ブラック・ブレット―赤眼帝国の誕生―   作:邪骨

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今回からオリ設定が増えてくると思います。ご了承ください。




 アルファとベータという名の双子を拾ってから一週間が経った。これまで双子達にこれといって不審な動きは見られなかったが、俺たちの活動を観察したり、目的をやたらと聞いてくるなどという、分かりやすい行為はあった。目的はおそらく我々の偵察であり、どこかしらに報告をしているのだろう。つまりそれは裏で何かしらの工作行為を働いていないということでもあり、この点においては一安心だろう。正直、双子と刃を交えるのは避けたかったからな。

 さて、我々赤眼同盟隊は小田原駅から出立し、東海道新幹線に入った。線路上(半ば森林化している)を伝って進んでいる。線路の上ならば迷うこともないだろうし、地下鉄やトンネルなどの遺物を用いれば、雨風をしのげる拠点ともなるので、一石二鳥である。我々はこのまま東海道新幹線を通って名古屋を目指す。途中海で食料の調達も出来るだろうという算段だが、どうだろうか。ともかく地図様々である。

 

「あー水、水が欲しいですね、姉様」

 

「そうですね、汗が滝のごとく流れ出ますね、妹」

 

 そんな我々を現在苦しめていたのが、水不足である。水というのは大変貴重なもので、なかなか手に入らない。だというのに我々が健康な体を保つためには、水が必要不可欠なのである。具体的には飲料、料理、洗濯など、様々なことに使う。なのですぐに無くなる。雨が降ってくれれば一時は改善するのだろうが、なかなかどうして、雨は降ってくれない。

 

「辛抱したまえ、一日1Lの配給を飲みきってしまったのは君らの我慢のなさが原因なのだから」

 

「鬼畜イカレ幼女よ、私たちは後列の無職共と違って最強。いったいどれだけ貢献してきましたか?貢献した分だけの報酬を求めます。具体的には水。ですよね?姉様」

 

「そうですね、とにかく水が欲しいのです、妹」

 

 馬鹿なことを言うなよお馬鹿。非戦闘員の彼女らとて、物資の運搬、食料の加工や、皮を鞣して服を作ったりして、労働に従事しているのだぞ。お前らだけを特別扱いなど出来るか。

 

「ああ、おかわいそうな姉様。水分が抜け、目から生気が失われ、瞼は半開きに!お労しやですよね?姉様」

 

「そうですね、今すぐにもバタンキューしそうです、妹」

 

「貴様の目が眠そうで生気が無いのはいつものことだろうが」

 

 隣でギャーギャー不満を申し立てる双子共に、俺の水筒をくれてやった。これは竹筒を加工して水筒としたものである。上部は植物の葉で蓋をしているのだ。

 

「おや、鬼畜幼女が気を利かせるとは、天変地異の前触れでしょうか?姉様」

 

「そうですね、彼女は気が触れてしまったのでしょう、妹」

 

 失礼な奴らだ。これからは親切心をこいつらには働かせないようにしよう。

 

「おっと、また野良ガストレアを発見ですよ、姉様」

 

「そうですね、狩りの時間ですね、妹」

 

 しばらく歩いたところで、またもやガストレアが飛び出してきて、双子に殲滅された。瞬殺である。

 

「おい貴様等!いい加減その野蛮な戦い方はなんとかならんのか!」

 

 ヒューカが怒り心頭に飛び出して、双子に説教を垂れる様は最早お馴染みの光景である。肝心の双子達は地面に巻きグソの落書きをしていて、まるで聞く耳を持っていないのだが、それでいいのだろうか。

 

「何を描いとるか貴様らァ!話をちゃんと聞けェ!」

 

 よくなかったようだ。ヒューカはこめかみに青筋をピクピクと浮かせて怒鳴り散らしている。

 

 まあ、そんなことはともかくとして、今のところ旅路は順調である。水不足は痛いが、一日の量を制限するだけで済んでいるから特に問題は無い。このまま何事も無く岐阜まで行ければ良いが、果たしてどうなることやら。

 

 雨降ってくれー。

 

♦♦♦

 

 東京エリアの天気は雨。ジトジトと降り注ぐ雨粒が空気を冷やし、肌寒い。

 

