fate/bloody memory   作:カイバーイーツ

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幕間・1

「おっと、もうコーヒーがなくなってしまったか。そんなに長く話した気はしていないのだが。すまない、エルメロイ君。もう一杯コーヒーをもらえるかな?」

「…。」

「ウェイバー・ベルベット君?」

「は、はい。申し訳ありません。情報過多で整理できていなくて。」

「普段なら2世をつけろと言ってくるがその余裕すらないようだな。確かに信じられないような内容ではあるが。だが残念ながらそういった並行世界があるのは事実だ。なにせこの私がこの目で"観測"したのだからね。」

「つまり先程の所も真実だと?」

「どのことを言っているのかは分からないが、セイバーの正体についてのことならまぎれもない真実だとも。」

「あなたがサーヴァントとして召喚されたと?」

「この話を始める前にも言ったが私ではない私、並行世界のキシュア・ゼルレッチ・シュヴァインオーグだがね。あちらの世界の私は既に死んでいた。この世界との分岐点は私が朱い月のブリュンスタッドに勝ったか負けたかだからね。当然負けた世界線の私は死んでいる。それに、その後始末としてあの世界を消滅、つまり剪定するという聖杯に託す望みもある。サーヴァントとして召喚される条件は十二分に満たしているとも。朱い月のブリュンスタッドに負けたとはいえどこの私と強さはたいして変わらない。英霊の座に名を連ねていたとしても不思議ではないさ。まあ、セイバーとして召喚されてしまったがために、本来の力を発揮できてもいないがね。キャスターとして召喚されていれば第二魔法をもっと乱発できていたが、宝石剣ゼルレッチに引っ張られてセイバーになるとは思わなかったよ。」

「そんなことが本当にあり得るのでしょうか…。それに弱体化していてあの強さだったと?マスターの死徒をいともたやすく仕留めていましたが。それに話に出てくる吸血鬼が私の知っている物とは規模が違うのですが…。」

「君は知名度補正というものを知っているかね?サーヴァントというのは基本的に生前よりも弱体化されている。私のようにクラスによる制約などもあり、単純に再現できないほどの力があるものもいたりと理由は様々だがね。召喚された土地における知名度もそのうちの一つ。知名度が高ければ高いほど力が増し、より生前に近づく。無辜の怪物化によって生前よりも強くなるものなんかもたまにいるが。それこそランサーとして召喚されたヴラド三世は本来の力よりも遥かに大きな力を得ている。並行世界における同一人物、大帝ヴラドの知名度による強化、無辜の怪物化による強化、そして何より吸血種であるという時点であの世界では莫大な恩恵を受けることができる。少し話にも出ていたが、太陽が消え去り、月が変貌した。それにより吸血鬼の弱点であった太陽はなくなり、吸血鬼を強化する太陽のように光る月が生まれた。つまりデバフが一つ減りバフが一つ増えた。そしてそのどちらも大きな効果を持っていたため吸血種がとてつもなく強くなっているというわけさ。おっと、話がそれてしまったね。つまり、朱い月と戦ったキシュア・ゼルレッチ・シュヴァインオーグという男の知名度が、あちらの世界ではものすごく高い。そのおかげでセイバーというクラスによる弱体化をある程度相殺してくれているのさ。むしろ宝石剣の出力だけ見れば私よりも強い。セイバーだからね。」

「なるほど…。ちょっと待ってください。大帝ヴラドとランサーのヴラド三世は同一人物なのですか?」

「この私とセイバーとして召喚されたキシュア・ゼルレッチ・シュヴァインオーグの関係に近い。大帝ヴラドはあちらの世界のヴラド三世なのだ。生まれた時期はだいぶ違うがそれも並行世界ゆえ生じる誤差だ。簡単にあの世界の歴史を語ろうか。私が朱い月に敗北するまでは特にこの世界と大差はない。そこからあちらの世界で何が起きたのかだが、まず朱い月が地球に降臨した。私という脅威が一つ消えたからね。やつはそもそも地球を侵略して自分の物にしようとしていたが、地球の意思ガイアと人間という生物全体の意思アラヤの双方から排斥されることを恐れ、地球に自らのコピーである真祖を送りこそしたものの、本体は地球にはこなかった。しかし、私との戦闘で何かをつかんだのかうまいことガイアとアラヤの目を欺いて地球にやってきてしまった。その後は既に地球にいた真祖たちを統率して人間と大戦争を引き起こした。人間はくだらない争いをやめて真祖という共通の脅威の前に団結した。しかし当時は技術の発展もあまりしておらず、真祖を殺すすべすらほとんどない。更に血を吸われれば皆死徒になり敵となる。数百年人間は耐え続けたがついに限界がきて当時の人間たちの代表28人が会議の末降伏することを決めた。今いる人類を存続させるために、人間を皆死徒にしてくれるのならば我々は抵抗をやめると交渉をすることになった。しかしそれは神の教えに背くことになると考えた28人のうちの一人である当時の聖堂教会の教皇が、他の27人を裏切り多少の人間を連れて離反した。そして朱い月との交渉の末、その27人は朱い月から直接血を与えられ原理血戒を得た。その27人はのちに27祖と呼ばれるようになった。その後朱い月は太陽で大蜘蛛と戦い勝利、その心臓を使って月を光らせた。しかしそれにより力を消耗したため真祖を集結させ自分の寝床を守らせた。その間地球は27祖に任せてな。」

