ダンガンロンパ ルーナ   作:さわらの西京焼き

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またまたお久しぶりです。
今回で死体が出ます。







(非)日常編③

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜1時。

ジェントルマン監視の最初の担当である俺と不知火は、あいつの個室前で持ってきた椅子に座っていた。

「悪いな、大変なことに付き合わせて」

「夢寺殿が謝る事ではござらん。仲間の安全を守る為ならなんてことないでござる」

 

 

 

 

 

 

 

ジェントルマンは今、個室の中にいる。

一応、『監禁』ではなく『監視』のため、あいつが自由に出歩くことを禁止することは出来ない。仮にジェントルマンがこの時間に外に出たいと言ったら、俺達はそれを邪魔しない程度でついて行く形となる。

さっきあいつに今日の予定を聞いたら、「いや〜パイセンとお出かけしたい気持ちは山々なんスけど、なんか視界にも入れたくない邪魔者がいるんスよね〜」と不知火を睨みつけていた。

どうやら昼の食堂の時とさっきの態度を見ると、ジェントルマンは不知火のことを酷く嫌っているらしい。

恐らく過去に何かあったのだろうが、記憶を失っている俺達にそれを知る術はないし、ジェントルマン自身に聞いてもどうせまともに答えてはくれないだろう。

 

 

 

 

 

 

「なあ、不知火。少し聞いてもいいか?」

なので俺は、不知火に心当たりがないか聞いてみることにする。

「何でござるか?」

「俺の勘違いだったら申し訳ないんだが、ジェントルマンの奴、お前のことだけなんか目の敵にしているというか、嫌っている風に見えるんだが………」

「ああ、その事でござるか」

不知火は声のトーンを落とし、少し苛立ったような様子を見せた。

………こんな不知火は初めて見るな。

「あの男と拙者はどうやら、ここに来る前から面識があるようでござる。それで拙者の事が嫌いで顔も見たくないとの事でごさる。拙者も最初は仕方がないと思っていたでござるが、しばらく時を経たら拙者もあの男を腹立たしく思えてきたのでごさる。きっと失った記憶の奥底に眠るあの男に対する嫌悪の心が湧き上がってきたのでござろう。これは過去の拙者があの男を嫌っていた何よりの証拠でござる」

口調、顔色が変わったわけでもなく、声を荒げるわけでもない。

それでも俺には、不知火がはっきりと怒りを露わにしていることがよく分かった。

普段あまり表情に変化のない不知火しか知らない俺は、それが珍しくつい不知火の方をじっと見てしまった。

 

 

 

 

 

 

「……………これは失礼。人間への怒りで心を乱すなど忍者として言語道断でごさるな」

すると、その視線に気がついた不知火がコホンと咳払いをした。

「いや、こっちこそ悪い。今みたいな不知火を見るのは初めてだったからつい驚いて……」

「夢寺殿の反応はごく当たり前でござる。何も悪くないでござるよ」

不知火はもういつもの不知火に戻っていた。

しかし、俺達の失われた記憶って何なんだろうか。

俺達は今、どこにいるんだろうか。

外は今、どうなっているんだろうか………。

 

 

 

 

 

 

「そういえば不知火。前から気になってたんだが、そのヘアピンって……」

「………ああ、これでござるか」

不知火は付けている()()()()()()を触る。

「………記憶はないのでござるが、どうやら拙者は過去このへあぴんをとても大事にしていたようでござる。恐らく誰か大切な人からの贈り物のようでござろう」

記憶にないため、まるで他人事のように話す不知火。

「記憶には残ってないけど分かるのか?」

「明確な根拠はないでござるが………心の奥底に眠っている拙者の気持ちがなんとなくそう言っている気がするでござる」

「随分ふんわりした表現だな……」

「しかし、何故それを?」

「ああいや、なんとなく見覚えがあるようなーって思ったが、勘違いだった。俺はお前と初対面だし、ここに来て不知火にヘアピンなんてあげてないしな」

「…左様でござるか」

 

 

 

 

 

 

何故だか分からない。

だが…………………どうしても不知火のヘアピンを見ると、頭が一瞬ズキっとなるのだ。

痛みは一瞬だし、特に気にすることはないと今までスルーしてたんだが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢寺パイセン!こんばんわッス!!」

俺がそんな考え事を始めた直後だった。

ジェントルマンが個室のドアから突如顔を出してきた。それもどデカい声を出しながら。

「……少しは時間を考えろ。今夜中だぞ」

「えー?他のクソ共なんかどうでもいいッスよ!それよりもパイセン!中入って色々お話ししたいッス!」

「お前の部屋に?」

「そうッス。だってここの部屋防音なんスよね?だったらどっかの誰かに話聞かれずにゆっくり話が出来るッスから!」

そう言ってジェントルマンは不知火の方をまた睨む。

「…………………」

それに対して不知火は全く怯むことなく、獲物を狩るような目で睨み返す。

「あン?何だァその目はァ。今ここでブチ殺してやってもいいんだぜェ?」

「……其方に拙者を殺すのは不可能でござるよ」

「あァ?」

…………空気が険悪すぎる。今にも殺し合いが始まりそうだ。

「……分かった。じゃあ部屋に入れてくれ。せっかくお前と話せる機会だしな」

俺はその険悪な空気から一刻も早く脱出するべく、ジェントルマンに承諾の返事をする。

「お!マジッスかァ!言ってみるもんだなあァ!」

「しかし夢寺殿。その男は………」

「大丈夫だ。いくらこいつが犯罪者だからといって、こんな犯人がバレバレの状況で俺を殺すなんて事はない。それに外に不知火もいるしな」

「いやいや、オレっちが夢寺パイセンを殺すなんて、明日隕石が地球に落ちて滅亡するよりあり得ないッスよォ!………だからクソ女、テメェはここでいい子ちゃんにしてろォ」

「…………………」

不知火はしばらく黙っていたが、「……承知」と返事をしてくれた。

「悪い不知火。すぐに戻る」

俺はそう言い残し、ジェントルマンの個室に入った。

 

 

 

 

 

 

ジェントルマン、いや天草の部屋は、思ってたよりも綺麗だった。

「お前、意外と部屋綺麗に使ってるんだな……」

「そりゃそうッスよォ!だってパイセン部屋に呼ぶんスもん!今日は特別ッス!」

じゃあ普段は汚いってことかよ。

「………それで?わざわざ俺1人を部屋に招き入れたんだ。色々話を聞いてもいいってことだよな?」

「答えられることなら何でも答えるッスよォ!」

「そうか。じゃあまず聞くが…………俺とお前は()()()()()()()()()?過去に何があった?」

俺はまず、最も気になることについて聞くことにした。

こいつはずっと俺のことを『パイセン』と呼び、俺を慕っている。

だが、俺はジェントルマンに過去会った記憶など一切ない。

だったら、こいつは何者で俺とどのような関係なのか。

「…………まあ、まずはそこッスよねえ」

ジェントルマンは深くうんうんと頷くと………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレっちとはパイセンは、()()()()()()()()()()で、パイセンは()()()()()()()ッス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「同じ…………施設?」

「そうッス。詳細は省くッスけど、オレっちとパイセンはある施設にいたんスよ。そこでオレっちはパイセンに救われたんス」

俺は一瞬で頭が真っ白になる。

こいつと俺が………同じ施設?

「ま、待て!そんな事ある筈がない!そもそも施設って何だ!!俺はそんなところにいた覚えもないし、お前みたいな犯罪者と一緒にいた記憶もない!!」

「いやいや、施設にいた頃はまだ殺人幇助はしてなかったッスよォ。というか………ああ、なるほど。そういうことッスか」

ジェントルマンは何故か1人で納得した様子を見せる。

「オレっち、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「はあ…………」

「パイセン。恐らくパイセンは頭いいんで薄々勘付いてると思うんスけど」

ジェントルマンは、初めて見せる生真面目な顔で俺の目をじっと見る。

 

 

 

 

 

 

 

「オレっち達、多分だいぶ記憶消されてるッス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクン…………

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その考えは、恐らく当たっている。

何故なら俺は……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入学式前のあの光景から先の、送ってきた人生を、まるで思い出せないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、それだけじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その前の人生だって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の記憶は穴の空いたチーズのように記憶が欠けている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ…………はあ…………」

「オレっちも正直、全部思い出したわけじゃないんスよォ」

自分の呼吸が段々と荒くなるのが分かる。

 

 

 

 

 

「施設のこともまだ全然思い出せてないんスけど、どっかでパイセンと一緒に過ごしたことはちゃんと覚えてて」

「はあ………はあ………はあ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭がズキズキと痛む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小学校からの腐れ縁である雷哉のことは覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

けれど…………当時の雷哉の顔や何を話したか、俺は思い出すことが出来ない。

中学の話もそうだ。

雷哉とつるんで不良まがいのことをしてたのはなんとなく覚えているが、詳細はあまり思い出せていない。

雷哉と話していた時は無理やり話を合わせていたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2回目の動機の時に配られた、俺にとって『大切な人』の映像。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれを見るまで俺は…………………俺の弟と妹の名前を忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は一体、どんな人生を過ごしてきたんだ。

俺は…………本当に希望ヶ峰学園の生徒なのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぱ、パイセン!?大丈夫スかパイセン!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は静かに意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………え」

「……夢寺様?良かった…………本当に良かったです……!」

目を開けるとそこには、白い天井が広がっていた。

そして、心から安堵したような表情の綾辻が俺の顔を覗き見ている。

「…ここは?」

「医務室です。夢寺様は昨日のこと、覚えていらっしゃいますか?」

………そうだ。

俺は昨日、不知火とジェントルマンの見張りをしていて、あいつに部屋に呼ばれて行って、そこで………

「………ッ!?」

「まだ起き上がらない方がいいです。ひとまず今はゆっくり休んで下さい」

起き上がろうとして頭痛で顔を歪めた俺の肩を、綾辻は優しく押して俺をまたベットに寝かせた。

「………俺はどうやってここに?」

「不知火様が私をお呼びになって、その後ジェントルマン様がここまで運んできて下さったんです」

………あいつらにも後で礼を言わないとな。

「…………そうか。悪い。また迷惑かけたな」

「こんなのは迷惑のうちに入りません。それに非があるのは私です。私は医者として皆様の健康管理にも気を配らなくてはいけないのに、夢寺様が最近働きすぎで体調が万全でないことを見抜けませんでした。申し訳ありません」

