ダンガンロンパ ルーナ   作:さわらの西京焼き

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ご無沙汰しております。
色々あって気がついたら前回の投稿からちょうど一年が経っていました。
同時並行している作品も含め、必ず完結まで辿り着きたいと思っていますので、よろしくお願い致します。



(非)日常編②

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな戻ってきたみたいやね。ほんなら、早速報告会始めよか」

探索を終えて食堂に戻ってきた俺達は、探索の結果をそれぞれ報告することになった。

ちなみに今は、リーダーである結城がいないため代わりに薬師院が仕切っている。

裏切り者に仕切られるのは不満しかないが、当然そんなことは口に出せないので黙っておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあまずはオレらから報告するぜ!」

隣でデカい声を出しながら立ち上が雷哉。

声のボリュームを考えろ、ボリュームを。

「オメーら驚け!なんとオレらは………!」

「脱出についての直接的な手がかりではないですが、一つ重大な事実を見つけました」

すると八尋が淡々と結果を報告した。

「おい八尋!?オレが発表するって言ったじゃねーか!?」

「貴方が喋り始めると余計な時間がかかるんです。時間は有限なんですよ?報告は手短に済ませるべきだと思いますが?」

「ぐぅ………」

「清々しいまでの正論でありますな」

「しかも相手が風神サンだから、なおのこと納得出来ますわね」

「おい!?」

雷哉はしょげた様子で椅子に座る。

ちなみに俺もそれには大賛成だ。

「それで八尋はなにみつけたの?」

千尋が興味津々といった風に尋ねる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「単刀直入に言います。天草京介は()()()()()()()()()()()()()()()()()()です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な………………!?」

八尋が淡々と告げた事実。

それは……天草京介が俺達の敵である、ということであった。

「絶望側の人間………?天草様が、ですか………?」

「神父サン、ワターシ達の敵デスカ………?」

「八尋はん、それは何で分かったん?言い切るってことは、それなりの根拠があるってことやんな?」

「当然です」

八尋は科学館で撮ったであろう写真を見せてきた。

「科学館にある実験の内容について記載があったんですよ。それが現在の天草さんの状況とあまりにも合致していたのでそう結論づけました」

「その実験とは何ですの?なんだか嫌な予感がしますけど………」

佐々木が何故か青白い顔をしている。

何か心当たりがあるのだろうか。

 

 

 

 

 

「詳細は省きますが、その実験は【ソルジャー化実験】と言って、子供に対して『身体能力を飛躍的に上げる』改造手術を行い、さらに『別の人格を埋め込む』手術により、戦闘に特化したソルジャーを作成するというものです。自軍の戦力増強が目的でしょう。ただし、その実験を受けた人は副作用が残り、『人格が入れ替わる時酷い頭痛に襲われる』そうです。この状況、最近僕達は目にした筈です」

「あ!?それって………」

「………天草殿のことでござるな?」

不知火が相変わらず何かを咀嚼しながら器用にそう問いかけ、八尋は深く頷く。

天草は現在、ジェントルマンという殺人幇助を行う犯罪者と人格が入れ替わっている。

そして八尋の言う通り、ジェントルマンの特徴とあまりにも特徴が一致している。

ジェントルマンの身体能力は常人のものとは思えない程高い。

天草とジェントルマン、2つの人格を持っている。

そして最近までの天草の体調不良。

そうするとやはり、天草は絶望側が作ったソルジャーで確定なのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえりおな!千尋たちもいわないと!!」

「………え、ええ。そうですわね………」

すると、先ほどから顔色が悪い佐々木を千尋が揺らす。

「莉央奈氏?さっきから顔色がよくないようでありますが………」

「……問題ありませんわ。次はわたくし達が報告しますわね。まあ、八尋サン達の話の補足にはなりますけど」

佐々木は深く息を吸い込み深呼吸する。

「わたくし達は図書館に行きましたわ。基本的には関係のない本ばかりでしたが、奥に隠し部屋がありましたわ。中には今まで起きた殺人事件の詳細がまとめられたファイルがいくつも置いてありました。耐性のない方は見ないことをお勧めしますわ」

「ワオ………聞くだけで恐ろしいデス………」

「千尋もみたけど、すごくこわかった………みないほうがいいよ」

千尋がしきりに首を振っている。相当酷いものだったようだ。

「そしてその中に、先程八尋さんの話にあった『ソルジャー化実験』の詳細が書かれたファイルがありましたわ。こちらでは『絶望軍ソルジャー量産計画』なんて書いてありましたが」

「さっきの八尋はんの言ってた計画と微妙に名前が違うんやねえ」

「同じようなもの、と解釈してもらって構いませんわ。実際、今の八尋サンの話とほぼ同じことが書かれていましたもの。ただ………」

「ただ?」

佐々木の肩がブルブルと震え出す。

 

 

 

 

 

 

 

「身体能力を向上させるためには、脳のリミッターを無理やり外すって書いてあって……。それでもし実験対象者の子どもが壊れても…………使()()()()だから問題ないって………」

「りおな………」

肩を震わせる佐々木を千尋が支える。

結果のみを重視し、その仮定の犠牲は微塵も考慮しない。

絶望側の考えそうなことだ。

「んだよそれ………!最低の実験じゃねーか!!」

「酷く憤りを覚えます。人の命を何だと思っているんでしょうか………」

雷哉は掌に拳を打ち付け、綾辻は唇を噛み怒りを露わにする。

「な、なら天草氏はその実験の生き残りで確定、ということでありますか?」

「そう考えるのが自然やろうなぁ」

「恐ろしいデース!!ワターシ達、いつ狙われるか分からないデース!!!」

「もし今の話が事実であれば、拙者らは早急に対策を要するべきでござる。天草殿、いやジェントルマン殿を野放しにしておくわけにはいかないでござろう?」

不知火の提案に何人かが深く頷く。

確かに、このままジェントルマンを放置というわけにもいかない。

………だが、どうやってあいつの行動を制限する?

拘束?監禁?けど、俺達であいつを拘束なんか出来るのか?

常人の数倍の力を持つあいつを?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあまあ、ひとまずそれは後で話すとして………残りの人の探索結果を先に聞いた方がええやろ?写実はん、お願いしてもええ?」

「そ、そうでありますね。某らは映画館に行ったであります。映画は売場でチケットを買って、受付でモノワニにスタンプを押してもらわないと入れないであります。チケットには日付と時間が入るであります」

「映画、面白くないものばかりデース………。ヒーロー映画、なかったデース………」

しょんぼりとした表情をするハルク。

そこまで楽しみにしてたのかよ………。

「ハルク氏の言う通り、映画の出来はお粗末なものであります。ラインナップもクソでありますし、映画館は行かないことをお勧めするであります」

「そこまで酷評される映画館って………逆に興味がありますわね」

「も、もし莉央奈氏が興味あるのなら、某が案内するでありますよ!グフフ、手取り足取り、丁寧に教えるであり……………冗談です、すみません」

物凄い形相で睨む佐々木に自分の語尾も忘れて謝る写実。

だが、写実達の言う通りなら、確かに映画館に用はなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では次は私達から報告させて頂きます。私達は美術館を探索致しました」

「中には趣味の悪い銅像や絵画が所狭しと展示されていたでござる」

次は美術館を担当した綾辻、不知火ペアだ。

「どうぞうってどんなやつー?」

「………モノワニでござる」

「…………」

全員が沈黙する。

自分の銅像を作って飾るって、どんだけ自己顕示欲が高いんだよ。

質問した千尋ですらなんともいえない顔をしている。

「つまり美術館にもクソみてーな作品以外何もねーってことだな。じゃあ……」

「いえ。一番奥の部屋に一つだけ、妙な絵がありました」

「妙な絵?」

八尋が怪訝そうな表情で尋ねる。

「はい。それは5()()()()()()()()()()を書いた風景画でした。そして下の作品名のところには………」

 

 

 

 

 

 

 

 

()8()8()() ()()()()()()()()() ()5()()()()()()と書かれていたでござる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「88期………第一回…………5回目…………」

不知火の言ったことが、俺達はすぐ理解出来なかった。

「………情報量が多過ぎますわ。ええっと……」

「………僕達は88期生。絵に書かれた生徒も88期生とのことですが、5回目の裁判と記載がある。僕達はまだ学級裁判を2回しか経験してないため、綾辻さん達の見た絵は、僕達とは別の88期生がコロシアイに巻き込まれた際のものであると推測出来ます。恐らく、僕達よりも前に起きたコロシアイでしょう」

八尋が冷静に情報をまとめる。

「待てって!?じゃあ新入生ってここにいるオレらだけじゃないってことかよ!?」

「そうなるな。その絵が実際に起こったことであれば、の話だが」

「ナカーマ、ワターシ達以外にもいるんデスカ?でもどこにいるんでショウカ?」

「それはこっちが聞きたいでありますよ………。せめて女の子は何人いるのかだけでも教えてはくれないでありますかね………」

「………本当に穢らわしいですわね、アナタ」

「ありがとうございます!」

88期生は別々に分けられてコロシアイをさせられている………。

もしそれが真実なら、俺達88期生は一体何人いるんだ?

