勝てるわけがないYO!逃げるんだぁ……
絶対誰もが思い付いたネタ。僕だけじゃない筈。
16話です。
「──作戦はこうです。
まず私とシグルドで向かってくるワイバーンを出来得る限り迎撃します。
マリーは討ち漏らした敵が市民を襲わないよう守りをお願いします。
……正直作戦と呼べるようなものではありませんが、今できる手で戦う方法はこれしか思い浮かびませんでした……」
「充分すぎるほどよ。ありがとうジャンヌ。
それから、謝罪を。ゴメンなさい。私の我儘に付き合ってしまわせて」
「貴女が守ると決め、残ると言ったのです。私達はその願いを尊び、貴女の願いの為に旗を振るうのみです。
それに、私もこの街を、住民を助けたい。この想いにやはり嘘はつけません。私は自らの想いに従ったのです。
……話はここまでのようです。来ました。皆、戦闘準備を!」
ジャンヌの言葉と共にワイバーンの群れが波のように押し掛けてくる。
100を超える数に本気でこの街を落としに来ているのが分かる。
でもね、この街は落ちない。落とさせない。なぜなら──
「こっちには最強の騎士がいるのよ!やりなさい、セイバー!」
「了解。これより迎撃を開始する」
無数のワイバーンの群れに果敢に突っ込んでいくシグルド。
竜殺しの性質を持った魔剣グラムがワイバーンを斬り殺し、刺し殺し、抉り殺し、次々と敵を屠っていく。
その暴れっぷりを遠くで見ていて、この特異点で彼を召喚できて本当に良かったと安堵する。
「す、すごい……あれだけの数のワイバーンを単騎で殲滅するなんて……これが北欧の大英雄の力……!」
《うへぇ……ワイバーンの死体がいっぱい積み重なってる。凄惨な光景だなぁ。っと、まだまだ油断しちゃいけない。敵の追加だ!》
敵の勢いは減ることなく、シグルドの勢いもまた止まることはない。
街に入ろうとするのがいても何処から取り出したのか、短剣を投擲して心臓を穿つ。
ジャンヌも奮闘しているが万全の状態ではない為か、少し苦しそうに肩で息をしている。それでも何とかワイバーンを撃退し続けている。
いける、この調子ならモンリュソンを守り切れる。
──しかし、そう簡単にいく筈がない。
《皆、気をつけろ!敵のサーヴァントに動きがあった! 二つの大きな反応がそっちに急速に近付いてきている!》
ドクターの言葉に指定された方を見遣る。
飛竜に跨り飛来してくるサーヴァント二騎の存在を確認できた。
黒い甲冑の騎士に、黒の外套を纏った男。
接近してくる英霊を足止めするべく、短剣を投擲したシグルドだったが、黒い騎士がそれを一蹴する。
「Arrrrrrrrrrr──!」
そして、叫ぶ。
その声には理性が感じ取れず、憤激と狂気のみが込められており、激しい叫びが鋭く耳を貫いた。
黒い騎士は自身の得物である長物を握りしめてシグルドに急接近する。
「A───urrrrrr!」
黒い騎士の重い一撃をシグルドは受け止める。
「それじゃあランスロット。この場は君に任せるよ」
しかし、その隙にもう一騎のサーヴァントに対処できず、モンリュソンへの侵入を許してしまった。
「ジャンヌ殿!ここは当方が受け持つ。貴殿はあのサーヴァントを!」
「わ、わかりました。御武運を!」
◆
外套のサーヴァントが、ワイバーンを引き連れて高速で迫ってきている。
信頼する私の騎士は黒騎士の相手で手一杯で動けずにいる。
その後方をジャンヌが追いかけてくる。
────やるしかない。正直、私にできることは少ない。魔眼で敵を止め、その隙にガンドを撃ち込むのが精々なところだ。マリーとジャンヌ、二人の力を合わせれば斃せる筈。
「……やあ、久しぶりだね。マリー」
「来たのね、サンソン」
「来たとも。処刑には資格がある。する側にも、される側にも。僕以外に君を処刑する資格を持つ者はいない。
それは君も実感している筈だ、マリー」
サンソン……そう呼ばれたこの男はマリーを見ながら恍惚の表情を浮かべていた。
処刑人シャルル=アンリ・サンソン。
代々、パリにおいて死刑執行を務めたサンソン家四代目当主であった彼は、フランス革命という激動の時代に「ギロチン」を用いて、数多くの罪人達を斬首してきた。
その中には国王ルイ十六世とその王妃……マリー・アントワネットも含まれる。
「……えーっと、ちょっと待ってね、サンソン。貴方が素晴らしい処刑人である事は知っているわ。
残忍で、冷酷で、非人間だったけど貴方は決して罪人を蔑まなかった。
深い敬意を持ってギロチンの番をしていた貴方を、私は確かに信頼しています。
