ダンガンロンパ ルーナ   作:さわらの西京焼き

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(非)日常編③

 

 

 

 

 

 

次の日の朝。

 

 

 

 

「おいデブ!!てめえどうしてくれんだよこれ!」

「ご、ごめんって言っただす!そんなに怒ることないだす!!」

「ごめんじゃ済まねえんだよ!全員分入ってんだぞ!」

食堂に入ろうとすると、何やら騒がしい声が聞こえてきた。

様子を伺うように入ると、テーブルに人が集まっていた。

「おはよう………どうしたんだ?」

「ああ、夢寺氏。おはようであります」

1番近くにいた写実に声をかける。

「実は全員分のスープが入った容器を持った円城寺氏と桃林氏がぶつかってしまったのであります。それで2人は転倒。スープが全部こぼれてしまったのであります」

「それは………大惨事だな」

確かに地面を見ると、味噌汁と思われる液体がこぼれていた。それも大量にだ。

「それだけじゃありません」

その近くにいた八尋が機嫌が悪そうに近くを指差す。

「円城寺さんが転んだ時、後ろには両手に料理を持った天草さんもいたんです。だから天草さんもそれに巻き込まれて転倒。料理を全て落としてしまったというわけです」

「…………多重事故ってやつか」

どおりで揉める声が聞こえるわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ったくよ、これじゃ全員分作り直しじゃねえか。どう落とし前つけてくれんだコラ」

「だ、だからごめんって謝っただす!何回もしつこいだす!」

「その態度が気に食わねーんだ!一回謝ったら全部許されると思ってんのか!ふざけんのも大概にしろや!!」

円城寺は自分の作った料理を台無しにされ、しかも反省の色がそこまで見えない桃林に対して怒りが収まらないらしい。

「円城寺君。君の言いたいことはよく分かる。でも少し怒りを抑えてくれないかな」

「収まるわけねーだろ。なあ晴翔、百歩譲って俺の不注意でこうなったなら俺も謝るしここまで怒っちゃいねえよ。けどな、このデブは『熱いの通るから気をつけろよ』って運んでる時呼びかけたにも関わらず、急に椅子から飛び上がったんだぞ?しかもぶつかった時の第一声が『なんてことしてくれただす』ときたもんだ。キレても何の問題もねえだろ」

「そ、それは足元に虫がいてびっくりしたからしょうがないだす!ワタシ虫が大嫌いなんだす!」

「知るかボケ!!」

なるほど。状況が分かってきた。

これは正直………円城寺が悪いとは言えないな。

 

 

 

 

 

「………円城寺君。確かに今回は桃林さんに非があると思う。だとしても少し言い過ぎだよ。女性にここまで口撃する必要はないと思う」

結城は桃林を庇うような姿勢を見せる。

「俺は事実を言ったまでだ。このデブ、全く反省する様子がねえんだよ」

「もういいだろう」

見かねたのか乃木も仲裁に入る。

「円城寺霊夜。君の怒りは最もだが、どちらが引かないと一生この場が収まらない。それが分からない君ではないだろう?」

「………チッ」

円城寺は大きな舌打ちをした後、顔を背けた。

「それに桃林林檎。事情があったとはいえ、君の態度には問題があるぞ。話を聞く限り君に非がある。なら相応の態度で謝意を示すべきじゃないか?」

「だ、だからさっきから謝ってるだす!なのにあの男が……」

「その態度が問題なのだ。謝罪というのは申し訳ないと思う気持ちを持ってこそだ。君は心の中で自分は悪くない、と思っているんじゃないか?」

「………!!」

図星をつかれたのか、桃林はバツが悪そうに俯き黙ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「………わーったよ。俺も怒りすぎた。もういい、また朝飯作るわ」

円城寺は乃木の言葉を聞き冷静になったのか、いつも通りに戻った。

「悪いな、てめえら。もう少し待ってくれや。………澪、京介。手伝ってくれ」

「勿論です。申し訳ありません、私も配膳を手伝っていれば………」

「…………承知した。済まないな、自分が落としてしまったせいで………」

「てめえらはなんも悪くねえよ。俺とあのデブのせいだ」

担当である綾辻と天草も一緒に厨房へと戻っていく。

「じゃあ僕たちは片付けをしようか。ごめんみんな、手伝ってくれないかな」

「分かったであります!」

「ほな、さっさと終わらせてまたご飯食べれるようにしないとな」

「な、なんでわたくしまで………。わっ!スカートの裾に味噌汁が付いて…………最悪ですわ」

残った俺達は大惨事になった現場の後片付けに入る。

俺も当然、手伝いに加わろうとする。

俺だけ何もしないわけにはいかないし、何よりこういう時何もしないのは気まずすぎる。

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんでワタシだけが悪いってなってるだす………!わ、分かっただす!きっとわたしの容姿が醜いからみんなあの男の味方をするだす!」

