ダンガンロンパ ルーナ   作:さわらの西京焼き

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お久しぶりです。
約11ヶ月ぶりの投稿です。
こちらの作品も徐々に投稿を再開していこうと思います。





1章 『凡人、吠えないのか?』
(非)日常編①


 

 

 

 

「…………疲れた」

あの後なんとか佐々木から逃げ延びた俺は、本館1階にある大浴場の湯船に浸かっていた。

大浴場は俺達の個室と同じくロック式になっていて、自身のパスポートを入口の機械にかざすと入れる仕組みとなっている。

さっき乃木達が探索の際入れなかったのはまだパスポートが配られていなかったからだ。

ちなみに、当然の話だが異性の大浴場の入口にかざしても入ることは出来ず、かざした瞬間さっきの槍で串刺しにされるらしい。

写実あたりが覗き目的で入る可能性も最初は考えたが、これなら異性の大浴場に入る奴はいないだろう。

 

 

 

 

大浴場はまさにホテルにあるようなもので、湯船とジャグジー、サウナなどがしっかり完備されていた。そして驚くべきは露天風呂が備え付けてあることだ。壁に囲まれているため外の様子は分からないが、天井だけは開放されているため、閉じ込められている俺達にとっては唯一空を見ることが出来る場所となっている。

「…………」

俺はその露天風呂ではなく、中にある普通の湯船に体を沈めながらぼーっと天井を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自身が今とんでもないことに巻き込まれていることを改めて実感する。

何故新入生の俺達が狙われたのか。

モノワニの目的は本当に俺達を絶望させるためなのか。

疑問点は山ほどある。

これを解明することが果たして俺達には出来るのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「…………失礼する………」

すると入口から誰かの声が聞こえた。

振り返ると天草が中に入ってくるところだった。

「天草か。お疲れ」

「………夢寺。済まない、入浴の邪魔をしてしまったか………」

「いや、全くそんな事はない。気を遣わなくて大丈夫だ」

「…………そうか。それならよかった………」

天草は微笑を浮かべると洗い場へと向かった。

俺は特に気にすることなく天井を見上げる。

 

 

 

「………隣いいか?………」

しばらくすると、体を洗い終えた天草が声をかけてきた。

「大丈夫だ」

「………失礼する………」

天草は静かに湯船へと浸かる。

「…………」

「…………」

俺と天草は黙って自分の体を休める。

元々お互い積極的に話すタイプではないため、沈黙もそこまで苦にはならない。

水の流れる音だけが大浴場内に響き渡る。

「………夢寺………」

すると天草が前を見たまま俺の名を呼んだ。

「どうした?」

「…………君は、他の人間と比べて落ち着いているな………」

「いや、そんな事はないぞ。顔に出ていないだけで実際は不安な気持ちでいっぱいだ」

天草に突然そう言われた俺は慌てて否定する。

「………随分と謙虚だな。自分から見れば君がこの中で1番適応しているのは君と思うが」

「そんな事はないと思うけどな………」

どうやら天草は随分と俺を買ってくれているらしい。

 

 

 

 

 

 

 

「…………夢寺に聞きたいことがある。…………君はこの閉じ込められた状況をどう考えている?………」

天草はゆっくりとこちらを向くとそう尋ねてきた。

その目は真剣で、どうやらちゃんとした俺の意見を聞きたいみたいだ。

「俺個人の意見で言わせてもらうなら、正直いつ殺人が起こってもおかしくないと思っている」

俺は素直に今思っていることを伝える。

「…………そうか………」

「モノワニがこのまま俺達を野放しにしておくはずがない。どうにかして俺達にコロシアイをさせるために色々仕掛けてくるはずだ。さらに俺はこの『閉鎖空間』もかなりの懸念材料だと考えている」

「………ストレスになるからか………」

天草の問いに俺は頷く。

「ああ。俺はあんまり詳しくないんだが、閉鎖空間に長時間いると人間は相当のストレスが溜まるらしい。このまま閉じ込められ続ければ、いつか誰かのストレスが爆発してもおかしくない。そこからコロシアイに発展する可能性もある」

