ロボットアニメにおけるタブー、例えば戦車にメガ粒子砲を載せるような話 作:APHE
高空を征く機影が5つ。
くすんだ黄色の塗装はフライ・マンタ、白地に青が目を引くのはセイバーフィッシュ。それらを率いてV字編隊を組んでいる、プラズマジェットの駆動音が特徴的なジェット・コア・ブースター。
パイロットは僚機に無線を入れかけて、やめる。いつもの癖が出てしまった。
あれに人は乗っていないのだ。
《よぅアルファ隊、調子はどうだ?》
《アルファでいい。俺しかいないんだから》
2つの編隊が雲を抜けて接近してくる。その構成機はTINコッドだったりフライアローだったりと微妙に異なっているが、それらを率いるのが
《まさか小隊長に出世できるとは思ってませんでしたよ》
《よかったなチャーリー、構成員は1名だが》
《ブラボー隊も同じじゃないですか》
彼らの隊も同様、有人なのは先導するJCBのみ。残りの機体は新開発の無人僚機システムが操っている。正しくは新開発でないという話だが、あいにく旧世紀のドローン戦争経験者はここにいない。
《ウイングマン・システムねぇ。上は戦闘機の在庫処分だと喜んでいたが…》
《機体を使い捨てるのはいい気分じゃない》
《だが、
《また戦闘機に乗ってくれなんて、何の冗談かと…》
戦闘機パイロットは戦車乗りよりもMS適正が高いとされ、積極的に機種転換するよう図られていた。それはこの3人も例外ではなく、ひと月前には通常型のジムで習熟を終えていたのだが…
突然、新型戦闘機と再機種転換の話が一緒に来たのだから戸惑うしかない。ブラボーは空の方が好きだと満更でもない様子だが。
《お前らは違うのか?》
《違いませんよ。その時は驚きが勝ったんです》
《俺もだ。何か大きな力が働いたと見える》
アルファはそこで言葉を切り、それでも構わないと呟いた。陸上兵科ほどではないが、航空兵科もまたMSの台頭によって肩身の狭い思いをしていた。機種転換し同じMS乗りとなっても元戦闘機パイロットと専属のMSパイロットでは周りの扱いが違う。
《…あと1分で作戦ポイント上空です。うまく行きますかね?》
《まぁ、生き残ってみせるさ。デコイは十分にある》
《やるしかない。各機、武装の最終チェックだ》
各編隊は速度を上げて、3方向に消えていった。
◆ ◆ ◆
「オデッサですか」
「連邦軍は大陸での戦いにケリをつけるつもりらしい。段階的に戦力を結集させている」
「そこを叩く、と」
「そうだ。この機を逃せばもう手出しができなくなる」
その殆どは旧兵器だというが、数が尋常ではない。これ以上結集されてしまっては大隊規模の戦力を以てしても太刀打ちできないだろう。
緒戦においてMSは強力であったが、結局は運用次第であり、激動の戦線でその優位性は覆りつつもある。
「まさか、戦車に手こずるようになるとは思いませんでしたよ。この様子じゃ本国でも大騒ぎでしょう」
「先に撃ったほうが勝ちになってしまったなら、MSの優位性は無くなったようなものだ。…お前も1度は訓練を受けただろう、18mの巨人から見た世界はあまりにも小さくて、人や車などアリのようなもの。そこから突然、ビームが飛んでくる」
「おまけに素早い。しかし距離を詰めようものなら、あちらのMSがそれを許さない……」
「まともに張り合うためにと
轟音とともに砂煙を上げ、背後に降り立ったHLV。そこから吐き出されるは予備役として保管されていたはずの戦車の数々。MSへの機種転換に対応できず本土防衛という名のもとに左遷されていた軍人たちも戦車乗りとして前線復帰してきている。
「編成が終わったら作戦開始だ。お前も今のうちに休んでおくんだな」
「ええ、この先の戦いを有利にするためにも……」
男が言葉を紡ぎきる前に、基地を甲高い警報が覆った。
『空襲警報!連邦戦闘機が接近中!戦闘員は配置につけ!繰り返す!…』
格納庫から一斉にドップが現れスクランブル。整備中のザクも起動し対空弾を装填する。HLVは一刻も早く離脱するべく積み荷を投げ捨てる勢いで降ろし始めた。
「…休めないようだな」
「まさか、連邦にこちらの作戦が…」
「わからん。わからんが、苦しい戦いになるだろうな。お前も空に上がるのか?」
「ええ。空の戦力では、まだこちらが優位のはずです」
格納庫へ走るパイロットを見送って、男は肩を落とす。