だが、桃林はその場の雰囲気が気に食わなかったのか、目に涙を浮かべながら叫ぶ。

「………はあ?あなたは一体何を言っているんですか?誰も容姿の話なんかしてないでしょう」

「わ、ワタシもう嫌だす!」

桃林は涙声でそう叫ぶと、食堂を飛び出してしまった。

「うわー。なにあれ?ご飯ひっくり返しといて逃亡とか最悪なんだけどー。おデブのお姉さんがどう考えても悪いのにさー、何あの態度ー。人間のクズだよねー」

食事がお預けになったせいで不機嫌な飛鳥は吐き捨てるようにそう言った。

「スリサン、ものすごく怒ってマース………。ワターシ、ちょっと怖いデース」

「うん。けい、すごくこわい……」

普段ムードメーカーであるハルクや千尋でさえも、飛鳥の様子にびっくりしたのか静かだ。

下手すると飛鳥は円城寺と同じくらい怒りが溜まってるのかもしれない。

「………これはなんとかしないとまずいね」

桃林の様子を見ていた結城がそう呟くと、立ち上がった。

「僕が桃林さんを説得してくる。みんなはご飯が出来たら先に食べてて」

「分かった。済まないが君に任せる、結城晴翔」

結城は笑みを浮かべると食堂から出ていった。

苦労人だな、あいつも。

「なーんかめんどくせーことになっちまったな」

すると雷哉が話しかけてきた。

………なんか頭にわかめが付いてるんだが。

「………お前、なんでちょっと濡れてるんだ?」

「円城寺が味噌汁こぼした時被っちまったんだよ」

「早く着替えて来いよ………。それに髪にわかめ付いてるぞ」

「マジか!………あ、本当だ、サンキューな」

わかめを取った雷哉はそれを普通に食べた。

いや食べんなよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、再度朝食が運ばれてきた時まで結城と桃林は戻ってこなかった。

これが後に悪影響を与えなければいいが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、その不安は杞憂であった。

 

 

 

次の日の朝。

昨日と同じように、寝不足の体を引きずるようにして食堂へと向かうと、

「は、晴翔君はど、どんな料理が好きなんだすか?」

「僕は基本的に何でも好きだけど………強いて言うなら煮魚かな。海の近くで育ったからね」

「そ、そうなんだすか………!ならワタシが今度美味しい煮魚が食べられる店紹介するだす!」

「ありがとう。桃林さんが紹介してくれる店、楽しみにしているよ」

昨日までの様子とは別人の桃林が結城と楽しそうにお喋りしていた。

「………一体何が起きたんだ?」

雷哉の隣に座った俺は話を振ってみる。

「昨日のアレだろ。結城が桃林の事呼びに行った時」

どうやら桃林と結城の間で何かあったようだ。

「きっと結城氏の優しさに惚れてしまったのであります」

近くに座る写実が眼鏡をクイと上げながら分析する。

「見るであります。あの桃林氏の顔面。顔が真っ赤であります」

「なるほど」

結城は誰に対しても優しいし、桃林が好意を抱いてもおかしくはない。

「しかも聞いてよーはとのお兄さんー」

飛鳥が箸でテーブルを叩きながら頬を膨らませる。

「おデブのお姉さん、昨日の事全然謝らないのー。自分がしてかしたことなーんにも悪くないって思ってるんだよー。本当に最低だよねー」

「全員が揃ったら謝るってさっき言ってたで」

薬師院はさっき結城と桃林がそのような話をしていたのを聞いたらしい。

「だからうちらは黙ってそれを待ってあげるのがええんちゃう?」

「ふーん。まあボク許さないけどねー。食べ物の恨みは怖いんだよー」

昨日の朝食がすぐ食べられなかった事が余程不満だったようだ。

 

 

 

 

「円城寺氏はどう思うでありますか?」

「あ?知らねーよあんなデブ」

料理を運んできた円城寺は不機嫌そうに言った。

「朝から気持ち悪い色恋見せられるこっちの気持ちにもなってみろってんだ」

辛辣すぎる。

「ほら、今日は和食だ」

今日の朝食は白米に豆腐の味噌汁、焼き鮭にきんぴらごぼう、冷奴。

ザ・和食だ。

「おかわりも沢山ありますよ」

「………どんどん食べてくれ………」

厨房からは綾辻と天草の声が聞こえる。

「わーい!!すごくおいしそー!!!」

「ワターシ、お腹ペコリンデース!!」

「うわー。ボク鮭苦手なんだよねー」

「うるせえ!文句言うなら全部没収するぞ」

「分かったよー。でもさーせめて骨抜いてほしいなー」

今朝も賑やかだ。

閉じ込められさえいなければ最高なんだけどな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、桃林は全員にきちんと頭を下げて謝罪。

円城寺とも一応和解が成立した。

そして乃木の号令でいつも通り朝食が始まった。

よし、俺も早速頂くとしよう。

まずはこの味噌汁から…………

…………ん?

「か、辛っ!!!!!!!!!」

思わず咽せる俺に周りのみんなは驚いている。

「辛い?別に辛いのなんてねーぞ今日。オメー何食ったんだ?」

「………自分も今日は辛い物は作っていないが………」

おかしい。俺の味噌汁だけ辛すぎる。

涙目になりながら周りを見渡してみると、飛鳥だけが腹をかかえて大笑いしていた。

「………お前の仕業か…………飛鳥…………」

「あはははは!!!そうだよー。はとのお兄さんの味噌汁にはさっき、この『激辛ソース』を沢山入れといたんだー。あー面白い」

飛鳥の手には真っ赤なドクロがデザインされた瓶があった。

「それにしても見事なリアクションだねー。はとのお兄さん、コメディアンの才能あるよー」

「………そんな才能………いらない………」

「夢寺様!?今水を持ってきます!!」

綾辻が真っ先に水を汲んできてくれた。俺はそれを思いっきり飲み干す。

「………ま、まだ辛い………」

「おほほほほほ!!全く無様な姿ですわ、夢寺サン」

佐々木は俺の醜態が見れたのがよほど嬉しかったのか、愉快そうに笑っている。

クソ………。あいつに馬鹿にされると無性に腹が立つ。

 

 

 

 

 

 

 

