"元"執行者が逝く人理修復の旅   作:アポロ231号

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ロイド「もうすぐ土古戦場本戦が始まる……」

オフェリア「本戦?が始まるとどうなるの?」

ロイド「知らんのか?」

オフェリア「(こくり)」

ロイド「とてもつらい」



第20話 螺湮城教本

異貌の魔術師は怒りで身を震わせていた。

理由は二つ。

一つは、己が目的を果たす瞬間がすぐ目の前まで迫っているというのに、それを邪魔する連中がいること。

例えそれが、生前共に戦った聖処女であろうとも、果たすべき復讐の為に討ち取る。

 

もう一つは、目の前の鼠二匹を一刻も早く排除せねばならないのに思いの外抵抗しているからだ。

 

無数の触手で攻め立てるも、その僅かな隙間を縫うように躱され、その折に左腕に仕込んだルーン入りの刃で悉く切り刻まれていく。

刻んでは増え、増えては刻んでいくの繰り返し。

時折タマモの呪術で焼き、凍らせ、感電させたりなど(あら)ゆる手で海魔を屠っていく。

 

側から見れば善戦している風に見えるだろうが、実際のところはその逆だ。

 

 

「うおっ──!」

 

 

眼前の敵に気を取られ、足下の触手に気付けなかった俺はそのまま壁や地面に叩きつけられてしまう。

 

 

「マスターになーにしてくれやがりますかこのタコはー! 」

 

 

呪符から吹いた風の刃により触手は切り落とされるも、勢いが強く壁を破壊しながら吹き飛ばされる。

事前に耐久のルーンによって守りを固めていたとはいえ、ダメージが0になった訳ではない。

多少の痛みは走るがまだ戦闘続行(たたか)えるレベルだ。

プッと口の中の血を吐きながら瓦礫から這い出る。

 

 

「……ふむ。見れば見るほど異様な男だ。

如何に優れた魔術師と云えど、我が身に一太刀入れんとあの猛攻を掻い潜るとは」

 

 

ジル・ド・レェは怪訝な面持ちで呟く。

通常の人間、魔術師であれば海魔に蹂躙されれば挽肉(ミンチ)になって絶命する攻撃に、平然と立ち上がってくる人間が目の前にいればその反応も当たり前か。

 

 

「鍛え方が違うからな」

 

「それはそれは。

我が眷属が貴方を骨まで喰らい尽くした暁には、どの様な絶望の声を奏でるか愉しみですねぇ。

どれほど貴方が超人的な力を持とうとも、所詮は人の身。

その刃が我が身に届くことなど、とてもとても…」

 

「ムッキー! ぬわぁーんですか、あのギョロギョロ目ん玉男!

(わたくし)のマスターをバッカにしてくれやがりましたその罪、(わたくし)の最強最大の必殺奥義「一夫多妻去勢拳」でボコボコにして差し上げましょう!」

 

「ははは。おやめなされ。その言葉は非常によろしくない。

私は事実を述べたまで。この状況を見なさい」

 

 

海魔の数は減ることなく、周囲を取り巻く触手。

今も尚、ジル・ド・レェが持つ本から怪物は召喚され続けられていく。

 

 

「如何ですかな? これこそ我が宝具、『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)』。

生前は魔術などとは無縁でしたが、ご覧のように(しもべ)を使役するだけでなく様々な魔術を扱えるようになるといった素晴らしき物にて。

これもすべて、我が聖女を見放した浅ましき神を殺す為の力!

海魔たちに蹂躙され、苦悶の顔を浮かべる神……それはきっと得も言われぬ快楽でしょう…!」

 

 

恍惚の表情で自らの世界に耽る異貌の魔術師。

タマモはドン引きしながら背中に隠れる。

 

 

「さて、児戯は此処までとさせていただきましょう。

一刻も早くジャンヌの元へ向かわねばならぬ身。手短に、簡単な作品に、それでいて芸術性のある作品に仕立てて差し上げますとも。

貴方方の同胞もきっと気に入っていただけることでしょう。

さぁ、最高のCOOOOOOOLを!!!」

 

 

指示と共に海魔が一斉に襲いかかってくる。

このままでは後ろのタマモ共々仲良く惨たらしく殺されてしまう。

──出し惜しみしてる暇はない。切り札(・・・)を切るなら此処しかない。

その瞬間だった。

背後から烈々たる炎の竜が俺達を守るように現れ、怪物の群れを焼き払った。

 

 

「こ、この一途な恋心と怒りに満ち溢れた炎は……!

嘘つき絶対許さないウーマン、清姫さん!!!」

 

「はい、貴方の愛しのサーヴァント清姫でございます、ますたぁ。

玉藻さんもご無事で何よりです」

 

「あれ、(わたくし)オマケみたいな扱いされてませんこれ?

