「セーニャ……あいつのこと、頼んだわよ」
光の玉となって四方に散って行った仲間たちを見送ると、あたしの身体はとうとう力尽き、座り込んでしまった。
もう辺りにはあたしの守るべきものは何もない。清らかだった大樹もすっかり枯れ果て、代わりにその魂の力を奪い、我が物としてしまった魔王ウルノーガの膨大で邪悪な魔力だけが、頭上で今にも爆発せんばかりに膨れ続けている。それだけだ。
ふと、思い返す。この場所にたどり着くまでの道のりは長かった。妹のセーニャとラムダの一族の使命のために旅立ち、ホムラの里で勇者であるあいつと、ついでにカミュを見つけて、それからシルビアにロウにマルティナと出会ってオーブを求めて旅をして――
やっとの思いでたどり着いた命の大樹で、まさか収められていた勇者の剣もあいつ自身の勇者の力も、デルカダール王に化けていた魔王ウルノーガに奪われることになるなんて思ってもみなかった。
あたしたちは、奴に負けてしまったのだ。命の大樹は墜ち、世界ではきっとこれから暗黒の時代が始まるんだろう。
けれどそんな未来にも目の前に迫る死にも、あたしは絶望なんてしていない。希望があるからだ。あいつもセーニャも仲間たちも、どこに飛んでいったかはわからないけど、あたしの魔力がみんなを無事に逃がしたはず。
だから世界が破滅してあたしが死んでも、生き延びたみんながきっとなんとかしてくれる。世界を救ってくれる。勇者を守り導く一族の使命も、残りは双賢の片割れ、セーニャが上手くやってくれるだろう。
グズな妹だけど、あの子はあたしに似て強い子だ。だから大丈夫。……やっぱり少しは心配だけど、仲間のみんなもいるんだから、きっとあたしがいなくても生きていける。
自分を犠牲にみんなを救ったことに、後悔なんてあるはずもなかった。
でも――
「もう会えなくなっちゃうのは……少しだけ、寂しいわね……」
炸裂した魔王ウルノーガの魔力は、それを最後に、あたしの意識をあっさりと掻き消した。
散り散りになり、思考が霧散する。魂すらも溶けていくようだった。命の大樹という還るべき場所を失った魂はただ揺らぎ、ひたすらに漂うのみ。一切の“虚無”が、あたしをじりじりと消し去っていく。
それが、いったいどれくらい続いたのかはわからない。一瞬だったのか、それとも数年が経ったのかすらはっきりしなかった。けれどある時ふと、消えかかったあたしの魂は、何かを感じた。
それが何かは、やっぱりわからなかった。感覚も思考もない魂には当たり前のことだけど、しかしやがてじわじわと、それらが蘇ってくる。感覚と思考が、それを捉えた。
水……波……砂……。
そして何かに触れられ揺すられる身体と、背中に感じる人の熱だ。
(――なに……?)
ゆっくりと瞼が持ち上がった。歪み、ぼやけながらも光が視覚に映る。目の前にしゃがみこんで心配そうにあたしを見つめるその姿は――
(人魚……?)
