次の日の朝。
「………眠いな」
起き上がった俺はそう呟く。
相変わらず寝た気がしない。
環境が変わると途端に寝れなくなる体質の人が一定数存在する、というのは知っていたが、まさか自分もそれに当てはまるとは。
「枕のせい………ではないよな?」
使っている枕を触りながら俺は思案する。
枕が変わると寝れないというのはよく聞く話だ。
俺の母親もそうだと前言っていた。
「とにかく、ここで数日間過ごすことになる以上どうにかしないとな」
この環境に慣れる、というのは良くないかもしれないが、少なくとも十分な睡眠がとれるように問題点を解決しないといけない。
俺はぼーっとする頭を無理やり切り替え、食堂へ行く準備を始めた。
「おはよう、夢寺蓮」
食堂に入ると、食事を運ぶ乃木に挨拶された。
「おはよう」
「随分と眠そうだな。ちゃんと睡眠は取れているのか?」
「いや、それが全然………」
「だろうな。目に隈が出来てるぞ。大丈夫か?」
乃木は本気で俺を心配してくれているようだ。
「大丈夫だ。慣れたら寝れるようになるさ」
「そうか。困った事があったら何でも言ってくれ。私も出来る限りの範囲で力になる」
そう言って乃木は運ぶ作業を再開した。
…………誰に対しても気を配り寄り添おうと努力している。
簡単に出来ることじゃないな。
「みんな、食べながらでいいんだけどちょっと話をきいてもらえないかな?」
いつも通り朝食をみんなで食べていると、結城が突如そう言い始めた。
「どうしたんだよ?」
「昨日乃木さんとも話し合ったんだけど………今日みんなでパーティをしない?」
「パーティ、ですか?」
綾辻が首を傾げる。
「うん。一応ここに閉じ込められて3日目だけど、まだみんなと中々距離を縮めることが出来てないと思ってね。パーティを開いてもっと親睦を深めたいなと考えたんだ」
「僕は不参加で」
すると八尋が速攻で不参加を表明した。
「一刻も早くここから脱出したいのに、呑気にパーティなんてする暇ありませんよ。そもそも、こんな状況でパーティをしようなんていうそのお気楽な考えが僕には理解出来ませんがね」
「北桜八尋、君の考えも理解は出来る」
それに反応したのが乃木だ。
「しかし、ここから脱出するには全員が協力することが大切だ。このパーティは私達の団結力をより強固にし、黒幕と闘う力をより強めるいい機会だと私は思う。それは君にとっても悪い話ではないだろう?」
「………だとしてもです。僕はそういった大人数での馴れ合いが嫌いなんですよ。だから不参加で…………」
「だめだよ!!八尋もさんかするんだよ!」
それでも参加を渋る八尋に対し、千尋が耳を引っ張って参加を強要。
「………なんですか、千尋。痛いんですけど」
「八尋がさんかするっていうまでやめないから!」
「………はぁ、分かりましたよ…………参加するから離してください」
「わーい!!これで八尋もさんかけってーい!」
「凄えな………あの八尋を参加させちまった」
やはり兄妹である千尋が八尋の扱いを一番よく分かっているようだ。
「じゃあここにいるみんなは参加ということでいいかな?」
「おう!蓮ももちろん出るよな?」
「ああ」
本当は俺もパーティみたいな騒がしいのは好きではない。
だが、同じ超高校級の生徒と仲良くなれる貴重な機会だ。
参加してみるのも悪くない。
「………決まりだな。では朝食後、早速準備を始めようか。場所はどうする?結城晴翔」
「宴会場でいいんじゃないかな。場所も広いし」
「そうだな。では次に役割分担だが、こちらで事前に決めさせてもらった」
乃木は事前に決めていた班割りを発表した。
料理班 天草 綾辻 円城寺 桃林 百々海
飾り付け班 飛鳥 写実 薬師院 八尋 千尋 佐々木
掃除班 風神 ハルク 夢寺 結城 司
総指揮 乃木
「一応開始は今日の18時頃を予定してるんだ。だからそれまでに準備を終わらせられるようにしよう」
「おい待て。あの眼鏡と真凛も誘うのか?」
円城寺が質問する。
「ああ。2人だけを仲間外れにするわけにはいかないからな。当然誘うさ」
「司氏は十中八九来ないと思うでありますが………」
「百々海はんはもしかしたら来てくれるかもしれへんなぁ」
「そこは私に任せてくれ。じゃあみんな、急で申し訳ないがよろしく頼む」
というわけで、急遽パーティに向けた準備をすることになった。
「で、何でオレ達が掃除係なんだよ!?」
掃除班に配属された俺と雷哉、ハルク、そして結城の4人は早速掃除に取り掛かっていた。
掃除班として与えられた仕事は2つ。
1つは会場である宴会場を徹底的にキレイにすること。
もう一つは料理班が作った料理を宴会場に運ぶことだ。
しかし今、料理班が料理を作り始めたばかりでまだ出来てない為、俺達が出来ることは掃除しかない。
「えっと、多分料理を運ぶ以上力のある人が必要だって乃木さんは考えたんじゃないかな」
「喧嘩屋サン!力を合わせて頑張りマショウ!!」
「文句言わずにやれよ。お前だけ食事抜きになるぞ」
「それは嫌だ!!!」
飯の話をした途端、雷哉は大雑把な手つきで掃除を再開した。
「ケド、水泳部サンと秀才サン来てくれるデショウカ?」
「ケッ!司のヤローは絶対来ねーよ。というか来るんじゃねー。あんな奴顔も見たくねーよ」
「そんな冷たい事言ったら駄目だよ。僕達は同じ新入生で仲間なんだから」
「そうデスヨ!みんな仲良くしまショー!」
憎まれ口を叩く雷哉に対し、結城はやんわりと注意し、ハルクもそれに同意する。
俺は黙っていたが、正直気持ちは雷哉と同じだった。
こっちは仲良くしたい気持ちはあるのに、相手がそれを拒否しているのだから放っておいてもいいとは思う。
それに、何故か俺は異常なまでに司に嫌われている。
出来れば関わりたくないんだよな………。
「わーったよ。で?百々海はどうなんだよ。アイツこういう集まり『ダルい』とか言って来ねえんじゃねーの?」
「百々海さんは来るかどうかは正直、僕にも分からない。けど、きっと来てくれると信じてるよ。夢寺君はどう思う?」
「そうだな。きっとあいつは来るさ」
「んだよ。何でオメーらそんな自信あるんだよ」
俺と結城は顔を見合わせ、笑みを浮かべた。
昨日の百々海の様子から何となくそう感じただけだ。
結城もきっとそうだろう。
「よし。一通りは終わったね」
掃除を始めてから30分程。
宴会場はだいぶ綺麗になった。
「よっしゃ!じゃあ掃除は終わりだよな!なら食堂に行くぜ!オメーら行くぞ!!」
「ワターシも行きマス!お腹ペコペコデース!」
雷哉とハルクはダッシュで食堂へと行ってしまった。
「いちいち騒がしくしないと気が済まないのか、あいつら」
「ははは………。元気があっていいことだよ」
俺と結城は呆れながら食堂へ向かって歩き始めた。
食堂に入ると、食欲をそそられるいい匂いが漂ってきた。
「おし、じゃあ澪。この料理盛り付けてくれや。それから京介。てめえはそこの野菜切っといてくれ」
「承知しました」
「………分かった………」
「ねえ霊ちゃ〜〜ん。お皿持ってきたよ〜〜〜」
