ダンガンロンパ ルーナ   作:さわらの西京焼き

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プロローグ3

 

 

 

宴会場へ着くと、既に他の生徒は集まっていた。

「あー!れん達やっときたー!!」

「…………これで全員だな」

「で?さっきの放送してたやつはどこだ?まさか呼び出しといて来ないなんて舐めた真似しねーよな?」

「今のところ、怪しい方はここにはいらっしゃらないようですが………」

 

 

 

 

 

「全員お集まりのようですネ」

全員が辺りを見渡していると、俺達の誰からでもない声が聞こえ、同時に前方にある舞台から謎の物体が飛び出した。

その正体は…………ワニのぬいぐるみだった。

「おはようございまス」

「わ、ワニが………」

「ワニが喋った!!!!!!!!」

「喋ったであります!!!!!!」

「おや、ワニが喋ることがそんなに珍しいでしょうカ。今の時代、ワニが喋れても何もおかしなことはありませんヨ」

「いやいや、喋るワニなんて聞いたことあらへんよ」

目の前のぬいぐるみは、俺達としっかり意思疎通が出来ている。

となるとコイツは………。

「まったく、ぬいぐるみが喋るわけないでしょう。これはワニ型の機械ですよ。内蔵されたマイクか何かで僕達の声を拾い、そのマイクを通して僕たちに話しかけているんです」

「そう考えるのが妥当だろうな。そして恐らく、そのワニを通して話しかけてきたのが今回の事件の犯人だ」

「このワニが機械であることくらい、見た瞬間に分かるだろう。お前らの脳味噌は幼稚園児以下か?」

既にそいつの正体に気がついていた数人が発言する。

「フッフッフッ………勘のいい方は既に気づいてらっしゃるようですネ………。では自己紹介させて頂きましょウ。ワタクシの名はモノワニ。『絶望亭』の支配人でス」

 

 

 

 

 

 

 

《絶望亭 支配人》 モノワニ

 

 

 

 

 

 

「絶望亭…………?」

聞き慣れない建物名に数人が首を傾げる。

俺もそのうちの1人だ。

そんな建物名は聞いたことがない。

「『絶望亭』…………。この建物のことでいいんだよね?」

結城がモノワニに確認する形で尋ねる。

「その通りです結城サマ。あなた達新入生が閉じ込められたのこの建物こそが『絶望亭』となっておりまス」

「君が僕達を拉致してここまで連れてきたのか」

「ええ。ワタクシが責任を持って皆サマをご案内させて頂きました」

「ね〜、名前とか経緯とかどうでもいいからさ〜〜〜、ここから出してよ〜〜〜、ずっとここにいるのダルいんですけど〜〜〜」

「そうですわ!!こんな狭くて埃っぽい場所からとっとと出して下さいまし!わたくしを誰だと思ってますの!!」

「ここから出して、ですカ。残念ですが、それは出来ませン。皆サマには…………ここで一生過ごしてもらいまス」

「い、一生でありますか!?」

「はああ?ふざけんなよ!!」

「えええ!?千尋ここから出れないの!?」

一生、という言葉を聞き全員の不満が一気に爆発する。

「ただし、1つだけここを出られる方法があります」

「何だ。早く言え」

「ここから出る方法…………。それはとても簡単でス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰かを…………殺すこと」

 

 

 

 

 

 

 

「………は?」

俺の聞き間違えだろうか。

殺す、という言葉が聞こえたが………。

「こ、このワニ今何て言っただすか…………?」

「誰かを殺せ、って言ったよねー」

桃林の問いに飛鳥が答える。

その瞬間、全員の顔色が一瞬で変わった。

「フッフッフッ、飛鳥サマのおっしゃるとおりでス。ここにいる誰かを殺し、あることを無事乗り越えることが出来たならここから出ることが出来まス」

「………冗談を言ってる風には聞こえねぇな」

「そ、そんな事ワターシ達が出来るはずありまセン!!!」

「ご安心下さイ。恐らく殺人に関して素人の方が多数だと思いますので、ワタクシが全力でサポートさせて頂きまス。道具類の用意は勿論、殺人がしやすいような環境等を整えていまス。だから皆サマは安心して殺人に励んで下さいまセ」

「うちらが心配してるのはそないな事やない。誰かを殺さないとここら出られへんっちゅう事なんよ」

「フッフッフ、確かに最初は抵抗があるでしょウ。しかし次第に誰かを殺してでもここを出たい、と思うようになりまス。人間というのはそういう風にできているのでス」

「ふざけないでくれ!!!!!!!」

モノワニの言葉を聞いた結城が大声で怒鳴り声を上げた。

あの穏やかな結城がキレている。

無理もない。急に新入生同士で殺しあえと言われているんだ。

「僕達はこれから一緒に過ごしていく仲間なんだ!誰かを殺すなんて事するはずないじゃないか!!」

「フッフッフ…………もしかしたらそう思ってるのは結城サマだけかもしれませんヨ。ほら、周りの皆サマを見てくださイ」

「みんな、そうだよね!この中の誰かを殺すなんてことする筈がないよね!?」

結城は俺達を見渡す。

俺もそれに習い他の人間の様子を伺う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、結城の言葉を肯定する者はいなかった。

