異世界召喚巻き込まれおじさん、百合の気配を感じて踏み台を決意する。   作:まちまち

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1 巻き込まれおじさん、百合の気配を感じ取った気になる。

 目がチカチカする。

 頭が揺れる、ここはどこだ? 俺は一体どうなってるんだ!?

 

「――召喚は成功だ!」

 

 ショウカン? セイコウ?

 俺はいきなり風俗店につれてこられたのか?

 頭を振ってあたりを見渡す。

 周囲には物々しい雰囲気の厳かな服をまとった、THE神官! といった感じの男どもと、

 割と露出が目につく西洋の巫女さん! って感じの女性陣。シスター服じゃなくて、神話とかに出てきそうな白いゆったりとした服だ。

 うん、あながち間違ってないかもしれない。

 

「おお、アレが……」

「アレは異界の正装かしら……」

 

 周囲がざわめくが、正直何が何やらわからない。

 直近の記憶がハッキリとしない。

 確か、すごく眠くて、なんとか眠気を我慢しながら会社に出社しようとしていたはずなんだが。

 えーと、それで他に何かあったような……?

 

「それにしてもアレは……小間使か?」

「随分と見てくれの悪い……」

 

 それで、確か……そう考えて、周囲の視線が俺だけでなく、俺の隣にも向けられていることに気がついて、俺も視線を向けた。

 そこに、

 

「――ひぅ」

 

 三編みメガネのジャージ少女が立っていた。

 なんというか、芋い。とても芋い。

 素材はすごくいいのだが、自分は化粧とかお洒落とか微塵もわかりませんよと言わんばかりの、学校指定ジャージ姿がとてつもなく芋い。

 対して、俺は多少着慣れてはいるものの、クリーニングからかえってきたばかりなので、そこそこパリっとしているスーツ姿だ。

 

 それを認識した上で。

 

「――――勇者様」

 

 その場にいる神官っぽい男たちの中で、一番偉そうな服を来た男が俺に話しかけてきた。

 ああ、そう言われれば俺にもわかるぞ。

 これアレだ、異世界召喚ってやつだ。

 んで、こいつらは俺を勇者だと認識している、と。

 

「召喚に応じていただき、誠にありがとうございます。混乱していることでしょうが、落ち着いてお聞きください」

 

 恭しく、男は礼をしてから説明する。

 何でもこの国は魔王とやらに狙われていて、予言でまもなく滅びてしまうと言われたのだとか。

 それを防ぐ手段は、勇者を召喚すること。

 勇者とは、正しい心を持つモノ、己を顧みず、誰かを救うことができる人。

 言ってしまえば、底抜けのお人好しだ。

 聞けば聞くほど、その勇者ってやつが、こんな突然な状況で召喚されて、世界を救ってほしいと言われてそれに頷く人間であるってことが解ってくる。

 なんというかそれは……生贄ってやつじゃないのか?

 それを前向きに勇者と呼び替えているだけじゃないのか?

 と、いいたくなってしまうようなヤツ。

 

 でもって、話を聞きながらここに至る経緯を思い出していると、隣にいる少女のことも思い出してきた。

 俺は……そうだ、この子に助けられたんだ。

 視線を向けると、ふと目が合う。

 ひっ、と悲鳴をアゲられて視線をそらされた。

 心に傷を負ったが、間違いない。

 

 たしかあの時、俺はすごく眠くなりながら道を歩いていた。

 ボーっとしていて、いきなり暴走して突っ込んでくるトラックに気が付かなかったんだ。

 だから、彼女は俺を庇ったんだろう。

 危ない、と叫ぶ少女の声が記憶の中から蘇ってくる。

 

 あー、その、なんだ。

 

「……これが、今のこの国の現状です、勇者様」

 

 こいつらは俺がスーツ姿で、女の子が芋ジャーだから俺を勇者と呼んでいるが。

 ――多分、正しく勇者なのはこの子の方だ。

 

 つまり。

 俺は異世界召喚に巻き込まれたらしい。

 んで、しかも勇者であることを勘違いされている、と。

 

「勇者様、こちらを」

「……これは?」

 