コロシアイは何回行われているんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんなら、全ペア報告終わったみたいやし、得られた情報整理してみよか」

薬師院が手をパンと叩き注目を集める。

「いや、まだオメーらの報告がまだじゃねーか。どこ見てきたんだよ」

「あ、そうやった。じゃあ夢寺はん、報告よろしゅう♪」

微笑みを浮かべながらこちらを見る薬師院。

「…………俺と薬師院は『音楽館』を探索した。内装は大きなコンサートホールのような形状で、舞台と大きなグランドピアノがあった。そして舞台袖の小部屋には大量の楽器が置いてあった。脱出に役立ちそうなものはなさそうだ」

「え!!!ぴあのあるの!!!」

俺が薬師院の笑顔に内心腹を立てながら報告する。すると千尋が椅子を倒しながら勢いよく立ち上がった。

「やった!じゃああとでひきにいこう!!」

「ワーオ!ピアニストサンのピアノ、是非聞きたいデス!」

「いいよいいよ!はるくもいこう!」

千尋、ハルクの仲良しコンビは大はしゃぎだ。

自分の才能に関連するものがあるとテンションが上がる気持ちは俺もよく分かる。

「…………」

その傍ら、八尋が複雑そうな表情をしているのを見たが、俺はここではあえて何も聞かないことにした。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ改めて得られた情報を整理するで。大きな収穫としては、【天草はんは絶望の残党が行ったソルジャー化実験によって作られた絶望側の兵士である可能性が極めて高い】【うちら88期の生徒はうちらの他にもいて、その生徒達もうちらと同じようにコロシアイをさせられている】ってことやな」

薬師院がこれまでの探索の成果を整理する。

今回の探索で得られた情報はかなり大きい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………が、結局のところ、脱出に繋がる決定的な手がかりはない。

「某らはいつになったらここを出られるのでありますか………。もしまた殺人でも起きたら………」

不安を隠しきれない写実は深くため息をつく。

「ちょっと!?縁起でもないこと言わないで下さいませ!」

「ひっ!?で、でもぉ………」

「けど写実殿の不安は最もでござる。如何にしてこの奇怪な場所から脱出するか。それが判明しない限り夜も寝付けないでござる」

「ワターシ、怖くなってきたデス………。早くホームに帰りたいデース………」

不安がどんどん周りに広がっていく。

こんな時、結城のような全員を励ますリーダー的存在がいれば話は別なんだが、いかんせんその結城が精神的に参ってる状態だからな………。

「……………」

「……………」

「……………」

終いには全員が黙ってしまった。

俺はこういう時、どうみんなに声をかければいいのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んだよオメーら!!揃いも揃って情けねー面してんじゃねー!」

すると雷哉がドンと机を叩いた。

「まだ終わりじゃねーだろーが!きっと諦めずに探せば見つかんだろ!」

「また根拠のないことを………。ではどうすればここを出られるのですか?貴方はそれを知っているってことですよね?」

八尋が非難するような視線を向ける。

「あ?んなのオレが知るわけねーだろ。オレが言いてーのは、まだ諦めるには早えーってことだ!徹底的に探して探してそれでも見つかんなかったら諦めりゃいいだろ!」

八尋の言う通り、何の根拠もない発言。

全員は呆れたような表情で雷哉を見ている。

だが………。

「………確かに、雷哉の言う通りかもしれないな」

「夢寺様………?」

オレは立ち上がりみんなを見渡す。

「みんな、もう少しだけ頑張ってみないか?特に今回の探索では前回と比べて重要な情報も手に入った。これを元にもう一度考えれば、何か分かるかもしれない。まだ出来ることはある筈だ」

俺の言葉に雷哉を除く全員が顔を見合わせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだよ!れんとらいあのいうとおりだよ!!」

すると千尋が笑顔で大きく手を広げた。

「千尋たち、まだげんかいじゃないよ!みんなでもうちょっとだけがんばろう!ねえ八尋!」

「…………………分かりましたよ」

八尋はため息をつく。

「元々、僕は諦めるつもりはありませんでしたよ。けど風神さんが馬鹿なことを言い出したんで呆れていただけです」

「八尋テメーこのヤロー!」

「………そうですわね。もう少し踏ん張ってもいいかもしれませんわね」

「私も、皆様と一緒に全力を尽くします」

「ワターシ、怖いけどまだまだ元気デース!ミナサン守りマース!」

「皆がここまでやる気を出した以上、拙者も遅れをとるわけにはいかないでござるな」

どうやら雷哉と俺の言葉はみんなに響いたようだ。

「流石だな蓮!オメーはやっぱ頼りになるぜ!」

「いや、お前の言葉がきっかけでみんな折れずにすんだんだ。お前の手柄だよ」

肩を組んできた雷哉に対して俺はそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょい待ち。水を差すような感じになって悪いんやけど、せやったらまず早急になんとかせなあかんことあるやろ?」

みんなが元気を取り戻した時だった。

テンションが特に変わっていない薬師院が手を挙げた。

「そ、そうでありますよ!某達にとって一番不安なことがまだ解決してないでありますよ!」

「天草さん………いや、ジェントルマンですか」

「そうですわ。あの方の処遇は結局どうするんですの?まさかあんな危ない人を放っておくわけにもいきませんわよね?」

「だからオレらで捕まえてどっかに放り込むんだよ!そうすりゃ殺しも出来ねーし安全だろ?」

雷哉が力こぶしを作りやる気をみせる。

「確かに、それが出来れば安全でありますが………」

「だろ?なら決まりだ!オレとハルク、それに蓮がいりゃ簡単だろ!早速やろうぜ!『ジェントルマン捕獲作戦決行』だ!」

「おい待て」

どうして俺がそこに入ってくる。

「あ?蓮オメーびびってんのか?」

「お前、さっきまでの話聞いてなかったのか?ジェントルマンはあの桃林の巨体を持ち上げられるくらいの力を実験で手に入れた奴だ。どう考えても力勝負じゃ負ける。だから作戦を考えて慎重に………」

「おいおい蓮、随分と日和ってんなあ」

雷哉は俺の話を聞かず、笑いながら肩を組んできた。

「オレとハルクがいたら流石のあいつでも取り押さえられるだろ!な!ハルク!」

「任せてくだサイ!ワターシ、力持ちデース!」

「だが…………」

「よし!じゃあサクッと終わらせてくるぜ!行くぞ!ハルク!!」

「分かりマシタ!」

雷哉は自信満々にハルクと一緒に食堂を出ていこうとする。

「おい待てって!?」

俺が慌てて止めようとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるせーなァ。朝から有象無象がギャーギャー騒いでんじゃねえよォ」

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂の入口に1人の男が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「噂をすれば、ですね」

「あァ?んだァ、オレっちの話でもしてたのかァ?」

話題に上がっていたジェントルマンは欠伸をしながらずかずかと食堂に入ってくる。

「出やがったな殺人鬼!」

「はァ?昨日説明しただろうがァ。テメェの頭には脳味噌詰まッてねェのかァ?オレッちがやッてんのは『殺人幇助』つッてんだろうがァ。オレっちは殺しちゃいねェんだよォ」

「んなの同じだろーが!!!それにテメー人殺したことあんだろ!昨日の新聞の記事に載ってたぞ!」

「うるせーなァ………」

天草京介、いやジェントルマンは面倒くさそうに近くの椅子にドカンと座る。が………

「あ!夢寺パイセン!グッドモーニングッス!」

俺の姿を見つけると、瞬時にこちらに駆け寄ってきた。

まるで飼い主を見つけ尻尾を振り喜ぶ犬みたいだ。

「あ、ああ。おはよう………」

「いやあ、昨日はパイセンに会えた喜びで眠れなかったッスよォ!こんなに朝が待ち遠しかったのは何年ぶりくらいッスかねェ!」

「お前………昨日何があったのか忘れたのか?お前のせいで2人死んだんだぞ?」

何事もなかったかのように俺に話しかけてくるジェントルマンの無神経さに俺は腹が立ち、思わず強い口調になってしまう。

「…………あー、あのデブのことッスか?いいじゃないッスか終わったことなんて。そんなことよりこれからのことッスよ!過去より未来ッスよパイセン!」

「お前………」

俺は怒りで拳を握りしめた。

………がすぐに深呼吸をして冷静さを取り戻す。

こいつは殺しをなんとも思っていない人格破綻者だ。

だからこんな奴に俺の考えを説いたって無駄でしかない。

ならムキになる必要もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………もういい。それよりも今の状況分かってるのか?」

「へ?何のことッスかァ?」

首をかしげるジェントルマン。こいつ………!

