【バ名は9文字以下です】   作: ※(米印)

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まったく関係ないのですが、昔友人がアメリカに一円起業で会社立てて、そこの会社に融資するという形で日本の銀行からお金借りていたのを思い出しました。

最終話です。


そのウマ娘の名は

「ここは……」

 和室の真ん中、昭和を思わせるカバーのかかった電球の下で、少女は呟いた。

 いくらか雑に敷かれた布団の隣には、ペットボトルが置いてある。

 少女もそれに気づく。

 だが、そこに添えられた紙の「好きに飲んでください」という文字は、彼女には読めない。

 

 それでも、汚れた腕はそれを掴んで、一気に飲み干した。

 この家の主を信頼した、というわけではない。

 ただ、それまでの彼女の生活が、それが誰のものか、あるいは何が入っているのかなど、気にしていられるようなものではなかったというだけである。

 

 

 少女は改めてあたりを見回した。

 窓から、傾いた日が差し込んでいる。

 気を失う前は朝だったはずだから、夕日だろう、とあたりをつけた。

 では、ここはどこか。誰が、いったい何のために、私を半日も布団に寝かせていたのだろうか。

 

 そんな疑問は、(ふすま)――彼女はこの名称も知らなかったが――から顔を出した男が、あっさり解決した。

 

「おう、起きたか」

 声がした。それは彼女が今朝以来に聞いた声。ここ数週間、毎週聞いていた声。

 

「……おじさん」

 

 パン屋の店主の声だった。

 

 

 

 

 

 おじさんのズボンの裾は、泥だらけだった。畳の上に土塊(つちくれ)がポロポロと落ちる。

 それに構わず、布団の横まで歩いてくると、目線を合わせるようにしゃがんだ。

「急に倒れたもんだから、びっくりしたよ」

「どうして……」

 どうして、叩き出さなかったの。

 どうして、布団に寝かせたの。

 

 どうして、私を助けたの。

 

 

 その意は、伝わったのか、伝わらなかったのか。おじさんはたぶん、どちらにせよそう答えたのだろう。

 

「俺は、トレーナーだからな」

 

 疑う余地もなく老人と呼んでよい歳の男の目が、少年のようにきらめいた。

 

 ただ、この()()()が、ひたすらにウマ娘という存在(いきもの)に熱中していることだけははっきりとわかる。

 

 それだけで十分だった。

 

 この前裏切られたばかりなのに、我ながらずいぶんと単純だ、などと思いつつ気を緩めると

『ぐうううううううううう……』

 そのまま腹も緩んだ。

 

 

 

ほれで(それで)わたひはふさへいはではひってたんら(私は草競馬で走っていたんだ)……です」

「食べるか話すかどっちかにしろ」

ひゃあ(じゃあ)、食べる」

 言うと、少女は一心不乱にパンを頬張りはじめた。それもそのはず、彼女が倒れたのは空腹ゆえに他ならないのだから。

「もぐもぐ」というよりも「ぐしゃぐしゃ」と食べる姿を前に、パン屋は考える。この少女を、どうするべきか。

『元気になったなら出ていけ』などと言ってよい相手ではない。置いておく理由を作るなら、何が良いか。

 

 兼業トレーナーの男は、一つ、思いついた。

「なぁ、お前、トゥインクル・シリーズ(中央)で走ってみないか?」

「……っ」

 少女の、パンを口に運ぶ手が止まった。

 

「入学金なら心配しなくていい。それとも地方の方でも構わないが」

 それでもこの少女は首肯しない。

「地方なら、レベルは草競馬とたいして変わらないだろう。安心して……」

「……ちがう」

 そのウマ娘は、また、あの事実を告げてしまった。

「私は、名前が12文字あるから」

 パン屋は目を見開いた。そして、その口角があがる。だが、それはあの()()()笑みとはまったく違った。

 

「そんなことか」

 

 男曰く、海外なら問題ない。日本で走りたければ、形式上海外でデビューさせて、カク外(外国馬)扱いで走ればいい、と。

 このトレーナーは伊達に歳ばかり取っていたわけではない。海外のトレセンにも伝手があった。

 

 今度は少女が目を見開く。いままでの観念をすべて崩すような事実は、その涙腺にも手を伸ばす。

 

「……私の、名前、で?」

 

 少女は、かすれ声で問う。

 

「ああ。だから、名前を教えてくれ」

 

 ウマ娘は、魂に、名前に縛られ続ける。それはこの少女も同じ。

 いままで隠さなければならなかった名前。嫌っていた名前。そしてなお捨てられなかった名前。

 彼女は、声を振り絞って叫んだ。

 

「私の、私の名前は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2006年 10月1日。スプリンターズステークス。

 

「海外バが前々、豪州と香港、香港の英雄サイレントウィットネスの隣にステキシンスケクン。16頭が、中山の第4コーナーをカーブしていきます」

 

「さぁ外からオレハマッテルゼにシーイズトウショウ、春の王者と夏の覇者がバ体を合わせてやってきた!」

 

「サイレントウィットネスが2番手、さらに内からメイショウボーラー! しかし先頭まではまだ1バ身、いや2バ身突き放した! これは強い!」

 

「香港を待つ必要もなし! 堂々グローバルスプリントチャレンジ優勝を決めました! 短距離世界王者の誕生です!」

 

 

 

 

 

 

テイクオーバーターゲット(TakeoverTarget)!」

 

 

 




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