異世界召喚巻き込まれおじさん、百合の気配を感じて踏み台を決意する。   作:まちまち

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4 巻き込まれおじさんと孤独なプリンセス

 ――昨日は大きな成果を得られた一日だった。

 まず、魔力については問題なく認識することができた。

 一度認識してしまえばなんてことはない、手足のように使いこなすことができる。

 そりゃあ、この世界の人間はこれを単なる道具としか思わないよな、というくらい便利だった。

 

 だが、何よりも大きかったのは、この世界で俺は同士を見つけることができたということだ。

 同志神官長。立場は違えどやつは間違いなく百合のものであった……

 ともに観葉植物となって部屋の片隅に生えることを誓った(誓っていない)俺たちは、その日はそれに満足して別れた。

 

 俺はそのまま、部屋にあった本を読んで過ごした。

 本は文字が読めないのに理解できるようになっていた。

 おそらくは魔力が原因だと思う。インクが魔力で作られているのだ、だからそのインクに染み付いた魔力から書いた内容が理解できるのである。

 これも、便利な魔力の一端に過ぎないのだから恐れ入る。

 オタクとしては、その神秘を解き明かしたいと思うのだが、この世界の人間は習性としてそう意識しないらしい。

 少なくとも、学問としての魔術は存在していないらしかった。

 

 本を読む理由は情報収集だ。

 大神官が同士だったとはいえ、暫くしたらこの城を後にして、魔王討伐に出ないと行けない立場としては、この世界の常識を学ぶことは必須事項。

 誰かついてきてくれればいいんだけど、踏台になってくれなんて言えるわけもなし。

 一人旅の方が気楽だとも思う。

 

 国賓を招く部屋に置いてある本など、基本的には調度品の一種だ。

 高級そうな部屋に置いてあって無難な本といえば何か、そう聖書。

 この部屋に置いてあるのもそういったたぐいの本で、この国の宗教の土台は学ぶことができた。

 大陸を支配していた魔神(多分、魔族のことだと思う)を撃退し、人の時代を作った英雄がいるのだとか。

 まぁよくある簒奪の歴史といえばそうなんだろう。

 ともあれ、半日もあれば分厚い歴史書の一冊は読み切れるわけで。

 じゃあ次はどうするかと言えば、この国の書庫にお邪魔するという選択肢だった。

 

 流石に夜も遅かったので、次の日、こうして書庫にやってきているわけだが。

 誰か一人くらい、ここにある本がどういうものなのか解説してくれる人がほしいんだけど。

 え? 誰も興味ないから知ってる人なんていない?

 大神官もここには近寄らない?

 この国の人間はなんでこうも不勉強なんだ。

 

 ――と、思いながら部屋に入ったら。

 

 

「――あら、勇者様。どうしたのかしら?」

 

 

 思いっきり王女様とバッティングした。

 考えても見れば、王女様がこの書庫の住人であることは想像できないはずもなかったのだ。

 この国でも珍しい勉強家な魔術研究者。

 そりゃあ、王宮で一番知識が集まる場所に、いるに決まってる。

 

 ……まずいな、こんないきなり顔を合わせると思って無くて、吐きつける言葉を考えてなかった。

 ここ何日かやってみてわかったが、やっぱり俺に強い言葉は向いてない。

 最初のうちはなんとか、色々と文句を言っていたが、最近はもっぱら無言で横柄に反応するマンと化していた。

 王女様やアサヒと話をする時に、それではまずいだろう。

 ただでさえ、この前夜にいきなりやってきたアサヒ相手に、そもそも何を言ったのかほとんど覚えていないのに。

 

「……お前には関係ないだろう」

 

 とりあえず、そっけなく返す。

 対して王女様は、くすりと微笑むに留まった。

 ……これはどういう感情だ!?

 

 ちらりと視線を更に王女様の方へ向ける。

 書庫はもとより日が入らないのか、薄暗い。

 魔力を通すことでほのかに光るランプが、一番の光源だ。

 そしてそんな薄暗い場所で、質素なドレスを身に包んで、王女様はメガネをかけていた。

 活発な印象が、一気に知的なものへと切り替わる。

 あれは、結構ずるいと思う。

 

「ここには、私と貴方しかいないわよ、“代理”勇者様」

 

 ――代理、代理か。

 おぼろげな記憶だが、アサヒいわく王女様は俺をアサヒをかばうために勇者になったと思っているらしい。

 故に、代理。

 的を射た表現と言えた。

 

 が、そこはあえて反応せずに無視して書庫の中に入る。

 正直、俺のことを信用している雰囲気のある王女様相手に、変なことを言っても逆効果にしかならないはずだ。

 さっきも言外に、そんな態度を取る必要ないと言われたが、それに悪態で返しては向こうの思うつぼ。

 であれば、反応を返さずに向こうの確信を外すしか無い。

 

 本当に徹底して、自分に興味がないのだと王女様に思わせるのが正解のはずだ。

 