そう言って彼女は深く頭を下げた。

「ち、違う!綾辻のせいなんかじゃない!これはただ俺が………」

「………ふふ」

俺が慌てて弁明しようとすると、綾辻は笑った。

「このパターンはまたお互い謝り続ける事になりそうですね。ではこれでお終いにしましょう」

「………ああ。そうだな」

俺も口元を緩める。

「ですが、今日はしっかり休んで下さい。夢寺様、ご自分の目の隈が段々と濃くなっているのにお気づきですか?」

「ああいや、これは別に大丈夫………」

「全然大丈夫じゃありません。今日は絶対安静。ベットで大人しく寝ていて下さい。これは医者からの命令です。いいですね?」

「………はい」

綾辻、やっぱり怒ると圧が凄いな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、綾辻の言われた通りぐっすり寝て休んだら、とりあえず元気になった。綾辻曰く、原因は睡眠不足と日頃の疲労のせいらしい。

不知火とジェントルマンにもお礼を言いに行った。

不知火は安堵の表情を見せるだけだったが、ジェントルマンは俺の姿を見た瞬間、泣きながら俺に抱きついてきた。当然、慌てて躱したが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の昼、特にやることもなく、外をふらふらと出歩いていた。

すると、食堂から誰かの話し声が聞こえるのに気がついた。

誰だろうと思い食堂に足を踏み入れると、綾辻と不知火が仲良くお喋りをしていた。

「おや、これは夢寺殿。奇遇でござるな」

「どうかされましたか、夢寺様?」

「いや、偶々通りかかっただけだ。2人は仲がいいな」

「ええ。不知火様とは探索の際色々お話させて頂きまして」

「綾辻殿とはもう友達を超えた、いわゆる『まぶだち』という奴でござるな」

「そ、そうか………」

まさかそこまで仲良くなっていたとは。

だが、この環境で仲間同士で絆を深めることは良い事だ。

途中参加の不知火が俺達に馴染めるか心配だったが、これなら問題なさそうだ。

 

 

 

 

 

「じゃあ、俺はこれで。2人の邪魔をしちゃ悪いしな」

「あ、そうだ!」

俺が食堂から出て行こうとすると、綾辻が思いついたように両手を合わせた。

「不知火様。もしよろしければ夢寺様にもさっきのお話を聞いて頂くのはどうでしょうか?」

「………成程。一理あるでござるな」

「ん?さっきの話?」

「実は今、不知火様は悩んでいらっしゃることがありまして。私はこれでも医者の端くれですので、その相談に乗っていたんです」

「うむ。医者である不知火殿なら拙者の悩みを解決できるであろうかと思ったのでござる」

「しかし、私の知識でもそれが何なのかはっきりと分からないんです。だから夢寺様にもお力を貸して頂きたいな、と」

「『3人集まれば文殊の知恵』という格言があるでござる。だから拙者らに加え夢寺殿の知恵が合わされば、もしや何か解決策が思いつくやもしれんでござる」

2人から期待の眼差しを向けられる。

「いや、待ってくれ。話を聞く限り、不知火は今体調不良関係の悩みを抱えているんだろ?なら医者の綾辻でも分からない問題を俺が解決出来るとはとても思えないんだが」

「いえ、もしかしたら不知火様の症状は医者の話とは関係ないかもしれないです。だからカウンセリング、という事で是非夢寺様にも話を聞いて頂きたいなあ、と。どうでしょうか………」

さらに期待のこもった眼差しがこちらに………。

「…………分かった。話を聞くぐらいなら素人の俺にも出来るからな。けどあんまり期待しないでくれ」

「ありがとうございます!そんなにお時間はとらせませんから!あ、何か飲み物入れてきますね!」

「流石は夢寺殿。その男気、天晴れでござる」

男気って。そんな話を聞くだけなのに大袈裟な。

 

 

 

 

 

 

「それでで?不知火の悩みっていうのは何なんだ?」

俺は食堂の椅子に座り、向かい側に座る不知火に対して問いかける。

「………実は拙者、前回の裁判直後から()()()()()()()()()()()

「………頭が痛い?風邪か?」

「いや、恐らく体調不良の類ではござらん。それは拙者の体だから拙者自身が一番よく理解しているでござる」

「じゃあ精神的なものか?ストレスとか」

「それもあまり考えられないでござる。拙者、生まれてこの方『すとれす』を感じたことがない故」

「ストレス感じたことないってどんな人間だそれ………」

そんな馬鹿な事があるのかと思ったが、不知火のようなある意味マイペースで図太くておおらかな心の持ち主であれば、ストレスフリーなのも納得出来なくはない、のか………?

「頭痛の頻度はどのくらいなんだ?」

「今のところ、2時間に一回くらいでござる。そこまで頻度は多くないでござる」

「………そうか」

体調不良ではない。

精神的なものでもない。

だとするとあと考えられるのは………食事?それとも古傷が痛むとか?いや、どれもしっくりこない。

…確かに綾辻が頭を悩ませるのも分かるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………頭痛?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………待てよ。

あるじゃないか。

一番考えられるの可能性が。

しかも、ついさっき聞いたばかりの話だ………。

 

 

 

 

 

 

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「詳細は省きますが、その実験は【ソルジャー化実験】と言って、子供に対して『身体能力を飛躍的に上げる』改造手術を行い、さらに『別の人格を埋め込む』手術により、戦闘に特化したソルジャーを作成するというものです。自軍の戦力増強が目的でしょう。ただし、その実験を受けた人は副作用が残り、『人格が入れ替わる時酷い頭痛に襲われる』そうです。この状況、最近僕達は目にした筈です」

 

 

 

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「(まさか…………不知火もジェントルマンと同じ【ソルジャー化実験】の被験者なのか………………?」)

 

 

 

 

 

 

 

天草も裁判の時言っていた。

謎のチャイムを聞いた時からジェントルマンの自我が覚醒し、頭痛による体調不良が続き、その結果ジェントルマンに意識を乗っ取られたと言っていた。

意識の乗っ取りのきっかけは頭痛………。

そして前の裁判でチャイムが鳴らされた時、不知火にも頭痛の症状が出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

「………不知火、これはあくまで可能性の話だ。可能性の話なんだが………お前も【ソルジャー化実験】の被験者、なのかもしれない」

迷った末、俺は自分の考えを不知火に伝えることにした。

それに対して不知火は………。

「………やはり夢寺殿もそう考えるでごさる、か」

軽く息を吐き頷いた。

「不知火も同じ風に思ってたのか?」

「先程八尋殿の話を聞いてからでござる。風邪など引いたことがない拙者が頭が痛む要因などそれくらいしか心当たりがない故」

「夢寺様も同じ考えでいらっしゃいますか?」

すると、お茶を持ってきた綾辻が俺の前に置き、不知火の隣に座った。

「ありがとう。………『も』、ということは綾辻も同じか?」

「はい。………やはり八尋様からあんなお話を聞いた直後だと、どうしてもその可能性を考えてしまいます。………勿論、閉鎖的空間に閉じ込められた事によるストレスからくる頭痛、という可能性もまだ捨てきれませんが………」

「ああ。断言するのはまだ早い。だが不知火の体調にはより一層警戒しておいた方がいいかもしれない。今のところ新たな人格が自分の中に芽生えたような感覚はあるか?」

「全くないでござる。拙者は拙者のままでござる」

「そうか………。だがこれからそういった事が起きるかもしれない。もし自分の体に異変があったらすぐ俺か綾辻に知らせてくれ」

「承知したでござる」

「私もいつでも対応出来る準備はしておきます」

「お二方には迷惑をかけるでござる」

「いや、天草みたいにまた苦しむ奴が出てきて欲しくないからな。出来る事はするつもりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

不知火は深々と俺達にお辞儀をすると、食堂から出て行った。

「もし………不知火様が天草様と同じように別の人格が現れたら………私達はどうすればいいのでしょうか………」

綾辻がため息をつきながら不安を吐露する。

「こういう時こそ医者が頑張らなければならないのに…………私って本当に役立たずですね。自分が嫌になってきました」

「役立たずなんてそんな事はない。綾辻は十分すぎるくらい俺達の助けになってるよ。だから自分が嫌だなんて言わないでくれ」

「………ありがとうございます。夢寺様はいつでもお優しいのですね」

そんな安っぽい言葉で綾辻を励ますと、彼女は微笑んだ。

「………夢寺様。その………こんな頼りない私から聞かれるのはと思うのですが………確認してもよろしいでしょうか」

「ああ。全然頼りなくないし聞いてもらって大丈夫だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございます。その…………()()()()()()()()()()?」

「え?」

「申し訳ありません。言葉が抽象的すぎました。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()をお聞きしたかったんです」

そう聞かれた瞬間、俺は心臓がドキンと跳ねるのを感じた。

「昨日も夢寺さまは起き上がろうとした時、頭を押さえていらっしゃいました。それが今回の件と関係あるかもしれないも心配になりまして」

………流石は【超高校級の軍医】。患者の症状はしっかりと把握しているわけか。

「…………綾辻もやはり俺が【ソルジャー化実験】の被験者だと思うか?」

「ち、違うんです!!私が夢寺様を疑うことなんて絶対有り得ないです、その、これはですね………」

「正直に話してくれて大丈夫だ。別に責めてるわけじゃない。それに綾辻の意見を聞いてみたい」

「………………分かりました。私個人が夢寺様を疑いたくないという気持ちは本当です。ですが前回の裁判中、チャイムが鳴った後頭痛の症状を訴えたのは、天草様と不知火様、そして夢寺様の3人だけでした。そして先程八尋様がおっしゃっていた【ソルジャー化実験】の内容から、今の状況だと、天草様以外の2人も同じ被験者ではないかと思われてしまうのも仕方ないと思います。私もそれについて反論は出来ないです」

綾辻は俺に自分の考えを丁寧に説明してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

八尋から俺を【ソルジャー化実験】の被験者だと疑っていると言われた時、そんな事はあるはずがないと心の中で否定した。

だって自分は普通の人間だから。ジェントルマンのような身体能力も残虐性も持っていないから。そう理由付けをして言い聞かせた。それは今も変わらない。

しかし、頭痛の件を偶然で片付ける訳にもいかない。

実際天草はそれでジェントルマンと意識が入れ替わったわけだし、俺達3人以外に頭痛の症状が現れている。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は……………………普通の人間なのか…………?

