異世界召喚巻き込まれおじさん、百合の気配を感じて踏み台を決意する。 作:まちまち
昨日、あんだけあーだこーだ言って、大神官のおっさんから距離を置いたのに、俺はなぜか次の日、大神官のおっさんと行動をともにしていた。
理由は単純、魔術の使い方を学ぶためだ。
なんでも、この世界の人間にとって魔術とは使うものであって学ぶものではないらしい。
俺の寝起きに恐怖していた従者くん(一属性使い)も何気なく魔術を使ってはいるが、使えない人間の感覚はわからないらしい。
他の人間に聞いても、魔術なんて習ったこともない、ある程度の年齢になったら自然と使っていた。
つまり呼吸のようなものだと言われた。
俺は水棲生物でもなんでもないから、海の中で呼吸しろなんて言われてできるはずもない。
自転車を一人で乗れるようになる感覚だろうか、どっちにしろ慣れが必要なのだ。
――で、この国で魔術を“学んで”いる人間と言ったら、二人しか候補はいないだろうということが解った。
一人はプリンセス・ミレイア様。あの人は俺と同じ五属性使いで、魔術を日常的に研究している変わり者らしい。
もうひとりが大神官様。この男、魔術に関しては本当に優秀らしく、あの勇者召喚の儀式もすべて大神官が用意したのだとか。
ますますもって妖しい、が。
他に聞ける人間がいないのでは、大神官に話を聞くほかない。
百合の片割れに接近することと、大神官相手に危険を冒すことを天秤にかけた結果、後者に傾いたというわけだ。
正直、命は惜しい……が、俺はこの世界にやってきて百合の踏台になると決めた。
それを命惜しさに投げ捨てては俺という存在がブレてしまう。
……真面目な話、この世界で俺が正気でいられる理由が、王女様と勇者少女の百合だ。
まぁ、この話は参ってしまうだけなので考えるだけ無駄だと思うが。
「魔力、とはこの世界の人間に備わった機能の一つと言えるでしょう」
大神官様は、王宮を歩きながらつらつらと話をしてくれた。
「勇者様は魔力の存在しない世界からやってこられたとか。であれば、この世界の常識を受け入れ難いのもムリはない」
「そうだな。だが、外界から来た俺にも魔力はあったぞ?」
「この世界にやってきた時点で、この世界の法則によって体が作り変えられたのでしょう」
なにそれ、こっわ。
まぁ、触れるのが怖い部分には触れないでおこう。
ただでさえ大神官に踏み込みたくないんだから。
「この世界では、自身に備わった魔力を体内で変換することで現実に魔術として実体化をさせます。この感覚は人によって個人差はありますが、概ね体内の変化をコントロールすることによって成立するのです」
「具体的には?」
「勇者様も眠気を感じて頭がふらふらしたり、逆に爽快感で晴れやかな気分になることはありますでしょう?」
うなずく。
「それを意識的に行うのです。今、貴方が感じている感覚を、外へ吐き出すつもりで形にしてみるのがよいでしょう」
そういいながら、大神官は立ち止まった。
ここは――たしか、昨日勇者召喚の儀が行われた場所だ。
「ここは私が魔術を使うために創り上げた空間です、ここでならいくらでも魔術を使って構いませんから」
「修練場か、ありがたいことだ」
ここにこもってカンストまでレベル上げするんですね。
そういうコツコツと積み上げる作業は好きだ。
一応、自分のことはそこそこゲーマーだと思っている。
こういうレベル上げもゲームにおける楽しみの一つだ。
中に入って、大神官に促されるままに魔力を感じ取る。
「一度、心の奥底まで潜り込んでみるのです。貴方の中にある、普段は感じない感覚を感じ取ってください」
そう言われて、瞑想に映る。
――最初に浮かんだのは、今の自分が隙だらけであるということだ。
魔術も使えず、大神官の言われるがままにこんなところまでやってきている。
修練場とは言ったが、ここに大神官の罠がないはずがない。
俺を洗脳したり、俺に枷をはめる何かが眠っている可能性もある。
次に、それはないだろうと冷静に切って捨てる考えだ。
こいつは俺を利用したい。だったらここでそんな単純なことはしないだろう。
何より、ここまで話をしていて解った。
こいつは人間を見下している。
魔術をただ使うことしかできない奴らを平等に下に見ている。
言葉の端々から、そんな気配を感じた。
であれば、この場で“魔術を教える”という行為を罠にするなんて、こいつのプライドが許さないのではないか。
だとしたら、難儀な話だ。
こいつは一体どんな気持ちでこの国の大神官なんてしているのだろう。
決して、愉快な気持ちではないのだろうな。
――――いや、待てよ?
