fate/bloody memory   作:カイバーイーツ

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第九話 憧憬

「貴様とは何度も戦場で顔を合わせてはいたがこうして一対一で戦うのは初めてだな、大帝ヴラド!この聖杯戦争に参加すると決めた時点で貴様との対決は避けられないものだった。最後に貴様を打ち倒すことを想定してはいたが、それがいつ来ようと同じこと。ここで貴様を倒し、その原理血戒をブラックモア様に捧げて見せよう!」

祖ブラックモアの後継者でありアーチャーを従える老剣士は、祖の最強格でありライダーのマスター、そしてこの聖杯戦争の開催者でもある大帝に叫ぶ。

「確かに貴様は祖の後継者達の中でも指折りの強さを持っている。その極めた剣技と原理は確かに厄介だ。だが、余は祖で、貴様は祖ではない。その時点で勝負にはならん。」

大帝は淡々と語る。先刻のアーチャーの宝具によって大きく姿を変えていた血の竜だったが、大帝は原理血戒を再度使用し竜を修復し、血の剣を構築した。そして竜と共に老剣士へ襲い掛かる。老剣士は剣を抜き竜を無視して大帝へと切りかかる。その攻防はやや老剣士の方が優勢だったが血の竜による攻撃により劣勢へと変わる。竜の攻撃を避けつつ後方へと老剣士は飛ぶ。

「やはり貴様のその原理血戒も健在か。原理血戒も数あれど、貴様のものほど扱いやすく強い原理血戒は見たことがない。その原理血戒『血』の能力は複雑に見えて単純。ただ触れた血を操作する。たったそれだけの能力。それがここまで脅威になるとはな。生物の血管に触れることができれば血を操られて死ぬ。いくら体を再構築できる上位死徒でも血が抜かれれば塵に還る。そしてそうして奪った血をストックし武器や防具の作成、終いにはこんな竜まで作れるときた。それを乗り越えて近接戦闘に持ち込んでも自らの体全身に血を混ぜているせいで攻撃も当たらない。どう考えても強すぎる能力だが最も恐ろしいのはその操った血が触れた血も操作対象にできる点だ。奴の血の攻撃を血管まで届かせたら即死。だが攻撃は効かない。何度も見てきた。戦場でその能力によって多くの命が散って行くのを。だからこそ当然対策は考えてあるとも。一気に決める。血を目いっぱい寄越せアーチャー。ここで勝てばこの聖杯戦争もうこれ以上の敵はいない。」

老剣士の右手に刻まれた残り一画のみとなった痣が赤く光りだす。

「原理『毒』発動。毒というものは幅広くてね。毒の定義は生命活動に悪い影響を与えるものの総称のことだ。一時の超強化を得る代わりにその後反動が来るもの、いわゆるドーピングだな。こういったものも捉え方によっては毒なのさ。そしてこの世に存在する毒ならば生み出せるのが我が原理。これで終わらせる。」

ビル・ブラックモアは更に空想具現化によって生み出された試験管とその中の液体をそのまま飲み干す。血の供給、毒によるドーピングによって膂力を極限まで強化する。優先するのはスピード、その一転にのみ意識を集中させ加速する。次の瞬間老剣士の手に握られた剣は大帝の胸を貫いていた。

「な、余が反応できなかっただと…。だがその程度ではダメージにはならん!」

咄嗟に握られていた血の剣を振るう。が、スピードを極めた剣士にその程度の攻撃は当たらない。そして胸を貫いた剣にはたっぷりの毒が塗られていた。そしてその毒の回るスピードこそが最も優先されていた。大帝がもう一度血の剣を握ろうとすると血の剣はただの血へと戻り手から零れ落ちた。