青い肌に魚っぽいヒレ。海底王国ムウレアにいた男の人魚たちに似ている気がする。
「………!」
そんな彼の、男の人魚にしては人間らしい顔つきが、あたしが目を開けたことに気付いたみたいでぱぁっと輝いた。瞳の奥に温かな光が見える。その時になって眼だけじゃなくようやく耳にも機能が戻って、ザーザーという波の音と一緒にもう一人、目の前の人魚の奥から真っ白のタキシードを着た別の人魚が現れて、慌て始めるのが見えた。
「エクス! 彼女、まだ息があるじゃないか! 早く村に運ぼう! 貝殻は後回しだよ!」
エクス……。それがこの、目の前の人魚の名前? タキシードの人魚にコクコク頷いてるから、たぶんそう。
けれど意識と思考が続いたのはそこまでで、エクスとかいう人魚に抱き上げられる感覚を最後に、あたしの目と耳はまた塞がって真っ暗になった。
次に気が付くと、あたしは砂の上でもエクスの腕の中でもなく、ベッドの上に寝かされていた。仰向けで見える天井は知らないもの。けれどどこか南国風というかなんというか、ナギムナー村みたいな海の村の雰囲気を感じる造りだ。それに空気を嗅いでみれば、布団の日向のにおいに混じって潮の香りも漂ってくる。
ていうことは、ここはやっぱりナギムナー村? 人魚のロミアと猟師のキナイ・ユキの悲しいお話があったあの村に、あたしは流れ着いたんだろうか。
それでエクスに拾われて、村に運ばれて……あれ? そもそもあたしはなんで“流れ着く”なんてことになって――
「ッ!! ウルノー……ぅ、
思い出して身体が跳ね起きようとしたけれど、上半身が起き上がったところで身体中に痛みが走って固まった。やり過ごしていつもの服の上から探ってみれば、腕や脚や身体のあちこちに包帯が巻かれているらしい。
だけど、そのどれも大した怪我ではないみたいだ。てっきり大怪我をしたものだと思ったのだけど、どうやら想像に引っ張られて過剰に反応してしまっただけみたい。落ち着いてみれば、痛みは精々すりむいたくらいのものだ。
けどむしろそれが不思議だ。あたしが浴びてしまった魔王ウルノーガの魔力は、絶対にすりむく程度で済むようなものじゃなかったはずだ。それに第一、あの時確かにあたしは死んでしまったはずなのに……。
どうして生き延びれたんだろう。一度は“どうなってもいい”と思った命がまだ自分の手の中にあることが、なんとも言い表せない奇妙な違和感だ。布団の端をにぎりしめて唸っていると、不意に部屋の扉がガチャリと開いた。
「あっ! あなた目が覚めたのね! よかった……ねえねえ、怪我の具合はどう? 海の岩とかに打ち付けられたんだろうけど、全身傷だらけだったから」
ミニスカート姿で現れた女の子。看病のためだろう道具を抱えてあたしのベッドに駆け寄るその子は、エクスたちとほとんど同じ姿だった。
……やっぱり変だ。あたしの記憶では、女の人魚は人間の上半身とお魚の下半身を持つ種族だったはずで、男の人魚のように人間とお魚が合わさったような見た目ではなかった。二足歩行できる脚だって、二度と海に戻らないというくらいの覚悟がなければ得られないものなはず。
それに、ナギムナー村は人魚に対してあまり印象が良くなかった。なのにエクスとタキシードの人魚とさらにこの女の子の人魚までがいて、しかもあたしの容態を心配そうに尋ねてくる彼女の様子から、人間に思うところがあるような感じもしない。
「ああ、ごめんね。今まで気を失ってたんだから、わけがわからないよね。……慰霊の浜に倒れていたあなたを、私の友達のエクスとアーシクが見つけてここまで運んできたの。それで私があなたの看病をしてたんだけど……」
「……そうだったのね、助けてくれてありがとう。あたしベロニカっていうの。あなたは?」
とりあえず、黙り込んで色々疑問を考えるのは中止。そのせいで気を回させてしまった彼女に応えた。すると彼女は気まずそうな顔から、すぐに最初みたいに明るく笑った。
「そっか、ベロニカちゃんっていうんだ。私はルベカ、村長の娘よ」
「村長の娘……? あなたのお父さんが村の長なの?」
「うん、そうだよ。とはいっても、ただのまとめ役って感じだけどね。お屋敷に住んでるわけでもないし」