「蓮太郎くん、君にお使いを頼みたいんだ」

 

 そのジトジトとした東京エリアの、大学病院の、一等寒々した場所で、室戸菫は蓮太郎にそう言った。

 

「待ってくれ、突然どうしたんだよ、先生」

 

 困惑する蓮太郎をよそに、菫はコーヒーを飲みながら話を進める。

 

「新人類創造計画は勿論君も知っての通りだが、これの発展版である、『新世界創造計画』があったことを君は知るまい。それは計画が中止されてご破算になったんだがね、どうもこれを再始動しようとしている馬鹿がいるみたいなんだ」

 

 新世界創造計画?何のことだ。ますます困惑する蓮太郎に、菫はA4の厚みのある封筒を渡す。

 

「まあ、それについてはこのレポートでも読んで納得してくれ。

 

 さて、ここからが本題だ。先日札幌の方から連絡があってね、驚いたよ。その組織が何なのかは知らないが、奴らは私にその計画に参加してほしかったようなんだ。勿論、断ってやったがね。ただそんな馬鹿なことをしようとしている奴らが一体何なのか、正体が知りたくなった。そこで蓮太郎くん、君の出番だ。君は札幌エリアに出向いて、奴らに探りを入れてくるんだ」

 

 そう言い切ると、菫はパソコンをカタカタといじり始めた。

 

「怪しいと思う事象はすでにチェック済みだ。見たまえ、蓮太郎くん」

 

 ディスプレイに表示されたのは、目の弛んだ中年男性の顔である。しかし蓮太郎にはその顔に見覚えがあった。

 

「こいつは、札幌エリアの国家元首、か?」

 

「そうだ、こいつは『恵比寿(えびす)是清(これきよ)』。札幌の国家元首兼、『祝福の箱庭』の教祖様さ」

 

 札幌エリア。呪われた子供達を神聖視する宗教団体、祝福の箱庭によって管理されているエリアだ。しかし神聖視されているとは言っても、呪われた子供たちの扱いは、日本のエリアで随一の非道さを誇る。曰く呪われた子供たちの血液は万病に効く。曰く呪われた子供たちの臓器を移植すれば、祝福を授かれる。曰く呪われた子供たちの肉を食らうと不老不死になれる。そんな噂が真しやかにささやかれ、実際に実行されているのが札幌エリアなのだ。

 つまり札幌エリアは、呪われた子供たち牧場なのである。製造プラントで呪われた子供たちを作って、育て、各種用途に()()するのだ。まさしく狂気の世界だ。イカレている。

 

 そしてそんな悪夢を作り出した張本人が、この恵比寿是清なのである。

 

 蓮太郎はこの世で一番嫌いな人種であるソイツに顔を顰める。

 

「先生、こいつとその新世界創造計画に、一体何の関係が?」

 

「ああ、君はニュースを見ないタチかね?これは三日前のニュースだが……」

 

 菫は言うと、ディスプレイ上にあった1つの動画ファイルを再生する。そこには笑顔を湛え、民衆に手を振る是清の姿があった。

 

「これが何だって言うんだ?先生」

 

「思い出せよ蓮太郎くん、こいつは足腰が悪くて杖無しではまともに歩けん奴だったろう?」

 

「ああ、そう言えば」

 

 映像の中の是清は、腰がピンとまっすぐに伸び、悠々と地面を蹴って歩いて健脚ぶりを披露していた。

 

「奴は子供たちの祝福を受けて歩けるようになったのだと発表しているが、子供たちの臓器を移植してもガストレア化するのがオチで、あのように健康状態が改善することはあり得ないのだ。まあ、あの国ではガストレア化すらも祝福の一部として捉えられているから平気で臓器移植をするらしいが、これはそうではない。間違いなく奴は足回りを機械化している」

 

「それはそうだが、それで?」

 

「この発表の二日前まで、奴はとある病院に入院していた。それがここだ」

 

 ディスプレイに表示されるのは、「札幌第一大学病院」という看板の掛かった、巨大な建築物。

 

