第三回ウマ娘短編合作   作:通りすがる傭兵

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薔薇とダイヤ。この2人が入れ替わってしまったらどのような道を辿るのか?


3 冠に頂かれた薔薇とダイヤモンド 

ウマ娘なら誰しもが必ず憧れ、入学したいと考える場所、それがトレセン学園。そんなトレセン学園の中には、摩訶不思議な場所がたくさんある。

 「鏡のT字路」も、その中の1つ。そこは、廊下が交わるT字路に、巨大な鏡が据え付けられている場所である。ただし、この鏡をいつ、どこから、一体誰が、どのような目的で設置したのか、その一切が不明になっている。

 トレセン学園の卒業生が寄贈したとも、風水目的で設置されたとも、魔除けに設置された、などなど、様々な説が噂として流布しているが、その真相は一切が不明となっており、本当に不思議な場所となっている。

 ある日、このT字路で事件が起こった。

この日、サトノダイヤモンドはチーム・スピカの練習に向かうために、エアグルーヴは生徒会の仕事を行うために、廊下を走っていた。

 丁度廊下の角に2人が差しかかった時、偶然にも2人は正面からぶつかってしまい、2人はぶつかった衝撃で意識を失ってしまうのだった。

 まず意識を取り戻したのはサトノダイヤモンドである。まだ少しズキズキする頭を抱えて起き上がったサトノダイヤモンドだったが、その目の前に広がる現実に驚愕した。

 何故なら、目の前に自分が横たわっていたからである。何が起こったのか分からないサトノダイヤモンド。まさか、自分が幽体離脱したのではないかとも思ったが、廊下にあった大きな鏡がその状況を教えてくれた。

鏡が映し出していたのは、廊下に倒れたままのサトノダイヤモンドと、何がどうなっているのか全くわからず困惑しているエアグルーヴだった。サトノダイヤモンドが手を動かすと鏡の中のエアグルーヴも手を動かす。サトノダイヤモンドが耳をぴょこぴょこ動かすと鏡の中のエアグルーヴも耳を動かす。サトノダイヤモンドが目をぱちくり動かすと鏡の中のエアグルーヴも目をぱちくりさせる。

「う、嘘でしょ。」

なんと、サトノダイヤモンドとエアグルーヴはぶつかった衝撃で身体と心が入れ替わってしまったのだ。

「ど、どうして・・・」

驚愕のあまり、その場から動けないサトノダイヤモンドであった。

「あ、あれ?私は何故ここで倒れているんだ???」

 この時、丁度エアグルーヴも目を覚ました。

「そ、そうだ。確か私は生徒会室へと書類整理へ行く途中でサトノダイヤモンドとぶつかって・・・って、え?何故私が私を見つめているのだ???」

つい先程意識を取り戻したエアグルーヴは混乱しているらしく、この状態に理解が追いついていないようだった。

「エアグルーヴ先輩、鏡を見て下さい。私だってまだ理解が追いついていないんです。」

サトノダイヤモンドに言われるままに鏡に視線を向けるエアグルーヴ。そこには鏡を指差すエアグルーヴと鏡を見て驚愕するサトノダイヤモンドが映し出されていた。

「な、何だと・・・。一体何が起こっているんだ・・・・・。」

エアグルーヴもこの状況に困惑せざるをえなかった。

 

 

 

「・・・つまり、廊下の角でぶつかったところ、お互いが入れ替わってしまった・・・・・と。だが、このような問題は今まで聞いたことがない。流石にこの私でもお手上げだな。」

 

 所変わって、ここは生徒会室。2人から事情を聞いた生徒会長のシンボリルドルフだったが、過去にこのような事例はそもそも報告されたことがない。一体どのようにすればいいのか分からず、困惑していた。完全にお手上げ状態である。

 そして、しばしの協議の後、

 

「で、結果的に心が元の身体に戻るまで一緒に生活することになった、と。」

「まあ、別にこのような生活も悪くはないと思うがな。」

 