「おう。じゃあそこらへんに置いといてくれや」
「わ、ワタシはこれからどうすれば………」
「だからさっき言っただろうが!てめえは後で使う調味料カウンターに出しとけ!!」
「そ!そこまで怒る必要ないだす!わ、ワタシが嫌いだからってなんでそんな強く当たるだす!!」
「てめえが何回言っても覚えねえからだろうが!!」
円城寺の指示で続々と料理が作られているようだ。
そして百々海もちゃんと来ていた。
表情からして嫌々やってるわけではなさそうだ。
たまに『ダルい』と口走っているようだが。
「円城寺君。何か手伝うことはないかな。一応掃除は一通り終わったから」
「晴翔か。それはありがてえな。じゃあコップとか先に会場に持ってってくれ。こっちは今準備に手が回らねえんだ」
「分かったよ。よしみんな、じゃあ分担してやろう」
「おい円城寺〜!オレ腹減ったよ〜。なんか食わせてくれ〜!」
「ワターシもお腹ペコペコデース!!」
「ああもううるせえ!!そこにある料理つまみ用だからそれでも食っとけ!!」
「やったぜ!!」
「イタダキマース!!」
雷哉達がこう言うのを予め予想してたのか。
流石円城寺だ。
「百々海も来たんだな」
俺はコップを持ちながら百々海に声をかける。
「まあね〜〜〜。なんか断ると環ちゃんにしつこく勧誘されそうだし〜、それならダルいけど参加した方がマシかな〜って」
どちらにしろダルいのかよ。
「でもちょっと手伝ったら美味しい物にありつけるんだからお得だよね〜〜。蓮ちゃんもそう思わない〜〜〜?」
「それは一理ある」
正直俺も、心の中で円城寺達が作るパーティ料理を心待ちにしている。
「じゃあ後でな」
「うん〜。蓮ちゃんも労働頑張ってね〜〜〜」
「夢寺君。飾り付け班の様子を見に行ってくれないかな?」
「俺か?」
着々と会場のパーティの準備が進む中、結城にそう頼まれた。
「うん。どうやら料理の運搬は僕達3人で十分みたいだから。だから夢寺君には他の班のヘルプに行って欲しいんだけど……」
「分かった。行こう」
「ごめんね、じゃあよろしく」
「戦力外通告かよ、蓮!まあオレの方が力あるし当然だよな!」
「うるせー」
力こぶを見せつけ露骨に筋肉をアピールするバカを無視して、俺はまず飾り付け班の所へと行った。
どうやら結城によると、飾り付け班の準備は薬師院の個室で行われているようだ。
俺は個室前に着くと、軽くノックをして
「夢寺だ。入ってもいいか?」
「夢寺はん?どうしたん?何かあったん?」
「いや、こっちの班の様子を見に来たんだ」
「そうなんや。そういうことなら全然入ってええよ」
無事許可を貰えたのでドアを開けて中に入ろうとする。すると………
「うわっ!?」
中に入った瞬間だった。上から何かが大量に俺に降り注いできた。
俺は思わず叫び声をあげ、その場から後ずさった。
「何だこれは…………って、紙?」
地面に落ちてる物をよく見ると、ただの紙ゴミだった。
「あははははははは!!引っかかったー!」
飛鳥が俺を見て大笑いしている。
「……お前の仕業か」
「そうだよー。最初に入ってきた人の上にゴミが降り注ぐ罠を仕掛けといたんだー。はとのお兄さんのリアクション素直で面白かったー」
「……………」
ケラケラ笑う飛鳥に俺は思わずため息をついてしまった。
「ごめんなぁ。うち、正直入ってきた人のリアクションが気になって止めなかったわぁ」
薬師院が作業をしながらふふと上品に笑う。
「某も全く同じであります。その点で言えば夢寺氏は某らの期待に応えたという事になりますな」
「れんのびっくりしたかおすごかったよー!」
「おほほほほ!無様な姿でしたわよ、夢寺サン!元々の間抜け面が一層間抜けになってましたわ!」
「…………はぁ」
薬師院、写実、千尋が笑う中で黙々と作業を続ける八尋。
いや、お前も止めてくれよ………。
後佐々木は黙れ。
お前のその笑い方ムカつくんだよ。
「それで?今は何を作ってるんだ?」
「 今は宴会場に飾るもんとテーブルクロスを作ってるんや。この建物にはどうやらテーブルクロスはないみたいやったから、適当な布使ってそれらしいやつを見繕おうかなと思ってな」
どうやら薬師院がテーブルクロスを、他の4人が折り紙を使った飾り付けを作成しているようだ。
「何か手伝う事はあるか?掃除班は人手が足りてるらしくてな、他の場所の手伝いに行ってくれと結城に頼まれたんだ」
「あらそうなん?なら飾り付け作るの手伝ってもらってもええ?」
「分かった。みんなの真似して作ればいいんだよな?」
「そこに完成品があるから、それ真似して作ってもらえばええよ」
という事で、俺は飾り付け作成の手伝いをすることになった。
「へー。はとのお兄さん器用なんだねー。超うまいじゃーん」
作り始めて数十分。飛鳥が俺の手先を見てそう言ってきた。
「むしろ俺は不器用な方だけどな………それに飛鳥こそ相当手早いだろ」
飛鳥の前には出来上がった飾り付けが大量に積んである。
才能が『スリ』だしやっぱ器用なんだな。
「まあねー。ボクの器用さは生まれつきなんだー」
「そうなんだな。……………それに対してお前は…………」
「な、何ですの!わたくしに何か文句でもあるんですの!!」
飛鳥の隣に座る佐々木は、尋常じゃないくらい不器用だった。
飛鳥の倍以上の時間をかけ、やっと出来たものはぐちゃぐちゃの非常に見栄えの悪いものであった。
「お前、予想以上に不器用なんだな………」
「う、うるさいですわね!このわたくしが不器用なわけないじゃないですの!!舐めた口を聞かないでくださいまし!」
「その作品がお前の不器用さを物語ってんだよ。………手伝うか?」
「絶対アナタにだけは頼みませんわ!きっと弱みを握ってまた失礼な事をしてくるに決まってますわ!」
バレたか。普段馬鹿にされてる仕返しをしてやろうと思ってたんだが。
「…………………そんな事するわけないじゃないか」
「何ですのその間は!?今絶対考えてましたわよね!?」
「うるさいですよ。口より手を動かして下さい」
八尋がチッと舌打ちしながら俺達を睨む。
「ただでさえ遅れがちなのに、下らない口喧嘩でさらに遅らせるつもりですか?夫婦喧嘩なら他所でやって下さい」
『『誰が夫婦喧嘩』』「だ」「ですわ!!」
「みんなたのしそうでいいね!千尋もすっごくたのしい!!」
よく分かってない千尋は笑顔で俺達の様子を見守る。
「グヘ………よし、全員の注意が夢寺氏に集まっている間に女性陣のパンツをこのカメラに………」
「写実はん?ぜえんぶ聞こえとるよ?」
「………すみません、何でもありません」
そしてテーブルクロスと飾り付けが完成した。
俺達はそれを会場へと運んでから飾り始める。
地味な宴会場がどんどん華やかになっていくのを見るとテンションが上がってくる。
「みんな、会場の準備は順調か?」
すると乃木が宴会場に姿を見せた。
「あれー?おチビのお姉さん今までどこにいたのー?」
「誰がおチビのお姉さんだ!………司拓郎の元へ行っていた。なんとか誘おうとしたのだが、断られてしまった」
「………だろうな」
