異世界召喚巻き込まれおじさん、百合の気配を感じて踏み台を決意する。   作:まちまち

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2 巻き込まれおじさんの出社時は目が死んでいる。

 召喚場での対応は、概ね正解だったと思う。

 特に、あの王女様への言葉は、結構気合を入れて言ってやった。

 他人にあそこまで意識的に攻撃的な物言いをするのは、初めてのことだったので、ちょっと緊張もしていたが。

 今後はああいう言動を増やさなくてはいけないわけだから、慣れていくしかないだろう。

 

 とりあえず練習として、まずは寝床をごねてみる。

 こんな質素なところに俺を泊めるつもりか、と散々言い張っていくのだ。

 理由は単純、あの妖しい神官のそばにいたくない。

 ついでに、そこでゴネながら情報を収集しようと考えたのだ。

 

 俺はこの世界について知らなすぎる。

 うまい具合に講義を受けられればいいのだが、現状この国の人間は王女様以外信用できないし、彼女には近づけないので自分から探るしか無い。

 

 解ったこととして、この国の名前は「リマーメイド王国」。

 大陸一の大国らしいが、そこは自国の人間が言うことなので定かではない。

 地図を見せてもらった限りでは、他に2つくらいこの国と同じ規模の国があるが、実態は不明だ。

 というかそこまで踏み込めなかった。関係は悪くなさそうだが。

 なぜ悪くなさそうかと言えば、現在大陸は魔族と呼ばれる連中に襲われているから。

 共通の敵がいるのだから、水面下で色々とやっていたとしても表立って対立していたりはしないだろう。

 少し特徴的だったのは、この国は女王が君臨する女系の王国だったということ。

 何でも建国の祖が女性だったからなのだそうだが、異世界ならまぁそういうこともあるのだろう。

 

 一つ気になったのは、俺を案内する侍従たちもそうだが、この国の人間……というか王宮の人間は非常にのんびりとしている。

 今も大陸が魔族に襲われているというのに、まるで他人事のようだ。

 それだと、どうしてわざわざ勇者を呼び出そうとしたのかがわからない。

 あの大神官がいい出したことらしいので、あいつの狙いに基づいた行動なのだろう。

 が、これ、と言える決定的な確信はなし、保留するしかなさそうだ。

 

 最終的に、俺はめちゃくちゃ豪華な一室に案内された。

 来賓とかが泊まる部屋らしいのだが、ここって王族の部屋に近くないだろうか。

 とはいえ、これ以上ゴネてもいい部屋はなさそうなので、ここで妥協するしかない。

 もう少し妥協するべきかと思ったが、後の祭りだ。

 

 後やるべきことと言えば……服を要求することだな。

 この世界でスーツ姿というのは、余りにも異様すぎるだろう。

 多分貴族か何かの格好をさせられてしまうが、まぁ背に腹は変えられない。

 正直、この城には信用できるものが無さすぎるので、さっさと脱出したい。

 脱出する前にやるべきことは色々あるが、算段はつけておくべきだ。

 んで、その場合、貴族の格好はそこそこお金になると思うので、まぁ悪い話でもないはず。

 

 というわけでゴネまくって王宮を練り歩き、色々と調べ終わったら時刻はもう夜になっていた。

 腹は減っているのだが、今は食べる気分でもない。

 明日、なにか口に入れるとしよう。

 異世界故に、食文化がまったくの別物になっていたりしなければいいが。

 

 ああ明日のことと言えば、この世界の魔術体系についてもきちんと調べなくては。

 魔力が存在していて、5つの属性と、それとは別にもう一つ、通常では探知できない属性が存在することは解っている。

 問題は、使い方。

 せっかく優秀な魔力を持っているのに、使えないのではこの世界に来た意味がない。

 百合の踏台になると俺は決めたが、それはそれとして魔術は使いたいオタク心が存在するのだ。

 

 さて、とりあえず今日は寝るとするか……

 寝間着とかは特に無いので、スーツ姿でそのまま布団に倒れ込んだ――

 

 

 <>

 

 