 頭が混乱している中に、突然何やら厳かな杖を差し出された。

 

「持つものの魔力を目に見える形で露わにする聖杖でございます」

「なるほど」

 

 言われるがままに握ってみる。

 こういう時のお約束として――俺が杖を握った途端。

 俺から五色の光が溢れた。

 

「おお――」

「これは……」

「素晴らしい!」

 

 周囲がどよめくのがわかる。

 どうやら、俺の魔力は素晴らしいらしい。

 オタク知識から推察するに、俺には五つの属性が備わっている、のだろうか。

 

「五属性……それに加えてこの魔力量、やはり貴方が勇者様!」

 

 大げさに、偉そうな神官男が叫ぶ。

 どうやらだいたい合っているようだ。

 ううん、困ったことになったぞ。

 とりあえず……試してみないと。

 

「彼女には持たせないのか?」

「……むむ?」

 

 理解できないという顔をされた。

 俺は視線で芋ジャー女子高生を見ると、ビクっと少女は驚いてこっちを見た。

 目が泳いでいるのがわかる。

 この状況で、冷静ではないのだろう。

 

 ありがとう、君のおかげで俺は逆に冷静になれてるよ。

 

「ほら、持ってみろよ」

 

 多分、俺の予想通りなら――

 ――言われるがままに、少女が杖を手にする。

 すると、

 

 何も起きなかった。

 

 ……いや、正確には。

 

 

 突如、俺でもわかるくらいの無色の何かが、彼女の体から溢れ出したのだ。

 

 

 ――が、

 

「……何も起こらない」

「あの小間使、魔力を持っていないのか?」

「ありえない……人間にそんなことが起こりうるのか?」

 

 周囲の人間はそう思わないらしい。

 ――今、この子が杖を手渡した時に溢れ出したこの子の魔力みたいな何かを感じ取ったのは、

 俺と、目の前の神官。

 それから――部屋の片隅で、様子を伺っていたらしい、豪奢な服の少女だけだった。

 

「……いかが致しましたかな?」

「いや……何でもない、失礼したな」

 

 しげしげと杖を手にして、それを眺めていた芋ジャー少女から杖を取り上げる。

 あう、とそれを手で追いかけてしまう少女は、なんというか小動物みたいだ。

 可愛らしいが、今は考えるべきことがある。

 

「……」

「それで、勇者様……?」

 

 あくまで、いまのを見ても神官は俺が勇者であるという姿勢を崩さないらしい。

 五属性とかいう、周囲の素人から見てもわかるくらいに、俺は凄い魔力を有していて、勇者と誤解されている。

 実際は、隣の芋ジャー少女の召喚に巻き込まれただけだというのに。

 なんと言うか、“如何にも”なシチュエーションだ。

 この少女はなんというかオタク系の文学少女っぽいが、俺もそれなりにオタク趣味を嗜んでいるつもりだ。

 だからわかる。

 

 これはいわゆる、俺が偽勇者としてこの少女の踏み台になるパターンだ。

 

 ……正直、自分がそんな立場に置かれるとは微塵も思わなかった。

 というか、そういうのは創作の中だけでいいんだよ。

 俺としては、明日からもうアニメもマンガも見れないのかと思うと、憂鬱になる。

 しかし、逆に考えると会社に出社しなくてもいいということでもあり、若干嬉しくもある。

 かといって、俺はこの子の踏み台になりたいわけじゃないしなぁ。

 

 正直、目の前の神官男が妖しい。

 色々と妖しい。わざわざ俺が偽勇者であるということを解った上で俺を勇者にしようとしているこいつはほんとに妖しい。

 が、だからこそこの場で一番偉そうな立場というのはまずい。

 俺がなにか言っても、巧く言いくるめられかねない。

 ましてや、この少女は周囲の人間から明らかに、“劣等”と思われている。

 一人にしたら、どうなるか解ったもんじゃない。

 最終的に俺を踏台にするのだとしても、それに至るまでにどんな目に合わされるか。

 

 さて、どう行動するべきだ?