だが、そう世の中うまくはいかない。

「ふふ、ではわたくしはこの普通の味噌汁を飲むとしますわ………………か、辛っ!!!!!!な、なんでわたくしの分にまで………!!!」

「はとのお兄さんを見て笑って油断するわがままお姉さんの分にもしっかり入れておいたよー。あー2人揃って面白いなー」

「わ、笑い事じゃありませんわ!!!!み、水っ!!!」

結局俺と佐々木は辛すぎて他の食事が喉を通らず、いたずらをした飛鳥は乃木にしこたま説教させられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

 

 

 

 

 

 

 

夕食を終え、俺は個室でだらだらしていた。

すると突然、

 

 

 

 

 

 

ピーンポーンパーンポーン…………

 

 

 

 

 

「えー絶望亭にいる皆サマにお知らせしまス。ワタクシから重大なお話をさせて頂きたいと思いますのデ、至急1F宴会場までお越し下さいまセ。ちなみ二、遅れた場合、もしくは来られない場合は即処刑となりますのでご注意下さイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………遂に仕掛けてきたか」

このままモノワニが俺達を野放しにする訳がない。

いつか接触を図ってくるとは思ってたが……。

「………行くか」

俺は急いで宴会場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宴会場へと向かうと、俺を除く全員が集合していた。

「私達を呼びつけたモノワニはまだいないのか?」

「うん。多分全員揃ってから現れると思う」

そう言う結城は不安そうに周囲を見渡す。

結城だけじゃない。

ここにいるほぼ全員がこれから起こる事に不安を抱き、辺りを警戒していた。

司、八尋のようにいつも通りの奴もいるが。

 

 

 

 

「皆サマお揃いのようですネ」

すると、俺達が揃うのを待っていたかのようなタイミングでモノワニが現れた。

「テメーなんの用だコラァ!!!」

「そ、そうですわ!!この可憐なわたくしの自由時間を奪うとは一体どういう用件ですの!」

「ワターシ、筋トレの最中デシター!早く筋トレ再開したいデース!」

「おやおや、皆サマご機嫌斜めですネ。何がそんなに不満なのでしょうカ?」

「あんたが呼び出したからに決まってんやろ」

モノワニのとぼけた態度に、いつも穏やかな薬師院でさえも苛立ちを見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいガラクタ。早く呼び出した理由を聞かせろ。この俺様の貴重な時間を使っているんだ。くだらない話ならどうなるか分かっているよな?」

そんな中、通常運転の司が腕を組みながらモノワニを睨み付ける。

「そうですネ。では本題に入らせて頂きましょウ。今回皆サマには…………『動機』を配らせて頂きまス」

「『動機』?」

「はイ。皆サマはどうやら思っていた以上に絆を深めていらっしゃるようデ、一向に殺人が起きない状態が続いているのですヨ。なので殺人が起きやすいよう『動機』を用意いたしましタ。これで皆サマも心置きなく殺人に手を染めることが出来るでしょウ」

「ふざけないでくれ!!!!」

モノワニの言葉に激昂したのは結城だ。

普段の笑みを浮かべた優しい表情から一変、顔を真っ赤にしてモノワニに怒りをぶつける。

「僕達は希望ヶ峰学園の仲間だ!!誰かを殺すなんて馬鹿な真似をする筈がないだろう!」

「そうだよ!!千尋たち、そんなことしないよ!!」

「千尋氏の言う通りであります!!どんな物を渡されようと某、絶対人殺しなんてしないであります!!」

全員がモノワニの言葉に反論する。

当然だ。ここで「殺人をします」とか「ありがとう」とか言う狂人はこの中にはいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフ………。ですがいいのですカ?今回の動機のテーマは……『秘密』ですヨ」

「………秘密?」

俺は思わずモノワニの言葉を繰り返した。

「そうでス。皆サマはまだ知らない事だらけでしょウ?まあここはどこなのか、のような場所的な疑問もあるでしょうガ………やはり一番知りたいのは『何故自分が閉じ込められることになったのか』そして『周りにいる同級生達が何者なのか』ではないでしょうカ?」

周りの同級生が何者か………?

俺達は一斉に自分以外の人間を見る。

「何者も何も、俺達はただ同じタイミングで希望ヶ峰に入学することになった同級生でしかねぇだろ」

何当たり前のこと言ってんだ、と言った風に円城寺が言う。だが、モノワニは首を振りそれを否定する。

「入学したばかりの皆サマはご存じないと思いますガ、希望ヶ峰学園には様々な事情を抱えた生徒が入学しまス。普通の善人だけでなく、犯罪者などの悪人も才能が有れば入学を許可してしまうのでス」

「あー、それってもしかしてボクのこと言ってるー?」

「あ、アンタのことに決まってるだす………」

飛鳥の才能はスリ。どう考えても肩書きは犯罪者だ。

希望ヶ峰はそんな社会的に逸脱した人間も才能が有ればスカウトする。

 

 

 

 

 

「そして中には事情を隠したまま入学する生徒もいまス。例えば、サッカー選手として入ってきた生徒が、実は殺人鬼だったりとか」

「そ、そんな事が………」

殺人鬼と聞いた綾辻は顔が青ざめている。

「もしそのような方がここに紛れていたら………と思うと不安で夜も眠れないのではないですカ?」

「馬鹿なことを言うな!!それはあくまで可能性の話だ!私達の中に素性を隠している人間がいる証拠はどこにもない!」

憤りを見せた乃木がモノワニに詰め寄る。

「でも、素性を隠している人間がいないという証拠もないでしょウ」

「くっ………」

モノワニの反論に乃木は言葉を詰まらせる。

「さらに言うならバ…………もしかしたらこの中にワタクシ達の仲間がいるかもしれませんヨ…………」

「それってつまり…………裏切り者がいるって事でありますか…………!?」

写実の言葉に全員がもう一度自分以外を見渡す。

俺達の中に…………コロシアイをさせている奴の仲間が紛れている?