ふと、完全に思考がそれた。
こいつがわざわざこの国で大神官なんてしている理由。
勇者召喚なんてことをした理由。
そして、この国で大神官と並び、
今、俺の中でいくつかのピースが、ピタリとハマろうとしている。
ミレイア様は、この国では孤立するような立場にいて、なおかつそんなミレイア様が、唯一味方になれるような存在が、昨日召喚されたばかりではないか?
そう、つまり。
大神官もまた、百合の踏台になりたいのではないか?
……いやまて、流石にその結論は早計すぎる。
こいつが妖しいのは今も変わっていない。
探りを入れるべきだ。
しかし、もし、もしも――
こいつが俺の同士ならば――
……俺は、この選択を間違えてはならない。
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――この国に派遣されて、既に半年が経とうとしていた。
我々魔族は、かつてこの地を奪った宿敵共から、我々のふるさとであるこの地を奪い返すため、決起した。
表向きは各地で騒ぎを起こし、裏ではこうして国の要職として紛れ込むことで。
この大陸を混沌に導き、我々の手に取り返すことが私の目的だ。
しかし、大神官として女王に取り入り、この国を自由できるほどの権力を得た私だが、今の私にとって、この立場は苦痛以外の何物でもない。
人間は我々魔族から土地を奪い取った、卑怯にも。
だというのに、こいつらはその事を忘れ、更には我ら以外に唯一魔力を扱うことができるというアドバンテージを忘れ、のさばっていた。
魔力とはこの世界における絶対的な上位者の証だ。
魔力のないモノが、世界の覇者となることはできない。
それが許されるのは、人間と魔族だけ。
だから、大陸の覇者となった人間共は、魔術を磨き、その優位性を確固たるものとしなくてはならないのだ。
だというのに、この大陸では魔術とは手足の一部程度としか見られておらず、魔術を研究するものなどほとんどいない。
しかも、魔力を魔術にする上で、人間は魔族よりも一歩劣っている。
無属性の魔力を観測できる人間が、五属性使いに限られるのはその証左。
今回、私が勇者を召喚しようとしたのには、いくつかの理由がある。
一つはこの国における私の立場を完全なものとするため。
もう一つは、魔族に伝わる予言を妨害するためだ。
予言とは、端的に言えば勇者が魔族を大陸から一掃するという予言。
予言は存在する時点で、基本的に回避することはできない。
回避するためには、その予言が成立した、という“詭弁”が必要になる。
要は、「勇者が」、「魔族を大陸から一掃する」という部分さえ守られていればいいのだ。
その勇者が魔族の傀儡で、大陸一掃が自作自演だとしても、予言は成立する。
故に私は勇者召喚に細工をして、勇者を二人召喚することとした。
ただし、一人は偽物の、もうひとりは本物の、という冠詞が付くが。
一つ、想定外があったとすれば、それは偽物の勇者が五属性使いであったということ。
これでは本物の勇者が無属性使いであることが偽勇者にバレてしまう。
偽勇者は、そんなことは
わざと偽勇者の立場を僭称することで、本物の勇者を守っている可能性もあるからだ。
よって、私はその品定めのために偽勇者へ接触することとした。
どういうわけか偽勇者は私の用意した部屋ではなく、国賓用の客室に泊まっていたが、一体何があったらこんなところに泊まることになるんだ?
ともかく、ヤツはまだ召喚されて右も左も解らない状態。
魔術を教えるといったところそこに興味をいだいたので、こうして儀式場まで連れてきた。
流石に直接的に何かしらの手をうつと王女ミレイアに感づかれるため、あくまで遠回しな細工しかできないが、それでも問題ない。
魔力を意識させられればそれで十分だ。
魔力とは己の内面そのもの、それを意識して周囲に発露させることは、言ってしまえばその人間の本質を丸裸にすることでもある。
この男が警戒に値するか否か、これで測れるというもの。
――そうして、偽勇者は私に促されるまま瞑想に入る。
しかし、結果はすぐには現れなかった。
警戒されているのか? 判然としないが、もしそうだとすればそれが解っただけでも十分だ。
とはいえ、偽勇者が結果を出さないことには、教えた私のプライドが許さない。
何も変化がなければ、アドバイスの一つでもくれてやろうと思ったが――
「――一つ、いいか?」
向こうの方から声をかけてきた。
いや、意識を集中させて魔力を感じろ、何のために力を貸してやっていると思っているんだ。
「……お前は、プリンセス・ミレイアをどう思う?」
「ミレイア王女様、ですか?」
いきなりなんだ、もしかしてこいつはミレイア王女に欲情でもしているのか?