「どういうことだ!この毒はなんだ!くそ、体の修復もできん。竜までも崩れ去っている。いったい何をした!」

「この毒はこの聖杯戦争のために新たに開発した毒。原理血戒を封じる毒だ。これで貴様お得意の血液操作もできまい。お前の攻撃の回避方法は二つ。攻撃に合わせて体の形を変形させるか、食らってから一瞬で修復するか。ならば体を変形させる前に斬り、修復させなければいい。となれば後はただの斬り合い。膂力を増強した今、貴様に負ける要素は一つもない。お前は終わりだ、大帝。」

「屈辱的だが仕方ない。ライダー、血を寄越せ!いいだろう、単純な膂力で貴様を押しつぶしてやろう。」

大帝の右手も赤く光りだし血が供給される。大帝の爪牙が赤黒いオーラをまといながら肥大化する。そして老剣士との斬り合いが始まる。速さと技で圧倒する老剣士、それを力でねじ伏せる大帝。両者の戦いはしばらくの間拮抗していた。

「どうした、その程度かビル・ブラックモア!貴様の強化は一時的な物に過ぎん。更に毒が切れれば貴様に勝ち目はない。それまで耐えれば余の勝利だ!」

「やはり祖、一筋縄ではいかんか。だが、これで決める!聖杯戦争に参加できなかったフランクリンのためにも、貴様はここで殺す!」

ビル・ブラックモアの剣閃が大帝に傷をつける。その攻撃を食らいながら大帝は思考する。なぜこんなにも毒が強いのかと。毒の効力が消える気配はいまだない。原理血戒を封じる毒。しかし一瞬で全身に回る毒。原理血戒であるならばまだしもただの原理にそのような芸当が出来るのか、そもそもそんな毒を作るぐらいならば即死させられる毒を作ればいいのではないか、と。そして大帝は気づく。自らが大きな勘違いをしていたことに。させられていたことに。

「幻覚、いや催眠の類か。体の感覚を麻痺させることで原理血戒を行使できていないように感じさせる。実際は行使できているが感覚がないから維持できない。そういう類の毒か。なるほど、確かに気づかなければ原理血戒は封じられる。嘘はついていないわけか。だが、それに気づきさえすれば別に原理血戒は行使できる。してやられたな。」

大帝は呟く。そして傷を修復し剣を創造する。ビル・ブラックモアの頭上に血によって作られた剣の雨を。

「残念だったな、これで終わりだ。」

「気づかれたか…。それにもうドーピングの反動が来る…。おわりか…。だが、あきらめるわけにはいかない…!最後まであがいて見せようではないか!」

老剣士は今出せる全力を振り絞り全速力で走る。その剣でビル・ブラックモアの右腕が切り落とされる。それでも構わず一心不乱に駆け抜ける。アーチャーのもとへ。

 

アーチャーとライダーはいまだ戦闘を継続していた。どちらも血を吸われているため相当消耗しているが、ライダーは騎馬で空を駆け、アーチャーはそれを地面から落とそうと銃撃していた。