99.99%参加しないだろうとは思っていたが。
「まあまあ、本人が嫌がってるなら無理強いせんでもええと思うで」
「………そうだな。よし、じゃあ私も手伝おう。何かやるべき事はあるか?」
「ほんま?ならテーブルクロス敷くの手伝ってくれへん?」
「勿論だ」
乃木は頷くと薬師院と一緒に準備に取り掛かり始めた。
「ほらほら!料理が出来上がってきたぜ!!」
「美味しそうなご飯たくさんデース!!」
すると雷哉とハルクが料理を続々と運んできた。
唐揚げ、フライドポテト、ローストビーフ、ポテトサラダ、パエリアなどの定番料理に加え、なんと七面鳥の丸焼きまである。
「わーい!!おいしそう!!!ちょっとたべてもいい?」
「ダメだ!オレだって我慢してるんだからな!」
偉そうにそんな事を言う雷哉。
おい。じゃあその口元に付いてるソースは何だ。
この嘘つき野郎。
「よし、じゃあこれで全部か」
そして全ての料理が運び込まれ、円城寺達料理班も合流した。
時間は17時30分。
「お、おい蓮。もう食ってもいいか………?」
「あと少し待て」
今にも涎が垂れそうな雷哉を止め、俺は開始の合図を待つ。
「じゃあ乃木さん。ちょっと早いけどそろそろ始めようか」
「そうだな。………よし、みんな聞いてくれ!」
乃木はよく通る大きな声で話し始めた。
「私の急な提案に協力してくれた事、感謝する。お陰で定刻より少し早いがパーティを始めることが出来た。私はこのパーティでもっと同級生である君達と交流を深めたいと思っている。そしてモノワニのような悪党に負けず、全員でこの場所を脱出しよう」
「勿論だぜ!」
雷哉が乃木に負けじと大声で応える。
「長々と話してもしょうがないからな。挨拶はこれくらいにして、今日は楽しもう。乾杯!」
「乾杯!!!」
そして、楽しいパーティが始まった。
「………ふぅ」
パーティが始まって1時間が経過した。
俺は宴会場の端っこで一息ついていた。
最初は雷哉と話していたが、あいつは他のテーブルの料理を求めてどっか行ってしまった。なので何人かと雑談しながら料理を食べていたが、少しお腹が苦しくなってきたので端に移動してきたわけだ。
俺はぼーっとしながら全員の様子を見る。
写実の料理にタバスコを仕掛ける飛鳥と、それを注意する円城寺。そして見事にそれを食べて絶叫する写実。
………飛鳥はなんか生き生きしてるな。
雷哉とハルクは何故かてんこ盛りの皿の前でひたすら料理を食べている。大食い勝負でもしているんだろうか。
苦しそうな表情の雷哉に対して、ハルクはまだまだ余裕そうだ。
天草、結城、桃林はテーブルの料理を指差し何かを話している。
グルメに精通している桃林に結城と天草が色々質問しているようだ。
桃林があんなに真剣に話してるのは初めて見た気がする。
乃木は百々海に積極的に話しかけに行っている。
百々海も若干面倒臭そうではあるが、しっかり応対はしている。
乃木は随分と百々海を気にかけているようだ。
端っこに佇む八尋に千尋が料理を持って行くのが見える。
鬱陶しそうな表情の八尋に千尋は無理やり料理を口に突っ込もうとしていた。
………八尋は否定するだろうが、何だかんだ言って仲いいんだな。
そしてあるテーブルでは薬師院と佐々木が口喧嘩をしている。
どうせまたしょうもない事で佐々木が噛み付いたんだろう。薬師院の方が10倍大人だしな。
それにしても仲がいいのか悪いのか、一体どっちなんだろうな。
「夢寺様も休憩ですか?」
そんなみんなの様子をじっと見ていると、横から声をかけられた。
「綾辻か。だいぶ満腹になったからお腹を休ませてるんだ。「『夢寺様も』ってことは綾辻も休憩か?」
「はい。実は私もお腹いっぱいなんです。少し食べ過ぎてしまって」
「その気持ちよく分かる。なんかついいつもより食べすぎちゃうんだよな」
「………ふふふ。そうですね」
俺達は静かに笑う。
「………こんな楽しい日は初めてです」
綾辻は嬉しそうに頬を緩めながらそう呟く。
「そうだよな。綾辻はずっと戦場にいたんだよな」
「………そうです。私は今までパーティとは程遠い世界で生きてきました。だからこんな風に同級生の皆様と一緒に遊ぶなんて考えもしませんでした」
「……そうか」
綾辻の過去については俺は何も知らない。
けど、今綾辻がとても楽しそうにしてるのだけは確かだ。
「綾辻が楽しそうで何よりだ」
「わ、私そんなに楽しそうに見えますか?」
「口角がだいぶ上がってる」
「そ、そうなのですね………。少し恥ずかしいです………」
顔を赤らめ手で隠す綾辻。
………正直、今かなりドキッとした。
「いい事じゃないか。俺だってだいぶ楽しんでるしな」
「夢寺様はあまりお変わりがないような………。ふふ、夢寺様は面白いですね」
何故か綾辻に笑われてしまった。
「よしみんな。そろそろ終了には頃合いの時間だ。最後にこれをやって終わりにしよう」
「これって………何でありますか?」
「それは…………『ダンス』だ!」
「ダンスぅ!?」
「僕帰ります」
「だめだよ!」
速攻で帰ろうとした八尋を千尋が速攻で捕らえる。
「…………詳細を聞かせてくれ………」
「実はな、倉庫を漁っている時こんな物を見つけたんだ」
「これって………『CDレコーダー』?」
「ああ。かなり古いが一応動くみたいだからな。ちょうどダンスに相応しい曲が入ったCDも入ってるし、男女の数もちょうど8人ずつだ。これはダンスをしろと言っているようなものだろう!」
「なんでてめえはそんなテンション上がってるんだよ………」
興奮しながら話す乃木に対して呆れた様子の円城寺。
「え〜〜〜。普通にダルいんだけど〜〜〜」
「もう決まったことだ!じゃあ早速ペアを決めるぞ!………よし、早いもの勝ちだ!組みたい人の元へ行ってペアを組む方式にしよう!」
「適当すぎんだろ!?」
乃木が勢いで全てを決めてしまった。
全員が困惑した様子で自分以外を見渡す。
これは踊らないとパーティが終わらないやつだな。
さて、俺はどうしようか。
「ユーレイのお兄さんー。ボクと踊ろうよー」
すると、意外な人物が最初に動いた。
飛鳥が円城寺の元へと行ったのだ。
「は?何で俺がてめえみてえなクソガキと」
「えーもしかして自信ないのー?ダンスすらまともに踊れないポンコツだったのーもしかしてー」
「………上等だ。てめえに馬鹿にされっぱなしだと俺も気が済まねえ。ダンスでも何でもやってやるよ」
「わーいやったー」
イラッとした顔で円城寺は返答した。
円城寺、飛鳥ペア成立。
「あの………その………夢寺様?」
2人の様子を眺めていると、隣にいた綾辻が声をかけてきた。
「ん?どうした?」
「えっと………その………よければ………私と………」
「夢寺サン、わたくしと一緒に踊りなさい!」
綾辻が何か言い出そうとした時だった。
うるさい声が俺の耳に響き渡った。
「うるさいぞ、佐々木。お前の大声のせいで綾辻の言葉が聞き取れなかっただろうが」
「うるさい、とは何ですの!相変わらず無礼な人ですわね!アナタは!あと佐々木って呼ばないで下さいまし!!」
