大帝ヴラドが鎮座する玉座の前に20人以上の吸血鬼が平伏していた。
「アトラム・ガリアスタが死亡したとのこと。」
「真祖虞美人が姿を現したそうです。そしてダーニック・ユグドミレニアを襲撃したと。」
「フランクリン・ノートが『黒き閃光』に襲撃され敗れたらしい。」
「ランサー陣営、アーチャー陣営、バーサーカー陣営が三つ巴の戦いを繰り広げたそうです。ランサーのマスターは不明ですが、アーチャーのマスターがビル・ブラックモア、バーサーカーのマスターはマキリの系譜の物だという情報が入っています。」
「人間がいるという噂が広まりそれを追っていた低階梯の死徒が大勢姿を消しているようです。」
情報という名の貢物が大量に大帝に送られた。我先にと多くの情報を口々に大帝へ伝える。しかし大帝はその情報をつまらなさそうに聞いていた。
「情報屋共よ。本当に情報はそれだけか?」
大帝の問いに返答はない。
「そうか、残念だ。余が知っていて貴様ら情報屋が知らない情報があるのはいったいどうしてだ?」
その問いに一人の情報屋が答える。
「お言葉ですが大帝、私はⅥ階梯です。命の危険があるような情報をつかむことは難しいのは当然ではないでしょうか?大帝の方が強いので大帝にしか得られない情報もあると思います。」
大帝は答えずに玉座から立ち上がりその情報屋の前へ来た。
「私が得られない情報を持っていないのなら情報屋に何の価値がある?」
大帝は目の前で平伏している情報屋の顔を鷲づかみにする。すると情報屋は干からび、そして塵になった。
「もう一度問う。本当に情報はそれだけか?」
返答はなかった。そして数秒後、その場で生存している情報屋は一人もいなかった。
「ライダー、出るぞ。」
大帝は自らのサーヴァントであるライダーに命令する。
「マスター、だれと戦うんだ?残り二陣営になるまで放置すると言ってなかったか?」
「さっきの話に出てきたアトラム・ガリアスタだが、奴の根城に人間の気配があるという情報を得ている。別の情報屋からな。大量の情報屋を雇ったが先程聞いた情報たちは既にその情報屋から聞いていた。ひとつ残らずな。」
「だからさっきの情報屋たちを皆殺しにしたのか。やることが大胆だな。それでセイバーのマスターが死んだって話がどうしたんだ?」
「主が死んでいるのに人間の気配がするのはおかしな話だ。奴を殺した『黒き閃光』がそこを拠点にしていると踏んでいる。聖杯戦争のマスターに手を出す気はなかったが奴は参加者ではない。ランサーのマスターは既にアーチャー陣営、バーサーカー陣営と交戦済みだ。マスターだと考えていたから放置していたがもう放置する理由もない。」
「ずっと気になっていたが、なぜ他のマスターと戦わんのだ?」
「余が動けば聖杯戦争など瞬く間に決着がついてしまう。そうなると次の聖杯戦争の参加者が表れなくなってしまうからな。」
「そうか。で、その『黒き閃光』というのは強いのか?」
「貴様では敵わんだろうな。だが余であれば相手にもなるまい。貴様はただ見ていれば良い。」
「そいつは恐ろしい。だがマスターが戦っているのをただ見ているだけはつまらない。一緒に戦おう。」
「下らんまねはするな。さっさと行くぞ。」
大帝はライダーと共に、情報屋から教えられたアトラム・ガリアスタの屋敷へと向かった。
「どういうことだ。アトラム・ガリアスタの屋敷から人間の気配など感じんぞ。嘘の情報を掴まされたという事か?まあいい。中を調べるぞ。ライダー、ついてこい。」
「おう。余が先陣を切ろう!」
屋敷の中へとライダーが突っ込んでいく。扉を破壊しながら。
「まて、罠があるかもしれん。まてと言っているだろう、ライダー!」
「特に罠はなかったぞ、マスター。」
呑気にライダーは言う。だがそのマスターはその場から一歩も動こうとしなかった。
「どういうことだ…。ライダー、なぜそこにいられる?」
「何を言っている?マスター、罠などどこにも…。」
「この屋敷全体が結界で覆われている。余が侵入すればひとたまりもないぞ。少し待て、結界を破壊する。」
「させませんよ。お客さん。」
屋敷の中から純白の法衣に身を包んだ男が姿を現した。