 

 結論を出しあぐねていた。

 とりあえず、この場はこの子を周りの目線通り従者だってことにして切り抜けるか――

 

 

「――失礼、少しよろしいかしら?」

 

 

 ふと、儀式場に凛とした声が響いた。

 驚くほどに通る声、視線を向ければ、そこには豪奢な服の少女が立っている。

 この場で、俺と神官以外に、芋ジャー少女の魔力に気がついた人間だ。

 

「――――プリンセス・ミレイア!?」

 

 この場を取り仕切る神官男が、驚いたように目を見開く。

 目の前で無色の魔力を見せられても、眉一つしか動かさなかった胡散臭い男が、そこで初めて狼狽した。

 周囲がどよめく、彼女は周囲からプリンセス、第三王女、などなどと呼ばれていることから、この国の王族であることがわかる。

 言われてみると、豪奢な服は巫女の服というよりは王女のドレスといった感じだ。

 雰囲気は似ているので、文化的なものなのだろうけど。

 

「勇者様は混乱されている様子、落ち着く時間を設けるべきではないかしら」

「プリンセス、今は儀式の最中ですぞ。王族がみだりにこのような場所へ――」

「……神官長、私は間違ったことを言っている?」

 

 鋭い、有無を言わせない目線が神官長と言われた男に突き刺さる。

 何という覇気、これに睨まれたら、俺なんかじゃひとたまりもないな。

 ああいやしかし。

 どうやら、これで間違いないようだ。

 彼女は神官長とは違う立場の人間であり、そして神官長は胡散臭い。

 つまり、彼女は善性の人間だ。少なくとも神官長よりは信用できる。

 

 そして、

 

「――勇者様、失礼ながらよろしいでしょうか」

「……なんだ?」

 

 俺は、彼女に対してあくまで横柄に応える。

 さっきまで、混乱していたのもあって随分と礼儀もあったものじゃない対応をしていたのもあるが。

 彼女を見て俺も腹が決まった。

 何より、気付いてしまったのだ。

 

「こちらの小間使。私に任せてもらえないでしょうか」

 

 そう、彼女は――彼女だけがこの場で真実に気がついた。

 つまり、物語で言えば彼女は超重要人物。

 そんな少女が、物語の真の主役である芋ジャー少女に助け舟を出している。

 だからこれは――そう。

 

「……好きにしろ」

 

 

 ()()だ。

 

 

 間違いない、この王女様と芋ジャー勇者少女は百合だ。

 俺のオタクセンサーがビンビンになっている。

 意思の強そうな王女様、明らかに人付き合いが苦手そうな文学少女。

 これが百合じゃなかったらなんなんだ?

 

 ああ、決めたぞ。

 俺は心に決めた。

 俺がやるべきことは定まった。

 

「だが、忘れるなよ」

 

 故に、口にする。

 少しだけ、それは勇気の必要な言葉だったが、それでも。

 目の前の百合の前では、あまりにも些細なことだ。

 

 

「俺は勇者だ。もう少し口の聞き方を考えろよ」

 

 

 ――俺は、踏み台になる。

 偽勇者として、それが俺の宿命だというなら。

 俺は全うしてみせよう、それこそが。

 俺なんかを助けてくれようとした、この芋ジャー少女への恩返しにもなるのだから。

 

 

 ===

 

 

 ――勇者召喚。

 ふざけた話だ。

 国の行く末を、どこの馬の骨とも知らない存在に任せる。

 これほど愚かなことがあろうか。

 王女として、自分が情けなくなる。

 

 この国は歪んでいた。

 魔王によって国が滅びる瀬戸際だというのに、貴族たちは自分の利益を守ることだけを考えている。

 今も魔物によって、各地が襲撃をうけているというのに。

 どころか、民衆を守るべき拠り所であるはずの神官たちですら私服を肥やし始める始末。

 ここ最近は、それをまとめる神官長が女王――お母様の覚えめでたく、かなりの権力を握っている。

 あの男は妖しい、突然どこからか現れて今の地位に付き、暴政を振るうお母様に加担している。

 どうして誰も疑問に思わないのだ?

 あいつこそが、そもそもの元凶ではないのか?

