fate/bloody memory   作:カイバーイーツ

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更新が遅くなってしまい申し訳ありません。
今後も不定期で更新していきますが、なるべく早く更新できるように努力します。


第三話 開戦

ーとある屋敷にて

 

コン、コン、とドアが鳴る。

「入ってもいいか?」

うん、という返答よりも先にドアが開く。そこにはかつての穢らわしさや見窄らしさなど感じない、可憐だが凛々しい少女がいた。

「どうだ、勉強の調子は?ナナ。」

「この本ももう読み終わったよ。どうだった?ランサー」

「こちらは特にこれと言った情報はなかったよ。もう大帝による聖杯戦争開始宣言から二週間は経ったが戦闘が起きたという話はひとつもなかった。知らない所で潰しあってくれているのならいいのだが。あと、余のことはマスターと呼べと言っただろう。」

「あ、そうだった。ごめんなさい。」

「まぁ謝れるぐらいにまで成長したのならいいだろう。」

(余が召喚されてこのⅥ階梯の死徒の屋敷を奪ってからもう1ヶ月、大帝の開戦宣言からも半月が経とうとしているのに未だに一つも情報が入ってこない。この1ヶ月で名無に基本的な言語とついでにこの屋敷にあった魔術的な本を勉強させてみたが彼女は驚異的なスピードで習得していく。このまま普通のマスター程度まで成長するための時間があればいいのだが、どうにもこの平穏が不気味だ。ただの杞憂であればいいのだが。)

「もう一度言っておくぞ、今回の聖杯戦争は基本的に吸血鬼のマスターが戦い、サーヴァントはマスターに血を提供するのが役割だ。だがナナにはそんな戦闘ができるわけがない。だが、マスターと露呈したらすぐに狙われるだろう。だから余がマスターとして振る舞う。余を呼ぶときはマスターと呼べ、ナナのことはランサーと呼ぶ。今回の聖杯戦争の令呪が特殊でよかった。本来マスターからサーヴァントへ魔力を供給するための一方的なパスだが今回はマスターが吸血鬼で一々牙を突き立ててサーヴァントの血を飲むのが面倒だから通常の逆で、令呪を介しサーヴァントからマスターへ血を送るためにサーヴァントにも同じ令呪の刻印が刻まれる。命令することはできないが、他のマスターを騙すには丁度いいだろう。そして、いつまでもこの平穏が保たれるとは限らない。もしこの屋敷が攻められたら地下にある隠し部屋にすぐに隠れるんだ。場所はちゃんと把握しているな?」

「うん。本当にごめんね、役に立たない私なんかがマスターで。」

「そもそもあの『黒き閃光』がランサーを召喚していたら余はここにはいない。余のマスターはナナしかありえなかったのだよ。」

「…ありがとう。」

「では余はもう行く。次の本を読んでおくんだぞ。しかし、休憩はしっかりと取れ。ナナは余のような化け物ではなく人間なのだから。」

そうマスターに告げたサーヴァントが部屋を出ようとドアノブに手をかけた。その時だった。

「伏せろ!ナナ!」

 

咄嗟にナナが身を屈めた瞬間屋敷に巨大な光が衝突した。光が収まり二人が体を起こすと屋敷の上部は塵一つ残さず消え去っていた。そして光が飛来した方角には二つの影があった。それは6〜70代ほどの老紳士と頭にターバンを巻いた3〜40代ほどの男だった。まぁ吸血鬼の外見など何の参考にもなりはしないのだが。

 

「大丈夫か、ナナ!」

「うん、怪我はしてないよ。」

「敵襲だ!急いで隠れろ!」

「わかった…絶対に死なないでね。」

「余を誰だと思ってる。この程度あの時のトゥルゴヴィシュデに比べればどうということはない。さぁ早く!ランサー!」

 

「マスターとサーヴァントの絆か。泣かせるねぇ。貴様がさっきのランサーのマスターで間違いないな?」

「確かに余はランサーのマスターだが…そういう貴様は何者だ。こんなに堂々と結界ごと屋敷を吹き飛ばしてくれたようだが。」

「あぁ自己紹介がまだだったね。私は偉大なる祖、ブラックモア様の忠実なる僕にして唯一の友フランクリンノートを『黒き閃光』に葬られた男。ビル・ブラックモアだ。そして、この後ろにいるのが私が召喚したアーチャーのサーヴァントだ。てっきりこの屋敷の中に我が友の仇がランサーを従え居座っていると思っていたのだが貴様は『黒き閃光』ではないようだ。そもそもが吸血鬼だしな。」