 

 

 

 

 

 

「フフフ………その通りでス。これは寧ろワタクシからのプレゼントですヨ。皆サマが知りたい同級生の秘密をタダで知ることが出来るのですかラ」

そう言うとモノワニは素早く一人ひとりに封筒を配り始めた。

「これは………?」

「この中に皆サマのうちの誰かの『秘密』が書かれた紙が入っていまス。完全にランダムとなっていますのデ、誰のかは見てからのお楽しみでス」

「だ、誰かのって…………!」

「誰かに自分の秘密が見られるのだすか!?」

桃林が悲鳴をあげる。

「その可能性が高いですネ。しかし自分の秘密が入っている可能性もありまス。確率的に17分の1ですカ」

その確率は、ほとんどのパターンで他人の秘密が入っていると言っているようなものだ。

 

 

 

 

 

 

 

「………それで?動機はこれだけですか?」

すると今まで黙っていた八尋が静かに聞く。

「えエ。これを見るのも見ないのも皆サマの自由でス。しかしワタクシとしては見ておいた方がいいと思いますヨ………。もしかしたらここを出るための手がかりに繋がるかもしれないですしネ………」

「あア、それと皆サマにはプレゼントを1人一つ差し上げまス」

モノワニは手をパンと鳴らすと、目の前にゲームで出てくるような宝箱が出てきた。

「うわー。なんか急に出てきたよー」

「ワターシ、なんかワクワクしマス!!」

「ワクワクすんなよ………」

「これは『パンドラの箱』でス。よく考えたら皆サマがコロシアイをさせるにあたって凶器があまりにも少ないと思いましテ、これを支給させて頂きマス」

「凶器………?もう少し具体的な説明が欲しいですね」

「自分の名前が書かれた箱を取って下さイ。その中には皆サマ専用の凶器が1つ入っていまス。中身は見てからのお楽しみですネ。そして凶器は全員別々でス」

「凶器が被る、って事はないんやね」

「その通りでス。説明は以上ですネ。では皆サマ、支給された凶器を上手に使って、有意義なコロシアイ生活をお過ごし下さいまセ」

そう言い残すとモノワニは姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………みんな、こんな物絶対に見ちゃ駄目だ!」

団結を何よりも重んじる結城は力強くそう訴えた。

「私も結城様に賛成です。同級生同士で殺し合うなんて………ふざけています」

医者であり、人の命の重みを知る綾辻も当然のように賛成した。

他の数人もうんうんと頷いている。

「……ククク。中々面白い事になってきたじゃないか。当然、俺様は見るぞ」

しかし、ここには17人も人がいる。賛成意見もあれば、当然反対意見も出る。

司もそのうちの1人だった。

「なっ!?司君!!見ては駄目だ!!」

「そもそも前提として、この紙の処分は個人の自由なんだろう?なら俺様がこの紙をどう扱おうがお前らには関係ないし、ましてや強制される理由もない」

「そ、それは………」

「それに何故俺様がお前みたいな低脳の指図を受けなければならない?俺様に命令出来る人間なんてこの世には存在しないんだよ。分かったら二度と俺様に話しかけるな。反吐が出る」

そう吐き捨てると、堂々と歩きながら宴会場を後にした。

 

 

 

 

「くそ………!どうして………!」

結城は拳を握り締め悔しさを露わにする。

「ま、まあ司氏は放っておくであります。何を言っても無駄でありますから。某らが見なければ問題ないでありますよ」

写実がオロオロしながらフォローを試みる。

「………すまない。私は…………これを見ようと思う」

しかしそんな写実の言葉を否定する形で発言した者がいた。

その少女、乃木環は震える手で封筒を見つめている。

「乃木さん………?君まで何を言……」

「私には…………自分の名前以外の記憶がない。この動機は………私にとっては自分が何者なのかを知るチャンスなんだ…………」

「駄目だよ!自分以外のであった場合はどうするんだ!」

「当然、持ち主の元へと返す。私はただ、私に関する情報が欲しいだけなんだ…………」

拳を握りしめながら悔しさを露わにする乃木。

いけないことだと分かっているのに、それに縋り付くしかない。

真面目な乃木にとってこれほど悔しいことはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「ボクも見るよー。だって面白そうだしー」

「…………自分も正直見たい。今はとにかく情報が欲しい時だからな…………」

「あーしも見るよ〜。なんか興味あるし〜〜〜」

「僕も見ますよ。自分の秘密なんてどうでもいいですが、他人の秘密を知れる機会なんて早々ないですからね。それにモノワニが言っていたようにここを脱出する繋がる手がかりになるかもしれませんし」

「うちも見たい気持ちの方が強いなぁ。だって、誰も見いひんかったら自分の秘密を誰が持ってんのかすら分からへん状態のままだし、それってなんか他人に弱みを握られてるみたいで嫌やろ?」

そして驚くべきことに、見たい派の人間は他にも数名いた。

「どうして………!見ても混乱を生むだけだよ!」

「な、なら………見たい人だけ見るというのはどうでしょうか?」

自分の気持ちが分かってもらえず落胆の表情を浮かべる結城に対して、青ざめた顔のまま綾辻がそう提案した。

「それで他の人であったなら、先程乃木様がおっしゃられたように責任を持って持ち主へ返却する。自分のであったならそのまま。そしてそれを誰かに報告する。こういう風ににすれば……」