ひとまず、身体と心が元に戻るまで、2人は一緒の部屋で生活することとなった。勿論、同室のキタサンブラックとファインモーションには了解を取ってある。

 

 ちなみに、

 

「あ、そうだ。もう一度思いっきりぶつかれば元に戻るんじゃないか?」

 

「「痛そうなので全力でお断りさせていただきます。」」

 

生徒会長の脳筋作戦は一発で却下された。

 

 

 

「疲れましたわ~。」

「私もそれには同感だな。流石に今日は色々とあって疲れたよ。」

 

 夜の帳が落ちた頃、サトノダイヤモンドとエアグルーヴの2人は寮のベッドで完全に伸びていた。身体が入れ替わってしまったため、戸惑う部分が多かったのだ。そのため、通常よりも疲れてしまったというわけである。

 

「あ、そうだ。エアグルーヴ先輩、もし明日も元に戻っていなかった場合、お互いの耳飾りを交換するというのはどうですか?」

 

寝る前に、枕を胸元に抱いたサトノダイヤモンドが、エアグルーヴに耳飾りの交換を提案した。その方が、どちらがどちらなのか分かりやすくなるのではないか、と考えたからである。

 

「確かにそれはいいな。分かった。もし明日もこのままなら、お互いの耳飾りを交換しよう。」

 

 エアグルーヴも了承し、耳飾りの交換が決定した。勿論、明日もこのままであったら、という前提条件付きではあるが。

 

「少し早いですけど、私、寝ようと思います。また明日もあるので。」

「そうだな。私ももうそろそろ寝ようとしよう。」

 

 予想以上に疲れた2人は、少し早めに床に入った。

 部屋の電気が消され、2人は就寝した。

 少し経って、サトノダイヤモンドがぽつりと呟いた。

 

「わたし、この後どうなっちゃうんだろう・・・・・。お母様、私、怖いです。」

 

 サトノダイヤモンドの悲痛な心の訴えは、誰の耳にも入ることなく、闇の中に吸い込まれていった。

 

 

 

翌朝。空は青く澄み渡り、雀が心地よいさえずりを奏でていた。

 

「むにゃ。予想以上によく寝てしまいましたわ。」

 

 将来の自分を憂いていたサトノダイヤモンドだったが、気がついたらかつてないほど熟睡していた。

 

「おはよう、やっと起きたようだね。ねぼすけさん。」

 

 まだ焦点の定まらない目をごしごしとこすって目を凝らすと、既に身支度を済ませたエアグルーヴが腕を組み、仁王立ちをしてこちらを見下ろしていた。

 

「先輩、可愛い後輩にいくら何でもねぼすけさんはないと思いますよ。」

 

 サトノダイヤモンドはまだ眠い身体をゆっくりと起こしながら抗議した。

 

「まあまあ。しかし、私の寝顔は意外と可愛いものなのだな。我ながら見とれてしまうくらいだったよ。」

 

 しかし、エアグルーヴに軽くあしらわれてしまった。しかも、寝顔を見られたというおまけ付きである。

 

「ななな、何てもの見てくれるんですか!」

 

 この言葉にサトノダイヤモンドは頬を赤く染めてしまった。有馬記念を制した経験のある名ウマ娘でも、やはり心はピュアだったようである。

 

「ふふふっ、ふふ。サトノダイヤモンド、可愛いな。ふふふっ。」

「先輩!そこ笑う所じゃありませんよ!!!」

 

 これを聞いたエアグルーヴは思わず笑い出してしまった。サトノダイヤモンドは完全にお冠である。

 

「いやね、ここまで心が純粋だとはね。流石に予想外だったのさ。」

 

 エアグルーヴは、サトノダイヤモンドの想像以上の心の純粋さに驚き、思わず笑い出してしまった。

 

「おっと、笑っている場合ではない。早く身支度をしないと始業に間に合わなくなるぞ。」

 