「ライダー!すぐに戻れ!」
「サーヴァントの方は大丈夫ですよ。この結界は完全なる吸血鬼にしか効果はありません。まあ、あなたには効果がありますが。」
大帝の周囲が白い光で包まれる。
「マスター!大丈夫か!『神威の車輪<ゴルディアス・ホイール>』!」
「確かにこの結界はサーヴァントに効果はありませんが…、私の攻撃手段が結界だけだと言った覚えはありませんよ。原理血戒『鎖』。」
「なんだこれは!雷よ、蹴散らせ!」
ライダーの召喚した戦車を無数の鎖が襲う。戦車から放たれた雷が鎖を弾いたがその光を目くらましに男はライダーに急接近した。
「大人しくして下がっていろと言っただろうが、ライダー!」
しかし、男による攻撃を大帝が受け止めた。
「血によって形作られた槍ですか。さすが27祖、大帝と言われるだけの力は持ち合わせているようですね。」
「そういう貴様は黒鍵で我が槍を受け止めているではないか。それにさっきのはフランクリン・ノートから奪った原理血戒だな。人の身で原理を扱うとはな。『黒き閃光』から受け取ったのか。てっきり『黒き閃光』が潜伏していると思っていたが貴様の方だったか、『白き城塞』!」
「彼は今はいません。彼に御用でしたらまたの機会にしておかえりいただいてもいいんですよ?」
「貴様を殺した後に『黒き閃光』も殺すさ!余の聖杯戦争を邪魔するものは誰であろうと生かしておかない。」
「結界が破壊されている。大したものです。私の結界でも数秒しかもちませんか。これが最強の27祖、大帝ヴラドというわけですね。」
「いつも人間の住処から出てこない貴様がこんな敵地のど真ん中にいるとは。貴様が死ねば人間はお終いだろう。なぜ出てきた?」
「大丈夫ですよ。私は死なないので。」
「それは大した自信だ。だがマスターではない以上私は容赦せん。問答無用で殺させてもらう!」
「おや、マスターであれば見逃してくれるんですか?ではこれで見逃してくれますかね?」
「貴様!それは令呪ではないか!どうやって手に入れた…。サーヴァントはどこに…。不明なことが多すぎる。どちらにせよ貴様は危険分子だ。ここで殺しておく方が賢明か。」
「おっと、危ない。見逃していただけないのならこちらも全力で行かなければなりませんね。」
『白き城塞』は黒鍵を取り出し吸血鬼に向けて投擲した。黒鍵とは聖堂教会の代行者が用いる武装の一つである。十字架を模した剣であり、精製された聖書のページから作られている。これが死徒に当たれば体が浄化され塵に還ってしまうという武装だが、そもそも普通の代行者では死徒に黒鍵を命中させることが難しいためあまり恐れられていない。故に大帝は簡単に黒鍵を弾こうとしたが、大帝の槍を黒鍵は切り裂きそのまま体を貫こうとした。しかしそれは大帝の体をすり抜けた。
「なんだこの黒鍵は。私の槍で受け止められないだと?」
「私の結界を黒鍵の周囲に展開しているのですよ。黒鍵を結界の核にすれば結界を動かすこともわけない。そういうあなたの体もすり抜けているではないですか。それがあなたの原理ですか。」
「そうだとも。これこそが我が原理、そして原理血戒『血』だ。余の体を血に変化させ、形を変形させることでどんな攻撃も当たらない。それにこういう使い方だってできるのだ。」
大帝の背後に大量の血が集まっていく。そしてその血は竜の形になった。
「血の竜ですか。実体がないから倒すすべもないというわけですね。私の結界の対象は吸血鬼。血の塊ではどうしようもない。さらに一番恐ろしいのがこれを血を飲まずにやってのけている点ですね。どうしたものか。」
「マスター、こんなことが血を飲まずにできるならサーヴァントなどいらないではないか。何のために余を召喚したのだ?」
「聖杯戦争に参加するために召喚したにすぎん。余とこの竜は攻撃を食らわんが貴様には当たるのだ。大人しく後ろにいろ。」
「そんなもの空間ごと切り裂けば問題ないと彼ならいいそうですが…。あいにく私のはそんな芸当はできません。これは絶体絶命ってやつですかね。」
血によって作られた竜は『白き城塞』を襲う。『白き城塞』は何とか攻撃を躱しながら黒鍵を投擲するが、効果はなかった。