瞑想中に欲情とか頭おかしいんじゃないか?
「――プリンセス・ミレイアは魔術師だろう」
――!
「お前の目からみても、プリンセス・ミレイアは本物の魔術を使えるんじゃないか?」
驚いた、どうやら偽勇者はミレイア王女が本物であることを見抜いているらしい。
とすれば確定だろう、この男はバカではない、勇者を守るためにわざとこういった言動をしているのだ。
「……ええ、そうですね。この国で、彼女ほど魔術を理解している人間はいないでしょう」
……とはいえ、実際。
ミレイア王女が優秀であることは事実だ。
この愚かな大陸に置いて、彼女ほど魔術に精通している“人間”はそういない。
この男も、この儀式場での一件を理解したなら、中々どうして優秀だ。
五属性の魔術を使える人間は、ギリギリ我ら魔族からみても、知性体と言えなくはない。
しかし、だからこそ余計に解らない。
「ですが、どうしたのですか? 今は、魔術の深淵に身を投じ、己と向き合うべきだ」
なぜこいつは、わざわざその事をバラそうとする?
意図がわからない。勇者の身代わりとなって、私を警戒しているのなら、こいつはその事を噯にも出すべきではなかった。
「……こうして目をつむり、思い返した時、最初に浮かんだのはそのことだった」
「ふむ?」
「この国は……お前には随分と生きづらいんじゃないか?」
「……!」
そこまで見抜いているなら、なおさらこいつは私を警戒するべきだったはずだ。
余計に、やつの意図が読めなくなる。
「そんな国の中で、孤軍奮闘するプリンセス・ミレイアの姿は、どう映った?」
そこで、ミレイア王女か。
この男の狙いは読めないが、わざわざ本音を応える必要はないだろう。
ウソは言っていない、程度の事を適当に答える。
「素晴らしい王女でしょうね、彼女が指導者となれば、この国も安泰なのですが……」
「やはり……か」
――やはり、何がやはり、だ?
こいつは私から何を読み取っている?
幻覚でもみているのか? それとも、今の言葉だけで私の本質を見抜いたとでもいうのか!?
……落ち着け、こいつは警戒すべき敵だ。
だとしたら、こいつの考えには裏があるはずなのだ。
それを読み取らなくてはいけない、あの場で、状況もわからずに自分の立場を理解し、本物の勇者を守る立場に立ったこの男が、ただのバカなはずはないのだ!
だから、だからこれには絶対なにか意味がある。
――――いや、待てよ?
ふと、完全に思考が何かにハマる音がした。
こいつはわざわざミレイア王女の名前を出した。
こいつの考えの中には、私とこいつ自身だけではない、ミレイア王女も含まれるのだ。
そして、こいつの言動と、そして何より、
こいつが本物の勇者を守ろうとした事実が、こいつのあり方を物語っている。
この男はたしかに優秀だ。
それは疑いようがない。
だが、同時に、
こいつはどうしようもない善性のお人好しだ。
俺が勇者召喚を行う上で、勇者とは正義感の強いバカと定義した。
加えて、それに一人巻き込まれる人間がいることを条件としたわけだが、それは巻き込まれた人間にも同じことが言えたわけだ!
なるほど、それなら余りにも話はわかりやすい。
――そういう輩は、ただのバカよりも更に御しやすい。
「……ええ、そうですね」
私は重々しく彼の言葉にうなずく。
こいつは、
でなければこんな話はしない。
ならばそれをせいぜい利用するとしよう。
「貴方と私の考えは、強く同じであるようです」
私が妖しい存在であることも、こいつは承知であるはずなのに。
それでも
わかりあえると思っているのだ。
なんというおめでたい頭、なんという馬鹿らしい考え。
――ああ、やはり。
人間は愚かだ。
優秀な人間でも、こうして善性に囚われ、私に希望を見出してしまうなら。
「……そうか、それは幸いだ」
――それを、私達魔族は正しく利用するだけだ。
皆さんバカではないと思いますが、だからといっておじさんが百合戦士であると見抜けるはずがないので、こうなります。