 しかし、平静を取り戻したエアグルーヴの言葉で我に返ったサトノダイヤモンドは、身支度を始めるのだった。

 身支度も終わる頃、エアグルーヴがサトノダイヤモンドの前にやってきた。

 

「サトノダイヤモンド、少しの間じっとしていてほしい。」

 

 急にそう言われたサトノダイヤモンドは、じっとしていることしかできなかった。どうやら、目に何かしているようだった。少しくすぐったい独特の感覚が瞼を撫でていく。

 

「終わったぞ。もう目を開けても大丈夫だ」

 

 しばらくして、目を開けると、深紅のアイシャドウがサトノダイヤモンドの目にあった。そう。みんなのよく知るエアグルーヴの姿である。

よく見ると、エアグルーヴも目にアイシャドウをしていた。いつもとは違う、キリリとした目つきのサトノダイヤモンド(中はエアグルーヴ)がそこにはいた。

 最後に、互いの耳飾りを交換して耳につけて身支度は完了である。

 身支度の終わった2人だったが、不思議なことに、エアグルーヴは「左耳」にサトノダイヤモンドは「右耳」にそれぞれ自分の耳飾りをつけていた。いつもなら、不思議ではないのであるが、今は互いの心が入れ替わった状態である。余計不思議に拍車がかかっていた。

 2人は顔を見合わせて

 

「「不思議なこともあるのだな(ですね)」」

 

 とほぼ同時に言った。

 

 

 

 身支度も終われば登校である。2人はいつも通り登校し、昇降口で分かれ、それぞれの教室へと行った。

 

「みなさん、おはようございます♪」

 

 いつも通りみんなに挨拶して着席したサトノダイヤモンドだったが、みんなの視線がいつもより自分に多く向いていることに違和感を覚えた。

 

「あ、あの~。私が何かおかしなことでもしましたか?」

 

 サトノダイヤモンドが訝しがって聞くと、待っていましたと言わんばかりにクラスメイトたちが一斉に口を開いた。

 

「え~っと、エアグルーヴ先輩ですよね?何故この教室にいらしたのですか?」

「そこはダイヤちゃんの席なんですけど・・・。」

「教室は違うはずですけど・・・?」

 

 みんな口々に困惑の言葉を述べ始めたのだ。動揺するのも無理はない。何故なら、サトノダイヤモンドとエアグルーヴが入れ替わったことは同室のキタサンブラックとファインモーション、そして生徒会長のシンボリルドルフしか知らないこと。このことは誰にも知らされていなかったのだ。

 

「えっと、驚かないでくださいね。実は、このようなことがあったんです。」

 

 困惑するみんなを前に、サトノダイヤモンドは事のいきさつを話し始めた。

 

「「「そんなことってあり得るんですか~!!!」」」

「それが本当にあるんですよ・・・。」

 

 サトノダイヤモンドの話を聞き終わった後にみんなが口を揃えていった言葉がこれである。

 

「私だってビックリしているんです。」

 

 こうして、ホームルームはサトノダイヤモンドの話題で完全に持ちきりとなっていた。

 ホームルーム後は、特に何が起こるでもなく、粛々と授業が進んでいき、昼休みとなった。

 

 

 

 午前中の授業が終わり昼休み。昼食の時間である。昼食は基本的にみんなカフェテリアで取ることになっている。カフェテリアでの食事はバイキング形式で基本的にお代わり自由。そのため、オグリキャップやスペシャルウィークが大盛りにしている光景がよく目撃されている。

 そんな中、キタサンブラックを始めとしたクラスメイトたちと一緒にカフェテリアにやってきたサトノダイヤモンド。食事を取ることなくテーブルに突っ伏していた。

 

「どうしたの、ダイヤちゃん?」

 

 不安に思ったキタサンブラックがサトノダイヤモンドに話しかけた。

 

「キタちゃん。」

「うん。」

「私って、結構食べるじゃん。」

「そうだね。いつも結構な量を食べているよね。」

 

 実はサトノダイヤモンド、スペシャルウィークほどではないが、ウマ娘の中では結構食べる方にあたる。ある意味、サトノダイヤモンドがよく食べるのは彼女のクラスの日常だ。

 