「あの………私は………大丈夫ですから」
綾辻はしゅんと背中を丸めてしまった。
もしかして………
「………綾辻。もしかして俺を誘おうとしてくれたのか?」
「えっ!?ええ、まあ、その………そうです」
顔を真っ赤にしながら彼女は頷く。
「あらそうでしたの。でもごめんなさいね、綾辻サン。この無礼男はわたくしと踊るんですの。」
「何勝手に決めてんだ。俺はお前と綾辻だったら綾辻を選ぶぞ。お前と踊るとロクなことにならないのは分かってるからな」
「なっ!?」
「ゆ、夢寺様………」
冗談じゃない。こいつは絡むとめんどくさい事になる。
「…………ふーん。じゃあ逃げるってことですわね」
「…………は?」
俺はカチンときた。
「ダンスに自信がないから逃げるって事ですわよね?わたくしに馬鹿にされたくないから尻尾巻いて逃げると………」
「分かった。ダンス、踊ってやるよ」
「………え?」
「綾辻、悪い。今は佐々木と踊ってもいいか?この馬鹿を黙らせないと俺の気が済まないんだ。その代わりといってはなんだが、埋め合わせは後日必ずする」
「………ふふ、夢寺様らしいですね。分かりました。では貸しにしておきます」
微笑を浮かべる綾辻に謝ると、俺は佐々木に向き直った。
「お嬢様ぶった一般人に現実を教えてやるよ」
「な、何がお嬢様ぶったですの!!本当に生意気な男ですわね!!わたくしが上だって事知らしめてやりますわ!!」
夢寺、佐々木ペア成立。
「何故あの2組は火花を散らしているんだ………。意味が分からない」
頭を押さえる乃木。
「同意見ですね」
隣に来たのは八尋だった。
「ダンス如きであそこまで熱くなれるのはある意味才能ですよ」
「そ、そうだな………」
「乃木さん、ペアは決まりましたか?」
「いや、まだだが………」
「なら僕と組んでください」
「………私は全然構わないが………正直意外だな。北桜八尋、君から誘いに来るとは」
「一刻も早く終わらせたいだけです」
「………そういう事か」
乃木、八尋ペア成立。
「雷ちゃん〜〜。あーしと組もう〜〜〜」
「オレか?別にいいけどよ、何でオレなんだ?」
「ん〜〜〜〜?適当〜〜〜」
「適当かよっ!?」
百々海、風神ペア成立。
「うちも夢寺はんと組みたかったわ〜。ほんなら………ハルクはん、うちと踊らへん?」
「ワターシデスカ?」
「ハルクはんの踊り、ちょっと興味あるんやけど….…」
「勿論デース!女将サン、一緒に頑張りマショウ!!盆踊りシマショウ!!」
「盆踊りと違うけどなぁ」
薬師院、ハルクペア成立。
「………天草様。私とペアを組んで頂けないでしょうか?」
「…………自分は別に構わないが…………いいのか………?その…………夢寺と踊りたかったのだろう…………?」
「夢寺様にはフラれてしまいましたから。ならいつもお話ししている天草様と踊りたいなと思いまして」
「………君がそれでよければ、自分は喜んでその申し出受けよう………」
「有難うございます。ダンスは下手ですが、宜しくお願い致します」
「………こちらこそ、宜しく頼む…………」
綾辻、天草ペア成立。
「な、なんと………いつの間にかペアがどんどん決まっているであります………。このままでは某、中学のようにぼっちに………」
「あ!しんぺいだ!千尋といっしょにおどろうよ!」
「キターーーーーー!!」
「うわっ!!どうしたの?」
「某にも春が来ましたぞ…………。女の子からダンスに誘われるなんて…………。ギャルゲーでしか考えられなかったであります……。
ぐへへ、どさくさに紛れて千尋氏の体を堪能するチャンス…………」
「なにいってるのかきこえないよー?」
「な、なんでもないであります!さあ千尋氏、某と楽しくダンスするであります!」
「わーい!!やったー!」
千尋、写実ペア成立。
全員のペアが決まったところで、CDプレーヤーから音楽が流れ、ダンスが始まった。
この曲は………確か中学の音楽の授業で聴いたことがある。
名前は思い出せないが、有名な作曲家の曲だった筈だ。
「さ、さあ夢寺サン。早速踊りますわよ!くれぐれも足を引っ張らないようにして下さいませ!」
「はいはい」
さて、お手並拝見だな。
お互いに手を取り、踊り始める。
踊り始めたはいいものの、ダンスは正直、全く分からない。
だからどうしてもぎこちなくなってしまう。
「ちょ、ちょっと!なんでそんなフラフラと安定しないんですの!」
「悪い。やり方が分からないんだ」
「これだから庶民は困るんですの」
軽蔑するような目を向けられる。
くそ。このままだと佐々木に馬鹿にされっぱなしで終わる。
………なら、俺も反撃に出ようじゃないか。
「……………おい佐々木」
「…なんですの。今集中してるんですから話しかけないで下さいませ」
「………お前、ダンスやった事ないだろ」
「ひっ!?」
俺の放った一言で佐々木は軽くよろける。
………やっぱりか。
最初から様子がおかしいとは思ったんだ。
とても経験者の動きじゃなかった。
「………図星か。俺のこと言えないじゃないか」
「そ、それは…………その………」
「なんだ、ただ見栄を張ってただけか。いやぁ、あんなに大口叩いて俺のこと挑発してたくせに未経験だったとはなあ。よし、じゃあこの事をみんなに盛大にバラして…………」
「や、やめなさい!アナタというひとは………」
「『やめて下さい』だろ?」
「く、くうぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」
やったぜ。この生意気な女の悔しがる顔が見れただけで俺は大満足だ。
「…………やっぱりアナタとは一生仲良くなれそうにありませんわ!ふんっ!!」
「痛ってえ!くそ…………足踏みやがったな。ならこっちも………」
「痛ったいですわ!レディーの足を踏むなんて信じられませんわ!!」
「お前みたいな子どもがレディーを名乗るなんて50年早えよ!」
「本当に失礼な男ですわね!ふんっ!!」
「痛った!また踏みやがったな………!」
結局俺らはダンスという名の足の踏み合いを続け、周りから呆れるような目で見られたのであった…………。
パーティの次の日。
朝食後、腹ごなしに散歩をしている時だった。
「も〜〜〜しつこいんだけど環ちゃん〜〜。ちゃんと食べてるってば〜〜」
「本当か?君は怠け癖があるからな。食事もきちんと摂っているか私は不安なのだ。別行動をとっていても、私は君のことが心配で………」
「はいはい分かりました〜〜。だからもう帰ってよ〜〜〜」
すると、百々海の部屋の前で百々海と乃木が軽く揉めているところを目撃した。
状況を見るに、百々海の部屋に乃木が押しかけた感じか。
乃木なりに単独行動をしている百々海を気にかけてのことだろう。
「本当に分かったのか?君の返事はいつも適当だ。もしよければ私が一緒に朝食を摂っても………」
「余計なお世話〜〜〜!さようなら〜〜〜」
百々海は乃木の言葉を最後まで聞く事なく、思いっきりドアを閉めてしまった。
「大丈夫か?乃木」