「ライダー、あんたのその戦車は大したものだ。いったいどこの英霊だ?」

「余か?余の真名は征服王イスカンダル!貴様の名を名乗れ!」

「イスカンダルだって!?お、俺の真名はメフメト2世!アレキサンドロス3世に憧れ、そしてアレキサンドロス3世を超えた男だ!」

「アレキサンドロス3世?それは余のことではないか。余を超えたと?」

「あ、ああ。そうだ!俺は子供のころからあんたに憧れていた。そしてそれを超える征服者になることを夢見てそれを達成した。それが俺だ!」

「して、貴様は聖杯に何を望む!」

「聖杯に望むのは吸血鬼という種の消滅だ!」

「なぜそんなことを望む?」

「我が生涯唯一の汚点。ヴラド3世に敗北し、吸血鬼という概念を生み出してしまった。それは俺の責任だ。その尻拭いをするのは当然の責務だからだ!」

「そうか、それは困ったな。だがまあいいか。ここで貴様は脱落だ。」

ライダーが問いに答えるよりも先にその問答は終わりを告げた。

「な、マスター!なぜここに!」

問答をしていたサーヴァント達のもとにマスターである吸血鬼達が駆け付ける。

「令呪のある右腕はなくなってしまったが、しょせんあれは血の供給を快適にするためのものにすぎん。ないのなら直接血を吸うまでのことだ!」

ビル・ブラックモアの牙がアーチャーの首元に突き刺さる。一向に血を吸いやめる気配はない。アーチャーの血の最後の一滴まで飲み干すつもりだからだ。

「ライダー、どういう状況だ?なるほどな。直接血を吸ったか。だが今更血を吸った所で余に勝つことなどできん!」

「マスター、ちょっと待ってくれ!アーチャーとの決着はまだついていない!正々堂々戦っての死とこのような結末は全く違う!そいつを止めてくれ!」

「もう無理だ。間に合わん。下がっていろ、ライダー。あれはもう死にかけ、すぐに終わる。」

「まだだ!まだあきらめん!決着の時だ!大帝ヴラド!!」

ビル・ブラックモアは右腕と剣を再構築し大帝ヴラドへと飛び掛かる。しかし彼の体から血が噴き出し、地面に墜落する。彼はそのまま塵に還った。

「先ほど右腕を切り落とした時に余の操作する血の剣が貴様の血に触れた。もう勝負はついていたんだ。あの時からな。もう聞こえてないな。祖でないながらここまで追いつめられるとはな。貴様のことは覚えておこう。ビル・ブラックモア。」

大した時間ではないが、少しの間彼は仇敵の死を惜しんだ。

 

「さて、これでアーチャー陣営は脱落した。『黒き閃光』、『白き城塞』のあとを追うぞ。奴はマスターとなっていた。おそらく契約しているのはセイバーであろう。セイバー陣営もろとも殺したと思っていたがどうやらマスターだけ殺してサーヴァントと再契約したのだろう。だがもう奴がマスターか否かなどどうでもよい。時間をかけすぎた。早々にこの聖杯戦争を終わらせるぞ。ついてこいライダー。」

「うむ…。」

ライダーはまだ、アーチャーとの決着をつけれなかったことを悔いていた。しかし、幸か不幸かその機会は再び訪れた。パンッと銃声が響く。大帝は向けられたその銃弾を、咄嗟に竜で防いだ。そこにはボロボロの服、ボロボロの体のアーチャーが立っていた。銃口を大帝に向けながら。

「まだ息があったのか、アーチャー。だが貴様一人では何もできん。死ね。」

「待て、マスター!」

ライダーの静止に見向きもせず、血の竜はアーチャーを襲う。しかしアーチャーはそれを打つどころか何もせず口を大きく開けた。怪訝に思った大帝だったがあまり気にせず竜での攻撃を続けた。しかしアーチャーの直前で竜は止まり、彼の口の中に吸い込まれていった。

「あんたのこれを見た時から思ってたんだ…。血なら全部飲んじまえばいいのにってな…。"吸血鬼"になった今なら、それができる…。」

「吸血鬼になっただと…?そうか、奴に血を吸われたときに死徒化したというわけか。確かに令呪を介した血液供給ならともかく直接血を吸えば死徒へと変貌するのもおかしな話ではない。そうなるとまずいな。貴様今、余の血を吸ったな。」

「ああそうだとも…。吸血鬼になってから血への渇きがすごかったんだ…。感謝するよ…。」

「だがなぜ貴様の体内の血を操れない?確かに余の原理血戒によって操られた血液は飲んでしまえば再生できないがその体内へと吸収された血を操ることができる。だから誰も余の血を飲んで対処しようとはしない。なのになぜ貴様の血を操れない。」