「…その言葉はルウムでも聞いたさ、粒子環境下ではこっちが優位ってな。俺たち、次はどんな優位を失うんだか」
誰に向けたものでもないぼやきは、ただ虚空に消えていった。
◆ ◆ ◆
《6時方向!》
《ブレイク!》
ヘッドオンでの攻撃は失敗したらしい。相手は粒子環境を逆手に取り、僅かな動きでミサイルを躱してみせたのだ。直線軌道が多く単調に見えて、その実かなり洗練されている。
《こいつ後ろにッ…!ウワァ!》
8機は上がっていたはずのドップ、交戦中の機体は6機しかいない。さらに目の前で1機が撃墜された。パイロットはアフターバーナーで戦線に合流し、芳しくない戦況に舌打ちする。
もう1機墜とそうと食らいついてくるセイバーフィッシュをいなして背後を取り、ロケットを斉射。当たりこそしなかったが相手は回避行動を余儀なくされた。
やはり機動力ではこちらが上だ。
《マンタを行かせるな!ザクと相打ちでもされたら…》
《分かってる!そっちは青いのを!》
相手編隊4機のうち2機、攻撃機フライ・マンタの対地火力は侮れない。味方からの言葉を受け取って、パイロットはそれらの殲滅に挑む。
《ッ…しつこい!》
しかし黄色い機体を捉えようとするたび、視界のはしに青い翼が入ってくる。おかけで攻撃に集中できない。これの足止めを任せたはずの僚機は別の機体と激しく絡み合っていた。
《だがっ!》
スロットル最大。操縦桿を思い切り倒してその場での宙返りを繰り出せば、相手は対応しきれずに照準の真ん中に収まった。パイロットはにいと微笑み、至近距離でロケット斉射。直撃コース。
セイバーフィッシュは爆炎に包まれ、はるか地上に残骸の雨を降らせる。
《空でも、やはり
勢いづいた彼はスロットル最大のままフライ・マンタに襲いかかり、機銃で粉々に破壊する。所詮は攻撃機か、動きはあまり良くない。
逃げるもう1機にもそのままガンファイトを挑み──
《ぐうっ!?》
機体が激しく揺れ、小石を思い切り水面に叩きつけたような音が響く。犯人はやはり青い翼、セイバーフィッシュ。片翼から煙を吹くドップの真横を一撃離脱の要領で通り過ぎてゆく。
《まさか、やられたのか…!》
相手をしていたはずの友軍機は地上で炎に包まれていた。みな、こいつに撃墜されたというのか。パイロットは奥歯を食いしばってドップを急旋回、揚力の不足を噴射量の調整で補って戦闘を継続する。
《奴らマンタを餌にしてる!食いついたと思ったら逆にやられちまった!》
《命がけのオトリってか?肝が座ってやがる!》
《カバーしてくれ!3機がかりで墜とすぞ!》
現時点でドップは自分の機体を入れても3機。まんまと嵌められ数を減らしてしまった。しかし敵もマンタとセイバーフィッシュが1機ずつ。空戦性能の低いマンタはさておいて、セイバーフィッシュだけを相手取るなら十分すぎる戦力だ。
払った犠牲のためにも、ここは墜とさなければならない。
《連邦めっ!》
数の優位を活かして食らいつく。案の定マンタは離脱しようと動いたが、その影で不穏なオーラを放つセイバーフィッシュを見逃さなかった。
戦術がわかっていてそこに飛び込む愚は犯さない。マンタを無視してそれへと機銃を浴びせかければ相手はたまらず回避に移り、無防備に取り残されたマンタを僚機が追い詰める。
《なっ!?うがぁっ!》
─突然、マンタと僚機が爆発した。
《何が起きた!》
《マンタが突然失速した!ぶつかっちまったんだ!》
つまるところ体当たりだった。残ったセイバーフィッシュは呆気に取られるこちらへと何食わぬ顔で格闘戦を仕掛けてくる。会敵した時から違和感はあったが、これは決定的だ。
《奴らおかしいぞ!肝が座ってるなんてもんじゃない!》
再びのヘッドオン、機銃をロールでいなして最接近。違和感を確かめるため、それをしっかりと見る必要があった。もはや意味のないステルス材質により鏡面のように光るキャノピー。その向こうにあるはずの気配。操縦者の影。
《…無人機!?》
やはり無かった。感じた違和感は全てこれで説明がつく。相手がリスク先行の戦術を選んだのも、損失を顧みない行動を選んだのも、それが損失ではなかったからだ。
対してこちらは大損害、機体も乗員も限られる重力戦線にて、無人機ごときに手痛くやられてしまった。やりきれない思いで睨みつけるが墜ちていった僚機はもはや戻らない。
《クソッ!》
