ロボットアニメにおけるタブー、例えば戦車にメガ粒子砲を載せるような話   作:APHE

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Ex.遠吠えは地平へ轟く

 

『…ネン少佐、ソンネン少佐!』

 

「ん?ああ、聞こえている。ヒルドルブの動作は問題ない!」

 

『デメジエール、どうした?戦場で上の空とは。ヒルドルブの優位性を実証するのだろう、しっかり頼むぞ』

 

「へっ、どの口が。俺の戦い、見届けてくれよ!」

 

 モビルタンク、ヒルドルブ。

ザクIIの2倍はあろうかという巨体が砂漠を駆け抜ける。搭載した核融合炉の出力によってか、その図体に見合わぬ機動性だ。

 

 そんなデカブツを操るパイロット、この場合は車長と称すべきか。デメジエール・ソンネンはジオン戦車教導隊のトップを務めるような男だった。

 

「戦車の時代は終わっちゃいない。現に奴らはそうしているじゃないか…」

 

 ソンネンは連邦の地上戦力を思う。普及し始めたモビルスーツの足元で駆け回る、ひと回り大きな61式。この新型にジオンの先遣隊は手酷くやられているらしい。

 

 接近戦と白兵を担うモビルスーツに、中遠距離戦と砲撃を担う戦車。この"歩戦協同"は彼の目には眩しすぎた。マゼラアタックも火力支援という意味では機能しているが、前線の部隊からはまともな戦力として数えられていないような空気を感じる。

 

『少佐、補給基地からの応答がありません。不測の事態が予想されます。気をつけてください!』

 

「言われなくても…!」

 

 配備されるはずだった補給基地は不気味な沈黙を保っている。そこで待ち構えるものが何であろうが、ヒルドルブであれば切り抜けられると彼は信じる。

 本国で受けた"不当な評価"を払拭するには、不測の1つや2つなど跳ね返さなければならない。同数の…いやそれ以上、分隊規模のザクIIを驚愕するような戦果を上げなくては。

 

「むっ!」

 

 稜線に阻まれた向こう側、視線の通らぬ地からの殺気を感じて咄嗟に操縦桿を切る。すると数瞬遅れて地面が噴火するように盛り上がり、岩も草木も等しく耕した。

敵の砲撃だ。

 

 ソンネンは直感を信じた己を褒めつつも、敵の正体に考えを巡らせる。とはいえ、答えは2つに1つ。

 

「61式!」

 

 ランダム回避運動で砲撃を躱し、ついに見えてきた向こう側。砂漠に紛れる黄土の迷彩に身を包んだ61式が4両。出会い頭に飛び込んできたビームの一撃に冷や汗を流しつつ、巻き上げた砂を煙幕にして接近を試みる。

 

『ビームと実弾、両方撃てるのか!情報通りだ…』

 

「切り替えにラグがあると見た!そこを突く!」

 

 彼の洞察は正しく、実弾とビームの換装時には装填機構を後退させ砲身内部にI-フィールドを発振させてと数秒の待機時間が生じるようになっていた。

 

 操縦桿を滑らせて急制動すれば、切り替えを終えた敵が焦り気味に撃ち込んだビームが狙いを外れて砂地を焼く。読み通りだ。

 

「弾種AP!照準固定!そこを動くなよ!」

 

ヒルドルブの30cm滑腔砲が獲物を睨み、がうんと吠える。

 

 装弾筒を四方に散らし、マッハ7.5で飛翔するAPFSDS(ダーツ)は完璧な照準のもと目標に吸い込まれ──しかし、その装甲を捉えることはなかった。

 

「動くなっつっただろ!」

 

 舞い上がる砂塵に悪態をつく。61式は凄まじい加速力を見せ、ヒルドルブの発砲とほぼ同時に回避運動を実行。その加害範囲から抜け出していた。

 核融合炉の搭載で大きくなったとはいえヒルドルブの巨体と比べれば小粒もいいところ。出力重量比に優れる61式は足回りでこちらを圧倒している。

 

『速い…!』

 

『デメジエール、ここは分が悪い!撤退も視野に入れろ!』

 

「何を!まだ1発しか撃っちゃいねぇ!」

 

 敵小隊は2つに別れ、牽制に機関砲をバラ撒きながらこちらを囲むよう展開。十字砲火を試みているらしい。

 

「それに、逃げられるような相手でもねぇ…!奴らは筋金入りの戦車乗りだ!俺と同じ!」

 

 ソンネンは敵の技量が相当に高いことを悟り、ヒルドルブを変形させる。腕そのもので負けているとは思わないが、ただの砲撃戦では分が悪いのは確かだ。

 

 履帯の高い接地圧による安定性とモビルスーツの柔軟な照準能力を併せ持つのがモビルタンク。その力をフルに発揮できれば、ここからでも挽回の余地がある。

 

「そんな豆鉄砲が!」

 

 20ミリクラスの弾丸を軽く受け流しつつ、変形したヒルドルブはマニピュレータに握ったザク・マシンガンを乱射。その多くは逸れたが一部が至近弾となり、相手(ヒルドルブ)が変形した驚きから冷めやらない戦車隊にさらなる揺さぶりがかけられた。