だからと言って貴方だけが私を殺す資格を持つの?それっておかしくないかしら?」
マリーの言葉は尤もだった。
いくら生前、自分が処刑した人と言っても、それだけで自分以外が彼女を殺す資格がないなど無茶苦茶にも程がある。
「
僕は生まれてからこの方、処刑の事だけを教え込まれてきた。そこに妥協はない。なにより殺し方──処刑の技量に拘った。
いい処刑人が罪人に苦しみを与えないのは当然だ。僕はその先を目指した。つまり──
僕はそんな斬首を心掛けたつもりだった。そして生涯最後の一振りが、君に向けた
その一言に、背筋が凍るような感覚に襲われた。
淡々と死を語る口が、光のない眼が、屈託のない笑みが言いようのない恐怖を倍増させる。
この男は放置させておくのは絶対にダメ。なんとしても、ここで斃しておかなくてはならない。
「おっと。そこの君、余計な真似はしないでくれ。僕とマリーの語らいの邪魔は誰にもされたくはないからね。
邪魔するというのならそれ相応の報いを与えねばならなくなってしまう。
例えば、そうだな……君達を無視して街の住人を殺しに行こうかな」
「っ!」
「……大丈夫よ、オフェリア。貴女はジャンヌと一緒に街に入ってきた竜の対処をお願いします。」
「でも!」
「ノープロブレムよ!だって彼、私には絶対に勝てないから」
マリーは自信満々でそう言った。
今にも襲いかかってきそうな雰囲気漂わせるこの男の目の前で、高らかに宣言してみせた。
不安はある……けど、私が手を出せば街の人々が危険が及ぶ。
「……わかりました。貴女を信じます。マリー・アントワネット」
指先に魔力を集中させ、迫り来るワイバーンに意識を向ける。
「……僕には絶対に負けない、か。言うじゃないか。僕はあの時より、もっと巧くなった。
どんな刃物よりも鋭く、どんな武器よりも正確に、君の首を絶てるように。
だからこそサーヴァントとして召喚された。君にもう一度、最期の恍惚を与える為に……!」
◇
「オフェリアさん!あれを!」
ジャンヌが指を刺した方を見ると、黒騎士の相手をしているシグルドが街の中まで追い込まれていた。
竜殺しの騎士は負けじと魔剣を振るうが、黒騎士はその斬撃を受け流すことで攻撃を躱し、逆に腹部に蹴りを喰らわせる。
強烈な蹴りを受けてしまったシグルドは堪らず後退りしてしまう。
狂化を受けながらシグルドと互角に切り結ぶなんて、あのサーヴァントは一体何者なの……?
「すまないマスター。敵にここまでの侵入を許してしまった。当方の実力不足だ」
「それは違うわセイバー。貴方は充分やってくれました。
ただ敵の力が私の予想を遥かに上回っていた。そしてそれを見誤った。
全ては私の責任よ……!
……でも、最後まで諦めるつもりはないわ。全員で生還すると言ったのだから必ずそれを成します。だから勝つわよ、シグルド!
右手を大きく突き出す。
手に刻まれた令呪が紅く輝く。
「令呪を持って命じます!私達の前に立ちはだかる障害を払い、道を切り拓きなさい!我が騎士よ!」
令呪が一画、色を失う。
瞬間、シグルドの魔力が大きく膨れあがり暴風が巻き起こる。
「委細承知。宝具展開準備──!」
シグルドの前方に無数の短剣が展開され、稲妻が迸る。この特異点に来てから、自身の宝具について彼の口から聞かされた。
曰く、ファヴニールの心臓を抉った「リジル」。
曰く、ファヴニールが隠し持っていた「フロッティ」。
曰く、太陽の力を持つ稀代の魔剣「グラム」。それらの武器の力を引き摺り出して
「絶技用意。太陽の魔剣よ、その身で破壊を巻き起こせ!」
短剣を拳で打ち込み、投擲する。
剣は黒騎士だけでなく、周囲のワイバーンをも撃ち落としていく。
そして、最後に太祖オーディンより授かった魔剣グラムを投擲、一閃。
鋭い一撃が、黒騎士の鎧を貫く。
「『
突き刺さったグラムに、渾身の一撃を叩き込む。
これこそが北欧神話が誇る最強の竜殺しシグルドが持つ、最強の宝具。
霊核ごと貫かれた黒騎士はその場で頽れる。
「a──arrrrrr………」
光の粒子が漏れ始める。
既に武器を握る力も、立ち上がる力も残されていない。直に消えるだろう。
「……A……アー……サー……どうか、わたし……を…………」
狂乱の騎士は消滅した。
敵は斃したけれど安心するのはまだ早い、まだ
マリーの身を案じていると背後から大きな音が響く。振り返ると、処刑人が苦しそうに膝をついていた。
「バカ、な……バカなバカなバカなバカなバカな!どうして僕が負けるんだ!?