「…………成程。ありがとう………」

天草はお礼を言うと湯船から出た。

「…………自分も正直、似たような考えを持っていた。…………しかし大多数の者は殺人など絶対起こらないと考えている。………だから自分の考えすぎなのかと不安になっていたんだ………」

天草は自分だけ心配しすぎなのかと不安になっていたようだ。

「…………君の意見を聞けて少し気持ちが軽くなった。感謝する………」

「天草の力になれたなら何よりだ。お互い警戒しながら脱出の手がかりを探していこう」

「………ああ。これからよろしく頼む………」

 

 

 

 

 

「…………チッ。先客がいたか」

俺と天草が話している時だった。

司が不機嫌そうな表情をしながら入ってきた。

「お前、温泉とか入るんだな」

「なんだその馬鹿丸出しの発言は。俺様が風呂に入ることの何がおかしい」

「いや、ただ意外だと……」

「もういい、今すぐ消えろ。お前みたいな無能と話す時間が勿体ない」

司はそう言うと洗い場へと向かってしまった。

「…………夢寺。何故君はあそこまで司に嫌われているんだ?」

「俺が聞きたい」

あそこまで露骨に嫌われると、流石に悲しい気持ちになる。

理由を聞きたいが、俺の話を聞いてくれるとは思えないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

「………もう朝か」

『絶望亭』に閉じ込められから初めて迎える朝。

俺は目を覚ますと、ゆっくりと伸びをした。

時刻は7時45分。確か8時集合の約束だったのでまあまあギリギリの時間だ。

「…………眠い」

そこで俺は1つあることに気がついた。

体が全く休まっていない。

なんだか体が怠く、眠気が取れていない。

要するに『寝た気がしない』のだ。

やはり環境が急に変わったせいなのか。

「とりあえず食堂に行くか………」

俺は欠伸を噛み殺しながら身支度を整えて食堂へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、はとのお兄さん来たー」

「れんおはよう!!」

「グッドモーニングデス!」

「おはようであります夢寺氏!」

食堂に入ると、既にほとんどの人間が集まっていた。

「おはよう。もしかして俺が最後か?」

「司君と百々海さんを除けば夢寺君が最後だね」

結城が俺の質問に答えてくれた。

他者との馴れ合いを嫌う司とマイペースな百々海だ。

この時間に来ていなくても驚きはない。

意外なのは昨日単独行動をすると言った八尋がいることだが、うんざりした表情を見るにどうやら千尋に無理やり連れてこられたみたいだ。

 

 

 

 

 

 

「あら夢寺サン。今日は寝癖はついてないのですわね。あの面白い髪型、是非今日も見たかったのですが」

偉そうに座る佐々木がオッホッホと笑いながらこちらを見る。

朝からムカつく奴だ。

「今日はちゃんと整えたからな。……それよりも佐々木、人の心配より自分の心配をしたらどうだ?右後頭部に寝癖ついてるぞ」

「えっ!?」

慌てて自分の頭を触る佐々木。

「まあ嘘だけどな」

「………は?」

「寝癖は別についてない」

「ま…………またわたくしを騙しましたわね!!」

「おい佐々木莉央奈!食事前に大きな声を出すな!」

顔を真っ赤にして怒る佐々木とそれを注意する乃木を放置して、俺は雷哉が座る席の向かい側へと腰を下ろす。

「おっす蓮」

「おはよう雷哉」

「オメーなんか顔色悪くねーか?」

「眠りが浅かったみたいだ。お前は?」

「俺はぐっすり寝れたぜ!」

雷哉はケロッとしている。

こいつ、どこでもぐーすか寝れそうだもんな。

 

 

 

 

 

 

