異世界召喚巻き込まれおじさん、百合の気配を感じて踏み台を決意する。 作:まちまち
白波アサヒです。
異世界にやってきて、えっと……一週間くらいが過ぎました。
多分、一週間だと思うのですが……途中でうっかり日にちを数えるのを忘れていたら、果たして本当に一週間だったか解らなくなってしまったんです。
ただ、こういうどうでもいいことをミレイア様に聞く勇気はないので、そのままにしています。
ミレイア様は、すごくいい人です。
アタシに、この国のことを色々と教えてくれました。
勉強は、アタシにできる数少ない取り柄の一つなので、頑張って覚えたいです。
ここに来て、ミレイア様に拾われて以降の私は、多分恵まれた生活をしていると思います。
基本的に、ミレイア様とは同じ部屋で暮らしています。
一日の殆どはミレイア様の部屋で過ごします。
やることといえば、ミレイア様のお着替えの手伝いと、部屋のお掃除。
お食事とかは運ばれてくれるし、着替えた洋服は専門の従者さんが回収していくので、私がお洗濯をしたりはしません。
部屋の掃除も、必要かと言えばそれほどではないのですが、お勉強以外にやることはないので……
勉強することはこの国のことだけでなく、魔術に関わることもそうです。
この国の人は魔力を手足のように使えるのだといいます。
でも、アタシはこの国の人達と違う特殊な魔力をしているので、巧くそれが使えないのです。
体内の違和感を意識的に感じ取る……ということでしたが、今の所成果はありません。
一応、魔力から言葉を読み取ることくらいはできるようになりましたが、これは普通ならニ、三歳くらいの赤子でもできることなのだとか。
今のアタシは、赤ん坊と変わらないのかも知れません。
どうやら、アタシはやっぱり異世界にやってきても、愚図でノロマなだめな子みたい。
少しだけナーバスになります。
今の所、この世界にやってきて大きな変化はないのですが、一つだけ。
ミレイア様がお兄さんのことを口に出す頻度がだんだん増えてきています。
お兄さん、ミレイア様いわく、代理勇者様。アタシの代わりに、勇者を名乗り出た人。
でも、ミレイア様の口から語られる代理勇者様と、お兄さんは果たして同一人物なのでしょうか。
……可愛らしい人、ってどこが?
アタシのお兄さんのイメージは、何を考えているかわからない人、です。
初対面の時の、あの恐ろしい瞳は今でも忘れられないくらい怖かったですし、話し方もなんだか物騒だと思いました。
王宮での評価もよくわからない人、というものが大半で、中には怖がっている人もいる……らしいです。
アタシはそんなこと、聞けるはずもないのでミレイア様の伝聞ですが。
そんな中、どういうわけかミレイア様だけはお兄さんの評価がイヤに高いのです。
これはなんというか、物語で言うところの「フラグがたった」というやつではないでしょうか。
オタク的に言わなければ、恋のはじまりとかそういうやつ。
無くはないかもしれないです。
お兄さんはミレイア様の周囲にはいなかった人でしょうから。
というか、孤立しているらしいミレイア様にとって、初めてまともに話をする異性なのですよね。
恋に恋している、というのも多分にあるかと。
じゃあ、アタシはそれを受けてどうするんですか? という話。
正直、どうすればいいかはよくわからないです。
アタシとミレイア様の付き合いはまだ一週間。
そしてそれと同様にお兄さんとアタシも、出会って一週間としか経っていません。
二人のことが、どちらもアタシにはわからないのです。
それでもミレイア様はアタシにとって間違いなく恩人なわけで。
そんなミレイア様が好きになった人が、よくわからない変な人だっていうのは、いささか不安なのです。
何より、この世界における唯一の同郷。
アタシとしても、きちんとお話したくはあります。
そこで、考えました。
――こっそり、お兄さんに会いに行ってみよう、と。
こっそり、です。
現在、アタシはミレイア様いわく、狙われたら守れない立場なので、一人で外を出歩くことは許可が必要だったりします。
当然といえば当然なのですが、今回ばかりは正面からお兄さんに会いたいとは言えないわけで。
というか、それを言い出す勇気はありません。
後、夜にこっそりは難しいです。
ミレイア様は私が夜にこっそりしたことを察したみたいで、何もいいませんが、夜は露骨にこっちを見てきます。
そんな状況で、小心者のアタシが外に出れるはずもなく……
とはいえ、ミレイア様は王女様、色々とやらなくてはならないこと、一人でやっていることはあるわけで。
アタシが一人になる時間はあります。
そういう時は、ミレイア様の部屋で自習をしているのですが、ようはこの自習を速攻で片付けて、空き時間を使えばいいわけです。
やるべきことをおろそかにしていないなら、最終的にミレイア様も許してくれるんじゃないかな? とか思ったり、思わなかったり。
というわけで、できるだけ人に見つからないようにお兄さんの部屋へやってきました。
人に見つからないのは得意です。
元の世界では人目につかないことだけを考えて生きてきたので、もはや習性と言ってもいいでしょう。
まったく自慢になりませんが。
そして、アタシがゆっくりと扉を開いて、中を伺おうとしたその時――
バシーン、思いっきり扉が開かれて、アタシはその勢いにふっとばされました。
そのまま壁に叩きつけられたりはしませんが、ずずいーっと足がつられて動きます。
その後に、部屋から、
「あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
すごい形相で、従者姿の少年が飛び出していきました。
何事!?