その吸血鬼という言葉にランサーのマスターもといランサーは咄嗟に反応をしてしまった。すぐに平静を装ったがアーチャーのマスターはそれを見過ごさなかった。しかし少し勘違いをしていた。

「やはり『黒き閃光』を知っているようだな。フランクリンの屋敷で何が起きたのか、そして奴に知っていることについて全て話してもらおう。もちろん力づくでだ。どちらにしろ貴様は聖杯戦争の敵なのだからな。アーチャーさっきのランサーを追え。私はこいつと話がある。」

「おい、マスターそりゃないぜ。こっちはさっき宝具を打って魔力を相当消費してるっていうのにそんな状態でランサーとやれっていうのか?しかも屋敷の瓦礫の影に隠れれば玉はあたらねぇ。あまりに不利だぜ。」

「さっさと行け。別に貴様が死んだのなら私がこいつを殺した後にランサーも殺すだけだ。」

「まったく、ランサーはマスターに恵まれてるな。うちのマスターはサーヴァント使いが荒い…ん?お前どこかで…まさか…なぜ貴様がここに!」

「どうしたアーチャー、こいつのことを知っているのか?」

「なぜだ、そんなわけがない。こんなところにいるはずがない…いや、もしかしてお前もサーヴァントとして召喚されたということか?ということは…」

「令呪を持って命ずる!落ち着いて知っていることを全て言え、アーチャー!」

「わ、悪いマスター。こいつはヴラド・ツェペシ、俺の時代にいた吸血鬼だ。もしかしたらさっきのやつがマスターでこいつがランサーかもしれない。奴のやったことから考えればランサーというクラスも不思議ではない。」

「もしかして貴様は…メフメトか!さっきの砲撃も貴様のものと考えれば納得だ。…あの時の借りをここで返させてもらおう!」

その時、アーチャーの足元から無数の槍が突き出てきた。しかし、アーチャーのマスターは剣を抜き、それを軽々受け止める。

「ヴラド…少し気になることもあるが大体見えてきた。アーチャー、お前はさっき言った通りさっきの餓鬼を追え。どちらにしろこいつとは俺がやる。」

「そ、そうさせてもらおう。では頑張れよマスター。」

「まぁいい。貴様を殺した後であのアーチャーを殺せばいいだけだ。」

 

「お前が何者なのかはまだわからないが吸血鬼なのだから一二回殺した程度では死なんだろう?手加減はいらんな」

「あまり余を舐めていると足元を掬われるぞ。こんな風にな!」

またしてもアーチャーのマスターの足元から無数の槍が生み出される。その攻撃は止まるところを知らずそれを弾くたびに浮かされていく。そうして宙で身動きが取れなくなったアーチャーのマスターの右腕が串刺しにされた。警戒していた足元とは真逆の上からの攻撃だった。

「な、なぜ上から槍が…」

地面から突き出された槍から槍を突き出させその槍から…と四方八方から槍を生み出したのだ。そうして動きが止まった男に槍が迫る。男は咄嗟に左手の爪を強化して右腕を断ち切り、槍を足場に地面へ降りた。

 

「既に右腕の再構築が始まっているというのか。この世界の吸血鬼はつくづく化け物だな。しかし、これで貴様の剣は無くなった。さぁどうする?」

「くだらない。我ら吸血鬼には強靭な爪牙があり普通はそれで戦う。ではなぜ私が剣を極めようとするのか貴様にはわからないのか?確かにフランクリンの奴は空想具現化でいくらでも剣を生み出せるが私にはそんな芸当は出来ず剣を奪われてしまえばお終いだ…」

そこで男の姿は消えた。いや正確に言えば眼の動きが追いつかないほどの速さで移動した。

「まずい、剣が!」

とランサーが剣の方に目を向けるとそこには男はおらず男は目の前に現れた。

「と、思わせるためさ!」

アーチャーのマスターの爪が容赦なくランサーに向け放たれる。1、2、3、4度ランサーがその凶爪を槍で受け止める。そして5度目の右の爪の攻撃を受け止めた時その槍は大きく後ろに弾かれてしまった。

