秀才》だ。そこら辺のゴミとは違う究極に完成された人間だ。覚えておけ」
《超高校級の秀才》 司 拓郎(つかさ たくろう)
「秀才………?具体的にはどういった才能なんだ?」
いまいちピンと来なかったので俺はそう尋ねる。
「何故お前みたいなゴミに説明する必要がある」
しかし司は俺の質問に答えるつもりはないようだ。
「テメー………やっぱ一発ぶん殴っといた方がよさそうだな」
「なんだ脳筋のでくの坊。お前如きが俺様に勝てると思ってるのか?」
「ハッ!テメーみたいなヒョロガリに何が出来んだよ」
「お前は何も理解していないな。力があるから勝てると本気で思ってるのか?力が全てじゃないことを今ここで教えてやってもいいんだぞ?」
「上等だ………!這いつくばらせてやるから覚悟しとけよ!!」
お互いにヒートアップして今にも喧嘩を始めそうな勢いだ。
「おい待て。俺達で争ってどうするんだ。少し落ち着け」
雷哉は一度切れると手がつけられない性格だ。
ここで止める必要がある。
そう考え俺は2人の間に入った。
「だってよ蓮!コイツがオレらのことバカにしてきたんだぞ!!」
「お前に暴れられたら大変なことになるんだよ。ここは我慢しろって」
雷哉にまずそう言い聞かせると、
「お前が何を考えてるか知らないが、そのくらいにしてくれないか。今こうして口論してる暇があったら各自で探索を続けた方が司にとっても有意義だろう?」
司に対しても引き下がるよう求めた。
「…………………」
司はオレを不快そうな目つきで見てきたが、
「………チッ、興が覚めた」
そう言い残すと、俺達に背を向け去っていった。
「……なんで止めたんだよ」
不満げそうに俺の方を見る雷哉。
「殴りたい気持ちはよく分かる。けどあそこで殴ってたらお前の負けだったんだぞ。どんなことを言われようが先に手を出した方が悪い。社会ではそういうルールだ」
「んなの関係ねーよ。オレは殴りてーて思ったらぶん殴る。ずっとそう生きてきたんだ」
「………分かった。ならここにいる間だけは我慢してくれ。ここから出たら好きなだけタコ殴りにしていいから」
「本当か!?」
「俺は知らん。好きにしてくれ」
「うっしゃ!ならとっととここから出てあのヒョロガリヤローをぶっ飛ばしてやる!」
途端に目を輝かせる雷哉。
戦闘狂にも程がある。
………それにしても、司は相当人格に問題があるな。
団体行動なんて絶対しないだろうし、アイツの存在が不和の原因にならないといいが…………。