地の文もなし
「じゃあネコネ。
そろそろ詳しい説明を頼む」
「はいなのです。
まずヤマトとは無数の國からなる大國になるです。
所属している國はクジュウリやシャッホロなどの強國もあれば、エンナカムイやイズルハのような小さな地方都市國家などさまざまです」
「そして、ここ帝都はヤマトを纏めるミカド様が
ヤマトの政治、経済、文化は全てここに集まっているのです」
「そのミカド様はこの前会ったあの子のことか」
「そうなのです。
今上のミカド、アンジュ様は偉大なる先の帝様の直系の子となるのです。
先帝様がお隠れになってからもう数年が経つのですが、その間大きな混乱もなくヤマトが繁栄できているのはミカド様の治世あってこそなのです」
「随分と偉いミカドさまなんだな。ネコネが掛け値なしに褒めるなんて。
たが政治的にはかなり敵が多そうだったぞ」
「…それだけ先帝様が偉大だったのです。
先帝様は建國から数百年、このヤマトを繁栄させてきたとうたわれているのです」
「数百年?新人類はそんなにも長生きなのか?」
「はい?先帝様は
マシロ様など
「…どういうことだ?
自分の記憶では今のミカドさまは尻尾や獣耳のある新人類だったはずだが…」
「……?先帝様がアンジュ様を直系の子と呼ばれたので、アンジュ様が新人類でも何もおかしくはないのです」
「ああ、…そう。すまん、話を戻してくれ」
「わかったのです。
その、偉大なる先帝様に深く重用されていた方達が、今上のミカド様と政治的に大なり小なりと対立しているのです。
例えば、大老のウォシス様を筆頭に、八柱将のヴライ将軍やルルティエ様の父オーゼン様などが先帝様を今でも敬う旧体制派、所謂旧派の中核なのです」
「ルルティエの父さんはそっちなのか。
じゃあ、ネコネとオシュトルはミカド派なのか?」
「そうなのです。
ミカド様を支持する新体制派、新派はもちろんミカド様を筆頭に、八柱将の兄様やライコウ様、近衛大将のゲンホウ様やミカヅチ様などがいるのです」
「なるほどな。
けど、そんな対立までしてそれぞれ何を目指しているんだ?
旧派なんて、その先帝さまが既にいないんだろ?」
「今のヤマト、というよりミカド様は外国宥和政策を目指しているのです。
新派はそれを支持し、兄様は北にあるウズールッシャを支援しようとしていて、ライコウ様は海の向こうのトゥスクルとの外交を進めているのです」
「しかし、旧派はその宥和政策に反対していているのです。
先帝様は
その政策を支持している旧派は、引き続き中央集権を目指すヴライ将軍と、これからは地方分権を目指そうとするオーゼン様とシャッホロの皇ソヤンケクル様に大きく分かれているのです」
「大老のウォシスは調整役なのか?」
「そうですね。
…あまりヴライ将軍は政治が得意ではないので、無駄な争いに発展しないようにウォシス様が動いているところはあるのです」
「新派旧派でもさらに分かれてるってことか。
それで、あまり聞きたくないんだが今の自分の立場はどうなるんだ?」
「…かなり複雑なのです。
新派としては、申し訳ないのですが…あまり影響力を持って欲しくないと思っているのです。
なのですが、先帝様と同じ
そのため閑職ではあるのですが、ここ帝都の治安と司法の権力を持つ位として新しくつくられた検非違使の長官、別当の地位に就いてもらったのです」
「ネコネはその補佐兼監視役ってところか?」
「そ、そうなのです。
一応後から、ライコウ様とミカヅチ様の妹のリムリ様や、ルルティエ様などもここに所属することになるのです」
「前任者とかはいないのか?
誰もここの仕事がわからないとまずいだろ」
「別当という役職は新たに作られた役職なので前任者はいないのです。
なのですが、検非違使のまとめ役の前任者としてスズリ様がこちらに来るはずです」
「ああ、えーと…あの時はあまり深く考えてなかったんだが、その子を蹴落とした形になるのか?」
「…そうでもないのです。
今回検非違使には限定的にではあるのですが、新たに司法権も加えられたのです。
…実質別当はお飾りなところもあるので、スズリ様としては権力が強くなったと考えることもできるのです」
「それと、スズリ様は先帝様の子でもあるのです。
ですので、権力争いを心配する必要はあまりないのです」
「なんだスズリって子はミカドさまの妹さんなのか」
「妹様ではないのです。
ミカド様とスズリ様は血がつながっていないのです。
直系と傍系の違いがあるため、スズリ様は帝位継承権はないのです」
「んん?よくわからないんだが、両方先帝さまの子なんだよな?
それがどうして直系と傍系になるんだ?