互いに探り合うような視線を交わす俺達。

それが他人を完全に信用していないことを示す何よりの証拠だった。

 

 

 

 

 

 

 

「みんな…………」

結城が愕然とした表情をする。

「フッフッフ………。いい空気になってきましたネ。あ、ちなみに外からの助けを求めているのなら無駄ですヨ。助けは絶対に来ませんかラ」

「そう言い切るってことはちゃんとした根拠があるみたいだねー」

「………先程の条件を飲まなければここを出る手段はないということか」

「くっ………!」

どうやら本当にこのワニは俺達にコロシアイをさせるつもりらしい。

「さて、ここを出る条件を理解してもらえたところで、ここでのルールを説明したいと思いまス。まず皆サマにはこれをお配りしまス」

モノワニはそう言うと俺達にある物を手渡し始めた。

手に渡ってきたのは携帯のような端末だった。

「これはなんですの?」

「『モノワニパスポート』と呼ばれる端末でス。まあ要するに携帯ですネ」

「そのパスポートはまずいくつかの施設に入るために必要な物になりまス。例えば別館にある皆サマの個室。自分の部屋に入るには自分のパスポートを入口の機械にかざす必要がありまス」

なるほど。あれはこのパスポートをかざすために付けられたものだったのか。

「ちなみに無くすと再発行は致しませんのでご注意願いまス」

「無くすなって言われるとなくしちゃいそうだよねー」

「では皆サマ。早速電源ボタンを押して開いてみて下さイ」

俺は指示に従い電源を入れる。

視界の隅ではあたふたしている佐々木が薬師院に何かを教わっている。

………もしかしてアイツ、機械が苦手なのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくすると、画面に『夢寺 蓮』と自分の名前が出てきた後にいくつかのアプリが出てきた。

「開くとアプリが数種類出てくると思いますが、まずは『規則』と書かれたアプリをご覧くださイ」

言われた通り『規則』をタッチする。

すると、ずらりと書かれた規則が画面に出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

【絶望亭 規則】

 

 

1 生徒達はこの旅館内だけで共同生活を行いましょう。

 

2 チェックアウトするためには、誰かを殺害しその後の自身が犯人だとバレずに学級裁判(下記参照)をクロとして勝ち抜くことが必要となります。

 

3 夜10時から朝7時までを"夜時間"とします。夜時間は立ち入り禁止区域があるので注意しましょう。

 

4 就寝は別館1階にある個室等決められた場所でのみ可能です。

 

5 絶望亭について調べるのは自由です。特に行動に制限は課せられません。

 

6 支配人ことモノワニへの暴力を禁じます。学園内の設備の破壊を禁じます。《監視カメラ、扉等》

 

7 仲間の誰かを殺したクロは"チェックアウト"となりますが、自分がクロだと他の生徒に知られてはいけません。

 

8 生徒の誰かが死亡した場合、一定の捜査時間が設けられ、その後、全員参加の学級裁判が開かれます。

 

9 学級裁判とは誰が犯人かを議論し、全員の投票によってクロを指摘する場です。その際、無投票は許されません。

 

10 正しいクロを指摘出来ればクロだけがおしおきを受け、間違えた人物をクロと指摘した場合はクロ以外の全員がおしおきを受けます。

 

11 以下の行動、状態は規則違反者として罰せられます。

 

1)モノワニ、絶望亭内の設備等への暴力、破壊行為

 2)別館1階個室以外の場所での故意の就寝

 3)立ち入り禁止区域に入る

4)その他、モノカバの指示に従わない場合

 

12 なお、学則は随時追加される場合があります。

 

 

 

 

 

 

「ここで生活する上で非常に大事な事が書かれていますので、後で必ず目を通しておいてくださいネ」

「オイ、この学級裁判ってのは何だクソワニ」

画面を見ていた円城寺が質問する。

「そこに書いてある通りでス円城寺サマ。もし仮に誰かを殺したとしてもそれで終わりではありませン。自分が殺した犯人だとバレずに『学級裁判』へと臨み、投票で見事自分が指名されなければ勝利。無事外へと脱出出来るという訳でス」