「さっきの借りだ。右腕はもらうぞ。」

絶体絶命かと思われたが、ランサーは既に反撃の手段を整えていた。槍を弾かれて後ろにのけぞった体を起こし地面を強く踏みつける。その瞬間またしても地面から無数の槍が現れた。しかし、目の前の男はそれを華麗に避けそのまま左腕を右手に握った"剣"で切り落とした。

「何故剣を…!その掌の穴、まさか腕の中に剣を仕込んでいたのか…!」

「先程腕を再構築したときに仕込ませて頂いたよ。我々吸血鬼のほんの一握りしかできない体の再構築だが、本来は普通の空想具現化と違い体以外を具現化することはできない。そういう代償であの速度で空想具現化を行使しているのだ。だが剣を体の一部と見做せば体の再構築の際に具現化することは可能だ。まぁ剣を体の一部と見做せるほど剣を極めている吸血鬼もこれまた一握りだがな。それよりも大丈夫か?私が腕を切った時は先に止血してから切ったが今のお前は左腕から大量の血が流失している。吸血鬼にとって血は唯一の生命線だろう?」

「そうか…この世界の吸血鬼はつくづく恐ろしい。だが私もこの世界では通常よりも遥かに高い性能が発揮できる。であれば、貴様らにできて私にできぬことなどない!体の再構築だろうと何だろうとやって見せよう!」

その言葉通り彼の左腕は再構築され元の形を取り戻していく。そしてその言葉で彼と相対する男は一つの確信を得た。

 

「やはりお前はサーヴァントのようだ。なるほど、これで辻褄が合ってきた。ということはお前はこの世界の吸血鬼の殺し方を知らないのか?」

「そんなもの、太陽の元に晒し出すか、あの『黒き閃光』のように太陽を纏った武具で殺せばいいだけだろう?」

「貴様はやはり理解していないようだ。太陽の元に晒し出すだと?では何故お前は今燃えていない?」

「私は完全なる吸血鬼ではないからな。サーヴァントとして召喚された以上人の側面も持っているのだよ。」

「なるほどな。では私は何故燃えていない?」

「太陽光を遮る魔術でも張っているのだろう?」

「そんなことはしていないよ。では一つ教えてやろう。この世界には太陽が存在しないのだよ。」

「何を言っている?現に今我々の頭上にあるではないか。」

とランサーは怪訝そうに言う。しかし男は淡々と続ける。

「あれは太陽ではない。赤い月だ。朱い月が第二魔法の使い手を倒した後朱い月は自らの月をさながら太陽のように赤く光らせ目障りだからと太陽を破壊したのだ。だから我ら吸血鬼は昼に自由に闊歩できる。私もアーチャーから言われるまでは太陽が存在する世界など信じられなかったがね。君達からすればこちらの世界が異常なのだろう。少し話が逸れたが太陽のないこの世界で吸血鬼はどうやって殺されると思う?確かにさっき言った太陽の力を纏った武器であれば吸血鬼すらも死に追いやれるだろう。だが太陽の力を纏った武器など多くは存在しないし実際私も『黒き閃光』が使っていると言う話を聞いただけで実物を見たことはない。それに吸血鬼同士の争いでは使えない。吸血鬼がそんなものを持てばすぐさま体が燃え尽きてしまうよ。ではどうやって殺すのか。吸血鬼は様々な手段を生み出した。体が再生できなくなるまで無限に切り刻むか、魔術を当てるかなどして殺すもの。相手の魔力を尽きさせるもの。血を吸い続け相手の血を渇望させるもの。多種多様のそれぞれの殺し方を編み出したのだ。そして私が編み出したのはこれだ。」

男はそう言うとおもむろに剣で落ちている左腕を突き刺した。その瞬間その左腕は塵になって消えてしまった。

「本当は原理なぞ私も使いたくないのだ。私がフランクリンと剣を交える時にはお互い決して原理を使わなかった。奴は原理血戒すらも所持していると言うのにだ。まぁそれも仕方のないことなのかもしれない。お互いに原理を使えばどちらが勝つかなど目に見えている。だが、奴は死んだ。私はこの戦争で負けるわけにはいかない。ならば、何をしても勝ち残らなければならない。だからお前を殺す。しかし、その前にフランクリンの屋敷で何が起きたのか教えてもらわなければならない。つまり、既に決着はついた。ここからは拷問の時間だ。」