「簡単に言えば、俺達は今またお前が昨日のような事件を起こすんじゃないかって不安になってるんだ」

「あ、そんなことスかァ?別にオレっち、人殺したい奴がいないなら殺人幇助なんてしないッスよォ?」

「んなの信用出来るわけねーだろーが!」

「信用とかの話じゃねーんだァ。………ホントに馬鹿なんだなァてめェ」

「んだとコラァ!!!」

「け、喧嘩屋サン落ち着いて下サイ!」

「『人を殺したい奴』がいなきゃ『人を殺す手伝い』なんてそもそもする出来ねーしする必要がねーだろうがァ」

「………まあ、それもそうですけど………」

「だが、お前自身が人を殺す可能性も否定出来ない。例えお前自身がそう証言してもだ。そうだろ?」

「…………」

ジェントルマンは無言になる。

「夢寺氏の言う通りであります!全く持って信用出来ないであります!」

「あァ?」

「ひいい!?」

「隠れるなら最初から言わなければいいじゃないですか………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこで、俺達はお前の処遇について決めたいと思っている」

「オレっちの処遇ッスかァ?」

「そうだ。さっきも言ったが、お前は殺人をするつもりはないと言っていたが、信用出来る訳がない。それにもしお前を自由にしたら、たとえお前が殺人を犯さなくても、みんなを唆して殺人をさせる可能性だってある。だからみんなはこれからお前に怯えながら過ごさなくちゃならなくなる」

「………」

ジェントルマンはニヤつきながら俺の方を見ている。

「だから.、俺はお前を監禁状態にしたいと思っている」

「か、かんきん!?」

「カンキンって………あの固い鉄のことデスカ!?」

「それは多分『板金』やね」

「夢寺様………?」

みんなは困惑した表情で俺を見ている。

その場で勝手に意見を決めてしまったが、ジェントルマンと話すタイミングはここしかない。

「………正直俺は、人を監禁するなんて真似は出来ればしたくないと思っている。モノワニとやってることは同じだし、何より監禁するこっちにも負担がかかるからな。だが、お前がいつ暴れて殺人に関与するか分からない以上、みんなの安全を考えたらこれしか方法は思いつかないんだ。……何か言いたいことはあるか?」

「………」

ジェントルマンは俺が話終わったのに何も言わない。

………普通こんな理不尽な提案をされたら文句の一つでも言うと思っていたが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいコラ。蓮の話聞いてたか?テメーはこれから………」

「別にいいッスよ?」

「………え?」

雷哉がジェントルマンに詰め寄ろうとした時だった。

ジェントルマンはあっさり俺の提案を承諾した。

「他の奴らに言われても絶対嫌ッスけど、夢寺パイセンなら全然オッケーッスよォ!」

「随分理解が早いですね………」

「あ、ただし条件付きッスけど」

「条件?」

ジェントルマンは指を一本立てた。

「そうッス。その条件は一つだけッス。『監禁』じゃなくて『監視』にして欲しいんスよォ。監禁なんかされたら頭おかしくなっちゃうッスから」

「……では、貴方が出歩くのを監視付きで許可しろと?」

「名案だろォ?これならテメェらもオレっちを見張れるし、オレっちも普通に過ごせるんだァ。これ以上の落とし所はねえと思うぜェ?ちなみにこの条件じゃなきゃオレっちは受けるつもりはねェ。たとえパイセンの頼みだとしてもなァ」

正直、ジェントルマンの口からそんなまともな案が出てくるとは思わなかった。

だが、あいつの言う通り、ここが落とし所のような気がする。

危険人物であるあいつを荒事なしで見張ることが出来るのだから、俺達にとってはこれ以上いいことはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんなはどう思う?俺は正直、ジェントルマンの条件を飲んでもいいと思う」

俺はみんなに対し意見を聞いてみる。

「おォ!流石はパイセン!!ハグしてもいいッスかァ!!!」

「お前は黙ってろ。そして近づくな。…………みんなはどう思う?」

ハグしようとしてくるジェントルマンを無視し、再度みんなに問いかける。

「………私は夢寺様に賛成です」

すると綾辻が控えめに手を挙げた。

「誰も怪我せずに済むのであればそれに越したことはありませんし………」

「わたくしも同意見ですわ」

「ちひろも!」

「そ、某もであります!暴力はいけないであります!」

ジェントルマンの意見に賛成だと言う人の意見がちらほらと出てくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレは反対だぜ」

しかし、明確に異を唱える者がいた。

雷哉は拳を掌に打ち付けながらジェントルマンを睨みつける。

「雷哉、冷静になれよ。お互いに争うことなく丸く収まる条件なんだぞ」

「違えーよ。こういう奴は一度言う通りに従ったら絶対つけ上がるぜ。それでまたオレらに不利になるような条件をふっかけてきやがるんだ。だから調子に乗る前に分からせる必要があんだよ。………あと、条件を飲んでこいつの言う通りになるのが気に食わねー」

「だからこいつをシメてオレらの方が立場が上だってことを再認識させてやんだよ」

雷哉は立ち上がりジェントルマンを見下すような形で睨みつける。

確かに体格は雷哉の方が大きいし、筋肉量も圧倒的に雷哉が優っている。

………が、喧嘩をしたら恐らく勝つのは…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あァ?テメェは救いようがねえくらい馬鹿なんだなァ?オレっちに力で勝てると思ってんのかァ?」

ジェントルマンは雷哉の言葉に呆れて笑っている。

「断言するぜェ。ここにいるテメェらじゃ俺に傷一つ付けられねえよォ。たとえ何人でかかってきてもなァ」

「テメー…………!!じゃあ今ここで分からせてやるよ!!」

馬鹿にされた雷哉が顔を真っ赤にしてジェントルマンに詰め寄る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風神殿。少し待たれよ」

すると突如、不知火が雷哉を手で静止した。

「どけよ不知火!今からこのカスをぶっ飛ばすんだからよ!」

「あァ?どういうつもりだァ?」

「ここで突如暴れられても拙者らが困るでござる。拙者はまだ食事中故」

確かによく見ると、不知火はほっぺに何か食べ物を入れたまま喋っている。

器用だと褒めるべきなのか、それとも口に物を入れたまま喋るなと指摘するべきなのか。

「よって、こういうのはどうでござろうか。今から風神殿とハルク殿の2名でジェントルマン殿と今後の処遇について力勝負するでござる。それでもし風神殿達が勝てば監禁、ジェントルマン殿が勝てば監視、という形にするでござる」

「なるほど。この脳筋達には分かりやすい勝負ですわね」

「僕も賛成です。どうせこのまま話し合っても平行線ですからね」

「ま、それが手取り早いやろうなあ」

不知火からの提案に周りのみんなは賛成の意を示す。そして本人達も………

「いいぜ。要は相手ボコった方が従わせられるんだろ?簡単じゃねーか」

「わ、ワターシ頑張りマス!皆サンのためにこの筋肉使いマス!」

「ヘッ、無駄だと思うけどなァ。まあせッかくだし遊んでやるぜェ」

「双方の合意あり、でござるな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして食堂にあるテーブルを端に寄せ、動き回るのに十分なスペースを作成。

審判は提案した不知火がやると言ってくれた。

「おい、クソ女」

「…………ん?拙者のことでござるか?」

「テメェしかいねェだろうがァ。ルールは『どっちかがギブアップするまで』でいいよなァ?」

「それでいいでござる。無論、やりすぎだと拙者が判断したら止めるでござるが」

「…………フン」

………ジェントルマンの奴、不知火に対してだけやたらと当たりが強いな。

何か昔あったのか………?

