警察というのは優秀なモノで、肉親父の死体を即日発見したらしかった。それは少しマズイ。もしそこから俺たちの存在に辿り着く奴がいたら、それは脅威だ。
だから俺は肉親父の死体を遺棄したあの下水道で張り込みをすることにした。何者かが何かを用いて何か検査とかしていないかを見張るために。
そして張り込み2日目。懐かしい顔がやってきた。
そいつの名前は里見蓮太郎。かつての俺たちの先生であり、民警だ。これはマズイ。何がまずいって、民警であるという一点において、マズイ。民警に俺たちの存在が露見すれば、一瞬で制圧されてしまうだろう。それだけはマズイ。何とか切り抜けねばならん。
「久しぶりだな、蓮太郎先生」
だから努めて平静を装って、俺はそう言った。
♦♦♦
「「「「「ハイハイハイハイハイハイハイハイハイ!!!!」」」」
赤目の子供たちが、剣山のごとく挙手をする。そこには俺とヒューカの姿もあって、俺たちもそれに同調して挙手をしていた。
俺たちの前には、どこかやつれた目をした男と、巨乳女子高生が立っていた。この人たちが俺たちの先生、里見蓮太郎先生と、天童木更先生。録に学校に通えない俺たちのために、松崎さんが雇ってくれた教師だ。
そして先生方は無邪気な子供たちによって、質問攻めに遭っているというわけである。
「ハイ先生!先生は延珠ちゃんと結婚を前提に同棲してるって本当ですか?」
「本当だぞ!」
延珠はない胸を張ってそう答える。
彼女は蓮太郎先生の相棒で、イニシエーターで、将来のお嫁さんなのだそうだ。彼女は自信満々でそう言うけれど、最後のお嫁さんだけはきっと嘘だろう。もしくは願望か。だってほら、蓮太郎先生は困った顔をして、それを否定しているのだから。まあせいぜい頑張るといいと思う。ちなみに木更先生と同棲しているティナも、蓮太郎先生にゾッコンらしい。このロリコンめ。
いろいろ質問し終え落ち着いたところで、先生方は何やら紙を配布し始めた。
「んー?将来の夢ぇ?」
「そうだ。みんなの将来の夢を書くこと。これが今日の課題だ!」
蓮太郎先生はそう言うと、「よーいスタート」とタイマーを押す。
「ねぇねぇプルファちゃん、プルファちゃんには何か夢はあるの?」
「そうだな……私はみんなと楽しく暮らせれば、それでいいかな」
「私はねぇ、小説家になりたいな」
「そっか、ヒューカは頭いいもんな。きっとなれるよ」
そんな未来はこなかった。
みんな死んだ。
あの日、蓮太郎先生たちが来るのを待っていたとき、延珠とティナと何をして遊ぶかみんなと話し合っていたとき、あいつらが来た。
「死ねよ化け物!!!!」
たった一つの爆弾が投げ込まれて、みんな死んだ。犯人は俺たち呪われた子供たちを憎んでいるグループだった。
ミレイが、ゆかが、恭子が、ササナが、みんなが肉になって死んだ。
俺は咄嗟に力を使って、ヒューカを連れて走ったから、助かった。けどそれ以外は死んだ。
泣き叫ぶヒューカを押さえるのに、俺は苦労した。俺だって泣きたかったし、叫びたかったが、奴らに見つかるわけにはいかないから、我慢した。
逃げた。
奴らが追いつけないところまでヒューカを背負って逃げた。走った。しばらくするとヒューカは何も言わなくなって、俺の肩をただ力強く握りしめていた。
顔は覚えていた。
あの憎しみに歪んだ醜い顔を、俺の友達を殺したあの顔を、忘れるはずもなかった。だからヒューカと共に探し出して、殺した。
「化け物が、こんなことをしてただで済むと思っているのか!」
囀りは言葉ではない。だから俺たちはそれらの喚きを無視して、撲殺した。
「……これが、あのとき何があったのか、どうやって生き残ったのか、そのあらましだよ、先生」
俺は蓮太郎先生に帰ってもらうために、同情を買う作戦に出た。正直なところ殺人に対しての躊躇や後悔は最早持ち合わせていなかったから、彼がどれだけ悩んでも無意味なのだけど。とりあえず同情してくれたらそれでいいよ。
「そんな、ことがあったなんて」