 

 その勢いのまま二方に別れた敵の一方に突進、61式は正面装甲を見せて防御姿勢。ソンネンは実際にザク・マシンガンが弾かれたのを見て舌打ちしつつも、相手取る存在の強さに不足はないと笑ってみせる。

 

「強い!だがっ!」

 

 敵の1両が発砲。ビームの光。一発はマニピュレータの片方を吹き飛ばし、もう一発は変形したヒルドルブのショルダーシールドを脱落させた。

 

 施された耐ビームコーティングがいくらか威力を減衰させたはずだが、戦艦並みと称される連邦のビーム兵器はそれを踏み越えてくる。

 

しかし。

 

「うおおおおっ!」

 

 ヒルドルブの巨体が61式を吹き飛ばす。その勢いのまま、ショベル・アームユニットでもう1両もひっくり返す。それらはあっという間に巻き上がった砂に埋もれ、復帰は困難に見えた。

 

「どんなもん…だっ!?」

 

 勝利の余韻に浸る間もなくもう一方からの攻撃が来る。至近弾。ビームの熱でガラス化した地面が光る。負けじとマシンガンを叩きこめば避けるついでに履帯跡が2手に別れ、状況は振り出しに戻った。

 

 相手が数で勝る以上、十字砲火の脅威からは逃れられない。自分が戦車隊を率いていたとして同じ判断を下すだろう。

 

『少佐!』

 

『危険だ!もう下がれ!』

 

「まだだ!」

 

 ヒルドルブは無事な方のショルダーシールドを構えて再発進。同時に温存していた発煙弾を一斉発射し視界を遮断。それでも相手は一定の精度で攻撃を加え、二発目でシールドを吹き飛ばされたがスモークのおかげか致命の一撃とはならなかった。

 

「HE装填!くらえっ!」

 

 ヒルドルブの主砲が再び吠えて、白煙の壁(スモークスクリーン)に大穴を穿ちながら30cm砲弾が飛ぶ。

艦砲並みの口径と衝撃を持って投げつけられたそれは初弾と同じく敵を直接捉えることはなかったが…あちらは徹甲弾(AP)、こちらは榴弾(HE)

 

 弾着、砂地が陥没する。大口径にたっぷり詰まった炸薬は大地を吹き飛ばし、ついでに側にいた61式も吹き飛ばした。1両がひっくり返っていくらか転がり、ついに無力化。

 

『やってくれるな、ジオンの戦車乗り!』

 

「俺は強いぞ!連邦の!」

 

 最後に残った1両、おそらくリーダー格であろう車両から接触回線が飛んでくる。

ソンネンはそれに軽口を叩き、無線を技術評価試験隊のチャンネルから外した。一騎打ちに外野の声は必要ない。

 

 お互い旋回しつつ接近、砲塔は常に相手を捉えている。と、先に火を吹いたのはヒルドルブの30cm。弾種は焼夷榴弾(HEI)、熱と爆風で確実に仕留めるつもりだった。

 

ズガン!

 

 が、砲弾は空中で爆ぜる。「早爆かっ!」という叫びに相手からの『甘い!』というひと言。ソンネンはヒルドルブの装甲を叩く20ミリ弾を感じて事を理解する。迎撃されたのだ。

 

「戦車に近接防空システム(CIWS)を積むか…!」

 

『似たようなものだろう、そのマシンガンも!』

 

 61の2連主砲が吠える。斉射された()()はついにもう片方のマニピュレータさえ吹き飛ばしてしまった。これで使える武装は主砲とショベルアームのみ。

 

「充分だ!」

 

 次弾装填、弾種AP。この距離なら外しはしない。唸る30cm砲、巻き上がる砂塵。超合金の矢はついに目標を捉えた。

 

『ぐおっ!』

 

「耐えるのか!?」

 

 61式の装甲モジュールが剥がれ飛ぶ。正面装甲に斜めから入射したダーツの衝撃、受けきれば車体がねじ切れるとセンサーに判定された事で装甲裏の爆裂ボルトが起動。

結果威力の大半は虚空へ逃され、61式は生き延びた。

 

ということは反撃が来る。

 

『足を止めれば!』

 

 斉射ではない、2連主砲を交互に放つ速射攻撃。これも実弾。相手は接近戦を見越してより速射の効く実弾を選んでいたのだ。

サイドスカートが吹き飛び、次弾で転輪が破損。切れた履帯が宙を舞い、ヒルドルブはドリフトして動きを止めた。

 

「転輪が…!」

 

『トドメだ!』

 

 61式はそのまま撃ち続ける。ショベルユニットが脱落、胴体に一撃、主砲が損傷、メインカメラが信号途絶。ソンネンはフレームが軋む音に顔をしかめつつ、それでも諦めることはしなかった。

 

 ヒルドルブの装甲は強固である。もともと対モビルスーツすら意識して開発された車体、155mmクラスの直撃を受けようと致命傷にはなりにくい。それがビームならば話は違ってくるが。