「夢寺蓮か。みっともないところを見せてしまったな」
俺が声をかけると、乃木は疲れた表情をこちらに向けてきた。
「いや、百々海は自分で言うくらい気分屋だからな。うまくコミュニケーションをとるのは難しいだろう」
「だとしても、私は全員と団結することが大事だと考えているからな。脱出するまで私はどんなに嫌がられようとも全員に声をかけ続ける」
「………司にもか?」
「当然だ。まあ、司拓郎とはまともに会話したことすらないがな」
だろうな。あいつが他者と会話するわけがない。
「………あんまり気負う必要もないと思う。俺達のことを考えてくれるのはありがたいが」
「なんだ、心配してくれるのか?君は優しいな、夢寺蓮」
乃木は俺の心配に対して優しく笑った。
「だがいいんだ。これが今、私がやるべきこと。才能も思い出せない私が皆に貢献出来ることはこれくらいしかない」
乃木は全員を繋ぎ止めるため、そして俺達が不和にならないために奔走してくれている。
コミュニケーションを取るのが苦手な俺には到底出来ないことだ。
「そうだ夢寺蓮。ここで会ったのも何かの縁だ。少し話をしないか?」
すると乃木から提案を受ける。
「君とはきちんと話したことが無かったからな。是非雑談を交わして友人として仲を深めたいと思ったのだが、どうだろうか?」
「分かった。特に用事はないし、付き合おう」
俺としても乃木のことを知るいい機会だと思ったので、ありがたく申し出を受けることにした。
「そうか。良かった」
「場所はどうする?」
「私の部屋はどうだ?食堂だと騒がしくて落ち着いて話せない可能性もあるからな」
「分かった」
俺は乃木の案に賛成する。
乃木の部屋は、まさしく乃木の性格を表したようにきちんと整頓されていた。
余計な汚れ等は勿論、シーツに至ってはシワ一つない。
キッチリカッチリ、という言葉が世界一似合いそうな部屋だ。
正直、何となく予想はしていたが。
「綺麗な部屋だな」
「当然だ。散らかった部屋など私の中では論外だ」
当たり前だという風にいいつつ、乃木は手慣れた様子でお茶を用意する。
「とりあえずそこら辺にでも座ってくれ。今お茶を淹れる」
「悪いな、気を遣わせて」
俺はその間、何となく部屋を見渡していた。
………女子の部屋入るのって、なんか新鮮だな。
昨日薬師院の部屋に入った時もそうだが、俺にとってはほぼ初めてに等しい経験だ。
今まで男友達の部屋しか入ってこなかった俺は、物珍しそうに部屋の細部までをチェックする。
「………夢寺蓮。連れてきた私が言う事ではないが…………」
すると、乃木が珍しく言葉を濁してというか、とても言いづらそうな表情で、
「君が私をどう見ているか分からないが、一応私は女性だ。だから、その、女性の部屋をそうジロジロと見るのはどうかと思うぞ………」
そう指摘された瞬間、俺は自分のしたとんでもない過ちに気がついた。
「わ、悪い!!違うんだ、その、決していやらしい目的があって見てたわけじゃなくて、その…………!」
「…………ふふふ」
俺が慌てふためいて弁明をしていると、乃木がおかしそうに笑った。
「冷静な君がここまで取り乱すのは初めて見たな」
「そ、それはその………」
「心配しなくても、君に邪な気があって部屋を見てたわけじゃないのは私にも分かっている。さあ、お茶が出来たぞ」
どうやら乃木は俺の今の行動を不問にしてくれるらしい。
良かった。俺は危うく変態、そして犯罪者予備軍として認定されるところだった。
「ふう………しかし暖かいお茶というのは心が安まるな」
「そうだな。乃木は飲み物ならお茶が好きなのか?」
「好き………だと思う。ここに来て一番好んで飲んでいるからな。夢寺蓮は何が好きなんだ?
「俺は………りんごジュースかな。幼少期から好きだった」
「それは意外だな。君は年齢の割には大人びている印象があるから、もう少し違う飲み物を答えると思っていた」
「そうか?というか俺は別に大人びてはないぞ」
「いや、他の連中と比べたら遥かに大人だ。北桜千尋やハルクゴンザレスを見てみろ。とても高校生とは思えないだろう?」
「………それは言えるな」
そして暫くの間、俺と乃木は様々な内容の雑談をした。
俺にとって乃木は、生真面目で規則に厳しい生徒という印象が強かったので、くだけた内容の話も積極的に振って来るのには正直驚いた。
同年代と比べてしっかりしている乃木も、喋ってみるとただの高校生なんだな。
「夢寺蓮」
すると、乃木がふと俺の名前を呼んだ。
「どうした?」
「………私は何者なんだろうな」
そしてポツリとそう呟いた。
「本当に君達と同じ希望ヶ峰学園の新入生なのだろうか。本当に超高校級の才能を持っているのだろうか。そもそも、私は君達と同じ年齢なのだろうか。…………こういった疑問が常に私の中に渦巻いているんだ」
「…………」
「不安なんだ。不安で不安で仕方がない。自分に関して分からない事がある、というのはこんなにも心を掻き乱されるのかと改めて実感させられたよ」
そう語る乃木の語尾は震えていた。
名前以外何も思い出せない乃木は今も苦しんでいる。
しかし、力になってやりたいとは思っても俺にはどうする事も出来ない。
失った記憶は自分の手で取り戻すしかないのだから。
「………もし私が希望ヶ峰の人間ではなかったら、全員から軽蔑されるだろうな。才能もない奴は偉そうに自分達に説教してたのか、とな」
「それは………どうだろうな」
「………え?」
目を見開きこちらを見る乃木。
「あくまで俺の意見だから絶対そうというわけじゃないんだが、少なくとも俺は乃木が希望ヶ峰の生徒じゃなくで軽蔑なんかしたりしない」
「………何故だ?」
「どんな学校にいようともどんな年齢でも結局は同じ人だろ?俺は話してみていい奴だって思えば、仲良くしたいと考える単純な人間なんだ」
「…………」
乃木は俺の言葉を黙って聞いている。
「乃木は生真面目でしっかりしてるし、俺はいい奴だって思う。だからきっと俺は乃木が俺達とは違ったとしても軽蔑どころか、これからも仲良くしていきたいなって思うけどな」
「…………」
「まあ、そもそも俺の中で『いい奴』の基準が曖昧だからあんまり当てにならないいだろうけど」
「…………………そうか」
お茶を礼儀正しく飲むと、ふうと息を吐き出した。
「正直、そんな事を言われるとは思わなかった。てっきり責められるかと」
「責められるのも何も、俺は乃木に責めるようなことされてないしな」
今のところ別に説教もされていない。
ちなみに、恐らく説教された回数で言うと写実がダントツでトップだ。
理由は言うまでもない。
「それに、癖は強いがなんだかんだ優しい奴らばっかりだし、別に軽蔑とかしないと思うけどな」
「………」
一部性格に難ありの奴もちらほらいるが、それは仕方のないことだろう。
「感謝する、夢寺蓮。君のお陰で少し不安が和らいだよ」
乃木はすっきりした様子でそう言った。
「いや、俺は大したことは言ってない」
「そんな事はない。君の言葉で私は少し自信を取り戻すことが出来たんだ」
「自信?」