「なるほどな!こうすりゃ誰が誰の秘密を持ってたのか把握出来るもんな!」

「結城。これ以上の議論は平行線になると思う。各自の判断に任せないか?」

俺は結城にそう声をかける。

 

 

 

 

 

 

「…………分かった。そうしよう」

数秒の沈黙。そして結城はゆっくりそう言った。

「ただし、さっき綾辻さんが言った通り、開けた人は誰の秘密だったかを必ず僕に報告してくれ。それが最大の譲歩だ」

「えー。めんどくさいなー」

「そんくらい我慢しろや」

「それとこの『パンドラの箱』は絶対開けないと約束してほしい。これだけは何があっても開けないで欲しいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの…………ワターシ、もう開けてしまいマシタ」

するとハルクが珍しく消沈した様子でそう発言した。

手には確かに開封された箱がある。

「な…………!どうして勝手に開けるんだ!!」

「その…………つい気になってシマッテ………」

怒られたハルクは申し訳なさそうにしゅんとしている。

「まあまあ、開けちゃったのはしゃあないやん。ほんで、中身は何だったん?」

怒りを露わにする結城を宥めながら薬師院は中を覗き込み、周りのみんなもそれに続く。

「これは…………ククリナイフでありますか?」

ハルクの『パンドラの箱』に入っていたのはククリナイフだった。

「何それ〜〜〜。超物騒な奴じゃ〜ん」

「このような物が他の箱にも入っているのか………。なら開けるのは問題外だな。………いいか皆、結城晴翔の言う通りこの箱は絶対に開けるな。危険な物が入っているのはこのククリナイフで照明出来ただろう。」

「…………ま、開けなきゃいい話だもんな」

「………自分はそれで構わない………」

「千尋もいいよー!」

「よし。この話はこれで終わりだ。全員一度頭を冷やそう。私含め動機が思った以上に効いてるみたいだからな」

乃木の一言でこの場は解散することになった。

 

 

 

 

 

 

「ユーレイのお兄さんは見るのー?」

「こんなもん絶対見ねえ………と言いてえところだが、悩みどころだな。一晩考える」

「わ、ワタシは見ないだす!触るのも嫌だす!」

「オー。でもグルメリポーターサン、今既に触ってマスヨ?」

「うるさいだす!!」

「ねえ八尋ー。千尋どうしたらいいかな?」

「知りませんよ。見たければ勝手に見てください」

解散後、宴会場を出る間に各々が秘密を見るかどうかについて話し始める。

 

 

 

 

 

 

「おい蓮。オメーはどうすんだ?見んのか?」

「俺は…………」

雷哉に聞かれ、俺は自分の手にある封筒に改めて視線を落とす。

情報…………。

それは今の俺達が喉から手が出る程欲しい物だ。

たとえそれが脱出の役に立たないものだとしても………見る必要があると考えてしまう。

だが、結城の言う通り中身によっては俺達の仲にに亀裂が走る可能性だって十分考えられる。

「………ひとまず保留だ。1人で考えてみる」

「……蓮らしいな。じゃあオレも考えてから決めるかー。………ふわぁ、じゃあオレもう寝るわ」

雷哉は欠伸をしながら出て行った。

他のみんなも宴会場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

「夢寺君…………。君も見るのかい?」

そろそろ戻るかと思い俺も出口へ向かおうとする。

すると背後から結城に声をかけられた。

振り返ると、憔悴しきった様子の結城がこちらを見ていた。

「俺はひとまず保留だ。モノワニが仕掛けてきたものだし、慎重に判断しないといけない気がする」

「そっか………」

結城はそれだけ呟くと、虚ろな目で上を見上げた。

「…………この動機は絶対見ちゃいけないんだ。せっかくみんな仲良くなってきたのに、これじゃあまた疑心暗鬼の関係に元通りだよ。こんな卑劣な事を仕掛けてきたモノワニに対して怒りを覚えているよ」

「けど、何より1番腹が立つのは、みんなの意見をまとめる事が出来なかった自分自身にだよ」

「結城の気持ちは分かる。けど、情報が欲しい、中身が気になるという意見も俺は正直理解出来るんだ。………結城、みんなを信じよう。きっと大丈夫だ」

俺は少しでも結城の気持ちが軽くなるように慰めの言葉をかけた。

「………ありがとう、夢寺君。そうだよね、暗い気持ちだといつまで経ってもプラスには働かないよね」

前を向き、しっかりとした足取りで出口へと向かう結城。

「夢寺君も、苦しい時があったらいつでも言ってね。こんな僕だけど、相談相手くらいにはなれると思うから」

「………ああ」

「じゃあ、おやすみ」

そう言うと、結城は宴会場を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

個室へ戻ると、俺は今一度封筒を手に持ちながら思考する。

見るべきか………。

それとも見ない方がいいのか………。

そして俺は自然と封筒の封を破り、中身を取り出していた。

結城、悪い。

俺はやはりこの中身を知りたい。

たとえ見た結果事態が悪化するとしても、だ。

俺は彼に対して心の中で謝罪した後、中身を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【綾辻澪は患者を見殺しにしたことがある】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「綾辻が………患者を見殺し?」

