リアルのあれこれと新作ゲームのあれこれで気づいたらこんなに経っていた……。
まあ今後も不定期で気が向いた時に投稿するので、皆さんも気が向いた時に読んでください。
スムーズに進みはしないだろうと思っていたけど、こういう流れになるのは正直予想外だった。
「……君が言いたいのはもしかして、"元ベータテスター"のことかい?」
ディアベルが問いかけるが、キバオウの意図はおそらくこの場にいる誰もがわかっている。
「決まっとるやる。ベータ上がりどもは、こんクソゲームが始まったその日にダッシュではじまりの街から消えよった。そんで、ウマい狩場やらボロいクエストやら、何もかんも独り占めしよって、ジブンらだけポンポン強うなりよった。右も左もわからんビギナーを見捨ててな。……せやから2000人も死んでしもたんや。こん中にもおるはずやで。ベータ上がりっちゅうのを隠して、仲間に入れてもらおと考えとるズルいヤツらが。そいつらに土下座して、ため込んだ金とアイテムを軒並み吐き出してもらわな、パーティーメンバーとして命は預けられんし、預かれん。せやろ!?」
「……」
ディアベルが閉口する。キバオウの言ったことは多くの非ベータテスターも内心抱いていることだから、思うところがあったのだろう。
実際、俺もベータテスターの評判がよくないことは知っている。効率のいい狩場やクエストの情報を独占しておいしい思いをしているのではないかとささやかれているのを耳にしたこともあるし、事実として一部のベータテスターはそうなのだろう。
だが一方で、そうでないプレイヤーがいるのも知っている。俺やキリトを含め何人ものプレイヤーがアルゴに情報提供を行っているし、初心者プレイヤーとパーティーを組んで活動しているベータテスターもいる。
だが、それを初対面の人間に面と向かって言う勇気は俺にはない。よっぽど勇気のある人や根っからの善人はできるかもしれないが。
「発言いいか」
その時、低い声が広場に響く。褐色の肌の男が手を挙げて立ち上がるのが目に入った。
「……リアルであの姿なのか、スゲーな」
「ん?」
「いや、独り言」
その第一印象はデカいの一言に尽きる。おそらくこの場に集まった人の中で一番背が高いだろうことが一目でわかる。筋骨隆々な体格も相まってその場にいるだけで威圧感を与えてきそうだ。
「俺の名前はエギルだ。キバオウさん、あんたが言いたいのはつまり、元ベータテスターが面倒を見なかったからビギナーがたくさん死んだ、その責任を取って謝罪・賠償しろ、ということだな?」
エギルはこう問いかける。その問いに対して一瞬気圧されながらもキバオウは
「そ、そうや。あいつらが見捨てへんかったら死なずに済んだ2000人や!そん中には他のMMOでトップ張っとったベテランもぎょうさんおったんや。アホテスター連中がちゃんと情報やら金やらアイテムやら分け
と答えていた。内容はともかく、よくちゃんと受け答えできたな。俺だったら絶対ビビッて「いえ、えっと、その……」とか言ってるだろうな。
するとエギルが再び口を開く。
「あんたはそう言うが、金やアイテムはともかく、情報はあったと思うぞ」
そう言うと、彼はポーチから一冊のアイテムを取り出した。
「このガイドブック、あんたも貰っただろう。道具屋で無料配布してるんだからな」
あの冊子は俺も知っている。何しろ俺とキリトはあの本の作成の際に情報提供していて、しかも毎回アルゴから500コルで買ってる……え、無料配布?
