「なんのようかね、ロードエルメロイ2世。」
魔導元帥と呼ばれる老人の前にロードエルメロイ2世もといウェイバー・ベルベットは立っていた。
「あなたにお聞きしたいことがある。」
「ふむ、何かね?」
「あなたならライダー…いや、征服王イスカンダルが召喚された聖杯戦争について知っているかもしれないと聞きました。」
「聞きました、というのは誰から?いや、いい。私が人よりも物を多く知っていることは時計塔の人間ならば知らない人の方が珍しい。で、なぜ征服王イスカンダルについて知りたい?」
「…私は前回の冬木の聖杯戦争に参加しました。そしてかの王を召喚し、王と共に戦い、王から多くのことを学び、そして王の臣下になりました。臣下が主のことを知りたがることが不自然ですか?」
「臣下ねぇ…。まぁそういうこともあるのだろうな。確かに、私は征服王が召喚された聖杯戦争を知ってはいるが正直あまり話したくはないな。あまり人に誇れるような話ではないのでね。どうしても、知りたいのかい?」
「彼に関することならなんでも。」
はぁ、と老人は大きなため息をついた。
「まぁ確かに君には普段から迷惑をかけているからね。語るとしようか。しかし、長くなるからな。珈琲でも淹れてもらえるかな?」
「こちらにある道具を使っても?」
「ああ、構わんよ。」
ふぅ、ともう一度ため息をついて老人は語り始めた。
「先程、君は聖杯戦争の参加者だと言ったからもちろん知っているとは思うが、一応認識のすり合わせだ。君は聖杯戦争とは何か知っているかい?」
「あらゆる願いを叶える万能の願望機・聖杯をかけた戦いで、聖杯に選ばれた魔術師が過去の英雄をサーヴァントとして召喚し争う。サーヴァントには7つのクラス、セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカーが割り当てられ、マスターには絶対的な命令権である令呪が3つ与えられる。それが聖杯戦争です。」
「まぁその程度の認識で十分だろう。」
「では、その聖杯戦争について話すがその前に3つほど言っておかなければならないことがある。まず1つ、これは私が実際に体験した話ではない。これは並行世界で起きたことであり、私はあくまでそれを第三者として観測したに
すぎん。」
「並行世界…。」
「ああ、そうだとも。これはこの世界で起きたことではないから君の求めている物はないかもしれない。それでいいかな。」
「もちろんです。」
「では2つ目だ。先程も言ったが、これはあくまで並行世界での話だ。だから、君が知っている名前が出てくるかもしれないがそれは君の知る人物とは別人だ。並行世界とは、歴史上のターニングポイントでの結果の違いによって特異点が出来ることによるものだ。だから似通った部分もあるが、決定的に違う部分があることも理解してくれたまえ。もしかしたら、この後の話でキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグという名が出てくるかもしれないが、それはあくまでわたしではないわたし、並行世界のわたしだ。」
「わかりました。」
「そして最も重要な最後、3つ目だ。この並行世界の原因である特異点にはわたしが関わっている。無論わたしではないわたしだがね。これがあまりこの話をわたしが人にしたくない理由さ。ところで君、朱い月を知っているかね?」
「それは気象的、もしくは魔術的な現象としてですか?」
「いや、知らないか。朱い月のブリュンスタッド、原初の一にして月における最強種、アルテミットワン、タイプムーンさ。そして真祖と呼ばれるもののオリジナルでもある。真祖が吸血衝動を持つのは、原初たる彼女が吸血衝動を持っていたからにすぎない。」
「そんなものが存在するのですか?」
「この世界には既に存在しないよ。私が倒したからね。もう17世紀ほども前の話だ。」
「つまりその戦いで朱い月にあなたが敗北したのがその並行世界だと?」
「まさにその通りだ。恥ずかしい話だがね…。唐突だが君に問おう。君はこの惑星で一番繁栄している生物はなんだと思う?」
「…ホモサピエンスですか?」
「まぁそうだね。しかし、わたしが朱い月に負けたせいでその世界においてこの惑星で一番繁栄している生物は死徒なのだよ。真祖によって血を与えられた元人間の怪物さ。いわゆる吸血鬼だ。人間が存在しないわけではないがこの世界よりは遥かに数が少ない。それに、生きている人間の大半は教会によって保護されているか、吸血鬼達に飼われているかのどちらかだ。文明の進歩などするはずもない」
「そんな世界が…」
「朱い月から血を与えられたか、先代からその原理血戒を受け継いだ27体の、祖と呼ばれる最強の死徒。その中でも一番の勢力を持つ大帝ヴラドがただの暇つぶしに開催したのがこの聖杯戦争だ。本来の聖杯戦争とは違い、サーヴァントよりもマスターの方が強いことが多く、サーヴァントは戦闘員であると同時に血を飲まれる役を担わされる、そんな聖杯戦争だ。理解してくれたかな?」
「………。」
「…さて、前置きが長くなってしまったね。それでは語るとしよう。血塗られた戦い、血の聖杯戦争を。」