決戦
夜を迎えた。
その際にアイリスは、研究所の生き残りのレプリロイドや研究員をロンドンに脱出させることを警備員から伝えられる。
彼女はここに留まって相手を迎え撃つと言い張り、警備兵の計らいによって、ドミニクとの決戦に挑むことになる。
アイリスはあえて武装をビームトーチのみ携行することにした。
「武装はサーベルだけなんて、本当に大丈夫なのか?」
レオンが心配そうにしていた。
「ドミニクとの戦いでは武装は最小限にしたいの。それに手数の多さより機動性で勝るしかない」
レオンはそれ以上は言わないまま、トンプソンサブマシンガンの45ACP弾6発分をコルトガバメントM1911のカートリッジに移植し、装填する。
「あいつらの足止めは任せてくれ。ドミニクは無理でもできるはずだ」
「ありがとう」
メットールも心配そうに見つめる。
「ここまでありがとね。おチビさん」
アイリスはドミニクとの決闘を前にして、妙な安心感を覚えていた。
これもシグマがくれたものなのか、いやこれは元より自分の中にインプットされていたのかもしれない。
問題はあの力『ワイリーシステム』がいつ発動するかだ。
アイリスは様々な思いを交錯しつつも、研究所で待ち構える。
彼女の視界には一人の少年が十名ほどのテロリストを引き連れてきた。
少年は言うまでもなくドミニクであった。
「ドミニク、お前だけは倒す・・・・・・。きっと脅威になるはずだ」
アイリスの中で、ドミニクを倒す使命感が芽生えていた。
ビームトーチの電源を入れ、ビームの刃を形成していく。
「本気のようだな!ならばこちらも本気を出そう!」
ドミニクも腰の鞘に収納されていた刀を抜刀する。
次の瞬間、研究所の倉庫が蒸発し、ドミニクと取り巻きのテロリストたちは驚く。
アイリスはこれを見据えて、予めプラスティック爆弾を張り付け、ドミニクを牽制するつもりでいた。
「レオン、頼む!」
しかしこの爆発はあくまで牽制が目的。
アイリスは、レオンに背中を預ける形でドミニクに斬りかかる。
「ドミニク!」
跳躍からの一振り、ドミニクはあっさりと受け止める。
どうやら刀には対ビームコーティングが施工されており、ビームを受け止めることができるようだ。
火花散る衝撃、アイリスはドミニクからの攻撃に警戒した。
「いいぞ、もっとぶつけてこい!見返りはいらない、全力でぶつかろう!」
彼は楽しんでいる。
テロリストのことも、ドライゼのことも、シグマの野心に興味がないと悟る。
この状況を楽しんでいる。
ドミニクは歓喜に満ち溢れ、刀を振るう。
火花散る鍔迫り合い、アイリスも攻めては守るの繰り返しであった。
「どうしてだ。どうして戦うんだ!」
「最高に楽しいぞ!ここでお前を倒せなかったら、生きてきた意味がないからな!」
「そんなこと!」
アイリスの左腕がエメラルドグリーンの閃光に包まれる。
「『グラビティストライク』!」
『グラビティストライク』
彼女はその力を地面に叩きつける。
その瞬間、衝撃波を生み出し、ドミニクを吹き飛ばそうとする。
この必殺技が繰り出せた理由は知らない、しかし自分にとって頭で思い浮かんできた技の一つであったことは確かだ。
しかし、その一撃は避けられてしまった。
「もらった!」
体勢を立て直したアイリスは、腰に内蔵されていた『スキュラ』プラズマバスターを放つ。
高出力の粒子ビームを放ち、ドミニクを引き離すことに成功する。
「機敏すぎる!」
ドミニクも『トランスレプリロイド』である以上、一般的な人間以上の高い運動力を持っていることを認識した。
これでは決着が決まらない。
どうすれば・・・・・・。
そんな時だった、ドミニクの右肩に銃弾が飛ぶ。
「今ならドミニクをやれる!」
勝機を焦ったレオンによる攻撃だった。
どうやらテロリストの残党はあらかた片付けたようで、手持ちのハンドガンでドミニクを追い詰めようとする。
「ダメだ!レオン!」
アイリスの静止も間に合わなかった。
ドミニクはスーツの左袖に隠していたナイフを投げる。
その行き先はレオンの心臓、見事に突き刺さる鋭い刃、レオンは無言のまま、何も言わずに倒れた。
「君は何故、戦える?僕に勝利して何がほしい?」
彼は興奮状態にあった。
高揚感に包まれた笑みは、今までの屈辱と退屈な日々がすべて過去のことになったかのように、今を楽しんでいる。
「聞かせてくれ、君の声を・・・・・・」
ドミニクが斬りかかる。
「私には・・・・・・」
激しい鍔迫り合い、思考停止の中でアイリスが繰り出した答え。
「私には、レプリロイドだけの世界が、守りたい世界があるんだあああああっー!」
本能だけが勝っていた。
その叫びとともに繰り出された飛び蹴り、ドミニクは一瞬の衝撃に体勢を崩した。
「うわあああああああ!」
その数秒後、彼女から禍々しい妖気が包み込む。
「ついに来たか・・・・・・『ワイリーシステム』!」
ドミニクだけが理解した。
彼女の瞳が赤く染まっている。
すでにシステムは発動していた。
「待っていた・・・・・・これがシグマが求めた究極の力・・・・・・」
アイリスの動きは機敏という表現をはるかに超えていた。
殺人的な俊足を前にドミニクも捉えきれなかった。
襲いかかる刃、彼は受け止めるのに精一杯であった。
散る火花、血塗られた赤い瞳から発する光が浮かんでは消えていく、彼女には感情がなくなっていた。
あるのは敵を狩る本能のみだった。
「捉えきれない!」
そう感じた瞬間、ドミニクは右肩を大きく火傷を負うことに。
アイリスの一振りをどうやら初めて受け付けることになり、自分自身も余裕を失っていることに気がつく。
だが、すでに手遅れかもしれない。
幻影のような動き、それは『ロックマンゼロ』を彷彿とさせながらも強力な突きを胸に受け止めたことを実感していた。
たった数秒だった。
アイリスの瞳はエメラルドグリーンの色に戻る。
自我を取り戻す彼女に突きつけられたのはドミニクを討ったという事実だった。
「ど・・・・・・ドミニク・・・・・・」
長くはない。
アイリスは悟る。
「ふっ、ここまでだな。見事だったぞ、新しいロックマン・・・・・・。俺は今、満たされている・・・・・・」
「ここまでして戦う理由があったのか?」
「それはお前次第だ。見据えろ、お前の欲する未来を・・・・・・」
ドミニクは息絶え、崩れるように倒れた。
死に際、彼は微笑を浮かべていた。
こんな決闘に、これは一体なんのための戦いなのか、ドミニクの死は答えよりも疑問を多く残した。
そんな中、研究所のあちこちが爆破されていく。
崩れゆく建物群、燃え盛る炎の中でアイリスは立ち尽くす。
レオン、ドミニク、ゼロ、一人にしないでくれ。
みんなどこにいる。
そんな疑問を抱くなか、アイリスは白い閃光に包まれ、そして研究所には誰もいなくなった。