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――勇者様は、恐ろしい方だ。
ぼくは最初、勇者様の従者になれたことを喜んでいた。
けれども、現実はそんな簡単なことではない。
勇者様をお部屋に案内したら、いきなりこんなところに泊めるつもりかと怒られた。
それからも、一日かけていろんな部屋を回って、最終的に国賓宿泊用の部屋に泊まっていただくことになった。
ある意味国賓で間違いないかも知れないけれど、一体何を意識していたのだろうか。
まるでなにかから逃げるかのように、いろんな部屋を移っていた。
それから次の日、朝に勇者様の部屋を訪ねたところ、そこには悪鬼がいた。
昨日までの勇者様とは似ても似つかない、恐ろしい何かがそこにはいたのだ。
アレは、なんだったのだろう。
思わず逃げ出して、慌てて戻ればそこには昨日と変わらない勇者様がいたのだけれど。
勇者様は何も言わなかった。怒られすらしなかったために、怖くて聞くことはできなかった。
それから、勇者様は召喚当日の横柄な物言いがウソのように、傲慢な物言いが鳴りを潜めた。
きっと、召喚当日は流石に心が参っていたのだろう、おいたわしい。
そうして勇者様と話ができるようになると、勇者様は無骨だけれど聡明であることが解った。
いきなりこの国では一番内容が複雑と言われて嫌われている“大陸典”を読み始めた時は、さすがは勇者様だと思ったものだ。
少なくともぼくは一度も読んだことがない。
そうしているうちに、勇者様はこの国の書庫へ足繁く通うように成られた。
元の世界でも聡明な賢者だったのだろう、異界の勇者様というのは、かくも立派な方なのだろう。
しかし、何もわからない状態から半日もかからず五属性を使いこなす様になったと知った時、ぼくは勇者様が恐ろしくなった。
一般的に、魔力とは生まれた時から長い時間をかけて習熟していくものだ。
特別な修練こそ必要ないが、慣れによって魔力でできることを増やすのが魔術の基本。
五属性使いとは、ここまで天才なものなのだろうか。
いや、異界の勇者様だからこそ、これが自然なのかもしれない。
――と、思ったが、勇者様と同時に召喚されたらしい小娘が、一向に魔術を習得できないことから、それは違うのだと思わされた。
そもそもその小娘は魔力をほとんど有していなかったそうだが、それにしたってゼロというわけではないだろうから、少しずつ魔術は使えるようになっていくはずだ。
だとすれば、やはり勇者様が異常なのだろう。
しかし、どういう理屈なのだろう。
魔力とは
ともかく、勇者様が恐ろしいのはそういったところだ。
この世界の常識が通用しない相手。
そして、何より勇者様のそばにいると、時折驚くほど背筋がゾッとすることがあるのだ。
だからどうしてか、ぼくは勇者様が恐ろしく感じられて仕方がなかった。
そんな、ある日のことである。
その日ぼくは日が高く登ってから勇者様の部屋を訪れた。
前日の内に、夜遅くまで起きるから、朝は遅くてよいと言われていたので、言われたとおりにこの時間にやってきたわけだ。
普段とは違うルーチン故に、少しだけ新鮮な気分で勇者様の部屋へ入室し――――
ぼくは、数日ぶりのあの“怪物”と出会った。
怪物、そうとしか表することのできない姿をしている。
姿は二足歩行の人型に近いだろうか。身につけているものは、貴族が身につける洋服にも思える。しかし、直視できない。
余りにも恐ろしすぎるのだ。
怪物の顔と思われる部分から、地獄のような何かが噴出している。
ぼくはそれを見ると震えが止まらなくなり、その場から動けなくなる。
なぜだ、なぜだ、なぜだ!? どうして勇者様の部屋にこのような怪物がいるのだ!?