「夢寺はん大丈夫なん?」

すると、近くに座る薬師院が心配そうに声をかけてきた。

「ああ。別に体調が悪いわけじゃない。悪いな、気を遣わせて」

「それは全然ええんやけど………。何かあったらちゃんと言わなあかんで」

どうやら本気で心配してくれているようだ。

「分かってる。何かあったらちゃんと周りに言うつもりだ」

「ほんま?」

すると薬師院は、俺の顔を両手で掴んだ。そして自身の顔を近づける。

「なっ!?」

「もし何かあったらうちが看病したるから、声かけてな♪」

顔が近い。ドキドキして自分の顔が赤くなるのを感じる

「………わ、分かったからとりあえず離れてくれ」

「ええー?遠慮せんでもええのにー」

俺は慌てて薬師院から距離を取る。

こいつのスキンシップは心臓に悪い。

「おいおい蓮?顔真っ赤じゃねーか?これはまさか………!」

「うるさい黙れ」

もうお前は喋るんじゃない。

 

 

 

 

 

「全員揃ったみてえだな。ほらどんどん食え」

すると厨房にいた円城寺、天草、綾辻の料理担当組が料理を運んできた。

サンドイッチに目玉焼き、ベーコンにヨーグルト。フルーツまで付いている。

こんな優雅な食事を食べるのは何年振りだろうか。

「ワーオ!とってもおいしそうデース!」

「これ全部3人で作ったのー?凄いねー」

「円城寺様と天草様の手際がとても良くて助かりました」

「…………自分は大したことはしていない。………主に円城寺のおかげだ…………」

「…………別にそこまで言われることじゃねーよ」

円城寺は照れ隠しなのか、そっぽを向きながらそう答えた。

「よし。では全員手を合わせてくれ。号令は私がやろう」

「えー。そんなのいらないよー。勝手に食べればいいじゃーん」

「どんな場所であれ礼儀を大事にするのは当然だ。もしやらないのならそれ相応の私が納得する理由を述べてもらおう。」

「おチビのお姉さんめんどくさいー。じゃあもういいよー」

「誰がおチビのお姉さんだ!!」

「早くしろって。オレ腹減ってるんだよ」

「あ、ああ。そうだな。では手を合わせて………」

「いただきます!!!!」

 

 

 

 

 

 

朝食を食べ終わった俺達は、結城を中心に改めて今後の行動について話し合うことになった。

「じゃあみんな。今後の方針を決めていこうか」

「僕はこれで失礼します」

結城が話し始めると同時に八尋が席を立ち上がった。

「八尋君………どうしても君は1人で行動するのかい?」

「昨日言った通りです。そちらの方が効率がいいですからね。今日も本来ここに来るつもりはありませんでしたが、千尋があまりにもしつこかったので来ただけです」

「…………分かった。そこまで言うならこれ以上は何も言わないよ。けどせめて、食事の時くらいは顔を出して欲しい」

「………はぁ、分かりましたよ。朝食と夕食の時は顔を出します」

八尋は大きくため息をつくと食堂を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんねーみんな。八尋になんかいもみんなといっしょにいよう、っていっだんだけど………」

「彼の行動を強制する権利は私達にはない。彼がそれを拒むのなら無理に一緒にいろとは言えないだろう」

乃木は申し訳なさそうにしている千尋にそう言うと、結城の方を改めて見た。

「それよりも結城晴翔。今後の方針を決めることを優先すべきだろう」

「…………そうだね。昨日も言った通り、僕達の当分の目標は2つ。ここを脱出するための手がかりを探すこと。そしてコロシアイを阻止することだよ。僕はここのみんなが殺人を犯すなんて微塵も考えてはいないけど、念のためモノワニには引き続き警戒しておく必要があると思うんだ」

「警戒つってもよー。一体どうすんだ?」

「僕はとりあえず、1人でいる時間を極力減らすべきだと思う」

雷哉の質問に結城はそう返す。

「1人でいる時の方がモノワニは仕掛けてきやすいと思うんだ。だから警戒のため、特に夜はあまり単独で行動しないようにしよう」

「賛成だな。探索の際はツーマンセル、もしくはスリーマンセルで行動するようにするべきだ」

結城の意見に乃木が賛成する。

確かに複数人で行動した方が危険は少ない。

万が一殺人を企てている人間がいたとしても、誰かにバレてはいけないというルールがある以上、他に人がいれば起こらないだろう。

「まあ、それが1番確実ですわね」

「他に方法が思いつかないであります」

「ひとまずはそれでいいんじゃねぇの?またなんかあったら対策考えりゃいいわけだしな」

他の人間も結城の意見に同調する流れだ。

俺もその意見には賛成だし、特に他に意見もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でもさー。結局それって無駄だと思うんだよねー」