「俺は小さなころから、あんたの英雄譚を聞くのが大好きだったんだ…。アレキサンダー大王…。いや、征服王イスカンダルと今は呼ぶべきか…。いつかあんたみたいな王になっていろいろな国を踏破し征服して、あんたを超えたかったんだ…。そしてそれを俺は実現したと思ってる…。あんたを超える征服王になれたってな…。でもひとつだけ心残りがあった…。ヴラド三世に恐れてしまったこと…。奴を恐れ吸血鬼という概念を生み出してしまったこと…。奇しくも今目の前にいる大帝の名はヴラドで、奴にどことなく似ているが…。俺は奴の強さに憧れていたのかもしれないな…。その嫉妬から奴を吸血鬼として蔑んだ…。だが、今はその俺が吸血鬼になってしまった…。これも因果応報ってやつなんだろうな…。だが、こうなっても今の俺に与えられた原理はあの頃の憧憬が形となったもの、『征服』だったのさ…。俺はこの力であんたらを超えるぞ…。征服王、大帝…!!」

本来ただの死徒は原理など持っていない。ましてや死徒になった瞬間扱えるなどありえないことだ。だが、この世界では違う。あの光る月によって、吸血種の力を大幅に増幅させ、その他の物の力を著しく減少させる。当然その中には人間もサーヴァントも含まれている。サーヴァントであったアーチャー、メフメト二世だったが、死徒となった今、サーヴァントであるが故の力の低下は消え去り、吸血種としての恩恵を受けた。そして原理『征服』を得た。アーチャーとしての性質に寄ってはいるものの、その名の通り弾が当たったものを征服し、自らの物にするという原理を。

アーチャーのスピードはライダーの血によって増強していた膂力が落ちてきた大帝とほぼ同じ、むしろ少し上回っていた。大帝の血の造物を少しずつ征服していくアーチャー。その血を取り込み少しずつその力も増幅していく。アーチャーと大帝の戦いをただ傍観していることしかできないライダーだったが、意を決してその戦闘に混ざる。

「マスター!宝具を使う!『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』!!これこそが余に忠義する伝説の勇者たち!これこそが余が王として生きた我が生涯!我が至宝!我が王道!!この宝具で貴様を屠って見せよう!」

『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』。それは征服王イスカンダルの最強の宝具。生前の彼に付き従い、英霊として召し上げられた数多の戦士たち。その臣下たちとの絆によって心象風景を展開する固有結界を作り出す宝具。見渡す限りの青空と砂漠、そこに集う数多の英霊たち。それをもって敵を蹂躙する宝具である。

「どんな宝具を展開しようと同じ事…。どんな英霊であろうとも所詮は人間…。俺の宝具で征服して見せよう…!『鉄壁要塞陥落〈ジュブナイル・ドリーム〉』!」

アーチャーの展開した宝具は、アーチャーが死徒へと変貌したことによって大幅に強化されていた。その砲撃は砂漠もろとも大軍勢の半数以上を消し飛ばし、固有結界にすら大穴を開けていた。しかし一つだけアーチャーが見逃している点があった。ライダーの宝具、『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』はかつてのイスカンダルが歩んだ道の投影である。という事は当然、そこに朱い月によって強大な光を放つようになった月は存在せず、そこに存在しているのは太陽である。死徒というものはまず太陽に対する抗体を得る。そうしなければ塵に還ってしまうからだ。しかしアーチャーが死徒へと変貌した時には既に太陽はなかった。故に彼は太陽への対応策を持ちえない。そんな死徒が突然太陽のもとにさらされれば生きてはいられない。

「こんな…。ところで…。」

アーチャーは塵へと還っていった。ライダーの固有結界は消滅していく。

「危なかった。よくやったライダー。そんな方法で倒すとはな。久しぶりの太陽に余も少し驚いたがな。これで正真正銘アーチャー陣営は脱落だ。」

「余はこのような倒し方で倒したくはなかった。すまぬ。共に征服に生きた王として、貴様の名を余の心に刻もう。メフメト2世よ。」

 

こうして、アーチャー陣営、マスター:ビル・ブラックモアとアーチャー:メフメト2世は聖杯戦争から姿を消した。これがこの聖杯戦争最初の脱落陣営となった。

 

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