「お腹が空きましたね姉様」
「そうですね、お腹が空きましたね、妹」
「とても良いにおいがするというのに、その元にありつけないことの何と残酷なことでしょうか、姉様」
「そうですね、すぐ側に美味しそうなご飯があるというのに、何故空腹を耐えて眼前の目つきの悪い幼女に凄まれなければいけないのでしょうか、妹」
拾ってきた幼女どもはクセが強かった。控えめに言ってクソうぜぇ。
「幼女はお前らもなんだがな」
そうやって訂正を入れてもどこ吹く風。俺の言葉は華麗に流されてしまった。
「私たちは幼女ではありませんよ?姉様」
「そうですね、私たちは淑女ですよね、妹」
森の中で転がっていたこいつらを、ヒューカとともに回収してきてから数刻。夕飯の臭いに釣られてムクリと目覚めたこいつらは、厚かましくも夕飯を所望して来やがった。いや、それは別にいいのだが、質問に答えないというのが腹立たしい。それになんだ、そのヘンテコな口調は。イライラする。
「だからな、私は食べる前に何があったのか聞かせて欲しいと言っているんだ。答えなければ飯はやらんぞ」
「この性悪ロリめ、ご飯をくれないとは悪魔ですね、姉様」
「そうですね、鬼畜幼女ですね、妹」
「ダメだこいつら話が通じない」
あまりの頑固さに根負けした俺は、仕方ないので串に刺して焼いただけの鹿肉をくれてやった。これで質問に答えなければ、マジで手が出る。マジで。
「ほら、やるから答えろ、ロリピンクにロリブルー」
「失礼な。私はロリでもブルーでもありません。私にはベータという名前がありますよね?姉様」
「そうですね、私にはアルファという名前がありますね、妹」
青色ツインテールゴスロリの方がベータで、ピンクのツインお団子ヘアーゴスロリの方がアルファという名前らしい。
俺は傍らに立つヒューカを手招いて、姉妹に聞こえないように耳打ちする。
「赤眼同盟隊の中で、アルファとベータとかいう名前のやつを知ってる者がいないか調べろ」
「はい、了解しました同志」
ヒューカはそう返すと、スッと闇に消えた。最近奴は気配を消すのが上手くなったようで、これも実際に消えたわけではない。
「さて、アルファくんにベータくん。その様子では君らは姉妹だね?何故あんなところで気絶していたのか、教えてくれないかな?」
さあ本題に入ろう。
「訂正。私たちは姉妹ではなく、双子ですよね?姉様」
「そうですね、私たちは双子ですね、妹」
あ、そう。大して変わらん気がするが、まあいい。
「それで私たちが何故あそこで気絶していたのか、ですか。答えて良かったですか?姉様」
「そうですね、良いと思いますよ、妹」
そのやりとり、いい加減やめてくれんか?
「私たちは旅人。バイオリンを背負い、エリアを跨いで活動する者。でしたよね?姉様」
「そうですね、順調ですよ、妹」
「私たちはいつものように旅の途中、ガストレアに襲われてしまったのですよね?姉様」
「そうですね、襲われてしまったのですよ、妹」
「それで命からがら逃げて助かったものの、食料や水の入った鞄を堕としてしまったのですよね?姉様」
「そうですね、落としてしまったのです、妹」
「そして満足に食料にありつけず、行き倒れてしまったのですよね?姉様」
「そうですね、飢えてしまったのですよ、妹」
う そ く さ 。
命からがら逃げてきた割には着衣に乱れがないし、髪も肌もきれいだ。何かを隠すために嘘を吐いているのは明白だが、まあいいだろう。今はまだ泳がせておくことにしよう。この双子以外に脅威が迫っていないと考えればいい。下手に拷問したり殺したりすれば、どうなるかもわからんしな。
「なるほど、よくわかった、ありがとう。今日はゆっくり休むと良い」
何が目的なんだろうな、こいつらは。
俺は言い知れぬ何かに覗き見られているような、そんな空恐ろしい錯覚を抱き、ぶるりと震えた。
♦♦♦
「はあ?同行したいだ?」
翌朝、眠気眼をこすって欠伸をしていると、昨日拾った双子が「私たち赤眼同盟隊に同行したいの。いいでしょ?姉様」などと言い出しやがった。お前らみたいな怪しい奴、一緒に連れて行きたいわけ無いだろ!