両方直系だろ?」
「先帝様がそうおっしゃられたので、そういうことなのです。
「……ああ、なんとなくわかった。
先帝さまは本当に旧人類なんだな…。子ってそういうことか…。
…他にも先帝さまの子はいるのか?」
「そうですね、東宮府のホノカ様や鎖の巫だったウルゥル様、サラァナ様も先帝様の子になるです。
他にライコウ様とミカヅチ様、それとウォシス様の副官をしているマグネシグネ様、ナトリイトリ様、アルテオルト様もそうだと噂されているのです。
後、件のウォシス様も先帝様の子ではないかと言う話もあるのです」
「なんだ、随分といるのか。
しかし先帝さまの子なのに副官をやってるのは意外だな」
「その三方は先帝様より褒美として下賜されたのです。
…それとまだナイショの話なのですが、マシロ様にも鎖の巫であったウルゥル様とサラァナ様がミカド様より譲られる話が進められているのです」
「いや、自分はいらんぞ」
「そうもいかないのです。
当の2人がそう希望されているそうなので、ミカド様は権威付けのためにこのままの運びにすると思うのです」
「さらに増えるのか…。
…鎖の巫『であった』ってのは今は違うということか?」
「鎖の巫は先帝様が退位する際に、
なんでも、役目は終わったそうなのです」
「ほー、役目、ね」
「他に何か訊きたいことはあるですか?」
「そうだな。
これ以上人について聞いても、まだ会ったことがないから覚えられないだろうし、とりあえず他國について訊こうか。
さっき言ってたウズールッシャとかトゥスクルとかはどんなところなんだ?」
「ウズールッシャはここから北に離れた國で、作物があまり育たない大地のため、全ての民が遊牧民となっているです。
そのため一つの國家ではなく、それらの部族が集まる地方を指しているです」
「國にもいろいろあるんだな。
それで、オシュトルの支援はうまくいってるのか?」
「ヤマトに近い地域では順調に発展しているのです。
ただどうしても遠く離れると土地の改良が上手くいかず、作物を育てることがまだできないのです。
そういう格差から反発もあり、これはヤマトの侵略だと言って反ヤマト勢力もできているのです」
「土地の改良か。
自分は前、って言うか遥か昔にその研究をしていたぞ。
もしかしたら何か手伝えるかもしれん」
「それはとても助かるです!
あっ…、でも、その、あまり功績を立てられると…」
「あー、そうだな。まあ、何か困ってたら相談してくれ。
解決の糸口ぐらいなら掴めるかもしれんしな」
「こちらの都合で本当に申し訳ないのです。
でも、
ミカド様と兄様とよく話し合ってから相談したいと思うです」
「次はトゥスクルだな。
ここから海を越えて南の國ってことは島國のことか?」
「そうなのです。ご存知ですか?」
「いや、地理を知っているだけだ。
それで、その國はどんなところなんだ?」
「トゥスクルはつい最近できた國なのです。
これまでは長く戦乱続きで、とても治安が悪いところだったのです。
それから大きな戦を何度も経て、ようやく統一國家が生まれたそうです」
「なんだできたばかりの國なのか。
てっきり
「…
もしかしたらマシロ様のように眠っている方もまだいるかもしれないのですが、わたし達が知る限り
「そ、…そうか。…生き残れなかったんだな、自分たちは。
……いや、トゥスクルが怪しい國じゃなくてよかった。
続きを頼む」
「はいなのです。
トゥスクルは戦乱続きでしたが、ウズールッシャのように乾燥した気候ではないので、土地はとても豊かなのです。
なので、現在は順調に発展しており、ヤマトとも交易ができる程度にまでなったのです」
「現在は帝都やクジュウリ、シャッホロなどの商人がトゥスクルと個人間で交流をしてるです。
ですが、ライコウ様は正式に国交を結び、ヤマトとトゥスクルで貿易をしようと考えているのです」
「そっちは順調そうだな」
「…そうでもないのです。
トゥスクルの政務官はほとんどが武官上がりで、政治のセの字も知らない人ばかりなのです。
それで現状、誰と交渉すればいいのかもうまく決まっておらず、なかなか進まないのです」
「…大変そうだな。
周りがそんな國しかないんだったら、別に宥和政策を取らなくてもいいんじゃないか?
内政で國を豊かにするべきだろう」
「もちろん内政もやっているのです。
ですが、この政策は今の敵と将来の敵に対する処置なのです。
ウズールッシャからはこれまでも多くの略奪行為があり、トゥスクルはこれから大きくなる國家です。
今のうちから手を打っておくのは決して間違っていないのです」
「ああ、その通りだな。
適当なことを言ってすまない」
「そ、そんなことないのです。
ヤマトがここまで大國になれたのも、
「いや、だから自分は何もしてないんだが…」
「いえ、
それだけで敬うべき存在です」
「これもデコイの影響か……」
「デコイ?なんですか?」
「いや、何でもない。
ありがとうな、詳しく説明してくれて。
とても勉強になった」
「役に立てたのなら良かったのです。
では、明日から帝都の治安、使別当をよろしくです」
「ああ、ほどほどに頑張ることにするよ」