ロックマンアイリス   作:kokutetsu185

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ロックマンアイリス6

反撃

 

 アイリスとレオンの備えは完璧とも言えた。

 彼女は左足にホルスターを付けビームトーチの携行を可能に、更に腰にはビームの斧『ゼットアックス』、手にはクリスヴェクター・サブマシンガンと結構な充実ぶりであった。

 『ゼットアックス』は本来なら『ロックマンゼロ』向けの格闘兵器で、凡庸なビームの斧である。

 柄の部分は強化プラスチック性となっており、軽量化に優れている一方、ビームの出力はゼロが携行する『ゼットセイバー』と同等の出力を確保しており、近接戦闘に優れた才能を持つゼロ向けの武器だった。

 本来の主とは違うアイリスでも十分に扱える武器となっている。

 しかしこの武器の主がゼロであることは、彼女も知らない。

 それでも今は彼女にとって頼れる武器であることに変わりはない。

 レオンはトンプソンサブマシンガンを手に、腰にコルトガバメントM1911A1を、背中にレミントンM31ショットガンという重武装でこれだけでもテロリスト相手に対抗できるだけの力はある。

 「レオン!距離をとって戦って!私は最前線に出て敵の警戒網を崩す!」

 アイリスは前方に展開するテロリストたちの吶喊を試みる。

 射撃戦と牽制を得意とするレオンの特性から、なるべく後方に構えさせ、いざという時は逃がせるようにし、自分は中央突破を図り、近接戦闘の得意さを生かして圧倒する戦法に打って出る。

 ドミニクはいるのか?

 シグマとのつながり、ゼロとのつながり、その真実を恐らく彼は知っているはずであろう。

 そんな時だった。

 両肩のランプが赤く光る。

 迸る赤い電流、滾る力、アイリスは自分以外のなにかに取り憑かれたような感覚に身を委ねていた。

 「この力は?」

 衝撃波と同時に、彼女のエメラルドグリーンの瞳は血塗られた赤い瞳へと変貌し、穏やかな表情から悪魔へと生まれ変わる。

 この時、彼女は気づいていなかった。

 『ワイリーシステム』のことを、自分の感情を失っていたことを。

 テロリストたちは飛行ドローンと共に、アイリスへと向かう。

 「あそこだ!」

 テロリストの一人がAK47を構えた瞬間、彼女の姿が幻影のように消え、気がつけばサブマシンガンで腹部を撃ち抜かれていた。

 もう一人のテロリストもアイリスを捉えきれなかった。

 「早すぎる!『ロックマンゼロ』の再来か?!」

 その言葉が最後だった。

 アイリスは淡々とテロリストの脳天を撃ち抜く。

 そこには感情はない。

 ダッシュ移動の様子、赤い瞳、それはかつて伝説と称された『ロックマンゼロ』を彷彿とさせる。

 すでに感情はなく、ただ淡々と敵を返り討ちにし、イノシシの如く突進していくその姿はもうすでにレプリロイドの感情を無視し、秘められた力でただ相手を駆逐するハンティングマシーンとなっていた。

 上空からはドローンが三機アイリスに接近するが、サブマシンガンでハエの如く撃ち落とす。

 「化け物だ!」

 テロリスト六名は怯えながら後退していく。

 しかし、アイリスはクリスヴェクターを棄てると、腰に装備していた『ゼットアックス』を取り出し、六名のテロリストめがけて斧を振るう。

 彼らの五体はビームの斧によって引きちぎられ、中には手足が生き別れになったテロリストもいた。

 数秒だった。

 人としての存在が瞬時に焼き切られていく。

 彼女には敵以外は何も認識しておらず、その様子を見ても感情が揺れ動くことはなく、悪魔のような姿だけが残る。

 アイリスの足元には切り刻まれ、バラバラになった亡骸が倒れる。

 彼女の両肩のランプは消滅し、エメラルドグリーンの穏やかな瞳へと戻る。

 すでに『ロックマンゼロ』を凌駕する力はなく、あるのは何かに取り憑かれた後の虚無感だけがあった。

 後ろを振り返るとテロリストの亡骸が転がっていた。

 アイリスは自分の力に恐怖した。

 これが自分の力、自分に秘めているもう一つの自分の人格、ただ目の前の対象を敵と認識する冷徹さ、『悪』という単語が脳裏を過ぎった瞬間、『ワイリーシステム』の本質に気がついた。

 この力は危険だ。

 『悪』の感情を最大に引き出したのが、この力だと知った。

 イレギュラー(敵)を全て滅ぼすこの力、『悪』の力を増幅させた力、アイリスは全身を通じてこの危険性を知った。

 恐らくこの力が量産化されるようになったら、地上のレプリロイドを消滅寸前まで追い込むこともできるはず、いやどう考えてもこの性能はレプリロイドだけでなく、地上の生物を消滅させることさえ、不可能ではない。

 危険な力、それはアイリスの想像を超えるであろう。

 ドミニクが興味を持っていたのは、自分がこの力を持っていたからかと、胸の中に秘めていた疑問は確信へと変わった。

 ドミニクだけじゃない。

 テロリストが興味を持つのも分かる。

 この力は軍事的にも戦略性の高いコンバットプログラムで、世界中の軍隊が喉から手が出るほど欲しがるだろう。

 アイリスは自分の力に恐怖した。

 「私・・・・・・こんな力が・・・・・・」

 殺人的という表現を飛び越えた性能、支配されていた。

 誰がこのシステムを?