「………綾辻」

俺は今はそれどころではないと、近くにいる綾辻に小声で声をかける。

「ゆ、夢寺様!?」

すると彼女はびっくりしたのか、何故かぴょんとその場で跳ねた。

「ん?悪い、驚かせるつもりはなかったんだが………」

「い、いえ!私が悪いので………!」

何故か顔が赤い綾辻。

「それで夢寺様。その、ご用件は……」

「今のうちに怪我の治療の用意をしておいてくれ」

「え?………あ、はい。承知しました。しかしそれは………ジェントルマン様の手当の用意という事でしょうか?」

「いや、逆だ」

「え?」

「雷哉達は…………恐らく負ける」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢寺と綾辻が話している間。

「ジェントルマン殿。ジェントルマン殿はもしや拙者のことを昔から知っているのでござるか?」

不知火は怠そうに準備するジェントルマンにそう質問した。

「あァ?」

「拙者の勘違いなら申し訳ないでござるが、どうやらジェントルマン殿は拙者の事を酷く嫌っている故」

するとジェントルマンは舌打ちをすると、

「テメェの事()知らねェよ。テメェじゃねェ方がオレっちは嫌いなんだァ」

「………じゃない方?」

「……………うるせェなァ。早く始めろよ」

「…………??」

言葉の意味が分からず、首を傾げた不知火だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハルク、オレら2人ならこんな奴楽勝だぜ。とっとと片付けるぞ!」

「ハイ!分かりマシタ!!」

「威勢のいいこったァ。けど、調子こいた雑魚蛙に大海の恐ろしさを知らせるいい機会かもなァ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、2対1の力比べという名の殴り合いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………が、それは勝負などではなく、一方的な蹂躙だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、足元に蹲るハルクと雷哉、それに雷哉を踏みつけながら不気味な笑みを浮かべるジェントルマンという光景を、この場にいる全員が信じられないと言った風に見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雷哉!ハルク!大丈夫か!!!」

俺は慌てて2人に呼びかける。

「うぅ………痛いデス…………」

「くそったれ…………コイツ、どんな力してんだよ………」

2人は苦痛を浮かべ呻いてる。

2人は顔中傷だらけなのに対し、ジェントルマンはかすり傷一つない。

「じゃあオレっちの処遇は『監視』ってことで決定だなァ。………いいッスよねェ、夢寺パイセン?」

「…………」

ジェントルマンの実力は、雷哉達の予想を遥かに超えていた。

肉体派の2人でも手も足も出ないくらい、こいつは強かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ。勝負は勝負だ。お前は自由に出歩いていい。ただし約束通りちゃんと見張り付きで行動してもらうぞ。詳細は後で連絡する」

「りょーかいッス!じゃあオレっちはこれで!………じゃあなァ、負け犬の喧嘩屋クン?」

「…………!!!」

雷哉は拳を震わせるが、もうジェントルマンに立ち向かうことはなかった。

ジェントルマンは鼻歌を歌いながら去っていった。

「風神様!ハルク様!」

綾辻は医療箱を持って2人に駆け寄る。

「某、絶対風神氏達が勝つと思っていたであります………」

「やはり、化け物みたいな力を持つ人間ということに間違いないようですわね」

「………あの資料の信憑性が高まりましたね。やはり彼は絶望側のソルジャー………」

「だいじょうぶ?いたくない?」

「うゥ………力に自信あったのに負けちゃったデース………もう神父サンと会いたくないデース………」

「ハルク殿、そう落ち込まれるな。ジェントマン殿は規格外である故、ハルク殿が負けても仕方のない相手でござる」

治療を受けている間、ハルクはあからさまに落ち込んでいた。

千尋や不知火がハルクに軽く声をかけ、気にすることはないと伝える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい雷哉。大丈夫か?」

「……………………」

一方で俺は雷哉に声をかける。

だが、雷哉はそれには答えず、悔しそうに拳を握りしめて震えている。

「………雷哉?」

「…………くそがっ!!!!!」

突如吠えたかと思うと、拳を床に思い切り叩きつけた。

「オレは…………何もできなかった。身長も力も勝ってるはずなのに………アイツに何も通用しなかった…………!」

「落ち着けよ。あいつは規格外の人間なんだ。だから力で負けても仕方が………」

「うるせえ!!!!」

俺が慰めようとした時だった。雷哉は俺の方を見て思い切り怒鳴った。

「!?」

「なんも分かってねー癖に分かったような口きくんじゃねーよ…………!」

そしてゆっくりと立ち上がり、ふらふらと歩き出す。

「雷哉!」

「…………部屋で頭冷やしてくるわ」

それだけ言い残すと食堂を出て行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あいつは俺の知る限り、喧嘩では負け知らずだった。

だからこそ、今圧倒的な実力差で敗北したことに絶望してるのかもしれない。

「………マジシャンサン………」

側で見ていたハルクが心配そうな表情でこちらを見ている。

「ほらみんな!ここにずっとおってもしゃあないし、一旦解散にするで」

全員が呆然としている中、薬師院がみんなに声をかけた。

「ひとまずジェントルマンの見張りの役割分担とかは後で決めるとして、ここからは各自自由行動や」

「賛成です。ここに留まっていても何の意味もないですからね。僕は個室に戻ります」

八尋を言葉を皮切りに、みんなは続々と部屋から出ていく。

「じゃあ夢寺はん、後でパスポート使って打ち合わせしよな♪」

すると最後に残った薬師院が俺に声をかけてくる。

「………随分と楽しそうだな」

「勿論やろ♪だって『ジェントルマン』なんて爆弾がいることによってまたみんなの隠れた一面が見れるんやで。それどころか、もしかしたらとんでもなく醜い一面が見れるかもしれん。そないなこと考えたら、心が踊ってしゃあないわ♪」

「……イカレてるよ、お前は」

「それはうちにとって褒め言葉や♪」

俺は薬師院に問いを投げたことを後悔しながら、食堂を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、俺は薬師院と話し合い、見張りのローテーションを決めた。

 

 

 

 

①夢寺、不知火

②ハルク、八尋

③風神、写実

 

 

 

女子だと危険が伴うため、基本的には男子2人で見張りを行う。

見張り時間は朝、昼、晩でローテーション。

夜中は個室前で待機する。

ただ、結城は現在の状態だと難しいと考え、代わりに女子だが戦闘力が高い不知火にお願いすることにした。

不知火は「お任せあれ。拙者、この命に替えても見張りの任務、必ず遂行してみせるでござる」とわざわざ挨拶に来てくれた。

律儀な不知火に感謝しつつ、今日の夜中から見張りを行うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

09:30

 

 

 

あの騒動の後、俺は特にすることもなく外をふらふらと出歩いていた。

本当は雷哉を慰めにいきたいところだが、あいつは今落ち込んでいるだろうし、今励ましに行っても逆効果だろう。

もう少し待ってから行ってみよう。

そう考え、俺はふと思いついたある場所に行ってみることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下2階 科学館

 

 

 

俺が向かった場所は、さっき行かなかった地下2階の科学館だ。

パスポートを入口の装置にかざし、中に入ってみる。

中は八尋と雷哉が報告会で言っていた通り、数々の実験の成果や原理の説明が展示されていた。

文章を流し見しながら館内を回っていると、八尋を見つけた。

「八尋、何してるんだ?」

「……………」

八尋はある展示物を凝視したまま動かない。

俺の声も聞こえていないようだ。

「おい、八尋?」

「!?」

再度声をかけると、八尋は驚きの表情でこちらを振り返った。

「………なんだ、夢寺さんですか」

「悪い、驚かせて。今声かけても返事がなかったから心配になったんだ」

「………そうですか。僕がまさか声を聞き逃すとは。ここにいる人のだれよりも聴力には自信があるんですけどね」

そうか。確か八尋はすごく耳がいいって千尋が前言っていたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?八尋はここで何してるんだ?」

「見て分からないですか?この展示物を見てるんですよ」

相変わらず言い方に棘があるな………。

俺はその展示物に視線を移すと、『ソルジャー化実験』と書かれている。

さっき八尋が写真で見せてくれたものだ。

「これはさっき報告会で言ってたやつか?」

「そうです。この『ソルジャー化実験』はあまりにも危険なものです。そしてその被験者が僕達の中にいる。警戒しない方がおかしいですよ」

「ジェントルマンか………」

今俺達の中で最も危険な存在であるジェントルマン。

先程見張りの詳細を伝えたところ、「オッケーッス!」と満面の笑みで返事をされた。

今は大人しくしているが、今後いつ前のような殺人教唆をするか分からない。だからあいつが外出する時は監視を付けることにしたんだが………。

「…………あんな奴がいたらいつか死人がまた出る。僕は何としても千尋を守らないといけない」

「ん?千尋?」

「何です?その意外そうな顔は。腹が立ちますね」

「いやいや、悪気はないんだよ。ただ、普段あんなに千尋のことを邪険にしてるお前が千尋を守るなんて言うから意外に思って………」

途端に不機嫌そうな表情になる八尋を宥め俺は言葉を続ける。

「…………この話、風神さんにもしたんですけどね」

八尋ははぁとため息をつくと、

「夢寺さん。2階で話しましょう。ここだと誰か来るかもしれませんから」

「理由を教えてくれるのか?」

「何度も聞かれたら鬱陶しいですから」

不機嫌そうな表情を変えないまま、八尋はそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

そして俺達は科学館2階にある休憩スペースのベンチに座ると、八尋は千尋との関係を簡単に説明してくれた。

千尋は正直な人間だから、いつか騙されて殺される。

だから自分が兄として千尋を守らなくてはいけない。

千尋に冷たい態度を取っているのは、自分自身が人付き合いが上手くないせいで、千尋にまで迷惑がかかるかもしれないから、千尋の生存率を少しでも上げるためにあえて一緒にいないようにしている。