中に書かれていたのは、俺の秘密ではなく、綾辻の秘密であった。

しかも内容は、医者である綾辻が患者を治療せず見殺しにしたというものであった。

「………俄には信じ難いな」

誰に対しても丁寧な態度で接し、とりわけ怪我人には誠心誠意最善を尽くして対応するあの綾辻だ。

そんな彼女が見殺しにするとは到底思えない。

やはり俺達を混乱させるための嘘なのか。

「………考えても仕方ないか」

俺はひとまず、手紙を綾辻の元へ渡しに行くことにした。

別の人の秘密であった場合は、持ち主の元へ返す。

それがルールである以上、俺がそのまま持っているのはルール違反になる。

この内容が嘘であっても、本当であってもだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綾辻の個室前に来た。

俺は深呼吸をすると、静かにドアをノックした。

「………はい」

すると中から小さな声が聞こえてきた。

「俺だ。夢寺だ」

同じようなボリュームでそう返すと、

「ゆ、夢寺様!?しょ、少々お待ち下さい!!」

さっきの倍以上の声量で綾辻が答えた。

そしてドタドタと足音や物音が聞こえてくる。

俺の来訪に相当驚いているようだ。

やはり、急に来るのはまずかったか。

事前に連絡しておけばよかった。

俺はやってしまったとその場で頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、お待たせして申し訳ありません………。とても人様の前に出れるような格好ではありませんでしたので………」

5分程経過した頃だろうか。

綾辻がそっとドアを開いて顔を見せた。

「いや、こっちこそ申し訳ない。俺が事前に連絡しておけば良かった話だ」

「いえいえ、全然そんな………」

「それで早速だが、綾辻も俺に長居はして欲しくはないだろうし手短に済ませる。………これを渡しにきたんだ」

俺は手に持った封筒を見せる。

「これは………動機の封筒でしょうか?」

「ああ。俺は結局中身が気になって見てしまったんだが、中身は綾辻の秘密だった。開けた結果それが他人の秘密なら、その本人に渡すというのがルールだからな。綾辻に渡すのが筋だろ」

「……なるほど」

綾辻は俺の手にある封筒を受け取り、その場で中身を見る。

「………!?」

「ただ、その………申し訳ないんだが、さっきも言った通り中身を見てしまった」

「…………」

俺の言葉に反応せず、彼女はじっと中身を見つめている。

「けど、俺は絶対に綾辻の秘密を誰にも話さないと約束する。だから………今日はこれで………」

秘密を見てしまった後ろめたさからそそくさと自分の部屋に戻ろうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待ち下さい」

しかし、それは叶わなかった。

綾辻が俺の手首を掴んだのだ。

「………え?」

「失礼を承知で申し上げます。………夢寺様、私の部屋に上がってもらえないでしょうか?」

「…………」

!?!?!?!?!?!?

「な、なんで………?」

「この動機に関するお話を夢寺様にさせて頂きたいんです」

「…………分かった」

予想外の展開に驚いたが、綾辻の真剣な表情を見て断ることも出来ず、俺は部屋に上がることになった。

 

 

 

 

 

 

 

綾辻の個室

 

 

 

部屋の中は、まさに綾辻の性格を表しているようであった。

乱れた所は一つもなく、全てにおいて整理整頓がされている。

そして………なんかいい匂いがする。

「あ、あの………そんなに見られると恥ずかしいのですが………」

思わず部屋を見渡していると、顔を赤らめた綾辻がそう言ってきた。

「わ、悪い………!別に変なことを考えてたわけじゃないんだ。ただ、俺の部屋と違って綺麗に使われてるなって思っただけなんだ」

「………本当ですか?」

狼狽える俺に対して綾辻は覗きの件もあるからか、疑いの目を向けていた。

「本当だ」

「誓いますか?」

「誓う!」

思わず大きな声で言ってしまった。

それを見た綾辻は………

「………ふふふ、冗談です。夢寺様がそのような方ではないのは知っております。ですが、部屋を褒めて頂いた事に関しては嬉しいです。ありがとうございます」

柔らかな笑みを浮かべながら彼女はベッドに腰掛ける。

何やってんだ俺は。

乃木に女性の部屋をジロジロ見るなと言われたばかりじゃないか。 

綾辻が許してくれたから良かったものの、そうでなければ変質者の烙印を押されてもおかしくはないことを2度もしてしまった………。

俺の大馬鹿野郎。

 

 

 

 

 

「それで?俺に話っていうのは………」

「私の秘密の話です。その、内容について詳しくお話ししたいと思いまして」

「いいのか?俺にそんな秘密を話して」

「ええ。つまらない話ですが、最後まで聞いて頂けると幸いです」

綾辻はゆっくり息を吸うと語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

私がとある国での内乱を鎮圧する軍の医者として同行させて頂いた時のことです。当時戦力は拮抗しており、両軍負傷者が多数出ておりました。そして段々と戦況は激化し、負傷者の数はどんどん増えていきました。それと同時に医療はひっ迫していき、人員や道具が足りなくなっていきました。

その時、2人の負傷者が同時に運ばれてきました。

1人は治療すれば回復する可能性が高い兵士。

もう1人はかなりの深手を負っていて、治療しても助かるかどうか分からない兵士。

普通なら2人とも助けると思います。しかし今は人も物も足りてない状況。私はそこで決断を迫られました。確実に助かる人を助けるか、死が近い方を助けるか。

 

 

 

 

 

