モグラのように穴ぐらを進み、2、3匹のガストレアをぶち殺し、これからの生活に不安を覚え始めたあたりで、俺たちは地上に出た。
「ここが……エリア外」
見渡すばかり青々とした大地に、崩れかけの廃墟が乱立する光景。外周区とさほど変わらない様に拍子抜けしたが、そこら中に散らばる何かしらの抜け殻や、這った後を見るに、外周区とは危険性が段違いだとわかる。
「統括隊長殿、お待ちしておりました」
その声の方を向けば、やや腰の曲がった、眼鏡をかけた初老の男性、松崎さんがいた。彼は俺たちの恩師であり、協力者であり、密偵であり、捨て駒だ。そんな彼の後ろには、今一番見たくない人たちの姿があった。
「蓮太郎先生に……木更先生……」
彼らは松崎さんの後ろから、俺たちのことを微妙な顔で見つめていた。
「松崎、裏切りましたか?」
「いえいえそんな、彼らは何も出来やしませんよ」
「なら良いですが」
まあ、松崎さんが裏切るとは考えにくいし、いいか。彼は言うなれば狂信者である。俺たち、いや、ヒューカの掲げる理想に酔いしれ、そうなってしまった哀れな爺さんだ。彼には定期的に使者を送り、浸食抑制剤の供給や、情報提供などをしてもらうつもりだ。
そしてこれは完全にヒューカの案なのだが、もろもろが終わったら松崎さんを人間爆弾として、特攻させるらしい。それを日本の全エリアに対する宣戦布告とするんだそうな。殉教主義者と化してしまった松崎さんにとっては本望なのだろうが、彼に恩のある俺としてはあまり賛成しがたい作戦だ。
最早覚悟は堅く、止められそうにもない。
私としては戦争など無益で、憎悪を積み重ねるだけの儀式でしかないと思っているので、できればしたくない。しかしヒューカは「我々が世界に認められる独立性を保つためには、武力で訴えるしかない」のだと言う。それも一理あるが、もっと他に良い方法はなかったのだろうか。
私は自らの後方に連なる数万の命を、そんなことで消費するのだろうか。そう考えると、少し鬱々とした気持ちになる。
「延珠、ティナ、お別れだ。彼らと共に帰るが良い」
「……プルファ、ヒューカ、どうしても行くのか?」
「どうしても行くのだ。未来を勝ち取るために」
「プルファさん、死なないでくださいね?友達をこれ以上失うのは、嫌なので」
「善処しよう」
延珠とティナにそれぞれ別れを告げ、蓮太郎先生たちの方に押しやる。
「蓮太郎先生」
「……プルファ」
「止めても無駄だ、誰かに言っても無駄だ。正義と神は死んだのだ。せいぜいエリア内で無力感に苛まれながら、来るべき日を待つといい」
「俺たちは……」
「帰れ!!!!!!!」
「あ……」
「では松崎さん、彼らを頼みます。それとあなたにはこれから危険が多く迫るでしょうから、護衛を一人付けます」
俺は側に控えていた少女の一人を松崎さんの側に寄越す。
「桂真紀子です。何なりとお申し付けください」
桂真紀子、モデル・エレファント。イニシエーター崩れの少女だ。耐久力に秀でており、見かけによらず質量とパワーがあり、彼女にタックルでもされれば全身が粉微塵に粉砕されるだろう。またそんなタンクのような性質の割には、繊細な動作も得意である。彼女ならば松崎さんをその日まで守り抜くことが出来るだろう。
「ほほ、これは心強い。では統括隊長殿、計画の完遂をお祈りしますぞ」
「ああ、祈ってくれ」
そう言うと松崎さんらは止めてあったバンに乗り込んで、東京エリアの方へと消えていった。
「はあ、まだエクソダスは半ばですらないというのに、こうも疲れるとはな」
「そうですよ同志、まだまだ始まったばかりです」
「わかっているよ」
俺たちが変えるんだ。この呪われた世界を。俺たちの未来を。
「行くぞ!目指すは岐阜城!」
♦♦♦
「……アルディの落とし子たちが、何やら動き出したそうだね」
「ふん、悪魔といえど、所詮まだ子供よ。何も出来まい」
「それはどうかな。あれらが成し遂げる可能性もあるんじゃないかな?」
「心配性が。そんなに心配なら早々に潰してしまうべきでしょう」
「いやいや、そんな潰すだなんて勿体ない。むしろ応援したいくらいだよ僕は」
「酔狂者め」
「まあ、手始めにあの双子を遣わせてみるとするよ」
せいぜい僕を楽しませてくれよ?子供たち。
ここまでお読みくださった皆さんに感謝。感想アンケートに投票してくれた人にも感謝を。
これで「惨劇の亡霊編」はお終いです。次回からは「エクソダス編」が始まります。
どうぞお付き合いいただけると幸いです。
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