「なあキリト、気のせいか?今"無料配布"って聞こえたが」
「いや、気のせいじゃないぞ。俺もそう聞こえた」
二人で顔を見合わせていると、ミトから
「え、もしかして二人とも、あの本知らないの?」
と声がかかる。
「いや、知ってはいるんだが……。ミトも無料で貰ったのか?」
「ええ、そうよ。私は別になくてもいいかと思ったけど、アスナもいるしね」
「道具屋さんに置いてあったけど、値段が0コルだったからみんな貰ってたわ。モンスターの行動パターンとか、すごく役に立った。」
ミトもアスナも無料で貰ったらしい。となると例外は俺らの方か。
「……後でアルゴのヤツ問い詰めるか」
「同意」
アルゴの尋問が確定したところで意識を広場中央に戻すと、ちょうどキバオウとエギルが元いた場所に戻るところだった。……え、ひょっとしてエギルの発言聞き逃した?ちょっともったいないことしたなぁ、キバオウのリアクション見たかった。
「……それじゃ、これから実際の攻略作戦会議を始めたいと思う。まずは、6人のパーティーを組んでみてくれ!何はともあれレイドの形を作らないと、役割分担もできないからね。仲間や近くの人と声を掛け合ってほしい!」
「……は?」
あ、パーティー組むのはこっちに丸投げしてくるのね。完全初対面の人ばっかりの状況で大丈夫なのだろうか。というか実際キリトが横で絶望してるし。
そう思ってあたりを見回してみると、まだほんの数秒なのにパーティーがおおよそ出来上がり始めていた。ということはつまり……
「ほかの人のとこには混ざれそうにないし、俺らで組むか」
「……そうね。この様子だと4人で確定かな」
まあ、こうなる。多少の顔見知りだったのだから組むのは不自然ではないだろう。6人組になれなかったからと言って、あぶれたわけではない。断じて。
だが、6人組ではないので当然ボス相手を任されるはずもなく,役割分担の結果俺らは取り巻きの担当となった。
「……どこが重要な役目よ。ボスに1回も攻撃できないまま終わっちゃうじゃない」
どうやらアスナはボスを殴れないことにご立腹の様子。ついでに「重要な役目だ」といってあっさり受け入れたキリトにも不満があるようだった。
「し、仕方ないだろ、他は6人なんだから。スイッチしてPOTローテすることを考えると、人数が多いパーティーに任せた方が安全だ」
「……スイッチ?と、ポット……何?」
あー、なるほど。考えてみれば、当然ながらアスナはこういう攻略は初めてなのか。
「アスナが知らないのも無理はないわ。正式サービスでは大規模なボス戦はこれが初だもの」
「まあそこは後ほどレクチャーということで」
一旦話を打ち切り、会議の方に耳を傾ける。どうやら"鼠"お手製の攻略本最新版にて、ボスの情報が公開されたらしい。価格はもちろん0コルで、ボス《イルファング・ザ・コボルドロード》とその取り巻き《ルイン・コボルド・センチネル》のステータスや武器、攻撃パターン、その対処方法やボスの形態変化まで触れられていた。ご丁寧に【情報はSAOベータテスト時のものです。現行版では変更されている可能性があります。】という一文とともに。
「……攻め込んだな……」
横であたりを見回してアルゴを探していたらしいキリトがつぶやく。確かに情報自体は極めて有用である一方、この一文はアルゴの身の危険を高める可能性がある。実際、《鼠》を疑うような声が一部から聞こえてきている。無論、アルゴもそれを覚悟したうえでこの注意書きを加えたということだが。
「――みんな、今はこの情報に感謝しよう!」
すると、広場の中央でしばらく黙って何かを考えている様子だったディアベルが叫ぶ。偵察に割くリスクとベータテスターへの反発精神を天秤にかけ、偵察の方が危険だと判断したか。
「出所はともかく、このガイドのお陰で2、3日はかかるはずだった偵察戦を省略できるんだ。正直、スッゲーありがたいってオレは思ってる。だって、一番死人が出る可能性があるのが偵察戦だったからさ」
その言葉に何人もが頷いている。まだ渋面をしているプレイヤーもいるにはいるが、ディアベルの発言に渋々納得しているようだった。
「……こいつが正しければ、ボスの数値的なステータスはそこまでヤバい感じじゃない。もしSAOが普通のゲームだったら、みんなの平均レベルが3……いや、5低くても充分倒せたと思う。だから、きっちり
周囲から掛け声と拍手が飛ぶ。ディアベルのおかげもあって、この攻略パーティーの士気はかなり高まっただろうと思う。
その後は会議はスムーズに進み、ドロップしたコルやアイテム分配の取り決めをして会議は解散となった。といっても分配方法はベータテスト時のやり方と変わらなかったが。