「まあ、私の結界に物理的な物がないと言った覚えはないんですけどね!」
迫りくる血の竜の周りを白い箱が覆う。血の竜はその結界から脱出することができなかった。
「さっき投げた黒鍵は適当に投げたわけではないんですよ。黒鍵を結界の核にすることでより大きな結界を生み出す。こうすれば吸血鬼であるあなたは浄化できる。」
「それはどうかな。結界が大きければ大きいほど脆くなるものだ。こうして血によって膂力を増強すれば、この通り。結界など容易く壊せる。」
「なるほど。ではこれはどう対処します?」
解放された血の竜は再び『白き城塞』を襲ったが突如停止した。
「何をした?なぜ血の竜が完全に停止している…。なるほど、竜の形をぴったりなぞるように結界を作ったのか。だが壊してしまえば…。なぜだ?結界は壊したはずだが結界が消えない…。」
「確かに結界は壊れたよ。ただし一つだけですけどね。」
「なるほど。小さな結界を無数に作り分割したのか。それに結界を小さくすれば硬度も上がる。だがそんなに大量の結界を作って貴様の魔力は持つのか?」
「ご心配いただきありがとうございます。でも安心してください。あなたに同じことをするぐらいの魔力は残ってます。」
「そうはさせん!」
大帝の体を覆うように結界が張り巡らされる。しかし大帝の体は血となり、少し離れた場所に血が集まり、体を再構築した。
「これは困ったなぁ。どうしようもない。今の私はあなたを倒す術を持ち合わせていないようです。」
「竜が封じられたのであれば余自らの手で殺すまでだ。余は殺せんし、貴様では余の攻撃を受け流せない。勝負はついたな。」
大帝は血の槍を生成し、『白き城塞』は黒鍵を取り出し近接戦闘を始めた。大帝の槍の冴えと『白き城塞』の黒鍵捌きはほぼ互角だった。だが吸血鬼の膂力と人間の膂力で力比べをすれば人間に勝ち目はない。どちらの方が強いかは明白だった。しかしその差を物理的な結界を攻守に織り交ぜることで何とか埋めていた。
「守っているだけでは勝てんぞ!」
「これでも城塞と言われているのです。防御には自信がありまして。」
「ライダー!貴様も攻撃に加われ!宝具を使用しても構わん!」
ずっと戦いを傍から見ているだけだったライダーが宝具を起動しようとしたその時だった。
「真名解放!宝具展開!『鉄壁要塞陥落〈ジュブナイル・ドリーム〉』!」
かつてアトラム・ガリアスタの根城であった屋敷は巨大な光とともに跡形もなく崩れ去った。そこに残っていたのは大帝とそのサーヴァント、突如姿を現したアーチャーとそのマスター、そして黒色の軌跡だった。
「やっと見つけたぞ!フランクリンの仇、『黒き閃光』!この黒色の軌跡は間違いない。奴だ!」
「貴様はブラックモアの部下のビル・ブラックモアか。そしてこれはアーチャーの宝具というわけだ。とんだ横やりを入れてくれたものだ。奴はギリギリのところで『黒き閃光』に助けられたか。なんともまあタイミングがいいな。ライダー、無事か?」
アーチャーの宝具をまともに食らったものの、すぐに血によって体を再構築した大帝は言う。
「すまん、マスター。わざわざ守らせてしまった。」
ライダーを守るために、大帝は咄嗟に血の防護壁でライダーを覆っていた。
「貴様は大帝ヴラド!なぜここにいる!まさか『黒き閃光』と戦ったいたのか?」
「だとしたらどうした?貴様には関係のないことだ。マスターである以上手は出さないと考えていたが、今の横やりは看過できん。先に貴様から退場させてやろう。私の聖杯戦争からな。」
「『黒き閃光』をようやく見つけたというのに邪魔をするな!先に貴様を葬るだと?それはこちらのセリフだ!フランクリンの仇を取るためにも邪魔はさせん!アーチャー、お前はライダーと戦え。私が大帝ヴラドを殺す!」
「了解、マスター。宝具を使った俺への労いは無しってわけだな。」
「ライダー、敵のアーチャーをやれ。マスターの方は余がやる。この聖杯戦争も膠着してきている。そろそろ盤面を動かす時だ!」
アーチャー陣営とライダー陣営の戦いの火蓋が切って落とされた。