「私ってさ、今エアグルーヴ先輩の身体じゃん。」

「うん。」

「エアグルーヴ先輩の所属するチーム・リギルってさ、徹底的な管理体制じゃん。」

「うん。」

「ということはさ、当然食事量も制限があるはずじゃん?」

「確かにそうだね。」

 

 しかし、今サトノダイヤモンドはエアグルーヴの身体である。エアグルーヴが所属するチーム・リギルは徹底的な管理体制を敷いており、それは食事まで及んでいる。

 

「でもさ、私、確信できるんだよ。キタちゃん。」

「何を?」

「私、エアグルーヴ先輩のいつもの量じゃ絶対に足りない。」

「まあ、分からなくもないけどさ。」

 

 何故このように言い切ることができるのかというと、エアグルーヴ先輩が食べている量はサトノダイヤモンドのいつもの量に比べて少なかったのだ。

 

「だからといって、いつもの量を食べたら、エアグルーヴ先輩に迷惑がかかっちゃうわけじゃない?」

「そうとも言えるね。」

「じゃあ結局、私、どちらを選択するべき何だろう?????」

 

 つまり、いつもの量を食べたら元に戻ったとき、エアグルーヴに迷惑がかかってしまうのではないか、と考えていたのだ。いつもの量にしようか、エアグルーヴの量に合わせるべきか。サトノダイヤモンドは悩んでいた。

 

一方、エアグルーヴも困惑していた。エアグルーヴは普段シンボリルドルフやタイキシャトルと一緒に昼食を取っている。今日もエアグルーヴはいつも通りの昼食を済ませたのだが、ちょっと悩んでいた。

 

「どうしよう・・・。」

「む、どうした、エアグルーヴ?」

「会長、いや、食事量で悩んでいまして・・・。」

「食事量?いつもの量で問題ないのでは?」

「いや、今の私はサトノダイヤモンドの身体じゃないですか?」

「そうだな。」

「それが原因なのか分からないのですが、普段ならこの量で満足できるのに、もっと食べることができるような気がするんです。身体が欲していると言うべきなのでしょうか。」

「なるほど。」

「ですが、これ以上食べたらサトノダイヤモンドに迷惑がかかるのではないかと。ゆくゆくは、その影響は自分の食習慣にまでも及ぶのかと考えておりまして。」

「ふむ。」

「結局、どうすればいいのでしょうか・・・。」

 

 逆にエアグルーヴは、サトノダイヤモンドの身体のため、いつもの量では逆に足りないと感じていたのだ。

 結局、

 

「エアグルーヴ先輩には申し訳ないけど、食べた分運動すれば多分大丈夫!よ~し、今日は食べるぞ~♪」

「少し罪悪感もあるが、身体が欲しているのなら仕方あるまい。これは別腹だと考えるとしよう。食べた分は運動すれば多分大丈夫なはずだ。」

 

 2人とも、いつもより多く食べることにした。ちなみに、食べた分はより運動すれば問題ないと考えていた2人だった。

 

 

 

 午後の授業も終われば、基本的には練習に向かう。場合によっては自習をしたり、生徒会所属の生徒は書類仕事を行うこともある。この日、サトノダイヤモンドはチーム・スピカの練習へ、エアグルーヴは生徒会の書類仕事を終わらせてからチーム・リギルの練習に行く予定である。

 そのサトノダイヤモンドは、少しだけ困惑していた。

 

『いつもは短パンなんだけど、今日はブルマだから、いつもより足がスースーする!』

 

 そう、身体はエアグルーヴのため、体操服がブルマなのだが、これが想像以上にスースーするのだ。しかし、それだけを気にしていては練習は始まらない。少しの足の違和感を覚えつつ、サトノダイヤモンドは練習に向かっていった。

 ちなみに、足の違和感は、練習を始めたら、全く気にならなくなっていた。

 練習を終えたサトノダイヤモンドは、チーム・スピカのみんなと一緒に雑談していた。ちなみに・・・

 

