今後も不定期投稿ですが、それでもいいという方は拙作をよろしくお願いします。
俺とミトの二人は村への帰路を進んでいた。
「――――なるほど、それで怖くなってパーティー解散までしてしまった、と」
「……ええ、その通りよ」
一応、歩きながら何があったのかを聞いていたのだが、大方推測した通りだった。
アスナさんがネペントの実を割ってしまい、助けに入ろうとしたが自分もネペントの対処に追われ、彼女を見捨てて逃げた、と。
「まあ、個人的な考えだけど……逃げた判断については別に悪くないと思う。二人とも死ぬよりはマシだ」
体力がピンチにも関わらず相方を助けに行って結果として自分が死んでしまったら本末転倒だ。無理にその場にとどまって両者とも死んでしまうよりは、一人でも生き残れる方がいいだろう。
「でも……」
「薄情なことを言うけど、アスナさんは俺たちがたまたま助けに入れたから助かっただけだ。実際あの状況なら、いつ死んでてもおかしくはなかった」
我ながらかなり冷たいことを言っていると思うが、言っていること自体は間違っていないはずだ……。そう信じたい。
「極論を言えば、この世界では自分の身は自分で守るしかない。自分の身の安全を確保すること自体は間違っていないんじゃないか?」
ある種の慰め、というかフォローのようになっているが、これは俺の本心だ。俺はキリトとコンビで活動しているが、自らが命の危機に瀕しているときは自分の命が最優先だ。相方の心配まではできない。
まあ、普段からそんな状況にならないように気を付けて動いているし、実際今のところ二人とも死にかけるような事態には遭遇していないのでいざその時にどうするかは断言できないが。
「むしろ、今までずっとアスナさんを守り続けられたことがすごいと思うよ。俺には出来ない」
実際、出来なかったのだ。はじはりの街で、クラインのことをアルゴに丸投げしたのだから。
「……そう。ありがとう、気を使ってくれて」
「本心だよ、別に気を使っているわけじゃない」
さっきよりほんの少しミトの雰囲気が穏やかになった気がする。会った直後は放っておいたら自殺しかねないような雰囲気を身にまとっていたのでどうなることかと思ったが、ひとまずよかった。
「それはそれとして、問題はパーティー解散の方だよなぁ。それさえなければ別に大したことじゃなかったのに」
「……それについては申し開きのしようがないわ。会ってちゃんと謝るつもり」
「そうか。ならいいけど……一つだけ。多分、もっとアスナさんのことを頼っていいと思うぞ」
その一言にミトは首を傾げた。
「今までも十分頼りにしてたつもりだけど」
「戦闘だけじゃなくて、精神的にもだよ。どうせ不安にさせないようにって、なんともないように振る舞ってたんだろ」
「……確かにそうだけど」
意識的にやっていたのかは当人にしかわからないが、よくそこまで出来るものだと素直に感心する。俺なら絶対に無理だ、どこかでバレる。
「……ずっとそうしてたのは素直にすごいと思うけど、それだとミトは一人で色々と抱え込むことになる。不安なことはお互いバンバン言っちゃう方が気が楽だよ」
ずっと一緒にいるのなら、思っていることは包み隠さず口にした方がいいだろう。
「……わかった、参考にするわ」
「まあ今後参考にできるかはこの後次第なんだけどな」
「うぐっ……。ウェル、さては結構性格悪いでしょ。わかってるけど言わないでよ、ただでさえ不安なんだから」
「あんまり希望を持たせすぎて後で恨み言を言われても困るんでな」
その時、キリトからメッセージが届いた。どうやらもう村に着いたらしい。
「メッセージ来た。『村に着いた。広場で待ってる』だとさ」
「わかったわ。ちょっと急いでもいい?」
「ああ、了解」
そこで一旦会話を打ち切って、俺たちは歩みを早めた。
《第1層 ホルンカの村》
それから少しして、俺たちは無事村に到着した。時刻は午後4時半過ぎ。現実世界なら季節的に暗くなり始めてもおかしくはないが、この世界ではまだ暗くはなっていなかった。
「……いた」
広場に入ると、座っているキリトの姿がすぐ目についた。ってことは横にいるのがアスナさんだろう。……フードを付けてて顔が見えないから断言はできんが。
ほぼ同時に向こうもどうやらこちらに気付いたようで、キリトがこちらに向かって手を挙げた。
「待たせた」