「この『おしおき』というのは具体的に何をされるのですか?」

「うーん、平たく言えば処刑ですネ」

「しょ、処刑………!」

桃林が悲鳴に似た言葉をあげる。

「なるほどー。ここを出るには他のみんなを生贄にしなくちゃいけないんだねー」

「何それダルい〜〜〜」

学級裁判…………。素人の俺達に犯人探しをさせるのか。

「その学級裁判の際役立つのが、隣にある『コトダマ』というアプリでございまス。これは殺人が発生した際にまた説明しまス」

「そんな事想像したくないであります!!」

写実のん

「次に『マップ』というアプリを開いてみて下さイ」

マップというアプリを起動すると、『絶望亭』のマップが表示された。

「ここには皆サマがいる絶望亭のマップが表示されていまス。もし迷った際にはご覧になってみて下さイ」

これは正直助かる。俺は方向音痴気味だから迷った時はこれを活用すればいいのかもしれない。

「ワタクシからの説明は以上となりまス。何か質問があれば受け付けますガ」

「どうして…………」

「ん?」

「………どうしてこんな事をするんだ。一体何が目的なんだ…………」

モノワニが説明を終わらせた瞬間、結城が腹の底から絞り出すような声で言った。

「どうして………ですカ。そんなの理由は1つしかありませんヨ」

モノワニはフフフと不気味な笑みを浮かべると、

 

  

 

 

 

 

 

「…………絶望のために決まってるじゃないですカ」

 

 

 

 

 

 

 

大笑いするモノワニ。

その様子は…………まるで悪魔のように見えた。

「ふざけないで下さい!!!!」

しかしそこでとある人物がモノワニへと勢いよく近づいていく。

「そんな身勝手な理由で私達を閉じ込めてコロシアイをさせるなんて………人の命を何だと思ってるんですか!!!」

「綾辻氏!?」

「綾辻澪!!早まるな!」

その少女、綾辻澪は鬼の形相でモノカバに掴みかかる。

「私達は殺し合うために希望ヶ峰学園に入学したのではありません!!」

「綾辻さん!やめるんだ!!」

「おやおや、早速規則違反者が出てしまうとは…………………。まあ見せしめとしてちょうどいいかもしれませんネ」

モノカバはそう呟くと、

『規則違反者発生。グングニルの槍を召喚します』

けたたましいサイレン音と共にどこからか機械音が発生する。

「おいおいおい!なんかやべえぞ!」

「みお危ないよ!!!!」

「えっ………」

綾辻が危機感を覚えた時にはもう遅かった。

突如天井が開くと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地獄で反省して下さいネ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大な槍が綾辻に向けて発射された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、俺の体は勝手に動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全力で走り出すと綾辻を槍の範囲から押し出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャッ!?」

「ぐっ!!!」

俺と綾辻は揃って地面に倒れ込む。

「キャーーーーーーーー!!!!」

「蓮!!!」

「大丈夫か夢寺蓮!」

「れんーーー!!!」

誰かが悲鳴をあげると共に心配した数人が駆け寄ってくる。

綾辻は…………どうやら無事助けられたようだ。

俺はひとまず胸を撫で下ろす。

一方助けた俺はというと………槍が左腕をかすってしまったようだ。

傷は深くないが出血している。

………くそ。ミスったか。

「夢寺様………!どうして………!!」

綾辻は呆然と俺を見てくる。

「悪いな……。勝手に体が動いた」

「蓮………オメー…………」

雷哉は俺を複雑な表情で見ている。

「フッフッフッ………まさか夢寺サマが庇うとは……想定外でしたヨ」

モノワニは処刑が失敗したにも関わらず、余裕の表情を変えない。

「お前の思い通りにいくのが癪だったんでな」

「フッフッフッ。これは面白い展開になりそうですねエ。今回は夢寺様の男気に免じて許してあげましょウ。綾辻サマ、命拾いしましたネ。次は気をつけてくださいヨ」

「あ…………!」

「ではワタクシはこれにて失礼しまス。皆サマ、どうぞごゆっくりくつろぎ下さいまセ」

綾辻の返答を聞く前にモノカバはそう言い残すと、瞬時に姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだったんでありますかあの槍は………!」