「………今の説明で納得出来ましたか?」

「まあ、納得というか、ひとまず理由は分かった。けど、それってなんか矛盾してないか?だって千尋の近くにいないと千尋を守れないだろ?」

「だから僕が裏から色々手を回して守るんです。その方が効率的ですし」

八尋は涼しい顔でそう言う。

うーん、正直言いたいことはあるが、よその兄妹間に首突っ込むのも野暮だしな………。

「……そうか。それが八尋の決めたことなら別にいい。ただ俺の意見を言わせてもらうと………多分千尋は、八尋が自分に迷惑をかけてるなんて考えてないと思うけどな」

「何故そう思うんです?何か明確な根拠があるんですか?」

「いや、そういうのは特にないけど………俺にも一応弟と妹がいるからな」

あいつらが俺のことをどう思ってるかはなんとなく分かる。

恐らく今の千尋と同じように俺を思ってくれてるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

八尋は俺の言葉を聞いても黙ったままだった。

てっきり何か言い返してくるかと思っていたが………。

「千尋から僕達の家庭の話を聞きましたか?」

すると突如そんなことを聞いてきた。

「あ、ああ。前に千尋が話してくれた」

「そうですか。………僕はクソ親から作曲を、千尋はピアノの全てを叩き込まれました。才能があるとかいって、僕達を音楽漬けにしたんです。自分達に才能がなくて頂点まで辿り着けなかった。だからお前らがその無念を晴らしてくれ。そう言いたかったんでしょう」

八尋は拳を握りしめる。

「あのクソ親達は僕達の才能しか見ていないんです。僕達の意思などまるで見ちゃいない。そして才能がないと分かるとすぐ捨てるんです。僕に楽器の才能がないと分かると二度と楽器に触るな、と激怒したくらいですから」

「……」

「一方千尋は楽器の才能を開花させ、僕と違って実力がぐんぐん伸びてきました。クソ親達も僕ではなく千尋ばかりを褒めました。今は気にしていないですが、僕も昔は精神もまだまだ子供だったので、物凄く嫉妬しました。そして次第に千尋のことが嫌いになって、性格も歪んできました」

「自分の性格が歪んでるって自覚あるんだな………」

「黙って聞いてて下さい。けれど段々時が経つにつれて、悪いのは千尋ではなくクソ親と僕自身であると気がつきました。千尋は悪くない。ただ一生懸命ピアノを弾いているだけ。それなのに僕はあいつに随分と強く当たってしまいました。本当に悪いことをしたと思っています。だから僕はその罪滅ぼしのためにあいつを守る。そう決めたんです」

 

 

 

 

 

 

 

八尋は話し終えると息を吐き出した。

「………長々と話してしまいましたが、要するに僕はあいつの兄でいたい。兄としてちゃんと守りたい。そしてあいつにいつか謝りたい。そう思っているということです」

「………そうか」

八尋は口には決して出さないが、千尋のことを何よりも大事に思っている。

それが知れただけでも今日八尋と話して良かったと思う。

「千尋に言えたらいいな。ちゃんと」

「………ええ。そのためにも僕は死ねない。勿論千尋も死なせない。そのためには最大限警戒しなくてはならないんです」

八尋は立ち上がると、俺の方を真剣な顔で見る。

「………夢寺さん。あなたを僕はある程度信頼しています。だからこそ、あなたには正直に言わなくてはなりません」

「………な、なんだよ急に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕は、あなたを含む数人を『ソルジャー化実験』の被験者だと疑っています」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?な、なんで…………!」

「それを言うほど僕はお人好しではありません。自分で考えて下さい。………あなたならきっと分かっている筈です」

八尋はそう言い残すと去ってしまった。

俺があのジェントルマンと同じ…………?

いや、そんな訳はない。俺はだって普通の人間…………。

俺はしばらくその場に立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

13:00

 

 

 

食堂で昼を食べた後、俺は心ここに在らずといった状態で地下1階を歩いていた。

俺が『ソルジャー化実験』の被験者?

俺があのジェントルマンと同じ実験を受けてた?

そんな馬鹿な。

俺はジェントルマンと違って力だって普通だし、身体能力も並だ。

それにそもそも、俺はそんな実験を受けた記憶すらない。

だけど………八尋は根拠もなくそんなデタラメを言う奴じゃない。

あいつは何かそう考える根拠を見つけたらからこそ、俺にあんなことを言ってきた筈だ。

だが…………だとしても俺が『ソルジャー化実験』と関係があるとは思えない。

というより、全く心当たりがない。

なのに何で八尋は………

まとまりのない考えがぐるぐると頭を回り、どうすればいいか分からない。

そんな状態になっていた時だった。

「(………ん?体育館から音がするな)」

すると体育館から何やら物音がするのが聞こえた。

俺は気になり体育館を覗いてみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(………あれ?)」

体育館には誰もいなかった。

おかしいな、と思いつつ体育館全体を見渡すと、体育館前方のステージ左の扉が開いてることに気がついた。

物音はあそこから漏れ出ているようだ。

「(…………というかあんな場所に扉なんかあったか?)」

少なくとも俺は探索の時あんな扉を見た覚えはないし、報告の際他の人から聞いた記憶もない。

もしかしたら………出口か?それとも出口に繋がる手がかりが?

俺は期待を胸に抱きながら扉に手をかける。

 

 

 

 

 

 

「…………フン!フン!フン!」

 

 

 

 

 

扉の先には、予想の遥か上をいく光景が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

大量の筋トレ道具がある部屋。

そこで上半身裸のハルクが、大量の汗をかきながらダンベルを持ち上げていた。

 

 

 

 

「………え?」

「………ア」

俺が思わず声を出してしまった瞬間、ハルクと目が合ってしまった。

「…………悪い、邪魔した」

俺はすぐ背を向け引き返そうとする。

「ま、待って下サイ!」

すると背後からハルクが思いっきり手を掴んできた。

「い、痛てててて!?」

「ア!ご、ごめんなサイ………」

ハルクはしゅんとした態度で謝ってきた。

「いや、それは別にいいが………何やってんだこんなところで?それにこの部屋………」

「ちゃ、ちゃんと全部説明しマス!」

ハルクは珍しく本気で焦った様子で何故か正座しながら話し始めた。

「き、聞いてくだサイマジシャンサン!その………実は………ワターシ………今日体育館で体を動かしてタラ、この部屋を見つけたんデス。それでワターシ、広い部屋で筋トレしたかったカラ、個室にある筋トレ道具を全部ここに持ってキテ、ここをワターシだけの『筋トレ部屋』にしようと思ったんデス!わ、悪気はないデス!」

そういうことか。

「なるほど。事情は分かった。だから俺にこの部屋が見つかって焦ってたのか」

「ほ、本当にごめんなサイ………」

深く反省した様子を見せるハルク。

そうか。ハルクはみんなに内緒で勝手に部屋を筋トレ部屋に改造したことを咎められると思っているのか。

 

 

 

 

 

「聞きたいことがある。ハルク、この部屋を最初見つけた時、部屋に何があったんだ?」

俺は気になることをいくつか質問することにした。

「部屋、デスカ?部屋には何もなかったデスケド………」

「重要な資料とかもか?まさか隠してるわけじゃないよな?」

「わ、ワターシそんな事しまセン!」

ハルクは全力で首を振って否定する。

「そ、そうか。いや、別に俺は怒ってるわけじゃないんだ。ただ事実をいくつか確認してるだけなんだ」

「そ、そうなんデスカ?」

俺は知らずにハルクに恐怖を与えていたことを謝罪する。

それによく考えれば、ハルクは隠し事なんて出来ない性格だ。

ここで嘘をついたなら一発で分かる筈だ。

「そうだ。………あと、この部屋はどうやって開けたんだ?この部屋は鍵があっただろ?」

「か、鍵なら扉の目の前に落ちてマシタ………」

鍵が落ちてた?