そんな中、飛鳥が退屈そうにそう発言した。

「無駄、とはどういうことかな?」

「んー?ボク思うんだけどー、いつかは絶対殺人は起きるよー」

「え?」

飛鳥の発言に、全員が顔を見合わせる。

「飛鳥さん。根拠のないことを言ってみんなを不安にさせちゃダメだ」

結城が真剣に、かつ少し怒ったような口調で飛鳥に話す。

しかし飛鳥はそれを気にも止めず、

「いやーだってさー、誰かを殺さないとここから出られないんだよー。ならいつかは殺人が起きるに決まってるじゃーん」

「僕達はまだ高校生だよ。そう簡単に誰かを殺すなんて決断をするはずがない」

「それは甘いよー。人間追い込まれたら子供だって人を殺しちゃうよー。ボクはそれをよく知ってるからねー」

そう語る飛鳥は、口では笑っていながらも目は全く笑っていなかった。

その目には…………深い闇が宿っているように見えた。

 

 

 

 

 

 

「ハッ、まるでてめえが実際に追い込まれて人を殺したことがあるみたいな言い草だな」

「さてー、それはどうでしょー?もしかしたらボクは……」

「もういい。その話は終わりだ」

飛鳥が話を続けようとした時だった。乃木が有無を言わさぬ口調でそれを止めた。

「飛鳥圭。君の言いたいことは分かった。だが少なくとも今すべき話ではなかったな。さっき結城晴翔が言った通り、いたずらに他者の不安を煽るべきではない」

「えー?だってボク事実を言っただけじゃーん。何か間違ったこと言ったー?もし間違ってるっていうならどこが間違いか教えてくれるかなー?」

「いや、君の主張は正論だ。だが、正論が常に正しいとは限らない」

「……………………」

乃木の言葉に飛鳥は黙る。

「とにかくだ。私達はモノワニの目論見通りお互いに殺し合うことだけは絶対に避けなければならない。その為には私達生徒が一致団結することが大切なのだ。そして全員無事にここから脱出する方法を模索する。精神的に追い詰められる前に、だ」

「のんびりしている暇はないが、まだ焦る時でもない。じっくりこの建物を探索すれば、いつか脱出の手がかりが見つかる筈だ」

乃木は全員にそう呼びかける。

飛鳥の発言で一時どうなるかと思ったが、乃木のお陰でこの場は収まった。

各々不安は抱えているとは思うが、諦めている様子ではなさそうだ。

このまま協力していけたらいいが…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おう、蓮。暇そうだな」

昼過ぎ、食堂に飲み物を取りに来ると、厨房にいた円城寺に声をかけられた。

「まあ、暇と言われたらそうかもしれない」

「なんだよその曖昧な返事は。……まあいい、ちょっと付き合えや。今日の晩飯の仕込みをこれからするんだが、一人だと面倒でな。人手が欲しかったんだよ。本来なら澪や京介に頼みてえんだが、アイツらどこにいんのか分かんねえんだ。だからちょうど見かけたてめえに声をかけたんだ」

「手伝うのはいいが、俺はお前ら程料理は上手くないぞ」

「別に難しいことは頼まねーよ。野菜を切ったり混ぜたりするだけだからな」

「分かった。俺で良ければ手伝おう」

特に用事もないしな。

「よし、じゃあ早速やるぞ」

俺と円城寺は厨房へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよ、てめえ意外と料理出来るんじゃねーか」