「嘘、ですわよね………あんなの、ただわたくしたちをびっくりさせるための高度なCGに決まってますわ…………!」

「馬鹿言ってんじゃねーよ。蓮の怪我見ろ。どう考えても本物だろうが」

「危険すぎマス…………!!こんなので刺されたら死んじゃいマス!」

「これは………厄介なことになったなぁ」

「……なるほど。これで規則違反者を殺害するわけですか。いつでも対処できるよう、あらゆる場所に設置されていると考えてよさそうですね」

「あの男……………………それに学級裁判というシステム…………チッ、気に入らないな」

「アンタ達、なんでそんな冷静なんだすか…………」

「なんか色々面白いことになってきたねー。ボクわくわくしてきたよー」

「これからあーしらどうすればいいの〜〜?あ〜〜考えるのダルいわ〜〜」

「みんな落ち着いて!」

全員が恐怖と不安で慌てふためく中、結城が声をかける。

「ひとまずこれからのことについてみんなで考えようと思う。だからここで待っていて欲しいんだ」

「それは別にいいけどよ。晴翔、てめえはどうすんだ?」

「僕は夢寺君を医務室まで連れていくよ」

結城はそう言って俺に肩を貸してくれようとする。

「そこまでしなくても大丈夫だ。自分で歩ける。それと付き添いもなくて大丈夫だぞ」

「駄目だよ。流血してる以上、誰かがついていかないと……

「私が行きます」

結城の言葉を遮るように言ったのは綾辻だ。

表情はいつもの凛々しいものに戻っている。

「でも綾辻さん、君はさっき……」

「私なら大丈夫です。それに私が夢寺様の治療をしないと。私は医者ですし、何より夢寺様が怪我したのは私の責任ですから。結城様は皆様をまとめる役をお願い致します」

「……分かった。君がそういうなら任せるよ」

綾辻は俺の左腕の傷を自身のハンカチで押さえた。

「ひとまず止血しながら医務室まで行きます。夢寺様、歩けますか?」

「問題ない」

俺は綾辻に連れられ医務室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

医務室に着くと、綾辻は早速俺の腕の治療を始めた。

流石に軍医である綾辻の手捌きは完璧で、あっという間に処置が終わってしまった。

「ありがとう綾辻。お陰で助かったよ」

「夢寺様…………」

「ん?」

治療が終わると綾辻は俺に向けて深く頭を下げた。

「本当に申し訳ありませんでした」

「お、おい」

「私が暴走して規則を破ったせいで夢寺様に怪我を負わせてしまいました。この程度の謝罪で許してもらえるとは思っておりません。ですが私の気が収まらないので、頭を下げ許しを乞う事だけはお許し下さい」

「綾辻」

このままだと一生頭を下げていそうな雰囲気なので、少し強めに声をかける。

「綾辻を助けたのは俺が勝手にやったことだ。それに怪我をしたのも俺がしくっただけだ。だから綾辻が責任を感じる必要はない。むしろ俺が綾辻の手を煩わせてしまったんだし謝るのは俺の方だ」

「で、ですが私は感情を抑えきれず怒りに身を任せて……」

「人の命を何よりも大切にしている綾辻の事だから、モノワニの発言に怒りを覚えるのは当然だ。仕方ない」

「………」

「何より綾辻がハッキリとあの場で言ってくれたお陰で胸がすいた奴らも何人かいたんじゃないかと思う。俺もそのうちの1人だしな」

「夢寺様…………」

あの場で自分の思うことを言える度胸は賞賛に値する。

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

「ん?どうした綾辻」

すると綾辻が俺のことをボーッと見つめていることに気がついた。

「………あ!す、すみません…………。その、お優しいんですね、夢寺様は」

彼女は慌てて目を逸らすとそう褒めてくれる。

「いや、俺より綾辻の方が10倍優しいと思うぞ。俺結構冷たいって言われるし」

「………そんなことは」

「それより、この傷なら歩いても大丈夫だよな?」

俺は包帯が巻かれた左腕を見る。動かす時多少痛いが、特に問題はなさそうだ。

「は、はい。処置は完了していますし、それほど傷は深くないので問題ないと思いますが…………。ですがもう少し休んでいかれた方が…………」

「大丈夫だ。それよりも他のみんなが心配なんだ。結城がみんなで考えると言ったけど、果たしてどうなるか…………」

恐らく全員が一致団結、というわけにはいかないだろう。

協調性が欠けている者も何人かいたしな。

「………そうですね。私も皆様の様子が気になります。同行させて頂いてもよろしいですか?」

「勿論だ。行こう」

底知れぬ不安を抱えながら俺と綾辻は医務室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の不安は的中した。

「司君!待ってくれ!」

「俺様に命令するな、バトミントン部。俺様は1人で行動する。お前らみたいな役立たずと行動するなぞ反吐が出る」

俺と綾辻が宴会場の入口を開けると、司が結城達に背を向け出ていこうとしていたところだった。

「今必要なのは団結なんだ!君の力を貸してくれ!」

「自分以外の全員が敵なのに団結して行動だと?その味方が裏切り殺される可能性を何故考慮しない?」

「そんなことは絶対にさせない!!そのために僕達で策を考えるんだ!」

「ハァ………もういい。頭の悪い奴と話すとこっちまで頭が悪くなる」

司はため息をつくと俺達の方へ向けて歩き出す。

「どけ。ゴミが俺様の進路を邪魔するな」

司は何故か俺の方だけを睨むと舌打ちしながら宴会場を出て行った。

「なんで俺だけなんだ…………」

「さあ………?」

「蓮!!オメー大丈夫なのかよ??」

俺達に気づいた雷哉が駆け寄ってきた。

「問題ない。綾辻の処置が的確だったお陰で重症化せずに済んだ。もう動ける」

「そっか。ったく、ヒヤヒヤさせんじゃねーよ」

「お前ヒヤヒヤしてたのか?」

「………いや、よく考えたらそんなにしてねー」

コイツ平気で嘘つきやがった。

「それより、今の状況は?何があったんだ?」

「司君はぼくたちを信用できないから単独行動をする、と言ってきたんだ」

結城は酷く落ち込んだ様子だ。

「司拓郎は元々私達と仲良くするつもりはなかったらしい。どうやらあの男、私達を相当見下しているようだ」

乃木は出口を見ながら難しい表情をする。

「な、何様だすかあの男………」

「オーウ、秀才サン、どうしてワターシ達のこと嫌うのでショーカ?」

「んなの知らねぇよ。ほっとけあんなチビ野郎」

「結城晴翔。司拓郎のことはひとまず置いておこう」

「でも…………」

結城は仲間意識が強い人間だ。

本当は1人も欠けずに協力したかったのだろう。

 