それも目の前に?

…………怪しすぎる。

誰かの誘導としか思えない。

「(…………まさか、薬師院か?)」

あの裏切り者ならやりかねない。

コロシアイの中で人間観察を楽しむ、なんて馬鹿なことを言う奴だ。

この誘導もあいつの作戦かもしれない。

なら、もしこの部屋の存在をみんなに話すと、あいつの思い通り悪い方向に行くかもしれないってことか?

もしそうなら…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「事情は分かった。ハルク。お前はこの部屋を自分専用の『筋トレ部屋』にしたいってことでいいんだよな?」

「そ、そうデス………ダメ、ですカネ?」

「いや、別にいいと思う。『超高校級のボディビルダー』のお前が個室での筋トレだけじゃ満足出来ない気持ちもよく分かる」

「ま、マジシャンサン………!」

「ただし約束してくれ。この部屋の鍵の管理はお前に任せる。だからお前はこの部屋の鍵を厳重に保管してくれ。失くしたら大事だからな。あともし仮に誰かにバレたら素直に存在を話して謝るんだ。変に嘘ついたら益々疑われるし、今後の信頼関係にも影響が出るからな。勿論、その時は俺も一緒に謝る」

「わ、分かりまシタ!ありがとうございマス!!!」

ハルクは土下座のような形で何度も頭を下げる。

「この話は終わりだ。もう正座なんてやめてくれ。それとせっかくなんだが…………お前が良ければ少し一緒にトレーニングさせてくれないか?」

「…………エ?」

「俺も少し身体を動かしたい気分なんだ」

さっきの八尋の一言がどうしても頭から離れない。

このもやもやした気分をどうしても吹き飛ばしたい気持ちでいっぱいだった。

「も、勿論デス!前からマジシャンサンと一緒に筋トレしたいと思ってマシタ!マジシャンサンの筋肉、凄いデース!」

「そ、そうか………?

ハルクは寧ろ大歓迎といった様子だった。

なので俺は早速ハルクとトレーニングを開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………つ、疲れた………………」

トレーニングを始めて約1時間。

俺はへばって休憩していた。

前バスケをやった時もそうだったが、前と比べて体力の低下が著しい。

もう少し体を動かす必要がありそうだ。

「(それにしても凄いな………)」

俺はそんなことを考えつつ、隣でベンチプレスを上げているハルクを眺めていた。

俺がどう頑張っても上げることが出来ない重量を軽々と上げているその姿は、まさに筋トレを極めた者と言えるだろう。

「…………フゥーーー!ちょっと休憩デス!」

ハルクは持ち上げたものを下ろすと起き上がった。

「しかし流石は『超高校級のボディビルダー』だな。動きが洗練されてるのが素人の俺でも分かるよ」

「フフン、凄いデショー!でもマジシャンサンも凄いデース!やっぱワターシの顔に狂いはなかったデス!」

「『顔』じゃなくて『目』な」

ハルク、外国人にしては日本話が上手いけど、時々変な日本語使うんだよな………。まあおしい(ちょっとだけ間違ってる)のが結構多いが。

「そういえばハルクはどうしてボディビルダーになろうと思ったんだ?」

俺はふと、ハルクに才能のことについて尋ねてみることにした。

「それは勿論、()()()()()()()()()からデス!」

するとハルクは真っ白な歯を見せて笑った。

「守る………?じゃあそのために筋肉を付けてるってことか?」

「そうデス!………マジシャンサン、ワターシの昔の話、聞いてもらえマスカ?」

「ああ。是非聞かせてくれ」

ハルクは汗を拭うと、自身の過去について話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワターシ、実は昔は身体が小さくて弱虫だったんデース。だから周りの人からはずっと虐められてマシタ。だからワターシ、ずっとそんな自分を変えたかったんデース。自分も強くてかっこいい人間になりたかったんデース。そんな時、テレビであるヒーロー番組を見たんデース。そこには大きい身体を生かして市民を敵から守る、まさにワターシが目指してる理想の人が映ってたんデース!だからワターシ、そんなみんなを守れる、強いヒーローになろうと思ったんデース。

 そこからワターシ、パパンやママンに頼んで、食事と運動、生活習慣全てを変えて身体を作ることから始めマシタ。そしたら身長もどんどん伸びて、筋トレの成果も出て、こんな身体が出来上がりマシタ!

 えっと、つまりワターシは…………この筋肉でみんなの役に立ちたい、って事デース!!だからボディビルダーとして筋肉を鍛えてみんなに見てもらって、自分の筋肉でみんなを守れること、ちゃんと証明したいデース!!!

 

 

 

 

 

 

「ワターシの話はこんな感じデース。マジシャンサン、伝わりマシタカ?」

「ああ。伝わったよ。ハルクがボディビルダーをやってる理由が」

ハルクがボディビルダーとして筋肉を鍛え続ける理由。

それは『自分以外の人間も守りたいから』という大きな目標のため。

俺みたいな生活費を稼ぐため、なんていうちっぽけな理由とは訳が違う。

「でも凄いよ。他人のためにそこまで考えられるなんて。俺はには到底真似出来ない」

「あ、ありがとうございマース………。ちょっと照れマスネ………」

ハルクは褒められて嬉しかったのか顔を赤くしている。

「あ、でも……………」

「でも?」

「さっき、神父サンに負けちゃったデース。ワターシ、皆サンのこと、守れなかったデース…………」

ハルクは顔を下げ落ち込んだ様子を見せる。

「さっきのは仕方ないだろ。ジェントルマンの力実験によって手に入れた異常なものだ。俺ら一般人が勝てる方がおかしな話だ」

「そ、それでもワターシ、皆サンのこと、守りたいデース!そのために、筋肉、鍛えてきたのデース!!」

ハルクが自分の二の腕を叩く。

 

 

 

 

 

「なら、科学で手に入れた力以上の力をハルクが努力で身につければいいんじゃないか?」

「………エ?」

「日本には『努力は天才に勝る』という言葉があるんだ。どんな天才も血の滲むような努力には勝てない、という意味なんだが…………つまり、ハルクが皆を守れるように今から努力すれば、もしかしたら勝ち筋が見えるかもしれない」

「………なるホド!そうデスネ!じゃあワターシ、もっと筋トレシマス!」

「ただし、ハルクも分かってると思うが、努力にもやり方がある。無闇に努力しても結果は伴わないし、最悪健康に悪影響が出る。だから決して無理しないでくれ。ハルクが倒れたら俺らのことを守る人がいなくなってしまうからな」

「………確かにそうデスネ………。分かりマシタ!ワターシ、皆サンのこと守れるように、神父サンに力で負けないように、もっと頑張りマス!マジシャンサン、ありがとうございマシタ!」

「ああ、その意気だ。俺もハルクのこと、頼りにしてるぞ」

俺とハルクは固く握手を交わした。

こうして俺は、ハルクという仲間の一面をまた知る事が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

19:00

 

 

 

みんなで夕食を食べた後、俺はある2人のところに向かおうとしていた。

1人目は結城、そして2人目は雷哉だ。

結城は昨日の裁判から一度も俺達の前に姿を見せていない。

自分に懐いていた桃林が殺人を起こした事に深く責任を感じているんだろう。

俺達のリーダーとして誰よりも調和を重んじてきたあいつの性格上、仕方ないといえはそうなんだが………。

「(でも、やっぱり気になるよな)」

もしあいつの精神状態がかなり危険な状態だったら、あいつは絶望して自殺を図る、なんてこともあるかもしれない。

それくらいあいつは責任感が強い奴だからだ。

そう考え、俺は結城の個室前まで来た。

深呼吸してから、俺はインターホンを押す。

「(………返答なし、か)」

部屋にいないのか、それとも居留守を使われているのか。

俺はもう2回、インターホンを押してみた。が、返答はなかった。

ひとまず出直そうと思い、その場を去ろうとすると………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………誰?」