言われた通り、野菜を次々と切っていると円城寺に突然そう声をかけられた。

「野菜を切るだけなら誰にも出来る気がするんだが………」

「それすら出来ねえ奴もいるんだよ。例えばあのクソガキとかな」

「クソガキって………飛鳥のことか?」

「アイツ以外いねーだろ」

クソガキって…………。

俺達一応同級生なんだが。

「実際に野菜を切らせたのか?」

「ああ。そうしたらあの野郎、食材を押さえずに相当高い位置から包丁を振り下ろしやがったんだ。危なっかしくてしょうがねえ」

「想像しただけでゾッとする話だな」

いくら包丁の使い方が分からないとはいえ、そんな方法で切られたら見ている方もヒヤヒヤするだろう。

「だからアイツは真っ先に出禁にした。他にも厨房に入れたくねー奴は何人かいるけどな」

「妥当な判断だと思う」

「だろ?………まあいいや、とにかく作業を終わらすぞ。こんなのに時間かけてもしょうがねえんだからよ」

「分かった」

それから俺達は淡々と作業を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪ぃな、手伝ってもらっちまって。お陰で終わったぜ」

「ああ。よかった作業が終わって」

作業が全て終了した後、俺達は食堂でくつろいでいた。

テーブルには円城寺に淹れてもらったコーヒーが置いてある。

「本当は礼でもしてえんだけどよ、こんな場所じゃ何も出来やしねえ」

「別に気にしなくていい。大したことはしてないからな。…………そうだ、じゃあ円城寺の話を聞かせてくれないか?」

「あ?俺の話?」

「ああ。せっかく同級生になったんだ。こんな状況だが、俺は他の生徒と仲良くなりたいと思っている。そのためには相手がどのような人間なのか知る必要があるからな」

「…………なるほどな」

円城寺はコーヒーを飲み干すと、静かにこちらを見た。

「別にいいけどよ………1つ条件がある。俺がここに入学することになった経緯は話したくねえ。それでもよければてめえが聞きたいことは何でも答えてやるよ」

「分かった。それで構わない」

確か自己紹介の時言っていたな。『論文を無許可で出された結果超高校級に認定された』って。あの時の円城寺は相当怒ってた様子だったし、踏み込まれたくない事情があるのだろう。なら無理に聞く必要はない。

 

 

 

 

 

 

 

「で?何から聞きてえんだ?」

「そうだな………まずは普段、円城寺がやっていたことについて知りたい。オカルト研究、と言われても正直あまりピンと来ないんだ」

「普段つってもな………。蓮、てめえの中学には『学校の七不思議』みてえなのはあったか?」

「七不思議か………。『3階東のトイレには夜中、いじめられて自殺した生徒の霊が出る』みたいなのは聞いたことがある」

「そう、まさしくそれだ。俺が研究してたのは」

「七不思議についてってことか?」

「他にも色々やってたけどな。まあつまり、日本古来の『怪談』とか『心霊』を俺は専門としてるんだ」

「なるほどな…………」

トイレの花子さんとか、ろくろ首などの俺達がよく知る妖怪とかも対象になるのだろうか。

「『お化けや幽霊なんているわけない』なんて言う奴はごまんといる。けどな、俺から言わせてもらうと霊は確実にいる」

空っぽのカップを見つめながら円城寺は言う。

「今の時代は科学技術の進歩で次々と心霊現象否定派が現れている。俺みてえな幽霊信じる派にとっちゃ敵ってわけだ。だが、俺は霊を否定することは生涯無い。必ず霊がこの世に存在することを証明してやる。それが俺がオカルト研究に没頭する理由だ」

 

 

 

 

 

「そこまで霊がいると証明したいという事は…………円城寺、お前は過去に霊に会った、もしくはそれに近い体験をしたことがあるのか?今の話から円城寺の霊の存在に関する強い意志を感じるんだが」

「…………」

俺がそう話を振ると、円城寺は一度口を閉じた。そして一瞬考え込む様子を見せると、

「………まあてめえには話してもいいか。いいか、笑うんじゃねえぞ」

「笑う………?」

言葉の意味がよく分からず聞き返す。

 

 

 

 

 

 

 