 

 

 

 

 

「あの〜〜〜ちょっといい〜〜〜?」

すると百々海が欠伸をしながら手を挙げた。

「どうした百々海真凛」

「あーしも団体行動苦手だし〜〜、なんか色々ダルそうだからこれから単独行動したいんだけど〜〜〜」

「なっ!?」

百々海の発言に結城の顔が驚愕に染まる。

「百々海氏!?まさか百々海氏も司氏同様某らのことが嫌いなのでありますか!?」

「違う〜〜〜。別に嫌いだからとかじゃないよ〜〜。あーしは単純に団結とか集団行動とかダルくて苦手なだけ〜〜」

百々海は伸びをしながら出口へと歩いていく。

「百々海さん!待ってくれ!!」

「晴ちゃんが協力したいのは分かるけど〜〜〜、あーしはそういうの苦手だから〜〜。何かあったら呼んでね〜〜〜。その時のやる気次第だけど協力するから〜〜」

百々海はそう言い残し出て行ってしまった。

 

 

 

 

「では僕も抜けさせてもらいます」

「ええ!?やひろまで!?」

続いて八尋も立ち上がる。

「八尋君!?君までどうして!?」

「僕1人の方が探索効率がいいからです。見たところここにいるメンバーは個性が強くまとまっていない様子。なら僕1人で動いた方が効率的です。それに僕も群れるのは好きではないですし」

「そんな………」

「それに誰が僕を殺しに来るか分からない状況で協力など出来るはずがありません。仲間面をして不意打ちで殺しに来る輩もいないとは言えないですからね」

「そこまでハッキリ言わなくてもいいじゃねーか!」

「どうして!?今こそみんなで力を合わせることが必要なのに!」

「見解の相違ですね。あなたは全員の団結を第一と考えているようですが、僕は脱出を第一と考えています。脱出のために必ずしも他者と協力する必要はありません」

結城は必死に説得しようとするが、八尋は聞く耳を持たない。

「やひろ!!みんなで仲良くしないとダメだよ!」

「お前は黙って下さい、千尋」

八尋は妹の言葉さえ聞かず、静かに立ち去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんなごめんね………やひろ、本当はみんなとなかよくしたいはずなのに………」

千尋はしょんぼりとしている。

「し、仕方ないであります!八尋氏は何か考えがあるのであります!

「そうデスヨ!!作曲家サン、きっと戻ってキマス!!」

「そう、だよね………。うん!!千尋、頑張ってやひろ説得するよ!」

だがハルクと写実の励ましの言葉をかけると、千尋はすぐ元気を取り戻した。

こういう時ハイテンションの人間がいると助かる。

「それで結城はん、これからどうするつもりなん?」

薬師院がのんびりとした口調で尋ねる。

「もしかして、団結するにあたってルールとか作るつもりなん?」

「………うん。みんなが殺人なんか起こさないことは知ってるけど、一応対策のためにいくつかルールを作るつもりだよ」

「例えばどのようなものを作るつもりなんだ?」

「そうだね……………例えば朝昼晩3回は必ず一緒に食事を摂るとか、1日5回点呼を行うとか。あと必ず3人以上で普段行動するとか」

「う〜ん、うち、そこまで細かいルールで縛られるの嫌やなぁ。ならうちも単独行動したいと思ってしまうなぁ」

結城の言葉を聞いた薬師院はやんわりと、しかしはっきりと否定の意思を示した。

「薬師院さん!?」

「他にそう思う人いるんちゃうん?縛られるのが嫌な人」

「はーい。ボク嫌でーす」

「それは………そうだすね」

飛鳥と桃林、それに他の何人が遠慮がちに手を挙げる。

「ど、どうして!?コロシアイを防ぐには細かいチェックが必要なんだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのなぁ、結城はん」

薬師院が優しく結城に諭す。

「確かにコロシアイを防ぐには細かいルールで縛るのが1番だと思う。けどな、救助が来なくてここで一定の日数過ごさなくちゃいけない以上、生活に不自由が出る程度まで縛るのはどうかと思うんよ。もしそれでストレスとか溜まってみ?そのストレスで殺人が発生する可能性もあるんよ」