ジオンにとって戦闘用の無人機といえば歴史上の存在。旧世紀における世界大戦にて猛威を振るったことは知っている。しかしミノフスキー環境下での近接戦闘を選んだ時点でそれが発掘されたとて戦場で出会うことは無いと思っていた。
だが現実にはこうだ。おそらく
《このッ…野郎!》
《ウラァ!》
残っていたロケットをすべて投げつけ、2機がかりで追い詰め墜とす。地上に降り注ぐ残骸を認めて、ようやく全てが終わったことを悟る。
《…帰投するぞ》
ドップは自身の機体を含め2機に減り、基地航空隊は事実上の壊滅。同じ規模の攻撃が来れば防ぎきれないだろう。体面上の勝利を得ることはできたが引き換えに失ったものが大きすぎる。敵が無人機であったという事実は重要な情報ではあるが…
《ああ…何だ?6時方向にボギー!》
《はっ!?》
振り向いたときには遅かった。セイバーフィッシュとはまた違う、青い翼の大型戦闘機。
《ぁ゛あがッ》
その機首から放たれた熱線が僚機を貫き爆裂させる。ビーム兵器だ。連邦がセイバーフィッシュに代わる両用戦闘機としてコア・ファイターを、その強化版としてコアブースターを開発運用していることはまばらな目撃情報から知り得ていたが、気圏戦闘機として再開発されたそれに関してはまだ情報が少なかった。
ましてそれらと交戦したことなど無かった。
《情報にないぞ!》
しかしビーム兵器を搭載しているという情報が無かったことは覚えていた。無人機を先駆けに現れたという前例もなかった。だとすればこれは。
《くッ!》
怯まず食らいつく。自分はきっと転換点にいる。重力戦線の空をめぐる争いの最前線にいる。無人機と新型のJCB、これらがジオンの航空戦力を駆逐する驚異となるのかはこの1戦で決まるのだ。
《んなっ、速い!?》
損傷しているとはいえドップの推力機動力は既存の連邦戦闘機群を上回るもの。現状で出せる最大のスロットルならば追いすがることくらいはできるつもりでいた。
だからこそ、こちらの旋回半径よりも遥かに小回りの軌道で背後を取り、機首を光らせるそれに驚愕する。全く相手になっていない。
《ウワァ!》
咄嗟のロールで直撃は避けたが、損傷していた翼がついに折れて飛んでゆく。これ以上の戦闘機動は不可能。
《せめて道連れにっ!》
パイロットは勝利を諦め、しかし撃破は諦めなかった。少ない燃料を残らず投入し、ドップは正真正銘の全速で飛翔する。バランスを失いきりもみ回転する視界、その中心にJCBを捉えながら。
一撃離脱で上昇してゆくJCB、螺旋状の雲を残してついて行くドップ。両者の速度差は徐々に縮まり、ついに距離まで縮まり始め──
追い付けなかった。燃料が底をつき推力は徐々に低下。上昇は落下に転じ、地面が急速に近づく。JCBは上空で折り返し自由落下するドップに狙いを定める。
《うわぁあああっ!ジークジオンッ!》
地面との猛烈な再会を迎える前に、最後のドップは熱線に貫かれ散った。
◆ ◆ ◆
「…終わったか」
9機のドップを蹴散らしたアルファ隊、その統括機であるJCBのパイロットは操縦桿を握る手を緩め呟いた。今頃ブラボーとチャーリーは基地を強襲していることだろう。
上の要望通り全ての
「残り物の処分、だったな」
先ほど触れた"上"こと、JCBの配備を推進する士官によればそれは有効に活用した上での在庫処分。その中にかつての愛機が含まれていた事からも本当にいい気分ではなかった。
しかし最後の戦闘機動でこの機体を無理にでも表舞台へ出そうとする訳を理解した。段違いに性能がいいのだ。核融合炉のパワーに支えられた機体制御は今まで手を焼いていたドップのそれを軽く上回り、色々無理をして大推力化したはずのそれらを嘲笑うかのようだった。
最後に敵機を引っ張った時、スロットルは半分も出していなかった。だのに、これだ。
「シミュレーターとは違う…」
これが普及すれば空は間違いなく連邦のものとなる。自分たちのもとへと帰ってくる。
「そうだ、変わるんだ…」
自分は転換点にいる。空を取り戻す先駆けとなる。そう意識したパイロットは操縦桿を握り直し、友軍基地へと進路をとる。
その表情は作戦前よりも明るいものとなっていた。
ドップってあのナリで機動性はすごいんですよね
代償として活動時間がお亡くなりになってますが
JCBカスタム(仮称)は無人機を先行させて全滅するまで後方で待機してましたが燃料についてはかなり潤沢だったそうです