「まず君にはここに潜入してもらう。そこで奴の機械化手術の痕跡を調べ、情報を回収してくれ。もしかしたら、奴に機械化の話を持ち込んだ存在もわかるかもしれん。それが例の組織かは断言できないが、肉体の機械化技術を有する組織など限られているから、ほぼ確実だろう。

 

 さあ蓮太郎くん、最近燻ってばかりの君には、丁度良い気分転換だと思うがね。この依頼、受けてくれるかな?」

 

♦♦♦

 

「木更さん、俺はちょっと、旅に出るよ」

 

「はぁ?里見くん、あなた何を言ってるの?」

 

 事務所で蓮太郎は、木更にそう打ち明けた。蓮太郎の顔は思い詰めた様子で、険しい。

 

「俺に指名依頼だ、先生からな」

 

「菫さんが?一体何故」

 

「まあ、詳細は後で話すが、俺は札幌に向かう」

 

 前金はほら、この封筒の中に。

 蓮太郎が差し出した封筒を受け取った木更は、はっと息をのんだ。

 

「ささささ、300万!?さ、里見くん、あなた一体どんなヤバいことに足を突っ込んでしまったの!?」

 

「さあな、正直俺にもよく分からんが、どうやら俺に無関係な話でもないようでな」

 

 そう言うと、蓮太郎は自分の腕を見つめる仕草をする。それに木更は何か勘付いたのか、ふう、と溜息をついて社長椅子にもたれかかる。

 

「そう、ソレがらみなのね。まあ良いわ、その依頼を許可します。だから無茶だけはしないでね?里見くん」

 

「ああ、わかってる」

 

「それで、延珠ちゃんは連れて行くの?」

 

「どうするか迷っているところだ」

 

 蓮太郎は今回の依頼に延珠を連れていくかどうか迷っていた。延珠を危険に巻き込みたくないが、置いていくことで傷つくことも有り得る。悩ましいところだった。

 

「きっと延珠ちゃんは『妾も連れていけー』と言うに違いないわ」

 

「似てねーよ。しかしそうだな、きっとそう言うだろうな」

 

 木更の物真似に苦笑する蓮太郎。

 

「まあ、帰って本人に聞いてみるさ」

 

「そうね、そうすると良いわ」

 

 蓮太郎は言い残すと、ひらひらと手を振って事務所の階段を降りていった。

 

♦♦♦

 

「蓮太郎!妾も連れていけ!」

 

 蓮太郎はやはりな、と思って頭を掻く。

 

 事務所から帰ってきた蓮太郎は、木更に宣言した通りに、延珠に依頼について説明した。そうするとどうだろうか、予想通りに延珠は「連れて行け」を連呼して止まない。きっとここにティナがいたら、「お兄さん、私も連れて行ってください」と延珠の仲間に加わったことだろう。蓮太郎は今日ティナがいないことに、心底安堵していた。ちなみにティナは、今頃木更の家ですき焼きパーティである。蓮太郎が菫から貰ってきた前金で。羨ましい……。こちとら毎日もやしパーティーなんだぞ。

 

「危険だから来るな」

 

「そうやって除け者にしようとする!」

 

「いや、そういうわけでは……」

 

「では何なのだ!」

 

「俺はお前が心配なだけなんだよ、延珠」

 

「妾は蓮太郎に心配されるほど弱くはないぞ。それよりも妾は蓮太郎の方が心配だ。最近は特に何を考えているか分からないし、ボーッとしているし、ふらふらしているし、危なっかしくてしょうがない」

 

「俺、お前にそんな風に見られてたのか……」

 

 蓮太郎は延珠からの評価を聞きショックを受けるも、思い当たる節が沢山あったので何も言い返せなかった。

 

「ともかく、妾を連れていけ蓮太郎。なに、足手まといにはならないから安心しろ」

 

 ニカリと笑ってそう言う延珠に、蓮太郎は眩しさを感じた。

 

「わかったよ、付いてきてくれ。頼もしい相棒」

 

「おうとも!妾は蓮太郎のフィアンセだからな!」

 

「いや、それは違う」

 




原作では札幌エリアについての言及がまだされてなかったので、こういう設定にしました。子供たちを神聖視する宗教団体の設定があったので、ソレを混ぜています。

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