個室の中かやか細い声が聞こえてきた。

「………俺だ。夢寺だ。様子を見にきた」

俺はドア越しに結城に声をかける。

「…………夢寺君か」

するとドアがゆっくりと開き、隙間から結城が顔を覗かせた。

目には酷い隈があり、顔色は非常に悪い。

最初に会った時とはまるで別人のようだった。

「………何か用かい?」

「いや、その………朝食にも顔を出さないし、ずっと姿を見ていなかったからな。大丈夫かと心配になって…………」

「君もお人好しだね。僕なんか放っておけばいいのに」

結城は虚な目で俺を見つめながら、突き放すような言い方で俺を拒絶する。

その態度に俺は驚きを隠せなかった。

あの結城がこんなになってしまうなんて…………。

「………結城?お前、態度が………」

「………それで?用はそれだけかな。僕は見ての通りちゃんと生きてるから心配しないでいいよ。みんなにもそう伝えておいて」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!?」

結城はそっけなくそう言ってドアを閉めようとしたため、俺はそれを慌てて止めた。

「確かに今は辛いと思う。けど、今こんな状況だからこそ結城みたいなリーダーが必要なんだ。お前の帰りを待ってるんだ。だから俺達にできることは何でも言ってくれ。俺も含めてみんなお前の力になりたいんだ」

俺が今の気持ちを結城に伝える。

すると結城は深くため息をつくと……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………僕はもう、戦えない。悪いけど僕はもう、リーダーは降りるよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………え!?」

突如言われた結城の言葉に、俺は咄嗟に返すことが出来なかった。

「………もう、希望が見えないんだ。僕達が全員無事でこの場所を脱出出来る未来が見えない。…………だからもう、僕は君達と一緒には戦えない」

「な、なんで急にそんなことを………!」

「急じゃないよ。僕は乃木さんと百々海さんが殺された時から薄々疑問に感じていたんだ。僕達はこの先本当に全員が一致団結してコロシアイから逃げられるのかってね」

「でも、お前は1回目の裁判の後も俺達を元気づけてくれて………」

「あれはただの空元気だよ。僕自身をなんとか鼓舞する意味もこめて言ったんだ。そして2度と犠牲者を出さないっていう決意の意味もあった。けど、そんな決意も無意味だった。しかも殺人を起こしたのは僕がずっと気にかけていた桃林さんだった。………僕のやってきたことは全て無意味だったんだよ」

「………それは」

「そしてこれからもどうせ同じ事が繰り返される。どんどん人が死んでいく。…………希望なんてないんだよ、僕らには」

「………まだ、まだ諦めるのは早いんじゃないか?だって結城も前俺達にそう言って……」

「だからそれは空元気だって言ったよね?」

結城は俺を睨みつける。

「………リーダーは誰かに任せるよ。どうせ僕がいなくても回るだろうしね。僕はもう1人で勝手に生きていくから、僕のことは無視してくれて構わないよ。ああ、別に僕は殺人をするつもりなんてないから安心して。仮に出たいと思ったとしても、僕にはみんなを騙して学級裁判を突破する知恵も度胸もないから」

そう言い残すと結城は思い切りドアを閉めてしまった。

「結城!?待ってくれ!?」

俺は何度もドアを叩くが、その後結城が出てくることはなかった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

俺は沈んだ気持ちで2人目である雷哉の個室の前に立っていた。

まさか結城があんな状態になっていたなんて。

俺は結城がまたリーダーとして立ち上がってくれると思い込んでいた。

が、実際結城はもう限界だった。

もうあいつの目に希望の光は宿っていなかった。

だからリーダーどころか、俺達と一緒に行動すること、そしてここから出ることすら拒絶したんだ。

けど、このままあいつの言う通りあいつを放置していてもいいのだろうか。

「(いや、駄目だ)」

俺達はみんなでここを出なくちゃいけない。

そのみんなの中には、当然結城も入っている。

1人だけ仲間外れ、というわけにはいかない。

「(とはいえ、どうあいつを説得するかだな………)」

そんな事を考えながら、俺はさっきと同じように雷哉の部屋のインターホンを押す。

しかし応答はない。

「雷哉!俺だ!」

声をかけてみるが、やはり反応なし。

これは恐らく居留守ではなく、本当にいないな。

「こんな時間にどこ行ったんだあいつ…………」

ひとまず俺は1階から順にあいつのいそうなところを回ることにした。

 

 

 

 

 

 

一体どこにいるんだろうと色々探し回ったが、案外すぐに見つかった。

あいつは地下一階の運動場をがむしゃらに走っていた。

まるで心の鬱憤を晴らすかのように。

「おい雷哉!」

「あ?………………んだよ、蓮じゃねーか」

雷哉は立ち止まりこちらを見た。

かなりの汗をかいている。きっとだいぶ前から走っているんだろう。

しかしその表情は暗い。

こんな顔、雷哉らしくない。

「…………俺になんか用かよ」

「用って………そりゃお前が心配だったから様子を見にきたんだ」

「ハッ、負け犬がどんな顔してんのか見にきたってか。そりゃそーだよな。普段偉そうにデカい口叩いてる奴があんな無様に負けたんだもんな」

雷哉の嫌味たっぷりの発言。

これも雷哉らしくない。

「…………お前、やっぱりジェントマンに負けたことで相当凹んでるな?今までお前のそんな情けない面、見た事ないぞ」

「…………!!」

図星だったのか、雷哉は一瞬で顔を真っ赤にして拳を地面に叩きつける。

………が、深く息を吐くと、

「…………そうだよ。オレはこれ以上にないくらい凹んでるし、自分の情けなさにキレてる。そんでダチのオメーに八つ当たりしてんだ。悪いかよ」

「いや悪いだろ」

「…………………」

俺が冷静にそう返すと、雷哉は考え込むようにして黙ってしまった。

普段のあいつなら俺のツッコミにゲラゲラと笑って返すんだが………。

 

 

 

 

 

 

「悪ぃ、蓮。朝はオメーに八つ当たりしちまった。ホントダセーし申し訳ねーと思ってる」

雷哉は俺に対して深く頭を下げた。

「正直ダチの縁切られても仕方ねーと思ってる。けどよ、オレもこんくらいしねーと収まりがつかねーっつうか………」

「何言ってんだお前は」

俺は頭を下げた雷哉の尻を軽く蹴る。

「な、何だよ。人が真剣に謝ってんのによ」

「今更何言ってんだって話だ。俺がどれだけ小学校、中学校の頃お前に振り回されて暴言吐かれたと思ってる。あの時と比べたら今朝のなんて些細なことだ」

「蓮………すまねえ!!」

再び頭を下げる雷哉。

こんなしおらしい態度は雷哉らしくない。

「やめろって。というかお前、謝るなら昔のこと謝れよ。ほら、土下座して這いつくばれ。それか俺のサンドバッグになれ」

「なっ…………」

「散々俺の実験台になれとか言って殴りかかってきただろ?なら今度はその逆だ。俺がお前をサンドバッグにしてやる。その無駄にデカいハリボテみたいな体をな」

俺は調子に乗ってバンバンと要求を浴びせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………よし決めた。蓮、ちょっと構えろ」

「…………は?」

すると、雷哉は顔に怒りを浮かべながら急にファイティングポーズを取り始めた。

「………少し下手に出たら調子に乗りやがって。このムカつく気持ちは殴り合いでしか収まらねえ。だから構えろ」

「………お、おい。冗談だろ。落ち着けって」

「うるせーぞ蓮!男ならうだうだ言ってねーで構えろや!」

「まあまあ。というかこっちは素人だぞ。素人をリンチするつもりか?」

「殴り合いつってもガチの喧嘩じゃねー。スパーだスパー。オレがオメーに本気でいくわけねーだろ」

どうやら本気でキレさせてしまったらしい。

…………少し発破をかけてやるだけのつもりだったんだけどな。

「そもそも、ここにオレとスパーレベルすら出来るのがオメーとハルクしかいねーんだよ。けどハルクは殴るのは嫌いつってたからな。じゃあ残りは蓮、オメーだけってわけだ」

昔からこいつはそうだ。

自分のやりたいと言ったことを貫き通す。

そんな強引な奴だった。

「…………本気だすなよ。怪我したら慰謝料請求してやる」

「お!やる気になったか。………なんか久しぶりだな。こうして拳を交えるのは。最後にやったのいつだっけ?」

「………中二の5月だ。これ以上俺に黒歴史を思い出させるな」

「んだよ、ちゃんと覚えてるじゃねーか。けどそんな時間経ってねーってことだよな。なら問題ねーな」

雷哉が笑みを浮かべた。

「んじゃ、早速いくぜ!」

そして雷哉はいきなり踏み込みから強烈なジャブを入れてきた!