「そ、それは…………」

「ルールを作るのはええことやけど、あまりに細かくするのはかえって逆効果やとうちは思う。………なんて言ってみたけど、みんなはどう思ってるん?」

「薬師院月乃に全面的に同意だ。ルールを厳しくしすぎるのは不和の原因となる。程々にするべきだな」

「俺もそう思うな。というかこんな個性的な奴ら縛りきれねーだろ。絶対破る奴出てくるぜ」

「そうであります!ここには個性的な人ばかりでありますから!」

「テメーもだよバカ」

薬師院の意見に全員概ね賛成のようだ。

「そうか………そうだよね。ごめん、周りが見えてなかったよ」

結城は自分の頬を叩くと立ち上がった。

「よし!じゃあこれからの方針を決めよう!必ずこの場所から無事に脱出するんだ!!」

オーという掛け声が響き渡る。

3人抜けたが、どうにか俺達はまとまったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、俺達は規則を見ながらいくつかルールを決めた。

朝8:00と夜18:00の2回は必ず食堂に集まり一緒に食事を摂ること。

食事当番は円城寺、綾辻、天草の3人がやってくれることになった。

そして夜時間以降の出歩きは極力控えること。

何かあった場合必ず結城か乃木に報告すること。

リーダは結城、サブリーダー的なポジションは乃木が務めることになった。

「ちょっと気になるんだけどよ」

一通り話し合いが行われたところで円城寺が発言する。

「……ものすごく静かな奴が1人いるんだが、誰かどうなってるのか説明してくれ」

円城寺が指差したのは………さっきから一言も発していない佐々木だ。

顔が真っ青の状態で下を向いて震えている。

「おいおいお嬢様大丈夫か?そんなに怖かったのかよ」

「…………」

「駄目だ、聞いちゃいねぇ」

円城寺の言葉は全く聞こえていない。

「無理もない。いきなりコロシアイをしろと言われたのだ。頭の中は恐怖で一杯なのだろう」

「……どうする?」

「………俺がやってみる」

「夢寺君………?」

俺はゆっくり近づくと声をかけた。

「大丈夫か、佐々木」

「………え?」

苗字を呼ばれたことに反応したのか、佐々木はゆっくりと顔を上げた。

「え…?あ…………!」

「一応決めることは決めたんだが………どこまで聞いてた?」

「え、えーっと………司サンが出てくところまで………」

「最初じゃねーか」

どうやら相当長い時間聞こえてなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

「莉央奈さん」

結城が近づき優しく声をかける。

「莉央奈さんは僕達と一緒に行動してくれるっていうことでいいのかな?」

佐々木は周りを見渡し自分が注目されていることに気がつくと、

「ま、まあわたくし心が広いですから!!アナタ達と一緒に行動してあげないこともないですわよ!」

何故がドヤ顔で胸を張る。

「で、ですがこの中で1番高貴な存在はこのわたくしだということをゆめゆめ忘れないようにして下さいませ!」

「あ、いつものりおなだ」

「ワガママお姉さんおかえりー」

「かるたクイーンサン、元気が戻りまシター!」

「あーあめんどくせーお嬢様に戻っちまった」

まだ多少無理はしてるようだが、どうにかいつもの調子を取り戻したようだ。

「あ!それと夢寺蓮!!あなたまたわたくしのこと『佐々木』って呼びましたわね!!」

「いやそれは聞こえてんのかよ」

「呼ぶなってあれほど言いましたわよね!!」

「それはちょっと難しい相談だな」

「ムキーーーーー!!!!」

相変わらず分かりやすい怒り方だな。

「そんな苗字呼ばれたくらいでカリカリせんでも………。心が広いじゃなくて狭いの間違いちゃうん?」

「う…………ううううるさいですわ!狐みたいな細目してるくせに!この女狐!!」

「まあ、お下品な口調やねぇ。自称お嬢様は流石やわぁ。それにうち、狐程目ぇ細くないんやけど?」

佐々木と薬師院はお互いに睨み合う。

「なんでコイツら既に火花バチバチなんだよ………」

「薬師院月乃が親切心で戸惑う佐々木莉央奈にパスポートの操作を教えようとした時、一悶着あったらしいな」

………あの時か。どうせ大方、佐々木が薬師院の親切を跳ね除けたんだろう。

「………ひとまずやっていけそうですね」

「ああ」

隣の綾辻の意見に同意する。

モノワニの思い通りにはさせない。

必ず俺はここにいるメンバー全員で脱出してみせる。

そう改めて誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後俺達は一旦解散となり、夕食の時間まで各々の時間を過ごすことになった。

俺はひとまず自分の個室へ行くことにした。

個室に着くと、早速モノワニから貰ったパスポートをかざす。

するとカチャという音が鳴り鍵が開いた。

「随分ハイテクだな………」

俺が住んでいたのはボロボロのアパートだった為、当然電子ロックなどは無かった。なのでこのような形式はとても新鮮に感じる。

「…………なるほど」

中は完全な和室だった。

宴会場と同じく畳が敷き詰められた個室は、1人用としては中々広めなゆったりとした空間であった。

中央に大きなテーブルが1つ、座敷用のイスが2つ。テーブルにはポットが1つと茶葉が入ってるであろう袋があった。

端には小さな冷蔵庫があり、壁にはモノワニの顔が描かれた掛け軸がかかっている。後で外しておこう。

そして押し入れが1つあり、中を覗くと寝具一式が収納されていた。

脱衣所スペースは別にあり、個室のトイレとシャワールームが完備されていた。

「…………随分と手厚い待遇だ」

本当に俺達監禁されているのだろうか。

そう思ってしまうくらいのおもてなしだ。

犯人は一体何を考えているんだろうか?