俺がそう返すと、「ああ!」と自信満々に胸を張った。
「私がどんな存在であろうとも、私は自分に胸を張って生きる!ただそれだけだ!」
自分が何であろうとも、真っ直ぐ突き進む。
乃木らしい答えだ。
「という事で、私はこれまで通りの乃木環で生きていく。これからもよろしく頼む」
「ああ。こちらこそ色々世話になる」
俺達はお互いに握手をした。
「ところで夢寺蓮。もし私が君達と同じ希望ヶ峰学園の生徒であったなら、どのような才能を持って入学したと思う?」
「どう、って言われてもな………。例えば『先生』とかどうだ?乃木は教えるのうまそうだし」
「先生か。私のような未熟者が先生などおこがましいのだがな」
「それか『学級委員』とかどうだ?」
「そちらの方が可能性はありそうだな。いかにも私っぽい気がする」
その後俺らはしばらく、乃木の才能が何かについて色々話して盛り上がったのであった。
昼過ぎ。
俺が部屋でくつろいでいると急にモノワニが現れた。
「どうも夢寺サマ。コロシアイ生活は満喫されていますカ?」
「………満喫しているように見えるのか?」
「はい、それは勿論」
「お前のその目にはビー玉でも詰まってんのか」
いきなり人の部屋に入ってきたと思ったらつまんない冗談かましやがって。
「俺は今くつろいでるんだ。お前と話をする暇はない」
「くつろいでいるのは暇なのと同義なのでハ………」
黙れこの野郎。
「これ以上話すと夢寺サマがどんどん機嫌が悪くなりそうですネ。なら手短に済ませましょウ。これを夢寺サマに差し上げまス」
モノワニは突如俺に何かを手渡してきた。
「これは…………栗?」
「『男のマロン』というやつでス。これを持っていれば夢寺サマは本当の意味で男になれるという画期的な物ですヨ」
「………意味が分からん」
「じきに分かりまス…………ではこれにて失礼」
モノワニは言いたいことだけ言うと姿を消してしまった。
「なんなんだアイツ。………まあいいや」
俺はその栗をなんとなくポケットにしまった。
そしてもう一眠りするのだった。
「おい蓮。ちょっと来いよ」
夕方ごろ、食堂を通りかかると雷哉に呼び止められた。
「どうした?」
「静かにしろ!誰かに見つかるだろ!」
人差し指を口に当て静かにというポーズをする。
「いや、お前の声の方がうるさいだろ……」
「うるせー!いいからほら、こっち来い!」
俺は無理矢理雷哉に厨房へと引っ張られていく。
「………どういう集まりだ、これ」
厨房には、円城寺、写実、ハルクというよく分からないメンツが揃っていた。
「よし、これで全員集まったな」
「同志はこれだけでありますか」
「性欲が無え腑抜け共しかいねえんだ。ここに集まった奴だけが真の男ってこった」
「性欲………?」
なんだか物凄く嫌な予感がしてきた。
「なるホド!ワターシ、真の男デース!」
「おい待て。俺はまだ何も聞かされてないんだが、今から何をするつもりなんだ?」
俺は慌ててそう尋ねる。
「何って………決まってんだろ?」
「女湯を覗くんだよ!!」
「…………帰る」
俺はすぐ踵を返して出ていこうとする。
本当にろくでもない連中だ。
関わると間違いなく面倒なことに巻き込まれる。
「おい待てコラ」
しかし円城寺に腕を掴まれる。
「俺達の計画を聞いちまったんだ。もう逃げられねえよ」
「………円城寺。俺はお前はもっとしっかりしてる奴だと思ってた」
「ハッ、そりゃどーも。だが残念ながら俺はこういうのは大好きな男なんだよ。欲には忠実ってわけだ」
「お前仮にも寺出身だろ………」
禁欲とか慣れてそうな奴が言う台詞じゃないぞ。
「お前ら、考え直せ。見つかった時どうするんだ」
「何を言うのでありますか夢寺氏!女の園が今手の届く場所にあるのであります!それをみすみす逃すわけにはいかないであります!!」
鼻息をフガフガ言わせながら興奮状態の写実。
こいつはもう駄目だ。
「ハルク。お前はいいのか?こんなことしても虚しくなるだけだぞ」
「マジシャンサン、何も分かってないデース!ワターシ、鍛えられた肉体大好きデース!皆サンの美しい肉体、是非見てみたいデース!」
ハルクは目を輝かせながらそう話す。
こいつは写実とは完全に別の理由だな………。
きっとこの中の誰かに騙されたんだろう。
「それで雷哉。計画とやらの立案者はお前か」
「おう!」
ドヤ顔で胸を叩く雷哉。
「だってよー!ここにいる奴ら揃いも揃っていい体してるじゃねーか!服の下がどうなってるか見てみたいと普通思うだろ?」
「最低だ………」
言い方といい表情といい、本当に最低としか言いようがない。
「とにかくやめとけ。女子達にリンチされるぞ」
「おいおい蓮。オレが秘策もなしにこんなこと言い出すと思うか?」
しかし雷哉はチッチッチと大袈裟に指を振る。
「秘策?」
「そう!オレは昨日風呂でモノワニにこう言われたんだ!!『男子の浴場と女子の浴場はある場所で繋がっている。探してみたらどうだ』ってな!そこからこっそり行けばバレずに覗けるってわけだ!」
「絶対罠だろ」
どう考えても罠としか思えない。
「いや、あのクソワニの言ってることは間違いねえよ」
しかし円城寺が俺の言葉を否定する。
「雷哉から話を聞いた俺はさっき、真平と雷哉を連れて男風呂まで確かめに行ったんだよ。そうしたら露天風呂の端に隠された穴があってな、試しに入ってみると女湯の露天風呂に繋がってたってわけだ」
「そうであります!某らは見事、ユートピアへの切符を手にしたのであります!」
「ワーオ!秘密基地みたいデース!!!」
全員で盛り上がる中、俺は思わずため息をついてしまった。
「それで?なんで俺を誘ったんだよ……」
「だって蓮、オメーむっつりスケベだろ?」
「ぶっ飛ばすぞ」
誰がいつそんなこと言ったんだ。
「まあ正直になれよ、蓮。女に欲情するのは別に悪いことじゃねーぞ?人間の本能なんだからな」
「夢寺氏も見たいでありますよね?ここにいる可愛いおなごの体を思う存分堪能したいでありますよね?」
「誘惑するな」
俺はゆっくりと距離を取り、この空間から立ち去ろうとした。
見つかったら絶対やばい。
次の日から人権は剥奪され、女子からは人として接してもらえなくなるだろう。
「やっぱオレは綾辻の巨乳が見てーな。服の上からアレだぜ。絶対脱いだらヤバいだろ?」
「それを言うなら百々海氏なんてボイーンであります!あのボリューム、この目でじっくり見たいであります!」
「俺は月乃だな。アイツ、着物に隠れてるけど意外といい体してると思うぜ」
「水泳部サンの引き締まった体、見てみたいデース!」
…………しかし、俺は自然と足を止めてしまっていた。
全員の裸が見れる………。
いけないことだと分かっているのに、さっきまで全く乗り気じゃなかったのに、何故か物凄く気持ちが昂っている。
俺はふと、自分のポケットにある物の存在を思い出した。
「………男のマロン」
そうだ。俺にはこの男のマロンがある。
何を恐れているんだ。男ならこのチャンスを逃すわけにはいかない。
綾辻を始めとする女子全員の裸をこの目に焼き付けるんだ!