ナギムナー村の村長が人魚であるはずがない。ということはここはやっぱりナギムナー村じゃないんだろうか。
人魚が三人もいるんだから、そう考えるのが自然なのかも。けど、なら――
「ねえ、ここってどこなの? あたし、前に海底王国ムウレアに行ったことがあるんだけど、そこでも地上に人魚が村長をしてる村があるなんて話は聞きもしなかったわ」
ナギムナー村でないのなら、いったいあたしはどこまで流されてきたんだろう。例えばムウレアにも話が伝わらないくらい遠い孤島だったりしたなら、きっと帰るのも大変だ。
せっかく生き延びたのだから、あたしも仲間と一緒に魔王ウルノーガを倒す旅を続けたい。だが、尋ねたルベカはなぜだかキョトンとして、しばらくあたしを見つめるばかり。どうかしたの? と、心配を言おうとしたその時になって、ようやく彼女は再起動した。
ただしその眼は、何か微笑ましいものを見るような笑顔だった。
「それって、私が人魚みたいってこと……? ふふ……そんなこと言われたの、私初めてだわ……! 海底王国ムウレアに人魚の村って何かの絵本? ベロニカちゃん、そういうのが好きなんだ」
「……待って。ルベカは人魚じゃないの……?」
どう考えてもあたしの幼い見た目から幼女の妄想として見ている。もはや慣れっことはいえモヤモヤするけど、それ以上に見過ごせないこと。
「え? ……えーっと……ど、どうしよう……。真面目に答えるべき……? でもそしたらベロニカちゃんの夢を壊しちゃうかも――」
「そういうのはいいから! ……あなたたちは、何なの……? ここはいったい……」
どこなのか。ナギムナー村じゃないし、ルベカたちは人魚でもないらしい。知っていることが何一つ通じない現状が、あたしを心細くさせていた。
それがルベカにも伝わってしまったのかもしれない。言葉を遮ったあたしに言い淀んでから、彼女はまた表情を暗くして、今度は憐れむみたいに眼を閉じる。それが開いて、一緒に口も開こうとした、その時だった。
「わしらはウェディだ。そしてここはウェナ諸島のレーンの村、その中にあるフィーヤ孤児院という小さな孤児院にお前さんは寝とる」
「あ、バルチャさん、お帰りなさい!」
人魚、もとい青っぽい肌色と顔の横と背中にあるヒレ以外は人間そっくりな“ウェディ”の、お年寄りらしい腰の曲がった小さなおじいさんが、いつの間にか部屋に入ってきていてルベカの代わりにあたしの疑問に答えてくれた。
答えてはくれたけど、やっぱりそのどれもが知らないものだ。おじいさん、バルチャさんは、曲がった背中をさすりながらあたしのベッドに手を掛けて、そんなあたしの顔を覗き込んだ。
「……わからんか。なら、ここいらの生まれではないな。人間の多いレンドアかラッカランか……あるいはレンダーシアから流されてきたのか。それにしても、ウェディを見たこともないというのも珍しい」
レンドア、ラッカラン、レンダーシア。……やっぱり駄目。地名なんだろうけど、どれもこれも聞いたことがない。
「まっさかぁ! ラッカランはまだ近いけど、レンドアなんてすっごく遠いじゃない! レンダーシアも……今は変な霧で閉ざされちゃって、行き来ができないんでしょ?」
「そうらしい。だがそれに巻き込まれた、ということもあるだろう。あの霧のことはほとんど何もわかっておらんと聞く」
「うーん……ならベロニカちゃん、いったいどこの子なのかなぁ。ねえ、何か覚えていることとか、ある? ベロニカちゃんが住んでた町の名前とか、わかるといいんだけど……」
「覚えてるわよ。……覚えてるけど……」
幼女扱いを咎める気にもなれなかった。だってもう、いくつも出てきた知らない地名は二人の言葉だけでも大きな世界を築いてしまっていて、それを、“今まで誰にも知られてこなかった秘境”として片付けることはとてもできなかったからだ。
つまりあたしは、ある一つのとんでもない可能性に気付いてしまったのだ。
「……ねえ」
なけなしの勇気を振り絞って、あたしはそれを二人に尋ねた。
「ここ、ロトゼタシアじゃないの……?」