それとも…………本当にジェントルマンのような改造された人間なのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

もし俺が【ソルジャー化実験】の被験者なら………俺はみんなの『敵』になる。

ならいっそ、暴走してみんなに迷惑をかける前に自分で命を絶った方がいいのかもしれない。

どうせ俺の命なんて、他人からすれば対して大事なものでもないし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………夢寺様?大丈夫ですか?顔色が優れないご様子ですが………やはり私がくだらないお話をしてしまったから………」

俺が意識を戻すと、綾辻が俺の顔を覗き込んでいた。

「ん?あ、ああ。少し考えをまとめていたんだ……ありがとう。参考になった。もし何か異変があったらすぐ綾辻に連絡するよ」

「……………………」

「綾辻?」

綾辻は俺の目をじっと見つめると、突如俺の手を握ってきた。

「………お願いです、夢寺様。決して無理はしないで下さい。どんな小さな異変でも私に相談して下さい。もし何かあれば私が出来うる限りの事を精一杯やらせて頂きますから」

「わ、分かった。でもそれだと綾辻に負担が……」

「構いません。夢寺様をそれで守れるなら私は何でもやります」

「何でもって、それはいくら何でも言い過ぎのような………」

「言い過ぎなんかではありません。本気です。だから先程の約束、必ず守ってください」

「分かった。些細なことでも体調の変化があったら綾辻に言うよ」

「………………本当ですか」

あ、圧が強い…………。

「本当だ。神に誓う」

「信用出来ません」

「そ、そんな……ならどうしろと…………」

「…………」

綾辻は一瞬黙ると、覚悟を決めたような表情になり、

 

 

 

 

 

 

 

 

「指切り、しましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白くて細い小指を出してきた。

「私も自分をこれ以上卑下するのをやめます。だから夢寺様も………()()()()を大事になさって下さい」

「………え?」

「前に夢寺様から言って頂いた言葉を今度は私から贈らせて頂きます。………夢寺様はもっと自分に自信を持たれてもいいと思います」

「………俺ってそんなに自信無さげに見えるか?」

「そうです。これを私が言うのもおこがましいのですが、夢寺様は自分を過小評価されていると思います。夢寺様が考える以上に、夢寺様は凄くて価値のある人なんです」

「そうなのか………?」

全くもってその自覚はない。

「そうなんです。だから夢寺様。自分は二の次、自分の命は後回しでいいやなんて考えだけはやめて下さい。等しく命は平等です。だから夢寺様の命だけ蔑ろにしていい理由なんてないんです」

「『自分の命を大事に』ってそういうことか…………。分かった。守るよ。その約束」

ここまで真剣に俺の事を評価し、心配してくれる人を悲しませるわけにはいかない。

俺も同じように小指を出し指切りする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ。………もし無事に外に出られたら、どこか一緒に出かけないか?」

すると俺は、自分の口からとんでもない言葉が飛び出しているのに数秒遅れて気がついた。

咄嗟に俺は視線を逸らす。

「………………………………え?」

「いや、その…………せっかくここで仲良くなれたしさ。同じ高校の高校生なんだし………綾辻とは特に仲良くしてるなって俺は勝手に思ってるんだが………」

俺は何を言っているんだ。

こんなの、まるで()()()()()()じゃないか。

「…………」

「綾辻?」

俺は恐る恐る綾辻の顔を見ると、綾辻は完熟トマトかというくらい顔を真っ赤にして震えていた。

「………すまん、今のやっぱナシで………」

「え?え、えええ!?違います!嫌だとかじゃなくて!!私、行きます!是非行きましょう!!ここを無事に出られたら是非!」

綾辻は高速で手を振りながらうんうんと頷く。

一体どっちなんだ。

「そっか。じゃあ行こう。どこに行くかは考えておくよ」

「あ、ありがとうございます!物凄く楽しみにしてます!」

「ハードルが一気に上がったな………」

綾辻の期待に応えられるよう頑張んないとな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

夢寺様との話を終えて解散した後、個室に戻った瞬間。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

私はベットに飛び込み突っ伏して恥ずかしさから悶絶していました。

「(どうして私、指切りなんて提案したの…………!)」

自分の猪突猛進さに腹が立つ。

あんなの、夢寺様を信じて口約束で良かったのに………!

しばらくその状態で反省し、やっと落ち着いたので顔を上げる。

「はあ…………」

このコロシアイの環境で夢寺様には想いは伝えない、悟られずに彼を陰から守るって決めたのに。

どんどん『好き』の感情が溢れてきてしまう。

「………駄目。この感情は夢寺様にとって邪魔になってしまう。彼が生きるための障害になってしまう」

とにかくこの感情は心に秘めないといけない。

でも…………あんな風にデートに誘われたら………正直我慢なんて………

「………駄目駄目。しっかりしないと」

……………何があっても絶対に夢寺様と一緒にここから出る。

そう決めたんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後が経った日の朝10時頃。

 

 

 

ジェントルマンの見張りは特にトラブルもなく続けられ、あいつ自身も問題を起こす事なく穏やかな日々が続いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし…………………そんな日々がずっと続くわけがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ピーンポーンパーンポーン……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『皆サマ、ご機嫌いかがですカ?これから重大な発表がありますのデ、これから指定する場所に集合して下さイ』

 

 

 

 

 

 

 

 

………モノワニの放送、か。

やはり今回も『動機』を配る気なのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

『なオ、今回は()()()()()()()()()()()()()()()。一度しか言いませんかラ、ちゃんと聞いておいて下さいネ』

「(人によって違う?どういう事だ………?)」

そんな事はこれまで一度も無かった。

なのに何故今回だけ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

『ではまズ、地上1F宴会場に集まる人でス。………飛鳥サマ、綾辻サマ、写実サマ、結城サマ、夢寺サマ、不知火サマの6名でス』

 

 

 

 

 

 

 

『そして残りの風神サマ、八尋サマ、千尋サマ、佐々木サマ、ハルクサマ、薬師院サマ、天草さまの7名は地下2Fの音楽館の音楽ホールに集合してもらいまス』

 

 

 

 

 

 

 

「(俺は1Fか)」

身支度をしながら俺は何故二手に分けたのか理由を考えていた。

………が、結局納得できるような理由は思いつかなかった。

そもそも、理由が分かったとしても俺達はそれに逆らう事は出来ない。

言われた通り行動するしかないのだ。

………行くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言われた通り1Fの宴会場に向かうと、既に俺以外の5人は集まっていた。

「この組み合わせは………何か意図があるんでしょうか?」

「分からない。意図的なのか、それとも偶然なのか………」

「モノワニに聞けば教えてくれるかもしれないでありますが」

「あいつの言う事なんて信じられないでしょー。というか、そんなどうでもいいことよりも気になる事があるじゃんー」

「これから拙者らが何をさせられるか、でござるな」

「……………」

「ゆ、結城氏?だいぶ疲れてるようでありますが………大丈夫でありますか?」

「………平気だよ。僕の事は放っておいてくれていいから

「放っておくってそんな………某達は仲間でありましょう!仲間の心配をするのは当然であります!」

「……………………」

「結城氏?」

「…………僕に構わないでくれるかな?僕は今、君達とは話したくない」

「え…………?」

久しぶりに外に出てきたであろう結城は、虚ろな目で空を見つめていた。

髪はボサボサで身なりも整っていない。

それにこの態度…………。やはり結城はおかしくなってしまっている。

「本人がそう言ってるんだし、放っておいたらいいじゃんー。ほら、それより始まるみたいだよー」

飛鳥の指差した先を見ると、天井から謎のモニターが2枚現れた。そしてそのうちの1枚に映し出されたのは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『皆サマ、全員集まってますネ。良かったでス』

 

 

 

 

 

 

気味の悪い笑みを浮かべたモノワニだった。

 

 

 

 

 

「良かったですちゅうか、あんたが無理やり集めたんやろ?」

「ふざけた挨拶してんじゃねーぞコラ!!早く要件を言いやがれ!」

同時に、もう一枚のモニターには地下にいる雷哉達の姿が映し出され、スピーカーから声が聞こえてくる。

『まあまあそうカッカせずニ………。ですガ皆サマの表情を見るト、流石にこれから何を発表されるか予想はついているようですネ』

モノワニの言葉に何人かが息を呑む。

俺も恐らく『動機』が発表されるであろう、と予想はついていた。

『勿体ぶらずに早く発表したらどうですか?僕達はあなたの冗談に付き合っているほど暇じゃないんですよ』

『八尋サマはせっかちですネ。では、皆サマ待ち遠しそうな顔ですのデ、早速『動機』を発表したいと思いまス。次の動機、それハ………………』

モノワニが動機を発表するその瞬間、モニターにはガラガラ天井から落ちてくる掲示板が映し出された。そこには………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ドキドキ!!!脱出のチャンスを掴め!!宝探しゲーム!!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………は?」

この殺伐とした空間には似合わないポップな文字で書かれたそれは、俺達を困惑させるのには十分だった。

「宝探し………って」

「どういうことでありますか…………?某達に宝探しをしろと?」

「ふむ、これが動機でござるか。それにしても『宝探し』とは。意外であったでござる」

特みんなは『宝探し』というワードに戸惑いを覚えているのだろう、その単語を呟いていた。

前みたいな秘密の暴露、みたいな感じじゃないのか?

「フフフ、皆サマ驚いていますネ………。では簡単に説明させて頂きまス。皆サマにはそれぞれのグループに分かれテ、自身が今いるフロアの中で宝探しをしてもらいまス。宝箱は各フロアに3つございまス。その宝箱の中にはパスワードが書かれた紙が入っておりまス」

「パスワードって何のパスワードですの?」

佐々木の疑問にモノワニは「フフフ」と笑みを浮かべると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『各回のパスワード3つを使ってある場所に入る事が出来まス。そこは…………』

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『人を簡単に殺せる最強の凶器』その名は【プルーフ】。それが置いてある場所ですヨ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………え?」

人を殺せる凶器、【プルーフ】だって?