そして私は、助かる方の治療をすることに決めました。

薄い可能性に賭けるくらいならなら私は確実に1人を救う。

今にも息絶えそうな患者に限りある薬は使えない。

そんな非情な考えの元、1人の兵士を見捨てたのです。

…………そんな事を何回もしました。

何度も、何度も患者を見殺しにしたのです。

助かる可能性が1%でもあるなら、医者は全力で治療に取り組むべきなのに。

物資に限りがある。人員に限りがある。そんな理由で私は患者を見捨てた。

その数…………50はいってると思います。

だから私には…………医者の資格はないと思っています。

今も………そしてこれからも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「以上になります」

「………この秘密はそういうことだったのか」

「はい。ですからここに書かれている秘密は事実と考えていいと思います。断定はできませんが」

淡々と自身の過去について話し終えた綾辻。

「何故、この話を俺に?」

「………分かりません。どうしてなんでしょう。話した所で許される筈がないのに」

困ったという風に彼女は笑う。

「でも…………何故か夢寺様には話していいと思ったんです。私が皆様の中で一番信頼している夢寺様になら、秘密を打ち明けていいのかなって」

随分と俺を信頼してくれているようだ。

「どうしてそこまで信用してくれるんだ?モノワニの言うように俺が裏切り者かもしれないぞ」

「私みたいな人間を身を挺して庇って下さった方が裏切り者の筈がありません」

ハッキリと俺の目を見て言い切った。

「………そうか。ならせっかく話を聞かせてもらったし、俺も何か言わないと申し訳ないな」

「い、いえ!そんな、私が勝手に話しただけなので。夢寺様が無理に何かを言わなくても………」

 

 

 

 

 

 

 

「綾辻。お前は自分にもっと自信を持っていいと思う」

「………え?」

予期せぬ言葉だったのか、綾辻はピタリと固まる。

「お前はどうやら過去の経験から自分は医者に相応しくないと思っているようだが、俺はそうは思わない。寧ろ立派な医者だと思ってる」

「けど………人を見殺しにした医者なんて………」

「道具やら人手やらが足りなくて助けられなかったって言ってたよな?優しいお前のことだ。なんとかある道具を使って出来る限りの処置をしたんだろ?」

「それは………そうですが」

「見殺しというのは、何もせずに完全に放っておく事だ。だから見殺しになんかしてない。医者としてやれるだけのことはやったんじゃないかと俺は思う」

「夢寺様………」

「これから先、きっと綾辻の医者としての腕を必要とする人が現れると思う。だから、医者の資格がないなんて悲しいこと言わないでくれ。ここにいるみんなも、そして俺も必ず綾辻に頼る時が来る筈だ。少なくとも、俺は綾辻を信用してる」

「…………」

「悪い。素人が偉そうな事言って。俺そろそろ戻るよ。いつまでもいたら邪魔だしな」

「あ………」

俺は呆然としている彼女を背に部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………私は」

夢寺様に言われた言葉。

立派な医者だなんて………初めて言われました。

私は、これからも医者と名乗っていいのでしょうか。

ここに来てから私は何の役にも立っていない。

怪我を治すどころか、夢寺様に怪我を負わせてしまう始末。

 

 

 

 

しかし、そんなガラクタのような私が必要だと言って下さった。

「………やはり貴方は優しい方です」

ありがとうございました。

夢寺様…………。私、もう少し自分に自信を持ってみようかと思います。

私を必要としている皆様の期待に…………応えなくては。

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に帰った俺は、ベットで仰向けになりながら考えていた。

綾辻の件から、書かれた秘密は事実である事が分かった。

「そうなると………尚更俺のが気になるな」

一体、誰が俺の秘密を持っているのだろうか。

「まあ、気にしても仕方ないか」

明日誰かが俺の元へ届けに来てくれると信じて、ゆっくり目を閉じて眠ろうとする。

「もしも〜〜〜〜し」

すると突然、ドアがノックされ間伸びした声が聞こえてきた。

「百々海か。どうしたんだ?」

「はいこれ〜〜〜。あーしの蓮ちゃんの秘密だった〜〜」

ドアを開けると、声の主である百々海がいた。

どうやら彼女の受け取った秘密は俺のだったらしい。

「そうか。ありがとう」

「どうしたしまして〜〜〜。ちなみに中身は誰にも言わないから安心していいよ〜〜〜」

百々海はそれだけ言うと去っていった。

「………よし、開けるか」

早速俺は封筒の中身を取り出す。

…………緊張する。

俺は震える手でそれを開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『夢寺蓮は多重じんかく実験の生き残りである』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝。

「おはよう」

動機発表の翌日。

いつも以上に重い体を引きずって食堂に入ると、数人が深刻そうな表情をしながら話をしていた。

「何かあったのか?」

「夢寺君………。良かった。ちゃんと来てくれたんだね」

近くにいた結城に声をかけると、結城は俺の顔を見て安心した表情を見せた。

「実は何人かの姿が見えないんだ」

「いないのは佐々木氏、飛鳥氏、乃木氏、百々海氏の4人であります」

隣にいた写実がいない人物を教えてくれる。

「百々海様はともかく、他の3人は普段ちゃんと来ていらっしゃるのに………何故今日は来られていないのでしょうか…………」

「女ばっかだな。なんか女子会でもしてんじゃねーの?」

「だとしたら随分と微妙なメンツやねぇ。あの4人、女子会やるほど仲よくないと思うけどなぁ」

薬師院の言うことには一理ある。あいつらが仲良く女子会をやる姿が全く想像出来ない。

「とりあえず15分待てばいいだろ。寝坊の可能性もあるしな」

料理が盛られた皿を手に持ちながら円城寺が提案する。

「…………うん、そうだね。ひとまず待ってみよう」

俺達は3人が来るのを朝食を食べながら待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来ないね…………」