民警とはいえ、先生は先生だ。恩ある人を殺すこと何てしたくないから、サッサと帰って欲しいわけだが。
押しが足りないのだろうか?なら今の俺たちの現状も少し話してより同情してもらおう。
復讐を遂げた俺とヒューカは、地下の古巣で細々と暮らしていた。
まあ、地下は俺たちのような呪われた子供たちの巣窟なわけで、他の奴らよりも力の使い方がわかっていた、「強い」俺たちに庇護を求めようと子供たちが寄ってくるのは自然なことだった。
俺たちが逃げ込んだ地下はどうやら外周区のさらに端の辺鄙なところだったようで、そこには普通の子供たちからも避けられるほど全身が異形化したやつや、生まれつき体の一部が異形になってたりとか、様々な奴らが暮らしていた。そいつらは隠れ住むのが精一杯な連中で、力の使い方なんてまるで知らない奴らばかりだったよ。逆に力を使いすぎて全身が異形になってるような奴らは、その強大すぎる力で周りの子供たちを殺さないように、身動き一つ取ることが出来なくなっていたりしていたがな。
そんでまあ、俺たちはご近所付き合いの感覚で、そいつらに盗ってきた飯とか分け与えていたんだ。それから少し経ってそこの連中と友達になった頃、その身動きのとれねえ異形やろうが言うのさ、「殺してくれ」って。ガストレア化する前に死にたいんだと。んで俺たちは了承してよ、殺してやったよ。そしたらそいつ、すげぇ嬉しそうな顔して逝ったぜ。ああ、思い出すと胸くそ悪いな。
「そんな、介錯って」
あーあ、胸が張り裂けそうだよ先生。あんたを苦しませたいわけじゃねぇから、はやく帰ってくれ。
「延珠とティナに、よろしくと言っておいてくれ」
言いたくなかった殺し文句だよ先生。帰ってくれ。
その言葉に先生はふらふらと立ち上がって、下水道から出て行った。ああ、ようやくかよ。
しかしマズイな。蓮太郎先生を疑うわけではないが、仮にも彼は民警だ。私の居所や情報を、他の民警や警察に共有しないとも限らないわけだ。
ならばそうだな、引っ越すしかないか。
「ふーん、蓮太郎先生、覚えててくれたんだ」
「ああ、しかし存在を知られてしまった以上、ここには留まれん。先生に会いたい気持ちはわかるが、諦めてくれ」
「プルファちゃんっていつもそうだね。『我慢しろ』『耐えろ』『諦めろ』ってさ」
「……すまない」
「まあいいよ。でも引っ越すとなると、あの娘たちは連れて行けないね」
「……ああ」
「殺すの?」
「……ああ」
「殺したくないのは、私たちのエゴだもんね。わかってるよ」
♦♦♦
街から呪われた子供たちが消えた、という噂が立ち始めたのは、蓮太郎がプルファの元を訪れてから一週間ほどが経った頃のことだった。
「どう思う?里見くん」
「やはり、アイツが何かしているとしか」
「そんなにあの子のコミュニテイは大きかったのかしら」
「いいや、わからない」
蓮太郎や木更は、この事態がプルファたちによって引き起こされたものだろうと感じていた。確証があったわけではなく、勘だが。
「なあ、蓮太郎。アイツとは何なのだ?」
「……延珠」
「私も気になります。お兄さんたちは、私たちに何か隠し事をしている。そうじゃないですか?」
蓮太郎たちはその眼差しに言葉を詰まらせる。
「……ごめんない。言うことは出来ないわ」
木更は何とか声を出すと、延珠とティナに言い聞かせる。
「妾はそんな言葉では納得しない!気づいていないとでも思ったか!?いつからか蓮太郎の顔が陰っていることに!木更と二人きりで話し込むことが多くなったことに!妾たちはそんなに邪魔か!?」
延珠はそう叫ぶと、走って事務所を出て行った。
「あ、延珠さん!すみません、私は延珠さんを追います!」
ティナもその後を追い、走り出す。
「里見くん」
「何だ、木更さん」
「やはり教えるべきなのかしら。あの子たちのこと」
「俺は……俺にはまだ出来そうにない」
「私もよ」
私たちって、ダメな大人ね?里見くん。
各話感想求む
-
良い
-
程よい
-
悪い