「作戦の詳細を聞かせてくれ」
俺は雷哉の近くに腰を下ろす。
「お!蓮もやっとやる気になったか!」
「夢寺氏!歓迎するでありますよ!!」
「いい顔つきじゃねえか。てめえもこれで立派な男だ」
「マジシャンサン、よろしくお願いシマス!」
こうして俺は、この4人と共に覗きに参加することになった。
「よし、オメーら準備はいいか?」
「ああ」
「勿論であります」
「よし、さっさと行こうぜ」
「楽しみデース!」
夜7時半を回った頃。
俺達は男子大浴場へと集合していた。
どうやら写実が仕入れた情報によると、今夜女子大浴場で『女子風呂大会』なるものが開催されるらしい。
何故写実がそんなことを知っているのかは知らない。
どこかで盗み聞きでもしたのだろう。
ともかく、俺達にとっては絶好のチャンスだ。
恐らく全員参加とまではいかないが、多くの女子が参加するのは間違いない。まとめて裸を拝めるまたとない機会だ。
「男湯には………な!?」
「どうした?」
「誰か1人いやがる………」
雷哉の視線の先には、衣類の入ったカゴが1つあった。
つまり誰かが大浴場にいるということだ。
「そ、そんな!?某らで残りの男子を大浴場に近寄らせないために色々工作したのに!!」
どうやら写実達は、事前に邪魔が入らないように他の男子を大浴場に入らせないようにしていたらしい。
確かに、結城あたりは覗きをするなんて聞いたら全力で止めるだろうしな。
「だったらアイツしかいねえだろ。あのゴミ眼鏡野郎じゃねえのか?」
円城寺は既に誰がいるか分かってるみたいだが………。
………ん?ゴミ眼鏡野郎?
「ここまで来たからには引けねえ。覚悟決めて行くぞ」
「お、おい!円城寺!」
ズカズカと先に入った円城寺に続き、俺達も慌てて大浴場へと足を踏み入れた。
「………チッ、騒がしい雑魚共がゾロゾロと………」
すると、そこにはユニットバスに浸かる司がいた。
「やっぱコイツかよ。なら放っといていいな。さっさと行こうぜ」
「秀才サン!奇遇デスネ!ワターシ達これから露天風呂にある抜け道使って女子の皆さんの体を見に行くんデスヨ!!」
「おい馬鹿!コイツには言わなくていいんだよ!」
「……覗き?お前らの頭の悪さにはいつも驚かされる。そこまで来ると哀れを通り越して滑稽だな。発情した猿の方がまだ理性的だと思うぞ」
司は俺達をいつも以上に軽蔑した目で見る。
「テメー………喧嘩売ってんのかよ!!」
「無視しろって。このゴミ、女の魅力に気づいてねえんだよ。あーあ可哀想になあ。哀れなのはどっちだって話だ。チンケなプライドで男の楽しみを全て捨ててきたんだろうよ」
「………おい、誰に向かって口を聞いている。オカルトなぞを信じる下等生物が俺様に生意気な口を聞いていいと思っているのか?身の程を知れ」
「はいはい分かりましたよー」
円城寺は司を挑発し、さらに司の発言を受け流すと露天風呂へと向かった。
「円城寺氏、こういう時は恐ろしく頼りになりますな」
「ああ」
司関連は円城寺がいると本当に心強い。
「よし、着いたぞ。ここが抜け穴だ」
円城寺の言った通り、露天風呂の端に人1人通れるくらいの穴が隠されていた。
「これは言われないと気が付かないな………」
「だろ?ここなら絶対バレないぜ」
「な、なんだか興奮してきたでありますな……」
「ワターシ、すっごく楽しみデス!」
「行くぞ。分かってると思うが、でけえ声出すんじゃねえぞ」
円城寺が先陣を切り抜け穴に入っていく。
俺達はそれに続き、続々と入っていった。
「………これはまた絶妙な場所だな………」
抜け穴の先は女子の露天風呂の端に繋がっていた。
驚くべきことに、ちょうど俺達が身を隠せるような岩が近くにある。
巨体のハルクが隠れるほどの大きな岩だ。
そして中の大浴場の様子もしっかり見ることが出来る。
まさに理想的な覗きスポットだった。
「さあオメーら、パラダイスの始まりだぜ。心の準備はいいか?」
「もちろんであります!!」
「当然だろ」
「オッケーデス!」
「ああ」
「あ、来たでありますよ!」
「おお!!」
すると、数分も経たないうちに女子達がぞろぞろと入ってきた。
「わーいおふろだー!!」
「おい北桜千尋!浴場内で走るな!滑って頭でも打ったらどうするんだ!」
「な、なんか緊張しますね………」
「どうしてー?お医者のお姉さん、温泉もしかして初めてなのー?」
「お、温泉自体は初めてというわけではないのですが………、こうして同級生の皆様と一緒に入るというのが初めての経験で………」
「別に女同士なんだから緊張することなくなーい?………あー、もしかして自分の体見せるの恥ずかしいとかー?」
「え!?い、いや、そんなことは………」
「ならそのタオル取っちゃっても大丈夫だよねー?ほれっ」
「きゃっ!?」
「おー。お医者のお姉さん、かなりいやらしい体してるねー。特にその胸、相当育ってるじゃーん。着痩せするタイプなんだねー」
「あ、ほんまやぁ。綾辻はん、どすけべなボディしてはるなぁ」
「や、ややややめて下さい………!恥ずかしすぎて顔から火が出そうです………!」
「夢寺はんとかに見せたら鼻血出して倒れるんちゃう?」
「ありそー。はとのお兄さん、絶対むっつりスケベだもんー」
「ゆ、ゆゆゆゆゆ夢寺様に!?!?あ、あああ…………!」
「あれー?お医者のお姉さんー?」
「恥ずかしすぎてフリーズしてもうた」
「………どうでもいいけどさー、ここにいる人みんな発育良すぎないー?きつねのお姉さんもバランス取れたいい体してるしさー。不公平だよー」
「飛鳥はんも急激に成長する時が来ると思うで。うちらはたまたま成長期が来るのが早かっただけやと思うし」
「ふーん。まあどうでもいいけどさー」
「おい見ろよあの体!!」
「むひょひょ!なんてけしからんボディをしてるのでありますか綾辻殿は!!」
「澪も凄えけどよ、月乃も見てみろよ。モデルみてえなスタイルしてるぜ」
「女将サン、ビューティフルなボディーデス!鍛えたらもっといい体になると思いマス!!」
他の4人は好き勝手に感想を述べている。
俺は何も言わず、ただ女の花園である大浴場を見つめる。
特に俺は、綾辻の体から目を離せずにいた。
控えめな性格なのにスタイルは暴力的………。
………このギャップがたまらないな。
「おい見ろよ。蓮の野郎、食い入るように見つめてるぜ」
「夢寺氏がむっつりスケベだというのも、あながち嘘ではないでありますな」
「だろ?コイツ普通に変態なんだよ」
「マジシャンサン、ワターシたちの話、全く聞いてないデスネ……」
「しかしここまで人数が集まるとはな。半分来ればいいと思っていたが」
「女子は基本的にお風呂好きやからねぇ」
「りんごもくれば良かったのにねー!」
「桃林林檎か。彼女には聞いた瞬間食い気味に断られてしまった。何か私達と入りたくない理由があるのかもしれん」
「そんなの決まってんじゃーん。デブだからお肉見られたくないんだよー」