「………今、すっごい物騒な言葉が聞こえた気がするけどー………ボクの気のせいじゃないよねー?」

「………ええ。私もはっきりと聞こえました。………どこまで私達を馬鹿にしているのでしょうか………!」

綾辻がキッとモニター越しのモノワニを睨みつける。

『はあ!?ざけんじゃねーぞ!んなのにオレらが引っかかるわけねーだろーが!!』

『そうだそうだー!千尋たちはもうにどところしあいなんかしないもん!』

『ワターシ達、もう仲良しデース!!そんなデンジャラスなこと二度としないデース!!!』

雷哉達地下組からも非難の声が上がる。

だが…………本当に動機はこれだけか?

いくら人を簡単に殺せるからと言って、これだけのためにパスワードを集めて殺人を犯す奴が俺らの中にいるとは思えない。

『まあまあ皆サマ、楽しみは後でとっておくものですかラ。少し落ち着いて下さイ』

『勿体ぶってないでさっさと話したらどうですの!!』

『………フフフ。ではパスワードを集めたらどうなるカ………実は特典は【プルーフ】がある場所まで行けるだけではないのでス。加えて………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もし、その【プルーフ】を使用して人を殺した場合、好きな人を指名して2人で脱出する事が出来る権利が与えられまス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………嘘」

そんな言葉を最初に漏らしたのは、一体誰だっただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「1人選んで…………抜け出せる?」

『ええそうですヨ。夢寺サマ』

俺の呟きを拾ったモノワニはそう答える。

『ここでの生活を経テ、仲良くなった人、大事な人が出来た方もいるでしょウ。その方と一緒に脱出出来る、またとないチャンスということでス』

「たった…………1人でござるか」

『えエ。たった1人でス。例外は一切ございませン』

その言葉に俺たちは口を噤んでしまう。

…………もし誰かを殺したら、1人だけ選んでここから脱出する事が出来る。

でも、それは、仲間のうち誰かの命を犠牲にしなくてはならない。

………俺はみんなの事を大事な仲間だと思っている。その命に区別はつけたくはない。

けれど、勝手に命の優先順位をつけてしまっている自分もいる。

まずは俺の親友であり、今まで俺を助けてくれた雷哉。

次に、ここにきてから何度も俺を気にかけてくれている綾辻。

他の人にだって、理由をつけて無意識に命のランク付けをしてしまう。

『………どうやら、気に入ってもらえたみたいですネ?』

『は、はぁ?馬鹿言ってんじゃねーよ!!どうせこれも罠なんだろ!!誰がテメーの策略に嵌るかよ!!』

『おヤ?風神サマのお気に召しませんでしたカ。ですガ他の方は違うみたいですヨ?』

『は?』

雷哉が周りを見渡すと、明らかに何人かの顔色が変わっていた。

『おい待て!!まさかオメーら………』

そして俺達の方も同じだ。

俺以外のみんなの様子が変わったのが一目見て分かった。

 

 

 

 

 

 

『フフフ…………皆サマに興味を持っていただけてよかったでス。………とはいえ、これだけでは【宝探し】として難易度が低すぎますのデ、少し環境を調整させて頂きますヨ』

「環境の調整………?一体何を………」

モノワニはこれまでにない程の邪悪な笑みを浮かべると………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『皆サマにはこれから、殺人が起きるまで灼熱環境と極寒環境で過ごして頂きまス』

 

 

 

 

 

 

 

「灼熱環境と極寒環境………だって?」

『えエ。具体的には、皆サマにはこれから()()1()F()()4()0()()()()()()()()()2()F()()()()()()1()0()()()()()()()の中過ごして頂きまス。そこで宝探しをしてもらイ、先にパスワードを見つけた方が【プルーフ】を使い人を殺す、という流れですネ。あ、ちなみに当然、()()()()()()使()()()()ですヨ。過酷な宝探しにそんな甘ったれたもの必要ありませんからネ』

「そ、そんなの無茶苦茶であります!!40度なんて、エアコンなしじゃ死んじゃうであります!」

『マイナス10度の中でも同じですよ。常人ならあっという間に凍死します』

『それで死ぬのが嫌なら誰かを殺せ、っちゅうことやろ?ほんま汚いわ』

「いい加減にして下さい!!!」

綾辻が怒りに震えた声で叫ぶ。

「私達をそこまで追い込んでまでコロシアイをさせたいのですか!!!そんな環境にいたら私達はすぐ全滅してしまいます!!人の命を何だと………!」

「綾辻。あいつに倫理、道徳の話を説いても無駄だ。俺達の命を何とも思ってないからな」

俺がそう諭すと、「…………申し訳ございません」と悔しそうに頭を下げた。

『………ヘッ、いいじゃねェかァ、いわゆる【サバイバル】って奴だろォ?弱ェ奴は死ぬ。強ェ奴は生き残る。それだけの事じゃねェかァ』

『テメー!!また何か企んでるんじゃねーだろーな!』と怒る雷哉に対し、『テメェには関係ねェ』とジェントルマンは聞く耳を持たない。

 

 

 

 

『あ、そうでしタ。そして最後に大事なルールが一つありまス。それは…………』

まだあるのか。

絶望の淵にいる俺達にモノワニから告げられたのは…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『皆サマはこれから、殺人が起きるまで自分のいるフロアから出る事は出来ませン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………ちょ、ちょっとお待ち下さい。どういうことですの?フロアから出れないって…………』

『…………フフフ、さテ、どういう事でしょうかネ』

「…拙者、見てくるでござる」

異常事態であることを察したのか、不知火が即座に宴会場から出て行った。

そしてものの3分もせずに戻ってくると、

「……………駄目でござる。エレベーターが全く機能していないでござる。それに階段も使えない状態でござるな」と報告した。

「そ、そんな!?」

『おい待て!?じゃあこっちもかよ!?』

『千尋みてくる!』

地下組も千尋がエレベーターを見に行き、そして戻ってくると、「ぼたんおしてもうごかないよ」と悲しそうに報告した。

くそ、どこまで卑劣なんだ………!

『…………フフフ。これで分かったでしょウ。皆サマはもう絶望から逃れられないってネ。では皆サマ、注意事項等は皆サマのパスワードに後ほど送りますので、それをよく確認しておいて下さいネ。ではこれで………』

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………一個聞いていいかな」

モノワニが帰ろうとすると、下を向き、これまで一言も発していなかった結城が虚な目を上げた。

「おヤ、結城サマいらっしゃったんですネ。亡霊のように黙って立っていたから存在を忘れていましたヨ」

「…………()()()()()()()()()()()したらどうなるのかな。僕達はこの過酷な環境から解放されるのかい?」

「結城、お前………」

「君は黙っててくれるかな。僕は今モノワニに聞いているんだ」

結城は声をかけた俺の言葉を一蹴し、モノワニの答えを待つ。

『………フフフ。いい質問ですネ。答えは《ノー》でス。自殺ではこの環境は変わりませン。あくまで()()()()()()()()()()()()()()ことでしか終わりませン』

「…………そう。分かったよ」

結城はそれだけ言うと、モニターから背を向けこの場を去ろうとする。

「待ってくれ結城!まさかお前………」

「待たないよ。僕に構うなって言ったよね?僕が何をしようと、君達には関係ないし、気にする必要もないから」

そう言い残すと、宴会場から出て行ってしまった。

『…………フフフ、早速ギスギスしてきたようで何よりでス。では皆サマ、是非宝探し頑張って下さいネ』

そしてモノワニも邪悪な笑みを浮かべると、モニターの電源が切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あららー、これはまた大変なことになりそうだねー」

宴会場に残された結城を除く5人は、自然と中央に集まる。

「ああ。コロシアイを促す【宝探し】に加えて環境まで変化させるとは………」

「………なんか既に少し暑いのは某の気のせいでありますよね?そうと言って欲しいであります!」

「写実殿。残念ながら気の所為ではござらん」

不知火は辺りを見渡す。

「………拙者、気温の変化には敏感でござる故、既に気温は上昇し始めているのは間違いないでござる」

「そ、そんなあ!!じゃあ某らはこれからじわじわと暑さにやられていくのでありますか………!」

「じゃあオタクのお兄さんは真っ先にお肉の燻製になっちゃいそうだねー」

「ひ、ひいいいいい!?某は美味しくないでござるよぉぉぉ!!!」

「写実様、落ち着いて下さい。それに飛鳥様もふざけている場合ではございません」

「もー医者のお姉さんったら、そんなに怒んなくてもいいじゃーん。………それでー?はとのお兄さんはこれからどうするつもりなのー?」

飛鳥が笑いながら俺の方を見る。

この状況で笑うのは不謹慎ではあるが、今は飛鳥のその能天気さがありがたかった。

 

 

 

 

 

「………これから気温がどんどん上がっていくなら、今のうちに動いておいた方がいい。まずはみんなでパスポートに送られた注意事項を見ようと思うんだが、どうだ?」

「賛成です」

「りょーかーい」

「承知」

「分かったであります」

俺の提案にみんな賛成してくれたので、ひとまずパスポートを起動して注意事項に目を通す。

 

 

 

 

 

注意事項

 

1.今の環境は誰かが誰かに殺害されるまで続きます

2.自殺は無効です(自殺しても環境に変化はありません)

3.就寝場所は、1Fの人はそれぞれの個室、地下2Fの人は仮設のコテージ内になります

4.食料は今まで通り支給されます

5.【宝探し】のパスワードを強奪する行為は禁止します(殺して奪うのは可)

6.【プルーフ】の場所は、パスワードを全て手に入れた人に個別に連絡します

7.別の階にいる人と連絡を取る事を禁止します

 

 

 

 

 

 

「…とりあえず、食料はちゃんとあるみたいでありますね………」

各自で読み終えた直後、まずそう安堵したのは写実だった。

「これで食料なしだったら某は………」

「いやいやー、流石に食料は用意するでしょー。だって食料なかったら明暑さうんぬん以前に飢えで死んじゃうもーん」

「拙者は断食には自信がなかったでござる故、これは不幸中の幸いでござる」

「夢寺様。この5番って……」

「ああ。例えば相手を殴って気絶させてパスワードを奪う、といつ行為は禁止だが、相手を殺した後懐から奪うというのあり、という感じだと思う」

食料について心配がないのは朗報だが、冷房が使えないのは相変わらず問題だ。

いくら食事があっても40度の暑さなら、食事が喉を通らないなんて事もあるだろう。

だが、やはり最大の問題は………………。

 