 コンコン。

 ノックの音がする。

 なんだろうと目を開けるが、周囲はまだ暗い。

 どころか、まだ数時間も寝ていないのではないだろうか。

 正直、明かりがないので何も見えない。

 魔術か何かで明かりを一括に管理していて、消灯時間になると全部まとめて消えてしまうんだろうな。

 

 とりあえず、

 

「なんだ」

 

 努めて横柄に応える。

 なにせ俺は踏台カマセ偽勇者だからな。

 それっぽい振る舞いをしなければ。

 

「――あの、少しいい、です……か?」

 

 聞き慣れない声だった。

 俺をここまで案内してくれた、今日一日迷惑を書けまくった従者くんではなさそうだ。

 というか、少女の声だった。

 

「好きにしろ」

 

 流石に大神官であれば警戒するが、そうでないなら何でもいい。

 誰が入ってきても、そう大した用ではないだろう、と高をくくっていたのもある。

 

 が、しかし。

 

「失礼、します」

 

 

 ――入ってきたのは、芋ジャー女子高生ちゃんだった。

 

 

 oh...

 その可能性は考慮していなかった。

 いや、そもそも今の彼女は芋ジャーではなかった。

 イメージとしてはヴィクトリアンメイドと呼ばれる、古いメイド服がイメージに近いだろうか。

 給仕服であることは間違いない。頭につけているのはホワイトブリムではなく、白い帽子だ。正式な名前はなんと言ったか。

 とにかく、楚々とした落ち着いた雰囲気のメイド服を身に着けていた。

 着せたのは間違いなく王女様だろう。

 ううむ、趣味が良い……なによりこれを着せる行為が一種の百合ではなかろうか。

 

「……お前か」

 

 ランプを手にしながら、ぼうっと暗闇に映る元芋ジャー少女、現メイド少女。

 

「何のようだ?」

「え、と……その……あ、っと」

「まずは名前くらい名乗ったらどうだ」

 

 とりあえず一言だけ言えることは……名前がわからないと呼びにくいということだった。

 

「……アサヒ。白波アサヒ……です」

「そうか、それで? 用があるならさっさとしろ」

 

 アサヒ、アサヒね。

 なにはともあれ、厳しい事を言って、さっさとかえってもらおう。

 俺のところにいるより、王女様の好感度を稼いだほうがいいぞ。

 あと、あまり一人になるのも感心しない。

 人のことを言えないが、異世界にやってきて一日目、お互いにまだ何もわからないのだから。

 

「え、……と」

 

 色々と覚悟を決めてやってきたのだとは思うのだが、如何せんアサヒは意志が弱いみたいだ。

 目の前に俺がいて、巧く話せないのだろう。

 壁のシミか観葉植物にでもなったほうがいいだろうか。

 いや、ここは好機だな。

 少しでもアサヒの好感度を下げたい。

 俺はさっさと帰れと告げようとした。できるだけにべもなく追い返す感じで。

 

「用がないならさっさとしろといったはずだ。でなければ――」

「――あ、あの! 貴方は!」

 

 が、そこで遮られてしまった。

 急に押しが強い。

 主人公属性ってやつか!?

 

 

「――貴方は、さっき、私を守ってくれたんですか!?」

 

 

 ……ん?

 待った待った。

 何の話だ?

 頭がはてなマークに支配される。

 アサヒの言っていることが読めない。

 

「召喚された時のことですっ。王女様……ミレイア様が言ってましたっ! アレは、アタシを守るためだった……って!」

 

 …………え?

 ……………………あ!

 

 ああ、そうか。

 アレは俺としては単純に王女様……ミレイア様とアサヒの百合ップル成立が目的だったのだが。

 

 あの場において、ミレイア様目線だと、自分以外に信用できる相手がいないから、自分にアサヒを任せたのだと見えたのかも知れない。

 俺の言動も、周囲のヘイトを俺に集めるためだと、そう理解してもおかしくはないのではないだろうか。

 

 ……いやいやいや、そんなはずは。

 

「あの後も、王宮のあちこちで貴方が横暴な物言いをして、周囲から反感を買っているって聞きました。おかげで、アタシのことを意識してる人はいない……って」

 

 それは……単純に大神官のそばにいたくなかっただけなんだが。

 でも、結果としてそうなってしまったなら、ミレイア様にとってそれは間違いないことなのだろう。

 まずいぞ、否定しないと。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()ことになってしまう。

 

 俺は踏台になりたいのであって、間に挟まりたいわけじゃないのだ。

 と、とにかく。

 今も俺は横柄な対応をしているから、このまま全否定してしまえば大丈夫……だよな?