「飛鳥圭。君はもう少しデリカシーというのを身につけた方がいい」
「それにしても、佐々木はんが来たのは意外やねぇ。てっきり来ないかと」
「ぼっちになるのが嫌だったんじゃなーい?」
「ち、違いますわ!わたくしは部屋のシャワーで済ますなんていう貧乏くさい真似をしたくなかったから、仕方なく参加してあげただけですわ!それにわたくしのこの完璧な美貌を見せつけるにはちょうどいい機会………ぶへっ!?泡が口に入りましたわ!?」
「佐々木様、頭を洗いながらお話するのは流石に無理があるのではないでしょうか………」
「莉央ちゃん面白いね〜〜。てっきりプライドだけ高いイタイお嬢様だと思ってたよ〜〜〜」
「うるさいですわよ!!ぶはっ!?ま、また口に泡が………」
「それを言うなら百々海真凛。君が来たのも意外だったぞ」
「ん〜〜〜〜?ただの気まぐれだよ〜〜〜。ほーれどかーん〜〜」
「うわっ!?おい!?浴槽に飛び込むな!!周りの人間に配慮して足から少しずつ入浴を………」
「環ちゃん細かい〜。別にいいじゃーん今日くらい〜。あー気持ちいい〜」
「湯船に浮かぶな!!それにタオルをお湯の中に入れるんじゃない!!!」
「いやー目の保養でありますな………」
「幸せっていうのはこういうことを言うんだな………」
「ハァ………一生見ていたいぜ………」
写実、円城寺、雷哉の3人は今にも天国に登りそうな顔をしていた。
その気持ち、とてもよく分かる。
百々海のダイナマイトボディ、飛鳥、乃木の小柄ながら引き締まった体。
どれを見ても幸せ一杯だ。
「皆サン、素晴らしいデス!きっと鍛えたら立派なボディビルダーになれると思いマス!!」
こいつは俺達の目的を未だに勘違いしている。
いつになったら気がつくのだろうか。
「…………む?」
「どうしたん、乃木はん」
「………誰かの視線を感じる」
乃木はそう言うと、急にこちらへと振り向き接近してきた。
「やべっ!?バレたか!!」
「チッ。ずらかるぞ」
「は、早く穴に入るであります!」
「分かってる。おいハルク、早く穴に……」
「………す、進めまセン!体が引っかかりまシタ!!」
「おいおいマジか………」
「嘘だろオイ!?」
どうやらハルクの体が引っかかり出られなくなってしまったようだ。
元々ハルクがギリギリ通れるサイズの穴だった為、引っかかってもおかしくはなかった。
それがまさかこの緊急事態の時に起こるとは思わなかったが。
「ど、どうにかして押し込むであります!!」
「駄目だ!ピクリとも動きやしねえよ!!」
「おいオメーら!!デカい声出すなよ!!バレるだろうが!!」
「お前の声が1番デカいんだよ!!」
お互いに自分が響き渡る程の大きい声を出している事にも気が付かないほどパニックになっている。
そんな大騒ぎしていたら当然………。
「き、貴様ら!!!!ここで何をしている!?」
乃木を始めとする女子全員が集結していた。
「あれー?みんなどうしてこっちにいるの??いっしょにおふろはいる??」
不思議そうにこちらを見ている千尋。
「うわー。覗きとか人として最低だよねー。他のみんなにもバラしちゃおうー。そうしたらこれからどうなるのか………楽しみだねー」
面白そうに笑う飛鳥。
「うわぁ………ドン引きですわ………。二度ととわたくしに近づかないでくださいませ」
ゴミを見るような目で軽蔑する佐々木。
「あ、ああああああああ………!キャーーーーーーーーー!!!!」
絶叫しながら自分の体を隠す綾辻。
「ないわ〜。ま、あーしは別に見られてもいいけど〜」
興味なさそうに湯船に浮かぶ百々海。
「あんなぁ、世の中にはやっていいことと悪いことがあるんやで?」
不気味な笑みを浮かべながらこちらに近づいてくる薬師院。
「………貴様ら、覚悟は出来てるんだろうな?」
般若のような顔で俺達を睨みつける乃木。
「はは、ははは…………」
俺達は、お互いに顔を引き攣らせながら笑うしかなかった。
「にしてもよー、これは流石にやりすぎじゃねーか?」
「黙れ!貴様らのような破廉恥な男達に喋る権利はない!!黙って罰を受けろ!!」
俺達は結局、全身をロープで拘束され、食堂に正座させられていた。
背中には『僕達は覗きをした最低の男です』と書かれた紙を貼られている。
雷哉やハルクのような肉体派がいるのにも関わらず大人しく拘束されたのは、女に手を上げるのは男ではないという考えと、悪いことをしていたという自覚があったからだ。
「にしても驚いたよねー」
近くで面白そうにこちらを見ていた飛鳥が意外そうにおれの方を見た。
「なにがー?」
「煩悩まみれのオタクのお兄さんとかヤンキーのお兄さんだけならまだしも、はとのお兄さんが覗きに加担するなんてさー」
「ほ、ホントですわこの変態男!!夢寺蓮、アナタはわたくしの言った通り最低の男でしたわね!今すぐわたくしの前で土下座しなさい!」
俺の話題になったところで佐々木が途端に俺を罵倒し始める。
めちゃくちゃムカつくが、こればっかりは俺が悪いから何も言い返せない。
「………覗きをしたことは謝罪する。でも言い訳させてくれ。俺は最初から覗きをするつもりなんてなかったんだ…………」
「おい蓮!言い訳なんて男らしくねーぞ!」
「そうだぜ蓮。俺達、お互い女の体について語り合った仲じゃねえか」
隣でうるさい雷哉と全く反省していない円城寺を無視し、俺は拘束された体をよじりポケットから男のマロンを取り出す。
「これを拾った瞬間、急に理性にブレーキが効かなくなったんだ。それで………」
「そんな言い訳が通じると思ってるんですの?」
佐々木は益々ゴミを見るような目で俺を蔑む。
「いや、夢寺氏の言っていることは嘘じゃないであります。某も……」
「ワターシもそれ持ってマス!」
「ああ、そんなの貰ったな」
俺に続き他の奴らも続々と男のマロンを取り出す。
「夢寺はんだけならともかく、他にも持ってる人がいるとなると……」
「これが要因である可能性もありますよね………」
「と・に・か・く!!このいかがわしい栗は没収!大人しくここで反省していろ!」
曲がったことが嫌いな乃木の怒りは頂点に達している。
これは当分怒りが収まりそうに無いな………。
「フン、結局捕まったのか。本当に愚かでどうしようもない人間達だな」
すると、通りかかった司がゴミを見るような目でこちらを見ていた。
「覗き穴なんていう罠としか考えられない物に群がり結局失敗する。お前らは犬以外だな」
「殺す……………!!」
雷哉が今にも拘束を解きそうな勢いで睨みつける。
「風神雷哉!!今回ばかりは言い過ぎではあるが司拓郎が正しいぞ!君の負けだ!」
「ち、ちくしょう…………!」
「負け犬の惨めな姿を見るのはさぞ気分がいいな」
司は言いたいことを言っていなくなってしまった。
ちなみにこの話は関わっていない他の男子(天草、八尋、結城)には今起こった事を伏せておいてもらえることになった。
特に結城は俺達が覗きなんかしたと知れば流石に怒るだろうから、非常にありがたかった。