というより貴女、他の方々と敵の足止めされてませんでした?」

 

 

タマモの言う通り、清姫はマリーやアマデウスらと一緒にバーサーク・サーヴァントの相手をしていた筈だ。

それがなぜこんな所にいるのだろうか?

 

 

「ええ。(わたくし)も最初は敵と戦っていたのですが、ジークフリートさんがワイバーンの掃討を粗方終えたので援護に回ってくれました。

(わたくし)だけでも皆様の救援に向かえと仰られましたのでお言葉に甘えさせていただきました」

 

 

清姫が来てくれたのは助かったと言わざるを得ない。

正直、俺とタマモだけではこの怪物の群れを倒しながらジル・ド・レェの下へ向かうのは至難の業だった。

前途に一筋の光明を見出せた。

 

 

「タマモ。清姫。

そろそろ決着を付ける。俺の無茶に付き合ってくれるか?」

 

「えぇ〜まぁた無茶するんですかぁ? それに付き合わされる私の身にもなって下さいまし?

まぁ、やりますけども? 口では何だかんだ言ってご主人様の為に頑張るタマモちゃんなのであります」

 

「勿論付いて行きます。地獄の果てまでお供致しますとも」

 

「(清姫ちゃんが言うと洒落になりませんね……)」

 

 

身に纏う黒コートを破り捨て、不敵に笑う魔術師を睨む。

全身の魔術回路を励起させる。

鋭い痛みが全身を襲うが、最早慣れたものだ。

ルーン魔術で身体能力の向上、そこに更に強化魔術で底上げする。

人間が行使できる能力の限界一歩手前、身体が常に悲鳴を上げている。

 

 

「おおおぉぉぉぉ────!」

 

 

凄まじい速度で駆け抜ける。

俺を近寄らせまいとジル・ド・レェは海魔に攻撃を命じ、無数の触手が飛び交う。

先程のように刃で斬り、タマモと清姫の援護で標的に迫る。

 

 

「えぇい! ちょこまかと!」

 

 

叫声と共に海魔の攻撃が激しくなっていき、傷を負っていくようになる。

頬を掠め、肩を抉り、脇腹を貫かれても尚、止まらない。

 

 

「何故だ……!何故だ何故だ何故だ何故だァーーーー!!!

何故止まらぬ! 何故怯まぬ! 何故死なないのだァーーー!!」

 

 

臆す事なく真っ直ぐ駆ける姿に後退りしたジル・ド・レェ。

目の前まで迫り、あと少しでこの刃が届くと思った。

だが、それをこの男が許す筈がなく。

咄嗟に一回り大きな海魔を召喚・そのまま捕食しようと口を開けていた。

 

 

「ハァーーーハッハッハッ!

如何します? その速度ではそのまま我が眷属の腹の中まで直行ですぞ?

止まれますか? 否、止まれる筈ありませぬ。

さぁ、その劣弱な骨ごと喰らい尽くしなさい!」

 

「清姫ェェェーーーーーーー!!!!!」

 

「──承知致しました。

この炎は(わたくし)の愛そのもの! ますたぁの敵は灰も残しはしません!

転身火生三昧(てんしんかしょうざんまい)』!」

 

 

清姫が宝具を解き放ち、炎の竜が愛しのマスターごと海魔を包み込む。

その異常な光景にジル・ド・レェは驚愕する。

 

 

「バカな! 己がマスターごと焼き殺しただとォ!」

 

(わたくし)がますたぁを殺す訳ないじゃないですか。何を仰っているのやら……」

 

「(嘘を吐きさえしなければを忘れていますが……私は空気の読める良妻ですので敢えて口にはしません)」

 

 

炎の中で激しく蠢く醜い怪物は次第に動きが鈍くなっていき、地に倒れるとそのまま灰も残さず消えてしまう。

──その瞬間。紅蓮の中から同じく燃えた筈の男が飛び出してきた。

 

 

「………! 貴様、なぜ……!」

 

「何で何でと五月蝿えヤツだな。俺が生きてる事がそんなに不思議かよ……!」

 

 

最後の特攻の際、ルーン魔術と強化魔術に加え、「耐火」のルーンを前以て使用していたことで清姫の炎をある程度耐えれていた。

あまりの出来事に一瞬判断が遅れたジル・ド・レェ。

その一瞬を見過ごす訳がないだろ──!

 

呆然としてガラ空きになった異貌の術師の心臓目掛けて腕を振り抜く。

……決着(おわり)だ、ジル・ド・レェ。

 




オルレアン編も残すは2〜3話予定。多分2かな?
それに伴ってアンケートでも取ってみようかなって思ったり思わなかったり。
多分次回か次次回辺りでアンケートするかも
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