 こんな時間にこっそり聞きに来ている以上、アサヒは俺を疑っているはずなのだから。

 

 ……よし、方針は決まった。

 巧くいけば、逆にアサヒの好感度を下げれるかもしれない。

 ここは、正念場だ。

 

 

 <>

 

 

「――何を言っているんだ。そんなはずないだろう」

 

 きっぱりと、アタシと一緒に召喚されたお兄さんは私の言葉を否定しました。

 ……正直、今日はいろいろなことがありすぎました。

 勇者として異世界に召喚されるなんて。

 しかも、一緒に召喚された人が勇者と勘違い? されてしまうなんて。

 そんなの、物語の中でしか読んだことなかったのに。

 

 アタシ、白波アサヒは地味な高校生だと思います。

 正直、自分にあまり自信はありません。

 自分を高校生だっていうことすら、本当にそれでいいのかな? って思ってしまいます。

 多分、アタシが一人で召喚されていたら、いきなり自分が勇者だって言われても、それをよく理解出来なかったんじゃないかな。

 お兄さんは、びっくりするほどあっさりと自分が勇者だって認めていました。

 すごい自信です。ちょっと、羨ましい。

 

 その後のことはよくわかりませんが、アタシとお兄さんの前に、すごく可愛らしい王女様が現れたのです。

 金髪で、すこしツンツンした髪を後ろでまとめているその人は、ミレイア王女様といいました。

 その人は突然、アタシが欲しいっていい出して、お兄さんがそれを承諾したんです。

 アタシは何が何だかわかりません。

 そもそも、アタシはお兄さんのものではないですが、それを否定する勇気もないし。

 何よりアタシが状況を理解するよりも先に、アタシはミレイア様に連れ出されてあの場所を後にしたんです。

 

 それから、アタシはミレイア様に状況を説明してもらって、なんとか自分が異世界にやってきてしまったのだということを理解して。

 正直、受け入れてはいません。明日になったら、これが夢で、またいつものように日常を過ごすんじゃないか、とも思っています。

 でも、どうなんでしょう。

 アタシは学校で居場所がなくって、いつも隅で本を読んでいるような人間だったから、あっちに戻らないほうがいいのかも。

 今のアタシはミレイア様のメイドってことになってるみたいで、アタシのことはミレイア様が決めてくれるんだから。

 

 その方がいいんじゃないかな、とも思います。

 でも、一つだけ。

 どうしても気になったことがありました。

 

 ミレイア様が言っていたんです。

 お兄さんは、アタシを守るためにわざとあんな事を言ったんだって。

 

 ――本当にそうでしょうか。

 どうしても疑問だったんです、お兄さんは本当にアタシを守ろうとしていたのかって。

 ミレイア様に言っても、そんなはずはないって否定されました。

 あの人の目には、覚悟があったって。

 

 ……だったら、アタシが見た、あの目は何だったのでしょう。

 

 こっちの世界に来る直前。

 お兄さんは車に轢かれそうになっていました。

 アタシは思わず飛び出して、それを助けようとしたんです。

 本当にがむしゃらで、訳も解らずそうしてしまったんですけれど、一つだけ。

 どうしても覚えていることがあるんです。

 

 あの時、お兄さんを助けようとした時。

 お兄さんの目を見ました。

 その目は、

 

 とても、昏く。

 あまりにも、儚く。

 

 

 ――今この場で、死んでしまってもいいというような目をしていました。

 

 

 そんな目をする人が、どうしてアタシを守ろうとしてくれるのでしょう。

 お兄さんを疑っているわけではないのです。

 でも、お兄さんのことがアタシにはわからない。

 わからないから、確かめなくちゃって、そう思ったんです。

 

 そして、帰ってきた答えは否定でした。

 

「あ、その、えっと」

 