 とりあえず、手近な本棚に目を向けて、一冊手に取ろうとする。

 

「――――そのあたりは、この国の歴史に関する本よ。部屋には“大陸典”が置いてあったはずだから、概略は解ってると思うし、わざわざ手に取る必要はないと思うけど」

 

 

 ……が、その言葉に手が止まってしまった。

 ――――まずい、どうしよう。

 

 

 <>

 

 

 ――突然、私の聖域にやってきた代理勇者様は、随分と可愛らしい人だった。

 王宮書庫、ここは私以外に入ってくるもののいない、ある種秘密基地と言ってもいい場所だ。

 万が一、知らない人が入ってきたとしても、それは大抵の場合新人の従者だ。

 だから即座に、見なかったことにしてその場を後にする。

 

 私がいることを解っていながら、足を踏み入れる人は彼が初めてだった。

 私が招いた――というのならアサヒもその枠に入るけれど、彼は勝手に入ってきたのだから、また別だろう。

 客人とも、外敵とも言えない来訪者。

 私としては、代理勇者様のことをもっと知りたいと思うから、歓迎の選択を選ぶことにした。

 

 帰ってきた反応は、そっけないものだったけれど。

 

 ――だからこそ、私が彼と一対一で相対しいて感じた感情は、“可愛らしい”というものだった。

 彼は嘘をつけない人種だろう。

 王宮での彼の評価は、概ね“よくわからない人”というものだ。

 いきなり私に傲慢な物言いをしたかと思えば、わがまま放題に自分の寝床に文句をつけた。

 かと思えば、次の日からはかなり素直に大神官の話を聞いたり、自室にこもって読書にふけったりと、おとなしい様子を見せる。

 傲慢な物言いも鳴りを潜め、今の彼は傲慢というよりも不器用な人、という印象が強いらしい。

 

 少し不思議なのは、アサヒと彼の世話役の少年からの評判が悪いこと。

 怖い、とはどういうことだろう。私の目の前にいるのは、如何にも人畜無害な青年なのに。

 

 ともあれ。

 彼はアサヒのことをかばうために、勇者であろうとしたくらいに“善い”人なのだから。

 当然といえば当然。

 アサヒがそうであるように、彼もまた勇者の素質を持つ善人だった。

 

 そして、私のことを無視する方針を取ったらしい彼だったが、スグに私の言葉に手を止めてしまった。

 ふふ、全然無視できていないわね。

 

「ねぇ、代理勇者様? 少し話を聞いてくれない?」

 

 とりあえず、私の言葉に返事をしてくれないのなら、こっちから話しかけるのがいいだろう。

 無視できないことは解りきっているのだから。

 ――彼は私のアドバイスに従って、この大陸で使われている通貨に関する本を読み始めた。

 それを気にせず、私は続ける。

 

「私、この国の王女なのだけれど、随分と冷遇されていると思わない?」

 

 正直なところ、私は浮いている。

 間違いなく、この国において……どころか、人類全体を見渡しても私は異物の類だと思う。

 五属性の魔力を使える天才。

 しかし、使うだけでなく研究まで、となるとそれは変人と見做される所業だ。

 

「私ね、庶子なの」

 

 ――庶子、落し胤、なんという呼び方でも構わないが、私はこの国の女王と、卑賤な出自の父の子供だ。

 父は街のハズレで魔術の研究をする変わり者で、母がお忍びで城下を歩いている時に知り合ったらしい。

 それから、色々あって母は私を身ごもって王宮に帰った。

 この国は女系の国だから、多くの男の子を孕むのはおかしなことではないのだけど、流石に庶民の子なんて前代未聞。

 ただ、当時はまだ若くて、そこそこカリスマがあった母は私のことを無理やり周囲に認めさせた。

 父は、私が生まれる少し前くらいに亡くなってしまったけれど、私は今も王族としてこの王宮で暮らすことを許されている。

 

「お母様に聞いても、お父様のことは何も教えてくれないわ。……というより、お母様は私に何も教えてくれなかったの」

 

 果たして、父親の事を愛していたのか、いなかったのか。

 私のことをどう思っているのか、それすらも、私は何も解らなかった。

 幼い頃から、いるのにいないものとして、蔑まれはしないけれど、除け者にされ、腫れ物扱いを受けてきた。

 

「だから、誰も来ないここは私の聖域になったのね」

 

 少なくとも、ここにいる間、私は退屈なんてしたことはなかった。

 知識というのは面白いもので、蓄えれ蓄えるほど深みを増していく。

 前に得た知識が、別の部分に繋がってくる。

 これほど楽しいこともない。

 きっと、父の血がそうさせるのだろう。

 

「代理勇者様、貴方はどう?」

 

 ここにやってきたことは、彼には知識欲があるということだ。

 必要にかられてのことだったとしても、行動に起こすまでのハードルが高いのが、学習という行為。

 だから、勇者様も同好の士であることを期待していたのだが、

 

「なんというか……」

 

 おもわず、といった様子で口をついて出たのは、

 

 

「……大変だな、君も」

 

 

 ――――そんな、余りにも普通すぎる言葉だった。

 ……それだけ?