 そんな疑問を紐解く余裕もなく、上空からはヘリの音が近づく。

 同時に大きなビームランチャーを手にした屈強の男が降り立つ。

 「お前がストライカーか。俺はドライゼ、『夜明けの騎士団』のリーダーだ。お前を破壊してくれるぜ」

 テロリストの親玉か。

 アイリスはそう認識すると『ゼットアックス』を投げ捨て、ホルスターに収納していたビームトーチを取り出し、電源を入れる。

 ビームトーチは粒子の刃を形成した。

 ドライゼはビームランチャーを構えた。

 恐ろしいことにこのランチャーは対戦車・メカニロイド用でレプリロイド相手では過剰とも言える威力を有していた。

 無論、相手がゼロでも相当なダメージを受けるであろう。

 「ドミニクはどこだ?」

 アイリスはドライゼがランチャーを構えるより早く問う。

 「質問なら地獄でやりな!」

 ドライゼの攻撃は問答無用であった。

 放たれる青い一閃、アイリスは軽い身のこなしで回避する。

 研究棟に着弾した瞬間、爆風と同時にコンクリート製だった建造物が一瞬で蒸発してしまった。

 さすがはメカニロイド用のビームランチャー、いくら強いレプリロイドでも気をつけないとダメージを受けてしまう。

 だが、アイリスは迂闊に回避すれば研究棟の被害が拡大することを知っている。

 「迂闊に避ければ・・・・・・」

 相手は連射したところで制約もなく、むしろ失うものより得るもののほうが大きい、彼女の側は撃てない、圧倒的に不利であった。

 「一か八かか・・・・・・」

 それでもアイリスも無策ではないようだ。

 「終わりだな・・・・・・」

 ドライゼは勝利を確信した。

 ビームランチャーの引き金を引き、フル出力のビームを放った。

 「これで!」

 アイリスの取った行動はビームトーチを最大出力にして構え、ランチャーのビームを受け止める大胆なものだった。

 目論見は成功だ。

 ビームは屈折し、彼女の前で拡散して消滅していった。

 火花が幾分、全身に降り掛かってくるものの、ダメージは少ない。

 「そんな馬鹿な!なぜ受け付けた!」

 非常識とも言える。

 元は溶接用のビームトーチ、相手は対メカニロイド用ビームランチャー、本来ならばパワー負けするはずが、想定外の余力が含まれていたとも言うべきか、ものの見事にビームを無力化してしまったのだ。

 いや正確には吸収したというのが的を射た表現だろう。

 アイリスは、迷う瞬間を与えず一太刀を振るい、ドライゼの右腕をビームランチャーごと削ぎ落とすことに成功する。

 「うああああああああ!」

 生身の肉体に走る激痛はかなりのものだろう。

 ドライゼは蹲ったまま起き上がることはなかった。

 しかし、アイリスにとって、一撃を喰らわせたことで、彼の衝撃的な真実を知ることになる。

 切断された部分から、機械の配線や駆動部周りの部品が散見された。

 「どういうこと?」

 ドライゼは確かに生身のレプリロイドではないはず、しかし彼の肉体が機械であるのはあまりに不自然なこと、アイリスはドライゼの亡骸を調べて素性を確かめようとした瞬間であった。

 刀がドライゼの背に投げつけられ、鋭い刃が突き刺さる。

 一瞬のことだった。

 アイリスは警戒していたはずであったが、刀の主の存在を気が付かなかった。

 「ドライゼは僕と同じ『トランスレプリロイド』だ。人間でありながら、機械化されたレプリロイドの中間、そして忌み嫌われた存在でもある」

 声の主はドミニクだった。

 『トランスレプリロイド』

 機械化された人間ということか。

 詳しくはアイリスも分からないが、レプリロイドと人間の中間と言うべきか。

 「ドミニク・・・・・・モリアーティ・・・・・・」

 「私を知ってくれたことに感謝しよう、そして君にはドライゼを倒した以上、知る権利がある。『プロジェクト・セイレーネ』を」

 「『プロジェクト・セイレーネ』?」

 また新しい単語が一つ。

 「『プロジェクト・セイレーネ』は、かつてシグマが極秘に進めていたイレギュラーハンター抹殺構想の一つだ。三タイプのレプリロイドを軸に地上のイレギュラーハンターを始めとするレプリロイドを滅ぼす究極の存在、その一つに『ストライカー・ロックマン』である君が大きく関わっている」

 「そんな?!」

 「君は三タイプの一つとしてシグマの手によって生み出された、究極のレプリロイド。私が追い求めた存在だ」

 ドミニクの言葉の真偽を疑うことはなかった。

 彼から突きつけられた情報は、どこか確実性を帯びており、自分とシグマとのつながりを認識することになった。

 シグマは実質的な育ての親ということになる。

 あの『ワイリーシステム』もシグマから与えられた力、いやもう一つの自分というのが的確かもしれない。

 ドミニクは混乱している彼女を無視して、ドライゼの亡骸から刀を抜き取る。

 「今夜またここに来よう。君との戦いに決着をつける」

 それだけを言い残したドミニクは煙幕を展開し、彼は白煙の中に溶け込むように消えていった。

 『プロジェクト・セイレーネ』

 アイリスは自分が何者なのか再認識させられる。

 疑問に支配されている彼女、敵を薙ぎ払ったレオンが心配して駆けつける。

 「今の?ドミニクか?」

 レオンの問いに沈黙する。

 「追撃があるかもしれない、今のうちに備えよう」

 レオンの判断は合理的であった。

 アイリスは考えることをやめた。

 今はドミニクが敵だという認識、それこそが大事だと言い聞かせ、レオンと夜の決戦に挑む。

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