「俺は昔、霊と妖怪に命を救われた」

「………ん?」

「前に言ったかもしれねえが、俺は山奥にある寺出身なんだよ。ガキの頃、俺は修行が嫌で脱走して寺の周りをうろついていた。夜の、しかも山奥だから当然足元も真っ暗で何も見えやしねえ。だから俺は足元の根に気が付かず引っかかった。んで、転んだ先には崖があった。………何が起きたか分かるだろ?」

「……崖から落ちたのか」

普通に考えたら、子供が崖から落ちて助かる可能性は低い。

だが、円城寺は今もここにいる。

「ああ。下には大きな川が流れてた。だから川まで真っ逆さまだ。当然俺は死を覚悟した。けど…………気がついたら俺は廃屋にいた。そして側には座敷童みたいな奴と沢山の幽霊がいたんだ」

「…………」

「何がなんだかさっぱり分かんなかったが、そいつらに助けられたってのはガキの俺にも理解出来た。そいつらは俺が目覚めたのを確認すると、姿を消した。あまりにも突然すぎて夢かと疑った程だぜ」

「………円城寺はその後座敷童たちとは会えたのか?」

「………会えてねえよ。だから俺は今もそいつらを探している。霊や妖怪がいるって証明になるし、何よりそいつらに礼を言いたいからな。助けてくれてありがとうってな」

ここに来て1番の笑顔で答える円城寺。

円城寺にとって、霊とは身近な存在であり、自分を救ってくれた恩人でもあるわけか。

 

 

 

 

 

 

 

「だから俺は命を救ってくれた霊を非科学的だと切り捨てる奴らに吠え面かかせたいってわけだ。………あんま面白い話じゃねえだろ?」

「いや、円城寺の霊に関する話を聞けて良かった。ありがとう」

「………礼を言われるようなことじゃねえよ」

照れ隠しなのか、また顔を背けた。

どうやら恥ずかしくなると顔を逸らすのが癖のようだ。

口は悪いが、面倒見が良く、義理堅い。

この一時で円城寺のことをよく知ることが出来た。

「じゃあついでだ。てめえの話も聞かせろや」

「俺の話か?」

「『マジシャン』なんて珍妙な肩書き持ってんだ。興味持つなって方がおかしいだろ」

珍妙か………。他の人にもそう思われているのだろうか。

「………大した話は出来ないぞ」

「気にしねえよ。俺が聞きてえだけなんだからな」

その後、俺は円城寺と才能や境遇について色々語り合ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食後、俺は大浴場で一緒になった結城と雑談を交わしていた。

「なるほど、夢寺君はそんな理由で希望ヶ峰学園に来る事になったんだね」

「ああ。他の新入生に比べたら大した理由なんてないんだ。まさか俺みたいな凡人がこんな場所に来れるとは思ってもいなかった」

「そんなことはないよ。希望ヶ峰学園に入学出来るって事はつまり、夢寺君のマジシャンとしての才能が認められたってことなんだよ。だから誇っていいと思う」

俺の否定的な意見に対しても結城は笑顔でフォローしてくれる。

………眩しい。眩しすぎる。

イケメンな上に優しいなんて、日陰者の俺とはまさしく対極の存在だ。

そして個性豊かな生徒達と比べて結城は非常に常識人であり、いい意味で普通の人間だ。

だから話す時も気を遣わずに済む。

とても気が楽だ。

「さて、そろそろ僕は上がるけど、夢寺君はどうする?」

「………俺も上がるよ。これ以上いるとのぼせるからな」

「そうだね。………そうだ。よければこれから食堂に行かないかい?厨房でさっき美味しそうな飲み物を見つけたんだ」

「一緒に行こう。ちょうど喉も乾いてるしな」

そんな話になり、着替えて食堂へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どれにしようかな〜〜〜〜。う〜〜ん、これでいっか〜〜」