僕はずっと腕を磨き続けた!刃を研ぎ続けてきた!何人も殺してきた!
総てはもう一度君の首を刎ねる為に、君に最高の瞬間を与える為に!そうすれば!
……そうすればきっと、君に赦してもらえると、思ったのに……!」
「……本当に哀れで、可哀想で、可愛い人ね。貴方は。
貴方はこのフランスで沢山の人間を殺してきた。殺人者としての切れ味は確かに増していった。
けれどね、サンソン。処刑人と殺人者は違うのよ。人を殺すのが巧くなればなるほど、罪人を救うという、
それとね──私は貴方を恨んではいないわ。赦してもらえるだなんて必要、最初からなかったのよ」
「ぁ……あぁ、マ──」
手に持っていた剣を離す。
マリーの言葉に、処刑人は涙を流し、顔を覆う。
敬愛すべき王妃の名を口にしようとした瞬間──怨嗟の炎槍がサンソンの身体を貫いた。
「っ、サンソン!」
「これで五人。見込んだ者ほど早く脱落するとは、皮肉ですね。
感動的な話をありがとう、感動のあまり反吐が出そうだわ」
「マリー!無事ですか!?」
二人の間に入るように、竜の魔女の前に立つ。
改めて対峙すると恐ろしい程の魔力に呑まれてしまいそうになり息苦しくなる。上手く呼吸ができなくなってしまう。
「まったく、竜だけでなくバーサーク・サーヴァント二騎も連れていったというのに、この始末だなんて……予想外も良いところだわ。
本当に腹立たしいったらありゃしない。使えない彼らも、抵抗するあなた達も。
もうすぐ我が故国は竜の巣となる。あらゆるモノを喰らい、この地は不毛の地となる。
そうなれば、こんな下らない世界は
だから終わらせましょう。我が眷属たる竜共の爪で肉を裂かれ、牙で骨を砕かれ、喰い殺されるがいい!」
竜の魔女ジャンヌ・オルタが手を振り下ろすと残りの竜達が一斉に襲いかかってくる。
マリーはサンソンを庇うように立ち回り、ジャンヌとシグルドが私の盾になるように竜を撃墜していく。
「っ、まだこれだけの数が……!これじゃ逃げ出すなんて……」
「……!オフェリアさん、後ろ──!」
「えっ」
ジャンヌの声で振り向く頃には、既に竜の牙が眼前にまで迫っていた。
この瞬間、私は死を悟った。
子供の頃の記憶、時計塔での記憶、カルデアで過ごした日々の記憶。
あぁ、これが走馬灯、というものか。
こうして思い返せば私の人生は何も残せない、つまらないものだった。
両親の期待に応えようとしたけれど、何も応えられず。
人理修復という私には重過ぎる使命にも。
……どうしてかしらね。最期に思い浮かぶのは、何よりも大切なあの人のこと──
………。
………………。
おかしい、何も起きない?
恐る恐る目を開く。地にはさっきまで眼前にいた筈の竜の死骸。
顔を上げると見慣れた黒いコートが靡いていた。
「話はドクターから全部聞いた。俺が来るまでよく持ち堪えた」
「────ぁ、あぁ……」
その声の主は────
「誰ですか?あなたは」
「見りゃわかんだろ。テメェの敵だよ、竜の魔女」
ようやっと合流を果たせたワケだけど長くな〜い???
本来ならランスロットはここでは出ないんですけど出しちゃった(はぁと)
まあ、シグルドくんの一撃で消えちゃったんですけどね……彼には後々活躍してもらうとしましょう(無計画)