 

 

 

 

 

「やっぱり最大の問題は、誰かが殺されない限り()()()()()()ってことだよねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の考えを先読みしたかのように、飛鳥が口を開いた。

「……………」

「抜け道とかあれば別だけどそういうのも無さそうだしー、それに()()()()()()()()()()()()なんて条件が付いちゃってるからー、多分体調不良で死んでも解放されないと思うんだよねー」

「なっ!?体調不良で死んでも駄目なのでありますか!?」

「多分ねー」

あくまで解放される条件は、()()()()()()()こと。

気候の影響で死ぬのは殺されるには当てはまらない。そう言いたいのだろう。

「では、拙者らはこれから一体どうすれば良いのでござろうか。正直に言って八方塞がりの状態でござる」

不知火の言う通りだ。恐らく、今ここで考えても解決策はでない。

「………ひとまず、動けるうちにこのフロアからの脱出方法がないかみんなで探ってみないか?」

俺の提案に全員が賛成の意を示したので、ひとまずこの1Fのフロアを探索することに決める。

 

 

 

 

 

「あ、そういえば【宝探し】はどうするのでありますか?確か最強の凶器とかなんとかが手に入るパスワードがあるとか………」

「そうそうー、それもあるんだよねー」

そう。

今回の動機は【プルーフ】と呼ばれる凶器のありかへ行くことが出来るパスワードが手に入るという【宝探し】もある。

「夢寺様。どういたしますか?私は放置するのは危険だと思います」

「俺も同じ意見だ。脱出方法を探すと同時にパスワードも探そう。もし見つけたらみんなが集まった時に報告し合う。これでいいか?」

「で、でも誰かが見つけたのに見つけてないフリをする可能性もあるでありますよ?」

「……写実殿は拙者らを信用していないでござるか?」

「いやいや!決してそんな事はなくもないでありますが………」

「でもー、確かにオタクのお兄さんの言う通りだよねー?この中にボク達を出し抜いて()()()()()とやらを手に入れようとする卑劣な奴が潜んでるかもしれないしー」

確かに写実や飛鳥の言う通りだ。

だから俺達は、俺と綾辻、そして写実、飛鳥、不知火の2組で監視し合いながら探索をすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜ、全然見つからないであります………」

約30分程探索した後、俺達は食堂に集まっていた。

探索時間が比較的短かったのは、先程と比べて気温がグンと上がり、このまま続けると熱中症になる恐れがあると踏んだからだ。

しかし、探索の結果は全くの成果なしだった。

このフロアからの脱出方法どころか、【プルーフ】を手に入れるパスワードすら1つも見つからなかった。

目の前のテーブルには、大量の水が入ったペットボトルが置いてあり、各々が暑さに耐えきれずガブガブ水を飲んでいる。

「恐らく、既に気温は40度近くになっているかと思われます………」

綾辻は、着ているナース服の袖をめいいっぱい捲りながら話す。

他のみんなも、極限まで暑さを軽減する為腕を捲ったり、上着を脱いだりしている。

「これー、思った以上にキツいねー。ボクはまだ耐えられるけど、オタクのお兄さんとかすぐ限界きそうじゃないー?脂肪多いしー」

飛鳥はキツいと言いながらもまだ余裕がありそうだ。

それに対して言われた写実は「ま、まだまだ大丈夫であります………」と言いながらダラダラと大量の汗を流している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まずい。

このままだと…………暑さにやられて俺達は全滅してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひとまずさー、今日はもう自分の個室にこもらないー?」

みんなが沈んだ表情の中、飛鳥が突如そう提案してきた。

「…こういう時は拙者ら全員で固まっていた方がいいと思うのでござるが」

「みんなもさっき探索したから分かると思うけどさー、多分()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

確かに、食堂というか外より個室の方が多少まだ暑さはマシだった気がする。

「仰る通りだと思います。私も同じように感じました」

「成程。ひとまずは体力を温存しつつ、なんとかこのフロアから脱出する手がかりを探すというわけか」

「そうそうー。暑さで全滅するよりマシでしょー?」

「ありがたい提案であります………」

「承知。理解したでござる」

飛鳥の提案に反対する人はいなかった。

そこで俺達は、水や食料を個室に持ち込み、体力温存のため極力外に出ずに過ごすこと、探索する場合は必ず誰かとペアで行くこと、探索することをチャットで事前にみんなに知らせること、【宝探し】のパスワードを見つけた場合はすぐみんなに知らせることを取り決めた。

「よし。じゃあひとまずそれぞれの個室に戻ろう」

俺がみんなにそう促した時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『えー皆サマ。1つお知らせがありまス』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでありますか………まだ何かあるのでありますか………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今日から毎日、昼の12時と深夜12時に()()()()を鳴らすことにしまス。これはこのモノワニの親切心、と思ってくれて結構でス』

 

 

 

 

 

 

 

 

「(…………待て、チャイムだと!?)」

まさかそれって、2回目の裁判の時に流れたあの………!

 

 

 

 

『では早速、もう昼の12時になりますのデ、チャイムを鳴らしますヨ』

俺が全員に耳を塞げ、と言おうとしたが、時既に遅し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キーンコーンカーンコーン……………』

 

 

 

 

 

 

「ぐっ…………!う、ぐわああああああああ!!!!!!」

チャイムが鳴り始めた瞬間だった。

不知火が突如頭を押さえながら叫び声を上げ始めた。

「し、不知火氏!?」

「不知火様!?」

慌てて写実と綾辻が駆け寄る。

俺も行こうとしたその瞬間、自分にも酷い頭痛の波が来たのを感じ頭を押さえる。

「はとのお兄さんー!?」

飛鳥が心配そうにこれらに来てくれるが、それを見る余裕はない。

「頭が…………頭が割れる…………!!!」

「ちょっと嘘でしょー!?なんで2人ともこんな…………」

俺はあまりの激痛にその場にしゃがみ込む。

その視界に、不知火が地面に倒れている姿がぼんやりと映る。

この暑さもあいまって汗が止まらない。

「はあ…………はあ………………くそ…………………!」

「しっかりしてよー!」

飛鳥が俺の腕を掴んで心配してくれている。

そしてしばらくすると、段々と痛みが引き、最終的には頭痛は消えた。

「はあ…………はあ…………はあ………もう大丈夫だ。悪い…………」

「………良かった。びっくりしたよ、正直」

飛鳥はほっと胸を撫で下ろしたようだった。

「…………それよりも不知火は?」

「不知火様!!」

すると、綾辻が懸命に不知火に呼びかけている姿が目に入る。

「綾辻!!不知火は!」

「………気を失ってしまいました。ひとまず呼吸はあるので命に別状はないのですが………」

「ならよかったー。じゃあこのままここに放置ってわけにもいかないし、さっさと医務室に運んじゃおっかー」

「某が運ぶであります!」

「じゃあ俺も………」

「はいはい、さっきまで死にそうな顔してたはとのお兄さんは引っ込んでてー。ボクと医者のお姉さんで運ぶからー」

「夢寺様。ここは私達にお任せください」

「…………悪い」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………高熱が出ているのと、呼吸が荒いです。正直、いい状態とは言えません」

医務室のベットに不知火を寝かせた後、綾辻が診療を終えた結果を俺達に伝えた。

不知火は苦しそうに息をしながら寝ている。

どうやら、何かにうなされているようだ。

「……もうぶっちゃけちゃうけどー、これってやっぱりー…………」

「間違いない、であります…………」

「………」

みんなは不知火椿という人間の正体に気づき始め、彼女という人間に不審な目を向けている。

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

現在『ジェントルマン』として俺達と行動している天草京介の人格が入れ替わる前も、全く同じ状況が起きていた。

そして、八尋が見つけた【ソルジャー化実験】の記録にも、ソルジャー化実験を受け二重人格となった被験者は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とあり、天草が間違いなく【ソルジャー化実験】の被害者であるという結論になった。

そして、不知火も現在、全く同じ状況にある。

 

 

 

 

 

 

 

やはり綾辻が前言っていた仮説は正しかった。

前回チャイムが鳴った時、頭痛を訴えたのは天草、不知火、そして俺の3人だけ。

やはり綾辻彼女は…………

いや、()()()()()()()()

()()()()()…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不知火椿は恐らく、天草京介と同じ【ソルジャー化実験】の被験者だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして俺も自覚はないけど…………………恐らく被験者なんじゃないかって思う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ふーん。()()、なんだ」

俺の告白に対してまず口を開いたのは飛鳥だった。

さっき俺に向けてくれた心配そうな顔はどこかに失せ、酷く冷たい目で俺をみている。

「まあでもー、自己申告してくれるただけまだマシかなー。もし『俺は違う』なんて言い張ってたらはとのお兄さんのこと、マジで軽蔑するところだったよー」

「飛鳥様!!夢寺様は…………!」

「医者のお姉さんは黙ってて。ボクは今はとのお兄さんと話してるの」

飛鳥に睨まれ、綾辻は下を向いてしまう。

「………『【ソルジャー化実験】の被験者は()()()()()()()()()()()()()()()()()()』。能面のお兄さんが前言ってたことだよ。そうなるとはとのお兄さんもボク達の敵で、コロシアイをさせてボク達を陥れようとしてるってことかなー?」

「違う!!!俺はそんな事全く考えてないし、コロシアイなんてさせようなんて思ってない!!!」

「そんなの口だけなら何とでも言えるよねー?今後ジェントルマンの奴みたいに、はとのお兄さん達にも別人格が現れてボク達に被害を及ぼす可能性がないって言い切れないよねー?」

「それは…………出来ない。俺は全く身に覚えはないが、そんな言い訳が通用しないということも理解してるつもりだ」

「だよねー?潔くて助かるよー。………だってさー。どうするー?おふたりさんはー?」

飛鳥は肩をすくめると、黙って話を聞いていた写実と綾辻に話を振る。

 

 

 

 

 

 