「………ひとまず寝るか」

考えたら眠くなってきてしまったので、押し入れから布団を出し、夕食の時間まで仮眠をすることにした。

もし誰か俺に用があったらインターホンを鳴らして尋ねてくるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ん」

仮眠から目覚めたら俺はゆっくり起き上がる。

あれ?俺はなんで寝てたんだっけ………?

「………まずい」

俺は嫌な予感がしたので慌てて時間を確認する。

時計は…………18時10分。

夕食の時間を過ぎてしまっている。

「早く行かないと」

意識がぼーっとする中、俺は急いで食堂へと向かった。

 

 

 

 

 

「おい蓮!オメー遅刻だぞ!」

食堂に着くと、既に夕食は始まっていた。

雷哉が口に何かを入れながら俺を呼んでいる。汚ねーよ。

「良かった。ちょうど今呼びに行こうと思っていたんだよ。何かあったのかい?」

結城が入口に突っ立っている俺に声をかけてくれる。

「いや、寝過ごしただけだ。悪い」

「あら夢寺サン。随分と面白い髪型ですわね。よく似合ってますわよ、………ププッ!!」

佐々木が俺の寝癖のついた髪型を見て馬鹿にしてきた。

…………アイツに馬鹿にされるのは無性に腹が立つな。

「ほ、本当であります!夢寺氏の寝癖………ぷっ、傑作であります!!」

「マジシャンサン、面白い髪の毛デース!」

「れんの髪なんかへんー!」

「はとのお兄さんよかったねー。みんなから笑い取れてるよー。マジシャンとしてこれほど嬉しいことはないんじゃないー?」

「………なあ結城。ここまで言われるほど俺の寝癖変なのか?」

「そ、そうだね………。いつもよりはその、違和感を感じるというか………」

優しい結城でさえ言葉を濁している。

早く部屋に戻って鏡を見たい。

 

 

 

 

 

 

 

「飯も静かに食えねーのかクソ共!!!!」

すると厨房から円城寺の怒号が聞こえてきた。

それと同時に綾辻が追加の料理を運んできた。

「皆様、追加の料理を持って参りました。唐揚げとシチューです」

「お、美味しそうデース!!!」

「ふ、ふん。中々の料理だすな………」

机にはお皿に盛られた色とりどりの食事が並んでいた。

これを全部3人で作ったのか………。

「どれもこれも絶品やわぁ。うち、ほっぺたとろけてまうかもしれへん」

「確かに、どの食事も文句のつけようがない程の味だ。君達は料理教室などに通ってこのスキルを身につけたのか?」

「そんなもん行ってねーよ。俺はこれでも料理が好きでな、自分で色々興味のある料理作ってるうちに勝手に身についただけだ」

「へー。ユーレイのお兄さん意外だねー。絶対料理しなさそうな見た目と格好してるのにー」

「てめえの料理没収な」

「ええー!!」

飛鳥は円城寺に目の前にあった餃子を没収されている。

「私は軍医でありながら兵士の皆さんの身の回りのお世話もさせて頂いていたので、そこで自然と家事の技術も身についたんだのだと思います」

「…………自分は…………下に幼い弟がいたから、料理を作ってあげていた。それだけだ………………」

「なるほど。いずれにしろ料理をする機会があったということか………」

乃木はふむふむと頷きメモをしている。

本当に生真面目だな。

 

 

 

 

「ギャーーーーー!!か、辛いであります!!!!!!なんでありますかこのカレーは!?!?!?」

「………自分の作ったカレーだが、そこまで辛いか…………?」

斜め右を見ると、写実が天草の作ったカレーを食べて絶叫している。

「俺も食べてみてもいいか?」

「………ああ。是非食べてみて欲しい…………」

俺も気になり天草のカレーを一口食べてみる。

「………辛っ!?」

食べた瞬間、あまりの辛さに思わず立ち上がりゴホゴホとむせる。

何だこの辛さは。俺の人生で経験したことのない辛さだぞ。

「夢寺様!?」

綾辻が水を汲んできてきてくれた。

俺はそれを一気に飲み干す。

「たった一口でそんな反応なんて、よっぽどの辛さなんやねぇ」

「ワターシも食べマース!!」

「千尋も食べてみる!」

「オレも!」

「お前ら…………やめとけ………」

俺は声を絞り出し止めたが、言うことを聞く奴などいるはずがない。

案の定、食べた奴らは口から火を吹く勢いで辛さに悶えた。

「………そこまで辛いのか………?」

当の天草は不思議そうに首を傾げながら激辛カレーを口に運んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、誰かわたくしに食後のミルクティーを淹れて下さらない?わたくし、これを飲まないと落ち着かないんですの」