聞くと、ルベカは目を見張ってまたキョトンとした顔をした。対してバルチャさんは少し眉を動かしただけで平然と、あたしを見つめてまた答える。
「……このウェナ諸島と、オーグリード大陸、エルトナ大陸、ドワチャッカ大陸、プクランド大陸の五大陸も合わせて……ここは母なる大地アストルティアと、そう呼ばれておる」
生き残って流れ着いたのが、あたしの元居た大陸とは全く別の大陸であることを、あたしは理解しなくちゃならなかった。
それから動揺する心をどうにか落ち着けて、あたしは二人にいろんなことを訊いた。ロトゼタシアの名前のこととか、落とされた命の大樹のこととか、落とした魔王ウルノーガのこととか。けれど、ロトゼタシアに住む者なら知らないはずがないそのどれもを、二人は知らないらしい。空想の話ではないのかと、とうとうバルチャさんにまで疑われてしまったくらいだ。
あたしがアストルティアを知らないように、二人もロトゼタシアを知らなかった。それは二つの大陸、いわば世界が、どれだけ広い海を隔てているのかもわからないくらい、遠く離れた場所に存在しているということを証明してしまっていた。
その距離は、せっかく生き延びたのにセーニャに、仲間たちにもう会えないんじゃないかって、あたしに思わせてしまうほどのものなのだ。
思ってしまって、心細さがますます増した。寂しさが溢れて次第に口が重くなって、ルベカとバルチャさんにも言葉の途中で心配をさせてしまう。いたたまれなくなって、お礼を言って会話を打ち切ろうとした。
それを遮るようにして、三人目の来客が部屋のドアを開け放った。
「………!」
ちょうどあたしも二人に断るために顔を上げていて、眼が合った。青い肌とヒレのウェディの男。けどその優しげな顔立ちと暖かな眼差しは、見覚えのあるものだった。
エクスという名前らしい、あたしを最初に助けてくれた男は、あたしの姿を認めるとほっと息をついて微笑んだ。
改めて見れば、なんだか迫力に欠けたお人よしっぽい顔。どこか既視感のようなものを感じる彼に、あたしはぺこりと頭を下げる。
「ええと……あなた、エクスっていうのよね。あなたがあたしを運んでくれたって聞いたわ。ありがとう」
エクスは気にしないで、と首を振って、なぜだかあたしの頭を撫でてきた。
優しい手つき。けどそんな子ども扱いが今更ムッときて、勝手に眉間に皺が寄る。ほとんど同時にエクスもハッとしたふうに手を離し、それを追っかけて文句を言ってやろうとすると、その奥にさらにもう一人、今度は金髪のありがちなイケメンっぽいウェディが壁に背を預け、あたしを見下ろしていた。
「エクス、このチビが、お前が拾ったっていう人間のガキか? 死んでなくてよかったな」
「――っもう! みんなして子ども扱いしてっ! ていうか、誰よあんた!」
バシバシ布団を叩きながら睨みつけてやるけど、そいつは鼻を鳴らしてそっぽを向いたまま、あたしを全く相手にしない。チビとかガキとか、あっちから喧嘩を売ってきたくせに……いけ好かない。
そんなあたしたちを交互に見やってあたふたするエクスも役立たずで、そっちも睨みつけるあたしの前に、ルベカがちょっぴりおどおど割り込んだ。
「ええっと……ごめんね? ヒューザって誰にでもあんな感じだから、悪気があるわけじゃないの……たぶん」
「どうだかね。……まあ、いいわ。ルベカに免じてその失礼な物言いは聞かなかったことにしてあげる。……二人とも、疲れてるみたいだしね。魔物とでも戦ってきたの?」
無理矢理に気を落ち着けられて、一方的なにらみ合いが終わって逸れたあたしの眼は、エクスと、ヒューザというらしい彼らの恰好にそれを見つけて口にした。
エクスは片手剣と盾、ヒューザは両手剣で二人とも武装しているし、服には汚れと、少しだが傷もついている。それになんだかちょっぴり湿っているし、水系か何かの魔物が相手だったんだろう。
そこまでを言ったわけじゃなかったけど、視線から、あたしがそういうことを見抜いたことは二人にもわかったらしい。侮る眼が薄れて消えた。
「……へぇ、ガキのくせにわかるのか。変に戦いに慣れてやがるな」
「……!」
