目覚め
寒々しい部屋、大型のカプセルが一つあるB2研究棟、ここは最高級クラスの国家機密または特殊用途のレプリロイドを保管する施設で、世に送り出すことはできない隔離された世界だ。
そのカプセルの中には少女のレプリロイドの姿があった。
亜麻色の長髪、穏やかな顔つき、胸元の白いスカーフ、多少の改良が加えられているものの原型を留めているようだ。
元はレプリロイドで結成された軍事組織『レプリフォース』のレプリロイドらしいがその真相は今でも謎に包まれており、一部の研究者以外にしか知られていないとのことで、警備にあたっているレプリロイド、レイエスにとっては無関係だった。
レイエスは勤務歴3年と、中堅の警備兵でかつてはイレギュラーハンターだったようだが民間の警備会社に天下りしてから、ずっと極秘レプリロイドの警備にあたっていた。
仕事に忠実な性格が認められ、今は少女『ストライカー・アイリス』の監視約に。
「レイエス!」
彼にはデクという同僚がいた。
レイエスのメンテナンスの時に、少女を見守る役として。
「テロリストが襲撃してきたぞ!」
レイエスは意表を突かれた攻撃に驚く。
「警報装置は作動しなかったのか?」
「内通者に破壊されたっぽい。このままではまずいぞ!」
デクの様子からどうやら相当なものらしい。
さっきのヘリの音、研究棟まで響いていたようだったが、まさかあれにテロリストが乗っているのではと察した。
「万一のこともある。こいつの全プログラムを起動させよう」
レイエスの提案は意外なものだった。
「馬鹿!ドクターたちの許可なしにそんなことしたら!」
デクは否定的だったが、レイエスは聞く余地もなく、端末を操作する。
「テロリストに盗み出されるくらいなら、ロンドンに連れ帰った方がいい。まだ政府にいい顔できるぜ」
「俺は知らないからな」
少女の入ったカプセルは起こされる。
しかし同時に、鉄製の頑丈な扉が一瞬にして破壊され、ライフルを手にしたテロリスト三人が黒煙の中を突き抜ける。
レイエスとデクは、手持ちのショットガン、レミントンM31RS2で応戦する。
「レイエス、彼女の起動は?」
「あと五十秒かもな」
「俺がやつらをうわあああああ!」
カラシニコフから放たれた7.62mm弾がデクの胸を貫いた。
ちょうどジェネレーターのある位置だ。
助からないことを悟ったレイエスはすぐさま、テロリストの一人を狙撃することに成功する。
だがテロリストの練度も高かった。
放たれた弾丸はレイエスの脇腹を抉る。
「うっ!」
次の瞬間だった。
カプセルからエメラルドグリーンの光が輝く。
それは少女『ストライカー・アイリス』の瞳の色であった。
「彼女を、蘇生できたんだ!」
歓喜に包まれた瞬間、気を許した。
テロリストはレイエスの頭を狙撃する。
スイカ割りの如く彼の頭が弾ける瞬間を、少女は捉えていた。
一体のレプリロイドが死んでいく光景、彼女は状況を呑み込めないまま、カプセルの外に出る。
生まれたての状態、両肩のフレームは装甲で隠されておらず露出しており、まだ完成状態とはほど遠い仕様だ。
自分が何故ここにいるのか理解できていない。
少女アイリスは銃撃戦の状況を認識した。
人間とレプリロイドが撃ち合っている。
そんな時、テロリストの一人がカラシニコフを構えて「動くな!」と叫んだ。
アイリスは恐怖を感じた。
「来い!お前には来てもらわないと困るんだよ!」
乱暴な口調で恫喝するテロリスト、しかし次の瞬間、胸を撃たれたはずのデクが、隠していた拳銃シグ・ザウエルP210で二人のテロリストを狙撃した。
血で赤く塗られる鉄の床、アイリスは恐怖を感じ、この出来事に怯えた。
「逃げろ・・・・・・研究棟の外に行けば、助かるはずだ・・・・・・」
どうやらデクは狙撃された時、ジェネレーターへの命中を避けられたらしく、辛うじて満身創痍で反撃できたようだった。
しかし、虫の息の彼を見て、全てを悟った。
自分を狙う人間に殺されたのだと。
デクはついに息絶え、血塗られた絨毯に倒れる。
「何が・・・・・・起きているの?」
空白の眠りについていた少女アイリス、突然の銃撃戦、『赤いロックマン』と別れた滲んでいた記憶、その全てを揺り起こすように状況は危機的だった。
「おい!ブルーチームの連絡が途絶えたぞ!」
テロリストの一人の叫び声が聞こえる。
このままでは殺される。
殺気を感じたアイリスは、落ちていたレミントンM31を手にして研究棟からの脱出を試みる。
ここから出ないと!
あのテロリストと思われる人たちは自分を狙っている。
どうして狙っているのか、どうしてここにいるのか、自分に何があったのか、考えることなく、飛び出していく。