集合時刻から15分が経過した。

しかし、誰一人として姿を現さない。

「ど、どうするだすか………」

「仕方ねえ。総出で探すぞ」

円城寺が腰を上げる。

「晴翔。振り分けとか指示しろや。誰がどう探せば効率的か、てめえが1番よく分かってるだろ」

「うん。分かったよ」

円城寺に呼ばれ結城は立ち上がる。

「まず、天草君と桃林さん、写実君はここに残ってほしい。万が一僕達がいない時に彼女達が来て誰もいなかったら入れ違いになってしまうからね」

「…………了解した」

「わ、分かっただす。晴翔くんが言うのであれば」

「任せるであります!」

天草と桃林、写実はそれぞれ頷く。

「後は3人1組で手分けして探そう。僕と薬師院さん、それに円城寺君は本館の宴会場や医務室を探す。八尋君と千尋さん、それにハルク君は別館の個室をお願いするよ。そして夢寺君と風神君と綾辻さんは大浴場を見てきて欲しい」

「よっしゃ蓮!早く行こうぜ!」

雷哉は今にも走り出しそうな格好だ。

「分かってる。綾辻、行こう」

「承知しました。急ぎましょう」

こうして俺達捜索をすることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大浴場ってもよ、今いねーのは女だけだろ?なら女湯だけ探せばいいんじゃね?」

大浴場へ向かう途中、雷哉はそう発言した。

こいつ、普段は脳筋のくせに時々核心をついた発言をするんだよな……。

「………確かに風神様の言う通りです。女性の皆様は男湯には入らないでしょうし、何よりルール上入ることが出来ないわけですから」

綾辻もそれに同意する。

「ああ。となると女湯を見るのは綾辻に任せるしかないか……」

俺と雷哉が男である以上、女湯に入れるのは綾辻だけだ。

「オレ達、来た意味なくね?」

「ひとまず、女湯の様子を綾辻に見てきてもらって、その間に俺達も念のため男湯を見ておこう」

「分かった!」

「分かりました」

そんな話をしているうちに大浴場前へと到着した。

「よし、オレ達は男湯だな!」

「用心してくれ、綾辻」

「承知しております。夢寺様達もお気をつけて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「男湯は特になんもねーみたいだな」

「そうだな」

男湯に入るといつも通りの光景が広がっていた。

特におかしな所はない。

「よし、じゃあ後は綾辻の報告を待って………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャーーーーー!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

綾辻の大きな悲鳴が聞こえた。

 

 

 

 

 

「綾辻!?」

「行くぞ雷哉!!!」

俺達は全速力で女湯へと向かった。

「綾辻!!どうしたんだ!?」

そして入口を叩き声をかける。

「!?おい蓮!!ドア開いてんぞ!」

ドアノブをガチャガチャしてた雷哉がドアが開いている事に気がついた。

何故パスポートをタッチしていないのに開いたのかは分からないが、とにかく俺達は急いでドアを開け脱衣所へと入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中にいたのは、床に倒れている佐々木と腰を抜かしながら大浴場内を凝視している綾辻だった。

 

 

 

 

「佐々木!!綾辻!!」

俺はまず倒れている佐々木に駆け寄り脈を確認する。

「…………生きてる」

気を失っているようだが、脈は正常だった。

ほっと胸を撫で下ろす。

「おい綾辻!!どうしたんだよ!?」

「あ…………あ…………」

雷哉の問いかけに対し、綾辻は口をパクパクさせながら大浴場内を指差している。

「一体何が…………………あ?」

指差す方向を見た雷哉もその場で固まってしまった。

俺も慌てて大浴場内に視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピーンポーンパーンポーン…………

 

 

 

 

 

 

 

 

「死体が発見されましタ。一定の捜査時間の後、学級裁判を開きまス。皆サマ、至急1Fの女湯へとお集まり下さいまセ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水の音が流れる大浴場。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その湯船に、大浴場には似つかわしくない何かが沈んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその人物が誰か、すぐ分かってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でだよ…………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピクリとも動かないその少女は、《超高校級の水泳部》百々海 真凛で間違いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして悲劇は終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はふと、とある場所に目を向けた。

理由は特にない。

気が動転していたからかもしれない。

そこで俺は衝撃的なものを見つけてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サウナの中に誰かいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サウナ………」

俺がそう呟くと同時に、雷哉と綾辻が揃ってサウナの方へ視線を向ける。

そして俺近づき、震える手でドアをそっと開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピーンポーンパーンポーン…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「死体が発見されましタ。一定の捜査時間の後、学級裁判を開きまス。皆サマ、至急1Fの女湯へとお集まり下さいまセ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒸し風呂のような状態のサウナは当然熱気に包まれていた。

数分もいれば暑くて汗が止まらなくなるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、今は全く暑さを感じなかった。

寧ろ今目の前で起きている現状に寒気を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

裸にタオルを一枚巻いただけのその人物は、目を閉じて静かに座っている。

だが、動く様子は全く見られない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の正体を探していた少女、乃木環は全てを悟ったような顔で死んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生存者

 

 

1 飛鳥 圭《スリ》

2 天草 京介《神父》

3 綾辻 澪《軍医》

4 円城寺 霊夜《オカルト研究家》

5 風神 雷哉《喧嘩屋》

6 北桜 千尋《ピアニスト》

7 北桜 八尋《作曲家》

8 佐々木 莉央奈《かるたクイーン》

9 写実 真平《カメラマン》

10 司 拓郎《秀才》

11 百々海 真凛 《水泳部》

12 乃木 環《???》

13 ハルク ゴンザレス《ボディービルダー》

14 桃林 林檎《グルメリポーター》

15 薬師院 月乃《女将》

16 結城 晴翔《バトミントン部》

17 夢寺 蓮《マジシャン》

 

 

残り15人

 

 

 

 

 

 

 

 

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