「いや、そんなに待ってない。とりあえずお疲れ様」
とりあえず俺はキリトと合流する。一方のミトはというと、
「……アスナ……」
すでに目元にうっすらと涙が浮かんでいた。アスナの姿を見て再び申し訳なさが湧いてきたのか、先程までとは対照的に手に持っていた鎌を力なく下げている。
「……私……ごめん……アスナのこと…………守るって……」
ミトは言う。その声は震えていて、村へ歩いてきたときにわずかに見せていた頼りになりそうな姿は見る影もない。
「……アスナが死んじゃうって思ったら、怖くて…………HPバー、見てられなくて……」
「……」
アスナはただ黙って、ミトの言葉に耳を傾けている。その表情はフードに隠れて、こちらからはわからない。
「……私、もう一緒には……」
行かない、とミトが言おうとしたであろうその時、アスナはミトの肩を優しくつかんだ。
「二人でもとの世界に帰るんでしょ?……また、一緒に頑張ろう?」
「でも……私……」
ミトはアスナの言葉を否定しようとするが、アスナは首を横に振る。
「ミトがこれまでずっと私を守ってくれたのはわかってるから。……また二人で、一緒に行こ?」
「……いいの?」
「うん、もちろん」
「……ごめん、ありがと、アスナ」
……どうやら話はまとまったようだ。極力気配を消して見守っていたが、俺たちもそろそろ口を開いてよさそうだ。
あと、他人の人間関係のトラブルには極力巻き込まれない方がいいことは学習した。第三者の立場だと気まずすぎるな、これ。
「……とりあえず、仲直りできたようで何より。いや、そもそも仲違いしてなかったのか……?」
「思考を垂れ流すように自分の発言にツッコんだな」
「あ、えっと……。色々とありがとうございました」
アスナさんが礼を言ってくる。
「そんなに大したことはしてないよ」
「同じく」
あ、そういや1個言い忘れたことあったな。
「っと、そうだ。ミトもアスナさんも、フレンド登録しておきなよ。今回みたいなことはそうそうないだろうけど、万が一はぐれちゃったときには便利だよ。相手の位置わかるから」
このゲームにおけるフレンド機能の主な利点はこれだろう。フレンドメッセージも便利は便利だが、相手の名前を知っていればフレンドでなくてもメッセージを送信できるためそちらはオマケみたいなものだ。
「わかりました。あと、別にさん付けじゃなくていいですよ」
「了解、俺にも敬語じゃなくていいよ」
「わかった、じゃあそうさせてもらうね」
「そういえばアスナとフレンド登録してなかったわね、ずっと一緒にいたからすっかり忘れてた」
キリトの言ったとおりか。俺も初日にキリトとフレンド登録していなければ恐らくキリトとフレンドじゃなかったと思うので、気持ちはわかる。
さて、そろそろいい時間だしメシでも行こうかな、と思ったところで、キリトも同じことを思ったのか、
「それじゃ、俺達はこれで。ウェル、いいか?」
と言ってきた。
「ああ、大丈夫だ。…それじゃあな、二人とも」
同意して立ち去ろうとしたその時、
「待って!」
ミトに呼び止められた。
「改めてだけど、ありがとう。ウェルがいなかったら多分、アスナと別れたままだった」
さっきも言ったけど、大したことはしていないんだよな。
「別にいいって。……まあ、どういたしまして、とは言っておくよ」
「お礼にって程でもないけど、何か困ったことがあったら連絡して。クエストの頭数くらいにはなるし、一応ちゃんと戦力にもなるわよ」
説得力はないかもだけどね、と言いながらミトはウィンドウを操作する。俺の前にはフレンド申請のウィンドウが表示された。
「ん、了解。……けどいいのか?そこまでしなくても、嫌々ながらだったら別に」
フレンドじゃなくてもメッセージ自体は送れるし。
「嫌なら自分から言い出さないでしょ、普通。それにこっちからも連絡するかもしれないし、何かあったらね」
「そうか、ならいいけど」
言われてみればそれもそうだな。
承認ボタンを押して、俺のフレンド一覧に《ミト》の名前が追加された。
「んじゃ、何かあったら連絡する。それまで死ぬなよな」
「その後も、だけどね。あと、そっちこそ死なないでよ?」
「もちろん。……待たせてすまんなキリト、行くか」
「ああ」
こうして、俺たちは別れた。
まあ、彼女たちとの再開の時は1週間と経たずに訪れたわけだが。
ミトの口調定まってるか?これ……。