「キタちゃん、そろそろ離れてくれないかな?私が身動きできないんだけど・・・。」

「やだ~。だってダイヤちゃんの包容力、いつもより凄いんだもん。あといい匂いもする~♪」

 

 絶賛キタサンブラックに抱きつかれていた。周りのチームメンバーはいつも通りの光景だな、という目線をしていた。しかし、キタサンブラックのこの一言がサトノダイヤモンドの神経を逆なでしてしまったようで・・・

 

「ふ~ん。じゃあ、『いつもの私』の包容力はエアグルーヴ先輩よりもよくないっていうんだ?」

 

 サトノダイヤモンドは笑顔だけど目が完全に笑っていない状態に陥り、部屋の空気が氷点下にまで下がってしまった。

 

「いやいやいやいやいや、そういうわけで言ったわけじゃないよ。ただ、エアグルーヴ先輩のダイヤちゃんはなんか色々と柔らかいな、と素直に思ったことを言っただけで・・・」

「ならば、次回からはエアグルーヴ先輩に毎回抱きつきに行けば?」

 

 キタサンブラックが必死に釈明をするが、完全に焼け石に水。秋なのに最早部屋の気温はシベリアである。

 

「ダイヤちゃん目が怖いよ~。誰か助けてよ~。」

 

 キタサンブラックはチームメイトに助けを求めるが、完全にスルーされてしまった。しかも、脱出しようにも、サトノダイヤモンドに抱きついていたため、逆に締め付けられ、完全に身動きが取れない状態に陥っていた。万事休すである。

 

「ずびばぜんでじだー。私が悪かったですー。『いつものダイヤちゃん』も包容力が凄いですー。だから許してー。」

「よしよし、よく言えましたね。」

 

 完全に四面楚歌だったキタサンブラックは素直に謝ることで、部屋の温度は普通に戻った。

 こうして、チーム・スピカの日常は流れていった。

 

 

 

一方のエアグルーヴは、生徒会室で書類仕事に専念していた。生徒会副会長のエアグルーヴには、連日様々な仕事が舞い込んでくる。それらの仕事を捌きつつ、練習も行うのは流石エアグルーヴといったところだろうか。

 その様子を、生徒会長であるシンボリルドルフは新鮮な面持ちで眺めていた。いつも通り、同じ副会長のナリタブライアンは何処かに行って知っている様子。他の生徒会役員が必死になって探し回っていた。

 

「エアグルーヴ、いつも通り手際のいい仕事だね。」

 

 ルドルフがエアグルーヴの書類仕事の腕を労う。

 

「ありがとうございます。これくらいできなくては生徒会副会長は務まりません。」

 

 エアグルーヴが書類仕事を進めながら淡々と答える。

 

「ふふっ、いつもらしいな。それにしても、今日の仕事は一段と速いな。」

「そうですか?」

「うん。いつもより少しばかり速いと感じるよ。」

 

 どうやら、今日の仕事は一段と速いらしい。シンボリルドルフの観察眼は意外と鋭いみたいだ。

 

「あと、文字もとても可愛いね。いつもの綺麗な文字とは違う、柔らかい暖かみのある文字だね。」

「めめめ滅相もありません!」

「ん?顔が紅いようだけど、大丈夫かい?」

「大丈夫です!!!!!」

「お、おう・・・。」

 

 まさかの文字の綺麗さを指摘されたエアグルーヴ。おそらく、柔らかい暖かみのある文字は、サトノダイヤモンドの筆跡なのだろう。思わぬ指摘に照れてしまったエアグルーヴであった。

 こうして、生徒会室の時間も流れていった。

 

 

 

「色々と疲れました~。」

「私も今日は色々と疲れたよ。」

 

 1日が終わり、サトノダイヤモンドとエアグルーヴは寮の部屋にいた。サトノダイヤモンドはベッドに突っ伏し、枕に顔を埋め、エアグルーヴはベッドに座って小説を読んでいた。