わからない。
何も、何もわからない、考えたくない!!
ああ、ああ!
いやだいやだいやだ!
死にたくない!!
――そうだ、わかった、わかってしまった。
勇者様はこいつから逃げようとしていたのだ。
そして、今はこいつから逃げるためにどこかへ行ってしまったのだ。
そうでなければそうでなければそうでなければ、こんな場所にこいつがいるはずがない!!
逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ!
逃げられない、逃げられない、逃げられない!!
体が動かない!!
――そして、そいつもまた動きを見せない。
ぼくをなぶりたいのか、品定めをしているのか、はたまた別のことを考えているのか。
何をしてくるのかもさっぱりだ。
首をかききるのか、はたまた喉元に食らいつくのか。
どっちでもいい、どっちでもぼくは死ぬ!
――――終わりだ。
何もかも。
しかし、
怪物はぼくの想像の上を行った。
がちゃり、かすかな音が後方から聞こえた。
うし、ろ。
うしろ、うしろうしろうしろ、
――なんで?
あ、
「あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
きがつけばぼくは、
しょうきをうしなって、とびだしていた。
もう、なにもかんがえたくない。
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絶叫で目が覚める。
昨日は夜遅くまで、書庫から持ち出した本を読みふけっていて、そのまま寝落ちしたらしい。
いかん、服がしわしわだ。
この服、王宮を抜け出したらうっぱらって軍資金にしようと思っているのに。
従者くんにクリーニングしてもらわないと。
いや、いっそこれをつかって我儘を言ってもいいかもしれない。
というか、なんで部屋の扉が空いているんだ?
流石に不用心すぎる。
鍵をかけわすれたのだろうか。
とりあえず、一度扉をしめないと、そう思って寝ぼけ眼をこすりながら、外に出る。
寝起きの目で外に出ると、なんか変な勘違いを受けそうだしな。
で、そのままあたりを見渡すと――
開いた扉の裏に、メイドJKこと、アサヒが壁を背にして立っていた。
「ひぅ」
「……なんでそこにいるんだ?」
「わ、わかりません……」
――そう言って、すごすごとアサヒは帰っていった。
……何だったんだろう。
それと、どういうわけか従者くんが寝込んでしまったらしい。
<>
お兄さんは怪しい人です。
あんな豪華な服を、あそこまでヨレヨレにさせるなんてどんな事をすれああなるのかわかりません。
外なら解らなくもないですが、ここは王宮の中です。
おかしなことなんてそうそうないのですから。
いえ、少し待ってください。
ヨレヨレの服のお兄さんがでてくる――その直前に、お兄さんの従者さんが悲鳴を上げながら飛び出していきました。
アレは尋常ではありません、どう考えてもなにかあります。
ヨレヨレの服。
悲鳴の後、逃げ出す少年。
まさか、
いえ、いえまさか、そんな。
……お兄さんはもしかして、そちらの趣味?
アタシはこれでも多少はオタクです。
そういう小説も多少は嗜みますし、嫌いというわけではありません。
というか嫌いな女子はいません、断言。
ですが、ですがしかし、えっとその……
ナマモノはよくないと、そう思うのです、はい。
私はお兄さんが、更に良くわからなくなりました。
ようやく勘違いモノらしい回になったと思います。
本作はどちらかというと勘違いモノというか、スナッチや成田良悟作品のようなイメージが近いかも知れません。
アサヒと主人公は対になる存在として設定されています。