「………私は夢寺様を信じます」

最初に口を開いたのは綾辻だった。

凛とした表情で背筋をピンと伸ばしている。

「夢寺様の正体がどんな方であれ、私が命を救われたこと、そして2度の学級裁判で私達も導いてくれたことは変わりません」

「………まあ、それは実際そうだよねー。………で?オタクのお兄さんはー?」

写実は複雑そうな表情をしながら、しきりに眼鏡をいじっている。

「………某も本当は夢寺氏の事を信じたいでありますよ………。けど………ジェントルマン氏の例もあるし…………夢寺氏にもあんな一面が秘められてると思うと…………手放しで信用出来ないというか…………」

写実はそう言いながら俺に疑惑の目を向ける。

俺自身の意思ではないが、仲間に隠し事をしていたと言う事実に胸が締め付けられる。

 

 

 

 

 

「…………ふーん。みんな甘ちゃんだね。じゃあいっか、ひとまずこの話はお終い」

すると飛鳥は、いまいち納得してない様子だったが手をパンと叩き、話を終わらせた。

「い、いいのでありますか!?だって夢寺氏達は………」

「もしそうだとしても、ボク達に今どうすることも出来ないでしょー?だってもし2人が【ソルジャー化実験】の被験者なら、ジェントルマンと同じくらいの力を持ってるってことだよー?そんなのボク達がかなうわけないじゃーん」

「そ、それはそうでありますが………。じゃあなんで飛鳥氏はこんな話を………」

「後ろめたい気持ちを持ったまま過ごすより、こうして一回ぶちまけちゃった方がスッキリするかなーっと思ってねー」

「なんでありますかそれは………」

飛鳥の理屈に写実は呆れ、綾辻は微笑みを浮かべていた。

………気を遣ってくれたのか、あいつは。

後で飛鳥にはお礼を言わないとな。

 

 

 

 

 

「だからひとまず、はとのお兄さんと忍者のお姉さんにはしばらく見張りをつけようー」

「ええ。さっきお話しした通りですね」

「違うよー。探索の時だけじゃなくて()()()だよー。24時間監視ってことー」

「え………?流石にそれはやりすぎじゃ………」

これには流石に俺も驚き、やんわりと反対意見を唱えるが………。

「あれー?はとのお兄さんに拒否する権利あると思ってるのー?()()()()()()()()疑惑あるくせにー?」

「うっ………」

痛いところを突かれ何も言い返せなくなってしまう。にんまりとした表情の飛鳥は、俺の態度に満足そうに頷いた。

「うわあ………飛鳥氏悪い顔してるであります………」

「じゃあ忍者のお姉さんの看病見張りは医者のお姉さんねー?」

「わ、分かりました」

「それではとのお兄さんはー、日中はボクと行動することー。それで夜寝る時はオタクのお兄さんと一緒の部屋で寝てねー」

「はいい!?」

写実は目ん玉が飛び出るくらいの驚愕の表情で飛鳥に詰め寄る。

「ど、どうして某が夢寺氏と仲良く添い寝しなくてはいけないのでありますか!?」

なんで添い寝前提なんだよ。

「だってボクは女子だし一緒に寝れないんだもーん。はとのお兄さん、寝てるボクのこと襲ってきそうだしー」

「誰が襲うか!!!」

思わず声を荒げてしまった。

こんなこと、綾辻には聞かれたくなかったのに。

実際、綾辻は冷めた目で俺をジト見している。

違うんだ、綾辻。俺がそんな紳士らしからぬ事をする訳がないんだ………。

「とにかく、某は野郎ではなく可愛い女子が好きなのであります!!夢寺氏と一夜を過ごすなんて絶対に嫌であります!!!」

だから、誤解を生むような言い方はやめてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、ゴネる写実を飛鳥が説得し、俺は昼は飛鳥と一緒に行動、そして夜は写実の部屋であいつと一緒に過ごすことになった。

そもそも、他人の個室で就寝するのは校則違反なのではないかという話が出たが、校則には【就寝は別館1階にある個室等決められた場所でのみ可能です】としか書かれておらず、誰の部屋でとまでは書いてなかったため、問題なしと俺達は判断した。

また、不知火の看病兼見張りをする綾辻の就寝に関しては、特別に医務室での就寝がモノワニから許可された。

 

 

 

 

 

 

そうしてまず俺は、飛鳥と共に気分が悪くなる程の暑さの中、可能な限り探索を続けた。

しかし、特に新たな情報は得られず、パスワードも見つからなかった。

気持ちが沈んだ状態のまま、ひとまず俺は飛鳥と別れ、予定通り写実の部屋へと向かう。

「………写実か?夢寺なんだが」

「あー夢寺氏でありますか?鍵は空いてるので入っていいでありますよ」

許可が出たので、俺はドアを開けて部屋へと入る。

「お邪魔します」

写実は俺に背を向け、カメラらしきものをいじっていた。

「とりあえず空いてるところに座っていいでありますよ」

写実の声は明らかに乗り気じゃない。

俺が女ではなく男だから、という理由だけではないだろう。

「………何をしてるんだ?」

「最近、どうもカメラの調子が悪いのであります。だからずっと部屋にいても暇だし、メンテナンスでもしようかなと思ってやり始めたら止まらなくなってしまった次第であります」

写実が常に首からぶら下げているカメラのことだろうか。

声をかけて邪魔をするのも良くないと思ったので、俺は作業が終わるまで静かに待っていることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ふう!ようやく終わったであります!」

写実は額に浮かぶ汗を拭くとカメラを手元に置いた。

「夢寺氏、放置プレイをして悪かったでありますな。一度始めるとどうしても途中で止めるわけにもいかないのであります」

「いや、全然大丈夫だ。部屋に押しかけてるのは俺だしな」

その後、写実と色々な話をした。

彼は俺の事を完全には信用してないが、俺自身の事は嫌いなわけではないし、今でも頼りにしていると言ってくれた。

その言葉に俺は泣きそうになり、バレないように慌ててごまかした。

また、お互いの才能の話もした。

あいつの父親は有名なカメラマンで、初めてカメラを触ったのは写実が幼稚園の時だったという。そこからカメラにどハマりし、今ではカメラなしでは生きていけない体になってしまったと言っていた。

そしてどうやら、写実はここに閉じ込められてからやったイベントや、俺達の日常を知らないうちにカメラに撮っていたらしく、それを見せてもらった。

「ほら、これはみんなで食事をしているところであります。………あ、でも司氏は来てないでありますな………」

その写真には、俺達生存者に加え、乃木、百々海、円城寺、桃林といった、既にこの世にいない生徒達も写っていた。

「…………もう俺達は5人も失ってしまったんだな」

「そうでありますな………」

 

 

 

 

 

 

その後、俺達は夜中の12時になる前に綾辻と不知火の様子を見に行った。

不知火の熱はさらに上がり、今は40度近いという。

綾辻も懸命に看病しているが、この暑さのせいか中々体調が良くならないとか。

何か手伝えることはないかと申し出たが、綾辻に丁重に断られてしまった。

まあ、素人の俺達がうろうろしていても邪魔になるだけだしと思い、今回は素直に従うことにした。

そして写実の個室に戻り、夜12時を迎えると、またチャイムが鳴り、激しい頭痛が俺を襲った。

写実が隣でしきりに心配してくれたお陰で、なんとか乗り切る事が出来たが………

この激痛が毎日2回襲ってくると思うと、正直気が重くてしょうがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

動機開始から2日目。

 

 

 

 

 

俺はまた飛鳥と合流し、朝から探索を行った。

暑さには徐々に慣れてきたが、それでも尋常じゃないこの暑さは、俺達の体力を着実に奪っていく。

「…………なあ飛鳥。少し休憩しないか?」

「…………」

「おい、飛鳥」

「…………」

「飛鳥?」

「…………はぁ、はぁ…………」

すると、目の前を歩く飛鳥の様子がおかしい事に気がつく。

足元がおぼつかず、頭もぐらぐら揺れている。

「…………おい飛鳥!?」

慌てて体を支える。飛鳥の顔は真っ赤で、視線が定まっていない状態だった。

間違いなく熱中症だった。

「しっかりしろ!今医務室に運ぶからな!」

俺は小さい飛鳥の体を抱えて医務室へと急いで向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「……熱中症ですね。ひとまず水分補給をしなくてはけないのと………汗で濡れた服も着替えさせなくては…………では夢寺様。申し訳ありませんが厨房からスポーツドリンクと氷を持ってきて頂けますか?」

医務室にいる綾辻にお願いし、飛鳥を診てもらうと、やはり熱中症だったらしい。

俺は綾辻の指示通り、水と氷を取りに厨房へと向かう。

そして、目当てのものを取り戻ろうとした時、食堂に入ってきた結城と鉢合わせた。

「………結城?大丈夫か?」

「……………………」

「おい、結城?もしかして体調が悪いのか?なら医務室にいる綾辻に……」

「…………どいてくれるかな?それとも、『構わないで』っていう昨日僕が言った言葉が君には聞こえなかったのかい?」

「それはお前が一方的に言っただけだ。俺はそれに従うと言った覚えはない」

「…………チッ」

結城は露骨に舌打ちすると、俺を押し退けて厨房へと入ってしまった。

…………結城のあの態度、俺達がどうにかする事は出来ないのだろうか。

だが、今無理に話しかけても態度が悪化するだけだろうし………

結局俺は、それ以上はあいつに声をかけずに医務室とへ戻った。

 

 

 

 

 

 

 

医務室へ戻ると、汗で濡れた服から新しい服に着替え終わった飛鳥がいた。

綾辻はトイレに行ったらしい。

俺が冷えたスポーツドリンクと氷を渡す。

飛鳥はドリンクをごくごくと飲み、ふうと息を吐くと、氷をタオルで包んだものを額に当てた。

「………ごめん。なんか迷惑かけちゃって」

「全然大丈夫だ。この暑さだし、体調を崩しても無理はない」

「……………うん」

「とりあえず今日は休んだ方がいい。俺も今日はずっと個室にいるから」

「……分かった。外に出ちゃ駄目だよ」

「分かってるよ」

その後、俺は個室に戻り、特に何もせず日中を終えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

動機開始から3日目。

 

 

 

 