 

「私達、どうなっちゃうんでしょうか。まさか、このまま一生戻らないとかあるのでしょうか。」

 

 枕に突っ伏したまま、サトノダイヤモンドがぽつりと呟いた。

 その言葉を聞いたエアグルーヴは、自分の膝をぽんぽんと叩き、膝の上に頭を預けるよう促した。サトノダイヤモンドは、疲れからかいつもよりゆったりとした動きで移動し、エアグルーヴの膝の上に自らの頭を横たえた。

 

「何をするんですか、エアグルーヴ先輩?」

 

 すると、エアグルーヴはおもむろに耳かき棒を取り出し、サトノダイヤモンドの耳掃除を始めた。

 

「サトノダイヤモンド、今日一日過ごしてみてどうだったかい?」

 

 エアグルーヴが、サトノダイヤモンドの耳かきをしながら質問をした。

 

「何というか、最初は身体が入れ替わったということに衝撃を受けていましたが、今日一日を過ごしてみて、みんなが何も変わることなく接してくれたのが正直意外でした。あと、1日という時間の中で、他の子たちが見せたまた別の表情垣間見ることができたように思います。でも、1日も早く元の身体に戻りたいというのもありますけれどね。」

 

 サトノダイヤモンドが今日一日を振り返りながら答えた。ちなみに、表情はとてもリラックスしている。エアグルーヴの耳かきのおかげだろうか。

 

「私も今日一日を過ごしてみて色々なことを経験したよ。勿論、何かと驚くことの方が多かったがね。人生何が起こるのか分からない物、ということはまさにこの事なのだろうな。」

 

 エアグルーヴも耳掃除をしながらそう答えた。

 

「そういえばエアグルーヴ先輩、耳掃除上手いですよね。」

 

 ふいにサトノダイヤモンドがエアグルーヴに聞いた。

 

「ああ、これか?この耳掃除はね、私の母から教わったものなんだ。母からは耳掃除の極意をこれでもかと言うほど教わったね。」

 

 エアグルーヴが耳かきについて答える。その表情は、どこか照れているようにも見える。

 

「ふふっ、耳かきが上手ですね。『お母さん』。」

「な、なななななな何を突然言うんだい!」

 

 サトノダイヤモンドから不意にお母さんの文字が飛び出し、エアグルーヴは完全に照れてしまった。

 

「だって将来エアグルーヴ先輩、絶対いいお母さんになりそうな予感がするもん。」

 

 サトノダイヤモンドが無邪気な笑みを浮かべて答えた。

 

「まったくもう・・・。耳掃除の最中に面白いことを言ってくれるね。はい、終わったよ。」

 

 エアグルーヴはその発言を受け、まだ照れた表情を浮かべている。ちょうどその時、耳掃除も終わったようだ。

 

「ありがとうございます。まるで耳が軽くなったかのような心地よさです。」

 

 サトノダイヤモンドの表情は嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

「そこまで言ってもらえると、嬉しいよ。私も耳掃除をやった甲斐があるというものだ。」

 

 エアグルーヴもサトノダイヤモンドのリアクションにご満悦のようだった。

 

「そうだ、サトノダイヤモンドに渡すものがある。」

 

 突然、エアグルーヴは学生鞄の中から、小さな包みを取り出し、サトノダイヤモンドに渡した。

 

「こ、これは?」

 

「それは、私がいつも使っているアイシャドウだ。母も同じ物を使っていてね。ちょうど新品を買いに行っていたんだ。昨日ぶつかってしまったのも何かの縁。よかったら、使ってほしい。」

 

 エアグルーヴは、自分が毎日使っているアイシャドウをサトノダイヤモンドに渡したのだった。

 

「あ、ありがとうございます。大切に使わせて頂きます。」

 

 サトノダイヤモンドは、アイシャドウを受け取った。

 

「何だか、急に眠くなってきちゃいました。」

 