 ――途端に、声が出なくなります。

 さっきまでの威勢はどうしたのか。

 自分でもびっくりでした、あんなふうに声が出るなんて。

 どうして自分でも、こんな事をしているのか。

 アタシみたいな人間が、こんなこと、許されるはずもないのに。

 どう考えたって、お兄さんにとっては迷惑なはずなのに。

 

「そんなことを聞きに来たのか? こんな夜中に。人の迷惑というものを考えたらどうだ?」

「あ、う……」

 

 ……お兄さんの言う通りです。

 悪いのは、アタシ。お兄さんが不機嫌そうに睨んでくるのも、当然でした。

 

「さっさと帰れ、まったく、常識ってものがなってないんじゃないか」

「ごめ、なさ……」

 

 謝る。

 口癖のように、ついて出る。

 ああ、まただ。

 またアタシは、人に嫌われてしまった。

 

「……はぁ」

 

 ため息、アタシの人生で、それは何度もつきまとってきたものです。

 ……だめな子で、とろい子だから、いつも周りにバカにされて、邪魔だって、迷惑だって言われてきました。

 今回もそうなんだと、そう思って、顔を伏せます。

 自分で自分がどうにもできなくなって、ただ息苦しい感覚だけがアタシを覆うんです。

 

 こんなことなら、ここに来なければよかった。

 お兄さんがアタシを邪魔だっていうなら、きっとそうなんです。

 ミレイア様は違うって言うかも知れないけれど、でも実際にこうやって、否定されたからには――

 

 

「……いつまでそうしていても意味がないだろう」

 

 

 ――否定。

 

「突っ立っているだけなら誰でもできる。そうしていたいならそれでもいいが、そのまま立ち続けて明日の朝までそうしているつもりか?」

 

 そうやって、声をかけるお兄さんの言葉は、否定というよりは、

 

「冗談じゃないぞ。俺はそんなことに付き合う気は毛頭ない」

 

 ――呆れ、というべき感情が多分に含まれているように思えました。

 

「あ、えっと……」

「何だ、まだなにかあるのか」

 

 ……この人の言葉は、これまでアタシに向けられてきた、いろんな罵倒と比べて余りにも棘がありませんでした。

 ミレイア様の言葉が本当なんじゃないかって思ってしまうくらい。

 ()()()()()()気がしてなりません。

 でも、それを指摘するのは何だかはばかられて……何より、アタシにそんな勇気あるはずもなく。

 

「……なんでも、ありません」

「そうか」

 

 そういいながら、アタシは背を向ける。

 ああ、そうだ。

 

「えっと……おやすみなさい」

「ふわあ……ん? ああ、おやすみ……」

 

 ――眠そうなお兄さんの言葉が帰ってきたのでした。

 

 ……わかりません。

 あの時、お兄さんがとても怖い目をしていたのは事実で。

 でも、そんなのと関係なく、ミレイア様の言葉通りなんじゃないかってくらい、お兄さんは強い言葉になれていなくて。

 眠いからだろうけれど、普通におやすみって返事を返してくれました。

 

 ……本当に、わかりません。

 アタシはこの人のことが、わかりません。

 

 

 <>

 

 

 ――昨日は夜中に、アサヒ……だったかが訪ねてきたらしい。

 寝ぼけ眼をこすりながら、ぼんやりとした記憶を掘り起こす。

 それに対して、俺は好感度低下のために強い言葉でアサヒを追い返したんだったか。

 最後の方は眠くて記憶が定かではないが、とりあえずアサヒという名前と、メイド服姿、そしてアサヒを拒絶しようとしたことは覚えているから、間違いないだろう。

 

 にしても、スーツ姿なのもあって、全然眠れなかった。

 昨日も対して眠れなかったし、今日の朝はすごい顔になっているに違いない。

 

「――失礼いたします。勇者様、お召し物を……」

 

 どういうことかというと。

 

 

「――――ヒッ」

 

 

 俺の着替えを持ってきてくれたらしい従者くんが、俺の顔をみて恐怖に歪んだ声を漏らした。

 うん、想像通りの反応だ。

 ――俺は朝に弱い。

 特に、眠い時は人を殺せる目をしていると知り合いにはよく言われる。

 

「も、も、申し訳ございません!!」

 

 平謝りする従者くんには悪いことをしたな、と思いながら目をこすって、俺は一日を始めるのだった。




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