「…………なんか、昨日より暑い気がするのでありますが………」

朝、食堂に集まった俺達。

写実が水とスポドリを交互にガブ飲みしている。

「………確かにそうかもしれません」

「……もー、そんなこと言わなくていいよー………」

「うぅ…………ごめんなさいであります………」

飛鳥は昨日医務室で寝たら無事回復したみたいだ。

「………もしかしたら、毎日1度ずつ気温が上がっていっている可能性がある」

「嘘………!じゃあこのまま殺人が起きなければ………!」

綾辻が口を押さえ驚愕する。

「………ああ。恐らく数日後には、誰かが気候の変化による体調不良で死ぬ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

動機開始から4日目。

 

 

 

 

気温が毎日上昇している、という予想は正しかったらしい。

今更だが、医務室の壁には小さい温度計が付いていることに綾辻が気がついた。

見てみると、気温は『44度』を指していた。

44度なんて、とても人が住んでいい所じゃない。

本当にこのままだと…………誰かが死ぬ。

しかもこのフロアだけじゃない。

雷哉達がいる極寒のフロアでも、だ。

なら………………俺は…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

動機開始から5日目。

 

 

 

 

 

 

 

「………悪い。こんな時に。でもどうしても話しておかなくちゃいけないことがあるんだ」

「………どうしのさー、そんな怖い顔しちゃってー……」

俺は日中、飛鳥を俺の個室に呼び出した。

「………あー、分かったー、もしかしてボク、今から殺される感じー?」

「………お前の冗談に反応してやれる程、俺には余裕がない」

「………えー?でもボク、本気で殺されると思って来たんだけどー?」

「………そう思うなら、何故俺の呼び出しに応じたんだ………?」

「…………さあ、なんでだろう………よくわかんない………」

「………なんだそりゃ」

お互い暑さで意識が朦朧とする中、俺は要点を切り出す。

「………飛鳥。お前に頼みがある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺を殺して欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

動機開始6日目。

 

 

 

 

 

朝起きたら写実が熱中症で倒れていた。俺は自身も暑さで倒れてしまいそうになる中、必死で写実を保健室まで運び、ベットに運んだ。

飛鳥のときと同様、水分を飲ませたり氷を当てたりしたが………

「…………飛鳥様の時より症状が酷いです。やはり水があってもこの気温じゃ………」

汗を拭いながら綾辻がてきぱきと処置をする。

「…………大丈夫だ、綾辻」

「……………………え?」

「………もうすぐ、それも終わる」

「………………夢寺様?まさか………」

「………悪い、ちょっと個室で寝てくるわ」

「夢寺様!お待ち下さい!!夢寺様!!!」

綾辻の呼びかけを無視し、俺は個室に戻った。

そしてベットに仰向けで倒れ込む。

 

 

 

 

 

暑い。

不知火の体調は結局、治らなかった。

写実ももう限界だ。このままだといずれ………

結城の奴、あれから姿をずっと見かけてないけど大丈夫なんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………そういえば、雷哉達は大丈夫かな。

ジェントルマンは大人しくしてるのだろうか。

まさか薬師院は裏切り者としてまた暗躍しているのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、駄目だ。

意識が朦朧として…………

水、飲まないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思い、部屋のテーブルに置いてある飲みかけの水に手を伸ばしたところで………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………遅くなって、ごめん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだね、蓮」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あんたにまた会えた事、凄く嬉しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………でも、再会の喜びを分かち合うのは後にしないと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………大丈夫。蓮は何もしなくていい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が全部何とかするから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからもう…………無理しないでいいんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ハッ!?」

俺はベットから飛び起き目を覚ました。

慌てて周りを見渡す。

この場所は…………紛れもなく俺の個室だ。

「…………じゃあ、どうして」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきまで寝ている俺に声をかけていたのは…………間違いなく()()()だった。

 

 

 

 

 

 

でも、ここは俺の個室だから部屋には入れない筈。

………じゃあ夢?

いや、あのぼんやりとはしていたがはっきりと分かる。あれは夢なんかじゃない。

俺は慌てて個室の鍵が閉まっているか確認する。

「(………空いてる?)」

外から鍵を開けることは出来ない。

じゃあ俺は………昨日自分で鍵をかけ忘れたって事か?

確かに昨日は暑さで意識が朦朧としていたし、鍵をかけた記憶もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(…………待て)」

 

 

 

 

 

 

 

「(暑さ………?」

 

 

 

 

 

俺は夢中で、周りの()()()()に今まで気が付かなかった。

それも…………とても重大な変化だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………気温が()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日まで灼熱のような温度であった個室の気温が下がっている。

けど、何故?

………いや、理由なんて考えずとも分かる。

また…………()()()()()()()()()

「夢寺氏ぃ!!!生きてるでありますか!!!」

その残酷な真実に気づき呆然としていると、更に大きな声で個室の外から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

「この声は…………写実か!」

俺はあいつが無事という事実に安堵すると共に、慌てて部屋を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆ、夢寺氏ぃ!!!生きてて良かったでありますぅ!!!」

廊下で俺を呼んでいた人物は写実だった。

全身から汗を吹き出し、身体中べとべとの状態の写実は酷く慌てた様子で俺の足にしがみついてくる。

「うわっ、汚ねえ!」

思わず中々酷い事を言ってしまった。

「ゆ、夢寺氏も似たような状態じゃないでありますかぁ!自分だけ爽やかクール系男子を演じようと思っても無駄でありますよ!!夢寺氏は某と同じ、汚い豚野郎グループの一員であります!」

どうやら涼しくなった事でだいぶ体調も回復したらしい。

「勝手に同じカテゴリーに入れるな!!……それで?何かあったのか?」

「そ、そそそそそうなんであります!じ、実は、某が、その」

「少し落ち着け。まずは深呼吸だ。それからゆっくり話してくれ」

「そ、そうでありますね。………すぅ…………はぁ…………よし、落ち着いたであります」

写実は俺の言った通り深呼吸すると、話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実は某、医務室で目が覚めたら全然暑くないことに気がついて、それで周りを見たら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

「………嘘だろ!?」

一気に血の気が聞いたのが分かった。

「で、でも大丈夫であります!綾辻氏はちゃんと息はあるであります!」

「………そうか。良かった………」

俺は安堵から深く息を吐き出す。

「だからとりあえず誰かを呼ぼうと思って………」

「じゃあ他のみんなはまだ起こしてないのか?」

「そ、そうであります!だからどこにいるのかもさっぱり……」

「じゃあまずは医務室で綾辻の手当。次に俺らのフロアの生存確認だ。その後エレベーターで雷哉達のところへ行くぞ」

「わ、分かったであります!…………けど夢寺氏、気温が元に戻ってエレベーターが使えるようになったということは…………」

「ああ。恐らく写実の予想通りだろう」

…………殺人が起きた。

その言葉を俺はあえて口に出さなかったが、写実も同じことを考えているだろう。

………まだ暑い筈なのに、俺は冷や汗が止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

医務室に入ると、確かに気を失った綾辻が床に倒れていた。

「綾辻!?大丈夫か!?」

俺は綾辻に駆け寄り、脈を確認する。

確かに写実の言う通り、確かに脈はちゃんと動いていた。

「………見たところ、特に外傷などもなさそうだ」

「じゃあ、何で綾辻氏は倒れて………?」

「分からない。もしかしたら体調不良、もしくは過労の可能性もある。綾辻はずっと不知火達を看病してたからな」

「そうでありますか。しかし申し訳ないでありますな………某もずっと綾辻殿にお世話になって………あ、いや!違うでありますよ!『お世話になった』というのはそういう意味ではなくて………」

「どういう意味だよ」

だがひとまず、綾辻に大事がなくてよかった。

俺達は、彼女を運びベットに寝かせた。

「ん?しかし不知火氏は大丈夫でありますか?」

「………そうか、不知火はまだ寝ているのか?」

俺達は隣のベットで寝ている不知火に視線を向ける。

膨らんだ布団。

恐らく中に潜っているため、布団を取らないと顔は見えない。

「不知火?ひとまず布団取ってもいいか?」

返事はない。

「取るぞ」

俺は布団に手をかけ、それを剥ぎ取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………いない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこに不知火の姿はなかった。

布団の中にあったのは枕だった。

「もしかしたら個室にいるのでありますか?」

「いや、その可能性は低い。昨日まであんなに熱があったんだ。とてもじゃないが自力で歩けるとは思えない」

「じゃあ、一体どこに………?まさか、綾辻氏を襲ったのは不知火氏!?」

「……分からない。ひとまずそれは後で考えよう」

「そ、そうでありますな………」

しかし、そうなると不知火は一体どこにいったのだろうか。

「ひとまず、写実は綾辻のことを見ていてくれ。俺は残りのみんなを探してくる」

「分かったであります!くれぐれ気をつけるでありますよ!」

俺は綾辻を写実に任せて、医務室から外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ夢寺君。君も生き延びたんだね」

廊下に出た瞬間、俺はある人物と偶然遭遇した。

「………結城か。よかった、お前も無事だったんだな」

「そうだね。まさか死に損なうとは思わなかったよ。正直もう死んでもいいと思っていたのに」

「お前………」

結城は疲れた表情で乾いた笑いを浮かべる。

「この様子からまた殺人が起きたみたいだね。医務室から出てきたところを見ると、綾辻さんと不知火さんは無事なのかな?」

昨日と比べて随分と饒舌な結城。

前は構うなとか言っていた癖に、何か心境の変化でもあったのか?