俺達が厨房に入ると、誰かの間延びした声が聞こえた。

見なくても分かる。声の主は絶対あいつだ。

「こんばんは、百々海さん」

「あれ〜〜〜?晴ちゃんと蓮ちゃんだ〜〜。何しにきたの〜?」

「僕達は飲み物を取りに来たんだ。百々海さんもかい?」

「まあね〜〜。あ〜!もしかして晴ちゃん達が探してるのってこれ〜〜?」

百々海はそう言って手に持っているペットボトルを見せてくる。

そこには『フルーティスカッシュ』と書かれていた。

「奇遇だね。僕達もそれを飲もうと思ってきたんだ」

百々海の言う通り、結城のお目当ての物はこれのようだ。

「百々海は飲んだことあるのか?」

「ないよ〜〜〜。だから今から試すところ〜〜」

百々海も初挑戦らしい。

名前を見る限り美味しそうな感じはするが………。果たしてどうだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃああーし部屋戻るね〜〜〜」

「あ、待って百々海さん!」

目当ての物が手に入って満足そうに部屋に戻ろうとする百々海。

それを結城が呼び止めた。

「な〜〜〜に〜〜?」

「僕達、今から食堂で雑談しながらこれを飲むつもりだったんだけど、よかったら百々海さんも一緒にどうかな?親交を深めるいい機会だと思うし」

結城の誘いに百々海は足を止める。

百々海は前に自分でも言っていたが、かなりの気分屋だ。

その時の気分によって行動を大きく変える。

俺と初めて会った時のように親しく話してくれる時もあれば、団体行動が面倒という理由で交流を避け単独行動に出る時もあった。

さて、今は果たしてどっちなのか………。

 

 

 

 

 

「いいよ〜〜〜」

しかし百々海は、特に悩む様子もなくオッケーを出した。

「本当?良かった、てっきり断られるかと思ったよ」

「ま〜一瞬悩んだけどね〜〜〜。でも今は気分的に誰かと喋ってもいいかな〜って感じだし〜〜。それに蓮ちゃんと晴ちゃんってこの中だとまともな方だしいいかな〜〜って」

「ははは………それは褒められてるってことでいいのかな?」

どうやら百々海にとって俺達は話しやすい相手として認識されているようだ。

確かに個性的なメンバーが集まってるからな。その気持ちはよく分かる。

 

 

 

 

 

「じゃあまず〜〜このジュースをみんなで飲みましょ〜〜〜」

「そうだね。じゃあ、いただきます」

席に座った俺達は、本来の目的であるこの飲み物を味わってみることにした。

「………美味いな、これ」

一口飲んだ俺は、思わずそう呟いてしまった。

想像の上をいく美味しさだ。

果実の甘さと炭酸が絶妙にマッチしている。

「なんかこれ微妙じゃな〜〜〜い?」

「……そうだね。僕の想像していた味とは少し違ったかな」

だが、2人は俺と違った感想のようだ。

「そうか?俺的には結構美味しんだが」

「えええ〜〜〜?蓮ちゃんもしかして味オンチ〜〜?」

「いや失礼な」

味オンチ………。そこまで言われるとは。

「ま、まあ夢寺君が満足してくれるような味なら勧めた僕としては何よりだよ」

結城は百々海の発言に苦笑いしながらそうフォローしてくれる。

「俺はこれからも飲もうかな」

「あーしはもういいや〜〜」

「僕も………もう十分かな」

………人の好みって色々なんだな。よく分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でね〜〜〜、あーしその教師に言ってやったわけ〜〜。『人のことよりまずは自分のその禿頭をなんとかした方がいいんじゃないか』ってね〜〜」

「まさか生徒にそんなことを言われるとは教師も思ってないだろうな」

「そうそう〜。そいつ、顔真っ赤にして怒っててさ〜。全速力で逃げてやったよ〜〜」

「百々海さん、中々やんちゃだったんだね……」

あの後、俺達は雑談に花を咲かせていた。

百々海は一度喋り出すと止まらないらしく、ずっと口を動かし続けている。

あそこまで喋って尚話し続けられるなんて、これも一種の才能なんじゃないかと思ってしまう。

「そうだ。百々海と結城に聞いてみたいことがあるんだが」

俺は折を見て2人に質問を投げてみる。

「ん〜?どしたの蓮ちゃん〜〜?」

「無理に話さなくてもいいんだが、百々海なら水泳、結城ならバトミントンを始めたきっかけとかあるのか?」

「きっかけ、か………」

結城は少し考え込む様子を見せる。

だが、百々海は即答だった。

 