男が指を鳴らした。するとまるで時でも止まったかのようにランサーは停止した。

(か、体が動かない…。口すらも動かすことができない。一体何が…)

 

「これこそが私の原理。毒だ。先程お前の腕を蝕んだのが私の生み出した最強かつ最速の毒だ。そして今お前を蝕んでいるのが私の生み出した神経を麻痺させる毒だ。これで指一つ動かせまい。腕を切った時に仕込んでおいた毒だ。」

男の言葉は嘘だった。原理を使いたくないと思っていたのはあながち嘘でもないが彼の唯一の友を失った時点で正々堂々と剣で戦うという考えは既に失われていた。男の原理は毒を自ら生み出し操る力であった。そしてそれが原理たる所以それは速さであった。敵を蝕む毒の周りの速さもだが、なによりも恐ろしいのはその遅さだ。神経毒がまわるまでの遅さこそがこの原理の本当に恐ろしい部分だった。何故遅いことが恐ろしいのか、それは毒を盛られたことに感覚が鋭敏な吸血鬼にすら気取らせないほどの遅さだからだ。そして、常に気付かれない程度で動きを鈍化させることができる。この男は戦闘が始まる前から空気中にこの神経毒を仕込んでいた。最初から原理を使ってこの勝負に挑んでいたのだ。しかし、そんなことをランサーは知る由もない。

「さあ教えてもらおうか。フランクリンの屋敷で一体何があったのか。お前は何をしたのかをな。別に話さなくても構わないぞ。ただしその時はお前のマスターを殺すだけだ。さっき切られたのが左でよかったな。右なら令呪を媒介にしてマスターごと殺していたぞ。」

そう笑みを浮かべながら男は言う。まるでやろうと思えばできたと言うかのように。

 

(くそ、やるしかないのか?だがこのままではどうせ死ぬ。ならば…すまないナナ!)

ランサーの右手に浮かぶ痣が赤く光りだす。それに呼応するかのようにランサーの体に赤いオーラが纏わりつく。

「真名解放、宝具『鮮血の伝承(レジェンド・オブ・ドラキュリア)』発動!」

「宝具を使って無理やり毒の支配から逃れたか。だが一体どう言う宝具なんだ?ただの身体強化ではあの毒からは逃げ出せまい。少し警戒したほうがいいな。」

「これで私は完全なる吸血鬼に成り下がってしまった。だが、あれが太陽出ないと言うのは本当のようだ。さっさと蹴りをつけなければな。こんな醜い姿など1秒たりともなっていたくは無いのだが。」

 

宝具『鮮血の伝承(レジェンド・オブ・ドラキュリア)』。それは自らを完全なる吸血鬼へと変貌させ強大な力を得る代わりに太陽や代行者の持つ聖なる力などの耐性がなくなると言う宝具。相手が代行者ではなくかつ、太陽が出ていなければ常に発動するべきな程強力な宝具だが、本来彼はこの宝具を使うことはありえない。彼の聖杯に託す願いとは自らの吸血鬼にまつわる伝承を全て消すことである。そのため完全な吸血鬼の姿になるこの宝具を通常時ではたとえ死ぬとしても発動はしない。しかし、この世界において彼は既に吸血鬼であると言う理由で世界から多くの恩恵を得ている。それにより吸血鬼に対する嫌悪感というものが著しく低下しているのだ。とはいえその状況でも死ぬような状況でなければ決して使うことはないが。

 

(急なことで、ナナの血を多く吸いすぎてしまった。まずい。すぐにこの男を殺してナナの元に急がなければ。)

剣と槍がまたしてもぶつかり合う。宝具によって全ての耐性が遥かに上昇している今、毒の原理は意味を持たない。ただ純粋な技のぶつかり合いでしかない。どちらも一歩も引かずしかし一太刀も浴びせられず、そんな攻防が少しの間続いた。しかしその攻防も長くは続かなかった。それは意図せぬ客の来訪であった…




※ヴラド3世はアポクリファ時空、項羽はFGOの、異聞帯ではなく汎人類史時空を想定して書いています。
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