 

 周囲に対する疑念から、私は更に孤立していた。

 もとより、私は周囲の不正が見逃せず、敵を作ってばかりだった。

 王女という立場でなければ、どこで暗殺されているかもわからないくらい敵が多い。

 最近では、周囲から私は乱心しているとまで言われるようになった。

 ……乱れているのはどっちだ、といいたくもなる。

 

 そうして行われた勇者召喚。

 これこそが、神官長の策謀の要であると感じた私は、何食わぬ顔で儀式の間に紛れ込み、ことの様子を見守っていた。

 王女が儀式に参加するなど、目立ってしょうがないが、案外堂々としていればそれを指摘するものはいない。

 指摘できるはずもないのだ。私はわがまま放題な王女だと周囲に認識されているから。

 

 ……現れたのは、二人の男女だった。

 

 異界の正装と思しき礼服を身にまとった二十代半ばから後半の男と、随分とくたびれた服装の、磨かれていない原石のような少女だった。

 

 神官長は、前者の男を勇者として扱った。

 しかし、それは間違いだ。男は神官長に促され魔力を測定する杖を握った。

 そうして明らかになったのは、男が五属性の魔力を有しているということ。

 だが、それがどうした? 五属性はたしかに天才の証だが、国を探せば一人や二人くらい、それくらいの才能を持った人間はいる。

 私が、そもそも五属性の魔術師だ。

 つまり、この男にはそれだけの、ありふれた天才性しか存在しない。

 これをわざわざ召喚するために?

 

 何より、その後男から杖を手渡された少女から放たれた魔力が、彼女の特異性を露わにした。

 

 無属性。

 歴史上に数人といない、伝説の属性だ。

 間違いなく、彼女こそが勇者、歴史を変えるにふさわしい力の持ち主だ。

 だというのに、周りは彼女を劣等と蔑み、あろうことか男の小間使として扱おうとしている。

 

 論外だ。

 私は思わず声を上げていた。

 この少女を、この場から連れ出さなくては、あの神官長になにかされる前に。

 そう思って、勇者として祭り上げられることになった男へ声をかける。

 無礼な男だ。私が王女であるということを解った上で横柄に対応している。

 これが勇者として周囲から認識されていなかったら、この場で食って掛かっていたかもしれない。

 

 しかし――――その一言が、私に衝撃を与えた。

 

 

「だが、忘れるなよ、俺は勇者だ。もう少し口の聞き方を考えろよ」

 

 

 男は、私にそう言ってのけた。

 いや、違う。そう言ってのけた瞬間の、男の目を私は見たのだ。

 とてつもない()()がその瞳には宿っていた。

 この男は、自分が勇者であるということを既に受け入れている。

 だが、それはおかしい。

 これまでの行動がこの男のその決意をするに至る理由を否定している。

 

 この男は愚かではない。私と同じ魔力を有し、少女の魔力が無属性であることを察したはずだ。

 

 だからこそ、自分が勇者ではないことに気付いているはず。

 目の前の神官長が妖しいことにも気付いているはず。

 なのに、これほどの覚悟をもって自分が勇者だと断言する。

 その理由はなぜだ?

 

 決まっている。彼は――隣に立つ本物の勇者を守るという覚悟を決めたのだ。

 

 恐ろしい。

 これが、突如としてこのような訳のわからない場所に召喚された人間のできる覚悟か?

 自分が目の前の妖しい神官長に利用されていると解っていながら。

 真の勇者が隣にいると解っていながら、それでもなお自分が勇者だと宣言する?

 

 そんな覚悟ができる人間を、私は知らない。

 

 ――誤解していた。

 勇者は、間違いなくこの見た目はいいのに、どこかパっとしない少女だと。

 だが、違う。

 

 ()()()()()()()()()だ。

 

 きっと、神官長は誤解しているだろう。

 今の彼の言葉に満足気に頷く神官長が、彼の真意に気が付かないなら。

 ――私が、彼らを守ろう。

 この、世界を、国を変えてくれるかも知れない、本物の勇者たちを。

 

 私が、守らなくては。

 

 心の底から、私はその時、覚悟を決めた。




 百合の踏台になるべく偽勇者となることを決意したおじさん(二十代半ば)は、こうして色々とすれ違いながら異世界での生活を始めるのでした。
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