 その直後、サトノダイヤモンドは急に眠気に襲われ、エアグルーヴにもたれる形で眠ってしまった。

 

 

 

「・・・ん・・・ダ・・・ん・・・イヤ・・・ちゃん・・・ダイヤちゃん!」

 

「!!!」

 

 突然、サトノダイヤモンドは何者かにたたき起こされた。

 

「エアグルーヴ先輩、何ですか?結構寝ちゃいましたか???」

 

「ダイヤちゃん、エアグルーヴ先輩は隣の部屋でしょ。何言っているの?」

 

 寝ぼけたサトノダイヤモンドがエアグルーヴだと思っていたのは、同室のキタサンブラックだった。

 

「あれ?私、エアグルーヴ先輩とぶつかって、生徒会室に行って、そのあと入れ替わったまま1日を過ごして、大切な物を受け取って、それで寝ちゃったんだっけ?」

 

サトノダイヤモンドは相変わらず寝ぼけたままだった。

 

「何不思議なこと言っているの?そんなこと起こるわけないでしょ。いつも身支度する時間なのに起きないからたたき起こしちゃったけどさ。」

 

 まさか、と思って洗面台に駆け込み鏡を見ると、いつもの自分が鏡を見つめていた。どうやら、夢だったようだ。半分ホッとする反面、やけに正確すぎる夢だとちょっと不思議な気分になったサトノダイヤモンドであった。

 

「ごめんごめん。ちょっと変な夢を見ていたみたい。すぐに身支度をするね。」

 

 キタサンブラックに謝り、身支度をするためにドレッサーに向かったとき、ドレッサーの上にある物が置かれていたことに気づいた。

 

「これは・・・」

 

 それは、エアグルーヴから受け取ったあのアイシャドウだった。夢の中に出てきたアイシャドウが何故ここにあるのか?サトノダイヤモンドは不思議に思ったが、ひとまず身支度をすることにした。

 

「お待たせ。ちょっと時間をかけすぎちゃった?」

 

 数十分後、制服に着替え、身支度を終えたサトノダイヤモンドが出てきた。

 

「別に大丈夫だよ。それよりもさ、ダイヤちゃん。」

 

 キタサンブラックは特に気にも留めていなかったが、1つだけ気になることがあった。

 

「何かしら、キタちゃん?」

 

「ダイヤちゃんが紅いアイシャドウをするって、何だか新鮮だね。」

 

 それは、サトノダイヤモンドがエアグルーヴからもらったアイシャドウをつけていたということだった。

 

「ちょっとイメチェンしてみようかな、と思ってね。どうかしら?似合っている???」

 

「似合っているよ!それに、いつもより格好よく見えると思う。」

 

「あ、ありがとう。」

 

 初めてする紅いアイシャドウ。似合っているか不安だっただが、キタサンブラックに似合っていると言われ、少し照れるサトノダイヤモンドであった。

 

 『私は、サトノダイヤモンド。どんなに辛いことがあっても、その度に壁を乗り越え、ダイヤモンドのようにいつか絶対に輝いてみせる!』

 

 サトノダイヤモンドは心の中でそう宣誓した。

 

「さあ、キタちゃん!行くよ!!!」

 

「あ、待ってよダイヤちゃん!急にテンション上がりすぎでしょ!!!」

 

いつもとは違うキリリとした目つきのサトノダイヤモンドは慌てるキタサンブラックと共に部屋を後にした。

今日もまた、新たな1日が始まる。今日は、どのような一日になるのだろうか。

 




はじめまして、Budd Pioneerと申します。ウマ娘の小説は企画を通して執筆しており、今回で3作品目となります。
 今回はサトノダイヤモンドとエアグルーヴという、全く扱ったことのない2人の入れ替わりを執筆させていただきました。全く扱ったことのない2人でしたが、入れ替わったらどのように生活していくのかな、と考えながら執筆したのですが、様々なアイデアが出てきたので、書いていて楽しかったです。
 最後に、この作品を手に取って読んで下さり、本当にありがとうございます。
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