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ…………はあ…………死ぬかと思った」

そして数十分が経過した頃だろうか。

俺と雷哉は揃って地面に大の字に寝転がっていた。

「いやーやっぱ喧嘩は気持ちいいな!久しぶりにスカッとしたぜ!しかし蓮、オメー昔から避けるのだけはうめーよな!」

「『避けるのだけ』は余計だ。クソッ……」

俺はひたすら雷哉のパンチやキックを避けるので精一杯だった。

避け続ける間に何発かパンチを入れたが、強靭な肉体を持つ雷哉には全く効いていなかったようだ。

「けどよ、マジな話、蓮は喧嘩マジで強えーよ」

「だから冗談はもういいって………」

「冗談じゃねーよ」

雷哉は真剣な表情で空(地下だから空とは言えないが)を見上げながらそう言った。

「なんつーか、蓮は力というより心が強えーんだよ。どんなことされても絶対負けねーっていう芯の強さがあんだよ。そういう奴は喧嘩の時超強えーし厄介なんだよ」

「けど結局、喧嘩なんて体格と力の強さで決まるだろ?気持ちなんて二の次じゃないか?」

「いや、オレはその気持ちの強さが勝負を分けることがあると思う。実際さっきも、オレと蓮を比べたら力と体格は圧倒的にオレが勝ってたけどよ、気持ちは蓮が圧倒的に勝ってたし余裕があった。だからこのまま続けてたらオレは負けてたかもしれねー」

「雷哉………お前いつになく弱気だな」

俺がそう言うと、雷哉は「………そうだな」なんて弱々しい返事をしながら起き上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレよ………『喧嘩屋』なんて事始めてから負けた事なんて一回もなかったんだわ」

「そうなのか」

「んだよ、少しは驚けよ………。でも今日は、あの犯罪者ヤローに完膚なきまでに叩きのめされた。しかもあんな見た目ヒョロヒョロのもやし野郎にだ。まだハルクみたいなゴリゴリの外国人に負けたなら仕方ねーってなるけどよ………流石にヘコむぜ」

「そうはいっても、ジェントルマンは科学実験で強靭な肉体を得た、いわゆる『改造人間』だろ?なら負けてもしょうがない…………っていう風には納得出来ないって顔してるな」

「よく分かってんじゃねーか。………そうだ、オレは誰が相手だろうと負けちゃいけねーんだよ。オレはここでの役割はオメーらを色んな脅威から力で守って、誰も傷つけさせないことなんだよ。そのために鍛えてきたんだからな」

「………ちょっと待て。じゃあ雷哉が『喧嘩屋』を始めたのって………」

「勿論喧嘩が好きっつー理由もあるぜ。けどオレは女子供に手を挙げる奴が大嫌いなんだ。だからオレはそんな社会的に弱い立場の奴らに代わって喧嘩を引き受けてるんだよ。それがビジネスみたいになって『喧嘩屋』って呼ばれるようになったわけだ。………なんか笑っちまうよな」

雷哉は少し笑いながら自分のことについて話している。

こいつは…………雷哉は昔から何も変わっちゃいない。

学校でも弱い奴を庇い、強い奴を守るために喧嘩を買う。

中学で不良になった後も、あいつは女子に暴力を振るったことは一度もない。

そして同じグループの奴が他のグループの奴にやられた時も、あいつは真っ先に怒り、やられた奴を気遣っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そうか。お前が昔から変わんない強い奴で安心したよ」

俺は同じように起き上がる。

「いや、けどオレさっき負けたぜ。だから弱いだろ」

「そうはならないだろ。確かに『ジェントルマンとの勝負』では負けたな。けど、このコロシアイ生活全体で見るなら、お前は負けてない。だって、お前のここでの役割は『俺らをジェントルマンのような脅威から守る』なんだろ?あの場でお前とハルクが体を張ってジェントルマンと勝負してくれたおかげで、俺らは全くの無傷だ。ということは、お前の役割は果たせたんだし、寧ろ勝ったと言っていいんじゃないか?」

「………!?」

雷哉はハッとした表情を見せる。

「というか、俺は何事にも勝ち負けをつけるべきじゃないと思うし、負けたら価値がない、弱い、と結論づけるのはおかしいと思う。負けから学ぶこともあるし、とある部分で負けたとしても、結果として勝っていればそれでいい。『終わりよければ全てよし』ていう言葉もあるくらいだしな」

「………いいのかよ、本当にそれで」

「別に俺の答えが正解だとは言ってない。あくまで俺の意見を言ったまでだ。けど、このコロシアイ生活という状況だからこそ、俺はそう考えてるのかもしれない。結果として全員無事でここから出られればいい。俺はそう思ってる」

「…………」

雷哉は少し考え込む様子を見せる。そして………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし!!!もうウジウジ考えんのはやめるわ!!!」

立ち上がり、大きな声でそう叫ぶ。

「オレはこれから絶対、誰にも負けねー!ジェントルマンの野郎にもな!」

「………また戦うことになったとしてもか?」

「さっきはアイツを舐めてた部分があったからな。もうアイツの拳は見切った。オレなら拳一発で沈められるぜ」

「一発、ねえ………」

「んだよ!その冷ややかな目はよ!そんくらいの気迫を持つってのが大事なんだ!気持ちで負けてたら話にならねーからな!」

「………そうか。じゃあこれからも頼りにしてるぞ。みんなを守ってくれ」

「おう!任せろ!モノワニをぶっ飛ばして、全員で脱出しようぜ!オレとオメーなら出来るって!」

「………ああ。そうだな」

俺と雷哉は互いに拳を合わせる。

良かった。雷哉か元気になって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そういえば蓮、昨日夜中何やってたんだよ」

しばらく俺達は談笑し、そろそろ個室に帰ろうとした時、雷哉が妙なことを聞いてきた。

「夜中?何の話だ?」

「何のって………オメー昨日、個室前の廊下歩いてただろ?こんな時間にどこ行くんだって思って気になってたんだ」

「………何言ってるんだ?俺は昨日夜中出歩いてなんかないぞ」

「………あ?嘘つけ!だって昨日オレ見たんだぜ!?」

俺は昨日、夜中は個室で寝ていた。

というか、夕食を食べた後個室に帰ってからは一歩も外に出ていない。

「それ、本当に俺だったのか?話しかけたりしたのか?」

「いや、オレは遠くから見えただけだから話してはねーけど………」

「じゃあ人違いだろ。だって本人が出てないって言ってんだからな。それにもし仮に外に出てたとしても、正直に言えばいい話だ。別にお前に嘘つく理由はないだろ?俺とお前の仲なんだし」

「………まあ、それもそうだよな………」

雷哉はそうは言ったもののあまり納得してなさそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「でもよ、蓮。じゃあ聞くけどよ、前も何回か夜中外出てたよな?そん時は何してたんだ?」

すると雷哉はさらに俺が困惑するようなことを言い出した。

「………ちょっと待て。お前は本当に何を見たんだ?俺はここに閉じ込められてから夜中に出歩いたことは一回もないぞ」

「う、嘘だろ!?じゃあもしかして…………この学園には蓮が2人いるってことか!?」

「そんなドッペルゲンガーみたいなのがいるわけないだろ。絶対人違いだ。きっと結城あたりと間違えたんだろ。あいつとは身長も同じくらいだしな」

パスポートの生徒手帳によると、俺の身長は175cm、結城の身長は177cmだった。

2cmの差であれば、遠目だと見間違えてもおかしくはない。

「結城………?でも俺が蓮とアイツを間違える事あんのか………?」

「それは俺も知らない。とにかく、俺は夜中外を出歩いてなんかいない。というか、お前はなんでそんな時間に外にいるんだよ」

「オレは毎日寝る前にランニングしてから寝てんだよ。………まーいいや。今度見かけた時は声かけてみるわ」

「そうしてくれ」

俺達はそんな不思議な出来事にについて話した後別れた。

それにしても雷哉が見間違えた奴は一体誰なんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生存者

 

 

 

1.飛鳥 圭【スリ】

2.天草 京介【神父】

3.綾辻 澪【軍医】

4.円城寺 霊夜【オカルト研究家】

5.風神 雷哉【喧嘩屋】

6.北桜 千尋【ピアニスト】

7.北桜 八尋【作曲家】

8.佐々木 莉央奈【かるたクイーン】

9.写実 真平【カメラマン】

10.司 拓郎【秀才】

11.百々海 真凛【水泳部】

12.乃木 環【???】

13.ハルク ゴンザレス【ボディービルダー】

14.桃林 林檎【グルメリポーター】

15.薬師院 月乃【女将】

16.結城 晴翔【バトミントン部】

17.夢寺 蓮【マジシャン】

18.不知火 椿【くノ一】

 

 

 

 

残り13名

 

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