「いや、いたのは綾辻だけだ。しかも綾辻は誰かに襲われて今も目を覚ましていない。ひとまずベッドに寝かせて写実に見てもらっている。不知火は行方不明だ」

俺は簡潔に今の情報を伝える。

 

 

 

 

 

 

「………ふーん。行方不明ね。じゃあ彼女が犯人だ」

「言い切るのはまだ早いだろ。あいつが犯人だと決まったわけじゃない」

「……夢寺君は随分と彼女を気にかけているね。あんなに素性の分からない怪しい人をどうしてそこまで庇おうと思うのかな。………正直ずっと呆れていたよ。君のそのお人好しさは見てて気分が悪かった。吐き気を催すくらいにね」

結城は弱々しくも侮蔑の目で俺を睨む。

「………仲間や団結力を重んじてた結城から出てくる言葉とは思えないな」

「あれは僕の表面上の姿だって前も説明したと思うけど?」

「………お前と口論してる暇はない。今は全員の安否確認が最優先だ」

「ああ、またそうやって逃げるんだね。………まあいいよ、やることもないし、僕もついて行くよ」

こうして俺と結城は、残った飛鳥の安否を確認するため、飛鳥の個室へとへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、はとのお兄さんとイケメンのお兄さん。おつかれー」

飛鳥は外から呼びかけると、すぐ個室から出てきた。

 

「飛鳥、無事だったか。良かった」

「まあねー。はとのお兄さんも元気そうじゃーん。お互い今回も生き残っちゃったねー」

飛鳥は俺に対して薄く笑いタッチを求める。

俺もその様子に安堵してタッチする。

「………君も生きていたんだね、飛鳥さん。まあ君ってゴキブリみたいにしぶとそうだし、中々死ななそうだから納得だけどね。正直、ずっと目障りだったら死んでも良かったけど」

すると、後ろにいた結城が堂々と吐き捨てた。

「………へー。イケメンのお兄さんついに本性表してきた感じー?ここに来てキャラ変ー?いいじゃーん。ボク、今のイケメンのお兄さんの方が全然いいと思うよー。前のお兄さんって団結とから仲間とか綺麗事ばっかり言ってて気持ち悪いなーってずっと思ってたからさー。まあ今もボク全然好きじゃないけどー」

それに対して中指を立て舌を出す飛鳥。

「やめろ。仲間同士で争ってる場合じゃない」

一瞬即発の雰囲気になったため、俺は慌てて止める。

結城は「仲間、ねえ」と俺に背を向け、飛鳥は「あっちから行ってきたんだしー」と頬を膨らませていた。

「綾辻と写実は医務室。ここにいる俺、結城、飛鳥。これで行方がわからない不知火以外は全員無事だということが分かった。だからこれからエレベーターで下に向かおうと思う」

「おっけー。じゃあ行こうかー」

飛鳥はいつも通り、とても殺人が起きているとは思えないテンションで返事をする。

「というかー、忍者のお姉さん行方不明なのー?医務室にいたんじゃないのー?」

「それも含めて道中で説明する。ひとまず雷哉達と合流するのが先だ」

俺と結城、そして飛鳥の3人はエレベーターに乗り、地下へと向かおうとした。が………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何でだ?エレベーターが動かない………?」

いくらボタンを押してもエレベーターが動く気配がない。

写実の言う通り、ボタンは光っているのだが、押しても反応がないのだ。

くそっ、気温が元に戻ったらエレベーターも使えるんじゃないのか………?

「これ多分壊れてるねー。しょうがないから階段で向かおうー」

飛鳥の提案に俺達は頷き、階段を使うことに決める。

階段への扉の鍵は幸いにも空いていたため、俺達は急いで地下2階へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下2F

 

 

 

「おい!!みんな無事か!!」

地下2Fに着くと、まだ気温の低下の影響が残っているのか、上と比べて相当寒かった。

まずは俺は全員が寝泊まりしていた仮設コテージに呼びかけた。

しかし反応がないため、個室のドアを1つずつドンドン叩く。

すると、「…………何ですの一体」と佐々木がボサボサの頭で出てきた。

「佐々木!!無事だったか!!」

「だから『莉央奈』と呼べと何度も…………って、ええ!?どうしてアナタがここにいるんですの!?それに飛鳥サン達まで…………あれ?というか全然寒くない………」

寝起きだからか、頭が働かず何が起きているのか理解出来ていないようだ。

「緊急事態だ。全員の安否を今確認している。他のみんなもまだ寝てるのか?」

「え、ええと………多分呼びかければ全員出てくるかと………嘘、待って、じゃあつまり…………」

ようやく今の状況を把握した佐々木の顔が一気に青ざめる。

「そういうことだ。………おい!いる人は返事をしてくれ!大変なことになってるんだ!」

俺は再度それぞれのコテージに向かって呼びかける。

しかし、出てきたのは薬師院1人だけだった。

「………ふわあ、朝っぱらからやかましいなぁ………あれ?夢寺はん達がなんでここにおるん?」

普段の着物姿とは違う寝巻き姿の薬師院は、欠伸をしながら驚きの表情でこちらを見渡す。が、すぐに「………なるほどな。殺人が起きたんやね」と状況を理解する。

「今は全員の無事を確認してる最中、ってことでええの?」

「………ああ。ここにいるのは今のところお前と佐々木だけだ。他のみんなはどうしたんだ?」

「うちも昨日は体調悪すぎてずっとコテージに篭ってたからよう分からへん。みんなの顔もしばらく見てへんしなぁ」

「佐々木はんの寝起きの間抜け面を見るのも久しぶりやなぁ」と言う薬師院に対して「な、なんですってこの女狐!アナタ鏡で自分の顔見てから言ったらどうですの!?」と憤慨しているが、それを止めている暇なんてない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いないのは、風神君、ハルク君、八尋君、千尋さん、不知火さん、それにあの犯罪者かな。さて、この6人のうち何人死んでいるんだろうね?」

「………」

「お、蓮達じゃねーか!?久しぶりだな!!」

すると、背後から聞き慣れた友人の声が聞こえてきた。

振り返ると、雷哉が笑顔でこちらに向かってきた。

………良かった。あいつも無事だったんだな。

「雷哉。お前が無事で良かったよ」

「オメーもな。つーかオレがあの程度の寒さで死ぬわけねーんだよ!!ガハハハ!!」

いつも通りの豪快な笑いで自分が元気なことをアピールする。

「けどさー、ヤンキーのお兄さん、目にめっちゃ隈出来てるよー。体調悪いのバレちゃってるねー」

「な………ち、ちげーよ!!これは偶々昨日寝れなかっただけだ!!オレに体調不良なんて文字はねーんだよ!!!」

確かに雷哉の目元を見ると、俺ほどではないが目に隈が出来ていた。

流石のあいつでもこの環境はしんどかったか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それよりも雷哉。状況は何となく分かってるよな?お前なんでコテージにいなかったんだ?」

「ああ、んなことかよ。オレはずっとジェントルマンの野郎を探してたんだ」

「ジェントルマンを?」

「ああ。オレが今日の夜中目を覚まして外に出たら、あの野郎が音楽棟に向かうのを見たんだよ。だからオレは追おうとしたんだけどよ、オレも正直体調が結構キツくてそんな体力なかったんだ。だから一旦その場は追わずに寝て、その後起きてたから今まで探してたんだ。けどよ、正直びっくりしたぜ。起きたら全然寒くねーし」

「ジェントルマンはんは見つかったん?」

「それが全然いねーんだよ。このフロアだけだし、流石にどこかにいる筈なのに、一体どこ行っちまったんだ?」

雷哉の質問に対して俺は頭を働かせる。

これでまだ行方が分かっていないのは、ハルク、八尋、千尋、不知火、ジェントルマンの5名。

だが、雷哉はこのフロアを探してもどこにもいなかったという。

………けれど、ジェントルマンどころか、残りの4人もいないなんて、そんなことあり得るのか?

このフロアに必ずいる筈なのに、どうして誰もいないんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあひとまず、各自で手分けしてみんな探そか」

すると薬師院がパンと手を叩く。

「けど単独で行動するのは危険やから、必ずペアで動く事。何かあったらすぐ他のみんなを呼ぶ事。ええ?」

「分かったぜ!じゃあ蓮!一緒に………」

「夢寺はんは考え事してるみたいやから後でうちが連れてくわ。風神はんはじゃあ………飛鳥はんと行って。フットワーク軽そうな2人で組んだ方がええやろ?」

「お、おう………。じゃあ飛鳥行こーぜ!」

「はいはい分かったよー」

「じゃあわたくしは結城サンとですわね」

「………好きなところに行って構わないよ。僕は勝手について行くから」

「……………本当にどうしたんですの?アナタ」

こうして俺が気づいた時には、俺と薬師院以外は居なくなっていた。

「夢寺はん♪うちらもいこか♪」

すると、薬師院が俺の目を見てにこやかに笑っていた。

「………何で笑ってるんだ」

「だって、こんな事、日常じゃ絶対起こらへんことやん。みんなのいろんな表情見れてうち、超楽しいで♪」

「………イカレ野郎が」

「んもう、うちこれでも女やで?『野郎』はやめてな♪」

薬師院を無視し、俺は建物の方へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

まずは『図書館』へと向かった。が、4人は見つからず、特に変わった点もなかった。

「ここやないみたいやねえ」

「………」

俺は次の場所、『モノワニシアター』へと向かった。

………が、ここにもいない。

「ここにもいないとなると、じゃあ残りは『音楽館』か『科学館』やね」

「『音楽館』に向かう」

俺はそれだけ言うと、心臓をバクバクさせながら走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

音楽館

 

 

俺は薬師院と一緒にコンサートホールへと入る。

…………が、普段とは違う様子なのが入った瞬間に理解出来た。

「あれ?なんか暗い気がするんやけど………電気でも切れたん?」

「……違う。ステージ上にあったシャンデリアが落ちてる」

どうやら、天井にあった巨大なシャンデリアが地面に落下したせいでホールが薄暗くなっているらしい。

「あ、ほんまや。というか、あんなデカいの、なんで落ちてるんや?」

「さあな。………ん?」

ようやくコンサートホールの薄暗さに慣れてきた頃、ステージへ向かう階段付近に佐々木と結城が立っているのが見えた。

2人は呆然とした様子でステージを見つめている。

「何か見つけたのか?」

「…………あ、あれ…………………」

佐々木が震えながら、グランドピアノが置いてあるステージ上を指差している。

俺と薬師院は佐々木達の隣に行き、同じ方向に視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ピーンポーンパーンポーン………………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『死体が発見されましタ。一定の捜査時間の後、学級裁判を行いまス。場所は【地下2F 音楽棟 音楽ホール】でス』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………………は?」

突如流れる『死体発見アナウンス』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

煌びやかなコンサートホール。

そのステージの中央に、確かに金色のシャンデリアが落ち、ガラスがあちこちに散乱している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、何気なくシャンデリアの下を見ると…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見る………と………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャンデリアに押し潰され、ピクリとも動かない北桜兄妹の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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