 

「俺はまだ…戦えるんだ!」

 

 揺れが止まったのを感じて数秒後、彼は狙いを付けずに30cm砲の引き金を引いた。

 61式の攻撃で裂けた主砲は豪快なマズルフラッシュと共に大きな反動を生み、ヒルドルブの巨体すら仰け反らせる。刹那、その脇を熱線が通り過ぎてゆく。

 

『反動で避けた!?』

 

 ビームへの切り替えを予見した突飛な策は完璧に機能し、状況は逆転。主砲冷却中の61式へとヒルドルブの巨砲が向けられる。揚弾装置は最後の1発を押し込んで自壊してしまったが、問題はない。

 

「そのまま撃っていればよかったものを!」

 

ソンネンはハッチを開け放ち、死んだメインカメラの代わりに自らの目を観測装置とし──

 

「1発ありゃあ、充分だ!」

 

──閃光。

 

 ヒルドルブの主砲はついに根本から裂け、弾頭は装薬の効果をあまり得られずに飛んでいく。しかし目標は目と鼻の先、ただの戦車に回避策はない。

 

 61式とヒルドルブ。激戦を繰り広げた2両の最期は静かに、巻き上がった砂塵がその姿を隠していった。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 "正当な評価とは何をもって与えられるものなのか。

 造られ、棄てられ、それでも時代に立ち向かう姿を愚かなものと切り捨てるのか。そうはさせない。させてはならない。

 機動戦車はかく戦い、この時代の重力戦線に確かに存在していた…"

 

 覚書をしたためたノートを閉じる。報告書は今ごろ本国へと届いているはずであるが、はたしてそれが幾人の目にとまるのか。

ソンネン少佐は任務に殉じ、壮絶な終わりを見せつけた。ヒルドルブは連邦の精鋭を相手に確かに戦ってみせたのだ。そこに疑いの余地はない。

 

 しかし、61式だ。今やその実力を疑うものはいないと信じたいが、それでもきっと存在する。機動兵器でない相手との戦闘記録など無価値と切り捨てる者たちが。

 

彼を負け犬と笑うだろうか。

よく吠えると背を向けるだろうか。

 

それでも僕は忘れはしない。

この日、遠吠えは地平へ轟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それで…最後にHEを選ばなかったのはなぜなんだ?』

 

『何であろうと仕留めるつもりだったが…気が変わったのさ。戦車はAPで相手するのが礼儀だ』

 

『ははは、なるほどな』

 

『だが飛んで躱すなんて聞いちゃいない。どんなデタラメだ』

 

『汎用性を跳ね上げる改良さ。最初は何の冗談だと思っていたが、戦車にスラスターも悪くない。そちらの"戦車"にもぴったりだろう』

 

『そいつは頼めばやってくれるのか?』

 

『たぶんな。きっと彼は君に会いたがるだろう』

 

『へへっ、楽しみだ』

 

 




61式特改改(改3)
引き伸ばされた最終ロットの最後を飾る少数生産モデル。
次期戦車計画の試作車両の側面を持つ、最強の61式。
初期から61改を駆るエース部隊に配備された。

・実弾装填機構を改良。正しくはMSとの開発コンペにて対抗勢力として参加した61式改良試作型のものを拾って搭載している。主砲を左右交互に発射、装填し、1.5秒間隔での速射が可能。
・核融合炉により電力ソースは問題ないとして20ミリ機銃をホバートラックのものと同じ20ミリガトリングに変更、独立センサを搭載し近接防空システムとしても機能する。
・車体バランスを改善、核融合炉搭載により伸びた車体を旧来の縦横比に戻した。結果大型化したがそれでも無印61式の1.5倍程度。
・装甲固定の改良、装甲モジュールの内側に爆裂ボルトを搭載。ザク・バズーカやマゼラトップ砲などの直撃を受ければルナチタニウム複合材といえど深刻なダメージを負うため、即座にパージしフレームへの被害とデットウエイト化を防ぐ工夫がなされた。

ヒルドルブ(カスタム)
史実以上に膠着した戦線を何とかするため投入された。
ショベルアームの片方をセンサーユニットに入れ替えたりシールド部に対ビームコーティングが施されたりと元の機体とは微妙に異なる。
なおジオン本国は本車の戦闘記録に一抹の希望を見出し、3両が追加生産された。

61式戦車分隊
陸戦編主人公の戦車長率いる部隊。新車を配備されてはしゃいでいたらバケモンと出くわした。全員怪我を負ったものの生存。
最寄りの基地へと帰還し療養後、再出撃。彼らに休む暇はない。

ソンネンさん
ヒルドルブ(微強化)で61式改3の分隊と渡り合ったすごい人。最後の主砲発射の衝撃で伸びていたところを確保され、生存。
どんな形であろうとヒルドルブを連邦に届けることが目的だった。結果的に亡命。

603技術試験隊
かわいそうな立ち位置。この後友軍に回収されHLVで離脱。
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