「…。そんな世界だったとは…。原理血戒とは何なのかお聞きしても?話の途中に原理というのも出てきましたが…。」

「原理というのはこの世界においては一握りの吸血鬼のみが扱える独自の力のことだ。原理血戒というのはその強化版だと思えばいい。朱い月から直接血を与えられたことで得たな。あの世界では吸血鬼が強くなりすぎて皆が当然のように行使しているがな。そして原理と原理血戒の違いは継承できるかできないかだ。27祖に数えられるためには原理血戒は必須だ。当時から変わっていない祖もいるが原理血戒を先代から継承したことで祖になったものもいる。まあ私は吸血鬼ではないからそこまで詳しいことは言えないがな。」

「そんなものがあるのか…。すいません、また話を脱線させてしまいました。知名度補正の話をもう少し教えてください。」

「いいだろう。バーサーカーとして召喚されていた項羽が吸血鬼が強化されたあの世界であそこまでランサーやビル・ブラックモアと渡り合えていたのも、知名度補正による恩恵の側面が大きい。彼の妻である虞美人はあの世界では超が付くほどの有名人だ。真祖の大半が朱い月のブリュンスタッドを守るために彼女の寝床を守護しているが、虞美人は恋人であった項羽を蘇らせるためにその命令に背いた。それどころか項羽を馬鹿にした祖の派閥を半壊させたために彼女とともに項羽の知名度まで高まったというわけだ。逆に人間の少ないあの世界においてほかの英霊の知名度は著しく低い。それがあそこまでサーヴァントとマスターに差が表れている原因だな。」

「わからないことが多すぎてなかなか呑み込めません。そもそもサーヴァントを召喚するためには触媒が必要では?各サーヴァントはどのような触媒で呼び出されたのですか?」

「基本的には普通の遺物だ。私が朱い月と戦ったのが1700年程前のことだ。それ以降に生まれた英霊はあの世界には基本的に存在しない。故にそれ以前の英霊たちの遺物から祖の英霊が呼び出されている。いくつかのイレギュラーを除いてね。セイバー、アーチャー、ランサー、アサシンあたりはそれよりも後の英霊だ。英霊の座とは複雑なもので条件さえ整えば並行世界や未来の英霊なんかも呼び出せてしまうのさ。アサシン以外の三騎はあの世界自体が触媒として働いている。セイバー、キシュア・ゼルレッチ・シュヴァインオーグこそがあの世界を生み出した元凶であるし、アーチャー、ランサーはともに吸血鬼というものとの縁が深い。ランサーことヴラド三世は、魔術などの奇跡の隠匿を除けば初めて吸血鬼と呼ばれた存在であるし、アーチャーことメフメト二世はヴラド三世をそう呼んだ人物、つまり人類に吸血鬼という概念を持ち込んだ始祖ともいえる。触媒なしで召喚を試みた結果、あの世界自体が触媒として認識されてしまったようだな。アサシンというクラスは特殊だ。基本的にアサシンという言葉の語源となったアサシン教団の長、19人のハサン・サッバーハのうちの誰かからしか召喚されない。あの世界にアサシン教団が生まれたのか否かは分からないが聖杯戦争の性質上ハサンが召喚されたのはおかしなことではない。」

「なるほど…。あ、そうでした。次のコーヒーを用意しますね。」

「ああ、何なら今日はここで終わって続きはまた今度にするか?気づいたら思っていたよりも時間が過ぎてしまった。」

「あなたはお忙しいお方だ。次の機会がいつになるかはわかりません。それにここまで聞いて続きを聞かないなんてことはできませんよ。そもそもまだイスカンダルの話が全然出てきていないではありませんか。」

「すまない。そういえばそれが目的だったね。だがそもそもあまりイスカンダルはこの聖杯戦争で活躍していない。出番が少ないことは君も承知のはずだが?」

「ええ。それでも、あいつの歩いた足跡を見ないわけにはいきません。」

「そうか。幸いなことに次の話にはようやくイスカンダルもでてくる。続きを話すとしようか。」

「ええ。おねがいします。コーヒーも用意ができました。」

「ありがとう。では先程話した所の続きだ。大帝ヴラドが…。」

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