食事も終わり食器を片付け始めた頃、佐々木が偉そうに座りながら言った。

「誰かじゃ分かんねーよお嬢様。誰にやって欲しいか指名しろや」

円城寺は鬱陶しそうな顔をしながら食器を運ぶ。

こいつは本当に微塵も感情を隠そうとしないな。

「そうですわね………じゃあ夢寺サン、あなたがやって下さいな」

すると佐々木は、何故か俺を指定してきた。

「………断る。なんで俺がお前にミルクティーなんか淹れなくちゃいけないんだ」

「あら、もしかして夢寺サンミルクティー淹れられないんですの?ならしょうがありませんわね。夢寺サンにそんな高度なこと頼んでも出来るはずありませんものね。わたくしとしたことが、夢寺サンがいかにポンコツであるかをすっかり忘れていましたわ。なら別の人にでも」

「分かった、仕方がないからやってやる」

俺をみて嘲笑う佐々木にカチンときて、素早く立ち上がり厨房へと向かう。

「お、蓮が珍しくムキになってやがる」

「アイツ、実はクールに見せかけてめっちゃ負けず嫌いだからなー」

「そうなんでありますか。ギャップ萌え、というやつでありますな」

「ふふ、ますますからかいがいのありそうな子やねぇ」

外野が色々うるさいが、それを無視して俺はミルクティーを淹れる。

あの野郎、絶対許さん。ギャフンと言わせてやる。

 

 

 

 

 

 

 

「ほら飲めよ」

「あら、随分早かったですわね」

俺は佐々木の前にミルクティーを淹れたカップを乱雑に置く。

「ちょっと!わたくしの服にはねたらどうするつもりですの!?もっと上品に置きなさい!」

「知らん。俺は店員でも執事でもないんだ。お前に気を遣う必要がどこにある。つべこべ言わず飲め」

「くぅぅぅ………!!またわたくしに口答えを………!」

佐々木は俺を見上げ悔しそうにこちらを睨むが、すぐミルクティーに視線を戻した。

「………へぇ、見た目と香りはまずまずといったところですわね」

一丁前な口を叩きながら佐々木はカップを持ち上げ、ゆっくりと飲み始めた。

「…………」

無言でカップを置いた佐々木。

俺は黙って感想を待つ。

味見の段階では中々うまく出来たと思ったが、果たして………。

「………ま、まあまあですわね」

「………そうか」

佐々木は偉そうな口調でそう評価をつけた。

………予想通りの感想だ。

こいつが素直に褒めるはずがない。

「凡人の夢寺サンにしては中々の出来栄えだとは思いますわよ。まあ、わたくしの普段飲んでるミルクティーの足元にも及ばないですけど」

オホホホと笑う佐々木。

人に無償で作らせといて言う台詞とは思えないな。

ということで、俺は仕返しも込めてある事実を言うことにした。

 

 

 

 

 

 

「そうか。それはそうかもしれないな。だってそのミルクティー、野菜洗った時出た泥水で作ったからな」

「なっ!?」

そう言った瞬間、佐々木はもう一度口に含んだミルクティーを吐き出しそうになる。

「冗談、ですわよね…………」

「本当だ。お前にちょっとイタズラをしたくてな。どうだ?泥水ミルクティーの味は」

「し、信じられませんわ!!!この男、わたくしに泥水入りのミルクティーを………」

「まあ嘘だけど」

「………は?」

佐々木は口を開けながらポカンとしている。

「泥水で淹れたっていうのは嘘だ。お前の反応を見たくてな」

「うわあコイツ性格悪ぃ…………」

雷哉が俺を見てあからさまに引いている。

お前にだけは言われたくねえよ戦闘狂。

「…………またわたくしを馬鹿にしましたわね!!!!」

ガチャンと大きな音をさせて佐々木は立ち上がる。

「夢寺蓮!!あなたは許しませんわ!!」

「そんな怒るなって」

「待ちなさい!!」

俺は急いで食堂から出る。後ろから足音と俺を呼ぶ声が聞こえてくる

ので、当然ダッシュだ。

「悪かった佐々木。怒りを鎮めてくれ」

「そう思うのなら止まりなさい!!思いっきりビンタしてやりますわ!」

「ビンタは嫌だな」

…………あんな挑発に乗らなければよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あーあ、行っちゃったねー」

「夢寺様と佐々木様、いつも喧嘩していらっしゃいますけど………いつかトラブルにならないか心配ですね」

「それは心配ねぇだろ。アイツらどう見ても仲いいしな」

「え?ですが常に言い争ってばかりで………」

「てめぇ意外と見てねえんだな、澪。『喧嘩するほど仲がいい』って言葉知ってんだろ?アイツらはそういう関係だ」

「そう、なんでしょうか………」

「おい、さっさと片付けるぞ!皿の枚数が多いんだからテキパキやれや!………おい、あのクソガキはどこ行った?」

「飛鳥はんなら、さっきこそこそ出て行ったのを見たで」

「アイツは後で絶対ブッ飛ばす」

 


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