 

 

 

 

「あーし?あーしはなんか無理矢理中学校の教師に勧誘されてね〜。そこから水泳始めたって感じかな〜」

「その教師っていうのは前大会に出場させられた、って言ってた時の………」

「よく覚えてるね〜。そうそう〜、あーしがダルいって言ったのに無理矢理やらされてさ〜。本当に頑固なオッサンだよ〜」

百々海はうんざりという風にため息をついた。

「百々海は実は水泳は好きじゃないってことか?」

「う〜〜〜ん。最初はダルいし疲れるしで嫌いだったけど、今はそうでもないかな〜〜」

いつもは気だるげな表情の百々海だが、今はとても穏やかな表情だ。

「水の中泳いでると気持ちいいし〜〜。それにぷかぷか浮いてると世の中のダルいこと全部忘れられるんだよね〜〜〜」

「そうか………。ならその教師には感謝しないとな」

「…………まーそーだね〜。ちょっとくらいは感謝してもいいかな〜」

口では悪く言うものの、実は感謝の気持ちを忘れてはいない。

それが百々海なりの敬意の表し方なのかもしれない。

 

 

 

 

 

「羨ましいよ。そんな人が身近にいたなんて」

俺達の話を黙って聞いていた結城はそう言った。

「けど結城の所属していた部活にも顧問はいたんじゃないのか?」

「うん、いたよ。けど顧問としては、その、あんまりちゃんと見てくれなくて」

「いるよね〜そういうやつ〜」

確かに俺の中学(転校前)もそんな感じの教師ばかりだった。

まあ治安が悪かったし、それは仕方のないことだが。

「そうか。だから結城が部活を仕切らなくちゃいけなかったのか」

「そうなんだ。夢寺君には前話したと思うんだけど、僕は別にバトミントンが上手なわけじゃないんだ。運動神経もそこまで良くないし、自分より上手い人なんて部内に沢山いたんだよ。けど、いくら上手な人がいても部をまとめる人がいなければチームとしては強くなれない。バトミントンは最大2人だけど、団体戦じゃ部で団結する必要がある。だから僕がその役を顧問に代わってやっていただけなんだ。僕自身は希望ヶ峰に呼ばれる程凄いことは成し遂げてないんだよ」

「だが、結果結城のお陰でチームは優勝した。それは間違いなく結城の手柄だ誇っていいと思う」

俺は前も言ったことを結城に伝える。

「キャプテンとしてチームを引っ張ったんでしょ〜?なら晴ちゃんが希望ヶ峰に呼ばれるのは当然じゃな〜い?」

百々海も俺に続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ありがとう」

結城は笑顔で俺達にお礼を言った。

その顔は、どこか吹っ切れたような風に見えた。

「希望ヶ峰学園に入ることになってから、ずっと考えていたんだ。自分には相応しくない。辞退すべきじゃないかってね。けど、結局辞退せずにここまで来てしまった。それをずっと後悔していたんだけど………。2人の話を聞いて決断したよ。僕は部員のみんなの思いを背負って希望ヶ峰学園で学ぶ。そして立派になって卒業する。それが選ばれた僕の使命だから」

結城は決意した。

自分が選ばれた意味をしっかり噛み締め、そして部員に恥じぬような人間になり卒業することを。

「そうか。じゃあこんな場所からとっとと脱出しないとな」

「そうだね。夢寺君の言う通りだ」

「あーしもそれには同意〜。だってここ狭くて息苦しいも〜ん。それにプールないから泳げないし〜。………あ、温泉で泳げばいいか〜」

「いや温泉で泳ぐのはマナー違反だろ………」

「まあ、誰もいなければ少しはいいんじゃないかな………」

こうして、俺達3人は仲を深めることが出来た。

 

 

 

 

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