 私の話は、そこそこ重かったと思うのだけど、それだけ?

 別に、同情してほしかったわけではないけれど、もう少し何かあるのではないか?

 共感とか、憐憫とか、もう少しそれっぽい感情が欲しかった、というのは我儘なのだろうか。

 

 そんな私の感情は、

 

「……あ、いや。すまない……無神経だった」

 

 ――続けて飛んできた言葉で、梯子を外された。

 え? 無神経だった?

 というか、無視はどうしたの?

 いやいや、無視される状況を崩したのならこっちの勝利なんだと思うんだけど。

 

 それにしたって、こう、もうちょっと何かあってもいいと思うのよ。

 

「代理勇者様」

「あ、ああ……?」

 

 ――勇者様は、いよいよ外面を取り繕えないくらいタジロイでいる。

 私は、そんなに彼を威圧しているだろうか。

 少し落ち着いたほうがいいかも知れない。

 ああでも、何か一言くらい言いたくなってしまう。

 立ち上がって、ずかずかと勇者様に近寄ってしまった。

 なんだろう、心がもやもやする。

 こんな感情、初めてのことなのだけど。

 

「もっと、私の方を見てくれないかしら?」

「い、いや……」

 

 ――正面から、大胆に言ってやった。

 なのに、勇者様は私の方を見ようとしない。

 どころか、一歩たじろいだ。

 逃げ出そうとしているのだ! なんて男だ!!

 

「こっちを見て」

「……っ」

 

 一歩、踏み込む。

 一歩、たじろぐ。

 

 

 その時、ずるっと足が滑った。

 

 

 ――書庫はあまり掃除がされていないから。

 ホコリが溜まっていたんだろう。

 それに足を滑らせて――私は、彼を巻き込むように倒れ込んでしまった。

 

 どかどか、すごい音がして本が落ちてくる。

 

「わ、悪い」

 

 そう言いながら、勇者様は私を抱えて、落ちてきた本から私を庇っていた。

 魔力の使い方を覚えたからか、ケガはない。というか、このくらいなら私もどうってことはないのに。

 ああでも、なんかこうして抱えられると、少しだけ安心する。

 

 ……それと同時に、むかむかは更に強くなった。

 文句の一つも言ってやらないと。

 

「ねぇ、代理勇者様――」

 

 そう、口を開いて。

 ――勇者様の頭の上に乗っかっている本に意識が向いてしまった。

 ……こんな本、こんなところにあったっけ?

 

 本を手に取りながら、キョロキョロとあたりを見渡す。

 

「……隠し棚?」

 

 勇者様が、ぽつりと何かを見つけて呟く。

 視線を追えば、たしかにそこには明らかに不自然な棚の奥行きが。

 本を隠していたのか?

 何を? ……言うまでもなく、私が今手にしている本だと思う。

 これは、どうやら本というよりはノートのようなものの気がするけれど。

 

 パラパラとめくってみる。

 

 すると、気付いた。気付いてしまった。

 

 

「――――これ、お母様の字だわ」

 

 

 きれいな、可愛らしい字だった。

 今と比べると少し柔らかい印象だけど、癖は間違いなくお母様のものだ。

 もう一つ筆跡がある……わからない。

 几帳面な文字であることは見て取れる。

 

 語り口からして、お母様は軽妙で、もうひとりは無骨な感じ。

 内容は、魔術の研究。

 あれ、これって……

 

「……これ、君の両親のものか?」

 

 ふと、覗き込んでいたのか勇者様が呟く。

 私が思い至ったのと同時に。

 

 思わず、顔を見合わせてしまった。

 

 ――その瞬間、私は理解してしまった。

 お母様は、きっと、

 

 

 恋をしていたんだ。

 

 

 こんなふうに、この几帳面で無骨な人の研究は、とても興味深いけれど、それを記した彼の言葉は、余りにも普通だった。

 どこにでもありふれていて、そして善良なものだった。

 今、私の目の前にいる人のような。

 

 善良で、ありふれているけれど――私の周りにはいなかった人だ。

 

 ああ、今ならばお母様が何を思っていたのかがわかる。

 こんな気持を、黙っているなんて。

 きっと、とてもつらかっただろう。

 

「――ねぇ、代理勇者様?」

「…………」

 

 ――私が声をかけると、勇者様はハッとして顔をそらした。

 今更、遅いのに。

 

 ああでも、まったく。

 こればっかりは仕方がない。

 一度、そう思ってしまったからには、止められない。

 

 本当にこの人は――

 

 

「……ふふ、かわいい人」

 

 

 どうしようもなく、私の興味を惹く存在だ。




 王女様は恋に恋している部分も多分にありますが、これが初恋ですのでそこら辺は区別がつくはずがないというのもあります。
 おじさんに興味を抱くのは、おじさんに学習の意欲があることも大きいです。
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