「だからガキじゃないってば!」
微妙な笑顔を作るエクス。だけど彼もヒューザも、あたしが戦い慣れていることは見抜いても、扱いは幼女のまま。再び熱くなるあたしを、またまたルベカが止めて言った。
「ああっと! そうだヒューザ! エクスも、シェルナー選定の試験、二人とも帰ってきたってことはもう終わったんでしょ? どっちになったの?」
瞬間、ヒューザの顔が険しくなった。同時にエクスが居心地悪そうに眼を泳がせる。それでルベカも察したらしく、言葉が止まった。
けどあたしはその“シェルナー”なるものを知らないのだから、ヒューザを慮ってやる必要なんてないのだ。
「ねえ、シェルナーってなに? ヒューザ、あんたもしかして、その試験ってのに落ちゃったの?」
「……うるせぇよ、クソガキ……」
あんたがそう言ったんだから、その責任を負わせただけのことだ。言葉には出さずにニヤッと笑ってやると、ヒューザはとうとう耐えかねたのか部屋を出て行った。キザな後姿がする挨拶のジェスチャーに心の中で舌を出してやる。
エクスは追おうかどうか一瞬迷っていたけど、その間にあたしの近くで見守っていたバルチャさんが、はぁ、とため息を吐き出し、代わりにあたしに答えを言った。
「シェルナーというのは……最近は、簡単に言えば結婚する花婿と花嫁の仲人だ。今回はアーシクという男とキールという女のな。……エクス、アーシクからもう貝殻を受け取っただろう? なら、次に向かうは花嫁キールが身を清める祈りの宿。ベロニカの容態に安心したなら、早く迎えに行ってやれ」
「祈りの宿?」
「ここから北、レーナム緑野にある宿だ。シエラ巡礼地という聖地への通り道で、そう呼ばれておる」
なるほど。思わず重ねて聞いてしまったが、よかった。
「ということは……遠くからも人が集まる場所なのよね」
「……そうだ。ウェナ諸島だけでなく、他の大陸の話も、もしかしたら聞けるかもしれん」
「それって……! も、もしかしてベロニカちゃん、エクスと一緒に祈りの宿に行きたいってこと!?」
バルチャさんに続いてルベカと、そしてエクスも気付いたようだ。あたしを見ていた目が丸く見開かれる。
「危ないよ! 道中は魔物だっていっぱい出るし、それにベロニカちゃん、怪我はまだまだ治ってないのよ!?」
「大丈夫よ。ちょっと擦りむいただけだし、問題ないわ」
布団を剥いで、全身に走るヒリヒリする痛みに耐えてベッドから降りる。脚を踏ん張ってふらつかずに済んだから、説得力はあるはずだ。
それに、と、みんなの前で指を鳴らして、魔力で火をつけてみせる。
「見ての通り魔法だって使えるわ。それに、ルベカとバルチャさんには言ったけど、あたしは仲間とずっと……旅をしていたのから、戦いには慣れてるの。……大丈夫ってこと、わかってくれたでしょ?」
魔王ウルノーガを倒すため、ということは伏せておいた。余計な不信感を持たれても困るし、それになんとなく、彼の前では出し辛かった。
しかし代わりにずいっと詰め寄って訴えると、思った通り押しに弱かったエクスはしぶしぶといったふうに頷いた。ルベカはなおも止めようとしたけど、バルチャさんがそれを制する。
「……エクス、連れて行ってやれ。ベロニカはどうやらお前と同じように、探しているものがあるらしい。気持ちはわかるだろう」
「う……そう、だね。エクスも両親を探すために、シェルナーにまでなったんだもんね。私、応援してたんだから、ベロニカちゃんだけ止めるのは、違う……のかも……」
また話がよくわからないけど、ルベカも納得、というよりは諦めてくれたらしい。あたしの前から身を引き、道を開けてくれる。
ともあれ、探そう。ロトゼタシアに帰るための手がかりを。流されてこのアストルティアにたどり着いたんだから、きっとそれは叶うはず。
立って、懐かしい感じの身長差を見上げて眼にするエクスのお人よし顔に、なんだか希望が湧いてきた。気分も上向いて、あたしは自然と笑顔になっていた。
「さ、そうと決まれば早く行きましょ!」
苦笑する彼の背を叩いて、あたしはドアを押し開けた。
主人公エクスくんがウエディなのは私のキャラがウエディだから。