「丁度私たちが向かう先も岐阜なのですよね?姉様」
「そうですね、岐阜でコンサートをするのですよ、妹」
岐阜にエリアはねえよバーカ。ボロ出し過ぎだろてめぇらよ。
「ですから同行する許可を願います。もちろん、護衛としても働きますし、狩りも一緒にこなしましょう。そうですよね?姉様」
「そうですね、ただで同行はしませんよ、妹」
クッソー。断りにくいことをつらつら並べやがって。怪しいという一点を除けば、こちらがこの双子の同行を拒否する理由は何処にもないのが厄介だ。もし怪しいというだけで彼女らを撥ね除ければ、赤眼同盟隊の理念に反することになる。非常に厄介だ。
「いいではありませんか、同志」
「何か案でもあるのか?ヒューカ」
いつの間にか隣に現れていたヒューカが、俺に耳打ちをする。
「昨夜それとなく隊員に聞いて回ってみましたが、彼女たちの名前を知るものは皆無でした。コンサートをして各地を回っているのならば、少しくらい名が通っていても良いはずなのですがね。怪しさ満点です」
「それは私だって分かっている。だから同行を渋っているのだ」
「怪しいからこそ、双子を私たちの手の届く範囲に置いておくのです。下手に断って尾行でもされるよりかは、もしもの時の対処のしやすさが段違いです」
「なるほど、そういうものか」
やはりヒューカは頭が良い。たまに抜けていたり、ちょっとアレだったりするのが玉に瑕だが。
「おほん、いいだろう、貴様等の同行を許可しよう。ただし、私たち預かりの客人となるから、私たちから無闇に離れぬように」
同行する条件はこんなもんで良いだろうか。ヒューカの顔を見るに、これで良いっぽいな。
「やりましたね、姉様」
「そうですね、妹」
聞こえてくる言葉が怪しすぎるんだよなぁ。
「では朝食をとってから小休憩を30分挟む。その後出発とするから、ヒューカは隊長連中に伝えてくれ」
「わかりました、同志」
双子達の実力は凄まじかった。向かい来るガストレアを千切っては投げ、千切っては投げ(比喩抜きで)、まさしく無双といった戦いぶりであった。その強さは赤眼同盟隊随一の武闘派、三加茂雫をも一瞬で倒しきるだろうと確信せざるを得ないもので、まったくもって恐ろしい。こんな奴らが何かしら企んでいるとか怖すぎるんだよな。でもまあ、俺とヒューカと、雫を含めた隊長軍団で突撃すれば倒せないことも無いだろうから、そこは良いとして。
「後続が怖がるから、もっと綺麗に倒してくれんか」
双子達の戦った後はさながら地獄で、ガストレア特有の紫の血が辺り一面に散らばり、肉片はぺちゃんこになって木々に突き刺さり、悍ましい光景を作り出していた。それに巻き上がった血液が前方の部隊に被ってしまって、苦情が来てるんだよ。
「それは無理な相談ですよね、姉様」
「そうですね、これが一番スピーディでスマートな討伐法なのですよ、妹」
「んなわけあるか」
バイオレンスすぎるんだよお前らは。ガストレアの足を掴んで捥ぎとり、目を抉り、腸を引き出して引きずり回し、果ては肉に噛みついてみたり。そんなことしなくても倒せるんだよ、ソレは。せいぜいステージⅠ程度であろう雑魚ごとき、もっと綺麗に倒したまえよ。
「お腹が空きましたね、姉様」
「そうですね、お腹がひもじくなってきましたね、妹」
しかもこいつら、燃費が悪い。朝飯食ったのはまだ二時間前のことだというのに、もう腹を空かしてやがる。いくら狩りを行って備蓄を増やしたとはいえ、こいつらに間食をくれてやるほど余裕があるわけではないのだ。
「腹が減ったならこれでも囓っていろ」
なので俺はガストレアの骨を双子にプレゼントしてやった。扱いは最早犬である。
「この骨は私のですよね、姉様」
「そうですね、この骨は私のですよ、妹」
「姉ならば可愛い妹に譲るべきですよね?姉様」
「そうですね、妹ならば姉を敬って譲るべきですよね、妹」
「ふんッ」
ドゴッ
「……ッ!」
バキッ
ガストレアの骨を巡って、仁義なき戦いを始めた双子。無言で殴り合っている。
「本当にこいつらは何なのだ、馬鹿なのか?」
「さあ、何なのでしょうねぇ」
ヒューカにもわからないとは、ますます訳が分からん。
「はあ、行進再開だ」
「よろしいのですか?放っておいても」
「あんな馬鹿共には付き合ってられん。私たちが目的ならば、そのうち喧嘩をやめて勝手に戻ってくるだろう」
♦♦♦
「フーッ、フーッ、ど、どうやら、行ったみたいですね、姉様」
「そうですね、骨は私の物ですよ、妹」
双子は赤眼同盟隊が通り過ぎると、振り上げた拳を下ろして、そんな会話をし始めた。
「はぁッ、ふッ、勝手に、してください!それよりも報告ですよ、姉様」
「そうですね、この骨はとても噛み応えが良いですよ、妹」
「ムキーーーーッ!!!!後で絶対に取り返して見せます!それは私の骨なんですよ、姉様!」
「そうですね、報告をしましょうか、妹」
「姉様ァ!」
言うことなすこと全てをスルーされて憤慨したベータであったが、こんなことをしている場合では無いと怒りを押さえると、胸から懐中時計を取り出し、そのステムを何回か捻った。
すると風防が輝き、そこにとある人物が映し出された。
「晶様、ご機嫌麗しゅう」
その人物に対して、ベータとアルファは恭しく挨拶を述べる。あの阿呆そうな姿からは想像できない丁寧さだ。
『やあ、僕の可愛い双子たち。どうだい?接触できたかな?』
その人物は、若い男の声でそう言った。
「はい、晶様。無事接触できました」
これはアルファの言葉だ。
『それは結構、よくやった。それで、怪しまれてはいないだろうね?』
「それは勿論、怪しまれてなどおりません。奴らは完全にカバーストーリーを信じ切っています」
ベータはそう返す。
『では、これからはアレらと同行し、その様子を毎日この時間に報告したまえ。いいね?」
「「了解しました、晶様」」
言い終わると、映像は途切れた。
「ハモるのは止めてくれませんか?姉様」
「そうですね、私に被せるのは止めて欲しいですね、妹」
「殺して良いですか?姉様」
「そうですね、殴りますよ、妹」
仁義なき戦い、再開!
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